どうせ転生するなら更識姉妹と仲良くしたい   作:ibura

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実は本編を更新するモチベーションがほんの少し残っていました。


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「ふいぃぃぃぃぃ」

 

冒頭から何とも気の抜けた声が出てしまったが、まぁ仕方ない。

良い旅館の良い温泉、その大浴場を今は俺と一夏の2人で貸切状態。

昨日まで、この臨海学校に向けて爆速で生徒会、更織の仕事を処理していたので疲れも溜まっている。昼間のビーチバレーが原因の一端になってるけど。

 

とまぁ身体的疲労がそこそこ溜まってる状態でこの温泉だ。湯船に浸かった瞬間にだらしない声を出しても仕方ないだろう。

隣で俺と同じように気の抜けた表情になっている一夏しか聞いていないわけだし。

 

「これだけ広い温泉を貸切で使わせてもらうのも申し訳ないな」

「去年の臨海学校までは、女子学生しかいなかったから一時的に男湯が無くなってたらしいしな」

 

昨年までは、元は男湯と女湯、2種の大浴場を選べたそうだ。

IS学園の臨海学校が行われるこの2泊3日は貸切だし、学生も教員も女性だけだからこそできたこと。

今回に関しては俺ら2人の男がいる。

部屋風呂でも良かったが、大浴場を使っていいと言われたからそのご厚意に甘えさせてもらった。ここの大浴場は昔から気に入ってるし。

女子生徒達が使える大浴場が片側だけになったことで、クラス毎の入浴時間など、色々と調整してもらった教員の方々にも感謝を…。

 

「そういえば一夏、お前昼間は何してたんだ?」

「俺か?翔平達のビーチバレーが終わった後、クラスのみんなとビーチバレーとかしてたぞ」

 

俺と刀奈、ビーチバレーが終わった後は部屋に戻ったんだよな。いろんな意味で疲れたから…。

簪と本音も合流して駄弁ってた。

 

一夏達は俺達とは違ってしばらくは浜辺に残っていたらしい。

ビーチバレーと言ったが、ペア戦ならこいつのペアは誰になったのかだろうか…。

 

……ペア決めで一悶着あったであろうことは容易に想像できた。

 

 

「それでさ翔平、昼間の話の続きなんだけど」

「あぁ、『人を好きになる気持ちとは』だっけか?」

 

無言で頷く一夏。

正直、昼間にこの話を聞いて時間は経ったが、未だに驚いている。

あの一夏の口からそんな言葉が出てくるなんて、誰が想像できようか。

ただ、刀奈が言ってた通り、良い傾向なんだとは思う。

 

 

「そもそも、なんでまた急にそんな話が出てきたんだ?」

 

昼間に本人から話を聞いてから疑問に思っていた。

原作の一夏であったり、これまでの一夏だったりを見ていると、愛やら恋やらなんて言葉は出てきそうにもない。

何かしらきっかけがあって、あれこれ考えだしたんだろうけど、そのきっかけが俺には分からなかった。

 

「翔平と楯無さんを見ててさ…」

 

おや、どうやら俺達の影響のようです。

 

「俺はさ、これまで人を好きになるとか、恋人を作るとか、そこら辺がよく分からなかったんだけど。だけど、普段の翔平と楯無さんを見てると、凄く楽しそうに見えて」

「それで、実際に人を好きになるとはどういうことなのか、考えるようになったと」

 

またも、無言で頷く一夏。

 

「俺には友達と仲良くするのと、翔平と楯無さんみたいにするのと、違いが分からないんだ。でも、翔平と楯無さんのやり取りとかを見てて、友達同士のやり取りとは違うっていうのは何となく分かった」

「それで、実際の当事者になる俺に聞いてきたと」

 

まぁ学内でこうも目立ってるんだし、一夏がそれで疑問に思うのも分からなくはない。

 

「人によって考え方も価値観も違うって話は、昼間に話したよな?」

「おぉ」

「まず前提がそこにあるんだが、『人を好きになる気持ち』なんてものは正直言葉で説明するのは難しい」

「そうなのか……」

 

おいおい、そう落ち込まないでくれ。なんだか申し訳なくなってしまう。

 

「この話に関しては、多分他人がどうのこうの説明してもあんまり効果はないと思うぞ」

「そういうものなのか?」

「俺には俺の価値観があって、一夏には一夏の価値観がある。恋人に求めるものも異なれば、女性の好みだって違ってくる。俺が楯無を好きになった話を説明したところで、それはあくまで俺の話であって、一夏に当てはまるかはわからない」

 

転生する前から好きでした、なんて言ってもまず伝わらないだろうしな。

 

「結局のところ、好きっていう感情は一夏自身が気づく必要があるんだ」

「それがよく分からないから相談してるんだが」

「焦る必要はないと思うぞ」

 

いつか、自分はこの人が好きなんだ、という事に気づく日がくるかもしれない。多分、それで見つけた自分の感情は、嘘偽りの無い真実だろうから。

 

「たった1人、この人だけは他とは違うと。自分の全てを捧げて、ずっと一緒にいたいと、そう思えるような人が見つかれば、それはきっと好きっていうことだと思う」

「翔平にとってそう思ったのが楯無さんだったのか?」

「昔から、そしてこれからも、俺にとっては楯無だけだよ」

 

なんか無性に刀奈に会いたくなってきた。風呂からあがれば会えるんだけど。

 

 

その後、それでももっと具体的な話を教えてくれとせがまれたので、とことん惚気話を聞かせてやったら、温泉からあがるころには一夏はフラフラになっていた。

 

「翔平と楯無さんの話を、1人で聞くんじゃなかった…」

「お前が聞いてきたんだろうが」

 

 

 

 

風呂あがりのビールが飲めるはずもなく、一夏とコーヒー牛乳を飲んでから2人で部屋まで戻った。

 

部屋に戻ると、顔を真っ赤にしている刀奈とニヤニヤしてる織斑先生、尊敬の眼差しで刀奈を見ているヒロインズと、なんとも言えない雰囲気となっていた。

あれやこれや聞かれたんだろうな…。

 

「お、旦那が帰ってきたぞ」

「織斑先生、もう許してください…」

 

あぁ、これは恥ずかしすぎて許容量オーバーしてるやつだ。頭から湯気見えるもん。

 

俺たちが帰ってきたことで、今度は女性陣が温泉に向かうことになった。刀奈は1人で行こうとしたようだが、ヒロインズに捕まって一緒に行くらしい。

あんまり揶揄わないであげてね?あとで俺に返ってくるから。

 

 

「翔平は今からどうする?」

「俺は自分の部屋に戻る。ちょっとやる事あるし」

「分かった」

 

一夏と織斑先生に一言伝え、俺は自分の部屋に戻った。

ちらっと見たけど、ビールの空き缶が既に4、5缶あったんだけど。

織斑先生どんだけ酒持ち込んでるんだよ。

まぁ業務に影響無いのであれば問題ないとは思うけど。ちょっと顔赤いけど酔ってるふうには見えないし。ニヤニヤしてたけど。

……あの人酒強いんだ。

 

 

部屋に戻って、俺は自分のスマホとは別の、更織としての専用のスマホを取り出した。

 

「お疲れ様です、仁さん」

『お疲れさん』

 

通話をかけた先は仁さん。今刀奈から依頼されている任務について状況確認をしたくて、一足先に部屋に戻ってきた。

 

「状況はどうです?」

『予定通り、銀の福音の試験運用が明日行われるようだ』

『場所と時間は?』

『ハワイ沖だ。時間はそっちの時間で朝8時からだな』

 

今回の仁さんの任務は、アメリカとイスラエルが共同で開発したIS、銀の福音に関する調査任務。

軍用ISということで、その機体性能含めて、更織家としてある程度情報を掴んでおこうということで、仁さんが現地に派遣された。

そして、原作通りであれば、明日の試験運用中に暴走することになる。

 

何かの因果で、原作とは異なり試験中止になってくれたらと思ったが、現実はそう甘くは無かった。

 

『今のところは、特におかしなところはないな。2国間の共同開発ってことだから、通常よりも張り切ってるようにも見えるが』

「まぁ今回やらかしたら影響が大きすぎますからね」

 

実際、どうしようもない天災の影響で、大いに影響を受けることになるわけだが。

 

『現時点での情報はまとめてメールで送付済みだ』

「了解です。あとで刀奈と確認しておきます」

 

ふぅと一息ついて、電話口からジッポーでタバコに火をつける音が聞こえた。あ、やばいな面倒なやつだ。

 

『それで、一足早い新婚旅行はどうよ』

「ただの学校行事です、じゃお休みなさい」

 

「待てよ」という仁さんの言葉を無視して通話を強制的に切った。

仁さんといい、双子の馬鹿どもといい、療養中の元気親父といい、この手の話になると面倒臭くなる連中が更織家関連には多すぎる。

 

もういっそレポート形式で定期的に報告書作ってやろうか。

…やる事増えるから普通に嫌だな。

 

俺と刀奈の話になると脳内お花畑になる連中がどうにかならないかなと考えつつ仁さんから届いたメールの内容に目を通していると、刀奈が温泉から帰ってきた。 

…なんでこう、風呂あがりって色気が出るんだろうか。

 

頭にタオルを巻いてるあたり、温泉の方のドライヤーは使わずに部屋に戻ってきたらしい。

 

「疲れたわ…」

「お疲れさん」

「あの子達、恋愛話にガツガツしすぎでしょ」

 

相当質問攻めにあったようで、刀奈はお疲れのようだった。

まぁ単純に人数が5人だからな。一夏1人の話を聞いていた俺とは訳が違う。

 

部屋に備え付けのドライヤーを取り出して、刀奈の髪の毛を乾かしながら、先ほどの仁さんからの報告内容を伝えた。

 

「特殊射撃による広域殲滅を目的とした機体、軍用ISだから当然だけど、中々に物騒ね」

「そんなもんの出番が無いことが1番なんだけどな」

 

ISという存在がある以上、自衛のための軍事力というのは必要なのだろう。ただし、ISの本来の目的がそこにあるのかは疑問だが。

 

「翔平は明日の試験運用で、何かあると思う?」

「……篠ノ之束が、今日の時点で妹の箒に専用機を受け渡してない以上、明日のタイミングで受け渡す可能性は高い」

「それで、ただ受け渡して終わりとはいかないだろうと」

「終わってくれるに越したことはないんだけどな。同じタイミングに、わりと距離が近いハワイ沖で軍用ISの試験運用なんて聞いたら、何かあるのかと思ってしまう」

「篠ノ之博士が遠隔操作すると?」

「そこまではしないと思うが、相手がISの開発者な時点で、何をやってきてもおかしくないんだよな」

 

はぁぁ、と2人でため息をつく。

あくまで憶測の話なので、アメリカ、イスラエルに試験運用の中止を依頼することもできず、対策のしようがない。

一応、仁さんからの報告で開発時点での銀の福男の機体情報は、俺も刀奈も把握している。

……さらっと言ったけど、国の開発データ取ってくる仁さんって、やっぱりおかしいと思う。

 

「まぁ、今から悩んでもどうしようもないし、心づもりだけしておこう」

「そうね。あ、さっき仁さんからチャットで『お前の旦那は冷たいな』って連絡来てたんだけど、何かあったの?」

「電話で報告終わった後に面倒な質問されたからブチ切りした」

「なるほど」

 

普段の仁さんと俺のやりとりを見ている刀奈は、それだけである程度察したらしい。

苦笑いしながら仁さんに返信を送ったようだ。

 

「『私には優しいですよ?』って返しておいたわ」

「ちょっと仁さんが可哀想と思った」

 

本人に言ったら調子に乗るから言わないけど。

 

「そう言えば、一夏君の恋愛相談はどうだった?」

「悩んでたけど、そこまで焦る必要もないとは伝えたよ」

「そもそも、どうして急に考え始めたのかしら」

「俺と刀奈を見ていて思ったんだとさ」

 

それを聞いて刀奈は納得したようで、苦笑していた。

 

「…良い影響を与えた、と考えておきましょ」

「そうだな」

 

 

そのあとは、たわいも無い話をして、明日朝からの刀奈の予定を再確認して、2人で布団に入った。

 

2つの布団の位置が異様に近かったのは、景子さんの仕業だろうな。

枕の下にあった四角い袋をゴミ箱に捨てて俺達は眠った。

 

ゴミ箱に捨てるときに刀奈がちょっと残念そうな顔をしていたのは見なかったことにした。隣の部屋に織斑先生いるからね?

 

 

 




風呂あがりのビールってなんであんなに美味いんだろうか。

番外編、短編でこんなシチュエーションが読みたいってあったらコメントください。
※絶対更新できるかは分かりませんが、努力します

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