畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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一五七話:黄昏に捧ぐ代償

「合宿ねぇ……」

 

 

 コウテイに合宿のための場所提供を依頼された俺は、そう言って一旦渋ってみせた。

 いやね? 満更コイツらも知らない仲ではないし、特にプリンセスとは色々と縁もあるわけだから、合宿の為に場所を提供してやることくらいはやぶさかではないんだ。

 ただな……此処は『ジャパリシアター』なわけでもあって。

 仮にも映画館だというのに、正式オープンの前から思いっきり本来の運用から外すのも……ねぇ? それをさくっと認めてしまうのも、ジャパリシアターの館長*1的にどうかなーとか思ったりしてしまうのだ。

 まぁ、最終的にはOKするつもりだが……。

 

 

「……だ、だめか?」

 

 

 コウテイの瞳が、不安そうに揺れる。

 こいつはホント、俺と同じくらいの図体してなんか小動物っぽいところがあるよな……。実際にはコウテイペンギンってけっこうデカイ動物なのに。

 これ以上引っ張っても可哀相なので、俺は事前に考えておいた道筋を提案してやる。

 

 

「駄目じゃあない。だが……ただで俺達のなわばりを使わせてやることはできないな。試練がある」

 

「し……試練ですってっ!?」

 

 

 プリンセスが目を丸くして警戒しながら(それでいて新たなる試練に心を躍らせて)身構える。

 ……フフ、予想通りプリンセスは乗っかってきたか。お前こういうの好きそうだもんな。

 

 『流れ』を掴んだことに気を良くした俺は、不敵に笑いながらさらに言葉を続けようとして、

 

 

「チーター、何けちくさいこと言ってると思いますよ。『がっしゅく』くらい自由にさせてあげてもいいと思いますよ?」

 

 

 ……チベスナぁ!!!!!!

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

なわばり

 

一五七話:黄昏に捧ぐ代償

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

 突如話の腰をブチ折りやがったチベスナを一旦脇に引き連れ、俺達はつかの間の作戦タイムへと入る。

 

 

「なんだと思いますよ? チーター、イジワルはよくないと思いますよ」

 

「意地悪じゃねぇよ! こういうのはさ……何の条件もなくオッケーっていうのは違うじゃん。場所を使わせてもらう為に何かしらの課題が出てきて、それをクリアすることでまた一つ成長する……みたいなのがさ、お約束じゃん」

 

 

 俺はあんまりアイドルものには詳しくないけど、なんかそういう課題とそれに対する工夫みたいなのが主人公達の実力を育てるみたいなのが定番のような気がする。*2

 

 

「チーター」

 

 

 チベスナは、そんな俺に短く呼びかけ、

 

 

「あんまりややこしいとプリンセスたちがかわいそうだと思いますよ」

 

 

 ド正論をぶつけてきた。

 

 …………いや! 違うんだよ!! これは俺の独りよがりではないはず! 何故ならプリンセスはどんなイベントが出てくるかちょっと期待してた節があるから!! アイツもアレでどっちかというと文明(こっち)サイドのフレンズだから、多分オッケーだと思うんだよ!

 っていうかチベスナも本来こっち側の住人だろ!?

 

 

「…………ただでさえチベスナさん達のなわばりを貸すんだから、どんちゃん騒ぎはいやだと思いますよ」

 

 

 ……と思っていたのだが、チベスナの拗ねたような呟きで、俺はあらかたの流れを悟った。

 チベスナ的には、広い縄張りだし使いたければ使わせてやってもいいのだが、そこに俺まで介入して色々と騒ぎになるのは、縄張りが騒がしくなるから御免だと。

 そういうことなら、しょうがないかなあ。……うーん、でもなあ……。……あ、そうか。

 

 

「じゃあチベスナも試験官やるか?」

 

 

 と、俺はチベスナに問いかけてみる。

 『試験官』という言葉を聞いて、耳がピクリと反応した。……やはりそうか。

 

 

「俺だけだと真面目な感じになりすぎちゃうからな。チベスナも横にいた方が連中もやりやすかろう」

 

「ふむふむ。……そういうことなら、面白そうだと思いますよ!」

 

 

 一転して乗り気になるチベスナ。

 まぁ簡単な話だったのだ。俺が主導でなんか勝手に試練とか言い出したから、チベスナ的には自分のなわばりでもあるのに置いてけぼりな感じがあって面白くなかったのだ。

 置いてけぼりな上に騒がしくなるし俺もいなくなるから、そういうのは嫌だった──というのがチベスナの心情なのだろう。

 

 まぁ、そういうときは巻き込んでやればいいんだけどね。今までもずっとそうしてきたわけなんだし。

 

 

「よしきた。じゃあ具体的に何を条件にするかだが……」

 

「しあたー全部の掃除をさせたらいいと思いますよ」

 

「流れるように便利遣いすんなや」

 

 

 本当にふてぶてしさにかけては右に出るものがないな……。

 全部て。そんなん掃除してるだけで合宿が終わるわ。掃除が終わるころには一緒に住み始めてもおかしくないくらいの時間が経ってるわ。

 あくまで連中はお客さんであって、新たな同居人みたいなのは……しばらくは、要らないかな。

 

 

「うーん、といっても難しいと思いますよ。今はべつに何も困ってないと思いますよ」

 

「お前は何かをさせようっていう発想から離れろ」

 

 

 確かにこういう試練的なヤツって、一見するとなんか師匠キャラのいいように使われているようにしか見えないけどな……だからって本当にいいように使うヤツがあるか! ああいうのは実際には何か思惑があってそうしてるんだよ!

 

 

「じゃあ、チーターは何がいいと思いますよ?」

 

「フッ……。よく聞いたな。実は既に用意してある」

 

 

 当然のことである。何の案もないのに試練を出すなんてドヤ顔で言い出すほど俺はライヴ感で生きちゃいない。

 ……ほんとにね。いつも作戦は立ててるんだよ。悲しいことになんか予想外の事態に陥って色々と台無しになるが…………。

 

 

「ほう! なんだと思いますよ?」

 

 

 俺は気を取り直して、期待の視線を向けるチベスナに言う。

 

 

「それはな────」

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

「…………結局チベスナさんが最初に言ったのと同じだったと思いますよ」

 

 

 その少しあと。

 俺は、むすっとしているチベスナを隣に立たせて『試練』に励むPPPの面々を眺めていた。

 その彼女達がやっているのは────

 

 

「プリンセス!? プリンセス何をしてるんだ!? 『ほうき』はそうやって使うものじゃないってチーターが言っていただろ!?」

 

「うるさいわね! あそこの埃がなかなか落ちないのが悪いのよ!!」

 

「あわわ……ぷ、プリンセスさんっ、お、落ち着いてっ……」

 

「この雑巾を……こうだぜっ!!」

 

「ぱたぱたぱた~」

 

 

 ──チベスナが最初に提案した、『掃除』だった。

 

 

「チッチッ、甘いな」

 

 

 不満そうに言うチベスナだったが、俺は人差し指を立てて舌を鳴らす。

 確かに、同じ掃除のように見えるかもしれない。だが、そこにある目的が全くもって違うのである。

 

 

「チベスナの場合は、とりあえずシアターを綺麗にしてもらおうという『対価』としての掃除だろ? だが……俺は違う」

 

 

 単に便利遣いする為の掃除ではないのだ、これは。

 あくまでも、俺がPPPに課したのは『試練』なのだから。

 

 

「まず、掃除するのはこの俺達が使ってない上映ホール一つのみ。しかも、奴らの合宿会場は此処にする予定だ。つまり、ちゃんと掃除をしないと合宿もままならないってこと。な、合宿のための試練としてピッタリだろ?」

 

 

 しかも、この試練の狙いはそれだけじゃない。

 

 

「それに、上映ホール一つだけとはいえ、フレンズだと五人で掃除するにもチト骨が折れる広さだからな」

 

「チベスナさん達は二人だけで頑張れたと思いますよ?」

 

「まぁそりゃな」

 

 

 掃除の『やり方』を知ってる俺がマンツーマンで誘導したお陰だ。

 

 

「ふふん……やはりチベスナさんの力……」

 

「ま、そういうわけで、今回はきちんと上映ホールの掃除ができるかどうかを、連中の『試練』にしようってわけだ」

 

 

 それにもちろん、掃除をしてもらうことで俺達は労せず上映ホールが一つ綺麗にできる。

 PPPの団結を強化するイベントである上に、俺達の得にもなる。いやあ、まるでジャイアントペンギンのような無駄のない作戦だ。*3

 

 

「でも……ちょっとアレな気がすると思いますよ?」

 

「ん?」

 

 

 言われて、チベスナが指さす方を眺めてみる。

 銀幕が上がって広くなったステージ上では、ちょうどプリンセスが箒を持って──いや、高く掲げて、……ん? ()()()()()???

 

 

「むきー!! なんでちゃんと綺麗にならないのよ! このほうきおかしいんじゃないの!?」

 

「わー! プリンセス! やめるんだ! ほうきが壊れてしまう!!」

 

「離しなさいコウテイ! 叩けばきっと治るはずよ!!」

 

 

 あっ、プリンセスがコウテイに羽交い絞めにされてら。

 

 というかプリンセスってわりと脳筋っぽいところあるよね。

 

 

「チーター、あれ大丈夫だと思いますよ? ほうき壊されちゃうと思いますよ?」

 

「大丈夫大丈夫。コウテイが抑えてるし」

 

 

 それに箒はいっぱいあるから、一本くらい壊されても実は問題なかったりする。折れたところで、箒として使えなくなるわけでもないしな。

 というか、備品が壊れるのをおそれてはフレンズに掃除なんかさせられない。こうやって掃除させてる時点で、ある程度の損害は覚悟の上だ。

 

 

「ち、チーターさんっ!」

 

 

 と、手早く埃を落とした椅子に座ってチベスナと一部始終を眺めていると、ジェーンが俺達の方へ助けを求めに来た。

 さて、そろそろ頃合いだろうか。此処は一つビシッと、師匠キャラっぽく深く含蓄のあるアドバイスでPPPの連中の蒙を啓いてやるとしよう──。

 

 

「このままだと、いつまで経っても掃除が終わらないですっ! な、何かアドバイスとかありませんかっ!?」

 

「……いいか、ジェーン」

 

「きたないのを一か所に集めればそれでいいと思いますよ。そうじは気楽でいいと思いますよ」

 

 

 アッ! チベスナ……。

 

 

「な、なるほど……! 流石はチベスナさんっ! ありがとうございますっ!」

 

 

 突如横から俺の見せ場をインターセプトしてきやがったチベスナに唖然としているうちに、ジェーンは可愛らしくペコリとお辞儀をして、今聞いた知識を仲間達へ伝えにステージへと戻っていった。

 その背中を見送って、俺はチベスナの方へ恨めし気に視線を向けてやる。

 

 

「ふふん。いい仕事したと思いますよ。……チーター、どうしたんだと思いますよ? とっておいたジャパリまんを取られたみたいな顔して」

 

「取られたんだよ!」

 

 

 なお、チベスナのアドバイスを受けたPPPはその後も三回ほど箒破壊の危機を迎えたものの、なんだかんだで無事にステージの掃除を終えることができたのだった。

 ……まぁ、全部終わった後は、もう練習とかできる体力は残っていなかったみたいだが。

*1
館長じゃないが。

*2
アイドルものというかスポ根もののイメージである。

*3
こうなることを見越してPPPを焚きつけたのだから当然である。




おそらく師匠ポジに憧れみたいなものを抱いてるチーターですが、その枠は既に(パイセンで)埋まっている上に、あんまりスポ根モノに親しんでなかったので全体的にムーブが雑です。

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