今回は主人公と爆豪くんの出会い話と、ほんの少しだけ爆豪くんが主人公をどう思っているのかわかります。
※主人公は……機嫌悪いとあんな感じです。はい。
※原作キャラについて自己解釈・捏造している部分があります。ご注意ください。
「…こんなもんかな」
帰宅後、私はクラスメイトの個性についてノートにまとめていた。個性把握テストで大方の個性はわかったが、性質上体力テストに向かなかった個性の生徒もいるらしく不明な人もいた。
整理していくうちに、Copyしたい個性もいくつか見えてきた。ただ、もう少し情報が欲しい。もっと詳細がわかれば完成度が上がる。ぼんやりとした情報だけでは発動できない場合もあるのだ。ノートをつくっていると肩がこり、眠気が襲い掛かってきた。スマホで時間を確認すると、時刻は0時を回っていた。どおりで眠いわけだ。
「寝なきゃ…」
休憩して夕食を食べたり、銭湯に行ってお風呂は済ましていたが、短期間に先生を含めたクラス全員分の個性を書き上げたのは初めてだったため、時間が過ぎているのに気づかなかった。
もっと書きたいことがあったが、今日は重要な授業を受けるためこれ以上睡眠時間を削るのはキツイ。
「『すいません。学校が終わったら続きを書きます』と」
黒霧さん宛てに連絡を書くとちゃぶ台を部屋の端に寄せて布団を敷く。布団にもぐると私はそのまま眠った。
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本格的な授業が開始された。ヒーロー科最高峰の雄英高校とはいえども、生徒の本業は勉強である。ヒーローらしいことをする前に普通の生徒として普通に授業は受けるのだ。
午前は必修科目の英語・現代国語・数学・公民の授業をした。なお、ヒーロー科の授業は主にプロヒーローが受け持っており、英語ではプレゼントマイクがテンションを激しく上下しながら授業をしていた。
昼は大食堂でクックヒーローのランチラッシュが作る一流の料理を安価で頂けた。そのときに緑谷くんと飯田くん、それと昨日緑谷くんに話しかけてボール投げで∞をだした女の子、
「いつから3人は仲良くなったの?」
私は麗日さん同じ和食を注文して食事している中質問をすると隣の緑谷くんが照れ恥ずかしそうに喋った。
「体力テストのあとに駅まで一緒に帰ることになって、そこから…」
「それに入試時に同じ会場でな。そこで気が合ったと言ってもいい」
「うんうん! あの粉砕パンチすごかったよ!」
そういえば、合格発表された日に電話されたときを思い出す。そのときに女の子が倒れていて必死に助けようと思ったら個性を発動して助け出せたと言っていた。
そしてその女の子が麗日さんだったという。なんという偶然だろうか。飯田くんも昨日入試について言っていたので3人とも同じ会場だったのは間違いない。
知らないところで友達が活躍しているのを知って思わず口角が上がってしまう。ついでに少し緑谷くんをからかいたくなった。
「そのときの緑谷くんの様子聞かせていただいていいですか?」
「ちょ、狩野さん!?」
「え? デクくん話してなかったの? もったいないよ自慢しないと!」
「そうだ。自分のやり遂げたことを親友に伝えないでどうする?」
デクくんとは緑谷くんのことである。爆豪くんがつけた蔑称だということを緑谷くんは話したらしいが、麗日さんが『がんばれって感じで好き』と発言したことから緑谷くんは「デクくん」呼びは良いらしい。本人曰くコペルニクス的転回だったという。
「さ、散々話したじゃないか。何度も聞くことになるし…」
「第三者から見て緑谷くんが活躍したところの意見を聞きたいの。いいじゃない少しくらい」
そう言うと羞恥や困惑が入り混じった表情で緑谷くんは目をそらす。その一方で飯田くんと麗日さんが入試時を思い出したのか、そのときの様子を細かく説明しながら興奮気味に解説し始める。
飯田くんは緑谷くんが受験者の中で最もヒーローらしい行動に出て感激したことを、麗日さんは自分のために敵Pを諦めることになって悔やんだことや0Pヴィランを倒したとき、とても緑谷くんが凄かったことを話してくれた。
中学の頃じゃ考えられない光景にニコニコとしてしまう。二人の熱弁を聞いていると、耐え切れなかったのか緑谷くんが大声をあげた。
「そういえば! 体力テストの狩野さんも凄かったね!」
「そうだな、狩野くんも素晴らしかったぞ。入試一位に加えて、テスト開始直前で皆がやる気になるよう演説で鼓舞をした。とてもじゃないが普通できないぞ」
急な話題転換にも関わらず飯田くんが切り返してきた。うまく話を逸らせた緑谷くんはほっとした様子で肩を落とす。対照的に私は突然の話題にびっくりして肩が跳ねてしまう。
「そんなことないですよ。内心、けっこう緊張して途中で自分で何言ってるのかわからなくなりましたし…」
「そうだったのか!?」
「えぇ!? 全然そう見えなかったけど…」
「全く気づけなかった…! 狩野さんのことだから余裕たっぷりかと思ってた…」
「アンタら、どれだけ私のメンタルが強靭だと思ってるんですか?」
私の言葉に3人とも驚いていた。飯田くんと麗日さんはともかく、長い付き合いの緑谷くんも私の内心に気づいていなかったのはショックで思わず口調が乱れてしまった。
「常に冷静沈着に見せることもヒーローの素質になる。ああいった落ち着いて行動してみせるリーダーシップは大切だからな」
「うん! 狩野さんすごかったよ!」
「あはは…ありがとうございます」
どうしよう。この子たちものすごく無邪気な目をしてすごく私のこと過大評価している。いい子たちすぎて眩しい。味噌汁を持つ手が震えてきた。
緑谷くんはいい友人を見つけたようだ。友達としては嬉しいが、自分の立場のことを考えると色々複雑だ。出汁のきいている味噌汁を飲み、心を落ち着かせていると麗日さんは首をかしげていた。
「そういえば狩野さんとデクくんって、どう仲良くなったん?」
「ヒーローノートを見せ合ったら仲良くなりました」
「ヒーローノート?」
「僕と狩野さんがその…ヒーローが大好きで、好きすぎてオタク的というか」
「それでヒーローの分析ノートをつけてお互いのノートを見せて、内容について議論する…みたいな感じを繰り返していくうちに仲良くなりました」
「なるほど。お互いの考えを出し合って分析力を高めあってるのだな」
小声になりながら緑谷くんは答えた。私の場合、仕事上ノートをつけていただけだが、緑谷くんに合わせるために好きだと言うことにしている。実際はそこまで好きではないが、嫌いでもない。
だが、それが嘘だとバレると今後の活動に支障をきたす。話を合わせていると再び麗日さんが首をかしげた。
「じゃあ、爆豪くんとはどうやって仲良くなったん?」
その言葉にピシリと緑谷くんと私は箸を止めた。
その不自然な静止した動作に2人は不思議そうに目を丸くした。私は頭の中で出会った時を回想して、頭を抱えた。
簡単に言うと、私はクズ父親のことでイライラしているときに、緑谷くんと絡んでいる爆豪くんと出会って、八つ当たり同然で下着を盗み、激怒した爆豪くんに「ざまぁ」的なことを口走って地獄の鬼ごっこが開催した。
なんとか逃げ切った後に下着を返し忘れたことに気づいて、翌日爆豪くんに教室に行ったらこの世の終わりを待つような絶望顔をしていた。私の軽薄な行動ですごく落ち込ませてしまったのである。
最低である。
八つ当たりで下着を盗むあたり狂気の沙汰でしかない。しかもあの人の性格を知らなかったとはいえ「ざまぁ」はない。マジで頭おかしいし、人として最低だと思う。さすがにあの表情を見て罪悪感に押しつぶされそうになり、土下座をして下着を返した。そのとき会話をしたら彼が繊細なことに気づき、本当に罪悪感で死にそうになった。
もう2度としないと言うとなぜかブチギレられて、再び鬼ごっこをした。後で事情を聞くと負かされたのが悔しいので、完璧に勝利するまでやってこいと言われた。
そのときは彼が勝利に貪欲なんだか、彼に開いてはいけない扉を開かせてしまったのかよく分からなかった。
それ以降は、彼が執拗に緑谷くんに絡んできたとき限定で私が下着を盗んで爆豪くんがそれを追いかけるのが、恒例行事となってしまった。
会話も時間がたつにつれて増えていき、今では会話のドッジボールが可能になるほどの良い仲だと私は勝手に思っている。彼はそれをどう思っているのかは知らないが、悪い印象はないだろう。たぶん。
超簡単にまとめると「爆豪くんの下着を盗んで追いかけっこをしていくうちに仲良くなった」のである。
うん……改めて見ると意味不明だし、客観的にみても文面が危なすぎる。絶対に言えるわけない。私にとっても爆豪くんにとっても黒歴史でしかない出来事を開けっ広げにするのはよくない。
私は二人に満面の営業スマイルをした。
「企業秘密なので教えられません」
「「キギョーヒミツ!?」」
「なんでそう誤解されるような言い方するのかな狩野さん!」
「企業とは!? 一体、どこの企業なんだ!?」
「デクくんは知ってるよね!? 狩野さんは爆豪くんに何をしたの!?」
「え!? あーえっとその…」
飯田くんと麗日さんが汗をかきながら必死に尋ねてきた。話を振られた緑谷くんは高速で目を泳がせて冷や汗を大量にかいていた。そんな彼に笑顔の威圧をかけると、苦渋の選択を迫られた彼は顔を真っ青にして俯く。
「ごめん! かっちゃんのためにもそれは言えない!!」
「どういうことだ!? なぜ言えないようなやり方で仲良くなったんだ!?」
「い、色々あったんですよ本当に」
「その色々が意味深で怖いよ!? 逆に知りたい!」
「ダメです。絶対にダメです」
「断固拒否された!?」
そんなことを話していると昼休みが終わる5分前の予鈴が鳴り、私たちは急いでご飯を食べて教室に駆け込むことになった。
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そして午後は…ヒーロー科にしか実地していない『ヒーロー基礎学』が始まった。
「わーたーしーがー! 普通にドアから来た!!」
今期から教師となったオールマイトは
オールマイトを初めて見た生徒たちは歓喜に満ち溢れていた。オールマイトは銀時代のコスチュームで登場し、気合が入っているように見える。
このヒーロー基礎学はヒーローの素地を作るために救助訓練、戦闘訓練などの様々な訓練を行う課目であり、単位制をとる雄英高校の中で最も多い単位がもらえる。その名の通り、ヒーローとしての基礎が学べる課目なのである。生徒にとってこの課目が一番楽しみにしているといっても過言でない。
教卓の前に立ったオールマイトは『BATTLE』と書かれた札を掲げた。
「早速だが、今日はこれ! 戦闘訓練!!」
戦闘訓練…ヒーローは常にヴィランと対峙する。個性を使ってヴィランを捕縛する仕事であるがゆえに戦闘は避けられない。そのため戦闘スキルはヒーローにとって欠かせない技術でもある。とはいえ、初めてのヒーロー基礎学で戦闘訓練を用意するとは、思わなかった。
「そしてそいつに伴って、こちら! 入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』にそってあつらえた……
オールマイトが指をさすと、壁から出席番号順に並べられたコスチュームがしまってあるケースが出現する。高揚感が高まり、クラス全体の空気がビリビリと痺れていった。それぞれ自分のものを受け取り、全員更衣室に向かった。
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雄英が管理するグランドはそれぞれ『グランドα』『グランドβ』など名前が付けられており、そのモデルは別々に市街地や工場地帯など様々なシミュレーションを行える便利な施設となっている。
今回、私たちA組が使用するところはグランドβ。建物の多い市街地をモデルにしたところである。
「恰好から入るってのも大切なことだぜ少年少女! 自覚するのだ! 今日から自分はヒーローなのだと!!」
その出入り口でオールマイトは待っていた。オールマイトの声を合図に全員グランドに入っていき、各々のコスチュームを披露していった。一番最後に出てきた緑谷くんはエメラルドグリーンを基調としたシンプルなデザインに、頭部にはウサギの耳のようなマスクをしたコスチュームだった。その姿を見て思わず指摘してしまう。
「それオールマイト?」
「わ、わかる?」
「うん。わかりやすいからね」
特に、フードの部分がわかりやすい。憧れのヒーローの姿をマネしているその様子は緑谷くんらしかった。
「狩野さんのコスチュームは……忍者かな?」
「ええ。動きやすくて和風な感じでって要望したのよ」
ここで被服控除について話そう。
雄英高校入学前に身体情報とデザインなどの要望を提出する。学校専属のサポート会社が最新鋭のコスチュームを用意してくれるという素敵すぎなシステムである。
私のコスチュームはノースリーブの黒い和風の軽装な上着、特殊素材で作られた体温調整が可能なシャツを着込み、下には黒い和風の裾絞りパンツに、けが防止の膝あてをしている。口元は忍者を意識して通気性がいい赤と黒が混ざったような色のマスクをしている。
私のコスチュームは主にCopyを使うことを想定している。様々な個性を使う予定なので基本的な型がない。そのため個性を生かす要望はしていない。個性のストックが集まってから再び要望を出して改造していく予定なのだ。今回は見た目重視の個人的好みの格好となった。
緑谷くんはじっと私のコスチュームを見て、目をキラキラしながら笑った。
「似合ってるよ! No.5ヒーロー、エッジショットみたいでカッコイイ!」
「…やっぱり、そうくるのね」
エッジショットとは『紙肢』という自身を紙ぺらのように細く薄く、さらに伸ばすことができる個性を持つヒーローである。コスチュームは私と同じ忍者を意識したもので、個性を使う際に『忍法』と叫ぶことが多く、子どもから支持を得ている人だ。
ヒーロー好きな緑谷くんにとってはこれ以上にない褒め言葉であろうが、自分の立場を考えるとヒーローみたいでカッコイイは微妙な心境になる。
「ありがとう。微妙に嬉しいわ」
「び、微妙なの? エッジショット嫌いだったっけ?」
「ううん。色々複雑なのよ」
曖昧なことを言って誤魔化すとオールマイトから集合の声が聞こえた。一箇所に集まるとオールマイトはキビキビと動き始める。
「本日は屋内の対人戦闘訓練さ!」
オールマイトの話曰く、ヴィラン退治において野次馬が目撃しやすい屋外よりも統計的に屋内の方が凶悪ヴィランの出現率が高い。その屋内では監禁、軟禁、裏商売などの悪事が行われているというらしい。
この超常社会において人身売買などの裏商売はあるらしい。珍しい個性であればその人物は高値で売られてしまうという。嫌な話であるが、それがこの社会の闇の部分でもある。
ため息をついていると話の区切りがついたのか、クラスメイトが一斉にオールマイトに質問していた。
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ぶっ飛ばしていいんスか?」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか…?」
「このクラスは21人ですので分け方が気になります。どのような分かれ方をすればよろしいですか?」
「このマントヤバくない?」
「んんん~~聖徳太子!!」
頭をうならせて戸惑うオールマイトに、同じような経験をした私は密かに同情した。
オールマイトの話をまとめると以下の通りだ。
・制限時間は15分。
・基本的に二対二で行うチーム戦をする。
・チームは「ヒーローチーム」と「ヴィランチーム」に分かれる。
・それぞれ持ち物として、チームメイトと連絡がとれる小型無線、建物の見取り図、捕縛道具の確保テープが支給される。
・建物内には今回の訓練で重要なハリボテの「核兵器」が置かれている。
・ヴィランチームは建物内で待機、ヒーローチームは外からスタートする。なおヒーローチームには核兵器の場所は知らされない。
勝利条件はチームによって異なる。
・ヒーローチーム→「核兵器をタッチして回収」もしくは「ヴィランチームを捕縛」
・ヴィランチーム→「核兵器を制限時間まで守り抜く」もしくは「ヒーローチームを捕縛」
わかりやすく言えば「立て篭もりをするヴィランと潜入することになったヒーローのシミュレーション」を想定した訓練だ。
設定がアメリカンで、オールマイトがそういったものが好きなのがよくわかった。念のため後でノートに書いておこう。ちなみにチーム分けのついてはくじ引きで決めることになった。
「クラスが21人だからどこか一チーム、三人にするよ! ハンデかもしれないけど、こういった対人戦闘訓練ではいい勉強になるからね」
初めのくじで三人チームをどこにするか決め、そこから次々と出席番号の書かれたボールが引かれてチームが形成されていく。全員分が引き終わるとそれぞれチームごとに集まった。
私は、3人チームのHだった。くじ引きの結果水中メガネのようなゴーグルを額にかけ、黄緑色のアンダースーツを着込んだ梅雨ちゃんと、真黒なマントに身を包んだカラスのような顔をした小柄な男子がチームメイトとなる。
「あら忍ちゃん。同じチームね、よろしく」
「よろしくお願いします。梅雨ちゃんと…あなたは……」
「
「はい。よろしくお願いします」
会釈をして挨拶すると、今度は黒と白に分かれた対戦カードを決めるくじが引かれる。
「最初の対戦相手はこいつらだ!」
ヒーローチーム
Aチーム、緑谷くんと麗日さんペア
ヴィランチーム
Dチーム、爆豪くんと飯田くんペア
最初の対戦が決まった。どうやら運命の神様は、この二人の対決を見たいらしい。
…これは、最初から大注目の試合になりそうだ。
私はゴクリと息を呑んだ。
・
・
爆豪勝己は苛立っていた。
緑谷チームに奇襲を仕掛けたが、動きを読まれて躱され、背負い投げをされて緑谷相手に背中を強打した。追い込もうと立ち上がり、再び攻撃を仕掛けると確保テープを利用した戦法をされ、またもや躱された。その上で緑谷と同じチームの女子と緑谷は分かれて逃げたのである。
彼は生れながら天才で、幼い頃から同級生の子どもよりも賢く、運動神経もよく、とにかくなんでも出来る才能があった。
なんでも1番になれる自分が特別で、どんな相手であろうが必ず勝利する…より優れた強者なのだと自覚したのは個性を発現した齢4歳の頃だと記憶している。
そして爆豪にとって緑谷は大事な指標でもあった。緑谷は自分の後ろに必ずいる弱き者であり、自分がいなきゃ何もできないザコで出来損ないの無個性である。
つまり、1番の落ちこぼれで弱者であり、道端の石ころ同然の人間であった。
彼よりも優位でなければ、自分は優れた人間ではない。弱者なくせに自分を助けようとしたあの橋の出来事で、よりその思いが強くなった。
それなのに、緑谷は自分が知らないところで個性が発現していた。しかも自分に劣らないほどの派手で強力な個性。アレを見たときから爆豪のなかにある強者の定義が崩れ去り、堪忍袋がブチ切れていた。
「なんで使わねぇ…舐めてんのか? デク…」
その緑谷と対戦することとなり、この戦闘訓練で自分が上なのだと証明できる場と思っていた。しかし、肝心の緑谷から個性を使う意思を感じられない。個性を使わないでここまで自分と戦闘行っているのである。
ここまでの立ち回りで個性を使用しなくても勝てる自信があるからなのかという、疑惑すら思い浮かんだ。あんな個性を隠し持ち、自分を騙しておいていい身分だと思えてきた。
彼には全力でぶつかってきてほしかった。あの個性を制して、自分の方がはるか上なのだと証明するために、彼には本気を出してもらわなくては困るのだ。
いつからだろうか、彼が自分にここまで反抗するようなったのは。
一体いつから、彼が石コロのくせに自信をつけたのだろうか。
『彼には…個性がありますよ』
ふと、緑谷といつもつるんでいる少女の言葉を思い出した。少女の名前は狩野忍、大抵のものを盗めるヴィラン向きの個性を持つ少女だ。その彼女は体力テスト時にはっきりと緑谷が個性があることを言及していた。
どうして無個性なはずの緑谷とつるんでいたのか、ずっと彼女に疑問を抱いていた。だが、事前に彼女が緑谷の個性を知っていたならば説明はつく。彼女は自身の個性であるCopyを行うために緑谷に近づいた。おそらく彼女はすでに緑谷の個性をCopyしてあるのだ。
そう考えると妙に爆豪はすっきりとした。
思えば、彼女の存在は本当に気に食わなかった。
『なら、いつか私がピンチになったら助けてください』
あの事件のあとには訳のわからない約束を取り付けてきて――
『掴まって!』
あのときの緑谷と同じように、自分に手を差し伸べてきた――
『ざまあみろ。クソガキ』
―― 初めて自分に、明確な敗北を味合わせた…気に食わない存在。
脳裏に初対面で彼女に言われた侮辱的な言葉と、蔑んだ瞳が鮮明に再生される。あのとき受けた屈辱は生涯忘れることはないだろう。どんな形であれ、あのとき自分は負けてしまったのだ。
そこまで考えて、爆豪はある推測が思い浮かんだ。
そうだ。
彼女と出会ってから緑谷は変わっていった。
あの二人が自分に緑谷の個性を話さなかったのは手を組んで自分を謀るためだった。そうでなければ、わざわざ体力テストであんなことを言うはずも、入試一位であることも隠す必要もない。
すべては、心の中で蔑視して自分を嘲笑うために。
途端に胸糞悪い負の感情が沸き上がる。それをこらえるように歯ぎしりしながら曲がり角を曲がると、緑谷の背中が見えた。
籠手が赤く光り、鈍い音が発生する。これはノーリスクで最大火力の爆破できる合図だ。要望通りの設計ならば、これのトリガーを引き抜けば爆発的な威力を生み出して相手に攻撃できる仕組みとなっている。
その音に気付いた緑谷は構えをとりながら振り向いてきた。その顔つきは今まで見てきた自分に逆らわず、オドオドとしたものではない。怯えているものの、真っすぐな目で自分と対峙していた。爆豪は唇をかみ、尋ねた。
「てめぇ、クソ泥とグルになって俺を騙してたんだろ?」
その問いかけに、不意打ちだったのか緑谷は口を開けてしばらく黙っていた。
「なに、言ってんだよ? 今、狩野さんは関係ないだろ…なんで狩野さんが出てくるんだよ?」
「しらばっくれんな!!」
緑谷は震える声で疑問を投げかける。冷静さを欠き始めた爆豪にはその様子が、しらを切る演技にしか見えなくなっていた。
「てめぇが無個性じゃないこと、あいつは知ってたんだろ!? てめぇがあんな派手な個性を持ってて、アレを使って入試も合格したことも知ってたんだ! だからあいつはてめぇなんかとダチになった!」
「……は?」
「なぁ、教えてくれよ…あいつは、俺をどんな目で見下していた? あいつは裏でどんな風に俺を」
「違う!!」
「なにが違うんだ!? ああ!?」
爆豪が言いかけてところで緑谷は首を横に振って否定した。ますます爆豪は激昂する。
一方、緑谷は幼馴染の言葉を聞き、腹が立っていた。
彼女と仲良くなったのは個性の有無ではなかった。お互いの趣味から発展した友情だ。無個性の自分に親切にしてくれた大切な友達を中傷されて我慢がならなかったのだ。
「狩野さんは君のこと、決して見下してなんかいない!!」
否定すると脳内にある映像が瞬時に再生された。
そのときフラッシュバックしたのは、受験期のときに帰り道で彼女に爆豪のことを聞いたときであった。
『かっちゃんのこと、どう思ってる?』
『爆豪くんのこと?』
『うん。実際、どう思ってるのか気になって…』
『んー………友達であって、ライバルであり、超えるべき壁かな』
『意外だ…』
彼女は目を丸くして視線を空に向け、唇を尖らせてしばらく思案した後に口を開いた。あっさりとした答えに緑谷は意外性を感じた。友達は彼女の様子からして予測できていたが、ライバルと思っていたとは予想できなかったのである。
『確かに、緑谷くんからすれば下着盗んで追い掛け回されたクソ泥が、才能マンの幼馴染をライバル認定するのはおかしいと思うかもしれないけどね…』
独特の言い回しをした彼女は、急に視線を地面に落として小さくつぶやいた。
『きっと彼は立派なヒーローになると思うから…』
辛うじて聞き取れたその言葉の真意はいまだに分からない。ただ、そのときの彼女は悲しみと愛しみが混じりあったような歪んだ顔をしていた。緑谷は鮮明に脳裏に焼き付けられてしまったのだ。
だから、不意に彼女がこちらと目を合わせたときはドキリと心臓が跳ねた。
『それに…あんなにすごい人、近くにいて燃えないわけないでしょ』
そういった彼女は、先ほどとは打って変わって、とても楽しそうな笑みを浮かべていた。
その笑顔を思い出し、緑谷の感情が激しく高揚した。
「僕の友達をこれ以上馬鹿にしてみろ! いくら君でも許さないぞ!!」
激情のあまり、涙がこぼれてきた。
オールマイトや友達に背中を押されて、最高のヒーローになるためにこの雄英にきた。
ヒーローになりたいから、ここに自分はいるのだ。
だが、その思いとは別に、今は…ずっと憧れていた幼馴染を勝って超えたい。
相手を見据えて拳を構える。爆豪は目を血走らせながら、冷たい視線で緑谷を見た。
「そうかよ…! だったら、倒してみろや!」
緑谷の後ろにある壁を標的にして籠手を構えた。トリガーに指をかけると小型無線からオールマイトの注意が聞こえた。爆豪は「当たらなきゃ死なない」と言い返し、トリガーを引き抜く。
その直後、轟音とともに一直線に爆発が走る。爆発の威力でコンクリートの床や壁が削られていき、その軌道の近くにいた緑谷は風圧で体が飛ばされる。そして、その爆発が的に絞った壁に到達すると窓が割れ、コンクリートが吹き飛ぶ。その衝撃でその一帯が上下に振動し、黒煙が立ちこんだ。
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別室のモニタールームでは現在戦闘訓練を行っている4名の除いた1-Aとオールマイトが、彼らの様子を見ていた。緑谷と爆豪の戦闘は激しく、こちらの部屋まで地鳴りが響く。
1-Aのほとんどは狼狽えていたが、オールマイトの隣にいた少女は冷静に彼らをモニター越しに見つめて妖しく口元が釣り上げていた。
「狩野少女…笑っているのか?」
果たして、その気味の悪い笑いは笑顔と呼べばいいのかオールマイトは戸惑った。彼女へ視線を向けると、目があう。そのとき、わずかにオールマイトは背筋が凍ってしまった。
「すいません。こんなときに笑うのはおかしいと思います…けど」
それはいつかのヘドロ事件後で見た真っすぐとした目とは異質で、どこか遠くの幻想を見ているような、空虚な目をしていた。
「思った以上に強敵になりそうで、笑っちゃいました」
彼女はそのまま、不気味に口角を釣り上げた。
出会いについて
詳細はいつか書きます。客観的に見て、主人公が酷いし、ゲスにしか見えない…(苦笑)
おまけ
主人公が爆豪くんに会う前に苛立った出来事と、やり取り。
忍「…お父さん。なんでノートにお茶がこぼれているのかな? 文字が滲んで読めないんですけど」
父「徹夜してた忍のために、お茶を出そうとして……て、手が滑りまして…」
忍「へぇ…手が滑ったんだ。へぇーそうなんだー…手が滑ったせいで半分くらいのページが水浸しになって読めなくなったんだけどねー」
父「すんませんでした! 怒るのもわかるけど刃化はやめて!! 冗談抜きでそれ死ぬから!!」
忍「一生懸命書いたのに…眠い中徹夜で頑張ったのに……3か月分、まとめて書いてあったノートなのに……なんで一瞬で努力を水の泡にするのよ…」
父「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! けど冷静になって忍! そのまま全力で振り下ろしたら俺や家どころかこのあたり一帯が真っ二つになる!!」
→頑張った3か月分の仕事がパアになったためイライラしていた。ちなみにデータは黒霧さんが小まめにパソコンやコピーをとって保存したため無事です。黒霧さん優秀!
余談…恋愛描写について
感想・活動報告などでたくさんの意見を下さり、ありがとうございます。現在、一つひとつの意見を参考に色々とプロットの調整を行なっています。最終的な方針はUSJ編が終了したときに活動報告にて発表します。それまでは今までと同じような感じで物語が進行しますのでご了承ください。
次回は主人公と梅雨ちゃん、常闇くんの対人戦闘訓練です。黒影含めたら実質4人チームでズルい気がしますが、梅雨ちゃんと常闇くんと絡ませたかったからこうなりました。はっきりいって俺得です!
対戦相手はどこのチームでしょうね…お楽しみに!