賢者な英霊(仮)はとにかくヤりたい(真顔) 作:おき太さんかわゆい
前回の後書きで次回の更新は恐らくって保険をかけておいて良かった…………言い訳でしかないね。結局間に合わず本当に申し訳ない!
そして今回も大して汚くないんだ、すまぬ
要は前回と今回は前座、本番は次回
──挫折童貞。
それは『挫折する童貞』という意味ではなく『挫折経験がない』ことを意味する。
…………いや、賢者自身童貞なので『挫折する童貞』も意味としても間違ってはいないのだが。それはさておき。
賢者は、
故に挫折経験を、
こうして性的挫折における経験値
まあ、つまるところメイヴとの対峙は賢者にとって初めての挫折となり、史上稀に見るレベルで賢者は絶望していた。
図らずもメイヴに初めてを捧げる形となったのである。
無論『挫折』の初めてであって、肉体面の童貞を捧げた訳ではない。……もう捧げて成仏すれば良いんじゃないかな? とか不用意なことを言ってはいけない。
ここで賢者が脱落すれば、賢者のせいで難易度がハードモードに変わってしまった人理修復の旅路は、この特異点でゲームオーバーを迎えてしまうだろう。
やらかした責任は取らせないといけないのだ。ボロ雑巾のようにしてでも。
さて、そんな件の賢者はというと。
こんな危機的状況ですらエロいことを考えてしまう己自身に嫌気が差す程絶望していた。
よく知らない者が聞けば「は?」の一言だろう。
しかし、いつもいつも真面目な戦闘時であろうと、雑念だらけかつ主にエロいことを思考し毎度見イキするのが常識な
はっきり言って異常以外のなにものでもない。
状況はそれ程までに切迫していたのだ。
女王メイヴが保有する宝具の一つ。
メイヴが男妾たちに支配権を分け与えるために、自らの経血を混ぜた蜂蜜酒を与えたという伝承に基づく宝具だ。
その効果は魅了の伝説を持つ黄金の酒の奔流をもたらし、彼女が「どうぞ」と微笑めば敵対していても男はその酒を浴びてしまい、一口でも飲めば虜になってしまう──対男性用洗脳宝具だと、二次元シミュレーションで演算した結果判明した。
賢者にスキルを行使し分析する余裕があったのか? と、問うのならば答えはいたって簡単だ。
賢者は意図せずメイヴで連続見イキをしてるおかげで、秒刻みで賢者モードになっているのだ。
そのため魅了の効果を受ける→見イキ→賢者モード→魅了解除→魅了を受けるの無限ループに陥っており、それによって生じた停滞的状況が、二次元シミュレーションを行使する好機をもたらした。
しかし賢者モード時の冷静な思考状態を利用して何とか演算するに至ったものの、逆に絶望感が増しただけだったのは皮肉なものだ。
何せ少しずつ少しずつ賢者の体は迸る黄金の液体に向けて動いているのだから。
このまま状況が好転しないのなら、時間はかかるがどちらにしろ酒を浴びかねない。
自軍が来るまで時間稼ぎをするにしても、今のメイヴは賢者の必死の抵抗をいたぶることにご執心だからこそ、均衡をかろうじて保っているだけなのだ。
もしも本気を出されれば、彼女から近付いてあの酒を目の前に垂らされるだろう。
その場合、酒の香りを真正面から嗅がされて正気を保てる可能性はかなり低いと言わざるを得ない。
万が一意識はハッキリしていても、体が勝手に酒を浴びて呑まない保障など何処にもないのだから。
問題はそれだけではない。
賢者は生み出した
だが女王メイヴは南軍だけとはいえ数千体にも及ぶ
その上、さらに賢者は裏目に出る行動に出た。
体内で遺伝情報を複製し兵士を生み出す力を有する彼女に、よりにもよって
それが原因で生まれたのは、何故か怪物だった。
遺伝情報を複製しているにもかかわらず、人に近しい部分が二足歩行なだけな『魔物』と言って差し支えのない存在。
賢者の遺伝子から白濁色に全身を発光させる未知数の獣が生まれてしまったのである。
そんな戦闘能力不明の『魔物』が一体と、
まさしく戦争をするにあたって、最悪の滑り出しと言っても過言ではないだろう。
敗北の兆しが濃厚だった。
普段なら十八番の白濁光に変換して主攻撃手段として用いるとこだが、『ビッチ』が相手では完全に悪手。
いつもは頼れる白濁の力も、今回ばかりは白濁ジェットによる高速移動くらいしか使い道がない。
ならばと憂鬱の力で反撃に出たかったものの、メイヴが近くにいるせいで萎えることすらできない。
股間はこんな危機的状況かつ内心では焦りを募らせているにもかかわらず、平常運転の如く勃ちっぱなし。
体は正直とはよく言うが、今回ばかりは自重して欲しかったのが賢者の本音だった。
そう。
目の前に極上の女体があれば時間も場所も問わず、見イキを連続で敢行するであろう
それ程までにビッチのサーヴァント女王メイヴとの対峙は、彼が真面目に萎えたいと思う程の緊急事態だった。
「ほら遠慮しないで『どうぞ』」
「ぐっ……ふぅ。ッ! ……ふぅ」
「思いの外粘るわね。粘りけを出す男は好きだけど、往生際悪く粘る男は微妙だわ。だから早くくたばって♡」
「ハッ……! 眩い笑顔で、言うことじゃ、ないな。……うっ、ふぅ」
「ふふ、強がっちゃって」
秘蔵の封印による余裕綽々な不敵な笑みも、極限状況によって勝手に流れ出る冷や汗を拭えなければ何の意味もなさない。
賢者は歯噛みした。
自分がかなり危機的状況にあることを、目の前の『ビッチ』にはほぼ間違いなく悟られているだろう。
それでも歯を食い縛り、精一杯虚勢を張る。
ローブの内側のズボンも常にテントを張る。
最低限の体裁を保ちつつ、意識の半分をこの戦況をひっくり返す為の策を練る思考へと割く。
回らない頭ながらも、賢者は現状可能な思考容量を最大限利用し逆転のタイミングを見計らった。
酒を浴びる直前で、
酒を超高温な火力を以て気化させ、爆発するような勢いで蒸気が上がった瞬間を狙い、メイヴの淫靡なる色香漂う体目掛けて正面から突っ込んだ。
そして接触。即座にフルバースト。
それはまさしく性欲を消し飛ばすトリガー。
約一時間限定の体質無視状態への移行。
即ち大賢者モードへの変身を果たす。
このモード特有の瞬間移動をもって、賢者はメイヴの
「んなっ! 私の許可なくおさわりとかNGなのよ。しかもお酒まで台無しにするなんて、躾が必要なようね!」
カウンターとして鋭い鞭が飛んでくるが、返す刀で振るわれた鞭状にしなる性剣がメイヴの鞭をからめとる。
「すまないなレディ。だが跪くのはもうやめだ」
賢者の雰囲気が一変したことを、メイヴは肌で感じた。乳首や栗でも感じた。
このモード時であれば女性と接触しても一切問題がないのだから、『ビッチ』であっても太刀打ちできる。
とはいえ、賢者が保有するほとんどの宝具は『ビッチ』が相手の場合、使用するにはリスクが大きいものばかりだ。
しかし、充分勝機はある。
正常な思考で二次元シミュレーションを使えば、女性の思考を読み取り攻撃の先読みが可能だし、女性に触れても問題ない肉体でなら、たとえ彼にとって『天敵のサーヴァント』であろうと、肉弾戦で完封できなくも無いはずだ。
実際、
アワビと子宮も感じていた。
このまままともに激突すれば、勝てない可能性が高いことも理解していた。
超越童貞と
「
「……ちっ! 邪魔を」
ただしそれは、一対一の状況で、ならの話だ。
大賢者特有の瞬間移動──厳密には大賢者モード時のみに解放される宝具の副次的能力な為、ただの瞬間移動ではない──を用いて何とか魔槍を回避し事なきを得るが、状況は未だ好転しない。
天敵の『ビッチ』に加え、「王になる」ことにのみ固執した無感動な戦闘機械──言わば、不感症に近い狂王。賢者と相性的によろしくない二人が敵のツートップ。
大賢者モードで漸く対等なラインに立てる相手。
だがそれならそれでやりようはあったはずだった。
大賢者モードな賢者一人で敵のボス二人と拮抗できるのだから、後はマスター側についた仲間のサーヴァント達と賢者が協力すれば倒すくらい訳はなかっただろう。
そんな勝ち筋を台無しにしたのは他ならぬ賢者自身。
独断専行した挙げ句、相手の戦力を大幅に底上げしてしまうという痛恨のミス。
元々ケルト兵だけじゃなく、ワイバーンやキメラなどの怪物をも生み出し軍に加えていたケルト側に、
そんな大軍勢が現在進行形で進軍を続けている。
とてもじゃないがマスター側のサーヴァント達が、この場に駆け付けてくれることを期待するのは酷な話だろう。
となればやはり、狂王と女王は賢者が一人で相手する他無いのだ。
問題なのは二人を相手取る『だけ』なら拮抗できるはずだとしても、当然ながら王の周りにも兵はいる。
油断すれば足許を救われる恐れはあるが、警戒さえしていればケルトの兵士程度はどうとでもなる。
一番の問題。それは。
「ꇣ芤듦Ꞙ臣肀돣芤蓦꺺韣膟解膔鋧뺎ꯨ뢏鏣膧诣膕蓯벁胨芡鏣芒臣肀諣莋鋯벁胣膝鏣膧苣膣ꛥ낄뻧꺡蛣膗ꛤ뢋闣膄臣肀ꫣ莊럣莣맯벁」
「くっ! ナニを言ってるのかはわからないが、ナニを言いたいのかは何となくわかってしまう。……元が同じだからか。邪魔だ失せろ!」
賢者の遺伝子から生まれし『魔物』が率先して襲いかかって来ることだ。
「蛣莡膌뇣膛路벁胣莡ꓣ莴飣膫迣芓节解膈ꫣ膏ꫣ芋ꃣ芍臯벟胣膂껥뺡ꇨ뚳ꯨ芡鏣膠釣膘菣膪迩ꆔ苨뢏鏣膧닣膗蓣芓ꃯ벁胨뢏뻣芌ꫣ膌觨뚳迣膮귣膄鋣芯돣芫꿣莳ꯣ膗ꓣ膤臨뚳껦貇鋣莚귣莚귣膗鿣膄鏣膠苣膠诣芉闣膣闣膨믣膭臯벁」
「外見も醜いが、声すら不快だ……反吐が出る」
言語なのか意味ある言葉なのかすらわからない、耳障りな声を発するその様は酷く不気味だった。
「苣膁ꛢ肦ꇣ芤듦Ꞙ껨芡郣芉ꯩꆔ鋥龋臣膟蓣肂ꓣ膾諤뮰釣膑ꯥ꾝ꛣ膄诤뾺껩ꆔ껤뢊ꢎ韣膗ꛦ겲韣膄臣肀铩ꢎꃣ芈铩ꢎ」
(なっ!? コイツ俺の武技・『
だがそれを気にしていられない程の機敏さ。
「뾫鿣芄鋦膯鿣膨꣣节ꯣ膊믣膮鿨Ꞧ鋥궘蛣膫鿣膘ꫣ膌解肁믣膧鏨螭鋥邸蓣膤ꓣ芰ꫣ芰ꫣ膨믥薈鋣莑돣莆ꏨ뚊韣膫볣膗飣膑ꛣ肁ꇣ芤듦Ꞙ껦肧꣣芒鳣膰鯣芋껣膕」
「ちぃっ……!」
(なんだこの馬鹿力は! まるで俺が初めて射精した時と同じくらいの衝撃だと!?)
賢者の内心の喩えは理解不能だが、ベオウルフに殴られたのと同等な勢いで吹き飛ばされていた。
即ちそれ程の威力。
「ꇣ芌ꛦ鶥鿣芉賣膧ꇣ芤돣莇ꏣ莃럣莥껣芪黣莳돣芒郣芁郣芁韣膦돣芏蓣肁ꋣ芌诨鲜鋣芺뫣莼菣膨駣膙诣肂鷣芓ꫨ螳迣膮苩隓賣膓껥뺌藣膣ꛣ芓ꃯ벁胣膝鏣膪돣膧돥袻迣膟냣芊蓣膌賦鞩迩螎軯벁」
「ぐあっ……!?」
(ふ、ざけんな……白濁光まで使いこなすのか!)
白濁光を全身に纏うその姿は、賢者と瓜二つ。
賢者の遺伝子を基に生まれた存在なだけはある。
「まだまだ倒れない。なかなかに厄介ね。畳み掛けましょうクーちゃん」
「言われずとも殺すさ。迅速にな」
大賢者モードの賢者VS狂王クー・フーリン・オルタ&女王『ビッチ』のメイヴ&『魔物』&ケルト兵etc.。
賢者にとって圧倒的不利な戦況のまま、開戦!
それから激闘が勃発し約一時間が経過した。
奮戦虚しく、結局戦況的には膠着状態が継続し、賢者の大賢者モードの時間切れがまもなく訪れようとしていた。
「随分粘ったみたいだけど、ここまでみたいね?」
「フン……手こずらせやがって」
「ꇣ芤듦Ꞙ臣肀铨꒒軣膫뗣膣ꛯ벁胣膝韣膦뫣膮臣莳臣莳鋩麭辩蓣膦臣肀鷣膄ꏣ膍諯벁胣莏ꇣ莏ꇢ肦ꛨ袈껣膗ꛣ膍鿣膜苤뢊诣芉苤뢋诣芉苣莨胣莬賦궢뻣芉ꫣ膄鏣膠諯벁」
大賢者モードが解けるのも時間の問題だ。
そうなればもう肉弾戦はできないし、瞬間移動も使えない。仮に白濁光が使えたとしても『ビッチ』の強化を促進するだけに過ぎない。
「クソッタレが……」
デンバーから意気揚々と独りで飛び出したくせに、今は哀れにも地に跪いている。
独りでどうにか立て直そうとしたのが、そもそもの間違いだったのだ。
無理が祟るとはまさにこのこと。
(やっぱりダメ、なのか……? 最初の選択肢を誤った時点で詰んでたってオチってか?)
もう抗っても無駄なら、異空間に引きこもれば良かったんじゃないか? ここで無様にテクノブレイクを果たして、不能になる未来を選ぶくらいなら、カルデアを見捨てるのもありだったんじゃないのか? 所詮、『童貞を捨てる』ことこそが悲願。今回選別した卒業候補は諦めるのが最善手なんじゃないのか?
そんな思考がこの一瞬で次々と渦巻く。
だが。
『『賢者さん!』』
二人の少女が笑顔で呼ぶ姿が無意識に頭を過った。
どちらにしろもはや後の祭り。
満身創痍な有り様では『ビッチ』がこの場にいる限り満足に逃走もできはしない。
もう万に一つも勝ち目はない。
それなのに。
「終わりだ」
魔槍を突き付けられながら賢者は。
ここで全てを投げ出して終わって良いのか……? と、そんな思考に囚われていた。
己の命脈を終わらせかねない呪いの槍の穂先が向けられている状況下にもかかわらず、この期に及んで未練がましくそんな思考に陥っていることに、賢者は愕然とする。
(俺……いつの間にか立香とマシュのことを、ただの卒業候補って認識じゃなくなってたのか……?)
彼は今更自覚して自嘲気味な笑みを溢す。
あの二人に出会えた。
だからここで終わっても、無駄なんかじゃない。
カルデアに呼ばれたこと自体が奇跡なのだ。
その上で彼女達に会えたことを、無駄だなんて思わない。いや思えなかった。
ずっと独りだった彼にとってカルデアは──
──…………そっか。はは。はははは。
「……この状況で笑ってやがる。気でも触れたか? せめてもの手向けだ。今直ぐ楽にしてやる」
これで良かったのかもしれない。
願いはどうせそう簡単には叶わない。
ならばこういう幕引きも案外悪くない。
最期に一筋、希望を認識できた。
それだけで救いはあったのだ。
そう本気で思っていたのに。
「ハァァァああああああああああッ!!」
ハッとして賢者は顔を思わず上げる。
聞き覚えしかない声。
でも、こんな声が枯れる程の叫び声を果たして彼女は出すのか? それに何故上空から聴こえてくる? これは幻聴じゃないのか?
頭の中で同じ内容の自問自答をひたすら繰り返す。まるで壊れたレコードのように。
賢者の聴覚は女性の声を聞き逃しはしない。
況してや声を発した相手を間違えるはずもない。
それでも彼は信じられなかった。
だがこれが現実だと知らしめるように。
もう
「マシュ!! 落下しながら体勢変えられる? 私の体の正面が真下に向くようにできない!?」
「任せて下さいマスター! やってみせます! だからマスター! しっかりわたしに掴まっていて下さいね!」
「うん! お願い!」
何が、どうして、何故、どうやって、なんで。
訳がわからなかった。
賢者の脳内はスパーク寸前だった。
「クーちゃん? 何か声がしない?」
「ア? ……確かに聞こえるな。どこから──」
突如真上から『フィンの一撃』が狂王に炸裂する。
「──は?」
振り下ろされようとしていた魔槍の穂先は賢者に刺さる寸前で停止した。
賢者が真上に目を向ければ、黒い鎧に身を包む少女にお姫様抱っこされたオレンジ色のボディスーツに身を包む少女が、人差し指をクー・フーリン・オルタに向けた状態で落下してきていた。
即ち北欧に伝わる魔術『ガンド』による麻痺。
「賢者さァァァあああああああああああああああああん! その場から離れてくださァァああああい!!」
「はぁ!? ちょっ嘘でしょ!?」
「꿯불ꛢ肦볧蒡跣芨돣芸莫賤몌뫣节铩馍꣢肦ꛣ芲難莃臯벟」
「チッ、世話が焼ける野郎だ……!」
「…………マジか」
メイヴは冗談でしょ!? と言わんばかりのリアクションを取りながらも、被害圏内から脱する。
クー・フーリン・オルタも一瞬硬直したものの、無理矢理呪術的麻痺を破り、呆然と立ち尽くしていた『魔物』を強引に槍で範囲外へ吹き飛ばし自分もいったん退く。
賢者は
ワンテンポ遅れて彼女達が地上に着弾した。
砂埃が盛大に舞う中、爆心地のような状態になった場所から二人の少女が飛び出してくる。
そして。
未だ地に膝を着く賢者を、まるで庇うように並び立った。
彼に背を向けたまま二人は────藤丸立香とマシュ・キリエライトは言った。
「何があったのかは正直わかりません。静止も聞かずに独りで飛び出した挙げ句、こんなことになってるなんて後でお説教ですからね賢者さん」
「なんでそんなにボロボロなのかとか、賢者さんが生み出したはずの戦力がなんで敵に回ってるのかも全然わかんない。私もマシュの説教と一緒に、文句の一つは言わせてもらうから覚悟してよ?」
言葉の端々から怒気を感じる。
しかしそれ以上に。
「ですが」
「けどね」
解きほぐすような何かを感じられた。
「賢者さんはいつだってわたしのことも、先輩のことも守ってくれました。わたしの分まで戦ってくれました。本来ならわたしがやらなきゃいけないことも、あなたに任せっきりでした。わたしはあなたに甘えていたんです」
「今まで賢者さんに頼りきりだった。あなたは強いからどんなことがあったって大丈夫だって。なんだってどうにかなるんだって、身勝手な理想と過度な期待を無意識に押し付けてたんだ」
それは己が犯した罪の吐露。
「「だから」」
つまりここからは贖罪のための決意表明。
「今度はわたしたちが賢者さんを助けます!」
「今度は私達が賢者さんを助ける番だよ!」
二人の少女が一歩前に足を踏み出す。
それが自分達だけで敵と対峙するという、覚悟の現れであるかの如く。
二人が助けに来てくれた。
けれど、敵の数が多過ぎた。
完全に防戦一方に追い込まれてしまう。
令呪により霊基修復を受けて賢者も復活はした。
しかし、フルバーストしたことと、大賢者モードが解けた事実は覆らず、使える攻撃手段は限られたままだったのだ。
とはいえ、相手に『ビッチ』がいる以上使えたとしても封じられているようなものなのだが。
つまりどちらにしろジリ貧だった。
何をするでもなく問答無用で即敗北が、じわじわ追い詰められた後に敗北になったに過ぎない。
「
「マシュ、令呪でブーストをかけるからもう少し持ちこたえて!」
「任せてくださいマスター!」
それでも、ケルト兵やモンスター以外では迂闊に戦えない賢者というクソの役にも立たないお荷物を庇いながらも、サーヴァント2騎に『魔物』、
これで賢者は独りで逃げる訳にも、ここで終わりを迎える訳にもいかなくなった。
だから。
(考えろ、考えろ考えろ! 考えろ考えろっ!! マスターとマシュを連れてこの場から離脱するための手段を!)
いつも通り煩悩まみれのピンク一色な脳内。
そこにドでかい風穴を開けるが如く思考を巡らせる。
状況を打破する一手を構築するために。
彼は抗った。ある意味約500年間の中で初めて本気で性欲に抗ったのだ。
大賢者モードのような性欲が死んだ状態ではない、未だ溢れ返る性欲による性的思考を、意志力で抑え込んだ。
それは賢者と繋がりし童貞達からすれば衝撃的な事態に他ならなかった。
失礼なことに、人理焼却よりも危機感を覚えられる程にそれはありえないことだったのだ。
これも今までの彼が性欲に忠実過ぎた弊害か。
そして、遂に賢者は閃く。
第五特異点に出向くより少し前。
厳密に言えば監獄塔に脱魂するよりも前。
深夜に彼は何をしていた?
それは、いつもの賢者にしては純粋に汚い手では無く、言うなれば意地汚い戦法。
だがその選択はここに来て漸くケルトのツートップに対して、今の賢者が可能とする数少ない正解を引き当てたのだ。
たとえそれが決定打にはならずとも、時間稼ぎとしては最適解に他ならない。
つい先程まで図らずも敵軍の戦力増強を行っていたことや自分の身を守るだけで精一杯だったことを考えれば、随分な進歩である。
それでも一度強化してしまった敵を、どうにかできる策では当然なく、あくまでも時間稼ぎでしかない。
戦局は未だマスター陣営にとって限りなく不利だ。
しかしそれは。
意地汚い戦法による多少の時間稼ぎと、大賢者モードが解除されたことによって思考が元に戻り「結局この手も無意味なのか?」とさらに燻る絶望感。
その2つが重なることで、奇しくも勝手に躯の意識が表面化するという、この場の誰にも予想できなかったことが起きることを、この時この場において誰も知らなかった。
────躰に起こされた
――――――――――――――――――――
でっかい赤ちゃんと書いて、粗大ゴミと読む。
昨日、お腹を盛大に痛めながら強制的に産まされた、吾が本体こと賢者にぴったりの呼び方じゃないかなこれ。
……一応この器もとい体は賢者がベースになってるから、もちろん男なんだが。何故男の体で腹から出産するはめになってるんですかねぇ……。そもそも賢者が本体、つまり親のポジションで吾は子ってことになるのに、子の吾から親が産まれてくるって何さ? 『鶏が先か、卵が先か』って話になってるのか? あながち吾と賢者の関係的に間違ってないような気もするのがなんか癪だぜ。
つーか状況を改めて説明すると『子供(男)の腹に自分を強制的に妊娠させた挙げ句、子供(男)の同意無しで自ら子供(男)の腹を突き破り中から出てくる親(本体)』ってことになるよな……。
なにそれこわい。
ホラー要素強過ぎんよ。
しかも子供(男)は見るも無惨に腹を掻っ捌れて死んでるしな。無論、吾のことだが。
理不尽が過ぎて滅入るわー……鬱病発症するわー。
と、ここまでテンプレなネガティブルーチン。
意識が覚醒したら、最初に行うのはいつだってマイナス思考。
それこそが隠者たる吾にとっての『いつも』。
普段であれば明確に意識が確立するのは、吾が本体に隠者として現界された場合に限るが、今回はちょっと状況が違うようだ。
何せ賢者の肉体に留まったまま目覚めてるからな。
つまり切羽詰まった緊急事態に他ならない。
[緊急措置のため管理者の肉体にて端末意識を起動][即座に端末として分離し管理者の安全確保を優先せよ]
お断り……と、いきたいとこだがそうもいかんか。
別に今の吾に強制力はないけど、ここで万が一賢者以外が管理者になれば、吾の自由はたちまち奪われ意識は無視される生活に逆戻りだろう。
先代の管理者には文句も無ければ恨みもない。
だが、だからといって元の状況に戻りたいかと問われれば、戻りたいとは到底思えない。
当然、自由を謳歌したい。
……そんな訳で拒否れない。
となると吾が体張るはめになるのは明白。
うわぁ……滅入るわー。
「蠢動せよ──死棘の魔槍」
そんな思考の最中、今の今まで意地汚い戦法とやらで、足止めしつつ逃走していた吾が本体がついに弾切れを起こし、二人の嬢ちゃんと吾が本体は未曾有の大ピンチ!
その弾切れを見逃すようなたまじゃない狂王が、中距離から投槍してきやがったんだ。
命を刈り取る朱槍が三人に迫る。
吾の出番到来か? と思われた瞬間、そんな状況下で颯爽と登場し、槍を防いだのは胡散臭い兄ちゃんだった。
……ってコイツ知ってるぞ?
「おはよう。そしてこんにちは、諸君。みんなの頼れる相談役、マーリンさんの登場だよ」
あの花園の引きこもりがわざわざ出てきて、ピンチから救ってくれるなんてやるじゃん。
これには吾が本体も感謝感激雨霰じゃない?
(俺のことはこの際助ける必要皆無だし認識できてなかっただろうが、ずっと視てたならこんなギリギリじゃなくて、さっさと立香ちゃんとマシュのことは助けろや花糞の魔術師色魔ーリンが!!)
開幕文句の嵐だったわ、ごめん。
一際強い心の声だとやっぱ吾の方に漏れ出るのね。
にしても吾が本体ながら酷い暴言だなぁ。
いくら助けるタイミングを悠長に様子見してたマーリンが屑だとしても、彼を超えるド屑な吾が本体にだけは言われたくないんじゃないかなー? ま、それでもキレてる理由に自分自身を勘定に入れてないところが、吾が本体らしいっちゃらしいが。
「……幽閉搭から視てたならもっと早く助けに来いよ、花の魔術師」
「無茶は言わないで欲しいなぁ。これでも今回の私は出血サービス…………ん?」
お? 吾が本体と目があったか?
「おや? これは驚いた! 千里眼の乱れの原因はキミか。まさかキミが彼女達に協力してるとは想定してなかったよ」
「どういう意味だそれは」
「(えっ! また賢者さんの知り合い?)」
「(スカサハさんに続いて二人目ですね先輩)」
嬢ちゃん達、コイツらに内緒話はたぶん意味無いぞ。
「だってキミ、基本的に私と一緒で自分の空間に引きこもってばかりで、たまに出てきた場合もあっちへふらふら、こっちへふらふら。他の場所に定住するなんてこと今までに無かったじゃないか」
「…………」
……事実だから何も言えんわな。
「そんなキミがねぇ……。二人を気に入ったのかな? もしかしてもう手を出してるのかい?」
「「(えっ!?)」」
「我がそんなことするか。お前と一緒にするな。色事に弱い淫魔風情が」
えぇ……? その発言は棚に上げすぎじゃない?
それ特大にブーメランだぞ吾が本体……。
「そう怒らないでくれたまえ。キミの場合幽閉搭からじゃ認識できない分、ねじまがって見えるからさ。……まあ、彼女達の様子から察しはついていたんだけどね」
「なら不和を招くような不用意なことを口にするな」
うーん、必死さが滲み出てんなぁコイツ。
相変わらず表情筋は動いてないから、ポーカーフェイス保ってるみたいだけど。
スキル・秘蔵の封印ってホント便利。中身知ってる身としちゃ詐欺だよなマジで。
「キミが同じ場所に留まる可能性なんて、気に入った女の子がいるくらいしか思い浮かばなかったんだよ私には」
「お前基準の思考でものを語るのはやめてもらおうか。相変わらず人をいじるのが大好きみたいだな」
だいたいあってるんだよなぁ……。
たぶん同類のにおいがするんだろ。
それが直接手を出してるか、間接的に精を出してるかの違いってだけで。……いや明確な違いだわこれ、ヤリチンか童貞かってことだもんね。
「キミは私のことをよくわかってるねぇ」
「……アンタは我のこと全然わかってないがな」
手は出してない以外当たってるようなもんじゃん。
(この! いくら非人間とはいえ、人間大好きを公言してるなら、人の気持ちくらいわかれ馬鹿野郎! さっきの言い方だとまるで俺がド変態みたいじゃねーか!?)
……………………………………??????
えっ? 心の中とはいえ何言ってんのコイツ。
えぇ……? まだ? 嘘? まだなのか?
まだ変態だと認めてらっしゃらない? 吾が本体ってば未だに自分が真人間だと思ってるのか?
(断じて俺はド変態ではない。百歩譲っても変態止まりであってドが頭に付く程の変態ではないはずだ。間違いない)
間違いしかないね。
……………………うーん、理性の欠片もない本能そのものとはいえ、頭大丈夫なのかなコイツ。
カルデアに来てからの思考や行動を振り返るだけでも、吾が本体がド変態なのは証明済みだと思うんだけど。
一縷の望みがあるとしたら、理性の方ならわかるけど、本能なコイツがド変態じゃない訳が無いのに自覚してないとか…………。
完全にやべぇ奴じゃん。
吾はあんまり表層に出て来ないように基本は眠ってるから知らなかったけど、本能がここまでボンクラだったのは想定外だったぜ。
うーんやっぱ理性と本能じゃ、本能の方が思考的にはアッパラパーになるのも仕方ないんだろうけどさー……。
さて、現実逃避したくなる気持ちを抑えて、と。
花の魔術師ことキングメイカーさんよ。
どうせならそのまま狂王倒しちゃってくれると……こっちとしてはありがたいし嬉しいんだが。
できれば吾が本体にとって最大の障害の『ビッチ』を潰してくれるとなお良いんだが。
そうすれば吾が出ていって酷い目に合わなくて済む……回数が減るし。いや回数が減るだけで酷い目には合うんかーい(様式美)
合うんだよ(確定事項)
……そういえばまだ本体に居座ってる状態だった。
けど、本体と繋がってる連中にまで、吾が酷い目に合うのがお約束扱いなのはどうなの?(強く生きて)
安易な同情もヤメロォ!
「……っと、もう少しでうたた寝から目覚めそうだ。申し訳ないけど私にできる手助けはこれくらいだ」
あ、やっぱり無理な感じ? 本体が来てる訳じゃなく幻術だもんね時間稼ぎが関の山よね。……滅入るわー(ドンマイ)
慰め方が雑でさらに滅入るわー……。
「もうあんまり私も持たないし、
ありゃ……気付いてたのか。吾の気配に。
そんじゃお言葉に甘えますかね。
「………………あ」
(しまった! 花糞の発言を訂正することに気を取られて、この場から離脱するのを忘れてた!? 花糞はあと少しでこの場から消えちまう。まもなくビッチにも追い付かれる。……もうダメだおしまいだ)
『あ』じゃねーよ?
本調子に戻ってくれないと無能でしかないなコイツ。
いつも以上にミス連発だし、直ぐに塞ぎ込むし……でも、まあそんなマイナス思考のおかげで、真宝具使えるくらいには魔力も貯まったから、無駄ではなかったか。
本当は出たくないけども……仕方ない。
マーリンが抑えてくれてる間にやることこなすか。
「この程度で絶望してんなよ本体。常にドン底な吾に失礼だろうが」
満を持して吾、現界。
思い返すと、監獄搭でも移動手段として腹突き破られて死んで、久々に呼び出されたかと思いきやボール状のまま蹴り飛ばされて、送られた先で頑張って戦ってたら、またもや移動手段として腹突き破られて死んで……ろくな扱いされてねぇなオイ。本当にこんな程度で絶望してるとか失礼過ぎるぞ。
「…………ッ!? 隠者!? なんでお前勝手に……」
「不甲斐ないお前のために出てきたんだよ」
会話しつつ予備動作無しで、
マーリンがクー・フーリン・オルタを抑えてくれてる間に、この腑抜けを元に戻して、嬢ちゃん二人と一緒にいったん逃がさねぇとな。立て直さないと無駄死にだ。
「本体のやらかしたことは、影も同罪」
こうなった原因の一端として、吾が何もしなかったのも含まれるだろうしな。
……誠に、まっことに遺憾だが。
「だから今回は吾が尻拭いしてやる」
「……なに?」
マーリンが出血サービスなら、こっちは出血大サービス(物理)になるぞ絶対。
あと表情や仕種には一切出てなかろうが、元が同一の吾には喜色が筒抜けだぜ?
そんな訳でその期待を。
「────けど、引き金を引くのはお前だ」
「!」
上げて落とす。
せめて責任くらいは取ってもらわないとな。
「吾を犠牲に二人を連れて無様に敗走するか、玉砕覚悟で反撃し勝率の低い賭けに出るか。選べ」
まあ、とは言っても優しくて生易しい選択肢だ。
選択させる責任だけ取ってくれりゃ、今回はちゃんと仕事してやるさ。
吾の
さてどうすんだ本体?
「…………第二宝具の真名解放を許可する」
「フッ……やっぱ吾を犠牲にするか。嬢ちゃん二人の命には代えられねぇもんな。滅入るわーマジ滅入るわー」
でも、いつものお前なら即答どころか了承すら得ずに吾を犠牲にするだろうし。充分進歩かねぇ。
それで良い。流れ込む欲求に抵抗する気概を、少しでも持ってくれたようなら上等だ。……そろそろ人間だった頃の力も思い出させるべき頃合いかもな。
そんな思考の最中、ノイズが流れ込んできたんだ。
(────しくもねぇ。相手が俺の天敵じゃなければ、こんな後手に回ることも、マスターとマシュを危険に晒すことも、花糞に美味しいところを取られることも、隠者にかっこつけられることも無かったのに! ……まあこの際そこら辺はどうでもいい。一番の問題はメイヴ相手に望んだ見イキもぶっかけもできなかったことだ!! 奴が天敵の『ビッチ』じゃなくただのゆるふわビッチ程度だったなら、俺の
無理矢理ノイズをカット。
「」
思わず絶句。
お、おう。分離しても繋がってるの忘れてたぜ。
…………うーん、清々しい程の変態に逆戻り。これで本当に性欲に抗ってるのか? まさかセーブしてこれ? だとしたら頭が痛いな……。
ぐあっ!? 吾の頭まで侵食される……!?
(そういえば本気汁って白濁液じゃん。もしかして俺が触れれば白濁光に変換できる!?)
いや、知らねーしそんな機会訪れないだろ。
無意識に額に手をやる。頭を抱えたくなるってこういうことを言うんだな。
強い感情に呼応した時のみ流れてくる訳だが、内容がどうでもいいのばっかで滅入るわ。
前言撤回したいんだが、マジで。
でもこの際四の五の言ってられない、か。
「ちょ、調子戻ってきたみたいじゃねーか。お前は本能の赴くままが一番力を発揮できんだろ。理性が復活するまでは吾や、同胞がストッパーを担ってくれるさ、たぶん」
「…………理性? 復活?」
原動力や動機がいくら不純だとしても、元の戦闘力が発揮できるのなら及第点だ。
頭の方は吾じゃ矯正無理、お手上げだわ。
流石は吾を自由にしただけはある。自由が過ぎる。
だから他の連中に丸投げすることにした。
「……お前、何を知ってる? 本当にただの分身か?」
「分身だよ一応」
ただし、汚染前のお前の人格が元なのと、不純物が混じってたり、記憶については躯というか器としての────いや、今は長々と回想してる暇はねぇか。マーリンの反応も消えたし。
ここで今の今まで、敢えて蚊帳の外にしていた嬢ちゃん達に向き直り、手短に声をかける。
「時間稼ぎは任せな。その間に軍備を整えろ」
「えっ、ちょっ待って下さい!」
「隠者さん1人置いてくなんて」
「問題ない。こういう役回りは慣れてる。行け!」
そう言い捨て吾は対峙する。敵の軍勢と。
その中心にいるクー・フーリン・オルタとメイヴ、そして彼らの前方を陣取る『魔物』を視認すると、一気に黒い瘴気を後方に噴射して駆け出した。
「さぁ英霊モドキより出でし、獣モドキよ。神の躯に宿りし負の遺産たる吾が、この手で引導を渡してやる……!」
普段から散々な扱いを受けてようが、お前
「…………テメェらはついでだ。あくまで吾は本体の尻拭い。足止めはサービスさ」
過去のお前が吾を定められた役割から解放し、
元が負の残滓の集積体でしかない吾に、お前らは自由を与えてくれたんだ。
……その割には理不尽面で不自由な目にあってる感が否めないけどな、ハハ。
「まあそのサービスで吾が身を犠牲にするんだがな。うーん……いやー滅入るわーマジ滅入るわー。そんな訳で────」
負け犬上等。相討ち本望。
「────テメェらも存分に滅入れ」
件の『魔物』こと獣モドキの懐に颯爽と滑り込む。
道連れだって躊躇しねぇ。
最初から最後まで負ける気満々な吾に死角無し。
絶望? こちとらデフォルトだこの野郎。
自滅覚悟でいざ参らん。
「真第二宝具『
刹那、吾を中心にして吹き荒れる闇の猛威。
獣モドキの至近距離で発動し、闇の底へと沈める。
「鯣芁ꛣ莡ꓣ莴飣膫꿣莳诣膠釣膯韣膦鷣膍鿣膋ꏣ膟臣膜ꛢ肦」
他の数千体にものぼる
上々な成果だろう?
「あーっ!? せっかく手に入れた私のペットがぁ! って、キャー!? す、吸い込まれ……!」
「……ちっ! 野郎、ウザったい真似しやがって」
「あ、ありがとクーちゃん」
ちぇっ、やっぱりまとめて仕留めるなんて結果には至らなかったか。
あの狂王、一応あのビッチを助けるんだなちゃんと。
貴重な戦力をむざむざ無意味に死なせるつもりは無いってことかねぇ?
「蠢動しろ、死棘の魔槍。元凶を抉り殺……あ?」
「どうしたのクーちゃん?」
「……あの黒い奴、オレが槍を投擲しようとするのを見て、逆に嗤いやがった」
「……?」
「このまま宝具かましてりゃ、無駄打ちになってたかもしれねぇってこった」
……あーあ、上手くいかないねぇやっぱ。
本体みたいにポーカーフェイス保つのは無理だったよ。
気付かれなけりゃあの魔槍も使い物にならなくできたかもしんないのに。
嬢ちゃん達の荷を軽くして上げようと思ったんだがなぁ……頼りなくてすまん。
やだわー、滅入るわー……。
「クソ面倒な。自分からは攻めて来ない癖に、行く手は阻むしその場から逃がす気はないだと? 陰気な野郎だ」
それ吾にとっては褒め言葉でしかないけどな。
にしても強引に来るかと思ったんだが読みが外れたか、いつもみたいに。
真面目な話、戦闘における吾の読みってあてにならんね。
まあ、でも最低限の仕事は果たしただろ。
だからこっからはボーナスステージ。
どうせ大したことはできやしない。
けれど──ジメジメと、陰気臭く、悲観的で、覇気もなく、根暗に、鬱々と、後ろ向きに行動することにおいては専売特許だ。
だったら、まだやれることはある。
らしくない行動だとも自覚はしている。
でも、そんなことはどうでもいい。
何故なら
らしかろうと。
らしくなかろうと。
選ぶ権利が吾にはあるんだ。
「そんじゃ皆さん。暫し吾にお付き合い下さいな」
お世辞にも決まってるとは言い難かった。
不敵な笑みなつもりでも、頬がひきつってるのを自覚できたし声も若干震えてた。
精々無様だ滑稽だと、嗤うが良いさ。
どうせこの身は本体から別たれた身。
当然隠蔽するスキルなんざ持っちゃいない。
誤魔化しはきかない。
だがそれでも。
「何をするにも億劫で痛い程に無音な時間を、ともにお過ごし願おうか」
ネガティブ野郎がなけなしの意地を張って誰かを救おうと足掻くのも、たまには乙ってもんだろう?
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アメリカ軍本部のあるデンバーより3つ程離れた町ダラス付近にて、突如その周辺地域を覆い尽くす酷く醜悪な気配纏う闇の領域が発生したのは、賢者達が敗走して間もない頃だった。
そして。
宝具発動中の影響で行動不能かつ無抵抗な隠者は、約二時間敵のサンドバッグと化した。
どれだけかっこつけても逃れられぬカルマ()
さて今回は三分割の二つ目、次は三つ目です
次回は近日投稿予定(自ら首を絞めていくスタイル)
これ以上長らく読者様方をお待たせしたくないので、その決意も込めてます
……第2部始まるまでにできれば第5特異点は終わらせたいなぁ(ボソッ
次回は漸く『奴』の視点が来ます、落差にご注意
追伸
【↓汚いのが物足りない人向け↓】
……途中の『魔物』が発した謎言語を、どうしても翻訳したい方は文字化けを変換できるサイト、例えば「文字化けテ○ター」などでセリフのカギかっこ内をコピペして「UTF-16」から「UTF-8」に変換してみて下さい
ただし内容は当然『汚い』のでオススメはできません。読む場合は自己責任でお願いします