畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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良い『好き』の物語でした。


一三七話:若き巧速の兵

「なんだかこうしてると懐かしいと思いますよ」

 

 

 二人並んで歩いていると、横のチベスナがそんなことを言い出した。

 

 

「懐かしい?」

 

「はい。旅をしてたときのことを思い出すと思いますよ」

 

「ついこないだじゃん」

 

 

 精々……あれ、どんくらい経ったんだろ? 曜日感覚がないからなぁ……。多分一〇日くらいだとは思うけど。懐かしいってほどではないような。

 ま、チベスナがこういうエモーショナルな感覚を抱くのはいいことだと思うし、あまり水を差さないようにしておくか。…………水を回収しに行くのに、水を差さない。ふふ。

 

 

「チーター、耳がなんか面白いと思いますよ」

 

「耳ってなんだ耳って!」

 

 

 ちくしょう!! 口に出さない程度の自制心はあったのに!! 消したい!! この耳!!!!*1

 

 

「……なんか興が削がれちゃったし、湖畔行くの明日でいいんじゃないかな」

 

「駄目だと思いますよ! チベスナさんの喉はすでにカラカラだと思いますよ! これ以上お水を飲まなかったら枯れちゃうと思いますよ!」

 

「お前そんな植物じゃないんだから……」

 

 

 サンドスターがあれば大丈夫でしょ、基本的に。そりゃあ植物のフレンズとかならありえるかもしれないが。

 ……そういえば植物のフレンズってありえるのかね。フレンズって動物しかなれないみたいな雰囲気あるけど。というか虫のフレンズすら見ないし……。

 そのへんのサンドスターの効能のギリギリって、考えだすとキリがないよなぁ。本腰入れて研究してみたら、色々と分かりそうなんだが……。

 ま、俺は研究者じゃないのでそのへんのやり方とかよくわかんないしな。

 

 

「ところでチーター、湖畔に行ってどうするんだと思いますよ?」

 

 

 悶々と考えていると、チベスナが横で首を傾げていた。

 尻尾を訝し気に揺らしながら、チベスナは続ける。

 

 

「ビーバーを頼りにしてるなら、チベスナさんはどうかと思いますよ。ビーバー、本番だと不安になるから多分困っちゃうと思いますよ」

 

「あけすけに言うね君は……」

 

 

 とはいえ、その通りではあるんだよな。

 ビーバーの思慮の深さは俺達も体感していて知っているが、あいつはその思慮の深さゆえに実作業となると途端に最初の一歩が踏み出せなくなってしまうという悪癖がある。

 そう考えると、作業の手伝いを依頼しても困らせるだけというチベスナの懸念はもっともである。

 で、俺もビーバーを頼りにしてるわけじゃあない。

 というか基本、シアター整備に他人の手は借りないつもりだからな、俺は。

 

 

「安心しろ。湖畔に行くのは川の水を引くからアドバイスもらうだけだ。ぶっちゃけ、目的はその()にある」

 

「前だと思いますよ?」

 

「ああ。この前噴火があったからな……。それに覚えているか? 湖畔から砂漠に行くまでの道のりで、()()()()を見かけていたのを」

 

「ある動物と思いますよ?」

 

「そう」

 

 

 最初に此処に来た時、俺達はヤツとは出会わなかった。

 

 単に留守にしていた……とは考え難いだろう。騒がしいヤツだったはずだし、ただでさえ穴ぼこを量産するのだから目立ちもするはずだ。

 とすると、考えられる可能性としては……あの時点ではまだいなかった、という可能性。

 考えてみれば、巣のことで悩むのは、ビーバーみたいな例外を除けば、なってから日の浅いフレンズだけだしな。

 つまり――――。

 

 

 プレーリーに、会いに行く。

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

 

 

一三七話:若き巧速の兵

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

「前にこのへんで巣穴を作ってる動物を見たんだよ」

 

 

 歩きながら。

 俺はチベスナに、計画の概要を説明していた。

 

 既にあたりの風景は背の低い草木に覆われた平原から、整備された車道と林に囲まれた湖畔地帯へと様変わりしつつある。

 いやあ、この景色の移り変わりは流石に懐かしいなぁ。あの頃はまだチベスナともそんなに息が合ってなかったっけ。

 ビーバーからは良いコンビって言われてたけど。

 

 

「それがどうしたんだと思いますよ?」

 

「こないだ火山も噴火してたし、降ってきたサンドスターでフレンズになってたら、巣穴を作るためにいっぱい穴掘ってるだろ? その穴の先で石を採掘させてもらおうとな」

 

「なるほど! 流石チーター、かしこいと思いますよ」

 

「褒めるな褒めるな」

 

 

 照れるだろ。

 

 

「でも、フレンズになってなかったらどうするんだと思いますよ?」

 

「あん? そうだなー……」

 

 

 もちろんその可能性も大いにあるとは思ってる。だからこれは一種の賭けなわけだしな。

 まぁ、ダメだったら……、

 

 

「その時は諦めてライオンとヘラジカに話を通そう。俺にはこれ以外にあの二人に話を通さず石を集める方法は思いつかん」

 

「まぁしょうがないと思いますよ」

 

 

 多分大丈夫だとは思うけどな。このへんサンドスターも濃いし──

 

 

 ずどぉぉぉん!! と。

 

 不意にものすごい轟音が、木々の向こうから響いてきた。

 バサバサと鳥が羽ばたく音が続き、少し遅れて土煙が立ち上ってくる。

 

 

「わっ!! なんだと思いますよ? 土煙? セルリアンだと思いますよ?!」

 

「落ち着けチベスナ」

 

 

 セルリアンにしては匂いがない。おそらくフレンズだ。

 とすると、こういう無茶をしそうなフレンズはだいぶ限られてくるよな。

 

 

「おおーい、大丈夫かー?」

 

 

 茂みをかき分けながら、俺とチベスナは轟音のもととなった場所へと急行してみる。

 草葉と土煙の向こうにいたのは──

 

 

「む˝む˝ーっ!! む˝ーっ!! む˝ぅ──っ!!!!」

 

 

 オグロプレーリードッグ────の尻だった。

 

 

「……あれ大丈夫だと思いますよ?」

 

「大丈夫……ではなさそうだなぁ」

 

 

 おそらく、掘りすぎて地面が陥没して、そこに埋められてしまったのだろう。いや、にしたってどうやったらああなるのか意味不明だが……。

 ともあれ自力で抜けるには大分時間がかかりそうだし、引っこ抜いてやるか。

 

 というわけで、そそくさと近寄ってプレーリーの腰をがっしりと掴む。これがサーバルとかの戦いの苦手なフレンズだったら引っこ抜くのも苦労しそうだが……一応、俺も大型肉食獣のフレンズである。

 凡百のフレンズに比べれば、膂力には自信がある方だ。ライオンとかジャガーに比べたら大したことないけどな。

 

 

「よいせっと」

 

「むばー!? だ、誰でありますか!?」

 

「…………」

 

 

 さくっと引っこ抜いたところで、顔面に土をまぶされたプレーリーのヘッドバッドをモロに浴びてしまい、めちゃくちゃ土まみれになってしまったが。

 

 

「チベスナさんはチベットスナギツネのチベスナだと思いますよ。こっちはかんとくのチーター」

 

「監督じゃないが、チーターだ。よろしくな」

 

「おおー! チベスナどのにかんとくどの! よろしくであります! わたしはプレーリーであります!!」

 

「ほら監督って言っちゃったじゃん!」

 

 

 ついに出たよこの手合いが! チベスナの影響を受けて監督って言っちゃうやつ! 今までのフレンズは良くも悪くも我が強かったので普通に流してくれてたが……。

 

 

「べつにあなたのかんとくではないと思いますよ」

 

「そこでハシゴ外すのかよ」

 

 

 ジェラるなジェラるな。

 

 ぽんぽんと頭を叩きつつ、

 

 

「で、お前は?」

 

「おっと! ご挨拶が遅れました。わたしはオグロプレーリードッグのプレーリーであります! よろしくお願いします! チベスナどの、チーターどの!」

 

「元気がいいなあ……」

 

 

 と、プレーリーはにんまりと笑いながら、

 

 

「それでは早速……」

 

 なんて言って俺の目の前に立ち、何やら構えだした。

 なんだ? と思う間もなく、俺の両頬にプレーリーの手が伸びていく。

 

 

「うわっ」

 

 

 思わずびっくりしてのけぞると、プレーリーの両手が俺の目の前を通り過ぎて行った。

 

 

「なんだいきなり。びっくりしたぞ」

 

「あっごめんなさい。プレーリー式のご挨拶をしようかと」

 

「あー……実はチーター式の挨拶があるからそっちでいいか?」

 

 

 言いながら、俺はテキトーにお辞儀をする。

 

 いくらフレンズ相手とはいえキスをするのはちょっとね……。あとチベスナにもさせたくないし。

 チーター式の挨拶なんてものは存在しないが、前世ではお辞儀が一般的だったからな。俺式という意味ではあながち間違いじゃない。

 

 

「どーも」

 

「チーター、嘘言うのはよくないと思いますよ。チーター式はこっちだと思いますよ」

 

「だまれ」

 

 

 よけいなことを言いながら招き猫の手をしたチベスナの頭をぐりぐりしていると、

 

 

 

「おおー! 他のフレンズの挨拶! 新鮮であります! どーも!」

 

「だから招き猫の手はするんじゃねぇ!!」

 

「あっ、ごめんなさいであります。こっちですね! どーも!!」

 

「いやいいんだけどさ……」

 

 

 ツッコミを入れると、プレーリーは素直にお辞儀の方に移行してしまった。

 くっ……チベスナのノリでツッコミを入れると普通に謝られてしまってやりづらい……。

 

 

「ところでプレーリー、あそこで何してたと思いますよ? そうとうまぬけだったと思いますよ」

 

「うぐっ」

 

 

 おいチベスナ、言葉の刃が刺さってるから。

 

 

「じ、実はわたし、巣を作ってまして……その為に穴を掘っていたのであります。ただ、なかなかうまくいかず……」

 

「あー……」

 

 

 チベスナは何か感じ入るものがあるらしく、プレーリーの言葉に何やら苦い表情を浮かべていた。

 そういえばチベスナも昔自分で穴掘って巣をつくろうとしてたことがあったんだっけ。結局断念したらしいけど。

 

 

「プレーリー、悪いことは言わないのでやめといた方がいいと思いますよ。フレンズの身体で入り切る穴を掘るのは至難の業なので」

 

「う~ん、やっぱりそうでありますかね~……」

 

「そうだと思いますよ。フレンズの身体が入り切る穴を掘ろうとすると、ぜったい崩れると思いますよ。それより他のフレンズが作った穴に住んだ方がけいざいてきだと思いますよ」

 

「経済的ではないけどな」

 

 

 あとさらっと自分の手法をお勧めするな。

 

 

「まぁ、今のやり方ではだめだろうなぁ。やっぱ補強とかしないと」

 

「補強、でありますか?」

 

「支えとかさ」

 

 

 と、俺はとりあえずの助言をしてみる。

 ここでプレーリーが巣作りを順調に終わらせてしまうと、色々とのちのち起こることに変化が出てしまうかもしれないが……ま、かばんならなんとかするだろうし、変化がどうとか俺が気にすべきことではない。

 

 ……そういえばかばん達は支えとかやってたっけ? もう細かいところは全然覚えてないなぁ。なんか支柱とかやってそうな気がするけど。

 お、そういえばこれ、うまい口実に使えるかもしれないな。

 

 

「まぁ、こんなふうに説明されてもプレーリー的にはよく分からんだろう。チベスナもよく分かってなさそうな顔してるし」

 

「そんなことないと思いますよ!」

 

「顔で分かるから」

 

 

 分かってるときはもっとドヤっとしてるからね。

 

 

「だから、俺も一緒に巣作りに協力してやろう。その代わり──俺達の目的にも協力してくれないか?」

 

「おお! もちろん構わないであります! むしろたすかるであります!」

*1
消せる。




ちなみに川を作る件は一九話でほんのり話題に出てきたりしています。
プレーリー(元動物)も地味に二一話にて登場していたり。

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