ちなみに別でけもフレの短編も上げてます。
「でも、ちょっと意外だったと思いますよ」
アクセサリを載せたソリを牽くチベスナを先導して歩いていると、後ろからそんな呟きが聞こえた。
怪訝に思って歩きながら後ろを振り返ると、チベスナは何やらむずかしい顔をしていた。何をそんなしかめつらをしているのやらと思い、俺は軽く問いかける。
「何が意外なんだ?」
「チーターがこのあくせさりーをいっぱい積んでることだと思いますよ。いつもは絶対ダメって言ってると思いますよ」
「ん……まあな」
チベスナの言葉に、俺は適当に語尾を濁した。
確かに嗜好品の類を持っていくことに関しては厳しい規制をかけている俺だが……あそこで俺達が持っていかないとこのアクセサリは多分朽ち果てるまでずっとあのままだったろうし、何より、ちょっとこれを使って色々する考えがあるのだ。
そのへんはまだうまくいくか分からないのでチベスナには伏せておくが。
「ふーん……。まぁいいと思いますよ。それより、早く宿を見つけないとと思いますよ。もうすぐ日も暮れそうですし……」
「だな」
チベスナの言葉通り、既に日は傾き始めている。あと二時間もする頃には完全に日も沈んでしまうだろう。せっかくロッジ地帯にいるのだから、その前に適当な宿に辿り着いておきたいところだ。
さて、その適当な宿はというと……。
「ここだな。『原っぱキャンプ場』。草原っぽい感じのキャンプ場らしいが、コテージもあるらしいぞ。……コテージだよなこれ?」
「チーター」
「何がだよ……あ、コテージか。ん~……木でできた家だな。水道とか、あと電気とかも通ってる……と思うからけっこう快適だと思うぞ。…………多分通ってるよな、キャンプ場だし……コテージなら通ってるよな」
「おお! すいどうとでんき! ……でんきはともかく、すいどうって何だと思いますよ?」
「水場みたいなもんだよ。捻ると水が出てくんの」
「ひねるとみずが……?」
ぼんやりしてしまったチベスナに理解できるまで説明するのもめんどくさいので、俺は説明を切り上げて先導を再開する。
というかコイツ、多分ヘビみたいな物体をひねったら口から水が出ましたみたいな情景を想像してんじゃないだろうか。なんか顔が嫌そうな感じになってるし。
「まぁそんな悪いもんでもないから。心配いらんて」
などと言いつつ歩いていると──チーターの視力が、不意に遠方に物体の影をとらえた。
いや、あれは──。
「噂をすれば影、だな」
「チーター」
「コテージが見えてきたってことだよ」
しまらないなぁ、オイ。
まぁいつものことだが。
そういうわけで、コテージにやってきた俺達だが……、
「…………水道、ないんですけど」
コテージの隅から隅まで探索を終えた俺は、ぽつりと呟いた。
結果、どこにも水道らしきものは見当たらなかった。水道どころの話じゃない。それを擁するキッチンやバスルームも、当然ない。
ここに、水道は存在しない。
「…………電気、ないんですけど」
コテージの外まで探しに回り終わった俺は、ぽつりと呟いた。
結果、どこにも電気らしきものは見当たらなかった。電化製品どころの話じゃない。明かりなどの最低限の設備すらも、存在しない。
ここに、電気は存在しない。
「っていうかバンガローってなんだよ!!」
そうして、俺はそんな木造の小屋の前に立つ看板を指差しながら、世の不条理を嘆いた。
バンガローて……バンガローて! 正直言われてもしばらくバンガローってなんだっけ? って感じで首捻ってたわ! 今さっきようやく『そういえば子どもの頃学校のキャンプでそんなような場所に泊まったような気がするわ』ってなったわ!
っていうかコテージとバンガローの違いってなんだ? コテージは色々設備が整ってるけど、バンガローには何もないみたいな? 完全に今俺たちが直面している現状だが。
「チーター、今更何言ってるんだと思いますよ? 最初に看板見た時にチーターが首を捻ってたと思いますよ?」
「今のは演出上の都合だから」
演出っていうか、分かり切ってたことだけど事実を認識してからもう一度確認するとムカッ腹が立ってくるってこと、あるじゃない。そういう感じだよ。
「で、すいどうとでんきはどうしたと思いますよ?」
「さっきの流れ完全無視かよ」
コテージじゃなくてバンガローだからなかったって話を今までずっとしてただろ。
「でも、どうすっかな……。電気はともかく、ここで水が汲めないとなると、どこかしらで水を調達しなくちゃいけねぇし。まぁ、キャンプ場だからどこかしらに水があるとは思うが」
「おっ、探検ですか? いいですね、行きましょう行きましょう」
「もうすぐ日が暮れるから明日にしたいんだけどなぁ~……」
でもまぁ、水は確保しておきたいし、日が暮れたら戻ればいいから特に問題はない、か。
というわけで、俺達はバンガローにソリを置いて、周辺探索を開始することに。
あたりの景色は何やら懐かしい雰囲気を感じるものだった。低木が疎らに伸び、地面は下草で覆われ──歩きやすい草原の環境である。流石に『原っぱキャンプ場』と言うだけのことはある。本当に原っぱを主体にしたキャンプ場だった。
パーク運営時は、ここもフレンズの憩いの場になっていたんだろうな。
「チーター、なんだか楽しそうだと思いますよ」
「……ん? そうかね」
まぁ自然の中を練り歩くというのは、なんとなく心が洗われる気分になるのでよいと思うが。
決して、チーターの本能として草原を歩けて気分がいいとかそういう話ではないぞ。
「チーター?」
「なんでもない」
それはさておき、周辺の様子だが……、うむ、やはり自然がこれだけあると、野生動物の類もそこそこいるらしい。草の茂みに隠れてがさごそとしている動物たちの姿も、けっこう見られるな。
そして、それに付随して──、
「……む、水の匂いがすると思いますよ」
「ああ、そうだな」
どこからともなく、水の匂いと川のせせらぎが届いてきた。いや、流石にキャンプ場だから水が一切ないということはなかったようだ。そうだよな、俺は行ったことないからよく分からないが、アニメとかのキャンプ回じゃ大抵キャンプって釣りとかとセットな気がするし。ソースがアニメ作品からの推測っていうのはかなり雑だが。
「チベスナさん、そろそろ水が飲みたいと思っていたところだと思いますよ。さあいざ行かん水!」
「水場とか川とかじゃなくて、ダイレクトに水なんだ……」
そこはチベスナ的にはどうでもいいところなのかもしれないが。
とかなんとか言い合いつつ、川に到着。川の周辺は大小さまざまな岩が転がっていて、岩から岩へ飛び跳ねて遊んだりもできそうな具合になっていた。
もちろん水は澄んでいて、飲んだらおいしそうである。チベスナも早速飲んでみたいとみえて、俺の方へと駆け寄ってきた。
「チーター、水筒、水筒!」
「はいはい」
肩にかけたトートバッグから水筒を取り出し、チベスナに渡す。……そういえばこの水筒、全く同じ種類だからチベスナのか俺のかたまに分からなくなるんだよな。
大体水の量で判断しているのだが、こうやって水場付近になると俺も残った水は全部飲んじまうし。
「こけるなよー」
「だからチベスナさんそう簡単に水には落ちないと思いますよ!」
いつものようにチベスナに声をかけてからかったりしつつ、俺も上流の方へ移動して川で水を汲む。
ついでに、水浴びもしたり。服は俺の意思一つで消せるので、水を汲んだその足で水浴びもできるのがフレンズの身体のいいところだな。
お、意外と底深い……。これチベスナがびっくりして滑ったりしてないか不安だな……。
と思って後ろを振り返りチベスナの様子を見てみると、
「うわっこの川意外と深いと思いますよ!?」
思った通り、チベスナは川の深さにびっくりしていた。
ただ、流石に転覆したりするほどではなかったらしく、岩にしがみついてなんとか溺れるのは回避していたらしい。よかったよかった。
と。
そう安心しかけていた俺は、ふとチベスナの様子を見て──あることに気付いてしまった。
アイツ……今丸腰では?
チベスナは今水を汲みに川に入ったはずだから、その手には水筒がなければおかしいはず……。……しかし今あいつの手は、咄嗟に溺れるのを回避する為に岩に……。
「あっ、バカチベスナ! 水筒! 水筒投げたろお前!! 溺れかけた拍子に!」
「えっ? 溺れかけたなんて人聞きの悪……あっ、しまったと思いますよ!」
しまったじゃねえええええええええええええ!!
あの水筒がなくなったらこの先の旅どうすんだ馬鹿!
急いで周辺を探索して──あ、あった! 川を流れながら浮かんでる! まだ水を汲む前だったのが幸いした。中に空気がいっぱい入ってるから、水に浮かんでたんだ。
だが、ここからチベスナの水筒までは若干距離がある。いくら俺の瞬足があるとはいえ、水の中でそれを解放するのは危険だ(滑って頭を打つかもしれないから)。岩を足場にしてもいいが、今の配置だと岩の配置が疎らすぎて、水筒を拾い上げるのにちょっと都合が悪い。
ここは──。
「チベスナ、川の岩、砕け! 足場にする!」
「了解したと思いますよ!」
チベスナに伝えて、俺は消していた服を発現する。高速で移動するのに服がないと寒いからな。
そして、チベスナが手ごろな大き目の岩を砕いて、川中に足場を配置したのを確認すると──世界が、瞬時に停滞する。
チベスナによって砕かれた大岩は川中に疎らに破片をばら撒いてくれたので、ここからどう行けば水筒を拾い上げに行けるのか、そのルートは無数に見える。
その中から、なるべく安全な配置を見定めて──。
「よし、行くぞ!」
俺は跳んだ。
飛び石のように配置された岩を経由しながら、流れて行く水筒に追いすがり、
「とったあ!」
無事、水筒を確保した。
そのまま跳躍し、川べりまで着地。無論、水筒をとったことに油断して川に落水、などという愚は侵さない。そんなことしたらカメラが壊れるからな。
「おお、チーターよくやったと思いますよ! さすがはかんとく!」
「監督じゃないが」
あと、もとはといえばお前のミスだからな。よくやったっていうのはちょっと態度がでかすぎだからな。
まぁ、無事に確保できたし別にいいけども。
「あら? アナタ達……」
──などと話していると。
不意に、俺達とは別の声が、話し声の中に混じってきた。
新たに登場したフレンズ……待って! わたしが推理してあげる。アナタは……!