畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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あと、先日ぱびりおんでチベスナが実装されました。おめでとうと思いますよ。


八六話:白嵐遮る堅牢の盾

 ──さて、チベスナにかまくらの重要性と一通りの作り方を伝え終えた俺は、そのまま登山コースを進んでいた。

 雪合戦により多少人知を超えた領域で動いたものの、流石にその程度で体力が切れるほど俺は虚弱ではない。むしろ程よく動いたことで身体が温まった気さえするくらいだ。いや、実際これはちょっとした誤算だった。

 今までは寒いからいやだとばかりにソリにこもって動かないでいたが、まぁ当然ながら動かなければ寒いのは改善しないわけで、不本意ながらもチベスナと戯れたおかげで活動もだいぶ楽になった。怪我の功名……というべきなんだろうか。

 

「チーター、今どのくらいだと思いますよ?」

 

 歩きながら、肩や頭に白い雪を載せたままのチベスナがソリを曳きながらこちらの方を伺って来る。

 んー……別に目印があるわけじゃないから、今はここっていうふうに明言することは難しいんだが……大体山頂まで半分、ってところだろうか。実際には山頂までの間にある分岐路で温泉宿の方に行くから、人間の足なら一時間、フレンズの足なら三〇分ってところだろうか。いやあ、吹雪を警戒していたが、案外吹雪に遭わずに温泉宿まで到着できそうな雰囲気だな。

 チベスナの言っていたことの方が正しかったと思うとなんとなく悔しいが、まぁ道中キツくないに越したことはない。ここは素直に自分の神経質っぷりを反省することにしよう。

 

「ん、大体あと三〇分ってとこかな。もうすぐだよ」

「おー! やっとやどに着くと思いますよ? 今日は雪合戦して疲れたので早くゆっくりしたいと思いますよー」

「一応言っておくけど雪合戦に関しちゃお前の自業自得だし、そんな疲れるほど長い間やってないからな?」

 

 まぁ巨大雪玉に圧し潰されたチベスナにしてみれば、肉体的にはともかく精神的には疲れているのかもしれんが。

 

「むー。あ、でもそういえば、チーター吹雪がどうとか言ってたのに結局来なかったと思いますよ」

 

 くぎを刺した俺に不満げな声を漏らしていたチベスナだが、そこで雪合戦の時に話していたことを思い出したのか、得意げな表情を浮かべてそう言ってきた。

 

「……そうだな」

「ぷぷー。チーター、大げさなんだと思いますよ。自分がゆきやまちほー苦手だからってびびりすぎなんだと思いますよ」

「お前なあ……」

 

 備えあれば憂いなしという言葉を…………いややめよう。今回のところは俺の心配が杞憂になったのは確かだし、これ以上何を言ってもチベスナを付けあがらせるだけだ。この報いは温泉宿についてからゆっくり与えてやればよい……。

 

「大体!」

 

 俺が言い返さないのをいいことに、チベスナは両手を広げて大袈裟な動きをしながら続ける。ソリは……あ、お腹で引っ張ってるのか。

 

「ちょっとくらい吹雪いたからってなんだと思いますよ。チーターは寒いから大変かもしれませんけど、そのときはソリの中に入っててくれれば大丈夫だと思いますよ!」

 

 そう、自信満々に勝ち誇っていたチベスナだったが──、

 

の の の の の の

 

ゆきやまちほー

 

八六話:白嵐遮る堅牢の盾

 

の の の の の の

 

「しゃぶぶっぶぶぶぶ…………」

「だから言ったじゃん……」

 

 温泉宿まで、あと一〇分といったところで山の天気は急変した。

 さっきまでちょっと曇ってるかなー? くらいの感じだったのが、みるみるうちに一面の曇天となり、風が吹き始め、粉雪が飛び交いだし、やがて視界全体が完全にホワイトアウトしてしまった。

 これではどうしようもないので俺はフレンズの膂力でもって早速雪をかき集め、ソリも入るくらい巨大なかまくらを作っているのだが……。

 

「っつーか、俺より寒さに強いチベスナがなんで早々に音を上げてるんだよ?」

「なんでかなんてチベスナさんにも分からないと思いますよ……」

 

 震えつつ、チベスナは俺と一緒にかまくらを作っていく。

 んー……、あ、そういえばチベスナは大雪玉につぶされて、そのあともなんとなく雪を上に乗せたまま移動してたんだっけ。それなら俺よりも体温を奪われていることになるから、余計に寒さの限界が来る時間が早まっている……のかもしれない。

 まぁどうでもいいことだな。

 

「ま、これでチベスナも分かっただろ。これが吹雪だ。寒いって怖いだろー」

「でもこれ、わざわざかまくら作る必要あると思いますよ? たった一〇分なら急いで行けば案外温泉宿につくんじゃ」

「冗談!」

 

 バカを言ってくれるな。さすがは地元であるへいげんちほーで俺を案内しつつ華麗に迷子になったチベスナというべきか。もう判断基準の一つ一つがこいつを迷子へと導いているとしか思えん。

 

「この一面真っ白な景色の中で真っ直ぐ進めるはずがないだろうが。ぜったいぐるぐる回って迷子になるから。あと、この寒さの中で歩き回るの、単純に寒いし不安だから嫌なんだよ」

 

 ぺしぺしと雪の山を固めながら、俺はチベスナに補足する。既に雪山の大きさは直径二メートルくらいの半球形になっているので、あとはソリが入るくらいの入り口を──、

 

「あ゛っ!?」

 

 と思ってソリの方を振り返って見てみると、そこには白い山に半ば埋められているソリの姿があった。

 ……チベスナがへまをしたとか遊んでたとか、そういう次元ではない。全く何もしていないのに──というか全く何もしていなかったからこそ、ソリが自然に雪に埋もれてしまっていたのだ。

 

「やっばい! チベスナ、俺はかまくら仕上げるからそっちのソリの雪を払ってくれ! このままだとソリが雪まみれになる!」

 

 正直、この吹雪は暴風雨とあまり変わらない。さすがにビニールシートで守っているとはいえ、暴風雨の中でソリを裸で置いていれば、荷物に水がしみこまない保証はないからな。

 

「ぶるぶる……別に雪まみれになってもいいんじゃないかと思いますよ? 後で払えばいいんですしチベスナさん特に困らないと思いますよ」

「お前の大事なぬいぐるみどもが水浸しになってもか? 雪はもともと水だから、普通にぬいぐるみは濡れるぞ」

「すぐに! なんとかすると思いますよ!!」

 

 ……やれやれ……。

 とりあえずこれで何とかなりそうだ──な!

 

 最後の仕上げをするべく、俺は足に力を込めて、今作り上げたばかりの雪山にナイフを入れるような気持ちで足を突き入れる。

 ソリが入れるくらいに……ソリが入れるくらいに。

 慎重に大きさをイメージしつつ、それでいてこれ以上ソリを雪の中に晒さないように、俺は素早く足で以て雪を掻き出していく。

 

「……ふぅ」

 

 まぁ、既に予行練習は済ませていて、なおかつ(チーター)の素早さは折り紙付きなわけで。

 かまくらの仕上げは、ものの三秒で終了した。……ソリがすっぽり入れるくらいのかまくらを作るって、地味にすごいことしてるよな俺。人間時代だったらたぶん一時間や二時間は余裕でかかっていたはず。そう考えると、ヒトの器用さを得たフレンズの身体能力って凄まじいよな……。

 まぁ、その極致はかばんなんだけど。アイツだったら一体どれだけのことができるんだろうな……。

 

「おーいチベスナ! こっち終わったから、早くかまくらに入って来いよー!」

「はっ……! す、すぐ行くと思いますよー! しゃぶぶ……」

 

 さっさとかまくらの中に入ると、チベスナも急いでソリを曳いてかまくらの中に入っていった。急ぎすぎて入るときに入り口がソリに引っかかってごりっといったのでちょっと心配だったが……まぁ普通に入った。

 っていうか『しゃぶぶ』ってなんだよ。ちょっと面白いな。

 

「ふぃー……やっと一息つけると思いますよー……。ゆきやま、侮れないと思いますよー」

「だから言ったろ?」

 

 ようやっと雪山の恐ろしさを認めたチベスナに、俺は肩をすくめながら言う。この展開が怖かったから備えてたんだよ、俺は。

 ……っていうか本当に備えておいてよかった気がする。あらかじめ雪山作るとか決めてなかったらもっと手順とかぐだってたと思うし、そうなると余計に寒い思いをする羽目になっただろうからな……。

 

「でもここ……なんだか不思議な感じだと思いますよ?」

 

 中で一息ついていると、チベスナはきょろきょろとあたりを見渡しながらそんなことを言った。

 雪山の高さは二メートルくらいにしたが、穴はさすがにギリギリまで掘れたわけではないので、大体俺が立つとギリギリくらいの高さなのだが──そんな『かまくらとしては広い部類だけどそこそこ狭い空間』で、チベスナはぺたぺたとかまくらの壁を触る。

 

「おいチベスナ。あまり触るなよ。崩れるかもしれないんだから」

「それは分かってると思いますよ。ただ──」

 

 チベスナは依然壁をぺたぺたと触りながら、

 

「この狭さ……なんだか元住んでた巣を思い出したと思いますよ。こういうとこいいですね」

「……あー」

 

 なるほど、元の巣ときたか。

 確かに縮尺的には、チベスナの身長とこのかまくら内の高さはけものだった頃のチベスナと巣穴の縮尺と一致しているのかもしれない。

 

「居心地いいか?」

 

 ……とすると、ジャパリシアターに戻った後にチベスナがほっと一息つけるような小屋を作ってやるのもいいかもしれないな。俺はヒトだった頃の記憶があるから屋内で生活とか全然余裕だが、チベスナからすれば天井の高さが微妙に違ってなんとも落ち着かない、みたいなこともあるかもしれないし、

 

「いや、そこまででもないと思いますよ。というか寒いので居心地は悪いと思いますよ。天井ももっと高い方がいいです。なんでチーターもっと高く作らなかったと思いますよ?」

「………………」

 

 前言撤回しよう。シアターに着いてもこいつのために何か作ってやったりは絶対にしねぇ!

 

「っつーか! 高さ的にこれが限界なんだよ! かまくらの材質が何か知ってるか! 雪だよ、雪! これ以上穴でかくしたら崩れるんだよ絶対に! っていうかさっきも崩れるかもしれないっつったよなぁ!?」

「チーター! 声でかいと思いますよ! 声で崩れたらチーターのせいだと思いますよ!」

「どう考えても煽ったお前のせいだよなぁ!?」

 

 と、ごお! とチベスナにツッコミを入れたその拍子に。

 驚いてのけぞったチベスナの肘が、ごすっとかまくらの壁にめり込んだ。

 

「あ」

「あ」

 

 そして、次の瞬間。

 

 ………………その後あったことについては多くを語るつもりもないが、頑張って作り直してなんとか吹雪は乗り切れた、ということだけは言っておく。

 もう、金輪際チベスナの煽りには乗らないようにしよう……。




・っていうか『しゃぶぶ』ってなんだよ。ちょっと面白いな。
ちょっと前に自分がしゃぶぶぶってたことには全く気付いてません。

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