畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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四五話:記録された刹那

「う、うう~~ん……」

 

 翌日、夜明け。

 まだ日ものぼりきらないうちに、俺は寝苦しさにさいなまれて目を覚ました。……原因は、アルパカだ。三人で一緒に寝ると当然ながらタオルハンモックは狭くなるわけで、必然的に三人がけっこう密着する形になるのだが……真ん中にいる俺は、右側にいるアルパカのモコモコっぷりの影響をモロに受けるわけで。モコモコの毛皮に……高級な毛皮に包まれた状態の俺は、体温が発散されずに非常に暑い思いをした。

 しかもそれでいて左サイドはチベスナが固めているので、断続的に俺の脇腹にミドルキックが入るんだよな。ほんとふざけんなよコイツ。クリンチしているに等しい距離感でミドルキックとかどうやってんだよ。

 

「ふぁあ……寝たりない」

 

 まぁ、そんなでも一応眠れてはいるあたりにフレンズの強さを見た気がするのだが、やっぱ眠りが浅い感じがするんだよなぁ……。

 眠りの質が気になるのは、やっぱり俺が前世ヒトなフレンズだからなんだろうか。チベスナとかはどんなところでも普通に寝てるしな。

 とはいえ、いつまでも寝ているわけにもいかないわけで。目が覚めた以上、起き出そう――そう思って俺はむくりと起き上がる。

 

「んぇ? あぁ~、おはよぉ」

「む……チーター、アルパカ、おはようと思いますよ」

 

 が、流石にこんだけ密着していればすぐに二人も起こしてしまう。

 ……そういえば、俺いま、仮にも美少女二人を侍らせて寝てたんだなぁ。この姿な上に片方がチベスナだったからそんな実感まったくなかったが。まったく、世が世なら嫉妬で刺されそうな環境だというのに、出てくるのが『寝苦しかった』というクソみたいな感想なあたり……俺もけっこうこの世界に染まってきてるのかな?

 

「おはよう、二人とも」

 

 そんな感慨と共に、俺は二人に挨拶――あ゛! また招き猫!

 

の の の の の の

 

こうざん

 

四五話:記録された刹那

 

の の の の の の

 

 その後、通りすがりの(と言いつつ多分俺達のために来た)ラッキーから朝ごはんのジャパリまんをもらった俺達は、ちょっとした食休みをしていた。ごはん食べたあと急に動き出すと、おなかが痛くなるからね。

 

「……というわけで、チベスナさん達は映画撮影の旅をしているんだと思いますよ」

 

 そんな食休みの途中。

 俺達は、改めて旅の目的について話していた。昨日話したときはさらっと流しちゃったからな。

 

「ちなみに映画撮影はおまけな。本来の目的は俺の観光」

「かんこう? なぁにそれぇ??」

「色々な場所やものを見て回るってことだ。ほら、ジャパリパークっていろいろと妙なものがあるだろ?」

「あぁ~! あるね~あるね~」

 

 俺の言葉に、アルパカは納得したようにしきりに頷く。高山ってそういう場所少なめな気がするが、やっぱりあるんだ。

 

「確か途中の山にへんなのがあった気がするしねぇ~」

「あー」

 

 多分、俺がスルーした高山の施設の一つだな。山のぼりが辛すぎて断念したが、なんか博物館とかあったみたいだし。しかし、なんで高山に化石博物館なんてあるのかね。もっと別の場所に建てた方がいいと思うんだが。

 

「でも、今のところ全ちほーで映画を撮ってると思いますよ。こうざんではまだバンジージャンプの撮影しかしてませんけど……」

 

 あくまで映画撮影はおまけだという俺の主張に対し、チベスナはそんな事実を突きつけてくる。うん、そうなんだよなぁ……。撮ってないのは恥ずかしがりやなビーバーがいた湖畔だけで、それ以外では全部ばっちり撮影してるんだよな。そして湖畔もエリア区分の上では平原地方の一部なので、結局全地方で撮影しているというのは事実になってしまう。

 ……なんかもう習慣みたいになってんだよな、何かしらのアトラクションやフレンズに出くわしたら撮影始めるの。

 

「まあ、それはそうなんだが……でもおまけはおまけなわけで……」

「ほぉ~、どんなの撮ってるのぉ? 見せてほしいなぁ」

「……おう、いいぞ」

 

 言葉を濁した俺に、アルパカがそう言ったので俺は話を逸らす狙いもあってアルパカにビデオカメラを見せてみる。そういえば二人で休憩時間とかにときどき撮った映像を見ることはあっても、一緒に撮ったことないフレンズに映像を見せるのは初めてだな。

 とりあえずおそらく(遺憾ながら)一番マシであろうオアシスで撮ったドキュメンタリー風映像をつけて、そこらへんの切り株に置いてみせる。

 すると、アルパカはわくわくした感じでカメラの前に座り込んだ。……おいチベスナ、なんでお前まで釘づけになってんの?

 

「ほぁえ~、こんなのがあるんだぁ。すごいねぇ! これ、どこのちほーなのぉ?」

「さばくちほーだと思いますよ! さばくちほーにはおあしすというのがあって、そこの高台に上ったときのえいがだと思いますよ」

「さばくちほーかぁ。あたしそっちの方は行ったことないんだよねぇ」

「行かなくていいと思いますよ。あそこは暑いので……とても暑かったと思いますよ」

 

 そんなことを、二人は適当に話していた。すっかりオーディオコメンタリーの様相を呈しているな……。

 そんな二人を見ながらぼーっと食休んでいると、映像が終わったのかチベスナがカメラを操作し出す。

 

「……あれ? これってどうすればいいんだと思いますよ??」

「あっ」

 

 しまった! チベスナにカメラを触らすんじゃなかった! コイツまだ操作の方法とか全然理解してないんだよ! 前に教えたのに忘れてるし!

 

「おいチベスナそれは俺に貸して、」

「大丈夫! チベスナさん、一人でできますので!」

 

 叩かれる前に回収しようとしたのだが、チベスナはそれを手で制してカメラをいじくり始めてしまう。……うーん、叩いたりしないなら、ここはチベスナの自力解決を見守るのも手かもしれないな。

 なんでもかんでも俺がやっていったら、チベスナも成長できないし。

 

 そんな親の気持ちでチベスナを見守ること、五分ほど。

 

「ねぇチーター、あれ大丈夫なのぉ?」

「多分だめ……」

 

 案の定、チベスナはなんかよく分からないことになってた。なんでカメラの電源を落とすだけでレンズを覗き込む必要があるんだろうか……?

 これはそろそろヘルプを出した方がいいかなー、などと思っていると、

 

「チーター、これどうすればいいんですか? 教えるといいと思いますよ?」

 

 と、チベスナの方からカメラを持ってきた。

 お、叩く前に俺のところに持ってきた。これは成長だぞ。今までのチベスナなら普通に速攻でグーパンしてたと思うし。

 

「どれどれ、貸してみな……ってこれ、見たことない画面なんだけど!」

 

 そこで、俺は思わず声を上げてしまった。

 なんだこの画面……。いや、電源落とすだけなら普通にできるんだが、そうするとこの画面にまた行けなくなるし、この画面が何なのかは調べておきたいぞ。

 

「えーと……」

 

 呟きながら、俺は画面をチェックしてみる。

 モニタを見てみると中央に白い四角が入っており、試しにカメラをチベスナに向けてみると、四角が緑色に変化し、チベスナの顔をロックオンするみたいにして囲った。

 んで、この『決定』ボタンを押すと……ぱしゃり。

 

「うわっ! なんか光ったと思いますよ?」

「不思議だねぇ~面白いねぇ~」

 

 ……この挙動……。

 

「…………もしかして、カメラか?」

「言うまでもなくそれはカメラだと思いますよ?」

「そうじゃねぇよ!」

 

 そうじゃなくてだな、これはビデオカメラだが、この機能は写真を撮るカメラなのではないかと思ったわけだ。

 ビデオカメラに対する普通のカメラの呼び方が分からん……。写真カメラとかでいいのか? そもそもビデオカメラって呼び方が合ってるのかもわからんが。

 

「いつものは映像を撮るだろ? こっちは瞬間的な風景を撮るっていうか」

「チーター」

「絵! 絵です! このカメラで見た風景を絵として保存できるモードです!」

 

 流石に俺もちょっと難しい言い回しだった自覚があったので、今回の言い直し要求にははっきりと言い直して答えた。しかしカメラとはいったい……みたいなのってもはや哲学の領域に入っていると思うんだがどうだろうか。

 

「絵ですか。なかなか興味深いと思いますよ」

「そだねぇ~。えいが? も面白そうだけど、しゃしんも面白そうだねぇ」

「じゃ、試しに撮ってみるか」

 

 何事もチャレンジである。

 

「お? できるのですか? なんだか新たなカメラの楽しみだと思いますよ」

「だな。というか、映画よりお手軽に撮れるし」

 

 言いながら、俺はモニタをぐるりと回してレンズを自分に向けながらもモニタを確認できるようにする。

 俺がやろうとしているのは――自撮りだ。

 いやあ、まさかこの歳で自撮りなんぞをすることになろうとは夢にも思わなかった(しかもフレンズの身で)が……こういうのも経験だよな。

 

「チーター、何してるんです??」

「いや、せっかくだから三人で記念撮影しようと思って」

「きねんさつえい!」

 

 チベスナは何か乗り気な感じで俺の言葉を復唱する。

 

「それはつまり、三人の姿を絵にするということですね? 一瞬にして絵も描けるとは……カメラ、やっぱりすごいと思いますよ。ムービースターのチベスナさんとそのかんとくであるチーターにふさわしいアイテム……」

「監督じゃないが」

 

 自称ムービースターにぴったりなアイテムなのは間違いないけどな。

 

「じゃあ撮るぞー。はいチーズ」

「待つといいと思いますよ!」

 

 そう言って撮影をしようとしたところで……チベスナが待ったをかける。なんだよ? 今撮ろうとしてたのに。

 俺は撮影の為に延ばしていた腕を下ろしながら、チベスナの方に向き直ってみる。そのチベスナはというと、きょとんと首を傾げて疑問そうな表情をしていた。

 

「チーズってなんだと思いますよ?」

 

 ……ああ、そういう……。

 …………っていうか、確かにチーズってなんなんだ? なんか前にテレビ番組で『チーズ』のチの字に口が動くから、笑顔が作りやすいって聞いたような気がするけど……生憎昔のことだから分からん。

 なので。

 

「俺も分からん。とりあえずチーズって言っておくといい写真が撮れるんだと思う」

「おお!」

「いいねいいねぇ! チーズ? って言えばいいんだねぇ」

 

 と、適当なことを言っておくことにした。チベスナの方もそれであっさり納得してくれたので、この件についてはこれでいいということにしておこう。

 …………しかしなんでチーズっていうのか、ほんとに気になるな。この世界だとネットも使えないんだろうし、真相はやぶの中かぁ……。図書館にそんな雑学について詳しく書いてある本も載ってないだろうしな。

 

「んじゃ、改めて撮るぞー。はい、チーズ」

「チーズ!」

 

 ぱしゃり。

 

の の の の の の

 

 無事に撮影が終了したあと。

 撮影した写真の確認をした俺達は、いよいよ動き出すことにした。そんなこんなで色々やってるうちにもうすっかり朝だしな。

 

「んじゃ、あたしはとしょかんに行くねぇ、かふぇの作り方教えてもらったら、また来てねぇ」

「絶対行くよ」

「そうしたらムービースター御用達のかふぇになりますね!」

 

 別にチベスナにプレミアなんてつかないと思うが……。

 

「あ。しかしそうなると、我々じゃぱりしあたーのライバルということになるのでは……?」

「いやそうでもないんじゃないか?」

 

 映画とカフェだろ? 全然業界が違うと思うんだが……まぁパークの施設という意味では同じくくりになるのかもしれないが。

 

「うむ……我々はライバルになると思いますよ。負けないように頑張らなくては!」

「一緒にがんばっていこうねぇ」

 

 ライバルって一緒に頑張っていくようなものではないような……。まぁアルパカらしいしいっか。

 

「それじゃ、俺達も行くか。じゃあな、アルパカ。図書館でカフェについて、分かるといいな」

「また会おうと思いますよ~」

「ばいば~~い!」

 

 互いにそう言い合って、俺達はアルパカと別れ――そして、目前に迫ったジャングル地方へと向かうのであった。

 …………あ、地味に俺もジャパリシアター陣営にカウントされてることにツッコミ入れ忘れてた。…………まぁそれもいっか。




カメラの描写が超難しかったです。
なんとなくカメラなんだなという雰囲気だけ感じてください。

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