どうせ転生するなら更識姉妹と仲良くしたい   作:ibura

29 / 40
デート編中編です。


28

刀奈の水着を買い終えた後、俺の水着、2人の夏用の衣服を買ったところで、昼食を食べるのにいい時間となった。

 

刀奈に選んでもらった水着は黒と濃い緑で、シンプルなデザインが入ったサープパンツだ。

最初に刀奈が手に取ったブーメランは丁重にお断りした。

その後も2人でそれぞれの服を見て回り気になったものを何着か購入した。

 

そして現在は昼食のために施設内にあるフードコートへと移動中で、刀奈がトイレに行っているのを待っている。

 

スマホを取り出して業務メールをチェックする。楯無である刀奈の方が断然多いが、俺個人にも更識としてのメールが届くこともあるので定期的なメールチェックは必要だ。

まぁ仁さんからの愚痴や、槍一郎さんからの暇潰しメールとかが多いんだけどさ。

 

メールをチェックしながら、ふと周りを見てみる。

休日の大型商業施設なので、当然人の数は増える。そして、当然様々な人がいる。

その中で時折感じるのが、女尊男卑の思想だ。全員がそうって言う訳ではないのだが、明らかに女尊男卑の考えに染まっている人を見かけるのも事実だ。

まるで奴隷のように男性を使う女性もいれば、女性にペコペコ頭を下げて付き従う男性もいたりする。

この世界に転生してそこそこの年月が経って、この女尊男卑の社会にも慣れてきたものの、やはり男として気持ちがいいものではない。

 

そして俺は今、様々な人が訪れている商業施設内で男1人で立っている。

つまり何が言いたいかというと。

 

「ちょっとそこの男、私の荷物を運びなさい」

 

……こういう面倒臭いのに目をつけられる可能性が高いということだ。

 

とりあえずスマホを弄りながら、聞こえていないふりをしてやり過ごしてみる。

 

 

「聞こえないの!?そこのスマホをいじってる男よ!!」

 

まぁ当然やり過ごせないよね。

俺に声をかけてきた女性はズカズカとこちらに近づいてくる。後ろには取り巻きの女性を2人従えているようだ。

後ろの2人は両手にここで購入したと思われる紙袋を持っている。前の女性は持っていないのを見るに、恐らく後ろの2人が持たされているのだろう。いや、もしかしたら全て前の女性が買ったものかもしれない。

 

前の女性は鼻息を荒くしながら俺の前へとやって来た。

すると、俺のスマホを奪い取ろうとしてきたので慌てて回避する。

 

「さっきからあんたに言ってるのよ!!」

「……何か御用でしょうか?」

「だから!!この荷物を持ちなさい!!」

 

そう言って後ろの2人の持つ大量の荷物を指差す。

もしかしなくても、あの大量の紙袋を俺1人で持てって言うのか?2人で持つのもキツそうだったのに?

というか、重さ関係なしに物理的に全部持てないだろ。

 

「お断りします」

 

俺は当然断る。

何で見ず知らずの人間の荷物持ちしなくちゃいけないんだよ。こっちは今デート中だぞ、邪魔するんじゃねぇよ。

 

しかし、俺の返答が気に入らなかったのか顔を真っ赤にして喚き始めた。

 

「何ですって!?私が持ちなさいって言ったら持つのよ!!男の分際で逆らってるんじゃないわよ!!!!」

 

 

一気にまくし立ててくる。

うげっ!?唾飛んできたし、汚ねぇ……。

 

いい加減面倒臭いなぁと思いつつ、後ろの2人を見てみる。

2人は手に持っていた荷物を地面に下ろして、前の女性に同調してああだこうだと言ってきている。

荷物持たせられて可哀想と思った俺が馬鹿だった。一生荷物持ちやらされてろ。

 

でもこいつらどうするかなぁ……。今の状態じゃ俺が何言っても火に油注ぐだけだろうし、俺が何とか出来るとしたら荷物持ちしますと言うしか納得しないだろう。それでも小言を延々と言ってきそうだけど。

となると、刀奈に何とかしてもらうしかないか。彼女に頼るっていうのは彼氏としてあれだけど、こればっかしは仕方ない。こんな連中に貴重なデートの時間を奪われたくないし。

 

という訳で、早く刀奈戻ってこないかなぁ。

 

「どうしたの翔平?」

 

後ろから声をかけられ振り向いたら、ちょうど刀奈が戻ってきていた。

 

「おかえり」

「ただいま。で、この人達は?」

「男の俺に荷物持ちをやれってさ」

「ふーん」

 

俺から事情を聞いて、女性3人に目を向ける刀奈。

突然の刀奈の登場に黙っていた連中だったが、次の瞬間にはまた喚き始めた。

 

「何よあんた!?」

「彼の恋人ですけど、何か?」

「今からその男は私達の荷物待ちをやるのよ!!貴方は帰りなさい!!」

「断ります。何故見ず知らずの貴方の言うことを聞かなければいけないのですか?」

 

刀奈は冷静に正論を返す。

普通ならこの正論で引き下がるはずなのだが、目の前の連中は引き下がらなかった。

何故か俺達に向かって勝ち誇った顔を向けてくる。

 

「私はね、衆議院議員の副島(そえじま)和佳奈(わかな)の友人よ!!逆らわない方がいいわよ!!」

 

ドヤ顔でそんな事を言ってくる。

後ろの2人のうち片方も勝ち誇った顔をしているが、もう1人は何か引っかかるのか、刀奈の顔を見て何かを思い出そうと考えてる。

多分ロシア国家代表としての刀奈をテレビか何かで見たことがあるのだろう。

 

「これ以上私に逆らったら、後で痛い目を見るわよ」

 

自分がやっている事の重大さにも気付かずにそんな事を言ってくれる。

それに対して刀奈は、

 

「へぇ、貴方も和佳奈さんとお知り合いなんですか」

「……え?」

 

さも当然かのように言葉を返した。

 

副島和佳奈ーー若くして衆議院議員まで登りつめ、その後も着実に力をつけていった。今一番勢いのある政治家と言われている。若者から年配者まで幅広い層からの支持を受けていて、老若男女問わず人気がある。そのカリスマ性から、早くも次期総理大臣との噂もたっているほどだ。更識家としても、個人的にも、日本政府の中で最も信頼できる人物だ。そして……、

 

 

 

「じゃあ今から電話するので、ちょっと待っていてください」

「え、いや、ちょっと!?」

 

 

和佳奈さんは京子さんの大親友でもあった。

 

 

「もしもし、楯無です。はい、お久しぶりです」

 

電話が繋がったようで話し始める刀奈。それを見て顔が青ざめていく女性達。

 

「思い出した!!この人ロシアの国家代表の更識楯無よ!?」

 

後ろでずっと考えていた女性がようやく思い出したらしい。

それを聞いて動揺する残り2人。

 

「なっ!?ロシアって、どう見ても日本人じゃない」

「理由は知らないけど国籍選択の権利があるって前にテレビでやってました……」

「出ました。本当にロシアの国家代表みたいです」

 

後ろの1人がスマホで検索した結果を見せる。

前の女性は青通り越して顔が白くなってきている。

 

「すみません、和佳奈さんが代わってほしいと」

 

スマホを差し出されて言われた刀奈の言葉がトドメとなった。

電話を代わった女性は涙目になりながらひたすら謝っていた。聞こえてくる言葉から察するに、知り合いは知り合いだけど特に親しい訳でもなかったようだ。

それで和佳奈さんの名前使ってあれだけのドヤ顔をできるのもある意味凄いと思うけど……。

 

結局スマホを刀奈に返して一言謝罪して、一目散に逃げて行った。これで懲りただろう。

 

「え、今ですか?はい、翔平もいます」

 

スマホを受け取った刀奈だが、まだ通話は終了していなかったらしく和佳奈さんとまだ話している。

 

「翔平、和佳奈さんが貴方にも代わってほしいって」

 

そう言って、今度は俺にスマホを差し出す。

何だろう、嫌な予感がしなくもないんだけど……。

恐る恐る刀奈からスマホを受け取り電話に出る。

 

「変わりました、上代です」

『久し振りね、翔平君』

「お久しぶりです、和佳奈さん」

『ごめんなさいね、私の方の問題に巻き込んでしまったみたいで』

「大丈夫です。まぁああいう考え方の人間は居なくなってほしいですけど」

『それには同意するわね。彼女達は私の方で処罰しておくわ』

 

和佳奈さんは女尊男卑の思想には反対的な事で有名でもある。そのため、世の女尊男卑主義の女性達から良く思われていない時期もあったが、あれよあれよという間に力をつけて政府の中でも影響力が上がるにつれ、不満の声は消えていった。

というか、さっきの女尊男卑の連中は何で反女尊男卑の和佳奈さんの名前を使ったんだろうか?バレたら大変なことになるぐらい分かるだろうに。

 

『ところで、今は楯無ちゃんとデートかしら?』

「えぇ、まあそうですね」

『あら、否定しないのね。もしかして、貴方達ようやく引っ付いた?』

 

この人確証を持った上で聞いてきてるんだろうな。まぁ別に隠す理由も無いから正直に言うけどさ。

 

「そうですね。4月から付き合ってます」

『そうなんだー。おめでとう!!』

「ありがとうございます。あ、この事あんまり周りに言わないでくださいよ。一応来週集まる人にはその時に発表する予定なんで」

 

来週、というのは京子さんの墓参りの日である。和佳奈さんも当然参加する予定だ。というかこの人どんなに忙しくても参加するからな。

 

『残念だけど、もう既に知っている人は何人かいるわよ』

「えぇ………」

『ちなみに私も知ってたわ』

「おい」

 

いや、まぁ別に口止めしてるって訳でも無いから学園の関係者から漏れてても不思議じゃないけどさ。

テレビからの取材の申し込みとか今断ってるけど、これ受けたら一気に全国から注目されるんだろうな。いや、全世界からか……。

 

『じゃあ、私は仕事に戻るわ』

「はい、ではまた来週に」

『えぇ、詳しい話はその時に聞くわ』

「……勘弁してください」

 

楽しみにしてるわね、と言い残して和佳奈さんは通話を切った。

楽しみにされても困るんだけどなぁ……。

 

「和佳奈さん何だって?」

「来週に俺達のこと詳しく聞くってさ」

「……そう」

 

刀奈も何とも言えない顔をする。

十中八九、来週和佳奈さんは酒を飲むだろう。

本人には言わないが、正直酔った和佳奈さんは性格がおっさんになるからな。あの状態の和佳奈さんに絡まれることを想像し、俺と刀奈は表情を曇らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




簪「…………」カキカキ

虚「…………」カキカキ

本音「…………」zzz


当初、デート編は1話で終わるつもりだったはずが……。
モブキャラを出すだけのつもりがいつの間にかオリキャラが増えてました。
……何故だろう。

明日後半を投稿する予定です。


感想評価等よろしくお願いします。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。