卑屈な努力家魔理沙   作:ノブはる

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Arcadiaにも投稿していた作品です。


少し卑屈な努力家魔理沙とヤンデレイム

「…ちく…しょう…」

ボロボロの身体を引きずってなんとか家にたどり着く、お気に入りの服はすすにまみれ、純白だったエプロンドレスは破け、黒ずみ、まるで戦争にでも赴いたの如き様相だった。

いや、まるで、ではなくまさに戦争だった。彼女の意地と10数年にも渡る努力が才能という化け物に宣戦布告し、敗れた。

だが、彼女の瞳には執念の炎が灯っていた。まだ終わらない、死んでいないし、身体に障害が残ったわけではない。
自分の2ヶ月程前の、革新的とさえ錯覚してしまった発想と努力が15分ほどで破られ、無様に地面に叩き落されただけだ

全身に残るズキズキとした痛み。叩き落されたときの記憶は何故かいつも鮮明に脳裏に刻み込まれる。



どこまでも青い空。掴みそうなほど近いと感じてしまうのに、どこまで近付いてもその距離は変わらない。むしろ離れても近付いてもその距離は変わらない。

それはどこか、自分を叩き落して見せた悪友の在り方と似ている気がした。




初夏だった。
春が終わり、心地良い気温がだんだんとうだるような暑さに変わる季節の変わり目、空は青く、雲も無く、太陽がらんらんと輝いている。

「っげほ……」

ガンガンと脳みそが揺られるように痛い。
焼酎を一瓶一気したときの二日酔いが比べ物にならないくらい痛い。
サンサンと照りつける日差しの中、霧雨魔理沙はまるで蛆虫のように地面にうずくまっていた。

頭痛がどこまでも激しかったが意識と記憶ははっきりとしていた。

いつもの如く博麗霊夢に弾幕勝負を挑み、負けたのだ。

もちろん勝算が無かった訳ではない。

むしろ今回は2ヶ月もの間必死でコンビネーションを磨いてきた。
拡散する圧倒的密度の通常弾、その中に紛れ込ませた複数の誘導段で相手の逃げ道をわざと作り出し、そのゴールで得意のマスタースパークを叩き込む。

言葉にすればわすか一文だった。しかしたったそれだけのことであるが満足いく動きが出来るようになるまでには本当に長い時間がかかってしまった。

いつだってそうだった。思いつくことならいくらでもある。
こうすればとか、ああすればとか、発想だけなら幾らでも出来た。
しかしそれを具体化させるには時間と労力が必要だった。むしろ出来るだけ御の字であった。
大概実現不可能なのは最初から分かるものばかりだったからだ。

だからこそ今回は勝算があったのだ。頭の中で思い描くとおりに弾幕を配置し、自身を移動させ、追い込み、仕留める。
この一連の作業を高速で3次元的に完成させたときには既に勝利を確信していた。

そして意気揚々と博麗神社に殴りこみ、負けた。

なんで負けたのかはまだ分からない。確かに思惑は成功した。
見事に博麗霊夢は霧雨魔理沙の戦略にはまり、わざと作られた逃げ道の果ての魔砲で墜とされるはずだった。

しかしあとわずか、ほんのあと少しというところで理不尽なまでの方向転換を行ったのだ。
僅かな、通常では決して気付けぬ作為的な逃げ道を放棄し、圧倒的密度を誇る弾幕の中に身を投じたのだ。

その結果はいうまでもない。誘導弾と通常弾の逃げ道、その無人のゴールに全力で魔砲を叩き込んだ霧雨魔理沙は完全に無防備であり、そんな隙を見逃してくれるほど博麗霊夢はお人よしではなかったからだ。

「まったく…大丈夫?」
「このくらい…なんてことないぜ」


嘘だ。
なんてことなくなんか無い。


頭を貫く激痛は激しさを増し、喋ることすら億劫になってくる。
墜落の際に叩きつけてしまった左半身は全身に皹でも入ってしまったのか、少しでも動かすたびにピキピキと嫌な音を立てて針に貫かれるような痛みが走るのだ。

出来ることなら泣き出したかった。
痛みだけでなく、圧倒的な現実から逃げ出したかった。
自分の努力と知恵をあざ笑うかのような圧倒的な戦闘力、決して追いつけないほどの天性の戦闘センス、そして異常なまでの的中率の『勘』

どれもが霧雨魔理沙の持ちえぬものだ。
もともとしがない商いの娘だったのだ。出来ることといえば力任せな、その力さえ道具に頼るお粗末な魔法だけだ。それを必死で磨き続けた。

だれも興味を示さない速さにおいては間違いなく一番だった。それが少し、いや本当にそれは誇りだった。

その速さも天狗の前には容易く劣った。

もしかすると誰も速く飛ばなかっただけで本当は霧雨魔理沙など足元にも及ばぬほどの飛行能力を持っているのかもしれない。本当のことは誰にもわからない。わかるのは魔理沙に速さで負けても誰も悔しがらなかったことだけだ。

得意の魔砲も元はコピーだった。花畑の大妖のように何の補助もなしに打ち出すことはできないし、ましてや分身して打ち出すなど夢のまた夢だ。それ以外もほとんどコピーだ。自分だけオリジナルスペルが無い訳ではない。ただ弱すぎて使えないのだ。

むしろ道具が無ければ何も出来ないかもしれない。
空を飛べるのかさえ怪しいし、八卦炉無しでマスタースパークは打てない。
魔法の修行も人に笑われるかもしれない。
森に出てキノコを集めて煮詰めて使えるものとそうでないものをより分けて、使えるものを魔術の元にしてそれを配合して、それを延々と繰り返してきた。
あとはそれを基に魔力の底上げと借りてきた魔導書の魔法の練習。

こんな繰り返しで本当に強く成れるのか?

そんな疑問とは何度もぶつかってきた。不安で泣いてしまった夜もある。
自分のあまりの弱さに、学習の無さに、努力不足に泣いたことは何度もある。同じ失敗を何度も繰り返して、何一つ学習できない自分を殺してやりたくなったことは何度もある。
だけどもそのたびに自分を慰めてやる必要があった。そうでないと立ち上がれなかった。
自分を認めてくれる存在はいなかった。だからこそ自分自身で自分を認めてやる必要があった。どれだけ惨めでも、そうしないと生きていけなかった。

ボロボロになった道具を、なんども繕ってみすぼらしい衣服を、ペンだこで薄汚い手を、ぼさぼさの髪の毛を、寝不足で荒れた肌を、なんども撃墜され傷だらけになった身体を抱きしめて、こんなに頑張っているのだから大丈夫だと、たった一人で自分の傷を舐めるのだ。

それはあまりに惨めだった。
だから誰にも自分が頑張っているだなんて知ってほしくなかった。むしろあいつは遊んでばかりだと思って欲しかった。

だってこんなに時間をかけて、こんなに身を削る思いをして、自分の人生を天秤にかけて、霧雨魔理沙という人間を捧げて、その結果がこんなものでは、本当に、自分は―

…一体何のために生きているというのか?…

そんな霧雨魔理沙だからこそ人に弱みを見せるのは何よりの屈辱だった。
今まで自分ひとりで全てをこなしてきた。家を飛び出し、一人暮らしを始め、あらゆる困難に打ち勝ってきた。

どれも皆からすれば当たり前のことだった。だけども魔理沙にはその“当たり前”さえはるか高い壁だった。

だから目の前のこの理不尽な困難に弱みを見せるのはなによりも嫌だった。



「くっそーーーー!!あとちょっとだったのに!!!」


なんでもないように大声をだして悔しがって見せる。
このわざとらしさが逆に余裕の表れなのだ。本気で落ち込んでいれば声も出ない。
だからこうやって大げさに悔しがることでまだ大丈夫だとアピールする。

こんな道化芝居がここ最近本当に上手くなった。最近この自分が本当の自分ではないかと錯覚を覚えるほどに上手くなった。

「まぁそんなに元気なら大丈夫でしょ。お茶飲む?」

負けたことが悔しい。
自分の精一杯が簡単に負けてしまうのは悔しい。博麗霊夢はいつも余裕の顔をしている。
霧雨魔理沙のようにわざとアピールしなくてもその余裕がオーラのようににじみ出ている。

そんな友人の前で必死に自分は元気だと、まだまだ強くなれると笑顔でアピールしている自分がまるでピエロのようで、そうしないと守れない自分のプライドがちっぽけで、そして、博麗霊夢がそのことにまるで気付いてない『フリ』をしているその事実が、なによりも悔しくて、死にたいくらい惨めだった。


博麗霊夢との会話は苦痛だった。
決して博麗霊夢が嫌いなわけでは無い。ただ博麗霊夢の存在そのものが霧雨魔理沙を打ちのめすのだ。傷一つ無い美しい指先、流れるような漆黒の髪、憂いと凛とした気迫を湛えた黒い瞳、洗練された動作、しみ一つ無い美しい肌、どれもこれもが、博麗霊夢を構成するパーツの一つ一つが霧雨魔理沙を超えていた。

それでいて博麗霊夢の実力は限界を知らない。
それは勝負を挑み続ける霧雨魔理沙が一番良くわかっている。
なのに博麗霊夢の話題といえばお茶とスキマ妖怪の迷惑そうな話ばかり、のんびりとした会話の中に苦痛の修行の話は一切無かった。

「あ…のさ…霊夢?」
「なによ?」
「あ…いや…その…なんでもないぜ!!」
「?」

時々気になって不意に聞いてしまいそうになる。
しかし真実を知るのが怖かった。もしもまったく修行して無いとでも言われれば霧雨魔理沙はもう立ち上がれないかも知れない。

だから本能的に博麗霊夢は隠れて必死の修行をしていると思い込むことでこころのバランスを保っていた。博麗霊夢は本当に強い、だからこそ霧雨魔理沙が及びもつかぬほどの修練を日々たゆまず行なっていると、もはや霧様魔理沙の中ではそれが真実だった。

そんな会話も不意にスキマ妖怪が現れたことでお開きとなった。
そしてあせるように立ち去る霧雨魔理沙を見つめる博麗霊夢。



その瞳にはどこまでも愉しげな愉悦の光が見て取れた。




ランタンの光があたりを照らす。
部屋の中にいるのは霧雨魔理沙ただ一人であった。ボロボロになった衣服を脱ぎ捨て、今はゆったりとした部屋着だ。
だけども少女の瞳に宿るのは執念にも似た暗い炎であった。


理由無き勝利はあれど理由無き敗北は無い


少女は一心不乱にペンを取りノートに何かをガリガリと書き込んでいる。
誰の言葉だったかは覚えていないが真に真理をついていると思う。
まぐれ勝ちはあれどもまぐれ負けは無いのだ。なぜなら負けるときには自分のミスが付いて回るが、相手のミスなど分かりはしない。
所詮他人の心など読めぬし、その本人の積み重ねた歴史は本人にしか分からない。
しかし、自分の事なら評価できる。自分の失敗をまっすぐに受け止めて批評することが何よりの勝利の近道なのだ。

一心不乱に書を取る。今日用いた魔法の種類と配置をガリガリと書き並べる。
一体どこで気付かれたのか?
もっとはやくマスタースパークは打てなかったのか?
弾幕密度をもっと上げることは出来なかったのか?
上手く進みすぎて慢心してしまったのではないのか?

ガリガリとノートにペンを叩きつけるように書き連ねる。
自分の過失を見逃してはいけない、どんなに細かいことでも把握して改善し、次に生かすことでようやく意味のある敗北となるのだ。

その思いで自分のミスを必死で書き連ねる。

脳裏によぎるのはあの一瞬、全てが決まったと思ったあの一瞬、急遽進路を変え、不可能と思われる密度の弾幕を縫うようにして優雅に避けていく紅白の巫女。

その時霧雨魔理沙はまさに心奪われた。不可能だと思っていた。
事実自分ではいくらシミュレーションしてもあの弾幕を避けることは不可能だったのだ。
それが目の前でまるで容易く行われて誰が平常心を保てるのか?

結局のところは基本的なところだった。
弾幕密度を上げるためには地道な努力が必要なのだ。
短距離のアスリート達が0.1秒を短くするために何百時間もの修練を重ねるように霧雨魔理沙に必要なものは地道な努力だった。

ページを捲る。前回負けたときは別のアプローチの必要性を説いていた。
しかしその試みは失敗した。
必要なものは基本的な修練だと分かったから別にいいのだ。
さらにページを捲る。根本的な魔力の底上げの必要性が説かれていた。
前のページでは基本的な制御動作についての問題だった。前のページもその前のページも…

どのページを捲れども付いて回る『基本的な努力』

「なにも…成長できて…ないの…かな?」

ぶんぶんと頭を振るう。
いつからか敗北の先が見えなかった。ずっと前は違った。
敗北の先の勝利が描けた。明確なビジョンが見えた。

欠点を見直し、改善し、次に生かして勝利してきた。なのにいつからか敗北の先に敗北しか見えなくなってしまった。幾百の敗北の果てに見えるのは勝利ではなく敗北だった。

心が折れそうになる。
精神の支柱に音を立てて皹が入っていくのが聞こえる。自分を殺してやりたい衝動にかられる。なんで自分はいつもこうなのか。同じようなことをいつもいつも繰り返して、負けて、なんの成長もしていない。歯を食いしばって苦しむことなど誰にでもできる。結果を出せない自分がなにより憎かった。結果も出せずにただ努力しているだけの自分に満足している自分を殺してやりたかった。

だけども、それでも、博麗霊夢に負けるのは嫌だった。

博麗霊夢に完全に勝利して、あいつはただの人間だと証明したかった。
博麗の巫女という化け物では無く博麗霊夢という一人の人間だと、お前の才能なんて努力でなんとでもなると、どうしても証明してやりたかった。

図書館より借りた本の写本を作る。
必要な部分をピックアップしてメモに書き込んでいく。
そうすることでしっかりと覚えられるし、もしも無くした時にメモを見れば何とかなる。

ガリガリと書き連ねる。ポツリ、と涙がこぼれるが手は止めない。
例え泣きながらでもやり遂げなければならないことなのだ。
脳裏に無駄な努力というフレーズが浮かんでも手は止めない。

そのうち涙はこぼれだし嗚咽が止まらなくなった。目の前はグチャグチャで涙がインクをにじませる。本当に情けない。本当に惨めな自分。周りからちやほやされて弾幕ごっこなんてじゃれあいでちょっと勝って天狗になったピエロな自分。少し化けの皮を剥げばこんなもんだ。どこにでもいるグズなやつ。本当にしょうもない、自己満足の努力を繰り返して満足する低レベルな人間。今更泣いて、なんになるのか?


それでも少女はペンを動かすことを止めなかった。



ふと魔導書を捲る手が止まる。この魔導書を見るたびに一人の美しい少女が脳裏によぎる。

彼女に頼るのは正直嫌だった。しかし彼女は誰よりも頼りになった。
教え方も上手く、自分には無い魔女として経験も豊かで膨大な知識を持っている。
何よりも今回の事は既に指摘されている。
その時はあまりの羞恥に逃げ帰ってしまったが、そんなことを言っていられなくなってきた。

「もう…なりふりかまっても仕方ない…か」

ドアを開いて箒にまたがる。向かう先は紅魔館、動かない大図書館パチュリー・ノーレッジだ。



七色の人形遣い、アリス・マーガトロイドはイラついていた。
それは財布を落としたとか犬の糞をふんだとかそんな単純なものでは無かった。

理由は彼女の腐れ縁である黒白のことだ。
最近まったく篭りっきりで練習しているらしくここのところまったく会話すらしていない。

これはアリスの精神衛生上著しく良くないことであった。それに数年程前から霧雨魔理沙は本当に博麗霊夢に付きっ切りになった。
話をすればやれ霊夢がとそればかりだ。さらにいうならあの図書館の紫もやしも魔理沙にちょっかいをかけている。

どんな理由があれども自分の扱いがどんどんぞんざいになってきていることは確かなのだ。

まぁしかし、と思い直す。今日は恐らく博麗霊夢と戦い、そして敗れたのだろう。
あの意地っ張りはまた一人で泣いているのかも知れない。そんなときにそばで慰めるのは自分の特権だ。
泣き顔の彼女は時々無理矢理押し倒したくなるほど魅力的だった。

最近彼女も成長期を迎えてだんだんと女の身体になりつつある。
抱きしめたときに感じる乳房の膨らみやくびれた腰、ふんわりと鼻腔をくすぐる柔らかい香り。そろそろ限界だった。自分を抑えるのが。

そんなモヤモヤとした思いを抱えながら。アリスは霧雨魔理沙の家へと向かっていったのだった。




「その…パチュリー…?」
「いらしゃい魔理沙」

パチュリー・ノーレッジは今日こそ神に感謝したことは無い。
パチュリー・ノーレッジはずっと魔理沙のアドバイザーだった。
霧雨魔理沙が博麗霊夢に挑むと聞いたとき彼女はいち早く行動した。

それは霧雨魔理沙の力になるということだった。
博麗霊夢と霧雨魔理沙の間にはどうしようもないほどの実力の差が広がっていた。
さらにいうなら霧雨魔理沙はずっと独学で学んできた。故にパチュリー・ノーレッジが霧雨魔理沙に教えられることは幾らでもあったのだ。

もちろん霧雨魔理沙は意地っ張りで努力家であることを知られるのを嫌っているからいつもそばに入れるわけではない。

しかし本当にときどき、どうしようもなく煮詰まったときに彼女はここに来る。

霧雨魔理沙に頼られる。それは自分だけの特権であった。
誰にもばれぬようにこっそりと入り、誰にも邪魔されぬ二人きりの時間、たった二人の秘密の逢瀬。まさに至福の時間であった。

ただでさえ嬉しい時間なのに今日はさらに嬉しい注文があった。

「そのパチュリー…実は…」

彼女の悩みは自分の魔力に限界を感じていることであったらしい。
このことについては既にパチュリーは指摘していた。成長に伴って魔力は成長していくがいつかは頭打ちが来るだろうと。
いかに霧雨魔理沙といえども種族は人間、魔力的な資質はそれ程高くない。

一番手っ取り早いのは種族魔法使いとなることだがそれでは手間がかかるし人間を止めなければいけない。
そこでパチュリー・ノーレッジは裏技を提案したが即座に却下された。

しかし今は彼女からその話が持ちかけられた。これがどういう意味なのか分からぬほど彼女は子供では無いだろう。つまり―

「私に抱かれたいの?魔理沙?」

霧雨魔理沙は顔を真っ赤にして、何もいわずにコクリとうなずいた。





博麗の神社の奥の空間。
誰も知らぬこの空間はスキマ妖怪八雲紫によって作られた特別な空間だった。

博麗の巫女を鍛えるために作り出された空間。
障害物は何も無く、ただただ打ち合って潰しあう、それだけの空間だった。

その中で一人の少女の声が聞こえた。


「ねぇ紫?もうおしまい?」

ペッ、と血反吐を吐いて舌を巻く。
博麗霊夢はいつからか化け物になった。それもとんでもない化け物だ。

あれは何時頃か?とにもかくも霧雨魔理沙が博麗霊夢に挑みだしてから博麗霊夢は異常なまでに成長した。

最初は良かった。やっと博麗の巫女としての心構えが出来たと喜んで修行に付き合った。
全力の2割ほどで十分だった。それだけで何回博麗霊夢を撃墜したか分からない。

だがそれからは異常の一言に尽きた。
何時からか2割が4割になり8割が全力になるのにさして時間は必要でなかった。

そして今では―

目の前には圧倒的な弾幕結界、回避は不可能。弾幕をぶつけて打ち消すのも不可能、ならばとスキマを展開してワープする、しかし―

「っ!?ッげほっ!?!?」

考える暇も無く叩き落される。
なんてことはない、ワープの出口に博麗霊夢が弾幕を一つ無造作に打ち出したのだ。
それも八雲紫の結界を簡単に突き破るほどの威力のものを―

恐ろしい、化け物を越えた化け物、未来予知としか思えぬ勘、異常なまでの反射速度、こんなものを人間と定義して良いのか?
そんなことを考えながら八雲紫は意識を手放した。



ばしゃりと水をかけられる。
目の前には博麗霊夢と気付け用のバケツ。これもいつもの光景だ。
今回は割りと頑張ったが1分も持たなかった。完全に自分と博麗霊夢の力関係は逆転していた。

いつものように嫌味を言われるのかと思いきや博麗霊夢はずいぶんと機嫌良さ気だった。

恐る恐る理由を聞けばなんて事は無くいつもののろけ話であった。

「ふふっ、魔理沙ったら私に内緒であんなコンビネーションの練習してたなんて…私じゃなかったら確実に墜とされてるわ。私でも危なかったんだから…今日の魔理沙は何か違うってずっと思ってたの、凛とした目でね、私をまっすぐ見つめてたの…本当に綺麗で、もう抱かれても良いって思っちゃうくらい…そしたらあんなことしちゃうなんて…ほんと…素敵」

うっとりとした表情で一方的に続く博麗霊夢ののろけ話。
最近はこればっかりだ。どこに行ってもこんな話ばかりだ。

決して少なくない数の人妖が霧雨魔理沙を慕っている。
これは別にいい、他人の恋愛話に口を出すほど八雲紫は野暮では無い。
しかし博麗霊夢ですらも霧雨魔理沙を愛している。
これは異常なことだった。博麗の巫女という何にも捕らわれぬ存在が一人の人間に執着するなどあってはならぬことだった。

だが、霧雨魔理沙はそれ以上に異常であった。

『普通の魔法使い』がどうやればあれほど強くなるというのか?

ただの道具屋の娘が家を飛び出し、独学で魔術を学び、博麗の巫女と肩を並べて異変解決を行うなど一体だれが予想できるというのか?

ただの少女に魔術の道具を与えただけで吸血鬼を打ちのめし、自分や亡霊の少女に打ち勝って見せ、月人を下し、あまつさえ古き神々ですら倒して見せた。

それはまさに英雄譚であった。
子供が目を輝かせて夢を見て、年とともに諦めていく御伽話。
平凡な少女が苦難の果てに力を得て、周囲を巻きこみながら己を貫く、シンプルで、それ故に誰もが憧れる偶像の世界のお話。

御伽噺の主人公は皆勇敢で怯えもしらない。
だけども霧雨魔理沙は人間だった。現実に生きている人間だった。
だからこそ不安に震えて、怯えに立ち向かい、ほんの少し成長して一歩一歩を歩んでいく。
都合のいいことは何も無く、辛いことばかりで、困難しかない生き様なのだ。屈辱に身を震わせ、血の滲む修練の果てに今の霧雨魔理沙は立っている。まっすぐに前だけを見て立っている。

そんなものが身近にいて、共に学び、成長し、助け合い、どうして愛せずにいられようか?

これも一人だけが愛しているだけならば別に構わなかった。
問題なのは随分と多くの人妖が彼女に夢中だということだ。
人形使いや図書館の魔女、博麗の巫女、吸血鬼の妹は言うまでも無く、河童や速さを競い合った天狗、昔の付き合いがあった花畑の大妖まで彼女に随分と入れ込んでいる。

もしも彼女を巡って争いでも起これば一体どれだけの災害が起きるのか?
そのことを考えると八雲紫の胃がどうしても悲鳴をあげるのだった。

「まぁいいわ。紫スキマだして」

またか、と八雲紫は嘆息する。

最近の博麗霊夢は事あるごとに八雲紫にスキマを出させて霧雨魔理沙のプライベートを覗き見る。
魔理沙が悔しくて泣いてしまっているのを眺めながら自慰行為にふけることすらあるのだからもう病気だとしか言いようが無い。

しかしもはや八雲紫に博麗霊夢を宥めるだけの力は無かった。
既に力関係は博麗霊夢のほうが上であり、さらにいやらしいことに勝負がついた後に要求されるのだから断りようが無い。

「…分かったわ…」

しぶしぶと監視用のスキマを開こうとする。場所は霧雨亭ではなく紅魔館だった。なんとも嫌な予感がする。しかし―

「まだなの?」

後ろには貧乏ゆすりの博麗霊夢。
形の良い眉は八の字になり目じりが吊り上り不機嫌な気配がゆらゆらと漂ってくる。

「…いや、その…今は少しタイミングが悪いかも…」
「はぁ?」
「いや…だから、今はちょっと見ない方がいいと思うの、てっ!?ああ!!?」

見れば博麗霊夢は一体どうやったのか勝手に八雲紫の出したスキマを広げてようとしているではないか。
博麗霊夢の才能の恐ろしさが垣間見られ、八雲紫の背筋に冷たい汗が流れる。
だがそれ以上にまずい予感がするのだ。
今博麗霊夢に霧雨魔理沙の姿を見せてはいけないと、八雲紫の第6感が告げているのだ。

しかし現実は無情―

「繋がったわね…中の様子は…」

八雲紫の悲鳴を無視して淡々と作業を進める博麗霊夢。
広げた隙間に身を乗り出してなかの様子を伺う。
段々と景色がはっきりとして中の様子が見えてくる。そして完全に繋がり、

「魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙ぁ!!魔理沙ぁ!!魔理沙ぁぁぁぁぁぁ!!」

パチュリー・ノーレッジのあられも無い嬌声が辺りに響いた。

紅魔館内に存在する大図書館、そのさらに奥にあるパチュリー・ノーレッジの寝室。
ゆらゆらと光るランプ、焚かれた香はどこかエキゾチックな香りで客人の心を桜色に染め上げる。

明かりに照らされた二つの影―
霧雨魔理沙とパチュリー・ノーレッジであった。

房中術―
一般的には古代中国にまでその歴史をさかのぼり、性という人間の必須の行為に対して節制を保ち、おぼれることなく適度な楽しみとし、無用に精をもらさないことで身体を保養し、男女の身心の和合を目指すものである説かれている。

だが魔術師の場合は違う、互いの性器を繋げて、魔術的なパスを構成し、たがいの魔力を混じり合わせる。

これが霧雨魔理沙にパチュリー・ノーレッジが提案した裏技であった。
互いの魔力を混じり合わせ、一時的とはいえ本来以上の魔力を身に宿らせることで魔力の限界容量を広げていくことが目的であった。

この提案をした時霧雨魔理沙は顔を真っ赤にして図書館を飛び出して行き、それから一ヶ月は図書館に来てくれなかったのでパチュリー・ノーレッジは何度も後悔した。本当に自分を殺してやりたくなった。あと3日来なかったら自殺していた。それくらいの地獄の日々であった。

しかし今―

目の前には可愛らしい少女、黄金の髪に琥珀色の瞳、猫のように勝気な眦はいまでは伏せ目がちに閉じられ頬を染めてうつむいている。

「魔理沙」
「うっうわっ!?」

驚いて後ずさる魔理沙。下がりすぎて壁に頭をぶつけて痛がっているのはご愛嬌か。

はぁ、と悩ましげな吐息が漏れる。
霧雨魔理沙の仕草の一つ一つがどこまでもパチュリー・ノーレッジを魅了してやまない。

「落ち着いて…魔理沙。力を抜いて身をまかせて…」
「うっ…うん…」

そういうと魔理沙は力を抜いてベッドの上に横たわる。
切なげに吐息を漏らし、少し怯えるように両手を握り、上目遣いでパチュリー・ノーレッジを見つめる。

くらり、と眩暈が起きた。魔理沙のあまりの可愛らしさに意識を手放しそうになったのだ。

だがそれも束の間―

「魔理沙ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

思いっきり抱きしめる。
驚いて魔理沙がすこしもがくが力づくで押さえつける。

顔と顔を近づけてキスをする。
ついばむような可愛いキスも束の間、数秒で魔理沙の唇をこじ開けて互いの舌を絡めあって唾液を混じり合わせる。

―そして


「っん!?」


あまりの激痛に必死で歯を食いしばる霧雨魔理沙。そんな彼女の表情と擬似的に生やしたモノを包み込む感触がようやく彼女と一つになれたことを実感させてくれる。

(ようやく…ようやく魔理沙と一つになれた…)

随分長い時間がかかってしまった。しかしこれで魔理沙が自分のものになった。魔理沙はもう自分の女なのだ。自分が魔理沙のはじめてを貰ったのだ。誰がなんと言おうと霧雨魔理沙はパチュリー・ノーレッジの女なのだ。


ざまぁみろ!!


声を大にして、高らかに笑いたかった。博麗の巫女も、人形遣いも、河童も、気狂いの吸血鬼も、天狗も、花の妖も、誰も手に入れることが出来なかった彼女のはじめては自分のモノだ。誰のものでもない、霧雨魔理沙の身も心も全てこのパチュリー・ノーレッジのものなのだ―

ぎゅっと華奢な彼女を抱きしめる。細い腰、華奢な身体に、柔らかな乳房と臀部、ふんわりとした、少女独特の甘い香り、そしてしなやかなで柔らかい、すべすべとした肌。どれもこれもが、霧雨魔理沙を構成する全ての要素がパチュリー・ノーレッジを、否、全ての人妖を魅了するのだ。

そんな彼女を胸に抱いて、そして一つになったパチュリー・ノーレッジ。彼女はさらに欲望を高め、霧雨魔理沙を貪るように激しく腰を打ちつけた。


「魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙!!魔理沙ぁ!!魔理沙ぁ!!魔理沙ぁぁぁぁぁぁ!!」





「やっと、壊れた…」

紅魔館の地下室、幽閉された少女は荒い息を吐きながら自身を封じていた扉の残骸を蹴りつけた。

ことの発端は何時だったか、それは恐らく最初からだろう。即ち、霧雨魔理沙を見初めたときに既に戦いは始まっていたのだ。

霧雨魔理沙

フランドール・スカーレットにとってその名前は特別だ。自身と対等に戦いあって打ち負かしてみせた英雄の名前、そして自分を外に連れ出してくれた恋人の名前。

「太陽が駄目なら星の光を浴びに行こうぜ。」

彼女はそういって自分の手を引っ張った。なんども無理だといった。決して姉は許さぬだろうと思っていた。

だが姉は許した。

魔理沙も、姉も、ボロボロだった。

あまり人と付き合いの無いフランドール・スカーレットでも魔理沙が何とかしたくらいは良くわかった。

魔理沙の箒の後ろにまたがって空に出る。初めての外。魔理沙と始めての外。何もかもが新鮮で、何もかもが美しくて、夜空の下での、月と星光をライトにした魔理沙とのダンス。

恋に落ちるのには十分だった。

そしてライバルが、いや、彼女にたかる蟲が大量にいることが良くわかった。彼女が愛されるのは当然だろう。それは彼女に惚れている自分が良くわかっている。だが身の程知らずは罪だ。彼女を愛するのは勝手だろうし心の中で思うくらいは許してやろうと思う。そこまで器が狭いわけではないしあまりとやかく言って魔理沙に嫌われたらいやだ。

だが彼女に愛されるのは自分ひとりでいい。そして何よりも魔理沙に愛されていると勘違いしている蟲共は著しくフランドール・スカーレットの気分を害した。

そんな蟲が紅魔館にもいた。そしてその蟲は小ざかしく、彼女の部屋に細工を仕掛けてきた。

何度破壊しても復活する結界。フランドール・スカーレットの能力で破壊すれども何度も復活するのだ。おそらく核となる結界の起点を破壊しない限り自己修復するように出来ているのだろう。

そのとき明確にフランドール・スカーレットの戦いが始まった。

そしてようやく核を破壊し外に出られるようになったのだ。

フランドール・スカーレットの脳内には明確な殺意。あの蟲をどのようにして駆除してやろうかと幾通りものシチュエーションを思い浮かべる。八つ裂きにする程度では生ぬるい、彼女の前で魔理沙との性交を見せつけ絶望を味あわせてからじっくりと切り刻んでやろうか、それとも自分の眷属として一生奴隷として絶望の永遠を味あわせてやろうか…

ふと、一際目立つ香りが届いた。

血の香りだった。それも破瓜の血、霧雨魔理沙の破瓜の血だった。

「えっ?」

意味が分からなかった。彼女のはじめては自分のものなのだ。彼女を寝台に押し倒し、その身体を余すところ無く味わいつくし、最後に彼女を貫いて破瓜の血をビンテージのワインのように愉しむのだ。

なのになんで彼女の破瓜の血が流れている?なんで近くにあの紫色の蟲の魔力がある?なんであの結界と同じ魔力を感じるのだ?

―静寂、そして
―轟音

閃光が駆け抜けたかと思うとそこにはフランドール・スカーレットの姿は無かった。



いやな予感がする。
アリスはあせっていた。彼女が家に居なかった。それだけでもココロが落ち着かないのに、散乱した魔導書に涙の跡。

こんなときに彼女が向かうのは自分の家か忌々しい紫もやしの図書館、自分の家には居なかった。そうなると―

どうしてもいやな予感がする。どこが祈る気持ちを胸にアリスは紅魔館へと賭けていった。




「ねっ、ねぇにとり?どうしたの?」

犬走椛はあせっていた。

いつものように将棋を指していた友人がいきなりイヤホンに耳を傾けたかと思うと無表情になり、拳銃や大砲、マシンガンで武装し始めたのだ。

そして暗い、どこまでも暗い瞳の少女はまっすぐと椛を見つめ―

「ちょっとゴミ処理に出かけてくる。」

気付けば彼女は消えていた。





「…………………」
「ちょっと文どうしたの?いきなり黙って?」
「………………」
「何か言いなさ「…はたて」はぁ?」
「失礼ですが私はおいとまさせていただきます。」

そう一言残して彼女は風のように、否、風となって駆け抜けていった。

「一体何なのよあいつ…」

一人残されたはたてはぽつりと呟き、その呟きも風に流されて消えていった。







「あらっ?」

風見幽香は食後のティータイムを楽しんでいた。思い浮かぶのは一人の少女。古き時代よりの付き合いで悪友の忘れ形見。

生意気にも自分の技を盗んで見せた少女。人の技を堂々と盗んでおいて自分のもののように振舞うくせにどこかさっぱりとしたなんとも憎めない空気を纏った少女。

彼女は成長途中であった。
蕾にもなっていない、まだまだ水と養分を吸い上げて光を浴びて花を咲かせる途中であった。

彼女がどんな花を咲かせるのか?それは風見幽香の好奇心を酷くくすぐった。
それからというものの何故かいつも彼女の事を考えてしまうのだ。

それは恋とは違うがなんともいえぬ気持ちだった。
親心なのかただの好奇心なのか、とにかく何となく気になるのだ。

そんな時に彼女の魔力で咲かせた花が落ちた。
彼女の身に何かあったのか?偶然なのか?

「……はぁ」

結局なんとも落ち着かなくなり家をでる風見幽香であった。









なんとも言えない空気が漂う。

目の前のスキマの中では相変わらずパチュリー・ノーレッジが発情中で交尾中だ。
いい加減にして欲しい。ていうか博麗霊夢が無言なのが恐ろしい。
八雲紫の胃がキリキリと悲鳴を上げる。
もう無理だ、諦めろと、いい加減もう休めと全身が悲痛な叫びが上がる。

そうして全てを諦めたかのように博麗霊夢を見れば―

「なに?あの下手糞?あんな間抜けな顔で腰振っちゃって馬鹿じゃないの?」

あざ笑っていた。

ポカンと口が開いてしまう。必ず博麗霊夢は激怒すると考えていた。
一瞬で隙間の中に入りパチュリー・ノーレッジを八つ裂きにして霧雨魔理沙を奪うのだと考えていた。
しかし現実の博麗霊夢は悠然と、パチュリー・ノーレッジをあざ笑っていた。

ふと博麗霊夢が八雲紫を見る。

「なによ紫?」
「えっ!?いやっだって、魔理沙が…その抱かれてるわけで…」
「見れば分かるわよ」
「そういうことじゃなくてっ!!霊夢は魔理沙が好きなんでしょう!?」
「当然じゃない」

何を言っているのかといった態度で博麗霊夢が問い返す。

違う、根本的に何かが違う。もはや八雲紫には意味が分からなかった、普通なら、常識的に考えて怒るとか悲しむとかあるはずだ。
思い人のSEXを目の前にすれば誰だってそうするに違いない。なのに博麗霊夢は笑っている。意味が分からない。

「あんた一体どうしたの?意味がわかんないわよ?」

呆れたような博麗霊夢の問いかけ―

「意味が分からないのはこっちのほうよ!!何でそんな平然としてるのよ!?もっと、こう…怒るとかあせるとかあるでしょう!?!?」

がらにも無く感情的に叫んでしまう。それくらい八雲紫は混乱していた。その叫びに博麗霊夢はきょとんと目を丸くしたかと思うと―

「私が…あせる…?ふふっ…はっあはは…あははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

笑い声、先ほどの悠然とした笑いとは違った、心からの笑い声だった。

「あーおかしい…私があせるとか怒るとか…紫あんた、勘違いしてるわ」

余程おかしかったのか、目じりに涙を浮かべて博麗霊夢が語りだす。

「ねぇ紫…なんで魔理沙はあんな蛆虫とSEXしてると思う?」

悠然と博麗霊夢が問いかける、まるで出来の悪い生徒に優しく教えるような、そんな上からの目線に八雲紫はまたもストレスを感じた。

「魔力を高めるため…でしょう?」
「60点ね。正確には『私に勝つために』よ。」

絶対的な自信でもって彼女が訂正する。
その通りだ、霧雨魔理沙は博麗霊夢に勝つためにあんな糞女と身体を重ねているのだ。
そしてその事実が何よりも博麗霊夢を悦ばせるのだ。

「そうよ!魔理沙はね、私に勝つためにあんな薄汚い女に抱かれてるの!分かる!?私のためよ!!あの蛆虫が無様に腰を振ったところで魔理沙が考えてるのは私に勝つこと、私のことをずっと考えてくれてるの!!!あの女が魔理沙は自分のものなんて考えたところで魔理沙の心は私で一杯なのよ!!!!」

狂気、まさしく狂気だった、じりじりと八雲紫が後ずさる。
まるで決して触れてはならぬものに触れてしまったような、咎人の如き後ろめたさすら感じてしまうのだ。

「魔理沙はね私に勝つことをずっっっっっっっっっと考えてるの!!分かる!?紫!?ご飯を食べるときも睡眠時間だって、起きる時間も、食事のメニューも、移動しているときも、お風呂に入っているときも戦っているときも…トイレでおしっこしている時だって、私に勝つこと…私のことだけを考えてくれてるのよ!!!!!」

いよいよ狂気じみた笑い声すら聞こえてきた。
八雲紫は怖気づき、ぺたりとその場にしゃがみこんでしまう。
確かにその通りだ、霧雨魔理沙の目的は博麗霊夢に勝つことなのだ。
霧雨魔理沙はそのことに人生を賭けている。それは言ってしまえば霧雨魔理沙は人生を賭けて博麗霊夢を求め続けるということだ。

「ああっ魔理沙、私に勝つためにあんなゴミに抱かれるなんて…本当に健気、でも嬉しいわ…私のためにそこまでしてくれるなんて…本当に大好き、愛してる、だから早く私を倒して見せて…そしたら今度は私が追いかけてあげる…追いかけて…追い詰めて…そしてようやく結ばれるの…魔理沙…愛してるわ…魔理沙」

うっとりと、そう言って彼女はもだえるように自分を抱きしめる。
熱い吐息、潤んだ瞳、どこをとってもただの発情した雌であった。
だというのにこの圧迫感は何なのか?

「そっそれじゃあパチュリー・ノーレッジをどうこうしたりしないのよね?」
「とりあえず今わね…用が済んだら殺すわ」

とりあえず今災害が起きないだけましだった。安堵のため息を漏らす。

「あらっ?」

一安心した紫の耳に不安な声が聞こえてくる。

「どっどどどどうしたの霊夢?」

彼女はすこし考えた後―

「魔理沙目当てのゴミ共が集まってきてるわね…ここで全員処分しときましょうか…」

パンドラの箱は開いてしまった。最後に残ったのが希望なんて絶対嘘だ。

そんなことを考えながら八雲紫は気を失った。






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