あと情報量が過去一多いです。
※話の都合により、原作のセリフやシーンをところどころカットしています。
「やってるな」
轟音のもとに駆けつけた武蔵は、オールマイトと脳無の戦闘を眺めた。超パワー同士のぶつかり合いで、広場のところどころがクレーターと化し、断続的に体の芯にまでくる衝撃が戦いの激しさを物語っていた。
彼らの周囲にいる人物は死柄木と黒霧だけだ。今のところ生徒がいないことに安堵し、武蔵は死柄木のところへ駆け出した。隣に立つと、武蔵の登場に死柄木は顔をしかめる。
「なんでお前がここにいるんだ? 消えろ」
「えー? 急いできた部下に対しての第一声がそれ? もっと別の言葉なかった? 『お疲れさまー』とか『流石俺様の部下だな、よくぞ戻ってきた!』とか」
「労ってやるほどの活躍してないだろ。馬鹿か」
「一言だけでも労わってほしかったんだよね。察して欲しかったなー」
「いい年したおっさんが何言ってんだキメエぞ」
心底嫌そうな声色で言ってくるので、流石の武蔵も肩を落とした。連絡が来たから任務を中断してやってきたというのにこれは理不尽すぎる。すると、黒霧が武蔵を発見して声をかける。
「やっと来たか武蔵」
「黒霧…やっぱりお前か? あの連絡よこしたの」
「ああ。だが…その必要はなかったようだ」
ちらりとオールマイトと脳無の周囲を見て黒霧は、そう言った。呼び出した黒霧の一言に、無駄足であったことを悟った武蔵は肩を落とした。
「勘弁してくれ。緊急の連絡がきたから任務放棄して来たんだぞ。今頃俺が置いていった生徒たちがこっちに来る。早くやらないとまずそうだ」
「子どもの足止めもできないとはな…お前、思った以上に無能だな」
「そういう文句は終わってから言ってくれ。俺だってこう見えて頑張って」
「死柄木弔! 武蔵!」
死柄木が武蔵に酷評していると、黒霧が叫んだ。
次の瞬間、オールマイトが脳無にむけてバックドロップを展開する。脳無が地面に突き刺さる。空気が弾きだされたかのように爆煙が広場を包み込む。
武蔵は一瞬だけ個性を発動させて爆煙を払った。煙は晴れて視界が良好となる。
黒霧は視界がクリアとなった瞬間を見図り、脳無の下半身をそのままにして、上半身をオールマイトの背後にワープさせた。そして脳無はオールマイトの脇腹を掴み、拘束する。
計画通りに事が進み、死柄木は高揚して口角を釣り上げる。
「まあいい。今から平和の象徴を殺す。その瞬間を見届けろよ」
「…わかった。見届ければいいんだな」
腕組をして武蔵は一歩後ろへ下がった。黒霧がモヤの範囲を広げ、ズルズルとオールマイトを引き摺り込んでいく。オールマイトの脇腹からはシャツが血が流れ、白シャツが赤く染まっていった。
計画では、オールマイトの半身を黒霧のゲートで引きちぎる。半端な状態でゲートを閉じれば、いくらスーパーヒーローの彼でも死ぬ。これがオールマイトを殺せる算段である。
オールマイトは掴んでいた下半身を離し、脇腹に掴む手を引きはがそうとする。しかし、脳無の力が強く、うまく引きはがせない。オールマイトは怒りを覚え、彼は主犯格の男たちに目を向けた。そのとき、死柄木の背後にいる武蔵と目が合った。
「お前は…武蔵!?」
「…俺のこと知ってるのか?」
「どうしてこんなところに…!?」
オールマイトが驚愕の表情を浮かべる。武蔵の名前を呼び、何か言おうとするが脳無がさらに力を加え、痛みが走って言葉にならなかった。身体が悲鳴をあげて喀血し始める。武蔵は目を伏せて冷酷に告げる。
「じゃあな『平和の象徴』」
ゲートがオールマイトの膝上まで迫りくる。死柄木は勝ちを確信する。
そのとき、遠くから足音がこちらに迫ってきた。
「オールマイト!!!」
涙目になりながら、そばかすの少年が正面から走ってきた。ヴィランの人間は、彼のことを浅はかだと思った。格上相手に飛び出すのは自殺行為でしかない。オールマイトを救いたいのだろう。これを勇気ある行為だといえば聞こえはいいが、この場合は無謀である。
黒霧はモヤの範囲を拡大し、少年の前に立ちふさがる。ゲートに包み込まれれば、終わりだ。
「
武蔵は小声でつぶやき、目を閉じて少年の最期を見ないようにした。
「どけ邪魔だデク!!!」
次の瞬間、黒霧は爆破とともに吹き飛ばされ、地面に押さえ付けられる。同時に脳無の半身に氷が包み込む。オールマイトが凍らない範囲ギリギリで留められ、脳無の力が弛んだ。
今度は腕を硬化させた切島が死柄木に奇襲が仕掛ける。死柄木はそれを素早く躱し、後ろへ下がる。武蔵も死柄木に合わせて下がった。その隙にオールマイトは拘束を解いて距離をとる。
横から飛び出したのは爆豪だ。彼が来てしまった。思わぬ襲撃に武蔵は周囲を警戒する。
気配が背後からし、振り向けば氷が走ってきた。瞬時に個性を展開させて氷を斬り裂く。氷の元へ目を向けると舌打ちの音がした。
「おしい…」
「大丈夫轟くん…!? 無茶しないで…」
「平気だ葉隠」
そこには、武蔵にやられた足を引きずり、誰かに肩を回す轟がいた。彼に肩を貸す人物が見えない。目を凝らすと手袋が浮いていた。おそらく全身透明化している生徒が近くにいる。その子が彼に協力したのだろう。
「最近の子は、メンタルが強いねー」
「感心してる場合か」
爆豪も轟もここまで追ってくるのは予想外であった。手を抜いた戦闘をしたとは言え、トラウマを植え付けられても仕方がないほど追い込んだ自覚があったのだ。
「スカしてんじゃねぇぞ、モヤモブが!」
「平和の象徴は、てめぇら如きに殺れねぇよ」
脳無は一時的に戦闘不能にされ、脱出口の黒霧は捕まった。肝心のオールマイトも殺せていない。生徒によって形勢逆転された。
ついでに、
黒霧の上に乗っかる爆豪はニヤリと笑った。
「このうっかり野郎め! やっぱ思った通りだ! モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られている! そのモヤゲートで実体部分を覆っているんだろ! 全身モヤの物理無効人生なら『危ない』っつー発想は出ねぇもんな!」
彼の言った通り、黒霧の『ゲート』には欠点があった。
初手の攻撃を躱したとき、黒霧は「危ない」と言ったが、あの一言で弱点の分析をしてくるとは、彼は思った以上に冷静に状況を分析できる人間なのだろう。死柄木は武蔵を睨む。視線に気づいた武蔵はあからさまに目を逸らした。
「これはピンチだな…5人も生徒がいる。誰かさんがちゃんと仕事していればこんなことにならなかったのに…」
「悪かったな。まあ、まだ脳無がいるから気を落とさなくていいんじゃない。弔くん」
「うぜぇ。死ね」
八つ当たり同然で死柄木は武蔵の肩に強めのパンチを一発放ち、紙に殴り書きをした。不意打ちに驚いた武蔵は苦い顔をしながら痛む肩を抑える。内容を覗き見た武蔵はギョッとした。
「それ、要る?」
「あいつは自分の仕事できなかったんだ。要るだろ」
「…今すぐ消した方が、いいと思うよ。本当に」
「うるさい。指図すんな」
死柄木は武蔵の警告を無視し、紙をポケットに入れた。
一方、オールマイトは武蔵を凝視していた。
腕を黒い刃に変える個性、全身を黒で統一した服装、その特徴から彼はある人物だと特定できた。口元についた血を袖でふき取り、彼はその人物と向き合った。
「どうして奴が……武蔵が、ここにいる?」
「知ってるんですか、オールマイト!?」
「20年前に突如現れた凶悪ヴィラン…そして、12年前起きた『ヴィラン大量虐殺事件』の主犯者だ…!」
オールマイトの指摘に、緑谷たちは顔を青ざめた。
ヴィラン大量虐殺事件。
12年前の12月29日、賦千夏市にある森林地帯で起きた世間に衝撃を与えた事件。
現場は血の海となり、木々が一掃されたかのように平地になっていた。この事件で死傷したヴィランは20名以上、そのうち1名は現場に駆け付けたとみられるヒーローもいた。
辛うじて生き残った重傷者1名の証言により、警察はこの事件を起こした主犯者が武蔵と特定した。しかし、その後武蔵の行方はつかめず警察は手を焼き、5年ほど前までは裏組織の用心棒として君臨し、ヒーロー界で恐れられる犯罪者となった。
ここ最近では消息も不明だった彼が、ヴィラン連合という組織に入り、目の前にいる事実にオールマイトは信じられなかった。
オールマイトが武蔵を力強く指さすと、一斉に視線が武蔵の元へ集まる。すると、視線を浴びた彼はそれまでの雰囲気を一変させ、クスリと妖しく笑った。
「懐かしいな。その事件」
たった一度、笑みを浮かばせただけでヒーローたちに戦慄が全身に走る。肌に鋭い針が刺さるようながした。先ほどまでの飄々とした雰囲気は一切しない。
このままでは子どもたちを危険にさらしてしまう。そう危惧したオールマイトは時間稼ぎも兼ねて、問い詰めた。
「ヴィランとはいえ、人を殺めたんだ…! 君は何のためにあんなことをしたんだ!?」
「何のため?」
オールマイトの問いに、武蔵は面倒そうに視線を頭上に投げた。無防備に理由を思い出そうとする彼に、誰も何も言えなかった。
ヒーローたちは固唾をのみ、額に汗が浮かび上げる。ヴィランたちは期待や好奇的な目で見つめていた。誰もが、武蔵の言葉を待った。
やがて鬱陶しそうに頭を掻いて彼は答える。
「そうだな…強いて言えば、ムカついたからさ」
残酷な彼の言葉にヒーローたちは愕然した。彼は鬱陶しがりながら、冷静につづけた。
「あのときいたヴィランたちは俺が17年くらい前に潰した極道組織の残党でな。奴らは俺の居場所を嗅ぎつけて、脅迫文を俺に送りつけて呼び出した」
「無視するのも面倒だったから、その呼び出しに応じた」
「そしたら、奴らは俺が来た途端に罵声を浴びせ、俺の価値観を全否定した。そして組織の仇だと言って俺の命を狙ってきた」
「そこでドンパチやってたら、どっからか騒ぎを聞きつけたヒーローが来て、俺らを説教し始めて…」
「うざい演説聞いて全部ぶっ壊したくなったのさ」
「ヴィランを殺し終えた後に、ヒーローは健気にも説得を続けていた。思い出しなくもねぇほどムカつく頭のおかしい奴だったな。俺に腕も切り落とされて死んじまう寸前でも説教たれたんだぜ。馬鹿だと思わないか?」
「だから、ヴィランが持ってた拳銃で確実に殺せるよう、暴れるのを押さえ付けてこめかみを撃ちぬいた」
ゆっくりと、人差し指をたてた武蔵は自らのこめかみに押し付けた。歪に口元が上がる。彼は、当時ヒーローを殺したときの再現をしたいのだろう。
「人ってのは、それまでどれだけの素晴らしい功績を残しても、どれだけ良い奴だったとしても、死ぬときはあっけなく死んじまうのさ…」
「そんとき思った。やっぱ、こんなクソなことするんじゃなかったってな」
悪意に満ちた自白を全て終えた武蔵は、嘲るように笑う。緑谷は全身の毛穴から、冷や汗が止まらなくなるのを感じた。思い沈黙が流れ、時間が過ぎていく。
ただ1人、オールマイトがその沈黙を破った。
「なぜ自白をしているに、そんな虚言を吐くんだい?」
「…何が言いたいんだ?」
「君は、嘘をついている。目が、そう言っている」
オールマイトの目は、武蔵の嘘を見破っていた。嘘を見抜かれた武蔵は、何も言わず薄く笑うだけであった。
そんなやり取りに飽きた死柄木は、ゲームの駒を進ることにした。
「出入り口を奪還する。脳無、あの小僧をやれ」
命令された脳無は、一切の迷いなく黒霧を捕らえる爆豪に突っ込んだ。オールマイト並みのスピードで直進し、拳を放つ。辺り一面に爆発的な風圧が生み出され、周囲に生えた木々の枝が大きく揺れ、生徒たちは身体が吹き飛ばされかけた。
直後、何かがUSJ施設のゾーンを仕切るコンクリートの壁に激突する。
「かっちゃん!」
爆豪がいた場所へ緑谷が目を向けると、そこには脳無が倒れた黒霧を庇うようにしゃがんでいた。爆豪が吹き飛ばされたと思い込み、名を叫ぶ。
しかし、すぐ隣にその爆豪が座り込んでいるのを見つけた。脳無の攻撃を避けたかと考えたが、何かが激突したコンクリートの壁へ視線を移せば、腕を盾に構えるオールマイトがいた。彼は、自ら爆豪と脳無の間に入り、爆豪を庇って攻撃を受けたのだ。
「子ども相手に本気とは…加減を、知らないのか…」
オールマイトでも重いと感じる一撃を子どもが受けたらどうなるのか、おぞましい想像をし、オールマイトは冷や汗をかく。
「俺はな。怒っているんだオールマイト!」
そこから死柄木は、演説をした。
この世で個性を使う行為がヴィランかヒーローかで決まる『暴力』か『正義の執行』の違い。その善し悪しが決まる世の中に不満を持っている。
だから、個性の抑圧をする暴力装置であるオールマイトを殺して、暴力は暴力でしかないことを世に証明したいと。死柄木はそうまとめた。
「ヴィランってのは、嘘をつかなきゃいけないルールでもあるのかい。この嘘つき集団め」
しかし、そんな思想犯であれば目は静かにも寄っていく。数々のヴィランたちと対面したオールマイトはただ見開いて演説をした死柄木に違和感があり、嘘だと見破ったのだ。
現在、ヒーロー側の人数は生徒たちとオールマイトの6名、ヴィラン側は4名、ヒーロー側は黒霧の弱点を見破っている。
少しばかり、ヴィラン側が不利な状況に死柄木はため息をついた。
「脳無だけじゃ、厳しいか。仕方ない…」
ゲームの盤面を有利に進めるには、あまり動かしたくない駒を進めるしかなさそうだ。死柄木自身はあまり使いたくない手段だったが、使えるものは使えと先生は言っていた。
「おい、武蔵」
「なんだ?」
「命令だ、武蔵」
「誰でもいいから1人、ガキを殺れ」
「…殺せってこと?」
「ああ」
「弔くんからの『命令』なら、仕方ないなー…」
沈黙が一瞬だけ訪れ、彼は腰にある短刀を握りしめた。
「了解。子どもを殺す」
無情にも、武蔵はその命令を承諾した。
命令を受けた彼の目つきが鋭い殺意へ変貌する。
「させるか!」
「脳無」
脳無がオールマイトに立ち塞がる。オールマイトは舌打ちをして拳を鳩尾に叩き込むが、脳無はその拳を握り、勢いをつけてオールマイトを水難ゾーンへ投げ込む。着水した途端に巨大な水柱が立ち、水しぶきが雨のように降り注いだ。脳無は追いかけるようにして水中へ潜っていった。
一瞬の出来事で生徒たちは何も手出しができなかった。オールマイトのピンチに緑谷たちが顔を青ざめていると、武蔵がこの場にいる全員に目を向けて指差して位置と人数を確認した。
「5人のうち1人。誰でもいいのか…なら、適当に決めていいよな」
すると、武蔵は差した指を一人ひとりに焦点を合わせた。次の瞬間、彼は何かを口ずさみ、リズムを刻み出す。そのリズムに合わせて指差す人物を順番に変えている。
「だ」
「れ」
「に」
「し」
「よ」
「う」
「か」
「な」
それは、子供の頃にやった数え歌だった。
彼は、それで今から殺す人物を選んでいるのだ。緑谷たちは恐怖で背筋が凍りついた。こんな軽薄なやり方で殺されるのか決めさせられている。
「か」
「み」
「さ」
「ま」
「の」
「い」
「う」
「と」
「お」
「り」
武蔵が歌い終わり、指を止めた先は…緑谷だった。
「じゃあ。君で」
指差された緑谷はさらに心臓を鷲掴みされたような恐怖が全身を覆い、身体が強張る。息つく間もなく、武蔵は腰に携えた短剣を握り、地を蹴り、一瞬で間合いを詰めた。
速い、動きが見えない。
怖くて動けない。
避けられない。
…死ぬ。
迫りくるであろう刃に、緑谷は目をつぶるしかなかった。
死を覚悟した瞬間、大きな爆音と激しく刃が何かにぶつかり、刃物同士が擦れる音が耳元でした。恐る恐る緑谷は目を開ける。
「間に、合った…」
「か…」
見覚えのある背中が、緑谷の前に立っていた。
緑谷の首にめがけて振られた刃を、腕を黒い刃に変化させ、受け止めた
「狩野さん!」
「しっ──!?」
「『爆破』!!」
変化させていない片手を武蔵の顔に目掛けて放ち、目くらましをする。武蔵が彼女の攻撃を生身の腕で受け止め、瞬時に後退する。
緑谷は彼女の登場に、安堵を覚えて強張っていた体が動けるようになったのを自覚した。
ヘドロ事件でもいつだってそうだった。彼女はピンチになったら助けてくれる。今回も、助けてくれた。まさにヒーローであった。
「ありがとう狩野さん! おかげで…」
「殺させないわよ…絶対に殺させないわ…」
「狩野、さん?」
「絶対に、私がとめる」
だが、彼女の様子がおかしかった。
緑谷を一切見ず、目の前のヴィランにしか目を向けていない。ひどく焦燥感に駆られているような目をしていた。よく見ると、彼女の両掌は火傷だらけであった。ここに来るまでに爆破の個性で猛スピードで駆け付けたのだろう。それも、個性の反動を顧みず全速力で来たのだ。
見たこともない、おそらく『Copy』していたであろう個性、腕の刃化を解除せず、彼女は構えて敵対する武蔵を睨みつける。武蔵は頭をかき、彼女に問う。
「何のために、ここに来た?」
「…助けるために来たの」
「そんなにその子のことが大事なのか?」
「…そうよ。大事な友達よ」
「大事な、友達か」
彼女の言葉を武蔵は憐れむように復唱し、刃先を緑谷に向けた。
「悪いが、命令されたんだ。俺は、その子を殺す。どいてくれないか」
「嫌よ。絶対」
「…聞き分けが悪いな。そいつはとても困るんだが」
「そんなに邪魔ならどかしたら? 私は絶対にどくつもりないけど」
「そうか…じゃあ、無理やりどいてもらおうか」
「させるか!!『
武蔵が生徒2人に飛びかかる寸前、脳無の隙をみて駆けつけたオールマイトが空中に飛び上がり、彼らの間に割り入るよう落下していく。
武蔵に目掛けてSMASHを放ったが、武蔵は舌打ちしながらそれを跳んで回避し、死柄木の背後まで一時撤退をした。武蔵がいた足元を崩壊させたオールマイトは生徒2人を守るよう、彼らの前に着地し、手を広げる。
「逃げなさい! 緑谷少年! 狩野少女! みんなを連れて一刻も早く逃げるんだ!!」
現在自分と同等、それ以上の力を持つ脳無を相手するだけでも限界の状況だ。あの武蔵が本気で子どもたちに襲いかかってきたら、1人では守り切れない。そうオールマイトは判断した。
A組のなかでも冷静に状況を判断できる彼女であれば、緑谷を連れて逃げてくれるだろう。そう信じて指示を出した。
「嫌です。戦わせてください」
だが、彼女はそれを拒絶した。彼女は腕の『刃化』を解除し、愕然とするオールマイトの隣に立つ。
何故だ。何故、彼女は撤退しない。
何が今の彼女をここまで突き動かしているんだ。
オールマイトは敵を捉えながら、横目で同じように敵を見据える彼女に説得を続けた。
「わかってくれ狩野少女。正直言って、私だけでは脳無だけでも手一杯だ。私が脳無を相手している間に武蔵は君たちを狙うだろう。あの男は危険だ…戦えば君たちは死んでしまう…」
「分かってます。今、どれだけ相手と実力差があるのか。どれだけ無謀なことをしているのか理解しているつもりです」
「なら逃げて」
「けど…圧倒的な力を持つ敵の前で逃げるのがヒーローですか? 命を賭してきれい事実践するのがヒーローと、あなたは言ってましたよね」
かつて入学試験の合格発表で録画したオールマイト自身が話した内容を彼女は淡々と言い退けた。
一瞬、オールマイトも言葉が詰まってしまう。
「確かに言ったさ。だが冷静になってくれ狩野少女」
「私は冷静です。足手まといには、絶対なりません。事情があってあの武蔵っていうヴィランと同じ個性を『Copy』で持っていますので、対抗手段もあります」
「頼むよ。言う通りにしてくれ。どうして君が彼の個性を持っているのかは、知らないが…それでも」
「いいから戦わせてください! オールマイト!!」
オールマイトの制止を無理やり振り切るように、彼女は叫ぶ。
彼女は自分自身の胸に手を置き、握りしめて、心からの声をさらに張り上げた。
「今逃げたら、誰かが死ぬかもしれない…!」
「そんなの、絶対に嫌だ…!」
「何もしないで誰かが死ぬくらいなら」
「自分の命を賭してでも、守り抜くために、私は戦う!!」
「狩野、少女…」
彼女のその圧倒させる気迫が、姿が、言葉が、オールマイトを含めてその場にいた生徒たちの心を大きく揺さぶった。
彼女の根底にあるヒーローの心、守り抜きたい確固たる意思を肌で感じ取る。
自分の命さえ投げ打つその自己犠牲の精神は、とても危うく、異様で、威風や
「こんな…
──そして、彼女は最後に嘘をついた。
それは、ヒーローには気づけられない、ヴィラン連合の一部にしかわからない嘘であった。
その嘘に死柄木、黒霧、武蔵の三人だけは瞬時に彼女の意図に気付いた。
死柄木は傷だらけの首をさらに爪を立ててかき出す。
「そういうことかよ……イカれてる。本当、イカれてるな。あのガキ…なあ、武蔵」
「…そうかもな」
問いかけられた武蔵は、ひびの入った面の下で目を細めて険しく口を結んだ。
一方、死柄木ははじめ正義感を剥き出しにした演説をする彼女が連合を裏切ったと思った。
しかし、本当に裏切るならばこれまで彼女に強いた任務のことや、この襲撃作戦を企てていたことを暴露すればいい。
それなのに、彼女は自分たちと初めて遭遇し、こちらの作戦も知らなかったかのような口ぶりをした。
つまり、彼女はこちらを裏切っていない。
あくまで雄英の生徒として対面している。こちらと敵対関係をつくりあげて、こちらと繋がっていない風にみせた。
彼女が自らの意思で今、今後密偵者として活動しやすくする布石を打ったのだ。
そして、おそらく彼女が吐いた言葉のほとんどは本音だろう。誰も死なせたくない、殺させたくない、そんなふざけたきれい事が言えるのは彼女がまだこちらに堕ちていない証拠であり、ヒーローの卵である証明だ。
だが、最後の最後にヴィランとしてヒーローを騙す法螺吹きをし、ペテン師となった。
まさに、ヴィランとヒーローを両立する狂人である。
「最高にバグってて、逆に面白くなってきたなぁ…」
あのオールマイトですら、騙されている。見抜けないのも無理はない。彼女の正義と自己犠牲の精神は本物だ。今の彼女はまさにヒーローの卵なのだから。
だが、彼女は既にこちら側の人間なのだ。
そんな嘘のような真実を誰が気付けるのだろうか。最高の仕事を、彼女は今した。
…嗚呼、早くオールマイトを殺して。あのガキをこちら側に堕としたい。
世間に希望を与える光の素質がある子どもを、絶望の淵へ、深い闇に堕とす最高のヴィランに染め上げたい。
想像するだけで全身が震えあがるほど興奮する。早くやりたくて仕方がなかった。
ならまずは、上司として彼女がせっかく作り上げた嘘をもっと完璧に仕上げる手伝いをしなければ。
気分がよくなった死柄木は、彼女を指差して笑顔になる。
「おい、イカれたバグ餓鬼」
「なんですか」
「喜べ。お前がもっと立派なヒーローになれる舞台を、特別に用意してやるよ」
「…一体、どのような素敵な舞台を用意してくださるんですか?」
「まあ。そう慌てんなって」
笑い声を上げそうになるのを堪えながら、死柄木は背後にいる武蔵に指差す。
「武蔵、命令変更だ…あの女のガキを適切に『対処』しろ」
「『対処』…か」
「ああ。ちゃんとあの子どもに教育してやれよ」
背後にいる男が、親としてどんな心境になっているのか知ったことではない。
これで二人が対決すればヒーローたちは、この二人が親子であるんて考えもしなくなるだろう。
それに、この手駒どもがどこまで自分に従順になれるのか、見られるいい機会だ。子どもの作戦に死柄木は乗ることにした。
その命令に彼は目を細める。対峙する彼女に目を向けた。
「了解。対処する」
「…まあ。そうなりますよね」
「待つんだ! 狩野少女!!」
武蔵は自身の腕を『刃化』させ、頷く。
彼女は肩をすくませ、同じように腕を『刃化』した。
「心配いりませんよ。私なら死にませんから」
オールマイトが腕を伸ばし、彼女を止める。しかし、既に彼女は敵に向かって駆け出していた。
そして──二人は目にも止まらぬ速さで相手に突っ込み、刃を振る。
お互いの刃がかち合い、生み出された激しい風圧と刃の弾かれる音が広場を支配した。
主人公…父親…2人とも本当やばい奴だな(汗)
オールマイトの言った通り、父親の話に嘘があります。さてどこまでが嘘でしょうかね。
あと……主人公、君、怖いよ。普通に怖い。
シリアス…もう少しシリアスが続きますが、私ははやくシリアル書きたいです。
シリアル書きたいです!!!
次回
オールマイトがキレて SMASHします。
平日で小説投稿する場合、何時くらいの投稿がいいですか。
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深夜0時〜2時
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朝6時〜8時
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昼12時〜14時
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夜①18時〜20時
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夜②21時〜23時
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いつでもOK。ばっちこい。