別名、部下(主に主人公が)大慌て回。
※大慌てすぎて主人公の脳内がフィーバーしてます。
セントラル広場にて、死柄木弔は面白そうにその光景を眺めていた。
先生からもらった対オールマイト兵器の脳無、この脳無は視た個性を消すという抹消ヒーローのイレイザーヘッドを羽交い絞めにしたうえ、腕をへし折った。あまりにも早い戦闘の展開に、あっけなさも感じてしまう。
「個性を消せる。素敵だけどなんてことないね。圧倒的な力の前では、つまり無個性だもの」
見た相手の個性を消せるイレイザーヘッドには、人並みの力と速さだけでヴィランを拘束する戦闘スタイルだ。本来であれば対ヴィラン戦であったら、不意打ちからの短期決戦が得意なヒーローである。人数差のある戦闘で疲労したところを叩けば、その個性も脅威でない。
それに、脳無には個性抜きにしても純粋にオールマイト以上のパワーとスピードを持ち合わせている。イレイザーヘッドが負けるのはほぼ必然であった。
脳無が伏せているイレイザーヘッドの頭を軽く持ち上げ、地面にたたきつけたところで黒霧が背後から現れた。打ち合わせ通りならばそろそろ13号を仕留めているはずだ。それの報告だろうと死柄木は思った。
「黒霧、13号はやったのか」
確認すると、黒霧は言いづらそうにしていた。何事かと視線を向けると白状するように黒霧は報告し始めた。
「行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名逃げられました」
「…は?」
つまり、子どもを逃がした。
連絡手段を絶たせた今、ヒーロー側が助けを求めるには直接校舎に行って呼ぶしかない。そのためには出入口を黒霧が防いでいたが、そこを突破された。このまま応援を呼ばれてしまうとなれば、学校内にいるプロヒーローが一斉にこちらへ集まってくる。
いくら脳無がいるとはいえ、相手が悪い。ここでつかまれば、元も子もない。死柄木はため息とともに首元をガリガリと爪を立てて不満を吐き出す。
「黒霧、お前…お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ…さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない。
戦局が悪くなるのを考え、死柄木は『撤退』を選んだ。目標だったオールマイトもいない、このまま帰れば学校側は対策を考えるだろうが、そのときはまた別の手段を先生が考えてくれるだろう。自分はそれに従っていれば、ヴィランのリーダーになれる。だから今回は撤退してもいい。
そんなことを思い浮かべ、黒霧に続けて命じた。
「黒霧。武蔵とあいつに連絡しろ『帰る』ってな」
「わかりました」
「早くしろよ」
黒霧はモヤを自身の周囲に拡大させ、中でメモを取り出して連絡をスラスラと書き出している。はたから見ればただ立っているだけであるが、死柄木にはペンが走る音がかすかに聞こえる。地味に時間がかかるが、仕方のないことだ。
暇になったとばかり、死柄木は周囲を見回した。イレイザーヘッドが脳無に挑んだときで感じた気配。そこを一瞥すると、水難ゾーンから生徒が三人ほどこちらの様子を伺っていた。
撤退するのは決定だが、ただ逃げるのはつまらない。オールマイトやプロヒーローがヴィランを完全に退けてしまえば、ヴィラン連合から生徒を守ったヒーローたちと評価され、世間はヒーローを称えてしまうだろう。
なら、オールマイトを輩出したこのヒーロー名門校で生徒を死んだ事実を流せば、どうなるだろうか。一人生徒を死なせたとなれば、メディアは食いつくだろう。
死柄木は口角を歪に吊り上げて、水辺にいる生徒の前に高速で移動した。
「けども、その前に平和の象徴としての矜持を少しでも……へし折って帰ろう!」
たまたま移動先にいた少女の顔に、手を近づける。子どもは動かない。ひたりと五指でふれたが、個性が発動しなかった。
こんなことができるのは、一人しかいない。ちらりと脳無のほうを見れば、血を流しながらも自分を睨み、消失を発動するイレイザーヘッドがいた。脳無が掴んでいる頭を地にたたきつける。その間に一緒にいたそばかすの少年がパンチの構えをする。これは殴られてしまう。
「脳無」
脳無を呼んで助けを求めた。声に反応した脳無はイレイザーヘッドを置いて少年と自分の間に立った。
「SMASH!」
掛け声と共にパンチが放たれる。増力系個性なのか超パワーで放った拳は衝撃波が走った。脳無の「ショック吸収」でダメージはなかったが、並の人間が受けたらひとたまりもなかっただろう。
この少年はオールマイトのフォロワーなのだろうか。ふと、すぐに亡き骸となるであろう少年に、死柄木は思った。
少年は脳無に掴まれ、逃げられない。少女は腕を掴んで手を顔から離し、長い舌を伸ばして少年を助けようとする。反対の手で少女の後頭部と怯える小さな少年に掴みかかった。あと数センチで子どもを殺せる。
そのときだった。
腹の底まで圧し掛かる重圧と、ぞわりと背筋を凍りつかせるほどの空気がその場にいるヴィラン全員を包み込んだ。
次の瞬間、出入り口にある扉が派手な音を立てて吹き飛ばれた。外から大量の白煙が舞い込み、出入り口が見えなくなる。コツコツと足音が聞こえる。誰かが来たようだ。
「もう大丈夫。私が来た」
白煙から出てきたのは、オールマイトであった。彼は歯を食いしばり、目元を釣り上げて怒りの表情を浮かべていた。黒霧が逃した子どもが助けを呼んだのだろうか。それとも授業が気になって戻って来たのだろうか。
どちらにせよ、これは好機だ。見る限り他のプロヒーローはいない。彼は一人で乗り込んで来たのだろう。わざわざ標的自ら出向いてくれるとは運がいい。
何よりいつも笑顔で人々を救うヒーローが、怒っている。
こんなに面白いことがあるだろうか。死柄木は心が高鳴った。
「ああ、コンテニューだ…」
今日この日まで『平和の象徴』と謳われた人物をひねり潰せる。撤退するなんてもったいない。自分たちでオールマイトを殺せるこの機会を逃すわけにいかない。
「黒霧…オールマイトが現れたことをあいつらに連絡しとけ。作戦続行するってな」
薄ら笑いを浮かべて黒霧に命令した。
一方、黒霧は少し躊躇をしていた。死柄木の言い分はわかる。このチャンスを逃せば雄英はヴィラン対策を強化して、今後学校を襲撃するのは困難となる。作戦を続行するのは大胆かつ勝利への一手となるだろう。
しかし、生徒が広場にいるのは予想外であった。部下の彼女の失態か、それとも武蔵の失態なのか。どちらにせよ、これ以上生徒が広場に来ればオールマイト殺しの邪魔となるだろう。大人数で攻められれば殺す計画がうまくいかない可能性もある。不安な芽は早めに摘む必要がありそうだ。
「わかりました」
そこで黒霧は付け加えたのだ。
『オールマイトが現れた。武蔵は至急広場へ。作戦続行』と。
生徒を殺すために、あの男を呼び出した。
・
・
時は同じく、武蔵は爆豪と切島相手に応戦していた。
ここまで切島の硬化で木刀を折られないよう、二刀流で回避と突きで隙をつくり、横からくる爆豪からの襲撃に耐えていた。攻防から5分以上は過ぎているだろう。余力を残しながら戦う武蔵に、爆豪は苛立ちを覚えていた。
「少しは真剣に戦えや! このエセ武士!」
「エセ武士って…そんな呼ばれ方初めてだな。独特なセンスしてるね爆豪くん」
「隙あり!」
僅かに見せた隙を逃さず、切島が踏み込んで拳を振りかざす。その拳を見切り、武蔵は顔をそらして回避する。そしてまた距離を取られた。
先ほどから武蔵は爆豪と切島の攻撃を躱すだけだ。攻撃を仕掛けてくるのは決まって反撃をする時のみ、しかもその反撃も爆発を個性で風圧で打ち消すか、接近戦にもつれ込めば拳や足蹴りであしらわれている。
さらに言えば、敵の個性が未だに発動していない。
つまるところ、手加減されているのだ。
その事実に爆豪は
問題は確実にあの爆破を当てなければならない。今のところ俊敏性が高く、素早い武蔵には不意打ちでなんとか攻撃が通るだけだ。まともに攻撃が当たったのは面にヒビを入れた時のみ。
不本意だが、相手は個性を出すつもりがないようだ。あのフルバーストを生身で受け切るのは難しい。瞬時に何らかの個性を発動されて防がれたら終わる。
さらに、あの規模の爆破をやるには、エネルギー解放させるまで時間が少しかかる。隙をついてやるしかないが、全くそんな様子を見せない。
経験値や場数の踏んできた回数が圧倒的に違う。格上の相手にこめかみに冷や汗が流れる。息を呑んでいると隣にいる切島が小声で爆豪に話しかけてきた。
「なあ、爆豪」
「あ? なんだクソ髪」
「アレ、できるか?」
「アレ?」
「アレだよ! 対人戦闘訓練でみせてくれたアレだ!」
「ちっとは分かりやすく言えや! んなモンとっくにフルパワー溜まってるわナメんな!」
「馬鹿、声でけぇよ!! アレ、お前の秘策だろ!?」
「てめぇが先に大声出しただろうが!」
「確かに俺のせいだけど! でも今のでこっちの秘策が──って、え?」
口元に人差し指を当てて切島は必死にジェスチャーをするが、爆豪はフラストレーションが爆発したのかお構いなしにキレてしまう。こちらに秘策があることがバレ、焦った切島は武蔵を見る。
しかし、武蔵は爆豪と切島の様子を気に留めず、懐から何かを探していた。
「あ、お構いなく。相談するならどうぞ。おじさん、待ってるよ」
「どこまでもてめぇは舐め腐ってんな…!」
「俺も確認したいことあるし、二人は協力しておじさんを倒したいんだろう。お互いハーフタイムってことでどうぞ」
そう言って武蔵は再び何かを探しはじめた。爆豪は余裕綽々の武蔵に口元を歪ませ、元々ほとんどない堪忍袋がぶち切れそうになった。
敵が連携してくるタイミングで、確認することとはなんだろうか。舐めプどころか脳みそが腐っているとしか思えない。今すぐ顔面にフルパワーバーストを叩きこみたい衝動が走る。
「あのクソ野郎が…!!」
「まあまあ爆豪落ち着けって! 今すぐぶっ飛ばしたい気持ちはわかっけど、これはチャンスだろ。確実にあいつを倒す算段考えようぜ! 俺、協力すっからさ」
切島になだめられ、ほんの少しだけ爆豪は冷静になる。屈辱的だが、敵に与えられたわずかな策を練られる時間。フルバーストを当てるには作戦を立てる必要があった。
「フルパワー溜まってるっつーことは、いつでも撃てるんだよな?」
「だからそう言ってんだろうが…だが、あいつのすばしっこい動きがうぜぇ。確実に当てるには隙がいる」
半ばキレながら爆豪が言えば、切島は何か決心し、腕を硬化させて爆豪に見せる。
「動きを封じれば、いいか?」
「……あ?」
「爆豪、俺…お前のこと信じる。だから、お前も俺のことを信じて全力でぶっ放してくれ」
切島の目はまっすぐ爆豪に向ける。瞬時に言葉の意味を理解した爆豪は、ぞわりと駆け抜けて笑った。
「死んでもしらねぇぞ」
「死なねぇよ。絶対な」
「…作戦は終わった?」
武蔵は顔を上げて、二人を確認する。彼らは既に覚悟を決めて武蔵と対峙していた。そんな彼らに武蔵は白いものを懐に入れて短刀を抜いた。
緊迫した空気が流れ、爆豪は密かに深呼吸をする。
「行くぞ。クソ髪!」
「そこは名前で呼んでくれよ! 爆豪!」
爆豪と切島は同時に地面を蹴り、飛び出した。一足先に切島が武蔵にたどり着き、顔面へフックを叩き込む。武蔵はバックステップで躱し、足蹴りして切島の体勢を崩させると、短刀の峰を腕へ振り下げる。咄嗟に硬化で防げば、風圧が生まれ、切島は弾き出された。切島を振り払った武蔵は爆豪の姿を探し始める。
すると、真横から膨大な熱エネルギーの気配を感じた。すぐに前進して伏せれば、爆発的なエネルギー波が背後を通り過ぎる。
それが武蔵と離れた位置に着地した瞬間、大地が振動し、爆音が轟いて煙も巻き上がる。煙が晴れれば、そこは激しいクレーターが一瞬でできてしまった。その破壊力に武蔵は冷や汗をかく。
「危ないな。貴重な一発だったのに、もったいなかったね」
「うおおお!!」
危機が去ったと思えば、どんな人物でも安堵して一瞬、隙が生じるだろう。彼らはこの瞬間が訪れることに賭けていた。
雄たけびを上げた切島が武蔵の体を掴む。慌てて引きはがそうと武蔵は切島の額に短刀の柄を振り下ろすが、瞬時に硬化されてまったく動じなかった。そして自らの足を杭のように地面のめり込ませ、全身を最大限まで硬くする。
「誰が、一発だけだっつったよ!!」
切島が完全に硬化したところで爆豪は再び標準を武蔵に定めた。爆豪の籠手に集められたエネルギー弾は、両手分ある。
つまり爆豪の全力爆破は二発撃てるのだ。素早い武蔵にそれを確実に当てるには、普通のやり方では不可能だと判断した爆豪は、始めから一発目は外す気でいた。
本命の二発目は切島ごと食らわせることになるが、彼の硬化であれば防御は可能だ。全力で最大火力をぶっ放すつもりであった。
「今だ爆豪! 撃て──―!」
「指図すんな!」
腕を振り下ろし、武蔵を完全にとらえた。爆風が周囲に霧散し、黒い煙が巻き上がる。
やったか。
期待で爆煙を見つめる爆豪。
しかし次の瞬間、爆煙から鈍い蹴す音がし、何かが地面を擦りながら煙の外へ弾き出された。
「ゲホッ! くっそ…」
「クソ髪!」
弾き出されたのは切島であった。彼は蹴られた腹を抑え、むせてしまう。爆煙が晴れ、爆豪は武蔵に目を向ける。その武蔵の姿に一瞬、息を呑んだ。
武蔵の右腕が、漆黒の大剣に変化していた。そこから爆煙が立っている。爆豪が手応えを感じたのは大剣の刃、側面で受け切られていたのだろう。
「おしかったね。本当、危なかった」
変化させた腕を元に戻し、武蔵は二人を見つめる。
唯一の対抗手段を防がれ、二人は脳内でガンガンに警告音が響くのを感じた。それでも、二人は折れず、相手の攻撃に備える。
すると武蔵は、二人に背を向けた。
「どういうつもりだ…?」
「悪いな。もう少し君らと闘う予定だったんだけど。ブラック上司から呼び出しをくらった」
「……は?」
「ここまで付き合ってくれてありがとう。じゃあね」
「…なっ、待て!!」
爆豪が呼び止める前に、武蔵は既に駆け出していた。確認した頃には背中が既に遠く、あっという間に見えなくなる。愕然とし、爆豪は唇を噛んだ。
こんな屈辱、あってたまるか。
「クソが…クソがクソがクソが…!」
「爆豪…どうする」
「あぁ!!?」
座り込んだ切島の膝が震え上がっているのがわかった。強敵を前にして、敗北を実感せざるを得なかったのだ。
・
一方、武蔵は焦っていた。全速力で駆け抜け、広場へ向かう。
本来なら爆豪と切島に足でも怪我させて動けないようにすればよかったが、その時間すら惜しかった。
『オールマイトが現れた。武蔵は至急広場へ。作戦続行』
先ほど確認したメモの内容を思い返し、舌打ちしたくなった。
「いきなり呼び出すなよな、本当…!」
オールマイトが現れたことで作戦続行自体はある意味想定内だ。しかし、死柄木は自分をオールマイト殺しに参加させないつもりであった。それなのに自分を呼び出している。
おそらく、呼び出したのは黒霧だ。黒霧が自分を呼び出す判断をしたということは、あまり好ましくない状況だと言える。推測になるが、何人かの生徒が加勢しているのだろう。
このメモは、自分と黒霧、娘が内容を『共有』できるものだ。つまり、グループLINEをしている状況である。当然、娘にもこのメッセージが伝わっている。
真面目な娘のことだ。この撤退命令や意図にはすぐ気付いただろう。だが、今回の作戦続行の報せを受けて、例の作戦が潰れてしまった事実をどう受け止めるのか不安になる。
娘は物分かりがよく、順応力も高い。だが、この連絡に納得して引き下がってくれる性格だろうか。
彼女は変なところで頑固で、納得しないことに対して論破してくる子だ。そんなヒーローとヴィランの彼女はどちらの立場をとってくれるだろうか。
「頼むから…来ないでくれよ。忍」
悪い予感がしつつ、武蔵は地に足を蹴った。
・
・
『オールマイトが現れた。武蔵は至急広場へ。作戦続行』
「は?」
倒壊ゾーンでヴィランを倒していく中、私はそれを見てしまった。
弔さん、いいやあのブラック上司…ついに『部下がキレる命令』を出した。
なんで仕事投げ出したと思ったら再開命令なのだろう。今この状況を例えるとしたら、遊びに行く待ち合わせした友達が『あ、ごめん…急に行けなくなっちゃって…』って遊ぶ当日に連絡してきてドタキャンされたと思い、一人で優雅に遊んだら『やっぱ行くわー』って遊びに来て「どっちかにせい」と言いたくなる迷惑なアレである。
散々振り回すだけ振り回して、振り回すじゃ飽き足らず砲丸投げをかまされた。こんなに破壊力のある命令出されるなんて聞いてない。
弔さんは私に砲丸のごとくどれだけ投げられても壊れない超合金製の精神力と、海よりも広くて深い心があると思ってるのか。ある意味信頼されてるってポジティブ的に解釈していいのか。あんなに必死で考えたお父さんとの作戦がパアになった。
頭に血が上ったせいで変な笑いがこみ上げてきた。
「狩野大丈夫? 変な笑い方してて気味が悪いよ」
「なんというか…笑えてきました。この状況」
「あ、この子大丈夫じゃない! なぜか軽くノイローゼになりそうになってる!? 顔が死にかけてるよ! しっかりして狩野! ヴィランに負けないで!」
この時ほどヴィランに負けないどころか私もヴィランだよ。と、無性に芦戸さんに言いたくなることはないだろう。本当に暴露したい気分だ。
だが、理性が踏みとどまってくれたおかげで乾いた笑いしかこみ上げて来なかった。精神的に死にかけの私に、芦戸さんが激しく肩を掴んで振る。目が回りそうになる。
気持ちを落ち着かせようと深呼吸をしていると、メモに何かが書かれていった。一瞬だけ視線をメモに移す。走り書きで書いているせいで読みづらいが解読はできた。
『5人も生徒が来た 死ね』
弔さんの文字だった。前半の情報はともかく物騒だ。ヒーローに向けて死ねと言っているのか私に向けていってるのか分からないが、とにかく弔さんは無事でよかった……
いやでも、広場に集まった生徒5人って、多くない?
みんな優秀で胃がキリキリ傷んできた。
その連絡を理解しがたく、状況が悪化し過ぎているせいで脳が理解を拒絶したがっていた。現実を受け止めるしかないようだ。過ぎたことを悔やんでも仕方ない。気持ちを無理やり切り替える。
一度状況を整理しよう。
きっと父のことだから、さっきの連絡で爆豪くんと轟くん、それと…緑谷くんの時間稼ぎを切り上げたはず。だから完全に足止めができていない。
あの3人は状況をよく見えている。強敵ヴィランとの戦闘後、ヒーローとしてどうすればいいのか、わかっているはずだ。
となれば、
現在広場にヒーロー側はオールマイトと相澤先生。
広場に来た生徒はおそらく轟くんと爆豪くん…緑谷くんと他2人。
ヴィラン側は弔さん、黒霧さん、脳無、父。
戦力を考えればヴィラン側が圧倒的に有利だ。
想定以上に広場へ生徒が集合している。その5人のうちに爆豪くんと轟くんがいるだろう。
あと、可能性があるとすれば…緑谷くんだ。
彼がいる可能性は高い。拳を放てばオールマイト並みの攻撃が可能なうえに、頭がいい。これまで培ってきたヒーローの知識をフル活用してヴィランたちを退けられるだろう。特に、ここ最近の彼は土壇場になればその力を発揮する傾向がある。
もし彼が広場に到着して個性を発動してしまったら、オールマイト並みのパワーを持つ厄介な彼をヴィラン連合が放っとくわけない。真っ先に脳無で殺されるかもしれない。
問題は残り2人は誰か。可能性があるのは爆豪くんと轟くんと一緒にいた生徒だ。
黒霧さんの個性は範囲によってワープさせる相手の場所を指定できる。爆豪くんの近くにいたのは、切島くん。轟くんの方は誰かわからない。単独の可能性もある。
一番の問題は父もその現場に向かっていることだ。
今回の仕事は私のサポートで、私は父になるべく生徒に危害を加えないよう指示を出している。
だが、この指示は簡単に覆せる。
父は『弔さんの命令に絶対従う』のだ。弔さんが直接父に何かを命令すれば私の指示を無視して実行する。
オールマイト殺しは黒霧さんと脳無で決行される。それを生徒が止めに入るだろう。その生徒が邪魔なら、おそらく弔さんは父を使って『邪魔ものを殺せ』と命令をするだろう。
そして父は、それを迷いなく実行する。
父が誰かを殺す…あの悪夢が現実になってしまう。
そのとき、鋭い痛みが頭に走った。
──―私がやらなきゃ。私しかできないのだから。
「狩野! 聞こえてる狩野!?」
「…芦戸さん」
「さっきから笑ったり、ぼーっとして大丈夫なの? あんまし無理しなくていいよ」
「大丈夫」
ヴィランの部下としては、このまま放置が一番いいだろう。
ヴィラン側の実力者が全員集合しているところに、わざわざヒーローとして登場するのはおかしい。ただでさえ、弔さんに信頼されていないのに自分の勝手で動けば今後自分の身も危うくなるだろう。
けれど、このまま放っておいたらほぼ確実に…誰かが死ぬ。
父が弔さんの命令に従って誰か殺すか、弔さんと黒霧さんも誰か殺すかもしれない。脳無がオールマイトだけでなく、生徒の誰かも殺すかもしれない。
私は、誰も殺させたくない。守りたい。
でも、ヴィラン連合を裏切れない。
裏切ったら、ヴィラン連合に居続ける意味がなくなる。
──なら、私がやることは決まっている。
「やってやる…」
ヒーローとして、ヴィランとして、
みんなを救って雄英に信頼を得たうえで、ヴィランの密偵者として仕事を全うする。その両方を私はできる。かなりの博打になるが、やるしかない。
私は、父を止めなきゃならない。なぜなら、それが私がヴィランになった目的なのだから。
「死ね!!」
「狩野!」
そのとき、頭上からナイフを持ったカメレオン男が飛び出してきた。カメレオンの保護色で天井に張り付いていたのだろう。私たちのことをずっと見ていたのだろうか。
まあ、そんなことどうでもいい。
「邪魔。どいてよ」
カメレオン男の眼前に手を突き出し、顔に触れると出力最大限の『帯電』を発動する。
悲鳴を上げたカメレオン男の体が痙攣する。周囲が放電により照らされ、眩い光が割れた窓から外まで届く。外で待機していたヴィランたちの声が聞こえたところで私は放電をやめた。カメレオン男の手からナイフが零れ落ちると、彼は床に伏せた。
どうやら、今のヴィランで最後のようだ。
「芦戸さん」
「な、何!?」
「予定変更します」
これは身勝手な選択だ。はっきりいってこの襲撃を凌いでも、私が死ぬ可能性が高い。
けれど今救けに行かないと、後悔する。それだけは嫌だった。
「広場に行って応援に向かいましょう」
芦戸さんが小さく頷いたのを合図に、私は駆け出した。
黒霧さん、その判断は早いですよ…。
お久しぶりです。
現実でバタバタ忙しくなり、PCが壊れて小説書けない日々を過ごしてやっとPCが買えました。
これからも不定期に更新すると思います。
……今、USJ編かー。完結まで何年かかるかもことやら。
次回
明日20:00投稿予定。
父親が死柄木さんに命令されます。
平日で小説投稿する場合、何時くらいの投稿がいいですか。
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深夜0時〜2時
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朝6時〜8時
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昼12時〜14時
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夜①18時〜20時
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夜②21時〜23時
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いつでもOK。ばっちこい。