どうせ転生するなら更識姉妹と仲良くしたい   作:ibura

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一気に臨海学校編に入ろうかと思いましたが、1話挟みました。

評価バーの色が変わってテンション上がりました。
平均評価が上がってモチベーションが上がりました。

今月もう1話投稿できるよう頑張ります。
評価を付けて下さった方々、ありがとうございます!!


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「お願いします!!」

「……お前、本当に更識の事になったら何でもやるな」

 

臨海学校が目前に迫ったある日の放課後、俺は廊下で織斑先生に土下座する勢いで頭を下げていた。

というか、俺の土下座で頼みを聞いてもらえるのなら幾らでもやる。

俺が頼んでいることは1つだけだ。

 

 

刀奈の臨海学校同行

 

 

 

学園の行事とはいえ、泊まりで海に行くのに刀奈が居ないとか何の嫌がらせだろうか。一夏に八つ当たりして半殺しにしてしまいそうだ。

 

 

「いや、本当にお願いしますって」

「無理なものは無理だ」

「そこはどうにか!!」

 

ついに俺は土下座を始める。いやもう必死だよね。

頭を下げてる状況から目線だけを上に上げて織斑先生の様子を確認する。ちらっと見ると、呆れた顔をしていた。

『うわっ、こいつ本当にやりやがった』みたいな事を言いたげな目で俺を見ている織斑先生。

ここは職員室の前の廊下なので周りにも学園の生徒だったり他の教員が通るのだけど、俺と織斑先生のやりとりを見ても特に反応する事なく、『またやってる』みたいな反応しかされない。

それもそのはず、こうして織斑先生に頼み込んでるのは今日で3日目だ。流石に土下座を見た人は『マジか!?』って顔してるけど。

 

「上代、流石にここで土下座はやめろ。私が虐めているみたいじゃないか」

「じゃあ楯無の同行の許可を下さい」

「いや、しかしだな…」

 

言い淀む織斑先生。その姿を見て俺は内心で喜ぶ。

これはチャンスだ。ここで決めよう。

 

「更識は去年も臨海学校に参加している。1人だけ2年連続での参加を許すわけには……」

「教員は毎年参加しているじゃないですか」

「更識は生徒だろう」

「なら教員扱いとしての参加なら問題ないのでは?」

 

刀奈は現役の国家代表だ。その技量に疑いの余地はない。それに生徒会長という、ある意味学園の生徒の中ではトップの存在だ。臨時講師として、臨海学校に参加するということは、何ら問題ないはず。

 

「…………」

 

俺の言葉に悩む織斑先生。じわじわと逃げ道を無くして追い込んでいく。

 

今日この日まで、この頼みを聞いてもらうために結構織斑先生には協力してきた。問題児の多い今年の1年で、影で色々手を回して問題を先読みして解決してきたことは織斑先生も知っているし、何なら織斑先生から直に頼まれたこともある。結構面倒臭かった。

 

 

全ては、刀奈と一緒に海に行くためだ。

 

 

「いや、しかしだな……」

 

クソッ!! これでも折れないか。流石は織斑先生、手強い。

しかし、後一歩ところまではきている。

 

 

「追加の教員を補充する理由が無い」

「一夏もいるし、何か問題が起こるかもしれないですよ」

「お前がいるじゃないか」

 

おっと、これは普通に嬉しい。意外と信用してくれてるんだ、俺の事。

でも、それとこれとは話が違う。臨海学校も目前に迫っているし、そろそろ認めてもらおう。

俺は土下座をやめて立ち上がる。少し、雰囲気を変えながら。

恐らく一般の学生や教員から見たら何も変化してないように見えるだろうが、目の前の織斑先生はその変化に気づいた。

 

「俺が対応出来なかったら、どうするんですか?」

「何?」

「俺が対応しきれない状況が生まれる可能性があります。この臨海学校で」

「……どういう事だ?」

「ここではちょっと」

 

そう言って目線だけを周りの学生や教員に向ける。

 

周りに人がいては出来ない話、つまり内密にする必要がある話。

そして話の流れで、それは臨海学校で何かが起こる可能性がある。

 

この事を理解してくれたであろう織斑先生は、僅かに目を細めた。

 

「……場所を変えよう」

 

 

勝ったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え!?私の臨海学校参加を織斑先生に認めさせたの!?」

「臨時講師としてだけどな」

「…まさか本当にやるとは思わなかったわ」

 

 

その日の夜、俺は自室で刀奈に臨海学校参加の許可が出たことを報告した。

織斑先生に頼んでいることは元々言ってたけど、本当に許可が貰えるたは思っていなかったらしい。凄い驚いている。

虚からは、「私利私欲に走らないでください」って怒られたけど、個性豊かな今年の1年で、何か起きた時に俺だけだと不安だということで、何とか許してもらった。まぁ私利私欲が大きいんだけど。

 

「でも、どうやって認めてもらったの?」

「その事なんだけどさ」

 

織斑先生に話した内容は刀奈にはまだ話していないので、ちゃんと伝えておく。

 

「この臨海学校で、篠ノ之束が仕掛けて来る可能性が高い」

「っ!?」

 

驚く刀奈。なんかさっきから驚かしてばっかだな。内容が内容なので、部屋の空気が重くなる。

 

「その根拠はあるの?」

「篠ノ之箒に専用機が与えられる。姉お手製のな」

「えぇっ!?」

 

何度目か分からない刀奈の驚く顔。ここまでリアクション返してくれると、話すのも楽しくなってくる。

織斑先生も、この話には珍しく驚いた表情を浮かべていた。珍しいものが見れて、個人的に満足している。すぐにいつものクールな表情に戻してたけど。

 

箒に紅椿が与えられるという事を俺は知っている。けど、それは前世の知識であって、今のこの世界で得た情報ではない。

なので今日放課後、織斑先生に直談判しに行く前に、箒を捕まえて軽く探りを入れてみた。

 

「軽く探るだけのつもりだったんだけど、すんなりと話してきたよ」

 

"専用機に興味はあるのか?"

この質問に対して、箒は明らかに動揺した。そして、誰にも話すなよという一言付きで、色々と話してくれた。

 

一夏の周りには俺を含めて専用機持ちばかりいる。そんな中で、自分だけ専用機を持っていないことに、焦りを覚え始めた。

一夏の隣に立つ事にこだわりを持っている箒にとって、専用機という存在はある意味必須アイテムに思ったんだろう。思考が短絡的だけど。

 

「その考えは分からなくはないけど、少し短絡的すぎるんじゃない?」

 

刀奈も同じ考えのようだ。

世の中、力が全てではない。あいつの隣に立つにしても他に方法はいくらだってあるはずだ。

 

だが、今の箒にはそうも言ってられないようだ。

 

今学期で起きた二度の事件。

無人機の襲撃と、ラウラの専用機暴走。そのどちらでも箒は何もできなかった。無人機襲撃の際は、何もできないどころか結果的に足を引っ張ってしまった。

一夏はその事件の中心にいて、自分は何もできないどころか足を引っ張った。

プライドが高い箒にとっては耐え難い事実だろう。

 

 

「無人機の時は、何であんな危ない事をしたのか疑問だったけど、そういう理由だったのね」

「あいつなりに何かしたいと思った結果なんだろう」

 

俺が思うに、あの事件での行動とその結果が、今回の専用機が欲しいという欲求に繋がったのだと思う。

 

「それで姉に専用機の製作を頼み、妹を溺愛している姉は二つ返事でそれを了承したと」

「でも、箒ちゃんに専用機を作っただけなら、特に何か起きる事は無いんじゃない?」

 

普通ならそう考えるだろう。だけど今回作るのは、()()()()()()だ。

 

「篠ノ之束が妹に専用機を渡して、それで終わりだと思うか?」

「……嫌な予感がするわね」

 

一夏や織斑先生、箒と話していてから聞いた、"篠ノ之束は妹の篠ノ之箒を溺愛している"という情報は、当然刀奈とも共有している。

そんな篠ノ之束が、妹に専用機を製作して受け渡したとして、何もしないとは考えられない。

妹と同様にプライドが高いあの兎の事だ、スキルが無い箒が使っても何ら問題がないと思っているだろう。

 

 

「恐らく、妹に作る専用機のスペックは現存の機体の中で最高のものだろう。そのスペックを証明するために篠ノ之束が何かアクションを起こす可能性は高い」

「…頭が痛いわ」

 

いくらスペックが高くても、それを使うのは人間だ。当然、その人間にはスキルが求められる。ただ高スペックな機体に乗っても、機体に振り回されるだけだ。

そして専用機が手に入る事が分かり、どこか浮かれている箒にとって、そんな事は頭にないだろう。

 

「加えて俺を毛嫌いしてる可能性が高い奴のことだ。俺個人に何かしてくる可能性も高い……と」

「……頭が痛いわ」

 

話していて俺も頭痛くなってきた。2人揃って頭を抱える。

 

刀奈に頼むのは気が引けるが、今回は俺にどれくらい仕掛けてくるか分からない以上、原作イベントの対応は刀奈に任せるしかないだろう。

その事を伝えた途端、刀奈の表情が曇った。

 

「そんな事言わないで翔平…。自分の身を優先して。私を頼ったっていいのよ」

 

隣に座っていた刀奈が俺の正面に移動し、両頬が刀奈の掌に包まれる。そのまま俺の額に刀奈の額が触れる。至近距離に刀奈の顔が来て内心ドキドキしてしまう。

 

「貴方が傷ついて欲しくはない。だから、貴方は自分の身を全力で守って」

 

"貴方が居なくなったら、私は立ち直れなくなるわ"

 

その言葉は至近距離じゃないと聞き取れない程、小さなものだった。

 

そっとキスされて、刀奈の顔が離れていく。

その表情はさっきと打って変わって、笑顔になっていた。

 

「私としては、翔平が頼ってくれる事が嬉しいわ」

 

 

ニッと笑う刀奈。ヤバい可愛い。

 

でも確かに言われてみれば、こうして刀奈に更識として何か頼む事って珍しいと思う。

普段の個人的な小さい頼みとは別で、更識の仕事は内容関係なく刀奈の頼みで俺は動いて来た。

こうして、俺から刀奈に頼むのは何だか新鮮だ。

 

 

 

「それに、何はともあれ翔平と海に行けるのは嬉しいわ。ありがとう翔平」

 

そう言って貰えただけで、頑張って織斑先生に頼み込んで良かったと思えた。

 

 

 

「そうと決まれば、私も準備しないと。明日バイク出してくれない?必要なものを買いに行くから」

「了解」

 

プチデートも決まったし、臨海学校が楽しみだ。

一先ず俺は目先の問題には目を瞑り、刀奈と臨海学校の準備を楽しむことにした。

楽しそうに準備を始める刀奈の隣に向かいながら、俺はそう思う事にした。

 

 

 

 

次の日、『織斑先生、愛の力の前に敗れる!!』という号外が配られた。

俺が織斑先生の説得を成功させたのは愛の力のお陰らしい。

うん、間違ってはないね。

一部、刀奈だけ2年連続参加する事に不満の声が出たそうだが、臨時講師としての刀奈の仕事量を聞いて誰も何も言わなくなったらしい。

刀奈の不安が心配だが、まぁ刀奈はハイスペックだし、本人も大丈夫と言ってたから大丈夫か。俺もサポートするし。「私が疲れたら翔平が癒してくれるんでしょ?」といい笑顔で言われたら何も言えない。

俺がどうしたら刀奈の癒しになるのかいまいち分からないが、まぁ本人の希望を聞く事にしよう。

 

 

 

号外の事を聞かれた織斑先生は、箒の専用機の話を他言するわけにもいかず、曖昧に返すしか無かったそうだ。

 

ちなみに、箒の専用機の話は誰にも話すなという約束で聞いた話なので、織斑先生と刀奈には他言無用にしてもらっている。

この2人に話したのは内容が内容だったので、箒には許して貰いたい。本人には言ってないけど。

 




「お嬢様の臨海学校参加が決まり……」
「私達の出番はお姉ちゃんに取られる……」
「そもそも私は参加すらできません……」


少し無理矢理な気がしますが、刀奈がいないとこの作品は意味が無くなるので、刀奈の臨海学校参加が決まりました。
愛の力です。

感想評価等よろしくお願いします。

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