どうせ転生するなら更識姉妹と仲良くしたい   作:ibura

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「俺がいない間に何があった……」

 

全く言葉を交わさないで夕食を食べ続ける刀奈と簪。というか、簪が一方的に話しかけるなオーラを出している。それを見て俺は何があったのかと首をかしげる。まぁ大体の予想はついてるけど。虚と本音も2人を見て困惑しているというか苦笑いしてる。

刀奈の楯無襲名式から1週間後、俺は昨日から仁さんの手伝いで家を離れていた。そして、さっき帰ってきたらこの状況だったのだ。もしかしなくても、原作ではこの状況がこのまま3年以上続いていくのだろうか……。

 

 

「で、何があったか分かる?」

 

夕食後、俺は虚と本音を部屋に呼んで事情を聴くことにした。

 

「私達もその場にいたわけではないので詳しくは分からないのですが」

「お嬢様がかんちゃんに余計なことを言っちゃったみたい」

 

俺の予想通り、刀奈が簪に余計なことを言ったようだった。簪が完璧超人の刀奈にコンプレックスを抱いているのは知っていたし、一緒に暮らしていてそんな感じはしていた。

しかし、この世界は原作と違い俺がいる。完璧超人をチート能力で超えたチーター野郎の俺がいるのだ。その影響かは分からないが、簪は思っていたよりも刀奈と仲良くやっていた。俺に対する愚痴をよく話しているようだ。俺は俺で元が普通の人間だから普段から暮らしててボロが出る。これまでも恥ずかしいところを何度か2人に見られたことがある。そして2人はこれ見よがしにそれをネタにして話す。……2人が仲良くするのは嬉しいけど、俺への精神攻撃はやめてもらいたい。

 

俺の努力?もあって刀奈と簪に俺を含めた3人の関係性は良好な状態を保っていたが、それが今少し崩れてしまっている状態だ。まぁ刀奈も楯無になったばかりで精神的にキツイんだろう。それは分かっている。

ひとまず、とっとと仲直りさせよう。こんな状態を放置でもすれば、京子さんに呪われてしまう。そういえばさっき、食べた夕食の中のシシトウに当たりがあってとても辛かった。……たまたまだよね?

 

 

善は急げと、早速刀奈と話すために彼女の部屋に向かう。

 

「刀奈、今ちょっといいか?」

「……なに?」

 

部屋の前で声をかけると、中から返答があって刀奈が部屋から出てきてくれた。

ちなみに、刀奈が楯無になってからも俺は"刀奈"と呼び続けている。もちろん家の外では"楯無"と呼んでいるが、家の中では変えていない。

 

「ちょっと話があるんだけど、とりあえず部屋入っていい?」

「えぇ……」

 

ひとまず、部屋には入れてもらえた。しかし、返答を聞いても分かるほど落ち込んでいる。まぁ大好きな妹とあんな状態では仕方がないだろう。

 

「単刀直入に聞くぞ?簪に何言った?」

「っ!?」

 

俺の質問に、刀奈に分かりやすく動揺した。

この反応から察するに、自分がやらかしてしまったのは自覚しているようだ。

 

「俺に言えないことか?」

 

しばらく俯いていた刀奈だったが、俺の言葉に対して首をよこにふり、ぽつりぽつりと話し始めた。しばらくの間、その話を俺は黙って聞いていたが、要約すると「簪ちゃんは何もしなくてもいい。お姉ちゃんにすべて任してくれたらいい」といった内容を簪に言ったようだった。

それを聞いて俺がまず思ったのは、「まぁ簪のあの態度は仕方ないよね」というものだった。原作よりはマシとはいえ、簪が刀奈にコンプレックスを感じているのは確かだ。そんな中で自分が頼ってもらえないのなら、怒って当たり前だ、俺だってキレる。

 

刀奈は話し終えて俯いているのは変わらないが、時折チラチラと俺の表情を伺っている。そんな中で俺は口を開いた。

 

「もしさ、俺が仁さんの手伝いで何か危険な仕事を任されたとしてさ、俺が刀奈に何もしなくていいって言ったら、どう思う?」

「………怒るわ」

「だろ?それと一緒だよ。お前が妹が大好きなように、簪も姉が大好きなんだ。そんな姉に必要とされなかったのは、辛いと思うぞ?」

 

俺の最後の一言に、刀奈は肩を震わせる。

 

「……私」

「それに、京子さんの言葉をもう忘れたのか?」

「…………」

 

 

『人は1人では生きていけない。貴方達1人の力なんてちっぽけなものよ。だからこそ周りの人からの助けが必要になる。自分1人じゃどうしようもない時は必ずある。その時は必ず周りに助けてもらう、そして助けを必要とする仲間がいれば必ず助けなさい。それが家族なら尚更ね。これは私からの最後のお願いよ』

 

 

京子さんが亡くなる前日に、俺と刀奈、簪、虚、本音の5人に向けて言った言葉だった。

そして京子さんは俺にだけ追加で言った言葉があった。

 

『きっと、刀奈にはこの言葉が必要になると思うわ。楯無を襲名した後、翔平君からもう一度さっきの言葉を言ってあげてちょうだい』

 

おそらく、京子さんにはこうなることが予測できていたのだろう。つくづく、すごい人だと思う。

俺の言葉を聞いた刀奈は顔を上げ、驚いたような、目が覚めたような、そんな表情で俺を見て、目には涙を溜めている。

 

「私……私……」

「分かってるよ、刀奈もキツかったんだろ」

 

そう言って俺は刀奈の頭をそっと撫でた。

 

「っ!?………ちょっと、胸借りるわね」

「いいよ」

 

 

刀奈はそのまま額を俺の胸に当てて、静かに泣き始めた。

 

刀奈は刀奈で楯無を襲名してから1週間の間、慣れないことも多くある中で必死にやってきていた。俺としても何とか支えようとはしていたが、精神的な疲れは溜まっていたのだろう。

簪とどういった会話の流れで言ってしまったのかは分からないが、きっといつもの刀奈ならこんな状況にはならなかっただろう。楯無としての責任と、簪が大好きな気持ちが結果的に空回りしてしまった。まぁそれは簪も分かっているだろう。今ちゃんと話し合えば、長期間姉妹関係がギクシャクすることは免れるはずだ。

 

 

「ありがとう、もう大丈夫よ」

 

時間にして10分ほど経った時、刀奈はゆっくりと顔を上げた。目は赤くなって涙や鼻水で凄いことになってるが、どこかスッキリしたような表情の刀奈がそこにはいた。これなら大丈夫だろう。

 

「じゃあとっとと簪のところに言って仲直りしてこい。あ、でもその前にまず顔洗えよ」

「わ、分かってるわよ」

 

冷静になって恥ずかしくなったのか、顔を赤くしながら洗面所に向かう刀奈。俺も服がビショビショなので、風呂でも入ろうかと思って部屋から出ると、廊下で刀奈が待っていた。

 

「翔平」

「どうした?」

「ありがとう」

 

綺麗な笑顔でそんな事を言って、刀奈は洗面所に向かった。

……不意打ちでそれは卑怯だろう。

 

赤くなった顔を誰かに見られないようにしながら、俺も風呂場に向かった。道中に遭遇した虚と本音に、普通に見られてしまったが。

 

 

 

更識姉妹喧嘩事件は、その後の話し合いでしっかりと仲直りできたようで、姉妹関係はむしろ事件前より良くなった。

 

ちなみに、簪はこの頃から俺のことを「お兄ちゃん」と呼ぶようになった。まぁ確かに、俺にとっても簪は妹みたいな存在だったから別に気にしないが……。突然話があると呼び出されて、そんな話をされたらさすがに驚いた。その場にいた刀奈は、顔を真っ赤にしながら言う簪とポカンとした表情の俺を見て爆笑していた。その直後の簪の「あ、お義兄さんって意味じゃないから」という発言で俺も刀奈も顔を真っ赤にすることになったが。

 

 

俺は刀奈が好きだ。そりゃもうこの世界に転生したいと思った1番の理由なぐらい。更識家支えるとか日本支えるとか、そんなのはついでに過ぎない。俺はただ、刀奈を支えていきたい。

刀奈が俺の気持ちに気づいてるかは分からないが、簪はうすうす気づいているようだ。だからお兄ちゃん事件の時も、あんなことを言って盛大に俺たちを慌てさせてくれた。……刀奈も慌ててたから脈ありと考えていいのだろうか?

仁さんからはとっとと告っちまえとよく言われる。

 

 

 

結局、元がヘタレな俺は何もできずに関係は進展なしのまま、刀奈の楯無襲名や喧嘩事件から約2年が経過した。俺と刀奈が世間一般で中学3年になる年、新たな事件が発生した。

 

「……ねぇ、翔平」

「……どうした、刀奈」

「……あなた、女子じゃないわよね?」

「……俺は男だよ」

「……じゃあ何で、IS起動させてるの?」

「……俺は男だよ」

 

俺がISを起動させました。

まぁある意味俺の計画通りなんだけどさ。

 

 

 

 

楯無となってロシア国籍を取得した刀奈は、自身の手で製作した専用機霧纒の淑女(ミステリアス・レイディ)を伴ってロシアの代表候補生にまで上り詰めていた。ちなみに原作と違って専用機の開発は俺と簪も協力して行われた。

前世でプログラミングとか大学で習ってたから何とか力になることができたし、使う機会もあるだろうということで、刀奈と簪と一緒に俺もISに関する勉強はしていた。めちゃくちゃ難しいけど……。

 

そんな刀奈が休日、ISの訓練をするということで、俺もたまたまオフだったこともあり、付いて行った。もちろん簪も一緒に。

訓練機で模擬戦をやったりしている刀奈と簪を見ていたが、暇になってきたので、施設内を散策することに。

何度か来たこともあって地理は把握しているし、施設内の職員の人は更識の関係者なので当然俺のことも知っている。刀奈(現楯無)槍一郎(前楯無)仁さん(実働部隊のトップ)が揃って期待しているということで、更識に関わっている人の中では俺は意外と有名だったりする。

そんな俺が、たまたま整備のために置かれていた打鉄に触れた。この施設に来るたびに、施設内を徘徊して、ISに触れるチャンスを虎視眈々と狙っていたが、この日ようやくそのチャンスが訪れた。

置いてある打鉄を指差して、研究員の人に「触ってみていいですか?」と問いかけてみると、何も起こるわけがないと思ったその研究員は苦笑しながら「何も起きないと思うけどね」と言いながら了承してくれた。そうして、満を辞して俺はISに触れた。内心凄いドキドキしながら。

 

そして、ISは見事に起動した。その時の研究員の顔を、俺は忘れないだろう。凄い顔だった……。

 

その後、施設内にいた関係者が集められ、事の次第が伝えられた。

刀奈も簪も、何故かいた仁さんも、技術者も、研究員も、整備士も、職員も、みんな揃ってポカンとしていた。

 

なんかごめんね。

 

こうして、さっきの刀奈とのやり取りに戻る。

 

「「何で翔平(お兄ちゃん)がIS起動させてるの!?!?」」

 

頭の中がパニックになったらしい刀奈と簪は、そう叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 




予定では次話で原作で突入だっけど、もう一話挟むかも……。

この作品のヒロインは刀奈1人です。簪は義妹です。

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