とあるヴィラン少女の話   作:サシノット

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今回は執筆に難航しましたが、作者的に書いてて楽しかった回です。

※仮想ヴィランや雄英の入試の捏造が今まで以上にやってます。
※かなりの自己解釈と捏造があります。
※大事なことなので何度も言います。かなりの自己解釈と捏造が入っています。ご注意ください。


活動報告8 すっきりしました

助走をつけて飛び掛かって頭部を蹴り、挟み撃ちにしてきた敵をジャンプでかわして爆破で破壊。着地をすると襲いかかる仮想ヴィランを爆破で横へ移動し、体制を整える。

 

奥で3Pヴィランが頭部に仕込まれている銃口をこちらに向けた。それを横目で確認すると急いで地面に落ちていた装甲の一部を拾ってそれを盾にして構える。3Pヴィランはガトリングの如く発砲した。装甲に衝撃が走るが、気にせず標的に向かって走り出す。

 

近づくにつれて装甲が連続攻撃に耐えきれず、ボロボロになる。それを足元へ投げつけると素早く動いたそれに反応し、仮想ヴィランは一瞬だけ私から標的を外した。後方へ両手を伸ばして飛ぶ構えをとる。

 

体を爆破で押し出して飛ぶと左の首部位を狙って再び爆破する。仮想ヴィランの片方の頭部が落ちてバランスを崩した。その隙に3Pヴィランの足元に移動し、複数ある脚部をまとめて爆破する。爆風で3Pヴィランは横転し、完全に行動不能となった。

 

「やっぱり、この個性強いわね…」

 

辺りを見回すと、残骸と化した仮想ヴィランが転がっていた。残り時間は約4分。あっという間に合計40P稼いだ。個性模倣の私でこんなにポイントを獲っているのだから、オリジナルの爆豪くんはもっと稼いでいるだろう。

 

大きく息を吸って落ち着くと、2Pの仮想ヴィランが迫ってきた。このヴィランはタイミングを合わせてカウンターをすればポイントとなる。じっと獲物を待っていると、割り込むように人影が現れた。

 

「うおおお!!」

 

雄叫びをあげながらそれは2Pヴィランを殴り飛ばした。ビリリとロボから電気が漏れて行動不能になる。背は私よりも高く肩幅も広い。どうやら男子のようだ。観察をしていると男子がこちらを振り向いた。

 

目は鋭く、銀色の髪をした爆豪くんに負けず劣らない凶悪そうな顔をしていた。よく見るとその男子の顔や腕が銀色に染まっていた。彼の個性なのだろう。

 

「ポイント独り占めさせねぇよ! 爆発女子!」

 

その男子は私を指さして睨みつけた後、残っている仮想ヴィランへ突撃をした。

彼は私がここら辺の仮想ヴィランを排除していたことが嫌だったらしい。ポイント争奪戦で一人だけ大量にとっていればそうなるかと納得すると同時に、彼の個性がわかって嬉しくなってしまう。

 

推測するに、アレは『体を鉄のように硬化する』個性だ。

 

 

「使えそうね…()()

 

 

一時仮想ヴィランの狩りをやめて大広間の端に避難をし、男子をじっと()()

攻撃速度は普通にパンチするのと、あまり変わらなそうだ。瞬時に鉄にすることは可能。持続的に鉄にすることもできそうである。

 

今のところ、デメリットが見えない。短時間なら使えそうだ。

 

『Copy』をしていると突然、激しい地響きが襲った。上下に揺れ、受験者は軽くパニックになりながらも状況把握しようと周囲を見渡す。時間が経つにつれて振動が大きくなり、()()がこちらに向かっているようだ。大通りにある模倣されているビルが次々に崩れていく。

 

 

見上げると、ビルを掴み壊していく巨大な仮想ヴィランがいた。

 

「…馬鹿なの?」

 

お邪魔虫ギミックにしては壮大なスケールすぎる。思わず暴言を吐いてしまった。

雄英のやることが常軌を逸してることがよくわかった。

 

推定20~25mほどだろうか。装甲は1~3Pと比べて明らかに硬いだろう。しかも、私たち受験生に向かって前進している。受験生はその圧倒的脅威の0Pヴィランに恐れてみんな逃げていく。

 

すると、0Pヴィランは建物を破壊して妨害をし始めた。その一振りで突風が生まれ、激しい振動が襲い掛かる。尻もちがつかないよう、体勢を低くしていると何かの轟音が空から聞こえた。上を見上げれば、何かが隕石のごとく急降下する。

 

瓦礫だ。おそらく倒壊した建物の一部が瓦礫となって降り注がれているのだ。それらを避けて走り出す。後ろを振り向けば、自分のいたところの地面が盛り上がっていた。どうやら、ヴィランの進出でコンクリートが耐えきれなくなっているらしい。規格外すぎる。

 

アレを倒してもポイントはない。試験時間は残り約3分半。逃げつつ1~3Pの仮想ヴィランを探して倒すべきだ。

他の受験生同様、走り出す。

 

「う、うぅ…」

 

――そのとき、背後から小さなうめき声が聞こえた。

 

「なに…!?」

 

視界が悪い中探すと、奥で横たわる女子が痛みに耐える様に、太もも辺りを抑えて縮こまっていた。仮想ヴィランにやられてしまったのか、それとも瓦礫が当たったのか。どちらにせよ、すぐにこの場から離れて、安全なところへ連れていかなければならない。

 

「助けなきゃ…!」

 

だが、試験はどうするのだ。不合格になれば私はおそらく殺される。

 

脳裏に自分の声が響いた。ドクンと心臓が大きく波を打ち、足を止める。

 

落ち着け、これは試験だ。

ここで放置しても試験監督者がなんとかしてくれるだろう。

この人は赤の他人だ。助ける義理はない。

今は実技試験をしている。きっと40Pでもまだ足りない。

もっとポイントを稼いで合格しなきゃ、10カ月の苦労が無駄になる。

黒霧さんとお父さんのためにも合格しなきゃ。

嫌だ。不合格して死にたくない。

 

 

――きっと誰かが何とかしてくれる。

 

 

「残り3分14秒!!」

 

思考が駆け巡る中、プレゼントマイクの声が会場全体に響き渡る。この人を助ければ、ポイントを稼ぐ時間がなくなる。確実に合格したいなら見捨てればいい。けれど、足が石にされたかのように一歩も動けなかった。

 

「だれ、か…」

 

周りには私と女子以外いなかった。みんな、逃げてしまったのだろう。広場に瓦礫が雨のように降り注がれる。コンクリートが砕ける雑音が煩わしい。だがどういうわけか、かき消されてしまいそうなその小さな声がしっかりと耳に届いてしまった。

 

 

「たすけ…て……」

 

 

かすかに振り絞って出した声は、とても震えていて…目は恐怖に染まり、縋っているようにも見えた。

 

『ヒーローが…”誰か”に助けを求めてどうするのよ…』

 

10カ月前と同じ状況に、一瞬だけあの出来事がフラッシュバックした。思い出したのは、自分で言った言葉だった。あのときはヒーローたちに向けて言った。だが、今の私にも言える。

 

「人のこと言えないわね…」

 

一瞬でも『誰か』に頼ってしまった私自身に嫌気がさして、頭を揺さぶって前髪を掴んだ。

 

いつだって人は困ったら『誰か』『誰か』なんて言って、『誰か』に頼っている。理由はその方が楽だから、自分は何もできないからだとか、そんなものだ。大半の人は『誰か』を呼ぶ方なのだろう。

 

 

けれど、いつだってその『誰か』になってくれる人がいるからこそ、世界はまわっている。

 

 

今その必要な『誰か』が『ヒーロー』というなら、この試練を与えた雄英高校(ヒーローアカデミア)に相応しいヒーローの卵なら、どうするべきだ?

 

きっとこの場に本物のヒーローがいるなら、こう答えるだろう。「そんなもの、愚問だ」と。

 

「もう、どうにでもなれ…!!」

 

両手を後方に再び構えて、爆破をして飛ぶ。息つく暇もなく瓦礫が降り注がれて行く。それらをかわして目的の場所へ着くと肩を叩いた。叩かれた衝撃で女子の目が開き、目が合う。彼女は驚いたように見開いた。

 

「あなたは…」

「助けに来ました!」

 

自分でも、馬鹿な行為だと思う。学習すればいいのに、なぜできないのだろうか。

だが、これは『ヒーロー』であれば正しい行動なはずだ。

 

雄英高校でスパイするなら、ヴィラン連合もこれくらい許してくれるはずだ。

こんなに大掛かりな妨害要員を用意しているなら、優秀なヒーロー輩出をしている雄英なら、こういうシチュエーションも想定しているはずだ。

 

理由は完全なこじつけだが、こうでもしないと自分の行動の意味を納得できなかった。

もしも、これで不合格にしたら国会に訴えてやる。私はそう決意した。

 

安全確保もできていないせいもあり、詳しい容態もみられない。頭を打った場合、本当は動かしてはいけないが緊急だ。素早く私は女子を背負って片手の爆破でスピードを上げ、その場を離れる。走るよりも早いが、爆破を利用する移動は意外にも繊細でコントロールが難しい。

 

片手の爆破は両手の場合と違ってバランスがとりづらい上に、二人分の体重を支える爆破の威力は調整しづらい。一直線にスピード重視で飛んでいるが、いつまでも持たない。早く早くと焦ってしまう。

 

そのとき、0Pヴィランが妨害を続けた行為で前方に4mほどの大きな岩の瓦礫が地面に落ち、めり込む。その岩が行く手を阻む障害物となってしまった。このままでは激突する。突然出現した壁に戸惑ってしまう。

 

「嘘…!」

 

その距離は80mほど、急に止まれない。この速さで突っ込めば間違いなく大怪我をする。かわすにも、両手が使えなければ方向転換もできない。最大爆破で岩を破壊することも、きっと今の私じゃ力不足でできやしない。

 

背負っている女子が肩を強く掴み、震えていた。怯えてしまっている。そのことに気づいた私は叫んだ。

 

「しっかり、掴まって!」

 

一か八か、ストックしていた()()()()で岩を真っ二つにするしかない。だが、アレは一振りすればかなりの体力がもってかれてしまう。しかも、真っ二つにするタイミングは早すぎても遅すぎてもダメだ。

 

だが、やらなければならない。

私がやらなきゃ、誰がこの子を助けるんだ。

 

自分に喝を入れて、全神経を手に集中する。一時的にターボをやめて腕を前に出せるように手首で調整して爆風を起こす。うまく腕が前に出た。

 

既にその手は爆破の個性で発生する熱に手のひら全体が火傷し、悲鳴を上げていた。

 

だが、そんなこと構っている余裕もない。覚悟を決めた私はトップスピードのまま突っ込んでいく。

 

個性を発動する寸前、

――体が何かに引っ張られたかのように空中で停止した。

 

「え!?」

 

よく見るとお腹あたりにピンク色の長いものが私と女子ごと巻き付けられていた。その長いものの先を見ると、ビルの壁に誰かがこっちに顔を向けて両手両足を張り付いている。

 

目を凝らすと、そこには先ほど出入り口で会話をしたかわいい女の子がいた。

 

その長いものの正体は彼女の舌だった。彼女は伸びる舌を振り子の要領で私たちを後方へ移動した。

 

そして、高く上がったタイミングに合わせて勢いをつけて向かいの建物の屋上へ運ばれた。巻きついていた舌が解放され、私は空中で背負っている女子を空中で体勢を変えて音を立てないよう、着地をする。

 

ピンチを切り抜けて緊張が少しだけ力が抜ける。

 

「ちょっと強引だったけど、大丈夫だった?」

 

顔を上げると助けてくれた彼女がいた。どうやら壁を這いつくばって、ここまで登ってきたらしい。ヒーローらしいその姿に私は背筋を伸ばした。

 

「その個性って…」

「あたしの個性は『蛙』…蛙っぽいことならなんでもできるのよ」

 

その答えに、だから壁に張り付いたり、舌を伸ばしたりすることができるのかと納得した。

 

強力な個性でストックしたいが、残念ながら生まれつきある個性の異形系は、Copyできない。体そのものの作りを模倣するのはできないのである。

 

「助けていただきありがとうございます」

「お礼はいいわ。それより、その人は?」

 

抱っこしたままの女子は気を失っていた。無理もない。あれだけ絶叫マシンに乗ったかのような激しい移動をすれば気絶もする。脈や呼吸が正常なのを確認すると、負傷している脚をから血がダラダラと流れているのが見えた。

 

「気を失っているだけのようですが、試験が終わったら念のため検査した方がいいかもしれませんね」

 

着ていたTシャツを脱いでインナー姿になる。Tシャツを抑えて歯を立てて裂くと、止血するためにそれを包帯代わりにその子の足にきつく巻き付ける。これで暫くは大丈夫だろう。

 

あの0Pヴィランは人が集まっているところを目指しているのか、私たちがいるところを見向きもしていないようだった。

 

残りの試験時間は約1分。このままいけば、試験も無事に終了する。もう何もしなくていい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも

 

「ムカつくわね…アレ」

 

あの0Pヴィラン、ここまで人様に迷惑をかけたくせに愉快に暴れ回っているのだ。時間終了を待つのは、なんか癪に障った。

 

個人的な感情なのも分かる。

私的な感情に任せて、暴走するのは愚かなことだというのもわかる。

今からしようとしていることは無駄なことだということもわかる。

 

だが、ここまでやられて大人しくしろっていうのは、なんか嫌だ。

 

 

どうやらいつの間にか…私の底に眠る負けん気魂に火がついてしまったようだ。

 

 

背を向けて呑気に妨害行為をする0Pヴィランに向かって歩くと、不審に思った蛙の個性をもった女の子が話しかけてきた。

 

「どこへいくの?」

「あの0Pヴィランのところです」

 

そう答えると『蛙』の個性を持った彼女は少しだけ驚いたように肩が跳ねた。

私は今までノーリアクションだったその子の初めての反応に、悪戯に笑う。

 

「やめておきなさい。いくら試験でもアレに挑めば怪我どころか…下手すれば死ぬわ」

 

その子は表情は変えないものの、真剣な声色で目を合わせてきた。

 

どうやら彼女は冷静に状況を把握してどうすればよいのかを導く強さを持っているようだ。ヒーローとして、素晴らしい素質を持っている。その様子に私は感心してしまった。

 

しかし、彼女には悪いが私的な感情が抑えきれない。私は0Pヴィランを指して、適当な言い訳をした。

 

「アレがいると救助ルート確保もできません」

「…え?」

「倒して安全を確保してからこの人を出入り口に連れて行きます。すぐに片を付けなきゃ、その人が危ないかも…」

「けど、危険すぎるわ。無謀よ」

 

適当すぎる言い訳だ。それなら別のルートを選び、出入り口を目指せばいい話である。一人前ぶっているが、本音はただアレを倒したいだけである。なんて幼稚な動機なのだろう。

 

こうなった私は自分でも止められない。

 

「策ならあります」

 

ついでに言えば勝てると確信しているから、私は強気でいられているのだ。

 

アレを相手にして無策で突っ込むというなら、相当な超パワーや個性がなければ無理だ。あの巨大ヴィランを発見してから考えたことがある。それを今実行するときだ。

 

私の返事に意外だと思ったのか彼女の目元が心なしか鋭くなる。

 

「どうするつもり?」

「あの0Pヴィランが現れた場所へ誘導して、ぶっ倒します」

「現れた場所? そんなこと推測できるの?」

「ある程度ならできますよ」

 

周囲の受験生の反応からしてアレは突然現れた。しかも、出入り口から離れた広場へきた。そう考えるとあのヴィランは出入り口から侵入したんじゃない。

 

毎年このような受験方法をやっているとしたら、これだけ大きな模擬市街地を所有している雄英なら、あの巨体を保管できるシェルターがあるはずだ。

 

だが、そんな巨大なシェルターをビルのように細長い施設に偽装できるだろうか。おそらくそれは無理だ。あの形をした巨大な箱型の施設をわざわざ配備するのは目立ってナンセンスだ。

 

では、地上に目立たないようにして保管するにはどこがいいのか。それは簡単だ。

 

「おそらく、アレが出現したのは地下からです」

 

地下なら、受験生に気づかれず突然現れることが可能だ。この入試の様子をどこからか試験監督をしているだろう。出現時に発見されずにいられる死角を見つけ、そこから起動することもできるはずだ。

 

最終的な結論を出すと彼女は納得したようにうなずいた。

 

「…なるほどね。あり得ないような話だけど、雄英ならきっとできるわね」

「推測が正しければ、アレを地上に出すための場所がこの先にあるはず。そこで戦います」

 

地下からアレを出すには障害物のない広いスペースがいる。丁度、スクランブル交差点のようなところならいける。受験生は少しでも離れるため大通りへ出てヴィランの進行方向と逆に進んでいる。

 

逆を言えば、今0Pヴィランの後ろには誰もいない。

 

そしてあの地響きからあそこへたどり着く時間を考慮すればそう遠いところじゃない。倒壊したビルの痕跡を辿ればいける。

 

「離れてください。彼女は私が見るので大丈夫ですよ」

 

この作戦は遠くに移動させなければならない。あの巨大ヴィランを倒した際に受験生へ被害が出ないように誘導する必要があるのだ。

 

さすがに私一人の暴走で、他の受験者も巻き込ませるわけにはいかない。だから誰もいない場所で戦わなければならない。少々危険だが、気絶している女子はここに置いて、離れた場所から誘導する。

 

それに蛙個性の彼女には助けてもらった。時間を使わせてしまった分、彼女には残りの仮想ヴィランを倒して合格してほしいのだ。

 

そう願っていると、彼女はしばらく私の目をじっと見つめた後、気絶している女子に近づいて脇に腕をさして抱き起した。

 

「なにしてるんですか?」

「彼女を出入り口まで連れて行くわ」

「え…?」

「そしたら、何も気にせず戦えるでしょう?」

 

彼女は気丈に、淡々と答えた。

提案はありがたいが、ここで時間を割けば敵Pを稼げなくなる。

 

つまり、実技試験を途中で放棄するのと同意である。

 

「…いいんですか。不合格になるかもしれませんよ」

「別にいいわ」

 

無理しなくていいという意味で投げかけた言葉を、バッサリと即答で了承する彼女は顔をあげた。

 

「人を救うのがヒーローなら…どんなに自分よりも強い敵が現れようと、どんなに最悪な状況でも市民を守るために立ち向かわなきゃいけないときがある。それは、試験だろうと同じことだって、あなたは言いたいんでしょう?」

「…なんでそう思うんですか?」

「だって、あなたは私たちを巻き込まないように戦略を練って戦おうとしているもの……普通、敵を倒したいだけなら周りのことなんて考えないわ」

 

そう言って彼女はにっこりと笑った。

 

 

「それに…今のあなた、ヒーローにみえるのよ」

 

 

その予想外の言葉に驚きすぎて唖然としていると、彼女は気絶した女子をおんぶする。なにやら大きな勘違いをしているが、それを訂正する暇もなく彼女はビルの端に足を進んでいった。個性で彼女は余裕でここから降りていけるのだろう。

 

あと一歩で飛び降りられるところに着くと、彼女はこちらに振りむいた。

 

「じゃあ、頑張ってね」

「…頑張ります」

 

彼女は女子を背負って試験会場の出入り口へ個性を駆使して向かう。その様子は忍者のようであった。

 

私がヒーローにみえた? ということはあの適当な言い訳を信じて、私を信頼したのだろうか。そう彼女のことを思うと罪悪感で胸がいたくなった。試験が終わったら即訂正をしなければならない。それを心にとどめておくと深呼吸をした。

 

そして、0Pヴィランに向けて身構えた。

 

冷静になってみると見えてくるものは多い。

あの仮想ヴィランは「避けるべき障害」だと思えば驚異的であるが、「倒すべき敵」と置き換えると単調な攻撃しか仕掛けないガラクタだ。つけ入る隙はいくらでもある。

 

目を閉じてこの10カ月間、父から学んだことを思い出す。

 

図体に騙されてはいけない。例え自分が素手で、敵が大砲で決闘することになっても、戦略や立ち回りによって勝敗は分けられる。

 

常に頭を回せ、体も動かせ、神経を研ぎ澄ましていけ…そうすれば、勝機は見えてくる。

 

大きく息を吸い込んで、私はありったけの大声で叫んだ。

 

「こっち見なさい!!!」

 

最大火力で派手に爆破をする。爆破をしたことでニトロのにおいがした。既に手のひらはここまで乱発したせいでほとんど感覚がない。汗もかきすぎて軽い立ちくらみがし始めてきた。限界まで来ているが、アレを倒すまで続けるつもりでいた。

 

上手くいく保障はどこにもない、そしてこれは無駄なことだ。それでもこっちは意地がある。

 

緊張が走り、息が詰まりそうになる。睨みを利かせていると、その爆音と大量の煙に反応したのか仮想ヴィランがゆっくりとこっちを向いた。

 

『ターゲット……ロックオン』

 

機械独特の重低音がしっかりと耳に届く。仮想ヴィランは足のモーターを回転させて、こちらに近づいていく。巨体なだけあって一歩一歩の幅が大きく、こちらにすぐ辿り着きそうだ。

 

屋上から助走を付けて飛びだすと、両手を後ろにして爆破で飛んで誘導を開始する。

 

ターゲットが移動したことにより、仮想ヴィランはスピードを上げて追いかける。追いかけてくるヴィランはまるで草むらを走り出すように倒壊しているビルの上を移動していく。

 

すでに倒れているビルの痕跡をたどりながらトップスピードで飛行すると、先ほどとは異なった場所の大広間に着いた。

 

そこは不思議と瓦礫や崩れた建物の破片などはなく、まっさらな状態のコンクリートが広がっていた。一方向の建物は潰されており、そこを除いた周囲の物は無事であった。

 

どうやら、ここがあのヴィランが出現したスタート地点のようだ。

 

少し奥へ行き、止まると0Pヴィランが広場に立ち止まる。そして、大きく振りかぶりパンチを仕掛けてきた。

 

パンチによって吹き飛ばされてしまいそうなほど強い風圧生まれる。それに煽られないように火力を上げ、風の抵抗をなくすよう回転しながら直進して、かわす。それによって大きな隙が生まれた。

 

一気に頭上へ接近して、私は片手を掲げて個性を発動する。

 

「借りるわよ。()()()()…」

 

全身から風が生み出されていく。

この個性を発動する度にそう錯覚してしまうほど、発動するのに集中力がいるのだ。

 

掲げた腕は漆黒のごとく肩口まで黒く変色する。

二の腕の部分が変形し、伸びていく。

伸びが止まれば、それは白光を浴びて輝きを得た。

変形した部分が鋭く尖ってゆき、刃紋が浮かび上がっていく。それを合図に自らも輝く鈍い光沢が生まれた。

腕は鋭く硬く…そして決して折れない刀となっていった。

 

「一刀流奥義…」

 

変異が終了したのと同時に、狙いを定めてもう片方の手で支え、それを思い切り振り下ろす。

 

 

 

「『風裂斬(ふうれつざん)』!!!」

 

 

 

振り下ろされた刃で重い一撃を仮想ヴィランに浴びせた。

一瞬だけ時が止まり、耳が劈いてしまうかのような痛い静寂が訪れる。

 

次の瞬間。

風が引き裂かれたかのようなに斬れ筋から左右に分かれて強烈な突風が発生する。それによって周囲の木々や小石が飛ばされていった。

それに少し遅れて仮想ヴィランの頭部から電気が漏れ出る。

 

それを合図に仮想ヴィランが縦へ一寸も狂いもなく真っ直ぐに斬れ、完全に両断された。

 

さらに、連動していくかのように小爆発が上から下に掛けて起こる。搭載している精密機械や内部が破壊されていく。真っ二つに斬られた仮想ヴィランはバランスを保てず、小爆発しながら呆気なく沈んでいった。

 

崩れた際に大地が揺れ、騒々しい音や地響きも起こる。

 

私は重力に従って落ちて行った。父の個性を使ったせいで一瞬意識が飛びかけたが、急いで個性を解除して腕を戻す。慌てて爆破を使うとするが…なぜか、爆破が発動しなかった。

 

よく見ると私の手のひらから血が出ていた。個性を使いすぎて体が耐えられなくなったらしい。何度も試すが、爆発が起こらないのだ。

 

「ガス欠…!?」

 

自分の想定以上に体にガタがきていたらしい。思わず舌打ちをした。

 

地面に迫る。この高さで落下すればタダでは済まない。唯一の飛ぶ手段、爆破は使えない。このままだと死ぬ。

 

「死んで…たまるか!!」

 

爆破がなくても、まだやれることはある。腹を決めて賭けに出た私は腕をクロスして頭を守る。

 

「終了――!!!」

 

プレゼントマイクの声が会場に木霊する。それとともに私の体は地面に叩きつけられる。激しく砂煙が巻き上げられ、大地が少し割れる。その衝撃を物語っていた。

 

 

 

しばらくすると、遠くから救急車のサイレンが聞こえる。転がっている私を取り囲むように医療服を装備する大人たちが慌てた表情で担架や医療器具を広げていた。さらにそれを見守り、心配そうにする他の受験者の声も聞こえる。

 

意識を取り戻した私はゆっくり手を伸ばした。

 

「大丈夫かい!?」

 

手を握られて強く肩を叩かれる。心配をかけてしまったらしい。その声に応える寸前、大きく欠伸をして起き上がった。

 

「すいません…寝ちゃってました。お疲れ様です」

 

伸びをすると、大人と受験者たちは目を丸くしていた。あの落下で呑気に寝ているものだから、驚いているのだろう。

 

残念ながら、救急車が出動するほどの重傷は負っていない。

 

実はこうして無事なのは、ストックしていた個性のおかげである。頭を守った直後に全身をカチコチに鉄にして『硬化』したのだ。鋼のように硬くなった全身のおかげで衝撃を直接体で受けることになったものの、大したダメージを受けることもなくなった。

 

初めて使う個性だったが、上手くいってよかった。

 

そして、背中から着地することに成功した私は安心しきって眠ってしまったのである。アレをやっつけたことでとても穏やかな気分となっているのだ。

 

「あー…すっきりした」

 

さっき鉄の個性をCopyして正解だったと、困った大人や安堵する受験者たちを尻目に雲ひとつない青空を見上げながら思った。




今更ですが、主人公は…超負けず嫌いなところがあります。
後書きで色々補足しておきます。

0Pヴィランについて
『YARUKI SWITCH』を押された途端にアレは出現するので地下からの可能性は低い気もしますが、原作で出た時0Pの背後の建物が崩れてなかったことから、こういう解釈をしました。
「いや、地上に出るときモーターとか押し上げて出すと思うけど、その音で受験生気づくんじゃね?」と思ったりしますが雄英だから音対策もきっちりしてるんだよ! 多分! と言い張ります。


女子について
ひょっとしたら体育祭編で出るかもしれません。出ない可能性もあります。そこら辺、全く考えていません。


試験時間について
「あれ? 残り1分でこいつらめっちゃ話してるし動いているよ? 時間足りなくね?」と思いますが、時間の流れがアレなのは作者が書きたいところを詰め込んだせいです。


個性について
父親の個性はこんな感じです。前々からそれっぽい描写をしましたが、いざ丁寧に書こうとすると自分が納得する仕上がりになるまで時間がかかりました。ちなみに形状などは某漫画を参考にしています。


余談ですが、0Pヴィランってアニメやすまっしゅ!曰く、総工費2400億で軍費の5%を占める日本の国防設備の要らしいですが…主人公、この額を知ったら昇天しますねー(棒読み)

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