畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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九三話:象る白銀の城

 さて、俺の『行動』だが──これは実はお風呂に入った段階でチベスナと打ち合わせていたことだった。

 今でこそキタキツネもギンギツネも普通にしているが、さすがに俺のやったことで二人が喧嘩しておいて、そのまま放置っていうのもちょっと据わりが悪いからな。だから先ほどの反省も踏まえて、二人がきっちり一緒に楽しめそうなものを考えていたわけだ。

 そしてそのための材料を、既に俺は何度も見てきた。

 

 思っていたよりも手付かずのまま残っていた、屋根の上に積もるそれ。

 湯気の向こうにもまだ広がっていた、大量の白。

 

 そう────。

 

「雪遊び、するぞ」

 

 雪遊び。

 この雪に囲まれた宿において最も身近な娯楽といえば、これだろう。俺がやっただけでも雪合戦のような遊びが可能だ。まぁこれは卓球のように喧嘩が発生してしまうので強いて伝えるつもりはないが、かまくらを作ったり、かまくらでなくとも変わった形の雪だるまを作ったり、うまく創意工夫をすれば年中遊べるんじゃないだろうか。雪やこんこって言うくらいだしやっぱキツネたるもの外で遊ばねばな! 俺はネコなので炬燵で丸くなってるが!

 

「雪遊びだと思いますよ?」

 

 そんな俺の宣言に対し、チベスナは首傾げる。おう、そうだよ。

 

「このへん、それこそ売るほど雪があるじゃないか。だからそれを使った遊びなら、二人も十分楽しめるんじゃねぇかなと思ってな」

「おー、楽しそうだと思いますよ。……でも雪合戦は二組に分かれないとできないと思いますよ?」

「いや、雪遊びってなにも雪合戦のことだけを言うわけじゃないからな……」

 

 ともかく。

 

「そういうわけでキタキツネとギンギツネに新たな遊びをプレゼンするわけだが……俺は一度卓球で失敗してるし、ギンギツネはともかくキタキツネは俺がただ口で言っただけで興味示してくれるかちょっと微妙だからな」

「だから?」

「一足先に雪遊びの『結果』を作る。それを見れば、ギンギツネもキタキツネも興味を示してくれるだろ」

 

 逆に言えば、それで興味を示さなかったら何やっても意味ないってことだ。それをあの二人が入浴しているうちにやりたいというわけである。

 

「おー、なんだかおもしろそうだと思いますよ!」

「そう言うと思った。そろそろ日が暮れるし、ちゃっちゃとやっちまおう」

 

の の の の の の

 

ゆきやまちほー

 

九三話:象る白銀の城

 

の の の の の の

 

 表に出てみると、宿の外はすっかり薄暗がりに包まれていた。

 持ち出しておいた懐中電灯であたりを照らすと──垣根も地面も、あらゆるところに積もった雪が白い光を反射している。差し詰め天然の反射板って感じだな。お陰で夜目がきかない俺の目でもばっちり周辺の様子が分かる。

 

「材料はいっぱいだなー」

「それはいいと思いますけど……結局何をつくるんです? かまくらは安全のために大事ですけど、別にこのへんは吹雪が来そうもないと思いますよ」

「まぁな」

 

 そもそも此処はお客が泊まったり休んだりするために作られた施設だし、吹雪が届くような場所にそんな施設作るわけないからな。んで、チベスナ的にはかまくらは危険をしのぐためのものだから、安全な場所で作ってもただ退屈するだけ、と。

 まぁ、実際その通りではあると思う。秘密基地的な運用をするにしたって多分単品じゃ一時間もしないうちに飽きると思うし、そもそもかまくらというのは中でお餅を焼くのが本来の用法だ(った気がする)。フレンズに火は使えないから、かまくらだけ作っても片手落ちだろう。

 だが、雪というのはそれだけではないのだ。

 

「チベスナ……雪はいろんな形に作れるよなあ。かまくらはもちろん、俺は雪の球を作ったし、チベスナはそれを遮るための壁を作っただろう」

「あ、確かに」

 

 俺の言葉に、チベスナは納得がいったように頷く。そう、雪というのは根本的に不定形なのである。だから好きな形に成型することも容易…………なんてことは普通言わなくても分かることだけどな。

 でもフレンズはそもそも『雪を使って何かを作ろうと考えたこともない』ので思いつかない。まぁ、チベスナは既にかまくらの存在を知っているのでコイツに限っては放っておいてもいずれ思いついただろうけど。

 

「それと同じように雪を何かの形に固めて像を作る。つまり雪像づくりだな」

「せつぞう! 面白そうだと思いますよ」

 

 チベスナも乗り気になったところで、さっそく雪像づくり開始である。まずは何を作るか、という点だが……今回はアイデア出しの方はチベスナの方に丸投げするつもりである。

 こういう創造的な作業って、俺の頭の中にあるアイデアを遣おうとすると高確率でチベスナにうまく伝わらなくてひと手間かかるからな。それならチベスナの方にアイデアを出させれば、俺も上手くくみ取れて手間が少なくて済むのである。

 

「で、何作る?」

「チベスナさん、雪でお城を作ってみたいと思いますよ! チベスナ城ゆきやまちほーばーじょんを……」

「あの城の名前チベスナ城になってたんだな……」

 

 まぁ別に異論ないけど。

 雪でお城ね……どうやらロッジ地帯で作った砂の城がだいぶ気に入っていたらしい。たぶん今頃あの砂の城崩れてると思うけど。

 

「OK、じゃあ雪で城を作ることにしよう。……雪の城って、なんか幻想的だよなー」

 

 言いながら、俺はまず周囲から雪をかき集めることにした。作る場所が邪魔だと、さっさと崩されてしまってもったいないから集める場所も肝心だな。今回の場合は、入り口となる垣根の横の方に雪を積もらせていって、と……。

 

「あ、そうだ。雪は砂と違って、一度押し固めたら元の状態には戻らないと思うから気をつけろよ」

 

 あんまりぎゅうぎゅう押しすぎると、手の温度とかで解けたのが固まって氷っぽくなっちまうからな。そうなったらもうどうしようもない。砂よりは工作の自由度が低いのだ。

 

「分かったと思いますよー」

 

 雪をかき集めている俺とは別に、集められた雪をぎゅうぎゅうと押し固めて形を作るチベスナ。あの分だと……大きさは大体一メートル弱って感じかな。まぁ十分なサイズだろう。雪集めはこれくらいにしておくか。

 俺は雪像っていうとどうしても札幌の雪まつりとかをイメージしてしまうからちょっと見劣りしているように感じるが……よく分からないけどああいう場に出てくる雪像って多分普通に雪を固めて作るもんではないと思うし、あんまり大きすぎるとぶっ壊れて全部おじゃんっていう未来が容易に見えるからな。ここは最初だし慎重に事を進めるべきだろう。

 

「せっかくだし、細部にも凝りたいと思いますよ。イメージは昔えいがで見たまおうの城だと思いますよ!」

「お前の見た映画のレパートリーほんと謎だよな……」

 

 そういえば、ジャパリパーク配給の映画はジャンルが様々すぎる気がする。というか若干クソ映画臭すらするんだが大丈夫だろうか? 天下のジャパリパークがサメ映画とか上映してたりしないよね? 動物虐待だよ?

 

「まぁいいや。ちなみにお前が見た魔王の城ってどんな感じなん?」

「それはもうでっかくてゴツゴツしててトゲトゲだったと思いますよ!」

「語彙なー」

 

 それ全然伝わらねぇからな。まぁなんとなく、鬼ヶ島的な雰囲気の造詣なんだろうということは(チベスナが怖そうな顔を作っているので)イメージできるが……。

 

「とりあえず、どんな城を作るにしてもこうやって山の形を作ってここから削っていって城の形にするぞ」

 

 後から雪を崩していくことを考えて、あまりぎゅうぎゅうに固めたりせず、やんわりと山の形を作る。そして、ここから城の形に斜面を削ったり、付け足す部分は付け足したりして、城の形のディティールを形成していくのである。

 

「あ、チーターそこはもうちょっととんがってると思いますよ」

「あいあい、こうか?」

「そんな感じだと思いますよ!」

 

 んー……こうやってチベスナの指示で何かを作るって、案外新鮮な気がするな。これはこれで悪くない。チベスナもさすがに『ものづくり』をすることに慣れてきているのか、指示もそう突飛なものじゃないしな。

 

「──あとは、ここにこわい顔を彫れば完成だと思いますよ!」

 

 そうして雪山を雪の城に錬成すること、三〇分ほど。

 とっぷりとあたりが宵闇に包まれた頃には、雪の城はすっかり完成していた。

 

「ふー……意外と綺麗に作れたな」

 

 俺は正直、途中で造詣するときに手が滑って一部崩落したりとか、重量に負けて一部が外れたりとかで工程がいくつか巻き戻ることも覚悟していたのだが……そういうこともなく。

 実に真っ当に、オチらしいオチもなく、普通によい雪の城が完成していた。うむ、我ながら芸術点も高いぞ。

 

「んじゃ、あとはこの雪の城をキタキツネとギンギツネに見せて完成、と」

「ん? チーター、何を言ってると思いますよ?」

 

 俺が宿に戻ろうとしていると、チベスナはきょとんとした表情を浮かべながら首を傾げた。

 その手元には…………なんか真っ白い棒みたいなものがある。

 

「えいがだと、魔王城は勇者バルに倒されると思いますよ。やっと準備が終わったんですから、そこのところやってから終わりにすると思いますよ」

「…………は?」

 

 いや、その雪の城が今回の成果物であってだな、それを壊しちゃったら意味が──はっ!!

 まさかコイツ……『雪を使って道具を作ってごっこ遊びをすること』を雪遊びだと勘違いしている……!?

 いや、思考回路としてはおかしな話じゃない! 雪『遊び』と言われて物を作るだけで終わると考えるようなヤツではないし、俺自身も雪像を作るぞとは言ったが、雪遊びの目的がそれだと説明していたわけではなかった。

 そもそもチベスナは雪遊び=雪合戦だと思っていた節があるわけだし、雪を使って何かして遊ぶものだという理解をしていてもおかしくない……!

 

「だが待てチベスナ! ウェイト! ちょっと待って!」

「わっ!? チーター何をすると思いますよ! ちょっとくらいいいと思いますよ! 減るもんじゃあるまいし!」

「減る! 減るぞ! 俺たちの作業時間が無に帰すぞ!」

 

 それはそれで遊び方として間違っているわけでもないので強く出られない俺は、とりあえず剣を振り回そうとするチベスナのことを羽交い絞めにして抑える。くっ、いったいどうすれば……!

 

「チーター、チベスナ? どうしたのよ、お風呂から出たら二人ともいなくなってたから探したのよ?」

 

 と。

 万事休すとなっていた俺の下に、ギンギツネが現れた。

 色々と終盤ぐだぐだになってしまったが………………まぁ、結果オーライかな。




というわけで、ゆきやまコンビの遊びレパートリーに雪遊びが追加されました。地味に原作改変!(なお本筋は何も変わらない模様)

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