畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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一五三話:夜山の頂にて

 そのあと、俺達は暗くなる前にジャパリカフェに戻ってきていた。

 

 やはり色々しているうちに遅くなってしまい、下山するにはちょっと時間が足らなかったのだ。

 まぁ、もともとアルパカからは戻ってくるように言われていたので、そこのところは別に問題ないのだが。

 

 

「イヤ~、やっぱりお茶はいいね」

 

 

 ただ一つ予定が違うのは──俺達と一緒に、ジャイアントペンギンもジャパリカフェに合流しているというところだった。

 

 

「そお? 嬉しいねーお茶まだあるからねぇ? 一杯飲んでねぇ」

 

「ありがとー。此処のお茶は貴重だからなー。チーターは分かるだろ?」

 

「ああ」

 

 

 頷きながら、俺も紅茶を一飲み。

 足を組んで、窓際の席で優雅に紅茶を飲むのは、本当に贅沢なひとときである。

 

 それに、紅茶に限らず、嗜好品ってのはジャパリパークでは本当に貴重だ。ジャパリまんもあれはあれで非常においしいので文句はないのだが、いつもそれだと、味がジャパリまんより劣っていても珍しい味というものに稀少価値が湧いてくるわけで。

 ラッキーもジャパリまん単品じゃなくて、ジャパリチキンとかジャパリサラダとか出せばいいと思うよ。いやまぁ、運搬する都合とかで無理なんだろうけど……。

 

 …………あれ。今思ったけど、この発想ってアニメの博士助手と同じ考え……?

 

 

「チーター、また何か遊びでもやってると思いますよ?」

 

「チーターがお茶を楽しんでくれて、あたしも嬉しいよぉ!」

 

 

「フッ……何もかも台無しだが…………」*1

 

 

 オシャレな喫茶店の窓から見える宵闇を楽しみつつ紅茶を満喫する俺の素晴らしいひと時を邪魔するんじゃあない。

 

 

「チーターもそのへんよく懲りないよなー」

 

 

 とそんな俺の姿を見て、ジャイアントペンギンがいっそ感心するくらいの勢いでコメントする。

 懲りる? 懲りるとは……ああ、この流れのことか。確かに、幾度となくカッコつけてはフレンズの無邪気な感想によってカッコつかなくされてるからな。

 いい加減ジャイアントペンギンにしてみれば流れも読めてくるのだろう。

 

 だが……確かにジャイアントペンギンの言うように、俺は懲りない。それはなぜか?

 

 

「俺は……文明的なフレンズだからな」

 

 

 紅茶をクイと傾けてから、俺は口元に微笑をたたえながら答える。

 文明的という言葉にも色々と意味があるが──こうした、落ち着いた雰囲気という意味での文明性。これもまた、ヒトであることの特別さなのではないだろうか。

 

 

「……………………ひょっとして、気を遣わせたか?」

 

「いや? 全然」

 

 

 ちょっとバツが悪そうなジャイアントペンギンに、俺はけろっと答える。

 多分、昼間にちゃんとアクセサリを発動できなかったから、それで俺がヒトらしさにこだわるようになったんじゃないかって心配してるんだろうけど、そこまで俺は繊細じゃーない。

 

 まぁ昼間のやりとりはちょっと気がかりだけど、これは純然たる俺の趣味だよ。

 

 

「……それはそれでどうかと思うけどなー」

 

「チーター! チベスナさんはアレやりたいと思いますよ! あちらの席のおきゃくさまからだと思いますよ!」

 

「馬鹿お前ティーカップを投げるんじゃねぇ!!!!」

 

 

 なお、このあと映画の内容を中途半端に学習したチベスナによって、一時ティーカップ合戦が始まりかけたが、チーターの身体能力をフルに使った俺の尽力により、なんとか被害はゼロで抑えられた。

 もちろん、恰好はつかなかった。

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

なわばり

 

 

一五三話:夜山の頂にて

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

「おつかれさん」

 

「おう」

 

 ジャイアントペンギンが、お水を差しだしてくれる。屋外テラスのテーブルに突っ伏してへばっていた俺は、その有難い心遣いを慎んで受け入れた。

 

 

 ──夜。

 チベスナの暴挙をなんとか防いだ俺だったが、それを面白がったチベスナによるティーカップ投げまくり大会が開催されてしまったため、被害を最小限に食い止めようと高速移動を大盤振る舞いした。

 その結果、そもそも山登りで疲労が蓄積していた俺は普通にちょっとバテ気味なのであった。

 

 チベスナ? ヤツは反省の罰掃除中である。

 アルパカも店の備品を投げてるんだから怒ればいいものを、俺が全部キャッチするもんだから面白がっちゃって……。

 アレ一個でも割れてたら悲惨だったぞ、ほんと。チベスナはあとでお説教だ。

 

 

「ああ……。ジャイアントペンギンも止めてくれたら楽だったのに」

 

「ハハハ、そりゃーチーターの特権だからなー」

 

 

 疲れていることもあってちょっとした恨み節を向けるも、ジャイアントペンギンは軽い感じで笑うばかりだった。くっ、普通に受け流された。

 まぁ、流石にジャイアントペンギンに当たるのは八つ当たりという自覚もある。俺も矛を収めて、ジャイアントペンギンに目線で隣に座るよう促した。

 

 その意図を汲んで、ジャイアントペンギンは静かに隣の席に腰かける。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 沈黙が発生した。

 

 ……あれ? なんか話があるから俺んとこに来たんじゃないの?

 

 

「どうした? ジャイアントペンギン」

 

「へ? どうしたって……何が?」

 

「いやほら、話とか……」

 

 

 今までも、ジャイアントペンギンがこうして俺と二人きりのタイミングを選んでやってくるときは、何かしらの意図があった。

 今日は特に、昼間に『アクセサリ』の話もあったことだし、何かしらの補足や今後の話もあろうと思ったのだが……。

 

 

「ああ、そういうこと。あははは! そうだな、そう言えばチーターとはそういう付き合いしかしてなかったもんなー」

 

 

 ジャイアントペンギンは心底おかしそうに笑って、

 

 

「ないよ、何も。別に重要な用事なんかなかったけど、なんとなく来ただけなんだ」

 

 

 と、少しだけ照れ臭そうに言った。

 ……そっか。

 

 

「ん」

 

 

 俺は小さく頷いて、テーブルに突っ伏してへばった体勢のまま、顔を下に向けた。

 

 

「お? 照れてるのか? 今までビジネスライクな関係だったわたしが急に友達みたいな距離の詰め方してきたから、なんかちょっと嬉しくなっちゃったのかー?」

 

「みなまで言うな無粋ペンギン!!!!」

 

 

 っていうかなんでそこまで正確に俺の心情を読み取れるんだよお前! チベスナでもないのに!

 あれか……やっぱり耳とか尻尾なのか! くっ、消したい! この耳!!*2

 

 

「ったく……。…………しかしこうして見ると、夜でもけっこう壮観だな。パークが生きてた頃なら、遊園地地帯やロッジ地帯は夜景みたいで綺麗だったんだろうけど」

 

「んにゃ? ところがどっこいなんだなー。野生動物の生態を乱さない為に、夜間の灯火管制は完璧だったぞ」

 

「ああ、そうだったか……」

 

 

 アニメで見た感じ、ロッジは夜も明かりがついてたような気がするが……。まぁ、木々で遮られたら、高山の頂上からじゃ光は見えないか。

 それに、ジャパリパークの夜景にそういう人工的な煌びやかさを求めるのもなんか違う気がするしな。

 ていうか灯火管制て。意味は分かるが。*3

 

 

「夜になると真っ暗だからか、昔は幽霊の噂が絶えなくてなー。面白いことに、森だの草原だのじゃそういう話は聞かないんだ。決まってロッジとか、遊園地とか、ヒトの施設が多く集まるところで聞く」

 

「いや……幽霊はいるぞ。マジで」

 

「え……見たのかー?」

 

「ああ」

 

 

 忘れもしない……。地下通路の件だ。アレは確実に幽霊だった、と思う。幸いにして、それ以降は見てないが……。

 

 

「やっぱヒトには分かるのかな……」

 

「……もしくは、ヒトの思いが作り出してる……とかなのかもな」

 

 

 幽霊の正体見たり枯れ尾花と言うが、枯れ尾花を幽霊と思うヒトの気持ちが、本当に幽霊を生み出してるのかもしれない。そういうことなら、ヒトがいた場所でそういう話が多く聞けるのも納得だし。……哲学的な話だ。

 あと、別に幽霊はヒトじゃなくても分かると思うぞ。フレンズとか、下手なヒトより幽霊との親和性高そうな気がするし。

 

 

「あっ、誰かいる」

 

「っ!?」

 

 

 そんな話をしている最中で出し抜けにそんなことを言われたものだから、俺は思わずバッ!! と体を起こして、ジャイアントペンギンの指さす方を見てしまう。

 周囲の風の流れすらもゆっくりになった瞬間の中でその先を見てみるが──そこにあるのは、短く刈られた芝生だけ。何者かの影はどこにもなかった。

 

 拍子抜けしてジャイアントペンギンの方へ向き直ると、そこにはくつくつと面白そうに笑う悪女の姿が。

 

 

「…………お前なぁ~~」

 

「いや、ごめんごめんなー。つい……面白くて」

 

 

 面白がるんじゃないよ。ったく……。

 へくちっ。

 

 

「……冷えてきたな……」

 

「山だからなー。そろそろ中に戻った方がいいだろ。特にチーターは、寒さに強いけものってわけでもないし」

 

「確かに」

 

 

 そういえば、チベスナもアルパカも(おそらく)ジャイアントペンギンも、気温が低いところに生息していたフレンズだから、寒さにはめっぽう強いんだよな……。

 なんとなく、妙な共通点を感じながら、カフェに戻ると──

 

 

「あちらのおきゃくさまからだと思いますよ! あちらのおきゃくさまからだと思いますよ!」

 

「いいよぉ! いい調子だよぉ! かっぷぅ? がカウンターを滑ってるよぉ!」

 

 

 …………チベスナがアルパカと一緒になって、カウンターの上でカップを滑らせまくっていた。

 しかもあれ……何個も既にカウンターから落ちてるし。

 

 それだけで、俺の神経を逆撫でするには十分すぎる暴挙であった。

 だが、反省しないチベスナと能天気なアルパカ以上に、俺を激昂させたこと。それは────

 

 

 

「で、カップ割れてないんかいっっっ!!!!!!!」

 

 

 揃いも揃って無傷のままだった、床に転がるカップ群だった。

 チベスナのカップスライディングによって床に乱雑に転がされたカップだったが、陶器のような質感にも拘らず意外と材質的には頑丈なもののようで、それらには傷一つ存在しない。

 

 とりあえず開口一番のツッコミによって二人の動きを止めた俺は、そのまま事件現場に駆け寄ってカップを手に取ってみるが……。

 

 

「…………ちょっと触っただけだと分からんが、これ、よくよく確かめてみると感触を寄せてるだけで、別に陶器製ではないのか……」

 

「おおー、そうだったのか。わたしも陶器製だと思ってた」

 

 

 ちょっと力を込めてみると、僅かだがゴムのような弾性が確認できた。多分、これはそういう風に調整されたプラスチックなのだろう。

 相変わらず良く分からない技術力だが……考えてみれば当然か。フレンズも普通に利用するであろう施設なんだし、壊れ物なんか置いてちゃ備品が幾つあっても足りないもんな。

 

 

「……で、まぁ割れてないならいいんだけどさ。なんで二人ともこんなことしてたんだよ」

 

 

 とりあえず床に落ちたカップを拾いながら、俺はチベスナとアルパカに問いかける。

 答えたのは、同じくカップ投げ大会はお開きにしてカップを拾い始めたチベスナだった。

 

 

「チーターが怒ったからだと思いますよ」

 

 

 チベスナは拾ったカップを棚に戻し、

 

 

「チーターが怒った理由。チベスナさんは考えたと思いますよ。そして気付いたと思いますよ――――よく考えたら、えいがのバーテンダーはカップをカウンターに滑らせてたと思いますよ!!」

 

「違う、そうじゃない」

 

 

 俺が怒ってたのは再現度の方じゃないんだ……。

 あと、再現度の話をするならそもそもバーテンダーはティーカップを滑らせたりはしない。ヤツが横流しするのはもっぱらお酒だ。

 

 

「えー。まだ足りないと思いますよ? チーターはよくばりだと思いますよ」

 

「そうだねぇ、チベスナちゃんも頑張ったもんねぇ」

 

 

 頑張りどころがズレてんだよなあ……。

 まぁ当人が気にしてないならいいんだけどさ。俺が気にしてたのも、カップ割って落ち込むアルパカとか、それで連鎖的にヘコむチベスナを見たくなかったからだし。

 

 

「くく、損だなーチーターも」

 

「……そこでそういうフォローが出てくるあたり、お前もお前で大概損してそうだけどな」

 

 

 でもま、こういう空回りも随分慣れたというか、空回りで済んでくれた方が俺としては気楽だからな。

 

「さて! お前ら寝る準備するぞ! 俺はともかくジャイアントペンギンとチベスナは寝る場所確保しないとアレだから、とりあえずテーブルとかを端に寄せて──」

 

「チーター? チベスナさんの寝相はそこまで悪くないと思いますよ?」

 

「ノーコメントでなー」

 

 

 ぐだぐだ言う二人を引っ張りながら、俺は寝床準備の指揮に入る。

 

 そんなこんなで、二度目の高山の夜は更けていくのだった──。

*1
それでもカッコつけはやめない。

*2
消せる。

*3
戦時中の施策なので厳密には誤用だが、それを含めたユーモアと思われる。




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