どうせ転生するなら更識姉妹と仲良くしたい   作:ibura

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入学初日の放課後、俺は生徒会室に向かった。理由は簡単、俺が生徒会に入るからである。刀奈が会長で、虚が会計らしい。俺と一緒に向かっている本音は書記になるらしい。……大丈夫なんだろうか。

簪は、まだ専用機開発が終わっていないので、落ち着いてから参加する予定らしい。そして、俺は空いている副会長の役職に就くことになりそうだ。ちなみに、更識としても俺は一応肩書きを持っている。

 

 

更識家実働部隊部隊長補佐兼十七代目楯無補佐兼更識家所属IS操縦者

 

 

という何とも長ったらしい肩書きとなっている。俺からしたら十七代目楯無補佐だけでいいんだけどな。

普段からこんな肩書き背負ってるので、生徒会副会長も別に抵抗はなかった。むしろこっちからお願いしたい。

 

というわけで、顔合わせというよりも久しぶりに話をしようという名目で生徒会長様から呼び出しがあった。簪も今日は整備室が使えないらしく、付いてきている。入学前に手続きで理事長室に来ていた時に、ついでにと刀奈に生徒会室も案内されたので、生徒会室までの道を覚えている。この学園はそこそこ広いが、普段から迷路屋敷に住んでいるので迷うことはないだろう。

 

「ここだな」

 

生徒会室の前に到着し、ノックをする。すると中から聞き慣れた声が聞こえて来たので入室する。

 

「3人とも、入学おめでとう」

「おめでとうございます」

 

そんな言葉とともに、刀奈と虚が出迎えてくれた。

 

「「「ありがとう」」」

 

それに対して、俺たちも感謝で応じた。

 

「さ、立ち話もなんだし座りましょう。久しぶりにこの5人が集まったんだから今日はゆっくり話しましょう」

「お嬢様は仕事もしてくださいね」

「…はーい」

 

あぁ、これは……。俺が副会長になったら仕事が多そうだ。相変わらず、仕事を溜め込むのは原作通りらしい。

楯無として家にいる頃から、よく刀奈の仕事を手伝わされていた。といっても、俺もブツブツ言いながら、内心喜んで仕事を手伝っていた。刀奈から「ありがとう」などと言われたら、それこそ内心狂喜乱舞である。

仕事を手伝う度に虚から「甘やかさないでください」と言われていたが、そのうち諦めたのか何も言わなくなってきた。最終的には仕事の半分くらいは刀奈を通さずに俺に直接渡してくるようになった。おそらく、この学園でもその状況が成立するのだろうが、全く抵抗はない。ばっちこいである。

 

 

虚の淹れてくれた紅茶を飲みつつ、俺たちはたわいない内容をいろいろと話した。やっぱりというか、俺も後半は刀奈の仕事を手伝っていた。まぁ、生徒会室に着いてまず副会長になるための書類にサインをしたので、今の俺は副会長である。なので、副会長としての仕事という事で、小言を言ってきていた虚に納得してもらった。

 

「そういえば翔平、あなたクラスの自己紹介でカミングアウトしたらしいわね」

 

刀奈の言葉に俺は固まった。……誰から聞いた。

 

「2年生の方にまで、噂が広まってきてるわよ」

「ちなみに、3年生でも広まってます」

 

……いくらなんでも広まるのが早すぎるんじゃないか?もう嫌だ女子校怖い。

 

「で、それって誰なの?」

 

刀奈が何食わぬ顔で聞いてきた。いや、言えるわけないでしょ。こんなところで、っていうか本人に対して。ほら、周りの野次馬がニヤニヤしながら見てきてるよ。簪と本音はいいよ、もう慣れたから。でも虚、お前もかよ。

 

「い、いやそれ答えるのはちょっと」

「なによ、楯無からの質問に答えられないわけ?」

「いや、そーいうわけじゃないけど……」

「なら教えてよ」

「……ま、また今度教えるから」

 

俺は相変わらずのヘタレでその場から逃げる。途端に周りの3人が溜息をつく。そして、ジト目で睨まれた。

 

 

 

また逃げた。

また逃げたね。

また逃げたんですか。

 

 

 

ジト目を通してそんな事を言われた気がする。いや、お前らいる前で言えるわけないじゃん。

集中砲火を浴びていると、生徒会室の扉がノックされた。この部屋の長である刀奈がそれに応えると、山田先生が入室してきた。

 

「あ、上代君はここにいたんですね」

「どうしました?山田先生」

「寮の部屋割りが決定したので報告しようと思って。あと、織斑君を探しているんですけどどこにいるか分かりますか?」

「あいつならまだ教室にいるんじゃないですかね」

 

たしか今日の授業の内容を復習しているはずだ。教えてくれとか言ってきたがこっちが優先だったので、そわそわしてこっちを見ていた箒に任せてきた。

それにしても、普通に考えたら生徒会室より先に教室を確認しに行くと思うが……。そのことを山田先生に聞いたら、織斑先生から「上代なら生徒会室にいるはずだ」と言われたので先にこっちに来たらしい。

 

「分かりました。では……あれ?」

 

ポケットの中を探す山田先生。何かを探しているようだ。

 

「す、すみません、寮の部屋の鍵を忘れてきてしまいました。取りに戻るので、あとでまた生徒会室に来ますね」

「あぁ、いいですよ。俺も教室に向かうんで。一夏と俺とじゃ2度手間になるでしょ」

 

山田先生しっかりしてくださいよ、とは言わない。この人はこれが本領なのだから。この場にいた他の人達も、どこか小動物を見るような、初めてのお使いに向かっている子供を見るような、そんな目で山田先生を見ていた。…この人、これだから生徒からの人気がでるんだよな。すでに1組では休み時間に山田先生のあだ名を考えようと何人かの生徒が動いていた。

 

 

「そ、そうですか?では教室で待っていてください。すぐに取ってくるんで」

 

そう言いながら、山田先生は小走りで職員室に戻って行った。

それを見届けた俺も、教室に移動しようと立ち上がった。

 

「それじゃあ俺は一旦教室に向かうわ。晩飯どうする?」

「私達も一旦部屋に戻るから、後で食堂で合流でどう?」

「了解。じゃあ後で」

 

昼も食べたけど、ここの食堂は結構美味しいんだよな。メニューも多いし。

この後何を食べようかと考えながら、俺は生徒会室から外へ出た。その時、虚を除いた3人が、悪だくみを考える子供のように、笑みを浮かべていることに俺は気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室で一夏と合流した俺は、山田先生から寮の部屋の鍵を受け取った。だが、そこで一つ分かったことがある。

俺と一夏が別々の部屋だった。……それが分かった瞬間、俺は嫌な予感がした。……いや、嫌ってわけでもないか。むしろ嬉しいような。

ひとまず一夏と一緒に寮へと向かい、寮の玄関で別れる。俺は受け取った鍵の部屋番号を頼りに自分の部屋へと向かった。そうしてたどり着いた自室前。扉の向こうからはかすかに気配を感じる。

 

待ち構えてやがる……

 

おそらく、扉を開けると水着エプロン姿の刀奈が立っているのだろう。いや、でも今はまだ4月だし、なんだかんだ結構肌寒いし、さすがにこの時期に水着エプロンはないだろう。

そう考え、俺はとりあえずノックをしてみるが、返事はない。

……そこまでして俺を驚かせたいか。

一瞬迷ったが、このままこうしていてもらちが明かないので、俺は意を決して扉を開けた。

 

 

 

 

「お風呂にする?ご飯にする?それとも……」

 

 

 

俺は静かに扉を閉める。

 

4月でも普通に水着エプロンだった。さてどうしようか。

一応想定はしていたのでそこまでの動揺はない。一夏と部屋が違う時点で同室が刀奈ということもある程度は予想していた。

扉を閉めてから俺は、数秒間で状況を整理しこの後どうするかを対応策を決める。

 

ふぅと息を吐いて、俺は再び扉を開けた。

 

 

 

 

「わたしにします?わたしにします?それともわ・た・し?」

 

 

 

……選択肢がなくなってやがる。

 

とりあえず、俺は扉を閉めて中に入る。

刀奈の伝説の名言を生で聞けたことに内心狂喜乱舞しながら、外見はいたって冷静に、俺はこう言った。

 

 

 

「じゃあ、刀奈で」

 

 

 

 

 

 

 

俺を見ている刀奈が固まっている。見事にカウンターが決まった。

言った俺も恥ずかしいが、言われた刀奈のほうがもっと恥ずかしいだろう。みるみるうちに顔が赤くなっていく。そのままお互い顔を赤くして何も言わずに数分が経った。

 

 

「………とりあえず、着替えて飯行くか」

「………そうね」

 

 

刀奈は着替えを持って洗面所に向かった。とりあえず、刀奈が出てくるまで俺は置かれていた自分の荷物の荷解きをして待つことにした。

しばらくすると、まだ少し顔の赤い刀奈が出てきた。

 

 

「お、おまたせ」

「じゃあ行こうか。あいつらもう行ってるかもしれないし」

 

 

俺も着替えようかと思ったが、簪たちを待たすのも悪いので制服のまま行くことにした。

部屋を出てしばらく歩いていると、刀奈も復活してきたので普通に会話をする。

 

 

「織斑一夏君はどうだった?」

「朴念仁だった」

「そ、それは……なんとも言えない評価ね」

「ISに関する知識はほとんどないみたいだな。入学前の参考書捨ててしまったらしいし。稼働時間も当然ほとんど0。多分入試で模擬戦やったときぐらいだろう」

「……彼、大丈夫なの?」

 

俺の言葉だけ聞いていると、そう思っても仕方がないだろう。とてもこの学園でやっていけるとは思えない。主人公補正とか後ろ盾がなければ、落ちこぼれのレッテル貼られてモルモットへの一直線コースだろう。

一夏ってある意味槍一郎さんに似てるんだよな。自分を助けてくれる人が自然と周りに集まってくるところとかそっくりだ。

 

「まぁ座学の方は授業が分かりやすい山田先生だし、実技の方は嫌でも経験値があがるだろう」

「そういえば、クラス代表を決めるために試合やるようね」

「織斑先生からの指名でな。イギリスの代表候補生が調子に乗ってるからちょっとお灸をすえるさ」

「やりすぎちゃだめよ。そのイギリスの子、立ち直れなくなっちゃう(・・・・・・・・・・・)

「分かってるよ」

 

今刀奈に言われなかったら、本当にそうしていたかもしれない。

だが、俺にとっては他のどんなことよりも刀奈の言葉が一番なので、それに従う。

 

歩いていたら何やら女子たちが騒いでいた。とりあえずどこかへ向かっている女子の中の1人に声をかける。まず俺を見た第一声が「あ、カミングアウトの人だ」だった。……もう何も言わない。何があったかを聞いてみると「1025室の部屋の扉が穴だらけになっているから見に行ってみる」と教えてくれた。

……刀奈と2人で何も聞かなかったことにして食堂に向かった。

 

 

「あ、2人ともぉー!!」

 

食堂に到着し、中を見渡していると、先に席を取っていた本音が俺たちに気づいて手を振って場所を教えてくれた。そこに移動して、すでに来ていた簪、本音、虚と合流する。

 

3人ともニヤニヤして俺らを見てくるあたり、俺と刀奈が同室であるということを知っていたのだろう。何もなかったと伝えると、

 

 

やっぱりヘタレ……

やっぱりヘタレだねぇ……

やっぱりヘタレですね……

 

 

と3人が目で伝えてきた。最近ジト目で睨まれたり溜息つかれたりすると何を言いたいのか大体理解できるようになってきている。

そんな視線に耐えつつ、待っていてくれた3人と一緒に食券を買って料理と交換してもらい、席に戻って食べ始める。

さきほどの生徒会室での話の続きを話しつつ食事を進めていると、本音が何かを思い出した。

 

「そういえばしょうちゃん、オリムーのコーチ引き受けるの?」

「いや、クラス代表決定戦終わるまでは放置だな」

 

一応、入学後は一夏のIS実技に関しては俺がコーチとなる予定であるが、いくら一夏が初心者といえど勝負は勝負。手の内は見せずに確実に倒す。

というか決定戦が終わった後も、箒とかセシリアがいるからコーチはいらない気もするが、自己防衛ぐらいはできるようにしてもらいたいから、ある程度は教えるつもりである。

 

「お兄ちゃん、鬼畜」

「さすがに、一夏君が可哀想かも」

 

更識姉妹に非難される。しかし、初めての試合でいい勝負をして調子に乗るよりも、いきなりボロボロにやられておくほうが、後々のことを考えたら良いと思う。一夏は、いかにもそういうのをモチベーションに変えるやつだし。

 

今日の出来事を話したり、代表決定戦での試合は何秒で決着がつくかを議論したりして食事を続けた。

 

 

 

 

 

夕食を食べ終え、刀奈と部屋に戻っていると持っていた携帯にメールが届いた。差出人が簪だった時点で嫌な予感がしたが、メールの内容を確認して、その予感が間違っていなかったことが分かった。

 

 

 

『お兄ちゃん、せっかくお姉ちゃんと同じ部屋になったんだから、ちゃんと告白してよ。今夜寝るまでに絶対に告白すること!!

もし、今夜中にしなかったら………

お兄ちゃんの自己紹介のときのカミングアウトの音声データを出雲に送るから。

じゃあお兄ちゃん、頑張ってね』

 

 

そんなことがメールには書かれていた。添付されていた音声データには俺のカミングアウトの音声が録音されていた。誰だよこれ録音していたの。……本音(1人)しかいないな。

それにしても、何て恐ろしい脅しだろうか……。絶対に楠姉妹あたりが弄り倒してくる。ある程度のストレス耐性がある俺でも耐えることはできないだろう。

 

 

内心頭を抱えながら部屋に戻ってきた。

 

「どっちからシャワー使う?」

「あぁ、俺まだ荷解き終わってないから俺が後でいい」

「分かったわ。じゃあ先に使わしてもらうわね」

 

 

1人になったタイミングで考える。

 

刀奈のことはもちろん好きなので、告白して恋人になりたいとも思う。刀奈も俺のことを好きなのではと思うこともこれまで何度もあった。しかし、もし違ったら……、今のこの関係性が崩れてしまうのではないかとどうしても考えてしまう。そんな考えでなかなか告白に踏み切れないあたり、やはり俺はヘタレなんだろう。

 

 

シャワー室から出てきた刀奈に言われて、俺もシャワーを浴びるためにシャワー室に行く。

 

 

ここら辺で、腹を括る必要があるようだ。シャワーを浴びながら俺は覚悟を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「本音、とりあえず次話まで様子を見ましょう」

「そうだね、かんちゃん」








ついに翔平が動くようです。



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