畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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一三八話:瞳の奥より出でし

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一三八話:瞳の奥より出でし

 

 

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「まぁ、理屈としては簡単な話なんだけども」

 

 

 言いながら、俺は徐に人差し指をピンと立てる。

 

「チーター、何すると思いますよ?」

 

「まぁ見てろって」

 

 

 怪訝そうな表情をするチベスナに言いながら、俺は慎重に指先にけものプラズムを集める。

 今までは『光らせる』とか『力を込める』みたいな漠然とした感覚だったが……図書館で博士達から『けものプラズム』という概念を聞いて以来、俺は自らの裡にあるけものプラズムをなんとなく認識できるようになっていた。

 

 なお。

 今までは気付いていなかったが、服とか消せるのもどうやらこのけものプラズムの操作が関係しているらしい。

 服を引っ込めるときの感覚が、このけものプラズム操作の感覚とだいぶ似ていたのだ。練習しはじめの時は服を一緒に引っ込めてしまう珍事もあったが、今では笑い話である。

 

 で。

 

 このけものプラズムを身体の一か所に集中させると、そこが光る。今まで足に『力を込める』とイメージしていたのも、無意識にけものプラズムを集中させていた結果だったらしい。

 もちろん今までも足以外を光らせてきた俺だが、この意識を明確にすることで、今までよりも飛躍的に力のコントロールが楽になった。まぁ余計な力を込めてスタミナ減らすこともなくなったからね。

 そして、これにはさらなる進化があるのである。ここ数日で身に着けたのだが──

 

 

「よいせ……っと」

 

 

 人差し指にけものプラズムを集めた俺は、慎重に力を鋭くさせる。すると、指先から何やら金色のオーラのような()()が伸びた。

 俺は、この現象に見覚えがあった。アニメの記憶なので非常にあいまいだが──確か、一二話でヘラジカとライオンがこんな感じのオーラを纏って攻撃してた気がする。

 『なんかこの二人だけエフェクト違う!』って当時びっくりしたのでけっこう印象に残ってるのだ。

 

 そしてこのもや、ただの視覚効果ではない。ちゃんと質感があり、攻撃とかにも使えるのである。

 前足の爪はチーターにとってはそこまで強い武器ではないので頑張ってもこの程度だが……。

 

 

「できた」

 

 

 こんな風に、バスケットボールがすっぽり入るくらいの『立方体』を地面から切り出すくらいなら余裕なのである。

 

 

「おお! 今どうやったでありますか!? すごいでありますなあ!」

 

「ふっふっふ。フレンズの技だよ。……ま、お前も長生きしてりゃそのうちできる」

 

 

 コツさえ覚えればチベスナでもそのうちできそうなくらいだからな。

 

 

「チーター、それでこれをどうするんだと思いますよ?」

 

「まぁ見てろって」

 

「さっきからそればっかりだと思いますよ!」

 

 

 ふむ……。いい加減チベスナになんかさせないと退屈で変なことしでかしそうだな。

 過去の経験から厄介事の気配を探知した俺は、徐にチベスナの方へ土キューブを差し出す。

 

 

「じゃ、このキューブに穴を掘ってみてくれ。真ん中を貫通する感じで」

 

「? そんなことでいいと思いますよ? それなら──えいっ」

 

 

 ずぼり。

 

 特に手を光らせたわけでもない貫手(ぬきて)の一撃で、あわれ土キューブはあっさりと貫通してしまった。

 まぁ貫通してもいいのだが。

 

 

「よいしょ。それでこれがどうしたと──」

 

 

 で、チベスナが手を無造作に引き抜いた瞬間──

 

 ぐしゃり。

 

 あっけない音を立てて崩れてしまった。

 

 

「崩れちゃったと思いますよ!」

 

「これは……わたしのときと同じでありますか?」

 

「そう。ものには重さがあるからな。こうやって穴を大きくすると、上の部分の重さを支えるものがなくなるから、いずれ上の部分の重みに耐えられなくなって崩れてしまうんだ」

 

「ははー……なるほど。わたしの巣穴が崩れていたのも、そのせいだったというわけでありますね!」

 

「いやまぁ、プレーリーの場合は単純に掘りすぎっていうのもあると思うけど……」

 

 

 原理的にはそうなんだけど、そもそものところとしてね。

 

 

「ではこれを回避する為にはどうすればいいか──はいチベスナ早かった!」

 

「ふふん! チベスナさんをバカにしちゃいけないと思いますよ!」

 

 

 俺の説明の途中で天高く手を挙げたチベスナは、そう言ってもう片方の手で鼻の下をこする。ちょっと知的なムーブだ。

 

 

「……? 二人とも何してるでありますか? 新しい遊びでありますか?」

 

「あっ」

 

 

 そっか。フレンズにクイズって概念は分からんか。

 思えばクイズの森も、確かサーバルは意味を理解してなかったような気がするし。

 

 

「まぁこれは答えを当てさせてるわけだ。で、チベスナ答えは?」

 

「つっかえ棒を置けばいいと思いますよ! 支えになるので強度も十分!」

 

「なるほど。ではやってみよう。チベスナつっかえ棒とってきて」

 

「ほいきたと思いますよ」

 

 

 脇の木々の方へ行って枝を拾うチベスナを横目に、俺はもう一度指先にけものプラズムを集中させ、同じように土を切り出す。

 ちなみに土キューブと言ってはいるが、完全なキューブというわけではない。そもそも俺自身が素でもそこまで器用ではないからな。

 フレンズとしてはかなり最高峰だとは思うけど、ヒト基準で言えば普通レベルだから。

 

 

「チベスナ、用意できたか?」

 

「できたと思いますよ! いつでも準備オーケーだと思いますよ!」

 

「じゃ、穴をあけてその棒を突っ込んでみるんだ」

 

「了解だと思いますよ。えいっ!」

 

 

 チベスナは気合を入れて、俺の手の上にある土キューブに右ストレートを叩きこむ。

 土を破壊するでもなく本当にすっぽりと貫通した拳が目の前に迫るのは、微妙に怖いところではあるが……。

 

 

「ここからつっかえ棒を入れればいいんですね? 楽勝だと思いますよ!」

 

「おお~! チベスナどの、すごいであります!」

 

「ふふん。もっと褒めるといいと思いますよ! えいっ!」

 

 

 ぐしゃっ。

 

 

 ……意気揚々と拳を引き抜いたチベスナだったが、つっかえ棒を差し込む前に土キューブは無惨にも崩れてしまった。

 ま、当たり前である。腕を引っこ抜いてからつっかえ棒を差し込むまでの間も重力はかかり続けているのだ。今まで『腕』という支えがあったから維持できていた穴から腕がなくなれば、その瞬間崩れるのは当然の流れだろう。

 

 

「さて、さっきのお前の回答だが……残念ながら不正解だ」

 

「だったらもったいつけずに言えばよかったと思いますよ!」

 

「落ち着け」

 

 

 俺はいきり立つチベスナを宥めつつ、

 

 

「どのみち今の失敗例はやるつもりだったんだ。今のやり方を少し変えれば正解にできるんだからな」

 

「どういうことでありますか?」

 

「と思いますよ?」

 

 

 首を傾げる二人に正解を示すため、俺は三度土キューブを掘り出す。

 流石に三度目ともなると慣れてきたからか、キューブの形もそこそこよくできている気がする。

 

 

「チベスナの『つっかえ棒を差し込む』って考え方は、ぶっちゃけ間違いじゃない。ただ、手順が違えば何の意味もなくなってしまうんだ。最初に掘るだけ掘ったら、つっかえ棒を差し込む間もなく重さに負けちまうからな」

 

 

 そこまで言って、俺は二人の反応を確認してみる。

 二人とも、ここまではまだ理解が追い付いているようである。そこを確認した俺は慎重に指で土を掘りながら、

 

 

「じゃあ、やることは単純。ちょっとずつ掘ってつっかえ棒を差し込めばいい」

 

 

 ずぼっ、とちょっとだけ掘った穴を支えるように、木の枝を差し込む。こうやっていけば、広い穴でもきちんと掘れるというわけである。

 

 

「チーター、でもこれすごく住みづらいと思いますよ」

 

「えっ」

 

 

 思わぬ方向から飛び出したダメ出しに、俺は思わず声を上げてしまった。

 す、住みづらい……とな……?

 

 

「確かに……。こんなに棒がいっぱいあったら、のんびりできないでありますね……」

 

「あー…………」

 

 

 も、盲点……。確かにそうだったな……。

 ……あれ、じゃあかばんはどうしてたんだっけ? いや、覚えてるんだよ! 確かビーバーとプレーリーの家は穴も掘ってたはずだし。その穴に何かしらの補強をしていたのは間違いないはず。

 ただ、こういう柱じゃないとすると…………何にしてたんだっけ? うーん……思い出せん…………。

 

 

「あ、チーターどの。それでこうかんじょうけんというのはなんだったでありますか? 支えを作るというアイデアは教えてもらいましたし、そっちの方もやらねばであります!」

 

「あっ、そういえばそうだったな」

 

 

 俺的にはまだ何の成果も出せてないから、こっちの要求をやってもらうのはなんか気が引けるのだが……プレーリー視点からすると『アイデア』だけでも十分為になった感じにはなるか。

 

 

「石がな、大量に必要なんだ」

 

「石……でありますか?」

 

 

 俺の言葉に、プレーリーは首を傾げる。

 まぁ、要領を得ないよな。チーターがチベスナ引き連れて湖畔近くまでやってきた理由が『石が必要だから』なんて言われても意味分かんねぇと俺でも思う。

 

 

「ああ。実は『川』を造ろうと思っててな……」

 

「すいろだと思いますよ」

 

「って言っても通じねぇだろ」

 

 

 チベスナだって最初水路分かんなかったじゃん。

 

 まぜっかえしたチベスナを窘めて、俺は要領を得ていないプレーリーに追加で説明をする。

 

 

「普通に穴を掘って水を通すだけじゃ、すぐに水で崩れて川が埋まると思ってな。だから穴を掘った後、そこを石の板とかでコーティングしようと思ってるんだ」

 

「おお~! 面白そうであります! こんな感じでありますか?」

 

 

 と。

 

 まさしく言いながら、プレーリーは適当な地面に半円のくぼみを作り、そして歯で削った石をピタリと当てはめて見せた。

 もちろん『試し』で作っているため掌サイズくらいのミニマムさだが……しかしまさしく、俺のイメージしている通りの水路だった。

 これを一瞬である。俺は思わず絶句してしまった。

 

 

「おお……」

 

「やるじゃんと思いますよ! プレーリー、なかなか手先が器用なフレンズだと思いますよ」

 

「えへへ、わたし、誰かの指示通りに作業をするのは得意なのであります。言ってくれればじゃんじゃん作るでありますよ!」

 

 

 瞬時にくぼみにぴったりな形に石を彫刻する速度と技術。

 そしてこちらには、穴掘りが得意なチベスナ。

 

 これは…………数百メートルの水路づくりも、案外早く終わるかもしれないぞ?




ライオンとヘラジカのオーラ描写は原作準拠だったりします。けものプラズムってすげー。

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