とあるヴィラン少女の話   作:サシノット

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今回は対人戦闘訓練と、ある個性に主人公がわくわくドキドキします。


※今回は長い。
※対人戦闘訓練の建物を一部捏造しています。
※原作キャラの個性について少し捏造しています。
※キャラの口調が…変かもしれません。



活動報告13 対人戦闘訓練をしました

すごいものを見せつけられた。

 

緑谷くんと爆豪くんの対戦が終了時、私はそんな感想を抱いた。

 

前半は緑谷くんがこれまで培ってきたヒーロー知識を活かした戦法で爆豪くんを一時退けたように見えたが、個性を駆使した接近戦では圧倒的な力の差を爆豪くんが見せつけた。

 

最終的に全力の個性のぶつかり合いが行われると思ったが、緑谷くんは核兵器のある上の5階フロアに向けて個性を放ち、麗日さんと連携をとって核兵器回収に成功し、ヒーローチームが勝利した。

 

問題はその緑谷くんの個性である。彼は2階フロアから5階フロアにむけて全力の個性を発動していた。そのせいで3〜4階部分に大穴を開け、ビルが半壊した。

 

体力テストといい、並みの増強個性でないのが明確になった。突然発現した個性がこうも驚異的なパワーを発揮するなんて思いもしなかった。

 

その結果、緑谷くんは腕を大けがをし、爆豪くんは負けたショックで意気消沈。麗日さんは個性の副作用でリバースをしかけて、飯田くんはもっとも訓練に適した行動をしたことでMVPに輝いた。

 

観察したところ、緑谷くんの個性は超パワーを発揮できるものの一度使っただけで反動により、体を壊す欠点がある。

 

どういうわけか体と個性が馴染んでいないようにみえた。

 

さらに核兵器の回収を優先したせいで、緑谷くんは爆豪くんの最大火力をまともに受けて大怪我をしていた。常闇くんが「試合に勝って勝負に負けた」と言っていたが、その通りなのだろう。

 

「…なるほどね」

 

あまりの激しい試合に、思わず死んだ魚のような目で苦笑いをしてしまった。

 

結果はどうであれ、あの二人は対等に戦っていた。

あのバトルは、二人にとってはヒーローになる前の大きな一歩だろう。あれがきっかけで二人とも何か変わるとすれば…本当に厄介になりそうだ。

 

プロヒーローになる前の今の段階でアレだ。どちらも将来、対峙したときは何倍も強くなっているだろう。そう思うとぞっとして乾いた笑いが出てしまったのだ。

 

なぜか隣にいたオールマイトからドン引きしていたが、気にしないほうがいいだろう。

 

 

 

試合が着々と進んでいき、私たちの番になった。

 

対戦カードはヒーローサイドはHチーム、ヴィランサイドはJチームとなった。Jチームは切島くんと瀬呂くんのチームである。お互い挨拶をして二人が建物内に入るところを見届け、建物外で待機する私たちは現在、互いの個性について情報を共有している。

 

梅雨ちゃんの個性について詳しく聞くと、舌を20mくらい伸ばせる、胃袋を外に出せる、ピリッとした粘液を分泌して吐き出せるなど、隠された個性の特性を聞いて、なかなか有能な個性であることがわかった。その一方で常闇くんはクールな様子で個性を紹介した。

 

「俺の個性は黒影(ダークシャドウ)だ」

「黒影?」

「黒影、挨拶しろ」

『アイヨ!』

 

すると、むくりとマントが一瞬だけ膨れあがり、マントの下から鳥の形状で目が黄色く、全身が黒いモンスターのようなものが飛び出した。

 

驚いて思わず距離をとると、そのモンスターは常闇くんの隣につき、元気よく挨拶し始めた。

 

『オレハ黒影! コイツノ相棒ダ!』

「喋った…」

『オウ喋ルゼ』

「こっち見た!?」

「黒影は個性だが、意思を持つ。故に意思疎通が可能だ…」

「そうなんですか…すごいですね…!」

「忍ちゃん。すごく目が輝いているわ」

 

その一挙一動ごとの動きに注目してしまう。体力テストの時から気になっていたが、近くで見ると迫力がある。仕事で数々の個性をみてきたが、こんなに珍しい個性は初めて見た。

 

意思疎通ができるってことは知能があるということだ。しかも指示なしでも自分の意志で動けるようだし、なにより自分が個性だって理解している様子だ。癖の強い個性だがみたところ範囲攻撃や中距離戦が向いていそうだし、攻撃だけじゃなくて防御も兼ね備えていそうで、常闇くんが個性を発動している限りはあまりダメージをうけないメリットがありそうだ。

 

この個性、もっと研究する必要がある。これは後で緑谷くんと一緒に考察していかなきゃならない。あとノートにも詳細を書かなきゃいけない。あと常闇くんにいくつか後で聞くことにしよう。

 

主に個性の発動条件や、黒影くんのスペック、それと実際に私がCopyできるのかを確認するなどやることがたくさんある。こんなに未知数な個性は研究のしがいがある。

 

なによりこんなにカッコイイ個性はそうそう無い。個人的にすごくコピーしたい。

 

コピーができたら、自分の黒影にどんな名前をつけるのか考えていると、ポンと音を立て肩に手を置かれた。

 

「忍ちゃん、黒影ちゃんが引いてるからやめてあげて」

「え?」

 

梅雨ちゃんに促されて、ちらりと黒影くんの方向を見る。そこには、黒影くんがプルプルと震え上がりながら、小さくなって常闇くんの背中に隠れていた。心なしか涙のようなものが出ている。

 

『コ、怖ェヨ。アイツ』

「眼光のみで黒影を戦慄させるとは…さすが修羅と渡り合う者といったところか」

「しゅ……いえ、すいませんでした」

 

常闇くんの修羅についてツッコミを入れたかったが、黒影くんを怯えさせてしまった罪悪感で言えなかった。

 

随分前に緑谷くんや父に言われたのだが、私は集中しすぎると目が怖くなるらしい。無意識に目を鋭くしているようで、観察対象を睨みつけているらしい。過去に何度か緑谷くんに怯えられた経験がある。私の悪い癖であった。

 

頬を軽く叩いて気持ちを切り替えていると常闇くんが話しかけてきた。

 

「そうだ。狩野の個性は爆豪と同じ…『爆破』でいいんだな?」

「…え?」

「忍ちゃん。入試でも体力テストでも爆発系の個性使ってたでしょう?」

 

二人の言葉に、一瞬私はきょとんとしてしまう。そして、理解した。

 

 

そうか、緑谷くんと爆豪くん以外のクラスメイトは私の個性を知らないのだ。

 

 

体力テストでは爆破の個性しか使っていない。ヘドロ事件の時にはStealを使ったが爆破とオールマイトの個性で目立たなかったのだ。

 

それゆえ『個性を盗める個性』に気づいていないのだ。爆豪くんと個性がダダ被りしていると勘違いしている。

 

これはいいアドバンテージになりそうである。

 

ニヤリと口角を釣り上げて、私は笑った。

 

「三人とも、作戦があります」

 

 

 

作戦会議が終わると、実践訓練がスタートした。核兵器が置かれている部屋にいる瀬呂(せろ)範太(はんた)切島(きりしま)鋭児郎(えいじろう)は警戒心を高めていた。

 

「おっし。時間になった! どっからでもかかって来やがれ!」

 

瀬呂の個性『テープ』は両肘に異形化しているテープを自在に射出が可能で、拘束はもちろん巻き取って移動に使う、トラップに使うなど様々な用途がある。

 

一方、切島の個性『硬化』は気張れば全身や体の一部を硬くすることで最強の盾にも最強の矛にもなれる個性だ。対人戦では物理攻撃や個性使用の攻撃を防ぐことが可能である。

 

10分間の作戦で瀬呂と切島は『核兵器の近くで待機し、たどり着いた敵を分担して倒す』方向性をかためた。

 

瀬呂のテープで核兵器を巻きつけて保護+トラップの役割、二か所の出入り口にはテープで補強してバリケードをして簡単に侵入させないよう工夫した。

 

肉弾戦が得意な切島は奇襲を仕掛けていくのは愚策だと爆豪の試合で分かり、持ち場を離れるわけに行かなかった。

 

瀬呂もこの部屋のトラップを仕掛けて核を守るには動かない方がいいと判断したのである。

 

「気合入ってるな切島」

「当たり前だろ。さっきのバトル見て燃えねぇわけにいかねぇだろ」

 

切島は緑谷と爆豪の試合を見て、燃え上がっていた。

 

息つく暇もないスピードで攻撃をし続ける爆豪、それに対抗して優れた判断力で翻弄した緑谷、両者とも素晴らしかった。そんな彼らと同期でライバルになれるのだ。あの試合は切島の競争心を煽ったのである。

 

「それに…相手は入試1位の狩野だぜ。俄然燃える!」

「まったくお前暑苦しいなぁ、けどそういうの嫌いじゃないぜ」

 

瀬呂はため息をつきながらも、瞳はひそかに燃えていた。あの二人の戦いの熱に当てられたのは、切島だけでは無いのである。

 

 

 

 

スタートの合図が鳴り、私と常闇くんは建物内に侵入をした。小型無線を使い、外にいる梅雨ちゃんに連絡を取る。

 

「おそらく切島くんと瀬呂くんは『核』の部屋にいます。梅雨ちゃん、見つけたら連絡ください」

『了解』

 

私たちの作戦は、まず1~3階フロアは常闇くんと私で核を探し、梅雨ちゃんは壁に張り付きながら窓から4~5階の様子を見る。この建物は北側に二部屋、真ん中フロアに一部屋、西側に一部屋、南に一部屋と合計で階ごとに5部屋ある。

 

見取り図によると真ん中フロア以外に窓が必ずある。梅雨ちゃんは壁をつたって移動ができる。そこで建物の外から詮索してもらうことにした。

 

その結果、こうした作戦をとることになったのだ。1階の捜索を終わらせると、2階へ進む。曲がり角に差し掛かるところで、足元にテープが張り巡らされていることに気づく。

 

うっかり踏んでしまったらとれるまで時間がかかってしまう。この勝負は制限時間15分過ぎれば、勝利条件によって向こうの勝ちとなる。

 

「黒影」

『アイヨ』

 

常闇くんが呼ぶと黒影くんが現れてテープを掴み、捨てて行く。粘着性は少し高いようだが、黒影くんはいとも簡単に剥がしていった。

 

スムーズに事が進んでいるのを見ていると、ふと黒影くんの体が外にいたときに比べて大きくなっている気がした。

 

「常闇くん…黒影くん、なんか大きくなってません?」

「黒影は闇が深ければ深いほど強大になる。ここは太陽光が遮られているおかげで、先ほどよりも闇が深い。それに伴って黒影の体の大きさが変化するんだ。さらにいえば…」

『オイ!』

 

個性の特性について聞いていると、テープを剥がし終わった黒影くんが鋭くこちらを睨み、手の平を上にし、人差し指らしき部分を内側に曲げて挑発的なサインをする。

 

『何シテンダ? サッサト先ニ行コウゼ』

「…え?」

「黒影…」

『ッチ、合ワセレバイインダロ』

 

マスコットのような可愛らしさから一転、なかなかワイルドな態度になり、驚いて言い返せなかった。常闇くんが名前を呼んで注意をすると舌打ちをしながら周りに警戒した。

 

黒影くんが少し離れたところにいることを確認して常闇くんに小声で話しかけた。

 

「黒影くん…態度さっきと微妙に違くないですか?」

「…個性の性質上、闇が深くなればなるほど黒影の気性が荒くなる」

「あー…なるほど」

 

性格の急変も、暗闇にいれば強くなる個性ならば納得する。腕組をしながら私たちの周囲を警戒する黒影くんは一応常闇くんの制御が効いているのか守ってくれる意思が伝わる。

 

「常闇くんは大丈夫なんですか? 負担が大きくなるとか…」

「この程度の闇ならば平気だ」

「そうですか…」

 

この程度の闇…ということは真夜中、外に出た場合は平気じゃないらしい。

 

もっと暗い場所で黒影くんを出せば制御が効かなくなる可能性があると示唆しているのだ。やはりこの個性はなかなか癖が強い、同時に使いこなせれば強力そうだ。

 

常闇くんの容姿は異形のようだが、個性自体は発動系にみえるためCopyは可能だと推測できる。Copyを試しにやってみる価値がありそうだ。

 

今後の方針を少し固めたところで小型無線から梅雨ちゃんの声がした。

 

『忍ちゃん。見つけたわ』

「どこにいました?」

『4階の南側の部屋よ。核の周りにテープが張り巡らされているわ。ドアにもバリケード代わりにテープがある…普通に開けようとすれば突っ張って侵入するのが難しそうね…』

「梅雨ちゃんは今どこにいますか?」

『3階の南側に張り付いているわ』

 

建物の見取り図では、南側の部屋は窓、ドア共々2か所あった。梅雨ちゃんが窓から中の様子が見れたってことは、目張りをされていない限り、窓にはなにもしていないと考えるのが妥当かもしれない。

 

「了解。すぐに向かいます」

 

 

 

私と常闇くんは足音を立てないように慎重に階段を上がり、核とヴィランチームのいる部屋の前にいた。ドアの正面に立ち、アイコンタクトで合図を交わし、頷くと黒影くんが静かに現れる。

 

「黒影!」

『アイヨ!』

 

合図で黒影くんは腕を大きく振るい、ドアへ突進して行く。突進の衝撃でドアは張り巡らされたテープごと吹き飛ぶ。その奇襲に切島くんと瀬呂くんは驚きつつも、瞬時に戦闘態勢になった。

 

「狩野と常闇だ!」

「わぁってる!」

 

切島くんが腕を硬化し、突っ込んできた。常闇くんは素早く横にずれ、私は爆破で空中に飛び、回避をする。瀬呂くんは常闇くんの向かいにある壁にテープを貼り付け、それを一気に巻き取って常闇くんの元へ距離を詰めた。

 

一方、通り過ぎて行った切島くんは踏ん張り、急停止すると瞬時に常闇くんを無視して私に向かって走り出す。どうやら、彼らは分担して倒すつもりのようだ。

 

頭上に手の平を掲げ、爆破を展開し、急降下して切島くんがたどり着く前に着地をする。正面に拳を構えて駆けてくる彼を捉えて、上半身をひねって回し蹴りで牽制をする。

 

視線が回し蹴りをする脚へ移り、硬化した腕で受け止められた。さすがにその腕は硬く、攻撃を仕掛けたはずのこっちの脚に重い衝撃が走った。

 

ニヤリと彼は笑い、攻撃を受け止めた腕を押し返してきた。このまま力負けして体制が崩れれば劣勢になる。慌てて彼の眼前に目くらましも兼ねた小規模の爆破をし、後方へ飛んで距離をとる。

 

「そんな攻撃きかねぇよ!」

「ですよね…」

 

硬化の個性は対人戦にはとても向いている。いくら私が特訓で地力の底上げをしたとはいえ、私と切島くんでは純粋な力に差がある。それに加えて、あの個性は物理技をすべて防御する鉄壁さと硬さを利用した攻撃自体も強力だ。

 

考えをまとめていると、切島くんが再び突っ込んできた。拳が迫りくる。首を反らしてギリギリでかわし、再び向けられた拳を今度は受け流してかわしていく。

 

一度でも当たればひとたまりもないパンチのラッシュを体術を行使して対抗するも、やはりパワーの差で徐々に追い込まれて後ろへ下がってしまう。

 

何度か攻防をし続けると背中が何かにぶつかった。この感触はコンクリートだ。どうやら壁際まで追い込まれてしまったらしい。じりじりと距離を詰められる。すり足で壁伝いに移動すれば、切島くんは動きに合わせて鋭い視線で警戒していた。窓際まで移動すると切島くんは笑う。

 

「どうやら…ここまでのようだな狩野」

「…爆破が通じない敵がいるなんて、びっくりしました。さすがですね」

「派手な個性だけに頼るんじゃ、勝てねぇよ…悪いが勝たせてもらうぜ!」

 

切島くんが飛び出して、パンチを仕掛けて来た。それをギリギリのところまで引きつけ、横に手を構えて爆破を繰り出す。爆発の勢いでかわすと、切島くんの目の前に少量だが黒煙で目くらましになる。振りかざした拳は窓にぶつかり、ガラスの一部が外に舞う。

 

黒煙を振り払うように首を横に振るのが見えた。その隙を逃さず、今度は逆噴射で爆破を起こして近づいた。脇腹をめがけて大振りをする。

 

「きかねぇよ!」

 

切島くんの全身が音を立て、皮膚が岩石のように角ばっていく。最大の硬化の力で爆破を防いで反撃するつもりだろう。

 

…それが爆破のみ使う相手だったらいい判断だ。

 

そっと脇腹に触れると、切島くんは目を大きく開いた。爆破は起こさず、代わりにある個性を発動する。

 

脳に電撃が走る。

それは脳から全身へ伝導していくようだった。

徐々にそれは眩い光を体外で放ち、バチバチと目の前で小さな音が起こり、電気が身に纏った。

 

「個性…『帯電』!」

「ぐああ!」

 

個性『帯電』は、上鳴くんの個性だ。

体力テストでペアになったとき、個性の話題で会話をした際に少しだけ視せてもらったのだ。そのときこっそりCopyしたのである。

 

それを切島くんに放った。ビリビリと痺れる電撃に切島くんの体が震える。硬化をしているとはいえ、物理攻撃とは異なるこうした特殊攻撃を防ぐことはやはりできないようだ。数秒したところで電撃をやめて距離をとった。

 

ぼんやりと浮遊感に似た感覚が頭の中でしたが、それを耐える。顔を上げて切島くんへ視線を移すと彼はふらついているが、それを踏ん張り、倒れなかった。

 

「あぶねぇ…危うく気ぃ失うとこだったわ…」

「へぇ。アレを耐えるなんてすごいですね」

「あんな微妙な電撃、根性と気合で耐えれるぜ」

 

切島くんの発言に、やはり微妙だったかと思った。この個性をCopyして日も浅く、完成度を上げるまで使っていない。許容W(ワット)ギリギリまでの電撃が放てるだけだ。全力で電撃を放てば切島くんを気絶させることが可能だったかもしれない。

 

だが、この個性…許容W(ワット)数以上の雷を放てば、アホになって「ウェーイ」としか言えなくなってしまう。正直、嫌なデメリットである。

 

それをすればチームへの迷惑待ったなしである。心の中で苦笑いをしていると、切島くんが弾かれたように顔を上げた。

 

「つーか…お前の個性『爆破』だろ!? なんで雷打てるんだ!?」

「私、一言でも『爆破』が個性とは言ってませんよ」

「言ってねぇけどよ…! 爆破に電撃って、予想外すぎだろ!」

 

相手からすればそんな強力な個性を連続で無慈悲に攻撃されると、ほとんど理不尽だ。気持ちはわかる。ちらりと瀬呂くんと対峙して部屋中を動き回る常闇くんと目が合う。どうやら、作戦がうまくいっているようだ。

 

右には爆破を、左には入試時にコピーした体の一部を鋼鉄に変える個性を発動する。同時に発動するのは、かなりの集中力が必要なため、あまり使いたくないが作戦のためだ。やむ得ない。異なる二つの個性を見せつけられた切島くんは愕然としていた。

 

「私の個性は『シーフ』…大抵のものを盗むことができます。個性だって盗めますよ」

「なんだそれ……チートかっつーの」

 

ネタばらしをすると、切島くんが口元をひきつらせた。だが、彼はすぐに笑みを浮かべた。

 

「面白いじゃねぇか! 狩野!」

 

彼は突進してきた。思わず私は笑ってしまう。

彼が私を相手した時点で、勝負は決まったのだ。

 

「切島! 核のテープが!」

「なに!?」

 

二人が仕込んでいた核兵器周りのテープが、切除されていた。常闇くんと黒影くんが瀬呂くんの攻撃を避けながら、核周りのテープを少しずつ少しずつ、瀬呂くんに気づかれないよう順調に切除していたのである。瀬呂くんがそれに気づき、声を上げる。その声に切島くんは気が逸れた。

 

「準備はいいですか?」

『ええ』

「じゃあ、いきますよ!」

 

これで、確保するための障害物はなくなった。小型無線で確認をとると、私は開いている窓を背にして彼らと向かい合う。

 

地面に両手を向けて爆破を展開し、黒煙で目隠しをする。視界が悪くなり、切島くんと瀬呂くんがせき込む声がした。

 

すると、ひゅるりと開いている窓から核付近へ一直線に長いものが伸び、それに引っ張られて人が飛び出す。煙が晴れる。視界が良好になったころには、核に誰かが触れていた。

 

「確保よ」

 

ニコリと口角を上げて、彼女は笑っていた。彼女の登場に、切島くんと瀬呂くんがあんぐりと口を大きく開けて呆然としていた。

 

「つ、梅雨ちゃん!!?」

「あ!! そういや、このチーム3人チームだった!」

 

敵の人数は知らされていたはずだが、目の前の敵に集中しすぎて梅雨ちゃんのことを忘れていたのだろう。騙して悪かったが、人数有利で勝つためには、囮作戦が確実だと判断したのである。ああいったミスは致命的なので自分もああならないよう肝に銘じた。

 

 

『ヒーローチーム、WIN!!』

 

 

「やったわね。忍ちゃん、常闇ちゃん、黒影ちゃん」

『俺ノオカゲダロ?』

「ああ、そうだな」

「はい。黒影くんが瀬呂くんのテープを切除できなかったら、この作戦うまくいきませんでした」

『ダロダロ!』

「調子に乗るな。黒影…」

「かわいいわね。黒影ちゃん」

「そうですね」

 

オールマイトのアナウンスが建物全体に響き渡る。その声に私たちはお互いハイタッチをして、勝利に笑いあった。

 

 

 

 

演習が終了し、講評の時間になると食い気味に、オールマイトがしゃべり始めた。

 

「上手かった! まず蛙吹少女の個性で核の居場所を特定し、その部屋に行く! つぎに蛙吹少女は5階の窓で待機をして囮の狩野少女と常闇少年が特攻して二人を動揺させ、共に闘うことでキーの蛙吹少女を動きやすくした! さらに狩野少女は切島少年を誘導して侵入口を確保し、二人が共闘している間に蛙吹少女はこっそり窓を開け、核の位置を確認し、常闇少年が戦闘しつつ、罠のテープを完全に切除するまで待機! 小型無線を合図に爆破で目くらましで核を確保した! うん! 素晴らしい連携プレイだった!」

 

「オールマイト先生…さっきほとんど解説とられちゃったから必死なのね…」

 

動揺する私と、感銘を受ける常闇くんとは違ってバッサリと言う梅雨ちゃんに、オールマイトはショックのあまりか軽く喀血していた。ここまでのバトル、推薦入学者の八百万(やおよろず)(もも)さんによって、ほとんど解説の出番がないのである。

 

その八百万さんは、なぜか敵意むき出しの目で私を睨んでいた。彼女に何かした覚えはないのだが、私は一体何をしたのだろうか。心当たりがなさ過ぎて辛い。キリキリと心を痛めていると、申し訳なさそうに上鳴くんが手を挙げた。

 

「そ、それとさ。狩野…」

「上鳴くん?」

「俺の個性、使いたい気持ちはわかるけどよ…その、加減とか、ちゃんとできんのか? さっきは威力抑えて切島に攻撃してたからいいけどよ。その個性…味方も巻き込んじまうし…」

 

そういえば、特訓場所で私が全力で帯電を放ったら、その日は偶然遊びにきていた父が電撃に巻き込まれていた。

 

そのときはざまぁと思っていたが、電気を纏って放出する個性なので調整が効きずらい。それもこの個性のデメリットかもしれない。しかし感覚さえ掴めば、なんとか調整さえすれば使える個性なのだ。それに、一つ彼は勘違いしているようだ。

 

「さっきのが私の最大威力ですよ」

「…は? さっきのが?」

「一応、体力テストの後から練習してるんですけど、ショートしないギリギリの威力がアレでして…やっぱり雷系の個性は調整難しいですね。今の段階じゃ、一度しか人間スタンガンができませんし…使いこなすには完成度をあげないといけませんね」

「もしかして…使えば使うほど威力が増すってことか?」

「まあ、体に馴染むまで時間かかりますけどね」

 

そう話すとみんなから羨望の眼差しで見つめられる。視線が集まって、私はいたたまれなくなった。

 

講評が一通り終了してオールマイトが次の試合のことを言い出すと、別の演習場へ全員向かいだした。

 

「……ん?」

 

全員、向かいだしたはずだった。

 

部屋を出ていく直前に、体を射抜かんとばかりの強く鋭い視線を背後から感じた。振りむくと、虚ろでぼやけた瞳をしている爆豪くんがぽつりと、一人で立っていた。彼に纏う異様な空気に、飲み込まれかける。

 

先ほど緑谷くんとバトルしてから様子がどうもおかしい。どう考えても彼があのバトルのことで落ち込んでいるのが明白だった。

 

たくさん声をかける言葉は思い浮かんだ。けれど、どれも彼を傷つけてしまう言葉ばかりな気がして、私はぐっと堪えた。

 

「…早く来てください。みんなもう移動してますよ」

「………」

 

爆豪くんは無言のまま歩き、部屋を出ていく。

 

これでよかったのか、わからない。

一体、今の視線はなんだったのだろうか。そんな疑問が生まれたが、今の彼に問いかけても答えてくれないは目に見えて分かり、私は次の試合に意識を集中させた。

 

 

 

午後の授業とHRも終わり、夕焼けの光が学校を照らす。放課後になるとクラスの半数以上は教室に居残り、今回の訓練の反省会を行っていた。私はみんなの反省を聞きながら、あの視線を向けた爆豪くんのことを考えていた。

 

HRが終わったあとに爆豪くんは帰った。クラスメイトが声をかけるも、彼には一切聞こえてないようで、足を止めることはなかった。

 

アレはおそらく、敗北を受け入れるのに時間がかかっているだけだ。自尊心の塊同然の彼が緑谷くんに負けた事実を受け入れるにはどうしても時間がかかる。そして、その負けを認めて立ち直れば、いつもの彼に戻るのもなんとなくわかる。

 

割と心もタフネスな彼なら、放っといても2日したら立ち直るだろう。明日もあの状態になっていそうだが、ああいう場合は時間が解決してくれるはずだ。

 

「…はぁ」

 

――と思うが、さすがにあの状態を2日放置するのは心が痛んでため息をついてしまう。

 

あの視線の意味は未だに分からないが、あんな視線を浴びた後に慰めの言葉なんてかけることもできなかった。それに、負けを認めるだけなら放置でもいいが、根本的なあの二人の因縁問題は解決しない。

 

どうしたものかと悩んでいると、ガラガラと控えめにドアを開ける音がした。

 

「おお、緑谷来た!! おつかれ!」

 

切島くんの声で、私はドアに視線を向ける。そこにはヒーローコスチュームを着たまま右腕にはギブスを、左腕には厚めの包帯でぐるぐる巻きになっている緑谷くんがいた。緑谷くんはクラスメイトに囲まれて称賛されていた。その光景を微笑ましく見ていると、はっと閃いた。

 

そうだ…彼ならきっと…。

 

思い立つと椅子から立ち上がり、人込みをかき分けていく。こちらに気づいた彼は目を泳がせながら、あることを尋ねてきた。

 

「狩野さん…かっちゃんは?」

 

あのバトル後の彼が気になったのだろう。その声色は不安げになっていた。彼も爆豪くんのことを気にかけていたことに少しうれしく思い、私は素直に言った。

 

「帰ったわ」

「…そう、なんだ」

「でも、今出ていったばっかりだから…急げば校門くらいで会えるんじゃないかな」

 

そう話すと、緑谷くんは顔を上げて少しびっくりしていた。そんな彼の反応を無視し、軽く肩を掴んで、くるりと体を廊下側へ向かせた。

 

「行ってきたら? 言いたいことは早めに言わなきゃ、後悔するわよ」

 

彼の背中を両手で強めに押す。少しバランスを崩して緑谷くんはこけかけるが、なんとか踏ん張った。緑谷くんはこちらを一瞬だけ見て、彼はギブスをしていない手で拳をつくり、晴れやかな表情を浮かべた。

 

「ありがとう狩野さん!」

 

お礼だけ言うと彼は廊下を駆け抜けた。感謝をしながら走るとは斬新だなと、場違いな感想を思っていると、切島くんが話しかけてきた。

 

「狩野はいかねぇのか?」

 

その純粋な質問に、私はそっぽを向いた。確かに、私が一緒に爆豪くんのところにいけばある意味緑谷くんは安全かもしれない。だが、それはやってはいけないのである。

 

「…あの二人の因縁に、とやかく言うのは野暮ですからね」

 

緑谷くんが爆豪くんにどんなことを伝えたいのかは分からない。

 

緑谷くんは人の触れたくない領域にガンガン踏み込んでしまうほど考えなしになるところがあり、爆豪くんは地雷が人より何倍もある繊細な人だ。

 

そのせいもあって普段会話らしきものをすれば、爆豪くんの地雷をことごとく踏み込む緑谷くんにキレた爆豪くんが爆破騒ぎとなる。そして、現在爆豪くんはかなり弱っている。今の彼は全身地雷だらけである。

 

けれど、だからこそ今の爆豪くんに緑谷くんの言葉が通じる。価値観が崩壊した今なら、緑谷くんの言葉が届くのだ。負けを認める以上に何かを感じさせることができるのは、緑谷くん以外に適任はいない。うまくいけば立ち直れると思ったのだ。

 

こんなに不器用で不格好で、偏屈な幼馴染の関係は滅多にない。他人からすれば理解しがたいものだろう。

 

だからこそ、あの二人の関係に口出しするのは無粋なのだ。

 

「…私ができることは、見守ることと時々間に入るだけですよ」

 

それが正しいことなのか分からないが、二人の友達としてやれるのはこれだけである。

 

言い切るとクラスのみんなは目を丸くする。しばらく沈黙すると、ふと切島くんが声を上げた。

 

「マジで狩野…緑谷と爆豪の姉ちゃんみたいだな!」

 

この場に爆豪くんがいたら、間違いなく爆破されそうな発言をした切島くんに、クラスのみんなは深く首を縦に振った。

 

この数日でクラスメイトのほとんどに、二人はそんな印象を持たれて大丈夫なのだろうか。これからの二人が心配になってきて、私は肩を落とした。

 




戦闘描写…めっちゃ難しいです。

あと…常闇くん、黒影くん、瀬呂くん……戦闘描写をほとんど描写してなくてすいませんでした!! 一人称の戦闘描写でテンポと文字数考えたらカットせざる得なかったんです!! 作者に力量なくてすいません!!

ちなみに主人公が切島くんと対戦している間は瀬呂くんはヒットアンドアウェイで時間を稼ぎをし、そんな瀬呂くんに作戦を悟られないよう懸命な立ち回りを常闇くんと黒影くんはしていました。はい。


そして久しぶりの投稿…多忙のため期間が空いてしまいました。
今後しばらく月に1、2度ほどの更新となりそうです。亀並みに遅い更新で申し訳ありませんが、ご了承ください。


次回予告
次回、主人公と爆豪くんが一緒にダッシュで登校(?)します。

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