どうせ転生するなら更識姉妹と仲良くしたい   作:ibura

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卒論の準備進めないと……。


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楠姉妹と豊からの質問攻めから解放され、俺は精神的な疲れを感じながら学園に戻った。

最後の無駄な1時間のせいで時間が遅くなったため、帰りにどこか寄って夕食を済ませようと思っていたら、藤丸さんに「今日スープカレー作ってるんだけど、食べてくかい?」と言われたので有り難く頂くことにした。

藤丸さんの作るスープカレーは本当に美味しい。出雲で本人の気まぐれで作るが、毎回数量限定で配るので所長室の前にはそのカレーを求めて列ができる。……この人無駄に女子力が高い。それこそ、そこら辺が壊滅的な楠姉妹と比べると雲泥の差がある。

 

そういえば、さっき本音に連絡して例の新聞を楠姉妹に渡したことに関する弁明を聞いた。曰く、お菓子()で釣られたらしい。いいネタ提供して報酬をたんまりと受け取ったようだ。ギルティ。

しかしよくよく話を聞いていると、どうやら楠姉妹は本音に話を持ち掛ける前から、すでに俺と刀奈が付き合っていることは知っていたようだ。本音が漏らしたのではないとすると、真犯人は別にいるということになる。……まぁ大体の予想はついたが、確認のために楠姉妹に連絡を取って聞いてみた。電話に出た華さんに聞いてみると、意外とあっさり教えてくれた。「さっきいろいろと聞けたから」ということで教えてもらえたのだが、さっき話した内容が出雲内で知れ渡りそうで怖い。一応釘は指しておいたし、藤丸さんに頼んだので何とか食い止めてもらうことを期待しよう。

そうして教えてもらった真犯人、まぁ予想通り仁さんだった。なんでもこの前飲んでた時に酔った仁さんが口を滑らしたらしい。理由はどうあれ情報を漏らしたことに違いはないのでギルティ。即刻、葵さんに連絡して例の日本酒を仁さんが勝手に飲んだことを伝えた。多分今頃少しずつ飲んでいたお気に入りの日本酒が空になっているのを知った葵さんがブチギレているだろう。

 

そこまでしたタイミングで、俺は学園に帰ってきた。なんだかすっきりした気分だ。

 

 

学生寮に戻り自室を目指して通路を歩いていると、ちょうど曲がり角の陰から飛び出してきた人物とぶつかり、ぶつかった相手はその衝撃によって倒れてしまった。

いきなり曲がり角から飛び出してきたことに対して、一言二言言ってやろうと思って倒れた相手を見てみると、それは見知った顔、というか今日自己紹介したばかりの人物だった。

 

ひとまず手を差し出して相手、鈴を立たせる。

 

「大丈夫か、鈴?」

「えぇ……ありがと」

 

俺の手に掴まって立ち上がった鈴だったが、昼間に話した時より元気がなく、そして彼女は泣いていた。一目見ただけで何かがあったということが分かる。

 

 

「とりあえず、俺の部屋に来るか?話ぐらいは聞くぞ?」

「………」

「事情は知らないけど、人に話したほうがスッキリすると思うぞ」

「……分かった」

 

頷いた鈴を連れて、自室へと向かう。

事情は知らないとは言ったけど、十中八九一夏関連で何かあったのだろう。そういえば原作で何かあったような気がするが、正直あまり覚えていない。

自室までの道中、鈴は一言も喋らなかった。流していた涙は止まっているが、またすぐにでもあふれ出しそうだった。そのまま会話のないまま自室の前に着いたので、俺は鍵を開けて中に入る。

 

「まぁ、とりあえず中入って」

「……お邪魔します」

 

部屋の中に入ると、机に向かって何か作業をしていた刀奈が俺たちに気付いて振り返った。

 

「翔平、お帰り。それと、鈴ちゃんだっけ」

「…はい、お邪魔します」

「なに翔平、彼女がいる部屋に堂々と女の子連れ込んだの?」

「頼むからそういう解釈はやめてくれよ!?」

 

鈴を部屋に連れてきたことで刀奈からジト目を向けられるが、すぐに視線を俺から鈴に向けた。

 

「とりあえず、顔洗ってらっしゃい。話はそれからよ」

「……はい」

 

おそらく、刀奈も鈴の表情を見て何かあったと察したのだろう。鈴を洗面所へと向かわせた。

 

「それで、何があったの?」

「俺もよく分からないけど、さっき廊下の角でぶつかったらあんな感じだったからほっとけなかった」

「まぁ、確かにあの状態の鈴ちゃんを帰すのは気が引けるわね」

「だろ?」

 

 

察しが良い刀奈は分かってくれたようだ。

刀奈と話していると、顔を洗いに行っていた鈴が戻ってきた。

 

「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

「あ、コーヒーでお願いします」

「分かったわ、翔平はどうする?」

「俺もコーヒーで」

 

俺が答えると刀奈はコーヒーを淹れに行った。

俺がコーヒー好きということで、俺たちの部屋にはそこそこ良いコーヒーメーカーが置いてある。元々更識邸で使ってたやつだが、俺が入学する時に持ってきた。紅茶のティーパックもあるが、虚の淹れる紅茶には勝てないのであまり部屋では飲まない。放課後に生徒会室で虚の淹れた紅茶を飲み、部屋ではコーヒーを飲むのが最近のパターンだ。

 

「あんた達、本当に同じ部屋なのね」

「新聞に載ってただろ?」

「正直半信半疑だったわ。てっきり男2人が同じ部屋だと思ってたから」

「まぁ色々と事情があったんだよ」

「色々ねぇ」

 

鈴にジト目を向けられるが誤魔化す。なんか今日はずっとジト目向けられてる気がする。

そうこうしていたら刀奈が人数分のコーヒーを持って戻ってきたので、とりあえずコーヒーを飲んで鈴の話を聞くことにした。

 

やはり、原因は一夏だった。

何でも、一夏と鈴は元々幼馴染だったらしく、鈴が中国に帰る前に一夏に言った「料理の腕が上達したら毎日酢豚を作る」という遠回しの告白の約束を、一夏が「酢豚を奢ってもらう」と解釈していたらしい。

 

「あぁ…」

「それは…」

 

刀奈と2人で何とも言えない表情になる。確かに間違って解釈していた一夏が悪いとも思うが、一夏の元々の性格を考えると回りくどい言い方をした鈴も鈴で……。

刀奈の方を見ると、目が合った。

 

 

--どっちもどっちだよなぁ、これ。

 

--でも、女としては鈴ちゃんの気持ちを考えると一夏君を非難したくなる気持ちもわかるわ。

 

--一夏のあの性格はどうしようもないからな。

 

--一夏君のあの性格をどうにかすることが、学園の平和にも繋がる気がするわ…。

 

 

 

「ねぇ、目の前でイチャイチャしないでくれない?」

「あぁ悪い」

「ごめんね」

 

俺と刀奈の謝罪を聞いてはぁとため息を吐く鈴。

 

「ま、まぁでも、クラス対抗戦で勝負吹っ掛けたんだろ?それに勝てばいいじゃん」

「当たり前よ!!絶対に勝つわ」

「でも、それだと翔平のクラスが負けることになるわよ」

 

クラス対抗戦で勝利したクラスには学食デザートの半年フリーパスが配られることになっている。それを聞いたスイーツ大好き女子たちは目を光らしていた。当然、一番喰いついたのは本音だ。まぁどっちにしろ当分奴の手に甘いものは渡らないが。

 

「俺は別に甘いものはそれほど好きじゃないからな」

「そうだったわね」

「じゃあ、私そろそろ部屋に戻るわ」

 

俺たちに話してスッキリして、俺たちの話を聞いて逆にテンションを下げた鈴は、部屋に戻るために立ち上がった。その鈴を刀奈が呼び止めた。

 

「あ、待って鈴ちゃん」

「何ですか?」

「お姉さんからアドバイスよ。勇気を出して素直になってみるのもいいんじゃない?」

「でも…」

「あなたの性格は何となく分かったわ。それでも、彼が変わらないのなら自分が変わらなくちゃ」

「…分かりました」

「いつでも話聞いてあげるから、また部屋にいらっしゃい」

「ありがとうございます」

 

刀奈にお礼を言って、鈴は自室に帰って行った。

 

 

「そういえば、翔平はもう夕食食べたの?」

「あぁ、出雲で食べてきた。藤丸さんがスープカレー作ったから」

 

俺がそういった瞬間、刀奈が目の色を変えた。

 

「私の分は!?」

 

顔を至近距離まで近づけて問いかけてきた。刀奈は藤丸さんのスープカレーが大好物なのだ。それこそ、藤丸さんがカレーを作った時に自分が手に入れることができなかったら一日テンションが下がる。当然、俺が夕食で藤丸さんのカレーを食べたことを伝えて、刀奈がその話に喰いつくことは予想できた。

 

「そういうと思って、一食分だけもらってきた」

「ほんとに!?ありがとう翔平!!!大好き!!!」

 

俺が荷物の中からカレーの入ったタッパーを取り出すと、刀奈が抱き着いてきた。「どうせ楯無君にも渡さないと後で大変だから、一食分渡しておくね」と言ってもらった藤丸さんには感謝だ。そのせいで、ギリギリ食べることができなかった最後に列の最前列に並んでいた職員の人には申し訳ないと思う。まぁ藤丸さんが次に作った時の優先券渡してたけど。

それにしても、大好きなのは俺なのか、カレーなのか……、まぁ両方だろう。

 

 

「今のうちに鍋に移し替えておいて、明日の朝食べよ♪」

 

……両方だと思いたい。キッチンにスキップで向かう刀奈を見て、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れて、週が明けた。今日はクラス対抗戦の初日だ。

 

「これ、お前の仕業か?」

 

トーナメント表を見ながら、俺は隣に立っている刀奈に聞いた。一回戦の第一試合の組み合わせが、『織斑 一夏 対 凰 鈴音』と書いてあったのだ。そして隣に立つ刀奈は一仕事終えたような表情をしている。

 

「だって、もしも2人が当たる前にどっちかが負けちゃったら約束が台無しじゃない」

「いや、まぁそうなんだけどさ」

 

刀奈の言うことも確かだし、トーナメント表もちょうど一組から順に右から埋めているので不自然ではないからまぁいいか。どうせ、この第一試合しかやらないんだし。

 

「さて、移動するかな」

「どこに行くの?」

「一夏のピット。まぁ一言ぐらい言っといてやろうと思って」

「じゃあ私は鈴ちゃんのピットに行ってこようかしら」

「あ、俺そのままピットで試合観戦するから」

「あら、そうなの?」

「何かあった時にすぐに出れるようにな。今日は嫌な予感がする」

 

例のゴーレム(・・・・・・)がアリーナに侵入してきた時に、少しでも早くアリーナに出ることができるために、ピットで待機しておくことにする。そして、さっき言った嫌な予感とは、ゴーレムが侵入してくることではない。原作通りに、ゴーレムは一体しか(・・・・)侵入してこないのか、そこに俺は嫌な予感を感じた。俺というイレギュラーをあの兎がどう感じているのかは知らないが、ここで何かしらの手を打ってきそうな気がするのだ。故に警戒する。

 

「……翔平の嫌な予感って当たることが多いからね。分かったわ、私も後でそっちに合流する」

「了解」

 

 

 

さぁどう動いてくるよ、狂った兎さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「おかしい、タイトルには"更識姉妹"ってあるのに、お兄ちゃんはお姉ちゃんとしか仲良くしてない」

「そう?かんちゃんもしょうちゃんと仲良いじゃん」

「その描写が書かれていないことが問題」

「ま、まぁそこは仕方ないんじゃない?」




この作品を書き始める前はもっと簪との絡みも書くつもりだったんです。でも2人を引っ付けてから全然出番が無くなってしまって……、オカシイナ。


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