畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

154 / 161
アンケートの結果、今回よりそういう話になります。
ちなみにアンケートの俎上にあげた内容は全部やります。


一五四話:舞い込む五つの流星

 ジャパリカフェに挨拶に行ってから、幾分かの時間が経った。

 あのあと、一夜を明かした俺達はアルパカにアクセサリを渡して、こうしてシアターに戻ってきたのだが……。

 

 

「暇だなあ」

 

 

 早々面白い話など転がっているはずもなく、縄張りの整備などもひと段落ついてしまった俺は、すっかり暇を持て余してしまっていた。

 いや、なんだかんだ言って飽きない日々なんだけどね? でもイベントが起きない限りは暇というか、イベントが起きるのが普通になってしまっているから何もない日常が却って退屈になってしまっているというか。

 

 

「じゃあチーター、この間やった槍キャッチボールをやると思いますよ?」

 

「やらねーよ!! アレは危ないから金輪際禁止だっつったろ! 危なくラッキーに突き刺さるところだったんだからなアレ!!」

 

 

 …………うん、やっぱり前言撤回。退屈な日常サイコー。危険なイベントなんて起きないに限る。

 

 一応、これから何もないってことはないんだけどな。

 各地のフレンズ達に宣伝しておいたから、いずれそういう連中も来るはずだし。それに、この間高山地帯で会ったジャイアントペンギンはこんなことを言ってたからな。

 

 

『あーそうそう。わたしの読みが正しければ、多分戻ってきたらすぐロイヤルペンギン……もとい「プリンセス」のヤツがそっちに行くと思うぞ。仲間を引き連れてなー。多分もろもろボロボロだと思うけど、うまいこと付き合ってくれなー』

 

 

 ──要するにこれ、ついにPPPが再結成されたってことだよな。

 いやー、ついにPPPがか。これはかばんとサーバルの旅が始まるのも近づいてきたってことなのかな。*1

 

 

「PPP来るの楽しみだなー」

 

「チーター、PPPってなんだと思いますよ?」

 

 

 エントランスを箒(探したらいっぱいあった)で掃除しながら呟いていると、チベスナが横から首を突っ込んできた。……うわっ! なんか水が滴ってる! お前川で遊んできたろ!

 川で遊んだ後はちゃんとタオルで身体を拭いてから戻れと何度も言っておろーに……。

 

 

「ほら、ジャイアントペンギンが言ってたろ。プリンセスがペンギンアイドルグループを復活させようとしてるって。もう忘れたのか?」

 

「それ言ってたのはチーターだと思いますよ。それでボロが出たんだと思いますよ」*2

 

 

 うぐ……。余計なところばかり覚えやがって。

 

 エントランスに常備してる分のタオルを使ってチベスナの身体に残る水気を拭いながら、俺は歯噛みする。

 このまま拭うのとか丸投げしてやろうか…………いや、チベスナ、自分で身体拭くのへたくそなんだよなぁ……。

 旅してたときは放っておいても乾いたし、別に濡れて困るものなんかもなかったから放置していたが、シアターの中ともなると話は別だ。

 別なのでなんとか矯正しようとしているのだが、チベスナ的にはピンと来ない考え方らしく、こんな感じで俺が拭かざるを得なくなっているのだ。くそう。*3

 

 

「……っていうかお前覚えてんじゃん! 誰が言ったかまで覚えてんじゃん! 何故聞いた!」

 

「チーターが言ったから思い出したんだと思いますよ! みずべちほーでのことなんて昔すぎて細かいとこまであんまり覚えてないと思いますよ!! チーターじゃあるまいし!」

 

「あ~~~? お前それどういうことだ~~? 俺が細かいことをねちねち覚えてる陰険ヤローだってか~~!?」

 

「そ、そこまで言ってないと思いますよ! だからチーター、顔は、あー、アー!!」

 

 

 と、そんな感じでチベスナの顔面をアイアンクローでギリギリやっていると、

 

 

「……あっあー。えーと…………取り込み中……かしら?」

 

 

 遠慮がちな声色で、もう半ば懐かしく感じつつある声が聞こえてきた。

 チベスナへの制裁を解除してそちらの方を向き直る。

 

 そこにいたのは──五人のフレンズ。

 

 とりあえずのお客さんを前にした俺は、にこやかな態度を意識して、こう言った。

 

 

「いらっしゃいませ! ジャパリシアターへ!」

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

なわばり

 

 

一五四話:舞い込む五つの流星

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

「……チーター、どうしたの? 何か悪いものでも食べた……?」

 

「なんか笑顔が怖いな……」

 

「チーター、新しいほっさだと思いますよ?」

 

 

「………………………………………………………………………………」

 

 

 え、営業スマイルという概念はフレンズにはまだ早すぎたようだな。

 

 ……うん、別に気にしてないよ。何気に初のシアターの利用客だからと思って、ここからが俺達の真のスタートだみたいな気持ちで良い顔して言ったら総スカンだったから地味に傷ついていたりとかなんてしないよ。ほんとだよ。

 ……うん。

 

 

「あ、えーと……ごめんなさい?」

 

「まぁまぁ、気にしないでいいと思いますよ」

 

「お前はこっちのフォローをしろやチベスナぁ!!」

 

 

 仮にもお前はジャパリシアター(こっち)サイドのフレンズだろぉ!? っていうかそれを抜いても相方がヘコんでるんだからフォローして当然だろうが!

 しかし、そんな激情の俺とは裏腹にチベスナはしれっとした調子で、

 

 

「でも、チベスナさんはチーターがなんでそんな気分アゲサゲしてるのかちんぷんかんぷんだと思いますよ。またぶんめーてきなのがどーとかだと思いますけど」

 

「お前の中で俺の言動ってそんなレベルなのね……」

 

 

 ま、まぁ説明していなかった俺にも非はあるか……。

 

 

「なら教えてやる。たとえばジャパリカフェのアルパカも、俺達を出迎えるとき『いらっしゃいジャパリカフェへ』って言ってたろ? あんな感じで、店をやっているフレンズはやってきたフレンズのことを『ようこそ!』って感じでお出迎えするもんなの」

 

「じゃぱりしあたーはお店だと思いますよ?」

 

「でもチーター。わたし達チーターにあんな感じでお出迎えされても気持ち悪いだけよ」

 

「………………やめます……」

 

 

 いいじゃんかよぉ! 俺だってちょっとシアターの支配人っぽい感じのキャラやりたかったんだもん! ちょっとくらい似合わないことやったからってこんなぼろくそ言うことないじゃんかよぉ! そんなに恭しい態度の俺は不評か!?

 いいもん……いいもん…………。

 

 

「あ、拗ねちゃったと思いますよ。プリンセスのせいだと思いますよ」

 

「ええっ!? わたし!? ち、チベスナも色々言ってたじゃない……?」

 

「あああ……ど、どど、どうしよう……」

 

「なーんか面白そうなことになってんなー!」

 

「イワビーさん! あんまりそういうこと言うのはよくありませんよ……!」

 

「ジャパリまん食べる~?」

 

「食べる…………」

 

 

 フルルからもらったジャパリまんを食べながら、

 

 

「……そういえば、今イワビーって」

 

「ああ。PPPを再結成したわけだからな! 俺達の名前も変えたんだ!」

 

 

 イワビーがそう言うと同時、PPPの面々がザッ! と一斉に構える。なんだなんだ。何やるつもりなんだ。

 

 

「わたし! ロイヤルペンギンのプリンセス!」

 

 

 まず最初に、プリンセスが前かがみになりながら敬礼するようなポーズをとって、元気よく挨拶する。

 ……あー、そういうことね。どうやらアイドル名乗り的なことをやるつもりらしい。

 意図が分かったので、俺は腕を組みながら静観の構えに入る。

 次は……イワビーの番みたいだな。

 

 

「イワトビペンギンのイワトビ! じゃなかった……イワトビ―!」

 

「イワビーさん! イワビー、イワビー!」

 

「イワビーだ!」

 

 

 ……が、案の定ズタボロのため、横でジェーンからフォローされる始末だった。二人目からこれか……。

 次は……プリンセスの視線からして、ジェーンの番みたいだが。

 

 

「………………」

 

 

 特に何も言わずに、そわそわしてるだけだな。

 

 

「……ジェーンの番よ!」

 

「……はゎっ! ジェンツーペンギンのジェーンです! はい!」

 

 

 ……名乗りの順番忘れてたのか。

 さて、次は……フルルの番かな。

 

 

「フンボルト~」

 

「フルルでしょ!」

 

「あ、フルル~」

 

「あと、何ペンギンか言うのよ!」

 

「フンボルト~」

 

 

 …………なんか妙に脱力するやりとり……。

 んで、最後に残るはコウテイだが……。

 

 

「はわわ……きき、緊張する…………」

 

 

 ……ダメだありゃ。完全にアガっちまってら。

 これは俺が何かしら助け舟を──、

 

 

「……こほん! こ、コウテイペンギンの……コウテイだ!」

 

 

 と思っていたのだが、コウテイは俺が助け舟を出す前に自分から自己紹介を完遂させた。しかもキリっとしていてカッコいい。普段からああいう感じを出せれば完璧なんだけどなー……。

 というかコウテイ、以前水辺地方でセルリアン相手に立ちまわっていた時は緊張とかしてなかったので、ひょっとしてこういうイベント事のときだけああなるんだろうか。

 

 そんなことを考えている俺をよそに、全員の自己紹介が終わったのを見たプリンセスが一歩踏み出してポーズを決め、言う。

 

 

「五人そろって!」

 

 

PPP(ぺパプ)!」

PPP(ぺパープッ)!」

PPP(ぺパプです)!」

PPP(ぺ~ぱ~ぷ~)!」

PPP(ぺ、ぺパプ)!」

 

 

 …………バラバラだな。

 

 

「あははは、バラバラだと思いますよ!」

 

 

 チベスナの方も同じことを思ったらしく、五人の前でけらけらと笑っていた。……いやまぁ、笑いどころ……だとは俺も思うが、そんなにはっきりと笑ってやっちゃかわいそうだぞ。

 

 

「……う、うぐぐ……。やっぱりまだダメダメなのね……」

 

「……こほん。そういうわけで、わたし達はこれからこういう名前でやっていくつもりだ。よろしく頼む」

 

「ああ、分かったよ」

 

 

 俺なんかはもともと心の中ではそう呼んでたからな。

 

 

「それは分かったと思いますけど……今日はどうしたんだと思いますよ? みんなお揃いで。プリンセスはまぁチベスナさん達にお世話になってるので、お礼に来るのは分かると思いますけど、他のみんなはわざわざへいげんちほーまでご苦労だと思いますよ」

 

「すごいなお前、たったそれだけのセリフにどれだけ煽りポイントを織り交ぜるんだ……」

 

 

 俺だったら今ので軽くアイアンクロー一発分だぞ。

 

 だがそんな俺の呆れとは裏腹に、一般フレンズであるPPPの面々は(プリンセス除いて)あまり気にしていないらしく、

 

 

「わたしはお世話になってるってどういうことよ! 確かにお世話にはなったけどわたしだって色々……」

 

「ま、まぁまぁプリンセスさん、落ち着いて……」

 

「ええとだな。今日は、実は……ジャイアント先輩に言われてな」

 

 

 ……ジャイアントペンギンが?

 

 いや、あんな風に俺達に伝えた時点で、既にPPPを焚きつけてたっていうのはアイツの行動パターン的には考えられる話だな。

 

 

「ああ! おれ達PPPとして活動を始めたんだけどさ、なかなか勝手が分からなくて……今自分達がいい感じなのかだめな感じなのかとかも分からねーんだ。先輩に聞いてみたんだけど『わたしが教えちゃ面白くない』とかでさー」

 

「でもジャパリまんはけっこうくれるよね~」

 

「おめーそればっかだなぁ」

 

「それで、その後もお願いしてみたら『チーターに聞いてみればいい。アイツそういうの好きだから』……って」

 

「好きだからて……」

 

 

 いやまぁ、確かにそういう創造的なものを見て評価したりするのは好きだよ? 文明的だし。何より娯楽に飢えてるからな、俺は。

 しかしそれ、体よく俺に全部丸投げしてるだけのような気が……。

 

 

「だから、みんなを連れてここまで来たってわけ。そういうわけだから、チーター! チベスナ!」

 

 

 呆れる俺に、プリンセスはびし! と人差し指を突きつけながら言う。

 

 

「アナタたち、わたし達の『らいぶ』を見なさい! 決定よ!」

 

 

 はーい。

*1
かばんが生まれる保証はないのだが、チーターはそのへんを憂慮するのをやめている。非生産的なので。

*2
一〇〇話参照。

*3
放っておいてもチーターが拭ってくれるのでやらないだけである。




今回はPPPのライブ練習編です。日常回です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。