畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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一五二話:その魂は

 ……やっぱりか……。

 

 

 実はうすうす、感づいてはいたんだけどな。

 というのも、アクセサリが単なるお土産でないと分かった時点で、考えなくてはならない矛盾があったのだ。

 

 

 それは、このアクセサリが誰にも気づかれない地下居住区で大量に保管されていた理由。

 

 単にフレンズの力を引き出す武器なのであれば、去っていくヒト達がその使い方をフレンズに教えず、しかも大量に隠してしまうのはおかしな話だ。まして従業員たちは揃いも揃ってフレンズ想いだったはず。フレンズの為にならないことは絶対にしない。

 と考えると、必然的に『隠した方が得策だと判断した理由』がそこにはある。

 

 

「ヒトにしか使えないから、いずれ使える状況が整う前に散逸しないよう、フレンズに気付かれない場所で保管していた……か」

 

「ま、そんなとこだろーな」

 

 

 ……んでもって。

 

 

「俺はヒトの前世を持ってるから……」

 

 

 っていうのが、ジャイアントペンギンの期待でもあるんだろう。

 

 アクセサリはヒトしか使えない。だが、ヒトの前世を持っていたらどうだ? ヒトの自我を持つフレンズなら、完全なヒトでなくともアクセサリを使えるのではないだろうか。

 多分、ジャイアントペンギンはそこを期待したんだろう。実際、ラッキーも一瞬俺に妙な反応をしたことがあったし。*1

 

 でもなー……。

 

 

「……」

 

 

 俺は、黙ってアクセサリをつまみ上げてみる。

 当然ながら、何も変化は起きない。

 

 

「……今まで俺も何度となくアクセサリを触ったけど、妙な兆候なんて一度もなかったんだ。期待させて悪いが、俺はもうフレンズ。精神が何者かは多分関係な、」

 

「待て」

 

 

 そこまで言いかけた俺を、ジャイアントペンギンは鋭く制止する。

 何かと思ってその視線の先を追いかけると──俺の持っているアクセサリを見ている?

 

 

「何が……、って」

 

 

 釣られてアクセサリを見た俺は、そこで驚愕することになる。

 何せ、俺のつまみ上げているアクセサリは、その中心の虹色の塊が、淡く光り出していたのだから。

 

 

「え、なんでだ!? 今まで一度もそんなことなかったのに!」

 

「やる気がなかったからじゃないか?」

 

「チーターの耳がへたってるからだと思いますよ」

 

 

 関係ねぇだろ耳はよぉ! 消したい! この耳!*2

 

 

 しかし……いや、そうか。

 ラッキーだって俺にちょっとは反応したんだ。俺にヒトの要素がちょっとあってもおかしくはない……のか。

 

 っていうか、サンドスターが反応するような、なんかこう……本質的なヒト要素を探知できるって、ラッキービーストっていったい何者……いや何物なんだろうか。

 サンドスター探知機みたいな機能でも内蔵してるんだろうか。あっ、そういえばアニメでサンドスター・ロウの濃度がどうとかやってたか。ってことは謎物質探知機能があってもおかしくないな……。

 

 

「………………」

 

 

 で、光らせたのはいいんだが。

 

 

「このあとどうするんだ?」

 

「ん~……」

 

 

 問いかけてみるが、ジャイアントペンギンの方も流石に答えは持ち合わせていないようだった。まぁそうだよね。それが分かれば今頃ジャイアントペンギンなら教えてくれてるだろうし……。

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

なわばり

 

 

一五二話:その魂は

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 結局、そのあといろいろと試してみたのだが『アクセサリ』を光らせることはできず。

 

 あんまり根詰めてもしょうがないということで、その場で『アクセサリ』を発動させるのは諦めようということで話が落ち着いたのであった。

 

 

「ひょっとしたら、多分発動させるには俺は魂のヒトレベルがもう足りてないのかもなぁ」

 

 

 で、本題が終わっても俺にはまだ化石博物館でやり残したことがあるわけで。

 

 要するに博物館観光をしながら、案内役を買って出てくれたジャイアントペンギンにそんなことを漏らしていた。

 ……ヒトレベルって言うとなんか珍妙な概念のようだが、『アクセサリ』が『ヒトとしての要素』に反応して発動するというのなら、俺にはその『ヒトとしての要素』が足りてないんじゃないか……みたいなことは思うわけだ。

 

 こう言うとヒトとしての自我が……みたいな怖さもあるけど、正直俺はしょうがないことだと思ってる。

 だって、俺チーターだし。確かに前世はヒトだが、今生は何の変哲もないチーターとして生まれたんだ。速攻でフレンズ化したからヒトだった頃の記憶を持ったままフレンズ化できたが、本来なら記憶だって残らず消えていたはずなのだから。

 

 その程度の偶然で残った『ヒトとしての要素』で、一〇〇%のヒトと同じことができるか? と考えれば……まぁ無理かなって諦めはつくんだよね。

 

 

「ヒトレベルだと思いますよ?」

 

 

 横で観光に付き合っていたチベスナが、首を傾げる。

 

 

「そ。ただヒトの要素を備えてるだけじゃ、アクセサリは発動できんのかもしれんな」

 

 

 それこそ、完全なヒト──かばんの登場を待たないといけないのかもしれない。

 もっとも、かばんが登場していない今の段階ではそんな可能性は誰にも思いつけまい。ジャイアントペンギンからすれば『アクセサリ』は使えないって言ってるようなものなので、落ち込んでいるようだったらフォローしてやらないとな──。

 

 そんな気持ちを込めて、ジャイアントペンギンの方へ視線を向けてみると。

 

 

「………………」

 

 

 ジャイアントペンギンは、何やら納得がいってなさそうな表情をしていた。

 

 

「……ジャイアントペンギン?」

 

「……ん? ああ、いや。ちょっと思うところがあってな。気にしないでくれ──とは言わないけど、まだ諦めるには早いような気がしてなー」

 

 

 意外と粘るな……? いや実際、使えればセルリアンの脅威に対しての切り札にもなりえるわけだし、簡単に諦めきれないのは当然のことだが。

 ただ、聡明なジャイアントペンギンがただ何の根拠もなく望みの薄そうな方策にしがみつくっていうのも、何か奇妙だ。言語化できてないだけで、何か心当たりでもあるんだろうか?

 

 

「…………耳」

 

 

 と。

 ジャイアントペンギンは唐突に、そんなことを言いだした。

 

 

「耳? 耳がどうかしたか?」

 

 

 言いながら、俺は耳を両手で触る。何の変哲もない、ピンとした耳だが……。

 

「んにゃ。よく見たら、その耳けっこー感情が出るよなぁって思ってなー。チベスナみたいに、見ただけでパッと分かるわけじゃーないが……。……思い返してみれば、あの時も……」

 

「くっ!! ついにジャイアントペンギンにまで読まれるようになったか!!」

 

 

 くそっ……この耳、消したい!!*3

 

 

「要らんか? 耳とか尻尾」

 

「俺はあくまで文明的なフレンズを目指しているからな……。ポーカーフェイスを阻害するような要素は極力なくしていきたいが」

 

「ポーカーフェイスかー?」

 

 

 なんだよ。

 

 

「耳も尻尾も大事だと思いますよ。消すとか怖いこと考えちゃだめだと思いますよ? それよりちゃんとせいぎょしておくことが大事だと思いますよ! チベスナさんのように!」

 

「早速制御できてないが」

 

 

 耳がドヤってんだよなぁ……。

 

 

「ほい、次。マンモスの骨格標本だな」

 

 

 そんな感じで馬鹿をやっていると、ジャイアントペンギンが次なる展示の紹介に入ってくれた。

 

 マンモスの全身骨格か。そういえばガキの頃、一回見たことある気がするが……こうやってまじまじと見るのは初めてかもしれない。

 当時化石といえば恐竜、ティラノサウルス! って感じで、マンモスとか……なんていうか、『土属性』って感じで……そこまで興味なかったもんな。

 でも、大人になった今なら、その貴重さが分かる。

 恐竜の化石って全身残ってることはめったにないから、ところどころ想像図なんだって聞いたことがある。でもマンモスの場合は、比較的新しい時代の生物だからっていうのと、全身氷漬けのものが残ってたりすることもあって、完璧に骨格が判明しているのだ。

 

 絶滅した動物のことが、ここまで詳しく知られている。それって途轍もない奇跡なんじゃないかと思う。

 

 

「マンモスってのは、およそ四〇〇万年前から一万年前──だいたい新生代あたりに生息していた、ゾウ科の動物だなー。ゾウっぽい見た目と古代生物ってところで勘違いされやすいが、ゾウの直接の祖先とかじゃあなく、あくまで類縁って感じだな。栄えることができなかったゾウの亜種」

 

「悲しいな……」

 

「って思うのはチーターだけだと思うけど」

 

 

 そうかね。やっぱ生存競争にセンチなものを感じるのは人間特有なんだろうか。

 

 

「……。ともかく、絶滅の理由は諸説あって、気候の変化で餌になる植物が激減した説、人間の狩猟圧説、人間が連れてきた家畜からの伝染病説、急な災害などによる大量死滅説、果ては超新星爆発の影響説なんかもある」

 

「どれが有力説なんだ?」

 

「最新の研究で提唱されているのは、急な災害などによる大量死滅説だな」

 

 

 へー……そうなのか。

 

 なんかマンモスって人間が狩りまくってるイメージがあるから、てっきり狩猟しすぎで絶滅したもんかと……。

 

 

「っていうのも、マンモスの化石を調べても、人間の狩猟があったことを示す矢じりだのが出てくることはあんまなくてなー。逆に、大腿骨の歪み……まぁ平たく言えば病気の痕跡を示す化石はけっこう出てきてるんだ」

 

「病気なのか? ……あー、ヒトの家畜から伝染したパターンとか?」

 

 

 現実でも、豚インフルエンザとか鳥インフルエンザとか、世界的なパンデミックになった病気とかあるもんなー……。そういう感じで大量絶滅が発生するパターンもあるかもしれない。

 

 

「んにゃ。実はマンモスの絶滅にはヒトは関与してなかったってことを示す証拠も、けっこう出てきてるんだ」

 

 

 だが、ジャイアントペンギンの返答はちょっと意外なものだった。

 

 

「マンモスの最期の生息地であると言われてるウランゲリ島では、マンモスはヒトがウランゲリ島にやってくる一〇〇年ほど前に絶滅していたらしいんだ。つまり……そういうのが全く関係ない病気、自然災害、事故とかが直接の要因である可能性が高い」

 

 

 そうだったのか……。

 初めて知ったな……。

 

 

「もっとも、生物が絶滅する理由なんて一つであることはまずないけどなー。おおむね、植生の変化、人間の狩猟圧、病気や自然災害……色んな理由が複合して絶滅したって考えるべきかも」

 

 

 ちなみに、とジャイアントペンギンは付け加えるように、

 

 

「さっき言った超新星爆発説だが、絶滅の直接の原因かどうかはともかくとして、それを示す証拠も一応あったりするぞ」

 

「あるの!?」

 

 

 トンデモ説だと思ってたぞ!

 思わず驚愕してしまった俺にジャイアントペンギンは笑いかけながら、

 

 

「化石を調べてみたらな。化石の中に小さい金属が埋まってるのが発見されたんだ。金属の種類は地球上では滅多に見つからないもので……ま、要するに宇宙から来たってわけ」

 

「宇宙から……」

 

「つまり、サンドスターだと思いますよ?」

 

 

 あ、チベスナ。お前話に着いてこれてたのか。

 

 

「お仲間って言ったら近いかもなー」

 

「片や絶滅動物をフレンズとして復活させ、片や絶滅の理由の一つに挙げられ……なんかそう考えると不思議だな」

 

 

 言いながら、俺は『アクセサリ』を指でつまみ上げてみる。

 その中の輝きは、間違いなく俺達の益になってくれるわけだが……。

 

 

「…………やっぱわたしから見ると、十分『ヒト』なんだけどなあ……」

 

 

 ジャイアントペンギン、まだそれ言ってるのか。

*1
アワワした後で通常対応に戻った。九話参照。

*2
消せる。

*3
消せる。




パイセンの煮え切らない態度の理由はちゃんとありますが、それが明かされるのは多分なわばり編ラストなのであんまり気にしないでください。

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