どうせ転生するなら更識姉妹と仲良くしたい   作:ibura

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ラウラに異変が起きた瞬間、俺と刀奈はすぐさま動いた。

俺はアリーナへと向かい、刀奈は上級生の一部に指示を出し、来賓・生徒の避難誘導を開始する。

 

俺達が迅速に行動を開始出来たのは、予めこうなる可能性を予測していたからだ。

ヨーロッパでの仁さんからの調査報告の中で、ドイツ軍のごく一部において"VTシステム"というワードがあり、詳しいところまでは流石に調べられなかったが、何かしらの関与の可能性があると仁さんは報告していた。

というか、そこまで調べる仁さんって凄いと思う。多分バレたら国際問題にまで発展しかけない。これまでも、際どい調査を何度もしてきた仁さんだが、失敗したことはない。ほんと、頼りなる存在だ。

 

仁さんからの調査報告のお陰で、俺と刀奈はラウラのISにVTシステムが忍び込ませてある可能性があると判断し、何か異変が起きた場合はすぐに動けるように予め対策していた。

 

俺は観客席からピットに移動し、元々制服の下に着ていたISスーツ姿となってベンダバールを展開してアリーナ内へと移動した。

比較的ピットが近い席に座っていたとはいえ、結構距離があってそこそこの時間が掛かってしまった。

 

 

アリーナに出ると、一夏と箒が何かを言い合いながら揉めていた。

雰囲気から察するに、興奮してVTシステムによってISの形状か変化したラウラに突貫しようとした一夏を箒が止めているようだ。ほとんどガス欠状態で突っ込んで何ができるというのか。

 

俺が呆れていると、箒の平手打ちが炸裂した。それにより一夏も少しは落ち着いたようだったが、1人で倒そうという意思は変わっていないようだ。エネルギーがほとんど残っていない今の状態でどうしようと思っているのか。

こちらに近づいて来ているシャルロットがその解決策を持っていることは俺も分かっているが、その事を差し引いても、実力差は歴然としている。

俺は自身の持つ解決策を一夏に提案しようとするシャルロットに目配せして止める。幸い、察しの良いシャルロットは俺が言いたいことをすぐに理解してくれたようで、頷いて一夏と少し距離をとって止まってくれた。

 

「ガス欠状態の今のお前で何ができる?」

「翔平!?お前いつのまに…」

「ついさっきだよ。で、エネルギーがほとんど残ってない今のお前に一体何ができる?」

「それは…」

「俺達が何もやらなくても、この後教員達で編成された部隊が突入してくる。ここでそんな状態のお前がわざわざあのボーデヴィッヒを相手にする必要はない」

「俺が『やらなくちゃいけない』じゃない、俺が『やりたいからやる』んだ」

 

俺の言葉に、一夏は一瞬言葉を詰まらせるも俺の目を真っ直ぐに見て言ってきた。

正直、今のこいつを説得するのは難しい。一夏は自分がこうだと決めたら絶対にそれを曲げようとしない。それは原作でもそうだったし今も変わらない。

 

……仕方ない。正直ラウラの状態も気になるから教師部隊を待つのも気が引けるし、零落白夜を使うのが1番手取り早くラウラを救出できる。

 

「分かったよ。デュノア、頼む」

 

頭を掻きながら溜息を一つついて、俺はシャルロットを呼んだ。

シャルロットのリヴァイブならコア・バイパスを繋げればエネルギーを移せるようになっていたはずだ。

一夏への説明と準備をシャルロットに任せて、俺はラウラの状態を観察する。

 

普通に考えれば、話し合いを行う俺らを律儀に待つ必要は相手には無い。しかし、相手はまるで俺たちの準備が整うのを待っているかのように、その場で静止していた。

形状は先ほどまでのシュヴァルツェア・レーゲンとは大きく違い、最小限のアーマーを残した黒い全身装甲となっていた。

その形状のISは見たことはないが、手に持つ唯一の武器は見覚えはあった。

あれは織斑先生が現役のころに使ってた雪片と瓜二つだった。恐らく一夏が興奮しているのもこれのせいだろう。大方、姉を侮辱されているとでも感じて頭に血が上って突っ込んでいったのか。

まぁその気持ちは正直分からなくはない。俺もVTシステムで刀奈のミステリアス・レイディをトレースされたら少なからず取り乱すと思う。

 

 

さて、あれが雪片なのだとすれば、あの刀身に触れられればかなりのエネルギーを持っていかれるのだろう。俺に引き付けて、不意打ちで一夏が一撃で決めるのが理想か……。

 

俺に観察されていることに気づいた相手は、突如として俺の方に襲いかかってきた。俺はそれを回避しつつ、冷静に分析を行う。

 

やはりあの武装は雪片と考えた方がいいだろう。流石に現役時代の織斑先生の動きまではトレースしきれていないのか、思ったよりも速くはなかった。それでも手加減はしない。

 

俺はライフルビットを展開する。あの刀が雪片だとすれば、シールドビットは意味がない。エネルギーシールドごと真っ二つにされて、精々壁にしかできない。したがって銃撃のみ、相手の攻撃は全て自力で避ける。

 

まとを絞らせないようにシロガネ、クロガネ、ライフルビットで迎撃しながら、準備中の一夏に今からの動きを説明する。

 

「いいか一夏、奴の隙は俺が作る。お前は一撃を当てる事だけに集中しろ」

「分かった!!」

「気合い入れるのはいいけどあまり深く斬るなよ、中のボーデヴィッヒまで傷つける」

「な、それってめちゃくちゃ難しくないか?」

「浅すぎても深すぎても駄目だ。それぐらいやれるだろ?」

 

少し煽り気味に言葉をかける。

 

「やってやるさ!!」

 

すると一夏は気合いを入れて集中する。こういうところは単純なんだよなぁ……。煽り耐性があるのか無いのか分からなくなる。

 

 

シュヴァルツェア・レーゲンだった黒いISは、四方八方から来るレーザーを避けながらも、俺に攻撃を仕掛けて来る。

俺はそれを避けながら、一夏が黒いISの真後ろに来るように誘導する。

 

一夏は零落白夜を展開したが、その形状はこれまでとは異なり、日本刀程度の大きさに縮小されている。

さすが、織斑先生に鍛えられていただけのことはある。今の状況を考えれば、あれがベストだろう。というか、零落白夜って刀身の形状を変えれたんだな。

 

一夏の準備も整ったので、こちらから仕掛けることにする。

瞬時加速で黒いISの視線を外し、シロガネクロガネを連結させ、間髪置かずに強レーザーを撃つ。

黒いISは回避できないと判断し、刀で弾いた。しかし、衝撃までは防げなかったようで大きくバランスを崩した。

 

「一夏、今だ!!」

「おぅ!!!」

 

掛け声とともに一夏が背後から斬りかかる。

完璧に隙を突いた不意打ちでの一撃だったが、黒いISはすぐさま体勢を整えて、一夏に上段から刀を振り下ろした。一夏はその斬撃を雪片弐型で弾き、すぐさま頭上に構えて黒いISを断ち切った。

モーションが大きいから一瞬ヒヤリとしたが、注文通り浅すぎず深すぎずに丁度ラウラを中から救出できる程度の切り込みを入れてくれた。

ラウラの状態はどうかと確認すれば、一夏と目が合っていたようだったがその後意識を失った。

それを確認して黒いISに近づき、中からラウラを抜き出すために俺は機体に触れた。

 

 

 

 

 

次の瞬間、俺の視界は突如として真っ黒になった。

そして、状況を把握する間も無く今度は真っ白になった。

 

 

 

何もなく、360度どこを見ても真っ白な世界。

どこかに立っているということもなく、何もない空間に俺は浮いている。いや、浮いているという表現すら正しいのか分からない。

一瞬前まで展開していたベンダバールも何故か量子化され、さっきまで着ていた制服姿になっている。

これはどういう状況だ……。

 

あんまりの状況に頭の理解が追いつかない。

どうするかと考えていたら、後ろからクスクスという笑い声が聞こえてきた。

振り向くとさっきまで何もなかった空間に、誰かがいた。

男にも女にも見える中性的なその顔は俺を見ながら微笑んでいた。

 

「やぁ翔平、ようやく会えたね」

「まず自己紹介からしてくれないか?じゃないと反応に困る」

「それもそうか。僕はね、君の専用機…ベンダバールのコアさ」

 

 

………今なんて言った??ベンダバールのコアって言った?

 

「悪い……自己紹介してもらっても、反応に困った」

「まぁそうだろうね。ほら翔平が今いる世界に来る前に貰える能力の中に"ISのコアと会話したい"って入れてたじゃん。あれの効果だよ」

「………俺そんなこと入れたっけ?」

「うん」

 

 

全く覚えていない。

正直、転生したのって8年前だからその時のやり取りなんかいちいち覚えてるわけがない。

けど興味本位でコアとの会話をしてみたいって思ったことはあり得るし、実際今の状況を考えたら俺はきっとそう願ったんだろう。

 

「じゃあ何で急に、こんな状況になったんだ?てかこれってお前の仕業?」

「僕の仕業って訳じゃないかな。元々僕と翔平がこうして会話することは可能だったんだけど、そのきっかけがなかったんだよ」

「さっきあの黒いISに触れたのがきっかけだったって言うのか?」

「僕も驚いたさ。確かにVTシステムで不安定だったISに触れて、そのコアに影響されたっていうのはあるだろうけど、それでこんな簡単に繋がるとは思わなかった」

「神様の力は何でもありか……」

「そういうことだね」

 

何でもありなんだな。もっと他にいろいろ頼めば良かった。

 

 

「今回は挨拶だけしておこうと思ってさ。一度繋がればこれからはいつでも会話できると思うし」

「専用機は常に着けているしな」

 

常に見られてと考えたら恥ずかしいとも思うけど……。

 

「これからもよろしくね」

「よろしくな」

 

手を差し出し握手を求められたので俺もそれに応えて握手をした。

 

 

 

 

 

 

手を離した瞬間、ベンダバールのコアは光に包まれて消えていった。そして一瞬視界が光に包まれたと思ったら、目の前にはさっきまで闘っていた黒いISがいた。

 

 

「どうした翔平??ボーッとして」

「……いや、なんでもない」

 

一夏は既にラウラを回収して抱きかかえていた。

あの世界で体感した時間は、現実では一瞬だったのか。

 

ほんの一瞬だったが、かなり濃い経験を味わった気がする。多分コアと会話した経験なんか俺が初めてだろうし。いや、ISを開発した兎なら有り得るか…。

 

 

突入してきた教師部隊に残った黒いISの処理を任せ、一夏は意識を失っているラウラを引き渡し、俺たちはアリーナから引き上げた。

この後事情聴取されるのだけど……。

 

ベンダバールのコアの呼び方も考えなきゃなぁ。"ベンダバールのコア"なんて呼びにくくて仕方ないし。

うーん……略して"ベル"とかでいいか。

 

 

−−テキトーだね、まぁいいけど

 

 

「なっ!?」

「何か言ったか翔平??」

「い、いや、何でもない」

 

びっくりしたぁ………。

え、今の声ってベンダバールのコア、改めベルだよな??

 

 

−−そうだよ

 

 

こいつ、直接脳内に!?

 

 

−−逆に翔平以外に僕の声を伝える方法は無いからね、必然的にこうなるよ

 

 

なんか気持ち悪いけど慣れるしかないか。

というか、これって俺が頭の中で考えること全部ベルに筒抜けってことか。……プライバシーもクソもないな。

 

 

−−ISコアにプライバシーなんて関係ないよ

 

それもそうなんだけど、釈然としないな。

……まぁ気にしても仕方ないか。ともかく、これからもよろしくな。

 

 

−−うん、よろしくね

 

 

 

 

 

 

 




「ISコアに出番を奪われていく気がする」

「……有り得るね」

「……有り得ますね」


4月から就職なのであまり時間取れなくなると思いますが、何とか頑張ります。

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