畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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*『チベスナマン』が物凄い人気だと思いますよ。
*パビリオンにチベスナ参戦決定だと思いますよ。
*チベスナさんの時代がついに来たと思いますよ。

感想が五〇〇件を突破しました。皆さんの感想にいつもエネルギーもらってます。感謝です!


七〇話:気付いた欲望

「………………」

 

 予想できなかったわけじゃない。

 そもそもこのキョウシュウエリアを三人でカバーするって時点でおかしな話なんだ。ハンター達は常に自分達の仲間を増やしたいと思っているに決まっている。現にリカオンの視線も、どこか期待する色を帯びているような気がするし。

 これまでハンターが増えてこなかったのは、『ハンターの資質』を持つフレンズがいなかったってだけのことなんだろう。それなりの力、自分のできないところを理解するだけの頭、みんなを守りたいという意思、そこまであってで初めてハンターっていうのは成立するんだと思う。

 その点で言えば、図らずも俺はこの二日間でそのすべてをハンター達に見せてきた。意思に関してだけは個人的には微妙だと思うが、まぁここまでの旅路で様々なセルリアンから現地のフレンズの暮らしや施設を守ってたってチベスナが言っちまったし……ハンター視点から見ればそう思われても仕方がない。

 だから俺も、薄々こうなるんじゃないかと思っていたんだ。

 

「駄目……ですか?」

 

 俺の目の前で、キンシコウはさらに言い募ってくる。

 

「もちろん、チベスナさんと別れろと言うつもりはありません。むしろ一緒にその力を……」

「駄目だと思いますよ!」

 

 そんなキンシコウに、チベスナはすぐさま言い返した。

 

「チーターはチベスナさんのかんとくですので。ハンターをやる時間はないと思いますよ!」

 

 俺とキンシコウの間に滑り込むように立ったチベスナは、そう言って聞かないという雰囲気だった。

 ……まぁ、チベスナの回答はそうだわな。今は旅をしているわけだが、元々の縄張りはジャパリシアターなわけだし。一応、一周してジャパリシアターに戻ったあとも色んな地方に遊びに行くつもりではあるが、俺もチベスナも基本はジャパリシアターに落ち着くことになるだろうし、ハンターのようにほぼ常にパーク中を回るっていうわけにはいかない。

 

 と、そこまで考えて、俺は気付く。

 

 ――そもそも俺の縄張りって、ジャパリシアターじゃなくね?

 俺は転生してからずっと旅を続けてきたわけで、特に旅が終わったらジャパリシアターで暮らそうとかそんな話をチベスナとした覚えも毛頭ない。むしろ自分からそういう方向へ持っていこうとするチベスナを拒否していたまである。

 旅を始めた当初も、『とりあえずパークを一通り見て回る』というつもりではいたが別に明確なゴール地点を設定していたわけでもないのに……気付けばジャパリシアターに居つくつもりでいた。

 というか考えてみれば、サバンナ地方のアーケードの時点で『ぬいぐるみはジャパリシアターへ戻ったあとにまた取りに来ればいい』とか……完全に、パークを一周し終えた後もチベスナと一緒にいるつもりになってたじゃんか。

 最初は単なる旅の道連れのつもりだったのにいつの間に…………うわ、今更、本当に今更認識が変わってたことを自覚した。

 

「……べつに監督じゃないが」

 

 そういえば、トキのときもコイツが誘いを遮ってたっけ。

 あのときはそれでなあなあになっていたが、今回もそれじゃあ、ダメだよな。キンシコウの誘いは俺に向けられたものだ。

 それに対する答えの責任を、チベスナに押し付けるのはな。

 

「ただ、まだまだコイツと旅がしたりないからさ」

 

 言いながら、俺はチベスナの頭をぐいっと掴んで前に出る。

 そう。チベスナが勝手に言ってるだけじゃなくて――監督っていうのは勝手に言ってるだけだが――なんだかんだで……俺も、コイツと一緒に馬鹿をやっていたいというわけだ。

 

「わっ、チーター何するんだと思いますよ」

「俺に向けられた誘いにお前が首突っ込むからだろ」

 

 俺も馬鹿じゃないから()()()()()()()お前が勝手に答えてるのかはなんとなく分かるけどさ。

 いや、正確には今さっきようやく自覚したというべきかもしれんが。

 

「まあ……だから、ハンターにはなれない。悪いな」

「そうですか。残念ですねぇ」

 

 はっきりと断りの意思を見せた俺に、キンシコウは不自然なほどあっさりと引き下がった。

 

「ええ~……。チーターさんもチベスナも、いいハンターになれると思うんですけどねぇ……」

「リカオン」

 

 対照的に、普通に残念そうにぼやくリカオンに、今まで黙っていたヒグマがようやく声を上げた。

 

「それが、チーターの答えなんだ。あんまり困らせるようなことを言うなよ」

「えぇ~。まぁ分かりますけど……」

「……それに、ただでさえわたしが困らせちゃったしな……」

 

 そう言って、ヒグマはバツが悪そうに頭を掻いた。自虐ネタにできる程度には持ち直しているみたいでよかった。

 

「…………にしても、『旅がしたりないからハンターができない』か」

 

 そう言って、ヒグマは俺の方を意外そうな目で見た。

 

「ちょっと意外だな」

「ん?」

「なんていうか、チーターがそういう気楽なことを言うヤツだとは思わなくてな」

「チーターはこう見えてけっこうテキトーなところはテキトーだと思いますよ?」

「おい」

 

 このチベスナは隙あらば俺のことをディスりやがるな……。

 ……でも。

 なんとなく、腑に落ちた。

 

 俺は『ヒグマが俺に苦手意識を抱いている』……と思ってたが、それはお互い様だったんだ。

 思えば俺は初めてヒグマに会った時から『琴線や逆鱗に触れないように』とか『落ち込んだヒグマをなんとかしよう』とか『ヒグマの矜持が』とか……難しいことばかり考えていた気がする。

 だが、考えてみれば俺はそもそもそんなことを気にするようなキャラクターじゃない。自分で言うのもなんだが、今までフレンズ相手にそこまで色々考えてたことなんか一度もない。

 結局、俺が一番緊張していたんだ。ヒグマっていうフレンズを前にして。だから、ヒグマの方にもそれが伝わってしまっていた。

 緊張していた理由も、なんとなく分かる。

 

「……なんかちょっと、後ろめたかったんだよ」

 

 ぽつりと、自分でも意外なほどに、本音が口から零れていた。

 

「何がですか?」

「いーや、なんでもない」

 

 首を傾げるチベスナに適当に言って、俺は起き上がる。

 

 なんだかんだで、俺は今までの旅でうまくいって()()()()いた。

 セルリアン相手に策を練って、被害を限りなくゼロに抑えつつ色々なパークのフレンズや施設を守ることができていた。ジャパリパークを守る……という『ハンターの真似事』が、できてしまっていた。

 だからこう……柄にもなく、義務感みたいなものを感じちゃってたのだ。だって、俺にはそれができるだけの能力があるんだから。チカラがあるのに、それを振るわないなんて……と。

 そんなことを、現にパークの為に身を粉にしているハンターを見て変に意識しちゃったのが、今回のごたごたの根本の原因なんだろう。

 でもまぁ、よく考えなくてもそんなの烏滸がましい話だよな。だって俺って、観光旅行をしてるだけだぞ? セルリアン退治なんてのは観光する為の施設や環境が壊されるのがいやだから自衛としてやってただけで、別にパークの平和を守りたいなんて高尚な意図があったわけじゃないだろ。

 ほんと、そう考えると俺はいったい何をそこまで肩肘張ってたんだろうかと急に馬鹿らしく思えてくる。

 

「今まで悪かったな、ヒグマ」

「……お互い様だよ、チーター」

 

 二人して顔を突き合わせて言うと、なんだか自然と笑えてきた。

 

「――残念。フラれちゃいましたね」

 

 キンシコウがヒグマの後ろでそう言って笑っていたが……。

 ……。

 ……………………まさかな?

 

の の の の の の

 

 それからしばらく。

 休憩を挟んで体力を回復させた俺とチベスナ、それからハンター達はアスレチックを後にして――そろそろロッジ地帯が近づいてきた、というところになった。

 流石にヒグマとの模擬戦の疲労は凄まじく、いつもよりも休憩を多めにとったので既に時刻は午後四時だが……ま、ロッジには宿泊場所なんか大量にあるだろうから大丈夫だろう。

 

「そういえば、ヒグマはなんでハンターになろうと思ったんだ?」

 

 そんな道中、俺は何の気なしにヒグマにそう問いかけていた。

 これも以前までだったらまず聞けないような踏み込んだ質問だったが……なんとなく打ち解けることができた今は、特に気にせず聞けていた。

 

「あー、そうだな」

 

 ヒグマは前の方でわちゃわちゃしているチベスナとリカオンを眺めながら、

 

「さいきょーになりたかったんだ」

 

 その目は、今じゃないどこかを見ているような気がした。

 

「ほーん」

「あ! チーター、お前今わたしのことを馬鹿にしたな!?」

「あ、分かったか?」

 

 このやろう! と憤慨するヒグマを高速移動で回避したりしつつ。

 

「……もういい! せっかく真面目に答えてやったのに」

「悪い悪い」

 

 ちょっと拗ねてしまったヒグマを宥め、俺は元の調子で歩きだす。

 

「さっきもキンシコウが言ってたが、ヒグマってもうけっこう『さいきょー』じゃないか?」

「いや、まだまだだよ」

 

 適当な調子で問いかける俺に、ヒグマは神妙な顔で否定していた。まぁ上には上がいるというし、カバとかライオンとかヘラジカとか、あとそのヘラジカから強キャラ認定されてたジャガーとか、わりとガチで強いフレンズはハンター以外にもいるしなあ……と考えると、一概にそうとは言えないのかもしれないけど。

 

「まだまだ、全然だ。わたしはまだ強くなるぞ。チーター、お前が追いつけないくらいにな」

「そもそも俺は戦うのとか好きじゃないんだけどな……」

 

 セルリアン駆除ならともかく。

 そういうのはヘラジカとかそのへんの仕事だよね。まぁヘラジカの目指してる方向も微妙に違う気がしないでもないけど……。

 

「……と、そろそろか」

 

 なんていう風に話していると、ヒグマが耳をぴくりと反応させて呟く。同時に、俺も空気の感じが変わったのを感じた。

 良くも悪くも平坦だった空気の流れが、少し乱れたような感じだ。自分で言っててもよく分からん感覚だが。

 まぁ要するに、ロッジ地帯に到着したということである。

 

「わたし達の役目はここまでだな」

 

 足を止めたヒグマをその場に残し、俺は一歩二歩と先に進む。

 

「リカオン、またねと思いますよ。じゃぱりしあたーにも遊びに来ればいいと思いますよ」

「ええ、ぜひ!」

「リカオン」

「えー……ハハ、パトロールしに行きます、と思いますよ」

 

 チベスナとリカオンも、なんとなく別れを済ませていたらしい。コイツらすっかり仲良くなったよなぁ。微妙に口調うつってるし。

 しっかりキンシコウに手綱を握られているが。

 

「じゃあな、ヒグマ、リカオン、キンシコウ」

「ああ、またな」

「またいずれ~」

「ふふ、またどこかで会いましょう」

「次会うときはむーびーすたーだと思いますよ!」

「流石にそれは無理だが」

 

 ハンター三人に別れを告げて、俺達はロッジ地帯へと足を進める。

 そんな折、不意に後ろから、キンシコウの声が聞こえてきた。

 

「お師匠さんに妖怪さん! わたしはいつでも待ってますよ~!」

 

 …………。

 まぁ、チベスナがムービースターに飽きたら考えてみようか。




今回のタイトルはいつぞやの答え合わせみたいなものです。

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