どうせ転生するなら更識姉妹と仲良くしたい   作:ibura

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「あら、いらっしゃい」

「「お母さんお見舞いに来たよ」」

「こんにちは、京子さん」

 

ある日の放課後、俺は刀奈と簪と共に入院している京子さんのお見舞いに来ていた。

京子さんが倒れてから約1年が経ち、俺と刀奈は小学6年生となった。京子さんが入院している病院へは、週に1回程度でお見舞いに来ている。初めはもう少し頻度が多かったのだが、「あなた達こんなに頻繁にここに来て、他にやることはないの?」と京子さんに言われてからは、週に1回にしている。京子さんは怒ると本当に怖い。中身成人の俺でも泣きそうになるほどに怖い。なので京子さんは怒らせないようにしている。

家での生活では、勉強面は中学の範囲は半分ほど習い終わっている。予定では俺と刀奈が15歳、世間一般で言う中学卒業までに高校の範囲を習い終わるらしい。ちなみに更識邸に来ておよそ2ヶ月で刀奈、簪に追いついた。そのまま先に進んでも良かったのだが、1人で勉強するのもつまらないので2人のペースに合わせることにした。といってもこの2人も異常なペースで勉強を進めている。やっぱり更識家の人間は普通じゃない。

武術の面に関しては、自主練が多くなっている。ISが世界に広まったことで更識家の仕事も多くなり、さらには最近行われた第二回モンド・グロッソで、織斑一夏が誘拐されたことへの対応などもあり、楯無さんも多忙となっている。そのため、楯無さんが家にいないことも少なくなく、いたとしても仕事で忙しい日が続いているので、必然的に自主練が多くなったが、たまに更識家の実働部隊の人が教えに来てくれている。この数年で俺も成長した、というか自分の身体について理解が深まった。楯無さんとの組手もだいぶ戦えるようになってきた。ちなみに俺は槍よりも剣のほうが才能があるらしい。隠れてスターバーストストリームの練習をしてみた。……調子に乗り過ぎて足をねん挫しました。

刀奈は小学校を卒業すれば、ISの訓練も始めるそうだ。原作では知らなかったが、更識家はISを開発しているある企業と提携していた。そこでISの訓練を行うとのことである。今度試しに付いていってみよう。そしてどさくさに紛れてISに触れてみよう。それで動かなかったら自称神様は本当にただの自称であったということになる。最近はあのおっさんのことを見直しているのだ、期待は裏切らないでほしい。

 

そんなことを考えながら、この1週間の学校や家での出来事を京子さんに話している刀奈と簪を見ていた。すると、京子さんが何かを思い出したようで、俺たちに言ってきた。

 

「あ、そうだ。冷蔵庫の飲み物が無くなりそうだったんだわ。悪いけど、刀奈と簪で下の売店で買ってきてくれる?」

「うん、いいよ」

「けど、翔平は?」

 

京子さんのお願いを刀奈は承諾したが、簪は俺の名前が入っていないことに疑問を感じて聞き返した。確かに俺も疑問に感じた。

 

「翔平君はここに残って、少しお話ししましょうか」

 

笑顔でそんなことを言ってくる京子さん。

……俺なんか悪いことしたっけ?京子さんの雰囲気がどこか怒っているように感じられて俺は冷や汗を流す。

 

「「じ、じゃあ行ってくるね」」

「あ、これお金。お釣りは後で返してね」

「「はーい」」

 

俺と同じく京子さんの雰囲気を感じ取った刀奈と簪は、お金を預かりそそくさと退散していった。

そうして病室には俺と京子さんの2人が残されることになった。

俺がここ1週間で京子さんに怒らるようなことをしでかしてないか必死に思い返していると、京子さんは急にクスクスと笑い始めた。

 

「そんな身構えなくてもいいわよ、別に翔平君は何もしてないし私も怒ってないから」

「へ?」

 

京子さんに言われて気が抜けたのか、間抜けな声を出してしまった。

え?じゃあなんであんな怒ってるような雰囲気出してたの?

 

「本当に、ただ2人でお話ししたかっただけよ。あの2人もああしたら素直に出て行ったでしょ?」

「あぁ、なるほど」

 

理由は分かったが、今度からは別の方法にしてほしい。心臓に悪い。

しかし、そうまでして俺と2人で話したいとは、どういった内容なんだろうか?

 

「それで…、どういった話なんですか?」

「簡単なことよ………翔平君、あなた本当は小学生じゃないでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

「だからあなた、本当は小学生じゃなくて大人なんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや

え、急に何を言っているのこの人。何で俺が中身20代って見抜いてんの?いやね、そのうち誰かにバレるかもっていうのは覚悟してたけど、もうちょっと先の話だと思ってたんだけど…。しかも今すごく普通に言ったけど、普通に考えたらあり得ない話じゃん。え?え?え?

 

そんな感じで冷や汗流しながら内心パニクっている俺を京子さんはニコニコしながら見ていた。

 

「凄い動揺ね。その分だと私の予想は当たっているのかしら?」

「え、いや、急に何言ってるんですか京子さん。俺はただの小学6年生ですよ」

「そんな反応しちゃったらバレバレよ。それに……」

「……それに?」

 

 

妙に間を開ける京子さん。その間が俺にとってはとても嫌なもので、嫌な予感がした。

 

 

「私、もうすぐ死んじゃうから」

「っ!?」

 

京子さんの口から放たれた言葉、それは俺はある程度予測していたものだった。京子さんの病状が悪化している事は感じていたし、俺たちの前では無理して元気な姿を見せようとしている事も俺は気づいていた。病気が癌だってことを聞いたが、京子さんは手術を受けてないので、手の施しようがない、所謂末期の状態で見つかったのだろうという事も分かっていた。

 

「やっぱり、そうなんですか……」

「あら、気づいていたの?」

「何となくですけどね」

 

俺が気づいている事がわかった京子さんは、無理して元気な姿を見せることをやめた。途端に表情は苦しそうなものとなり、さっきまで刀奈や簪と楽しそうに会話していたのが嘘のように苦しいものとなった。

 

「ほんとはね、今こうやって話すこともいっぱいいっぱいなの」

 

そう言いながら苦笑する京子さん。その姿を見て、先ほどの言葉が本当なのだと理解できてしまった。

 

「だから、あなたが本当は何者なのか、教えてくれないかしら?」

「俺は…」

「大丈夫よ、別に他の誰かに言ったりしないから」

 

 

京子さんにそう言われ、俺は俺自身について起きたことを話した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そんなこと、実際にあり得るのね。死ぬ前に面白い話が聞けたわ」

「信じてくれるんですか?こんな突拍子もない話」

 

俺は、自分が転生したこと、すでに成人していることなど、自分自身について全てを京子さんに話した。

話し終えた後、京子さんは驚くほどすんなりと俺の話を信じてくれた。

 

「あり得ない話だけど、でも、今の話を聞いていろいろと納得がいったわ」

 

まぁ確かに、勉強面からして俺のハイスペックを一番近くで感じていたのはある意味京子さんだったのかもしれない。それにしても、バレるは思わなかったが。

 

「今、まさかバレるとは思わなかったと思ってるでしょ」

「あ、……はい」

 

見事にいい当てられてしまった。京子さんは時折こうして他人の心を読んでくる。俺もこれまでに何度も読まれた経験がある。最近では刀奈も、それができるようになってきている。家で考え事もできなくなるから勘弁してほしい。

 

「私、人を見る目はあると思っているのよ。これでも更識家当主の妻なんだから」

「……そうでしたね」

「あの人は、有能な人が自然と付いてきてくれるからね。私もその一人よ」

 

京子さんの言うあの人とは、楯無さんのことであろう。

 

「あなたもその一人よ」

「買い被りすぎですよ」

「神様から凄い身体能力もらっておいて?」

「…………」

 

それを言われたら、何も言い返せない。たしかに自分でもずるいと思っている。

 

「でも、そんな能力がなくても、私はあなたは信頼できると思うわ」

「え?」

「これは私の勘よ」

 

そう言った京子さんは、なぜか説得力があると感じた。

 

 

 

 

 

「それにしても、気をつけなさいよ。私があなたのこと気づいたんだから、刀奈もいつかきっとあなたの正体を見破るわよ」

「……考えたくないですね」

「あの子は私に似たからね。人を見る目は私譲りよ」

 

確かに、刀奈は京子さんに似ている。性格もそうだし、先ほど京子さんが言ったように人を見る目もある。小学校でクラスの学級委員をやっていたが、そのカリスマ性を活かしてクラス委員をほぼ独断で決めていた。しかもそれが、それぞれの特性に合った選出だったため、誰も文句を言わなかった。

簪はどちらかというと楯無さんに似ていると思う。自然と有能な人が周りに集まってくる、そんな気がする。

 

 

 

「あとね、1つ伝えておかなければいけないことがあるの」

「何ですか?」

 

まだ何かぶち込んでくるのであろうか、この人は。もうすでに驚き過ぎて疲れてきてるのだけど……。

 

「良くないことは立て続けに起きるものでね…。実は、現更識家当主……私の主人も病気なの」

「…………」

 

なんだか驚き過ぎて、一周周って冷静になってきた気がする。え、今京子さんは楯無さんが病気って言ったよね。それって一大事じゃん。

 

「幸い、私みたいに命に関わるものではないから、治療をすれば完治するみたい。でも治療するにしても、今の楯無としての仕事をこなすことはできない。今はなんとか騙し騙しやってるみたいだけど、もう少しすればドクターストップでしょうね」

「……ということは」

「えぇ、……刀奈が楯無の名を継がなければならないわ」

 

いくら何でも早すぎると思う。刀奈はまだ小学生だ。いくらハイスペックと言えど、精神はまだ成長段階だから、楯無襲名など、荷が重すぎると思う。

 

「それは…大丈夫なんですか?」

「一応、刀奈が中学生になるまでは待つわ。そして、翔平君、あなたに1つお願いがあるの」

「何ですか?」

「あの子を、刀奈を支えてあげて」

 

日本を陰から支える更識家。その更識家をこれまで支えてきた人からの、とても責任のあるお願いだった。しかしーー

 

「分かりました」

 

俺に断るという選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

それから1週間後、家族に看取られながら京子さんは息を引き取った。

さらに1ヶ月後、楯無さんの療養と刀奈の楯無襲名が正式に公表された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、俺達が中学生になった日、刀奈の17代目楯無襲名式が更識邸の大広間で執り行われた。

今は式が終わり、酒を呑みながら盛り上がっているお偉いさんのおっさん連中に、虚を引き連れた刀奈が挨拶にまわっている。

その姿を見ながら俺も酒呑みたいなぁと思っていたら後ろから近づいてくる人がいた。

 

「お、思ったより様になってるじゃねぇか」

「仁さん、帰ってたんですね」

「さっき帰ってきた」

 

五十嵐仁(いがらしじん)--更識家実働部隊の部隊長を務めている。といっても実働部隊は個人で動くことが多いので、形式上での扱いである。16代目、前楯無の槍一郎(そういちろう)さんの信頼も高く、更識家の中でも危険な任務や難しい問題は基本的に仁さんに任されている。俺にとっては武術面の現在の師匠でもある。この人、面倒見がいいから本当に頼りになる。

 

「京子さんの葬式は、任務で帰ってこれなかったからな……。せめてその娘の晴れ舞台は見ておこうと思ってな」

「……そうですか」

 

悲しそうに、寂しそうにそう呟いた仁さん。京子さんの死は多くの人の心に影響を与え、仁さんもその一人だった。更識家の人間だけあった、みんなすぐに切り替えていたが、やはり京子さんは更識家の母だったのだと実感した。

 

「お前も結局は中学に行かないで、こっちを手伝ってくれるんだろ?」

「まぁ勉強面は家でどうとでもなりますしね。少しでも力になれるんなら俺も手伝いますよ」

 

刀奈は楯無を襲名したということで、中学に通わないことに決まった。俺も1人で通うのはつまらないので、更識の仕事を手伝うことにした。何よりも、京子さんから託された願いを全うするためである。

 

「支えてやれよ、しっかりと」

「分かってますよ。京子さんと約束しましたから」

 

ある意味、俺のほうが荷が重いかもしれないと感じながらも、しっかりやっていこうと決意を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




筆者は刀奈推しです。楯無じゃなくて刀奈です、ここ重要。

ちなみに、筆者は原作知識が乏しいです。そのため、内容がちぐはぐしたり、独自解釈があったりするかもしれません。前もって謝罪しておきます。

そして、このだめ筆者は基本的に亀更新です。重ねて謝罪します。

感想、評価等よろしくお願いします。

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