と言っても、今回は本編ではないです。
これまでずっと主人公の視点で書いてきたので、たまには刀奈視点で書いてみたいなと思ったので、気まぐれで書いてみました。
最近、私--更識楯無は同じ学園に通う女子生徒から恋愛相談を受ける。翔平と付き合っていることが知れ渡り、そのことが受け容れられてきたころからよく話を聞いてほしいと言われるようになった。
初めは同じクラスの子達からだった。それが同じ学年に広がり、生徒会長として私のことを知っている上級生にも広がり、教師や学食のスタッフまでもが私に相談を持ち掛けるようになった。ちなみにこれまでで最も多く来たのは榊原先生である。
翔平にもその手の相談を持ち掛けられることがあるそうなのだが、話を聞いていると私の方が断然多かった。というか、翔平に関しては一夏君に想いを寄せている専用機持ちの子達のことでいっぱいいっぱいのようだ。
いろいろと話を聞いたりしているときによく聞かれるのが、"いつから翔平のことが好きになったのか"という質問だった。
翔平と出会ったのは、小学校3年生の時だった。
ある日、私と簪ちゃんが学校から帰ってきた時、家の門の前で1人の男の子が倒れていた。それを見つけた私達は、すぐに家の中にいたお母さんを呼びに行った。
幸い、男の子に目立った怪我は無かったみたいで、来客用の部屋に布団を敷いて寝かせてあげたみたい。お母さんには大丈夫と言われたので、私も簪ちゃんもその日の勉強をお母さんから教えてもらった。
勉強が終わって、夕食までの時間で私と簪ちゃんは倒れていた男の子の様子を見てきてほしいとお母さんに頼まれたので、男の子が眠っている部屋に向かった。
襖を開けて部屋に入って見ると、男の子は目を覚まして起き上がっていた。身体はもう何とも無さそうだったので私は男の子の名前を聞いてみて、簪ちゃんはどうして倒れていたのかを尋ねた。
すると、男の子は自分の名前が上代翔平だと教えてくれたのだけど、問題は簪ちゃんの質問に対する答えだった。
彼は記憶喪失だった。
次の日、私や簪ちゃん、虚ちゃん、本音ちゃんはいつも通り学校へ行き、上代君はお母さんに連れられて病院に向かった。
学校から帰ってきた時にお母さんから聞いた話だと、上代君の記憶喪失の原因は精神的なものだったみたい。それと、お父さんがうちの力を存分に使って調べた結果、上代君にとって家族と呼ばれる人は皆すでにこの世にはいないことが分かった。
そのことを聞いた時、私は不思議と自分のことのように思えて、悲しくなった。だからだろう、お父さんが上代君を再び施設に入れると言い出した時には、お母さんや簪ちゃんと一緒になって反対した。どうしてそんな酷いことが出来るのだろうか。
後になって聞いた話だと、お父さんはこの時生きてきてこんなにも恐怖を感じたことはなかったと言っていた。お父さんが悪いんだから仕方ない。
こうして、上代君は私の家の居候となることになった。
上代君と一緒に暮らし始めて、お互いに名前で呼びあうようになった。元々、私と簪ちゃんが姉妹なので名前呼びじゃないとややこしく、ならばと私達も翔平のことを名前で呼んでもいいかとお願いすると、翔平がそれを了承してくれた。
お父さんによると、翔平は私と同じ小学3年生みたいで、私と同じ学校、同じクラスに通うことになった。
翔平と一緒に学校に通い始めた最初の頃は、驚いてばかりだった。それまで、私が断トツで1位だった成績を、翔平は全て超えてきたのだ。体育の授業でも、いつも私がクラスの中で勝って正直つまらなかったのだけど、翔平が入ったことによって、毎回好勝負を繰り広げることによって楽しい時間となった。
勉強面でも、もともと私と簪ちゃんは更識家ということもあって家でお母さんから勉強を教えてもらい、他のクラスメイトよりも数段上の範囲を習得していた。翔平も居候を始めてから同じようにお母さんに教えてもらっていたのだが、ものの数週間で私達と同じ範囲まで習得してしまった。これには私や簪ちゃんはもちろんお母さんも驚いていた。自分たちよりも早くそれまでの範囲を習い終えたことは正直悔しかったが、それでもこれから家でも翔平と一緒に同じ範囲を学んでいけるということが、私は嬉しかった。
翔平が居候として一緒に暮らし始めてから、生活が楽しくなったように思えた。それまでは、更識家の人間として、次期当主という責任感から、勉強も武術の修業も半ば義務的に行い、あまり楽しくない生活を送っていたように思う。それでも、翔平がその生活に入ったことで私は笑顔が増えた気がする。私だけじゃなく、簪ちゃんも虚ちゃんも本音ちゃんも、更識家のみんなが普段を楽しく過ごすことができるようになった気がする。
多分この時には、すでに私は翔平に惹かれ始めていたのだろう。
そんな楽しい時間が続いていた中、更識家の中で大事件が起こった。
ある日、私達が学校から帰ってくると家の中が騒がしかった。何が起きたのかを詳しく聞いてみると、昼間にお母さんが倒れたとのことだった。今は病院に運ばれて安定しているということだったので、私達はその時にたまたま帰ってきた仁さんに送ってもって病院へと向かった。
病室に向かうと、お母さんは眠っていた。そのことで少し不安な気持ちになったが、先に来ていたお父さんの話ではさっきまで起きていたということで、安心することができた。
それからは、私たちは学校帰りにお母さんのお見舞いに行くことが習慣となった。といっても、週に何度も行っていたらお母さんに本気で怒られたので、週に一度程度に減らした。お母さんを怒らしてはいけないということは私達、というか更識家とその関係者全員の共通認識だ。お見舞いに行ったときは、主に私と簪ちゃんが学校や家での出来事をお母さんに話して、翔平がそれに一言二言付け足す。お母さんもそれを笑いながら聞いていてくれたが、私はお母さんのその様子に少し違和感を感じていた。
"もしかしたら体調が悪いんじゃないか?"
そう思ったこともあったし何度か実際にお母さんに聞いてみたこともあったが、お母さんは「大丈夫よ」と返すだけで、私もその言葉を信じた。後になって思えば、この時のお母さんは無理をしていたように思う。でも、私は自分の抱いた悪い予感を信じたくなかったし受け容れたくなかった。
でも、私と翔平が小学校6年生になった年、私の不安は現実となってしまった。ある日学校から帰ると、私と簪ちゃん、虚ちゃんと本音ちゃん、それに翔平がお父さんに呼び出された。
そして、そこでお母さんの容態が急変したということを伝えられた。みんな、一体何を言われたのかもよく分からないまま、病院へと連れていかれた。私と翔平だけは何とか冷静だった気がする。後で翔平に聞いた話だと薄々気づいていたみたいで、前日にお母さん本人の口から言われたようだった。
お父さんに連れられてお母さんの病室に向かうと、既にお母さんは喋るのがやっとという状態だった。それでも、病室に入ってきた私達を見てお母さんは笑顔を向けてくれる。その時に私は悟ってしまった。もうお母さんはいつ力尽きてもおかしくないのだと。多分、私以外の4人も同じだったと思う。
その後、お母さんは最後に私達にある言葉を残した。
『人は1人では生きていけない。貴方達1人の力なんてちっぽけなものよ。だからこそ周りの人からの助けが必要になる。自分1人じゃどうしようもない時は必ずある。その時は必ず周りに助けてもらう、そして助けを必要とする仲間がいれば必ず助けなさい。それが家族なら尚更ね。これは私からの最後のお願いよ』
お母さんが私たちに最後に残したこの言葉は私にとって、大切な言葉となった。
お母さんはこの言葉を残して、次の日私たちが見ている中で静かに息を引き取った。また、そのことが落ち着いた頃に、お父さんが病気であることが知らされて、私が中学生になるタイミングで17代目楯無を襲名することが決まった。
もちろん不安はあった。それでも、私がやらなくてはいけないという責任感で楯無としての仕事に取り組んだ。
けど、そんなやる気が空回りしてしまったのは楯無襲名式から1週間がたった日だった。
楯無としての責任と重圧に押し潰されそうになった私は、お母さんからの言葉を忘れ、簪ちゃんを傷つけてしまった。翔平のお陰で仲直りできたものの、危うく簪ちゃんと喋ることすら難しい状況がずっと続いてしまっていたかもしれない。
多分、この時だと思う。
私が自分の気持ちに気付いたのは。
翔平に励まされながら彼の胸で泣いた時、私は翔平の事が好きなのだと気付いた。
無事に簪ちゃんと仲直りできて、徐々に楯無としての自分に慣れてきた頃、更識家の中で新たな事件が起きた。
翔平がISを動かしたのだ。
暇だからと言って私と簪ちゃんと共に出雲まで来た翔平が、私達が模擬戦をやっている最中に何処かに行ってしまった。と思ったら出雲の職員に呼ばれて行くと、翔平がISを動かしていたのだ。
これにはその場にいた全員が驚いた。
女性にしか動かすことができないISを、男である翔平が動かした。この事実を更識家としてはどうするかということが話し合われた。私とお父さん、そして翔平本人で話し合った結果、翔平がISを動かすことができるということは更識家に関わる人間以外には極秘とすることに決まった。日本政府にも、更識家と関わる上層部の一部にだけ知らせて、その他には黙ってもらうようにした。更識の任務として、翔平はISを使うことになった。
このことが決まったことによって、翔平は任務でISを使用するためにも、ISを一通り使えるようにならなければならなくなった。
ということで、私と簪ちゃんにISについてを教えてもらった葵さんが、翔平のISの教官になった。
それから約一年間、翔平の目は死んでいることが多かったように思う。何度か訓練中の翔平を覗いたことがあるのだが、私から見てもあれは地獄だったと思う。
そうこうしているうちに、翔平のISの実力は上がっていった。1年間の最後の方では模擬戦で私が負けることもあったぐらいだ。ロシアの代表候補生として思うところはあったけど、まぁ翔平だしと無理矢理納得した。
翔平が任務に就くのに十分な技量を身に付けた頃、私はIS学園に入学することになった。
日本人である篠ノ之束博士がISを開発したため、日本においてIS絡みのトラブルや問題は多くなる。その中でもIS学園では特にそう言える。そのため、更識の長として対策に取り組むために、私は学園に入学することとなった。
寮生活のため、翔平と過ごす時間が極端に減ることは淋しかったが仕方がなかった。
学園に入学するために家から離れる日の前日、簪ちゃんから「お姉ちゃんはお兄ちゃんに告白しないのか?」と聞かれた時は本当に驚いた。
私が翔平のことが好きということは、簪ちゃんにはバレバレだったようだ。
普段一緒に暮らしていて、もしかしたら翔平も私のことが好きなのではと思うこともあった。それでも、もし違ったら、今の関係性が壊れてしまうのが怖くて私は一歩先に進めないでいた。
翔平はモテる。小学校でも中学校でも、何人もの女子から告白を受けていた。でも翔平はその全てを断っていた。なら私のことは…?と考えたことも何度もあったけど、やっぱりその先を聞くことは出来なかった。
結局進展しないまま数か月が経過したころ、世界を揺るがすニュースが報道された。
男がISを動かしたのだ。そのこと自体は、翔平の件ですでに驚いていたのでそこまでの動揺はなかった。翔平が動かしたのだから、他にもISを動かすことができる男性が現れるかもしれないということは想定されていたし。
結果的に、翔平はIS学園に入学することになった。ISを動かした織斑一夏君や生徒の護衛の任務としてだとか理由はいろいろとあったけど、正直に言うと私がただ翔平と一緒に学園の生活を送りたかったのが一番の理由。誰にも言わないけど。
何はともあれ、こうして私は再び翔平と一緒に過ごすことができるようになった。
そして、翔平が入学してきた初日。この日を私は一生忘れないだろう。
きっかけは、休み時間に流れてきた噂だった。
"2番目の男性操縦者がクラスの自己紹介で好きな人がいると言った"という噂は学年の壁を越えて私達2年生、さらには3年生にまで瞬く間に広がっていった。まぁ広げたのは薫子ちゃんなんだけど。
簪ちゃんにメールを送って確認したところ、噂は本当だということが分かった。そのことが、私の不安を大きくさせた。翔平のことだから、女子からの告白対策として先手を打ったのだろうけど、それでも私はその"好きな人"が誰なのかがどうしようもなく気になった。
生徒会室でそのことを聞いたときはいつもの私だった。でも自室で聞いたときは、いつもの私ならそんなことは聞かなかったと思う。
寮の部屋割りは更識家としてのやり取りとかいろいろと理由を並べて、寮長の織斑先生に何とか納得してもらって翔平と同室にすることができた。その時、織斑先生にはいろいろとバレてしまったようで、最後に「まぁ、頑張れ」という言葉を頂いた。
そして、放課後となって部屋へと移動する時間となった。何も知らない翔平は山田先生のドジが原因で教室を経由してから部屋へ向かうことになり、私が先に部屋で待機することになった。私はここで悪戯を仕掛けたくなった。この前何かの雑誌で呼んだ、"男性に効果抜群な服装"の記事の中にあった"裸エプロン"を思い出して、さすがに本当に裸エプロンをするのは恥ずかしいので水着の上にエプロンを着て、翔平を驚かせようとした。
結果は、見事にカウンターを決められて私が撃沈した。……あれはズルいと思う。
が、翔平にもダメージはあったようで、結局は2人して顔を赤くしながら夕食を取るために食堂へと向かった。
とはいっても、勝手知ったる仲なのですぐにいつも通りに戻った。そのまま簪ちゃんたちと合流して夕食を取り、翔平と部屋に戻った。
ここまでは良かった。
問題は、部屋の備え付けのシャワー室で汗を流しているときに、再び翔平の"好きな人"のことを思い出して考え込んでしまったことだった。翔平は荷解きをしていたから気づかなかったようだが、明らかにその日の私のシャワーの時間は長かった。
不安や悪い予感というものは、一度考え始めるとなかなか抜け出せなくなってしまう。結局、私は翔平がシャワー室を使っている間も、その後の更識としての情報交換を行っている間も、頭の一部でずっとそのことを考えてしまっていた。
そして、私は気づいたら翔平にそのことを聞いていた。考えがまとまらず、自分でも何を言ったらいいのかもわからず、溢れそうな涙を何とか堪えながら話して、それでも言葉が出なくなって下を向きながらただただ涙を堪えた。
私の言葉を黙って聞いていた翔平は何も言わなかったが、私が黙ったタイミングでゆっくりと話し始めた。
翔平が話し始めて私は顔を上げて聞いていたのだが、聞いているうちに涙は堪えられなくなった。
『俺が好きな人は、昔からずっと刀奈だけだ。これからもずっと、君を好きでいる』
その言葉を聞いて、その意味を理解した時には、涙は止まらなくなっていた。
そして、私の思いもようやく伝えることができた。
ずっと、聞きたかった言葉。言ってもらえるかわからずに不安にもなった言葉。それを翔平が言ってくれた。そのことがうれしくて私は彼の胸に飛びついた。
きっと、この瞬間はこれから何年経っても鮮明に覚えているのだろう。
いろいろな質問を様々な人からされるけど、この時の話だけは誰にも言わないようにしている。
あの瞬間は
私と翔平だけが知る
私にとってとても大切なものだから。
意外と書き始めると難しかった……。
これからもちょくちょく挟んでいくと思います。
感想評価等よろしくお願いします。