畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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もう分かってらっしゃる方も多いと思いますが、チーターの思考が常に正しいとは限りません。
ゆえに、一人称視点の当SSの地の文の説明が正しいとも、限らなかったりします。


一五話:深まる謎と得た品物

「…………はっ!」

 

 目が覚めた。

 俺は広げた段ボールの上で体を丸めたまま、首だけを持ち上げて、あたりを確認する。

 目を覚ました場所は、俺とチベスナが割り当てられた城の三階の一室だ。寝る前にライオンに『ここで寝るといいよ』と勧められた場所だった。基本的に此処を寝床にしているフレンズは三階で寝るものらしい。

 ……まだ、夜は明けていない。真っ暗闇の中、採光窓から差し込む月明かりだけを頼りに周りを見渡してみると……ちょうど俺の顔があった位置に、チベスナのしっぽがあった。チベスナはちょうど俺に尻を向けるようにして丸くなって寝ていた。コイツなんて恰好で寝てやがるんだ……。どうやら、あのしっぽが俺の顔に当たって目が覚めたみたいだな。はた迷惑なヤツめ。

 

「……はぁ」

 

 まだ夜だし、二度寝するか……? と思ったものの、なんだか腹が減った。

 多分、夜行性のフレンズ用に夜もジャパリまんを用意してくれてると思うし…………探してみるか。

 そういえばジャパリまん、まだどういうものかよく分かってないんだよな。チベスナの話だと、ジャパリまんってそこら中に埋まっているものらしいが……この間はラッキーが持ってたし、チベスナもそのへんに驚いた様子はなかったしな。

 …………もしかしたら、あれか。ラッキーがジャパリまんを作って、それを草むらに隠したり埋めたりしているんだろうか。

 確かラッキーは生態系の維持が原則だからフレンズにはあんまり干渉できないって話だったし、その理屈ならジャパリまんを手渡すのも、ヒトが野生動物を餌付けするような感覚であまりよろしくないはずだ。だから、普段ラッキーはジャパリまんを地面に埋めて、フレンズが野生のときと同じような感覚で餌をとれるように配慮している、とか。

 

 それなら、あの朝ラッキーが『あわわわわ……』ってなってた理由も説明できる。

 つまり、『生態系に干渉しちゃいけないのにジャパリまんを隠す前に見つかっちゃった』というイレギュラーに対して、あの反応をしていたわけだ。

 何気に何か平原地方に重大な危機が迫ってるかもしれないって心配していたのだが、なんかちょっと安心した。ほら、俺っていう転生者(イレギュラー)がいるわけだし、何かとんでもないことが起こってもおかしくないかな……と思ってたんだが、どうやら杞憂だったらしい。

 

 安心した俺は、意気揚々と外に出ることにした。

 チベスナを起こさないようにゆっくりと起き上がり、懐中電灯を持ち、扉を開け――、

 

「フゴッ」

「!!」

「……むにゃ…………」

 

 ……なんだよイビキかよ……。つか、女の子があげていいイビキじゃなかったぞ今の。まぁ、イヌってたまにそんな感じのイビキかく気がするけども。

 気を取り直して、俺は扉を開けて部屋の外に出る。寝静まっているのか、しんと静まり返った廊下は先ほどまでとはまた違った雰囲気を感じさせる。

 騒がしいフレンズ達がいない俺一人の今は、周りが和風建築なのも相まって、ジャパリパークにいるという事実さえも忘れそうになる。

 

 ゆらり。

 

 …………まぁ、忘れようにも、尾てい骨のあたりからひょろりと伸びる長いしっぽの感覚があるから忘れようがないのだが。

 

 音をたてないように慎重に階段を下りていき、城の外へ出る。……月明かりだけでは、流石に暗い。(チーター)は昼行性だから夜目がきかないんだよな。なんとなく目を凝らせば少しは見えるようになるが、まぁそんなことするくらいなら懐中電灯に頼ったほうが合理的だわな。

 というわけで、俺は手回し式の懐中電灯を回しつつ明かりをつける。……そういえば、セルリアンって光に反応するんだっけ? いや、それは黒セルリアン限定の話だったか……? アニメそこまで詳しく見てないから、そのへんはよく分かんないんだよな……。

 まぁ、仮にセルリアンが出ても俺の足なら問題なく逃げ切れると思うが。

 

「さって、ジャパリまんはどこかな……っと」

 

 呟きながら、俺は鼻をひくつかせた。

 チーターの嗅覚は、実はそこまで鋭いわけじゃあない。今まで過ごしてきた感じ、耳や鼻の性能よりも目の性能が際立ってる感じがするんだよな。何せ高速移動中でもものがはっきりと目視できるくらいだし。

 ただ、それは耳や鼻の性能が劣っている、人間程度しかない……ということでもない。特に鼻は、セルリアンの匂いを感じ取れるほどに敏感な代物だったりするのだ。

 だからもちろん、集中して匂いを嗅げば、ジャパリまんの匂いも――――

 

「……そこか!」

 

 分かるわけだ。

 

 場所を特定した俺は、すぐさまそちらの方に向かう。草の茂みをかき分けて歩いていくと、そこにはジャパリまんが入ったカゴを頭に載せたラッキーがいた。

 あ、っていうかまたジャパリまんを隠す前に遭遇しちゃったじゃん。これはまた検索中になってしまうんじゃ……。

 

『……………………………………』

 

 …………あれ? もう検索中じゃないの???

 

の の の の の の

 

へいげん

 

一五話:深まる謎と得た品物

 

の の の の の の

 

「…………ってことがあったんだよ」

 

 翌朝。

 俺は昨夜あった出来事を、皆に話していた。

 俺達は、朝ごはんのジャパリまんを片手に城の近くを歩いている。もう十分準備もしたし、そろそろ旅に戻る――と言うと、ライオンが『それじゃあ平原地方の端まで見送ろう』と言い出したのだ。

 寝床に見送りって、けっこう気に入られたもんだなぁ――と俺は思う。まぁそれはそれとして、見送りは有難い。何せ俺は土地勘ないし、チベスナもガイド能力ゼロだしな。一応、もう迷うことはないが……。

 

「そりゃそうだと思いますよ」

 

 事の一部始終――この間と違ってラッキーが検索中状態にならなかった話をすると、チベスナはあっさりと言った。

 まぁ、そうだよな。俺もあの後冷静になって考えてみたらそう思ったし。

 

 

「ジャパりまんを持ったボスにはたまに会いますけど、喋ったことなんか一度もなかったと思いますよ」

「ああ。おれも、ボスがジャパリまんを運んでるところは見たことあるけど喋ったことはなかったな」

「ボスはフレンズがいっぱい集まっていると自分からジャパリまんを持ってきてくれるからね」

「そういえば合戦のときとか、たまーにボスが顔を出してるよね。戦いの後のジャパリまんはおいしいんだよね~」

 

 そう。

 というか、検索中状態のラッキーを見て驚くくらいなら、チベスナだってラッキーがジャパリまんを持っていたら『ボスがジャパリまんを!?』ってリアクションをするはずだしな。そういうリアクションがなかった時点で、ラッキーがジャパリまんを各地に隠していたとしても、それを見られたくらいでは検索中状態にはならないってことだ。

 こんなの考えれば当たり前なんだが、なぜあの時の俺は一時的でも気づけなかったのか……夜中だったからだな。眠気は人(フレンズだが)の頭をかくも鈍くする……。

 

「しかし、チーターとチベスナが喋っているボスを見たというのは気になるな」

 

 と一人たそがれていた俺に、顎に指を当てていたライオンが思案気に言う。……やっぱりライオンも気になるのか?

 

「俺もパークに何か異変が起きているのかと思ったけど、昨日は特になんともなかったからな……。仮に何かあったとしても、そこまで大きな問題じゃなかったんだろう」

 

 もちろんどんなことだったのかは気になるが。

 何か『検索中』だったものが、検索終了したって感じなんだろうか。

 

「その時、その場所にボスがおかしな行動をとる『何か』があったんだろう? なんだか気にならないか?」

「気にならないといえばウソになるが――俺はそれより、旅の方が重要だからな。覚えてたら、また来た時に探すかなぁ」

「はっはっは! 気楽だなぁ!」

「……悪いかよ?」

「いいや。その通りだと思ってな。確かに、これはわたしの問題だ」

 

 と、ライオンは何か含みのある言い方をした。

 ……ああ、そうだな。俺は旅をしている身だが、ライオンはこの地方を縄張りにしているわけだから、どうしてラッキーがいつもとは違うリアクションをしたのか気になるか。

 まぁ、そのへんはライオンに任せよう。俺がやるべきことでもないし。ひょっとしたらジャパリコインの埋蔵金があるとかなら、是非とも協力してみたくはあるが……。 

 

「それで」

 

 なんてことを考えていると、話題を切り替えるようにライオンが口を開いた。

 

「そろそろ湖畔に続く森だ。案内はここまでにしておくか。ヘラジカの手の者が城に入り込んでいるかもしれないからな」

「!! やべぇじゃないですか大将!」

「そそそ、そうだった……う、迂闊だった!」

「早く戻らないと! オーロックス、アラビアオリックス、急ぐよ!」

 

 ライオンがいたずらっぽく笑うと、ライオン組のフレンズは口々に慌てて、急いで別れの挨拶をして城の方へ走り去っていった。ライオンは――あ、なんか企みが成功した、みたいな顔してる。これ、わざと危機感を煽って三人を城に戻させたな。

 

「……いやぁ~、別れの挨拶くらい素でやりたくってねぇ。悪いことしちゃったねぇ」

「戻ったら労ってやればいいさ」

 

 てへ、と笑って見せるライオンに、俺も同じように苦笑した。ほんと、なんていうか……コイツって人間っぽいよなぁ。まぁ、フレンズはそもそもヒト化した獣なわけで、知能が高まればそりゃ言動も人間っぽくなるんじゃないかとは思うけども。

 

「お蔭で、色々楽しませてもらったよ~。また平原地方に来たら、ウチにも寄ってってね~」

「ええ。あのお城はむーびーすたーたるチベスナさんが撮影に臨んだランドマークですからね。また来てあげると思いますよ。ぬいぐるみの為にも!」

「お前それまだ忘れてなかったんだな…………」

 

 面倒なので忘れてほしいと思う。島を一周する頃くらいには。

 切に願いつつ、俺とチベスナはライオンと別れ――平原を後にしたのだった。

 

の の の の の の

 

「そういえば、その『とーとばっぐ』の中身ってどうなっているんです?」

 

 湖畔に入るまでの並木道。

 地図を見ながら歩いていると、ふとチベスナがそんなことを問いかけてきた。……ああ、そういえばまだしっかりと説明はしていなかったかと思い、俺は一旦その場で足を止めた。

 

「中身って言っても、売店で手に入れたアイテムしか入ってないけどな」

「それが知りたいんです! チベスナさんのぬいぐるみを捨ててまで手に入れたアイテムの数々を知りたいと思いますよ!」

「いちいち恨みがましいな……」

 

 そこまで欲しかったのか、ぬいぐるみ……。

 

 呆れながら、俺は荷物を並べる為に、一旦その場にトートバッグを下ろす。

 チベスナも興味津々といった様子でトートバッグに視線を集めていた。

 

「まず、今俺が持っているもの。地図と――――方位磁針だ」

「ほういじしん?」

「コンパスとも言ってだな、これを持っていると、方角が分かる」

「ほうがく?」

「…………地図の向きだよ。地図だけ見てても、自分が向いている方向が地図の上の方なのか下の方なのか分からないだろ? これがあると、針が向いている方が地図の上の方……って感じで、地図の見方が分かるんだよ」

 

 ちなみに、これは草原の動物のイラストが描かれていた筆記用具セットから取り出したものだ。多分あるだろうと思いつつなかなか見つからなかったので、探していたときは地味に焦った。

 

「で、折り畳み傘と懐中電灯。使用方法は昨日やったとおりだけど、暗いところを見られるようにしたり、雨が降ったら水除に使ったりできる。というか、むしろそっちのが本来の使用方法だな」

「なんですって……傘と懐中電灯で照明をするのは、本来の使い方ではなかったというのですか……?」

 

 チベスナが驚愕しているが、そんなもんだ。むしろこれを照明に使おうと思った俺の機転を褒めてほしい。

 

「あとは、鉛筆削り器。ポケットに入れるとちょっとかさばるのでこっちに移した」

「これは知ってると思いますよ。穴の中にえんぴつを入れると鋭くなる優れものです」

「それから、鉛筆とメモ帳のストック。一応あるだけもらっておいた。って言っても一ダースと三冊ってところだが」

 

 流石に遺棄された売店にそこまで品数があるわけもなく。それでも、結構集まった方だと思う。城の他にもランドマークとなるアトラクションはいくつもあるだろうし、そこの売店でも品物は補充できるから、これだけでも十分だ。

 …………まぁ、生産されていないってことを考えると、やっぱり有限の資源だなぁと思ったりもするのだが。ジャパリパーク内で生産とかされてないかなぁ……。

 あ、そういえばタイリクオオカミとかイラスト描いてるんだっけ。恒久的な趣味にできるってことは、やっぱどこかで生産体制が整ってるのかもしれないな。単に資源が膨大ってだけの可能性もあるが……。

 

「他には何かないのですか?」

「あとはカメラとかビニール袋とかダクトテープとか……ああそうそう、これもあったな」

 

 ちなみに、カメラは今まではチベスナ担当だったが、バッグの中に入れておいた方がよかろうということで俺担当になっていた。

 そして、俺が売店からかっぱらってきた品物、最後の一つは――。

 

「水筒。ちゃんと人数分あるぞ」

「すいとう???」

 

 俺は動物の絵柄がプリントされた、ステンレス製の黄色い水筒を見せる。

 俺が取り出した円筒状のそれを見て、チベスナは分かりやすく首を傾げた。流石に水筒はチベスナも知らないか。下手したらかばんも知らなそうだしな……。まぁ、アイツは木を削って水筒を自作しそうな感じではあるけども。ヒトってすごい。

 

「水筒っていうのは、水の筒。つまり、これを、ふたを開けて……」

 

 水筒のふたを取り外すと、それを見たチベスナが目を丸くする。

 

「この中に水を入れて、持ち運びができるってわけだ」

 

 これで、平原で手に入れたアイテムはすべてだ。地図、方位磁針、折り畳み傘、懐中電灯、えんぴつ×一ダース、メモ帳×三冊ビニール袋、ダクトテープ、水筒×二つ。それに加えてカメラ……なんだかんだ言ってけっこう持ってきてしまった。

 既にトートバッグはけっこうぱんぱんだ。やはり水筒×二が効いている気がする。まぁ、今後の旅を考えると水分補給をこまめにできるようにするアイテムは必須だが。

 

「す、すごいですよ! どこでも水を飲めるということですか! いちいち水場を探す面倒がなくなるということですね!」

「そうだな。この地図によると平原地方を抜けた後は砂漠地方に入るから……水分補給は必須だし」

「……でも、これ中に水が入ってませんね? これじゃ水筒じゃなくてただの(とう)だと思いますよ」

「これから行く場所を忘れたのかよ?」

 

 そう言って、俺は肩を竦める。

 平原を抜け、この先にあるのは――湖畔。ライオンも、そう言っていただろうに。

 

「水なら飽きるほどあるだろうよ。……それと、個人的にやりたいこともあるし」

「やりたいこと?」

「……ま、そっちに行けば分かるよ」

 

 俺的には、鬼門だったりするのだが…………。




へいげんちほー編終了。
……の、予定、だったのですが、次に向かうこはんも実はへいげんちほーの一部だということを、ガイドブック三巻で知りました。なので、「へいげんちほー」ではなく「へいげん」編完結です。
そういえばアニメでも「へいげん」表記でしたよね……。

※ジャパリまんに関する設定について、12.4話「じゃぱりまんがり」での描写と乖離する箇所がありましたので、そのうち修正します。『ジャパリまんはラッキービーストによる直接配給が全て』が正しい設定のようです。

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