畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

132 / 161
もう全何話予定とか言うのやめます(一話目の三分の一くらいしか終わってない)。


一三二話:度重なる汚濁の一

 ──ステージ1。*1

 ──エントランス。

 

 

 ──というわけで、俺達は改めてエントランスを見て回っていた。

 エントランスは入り口ドアを中心とした、一二〇度くらいの扇形をしている。

 小学生二クラスくらいが体育座りで集合できるくらいの広さがあり、右手側には受付と券売機がある。左手側には館内のMAPがあり、館内に何があるかを一望できた。

 

 往時は様々な客がここで色々なものを楽しんでいたのだろうと推察できるが──今はMAPは擦り切れ、エントランスの中央には落下したと思しき巨大モニターが転がっている。MAPがあれば館内のものの場所とかが把握できて、掃除もめっちゃ楽だったんだがなぁ……。

 ま、既にチベスナの話で館内にあるものは大体分かってるから、別にいいが。

 

 ちなみに入口のガラス戸は漏れなく割れて飛び散り枠だけとなっている。

 その他にも雑多なゴミで埋め尽くされた床は、もはや廃墟としか言いようがない様相を呈していた。

 

 その様子を見て、俺は改めて確信する。

 

 

「……此処を掃除しないことには、ジャパリシアターの未来はない」

 

「いきなりなんだと思いますよ。不穏なことを言うのはやめるといいと思いますよ?」

 

「だから掃除しようって話してんだよ」

 

 

 文脈を読みなさい、文脈を。

 

 

「で、どこから始めると思いますよ?」

 

 

 さらりと流して、チベスナは話を先に進める。

 まぁそこで拘泥するつもりはないから別にいいんだが。

 

 んーと、どこから、ねぇ……。色々とやるべきことはある。地面にもれなく溜まった土汚れの掃除。大型ゴミの排除。ガラス戸やらの壊れた備品の修繕や取り換え。

 修繕・取り換えについては時間がかかるから後回しにするとして、一番最初にやるべきなのは──

 

 

「まずはデカいゴミを片付けるところかな」

 

 

 モニターとかの撤去、だな。

 

 ちなみに、掃除道具は俺達の手にないが──そもそも今回、俺は掃除道具を使うつもりはない。

 というのも、雑巾を使って汚れを拭くとか、そういう次元のことをしていたら何年かかっても終わらないような汚れ具合だからな。そういうのはまぁ……追々やっていくとして。

 

 今日俺達がやるのは、ぶっちゃけ掃除じゃない。

 

 現状『廃墟』としか言いようがないジャパリシアターを、『ボロい映画館』レベルまでランクアップさせる作業だ。

 一気に復活とかまでいくと、流石に段階すっ飛ばしすぎだからな。

 そういうのができるほど、俺は専門的な掃除やらリフォームやらの知識があるわけでもないし……。

 

 

「ゴミですか……。あ、ところで片付けたゴミ、どこに捨てると思いますよ?」

 

「ん~……」

 

 

 そこな。

 

 チベスナにしてはいい着眼点だ。

 そのへんにポイじゃあまりにもお粗末だしなぁ……。第一、それじゃあシアターを外から見たとき、すぐ横に粗大ごみの山がボンと置かれてることになるじゃないか。

 かえって廃墟感マシマシになってしまっては何の意味もない。

 

 かといって、廃棄場所なんて思いつかないし。

 森の中に捨てるのもね……。ジャパリパーク、普通に野生動物も住んでるから。捨てる場所も考えないと迷惑がかかってしまう。

 

 ……ん?

 

 よく考えたら、このへんにはなくとも、ジャパリパークを探せばゴミの廃棄場くらい普通にあるんじゃないだろうか? 多分ラッキーなら知ってるだろ。

 っていうか、多分ゴミを置いておけばラッキーが反応して勝手に捨ててくれる気がする。捨てて……くれるよな? うん。

 

 

「…………どっちにしても、シアターの脇に捨てておけば問題ないか」

 

 

 仮にラッキーが勝手に捨ててくれなくとも、聞けば多分案内してくれるだろ。案内してくれなくても、ラッキーなら『いいのか? ジャパリパークの管理を司る者として、ゴミが転がってるような状況を看過しちゃっていいのか?』とか適当に言えば丸め込めるんじゃね?

 ラッキーは喋れないから、俺がヒトであると推測できそうな言動をとっても問題ない。むしろ意思疎通してくれるようになったら儲けモノだろう。多分そこまで都合よくはいかないと思うが。

 

 

「シアターの脇ですね? 了解と思いますよ!」

 

 

 俺の呟きに反応したチベスナは、勝手に納得して作業を開始した。

 …………さて、俺の方も動き出すか。

 

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

 

 

一三二話:度重なる汚濁の一

 

 

● ● ● ● ● ● ● ● ●

 

 

 

「よし、じゃあまずはこのモニターから片すか」

 

「はいはい! チベスナさんこれ持っていくと思いますよ!」

 

「お、おう……」

 

 

 なんか張り切ってるチベスナにモニターを持たせてみるが……。

 

 

「……うーん。なんかに使えないかと思ったが、完全に壊れてるな……」

 

 

 その時にモニターを観察してみたのだが、見事に後部に取り付けられていたケーブルがブチブチに千切れている。

 モニターを天井に取り付けていたらしきアームも完全にポッキリ逝っており、画面の方も落下の衝撃で一部がヒビ割れてしまっていた。

 これはもう、かばんでも有効利用は難しいだろう。ワンチャンバラして中の精密機械とか使え──ないか。

 

 

「う……これ、前が見づらいと思いますよ」

 

「せやろなぁ」

 

 

 何せこのモニター、とんでもなく大画面である。縦幅二メートル、横幅三メートルくらいあるからね。

 チベスナが持ち上げると、顔面が完全に隠れる。見づらいどころの話じゃなく、『見えない』と言った方が正しいくらいだ。

 

 

「まぁいいと思いますよ。さっさと外に運んでしまうと思ガっ!?」

 

 

 がこん、と。

 

 モニターを運んでいたチベスナだったが、そのモニターが入口の枠に引っかかってしまう。

 あー、こりゃ顔面をモニターにぶつけたな。

 

 

「なっなっ、なんだと思いますよ!? チーター!? そういうイタズラはチベスナさん怒ると思いますよ!」

 

「自分でぶつかってんだよなぁ」

 

 

 怒り出すチベスナを宥めつつ、俺は回収したモニターを再度エントランスの真ん中に置き、思案してみる。

 

 うーん……幅的に言って、これを普通に入口から出すのは至難の業だな……。

 入口が大体横幅一メートル、縦幅二メートルくらいだからな。

 

 測ってないので正確な数値じゃないが、目分量でこのくらいなのだ。ひょっとしたら実際にはそれ以上に厳しいことになっているかもしれない。

 うーんと、斜めにして通そうとしたらどうだろう……ああ、ダメだ。後部のごちゃごちゃした機材のせいで引っかかる。

 

 

「……これ、無理では? 入口を広げでもしない限り無理だと思いますよ」

 

「それはやめろ」

 

 

 手を光らせ始めたチベスナに待ったをかけつつ。

 それやっちゃうと廃墟感マシマシになっちゃうから。入口が壊れた映画館とか、誰が行きたがるよ。

 

 

 しかしまぁ……チベスナの気持ちも、分からんでもないんだよな。

 かといって他に方法があるかと言われると────、

 

 

 ──いや、待てよ?

 

 

 その瞬間、俺の脳裏に電流が走った。

 

 考えてもみろ。確かにモニターはこの映画館から出し入れするのは難しい。だが……それなら、いったいどうやってこのモニターは運び込まれた?

 ジャパリパークの不思議技術で大きさを可変した? まさか。もっと他の、シンプルな方法があるはずだ。

 

 そう。

 このモニターは、きっと館内で組み立てられたんだろう。*2

 なら、俺がやるのはその逆だ。

 つまり……館内でこのモニターを、

 

 

「バラすっ!!」

 

 

 そうと決まれば後は早い。

 

 言うが早いか、俺はモニターを足の甲に乗せて蹴り上げ、そして空中に浮かんだモニターを一気に八分割する。

 

 

「おおっ! チーター、なかなかやると思いますよ」

 

「ふふん。こうすればモニターの切れ端一つ一つは小さくなるから、持ち運びできるだろう?」

 

 

 人間基準で考えていると、モニターを分解するなんて大変すぎるから考えもしないだろう。

 だが、フレンズの膂力があれば話は違う。こうして、人間では取り得ない選択肢を柔軟にとることができるわけである。*3

 いやぁ……我ながら人間の知能の高さを持ったフレンズというのは有能極まりないなぁ。我ながら。*4

 

 

 で、そのあとは特に何事もなくモニターの残骸を外に運び出し――――、

 

 

「これはだいぶむずかしいと思いますよ?」

 

 

 俺とチベスナは、新たなる敵『土とかガラス片』と向き合っていた。

 ガラクタは手で持って捨てればそれでよかったが、土やガラス片は勝手が違う。

 何せ数が膨大すぎるからな。手で『運ぶ』のでは時間がいくらあっても足りないし、何よりガラス片は手で触ると怪我をしそうで怖い。特にチベスナが。*5

 

 そうすると、チベスナの言う通り掃除は難しい、という結論になるのだが……。

 

 

 掃除をしようと言い出したのは、この俺自身だ。

 その俺がそんな当たり前の事態に対する解決策を考えていないわけがない。

 

 

「おいおい。俺達はフレンズだぞ? ──ただ四肢を使うだけで、終わりじゃあない!」

 

 

 煌々と。

 俺の脚が、光を帯びる。

 

 いちいち運ぶには数が多すぎるなら、やるべきことはシンプルだ。

 

 一撃を、デカくすればいい。

 

 ガラス片だの、土だの、そういうのをまとめて吹っ飛ばす一撃があればいい。それで全部まとめて入口の外へ蹴り飛ばす。幸い戸は枠だけになっているから、蹴っ飛ばした土だのガラス片だのがぶつかる心配もないしな。

 

 

「! チーター! ちょっと考えてることが分かったと思いますけど、ちょっと待つと思いますよ! それやったら土がめっちゃ舞い上がって大変なことになるのでは!?」

 

 

 チベスナが慌てたように懸念を口にする。

 なるほど、チベスナにしては賢いじゃないか。確かにこのまま無策で蹴りを繰り出せばそうなることは回避できないだろう。

 だが。

 

 

「心配するな。──我に策あり、だ!」

 

 

 蹴りの直前。

 俺は懐から──()()を取り出した。

 

 

「水筒だからどうしたと思いますよ!? 水を飲みながら蹴っても土は土では? チーター、大丈夫ですか?」

 

「うるせえ」

 

 

 チベスナの問いかけを完全に無視して、俺は土を思いきり蹴り飛ばした。

 

 ────水を浴びせかけてから。

 

 

 確かに、土は軽い。簡単に舞い上がるし、蹴りでも形をとらえられない。

 だが、泥ならどうだ? 水を吸って重くなった泥であれば、ガラス片を巻き込んで一緒になって吹き飛んでくれることだろう。

 たしか小学校の頃とか、校庭の土にスプリンクラーを撒いて砂が舞い上がるのを防止する機能とかあった気がするし。ガキだったからめっちゃ当たりにいってたのを覚えてる。──閑話休題。

 

 そしてこれが、人外の膂力で繰り出されるのだ。人が泥を蹴った勢いの日ではない。たとえるならば、ブルドーザーが水たまりを踏み潰したときのような──圧倒的飛散。

 多少の泥汚れは発生するだろう。だが、そんなの放っておけば勝手に乾燥してパラパラ落ちてくれる。そのあとで片付ければ問題ない。

 

 その結果が──これだ。

 

 

「おぉ……泥がけっこう吹っ飛んだと思いますよ」

 

 

 俺の前方。

 およそ三メートルくらいまでが、扇状にまっさらな床を披露していた。

 無論、泥はけっこう飛び散っている。前方にあるもの──入口付近は特に汚れがひどい。だが、この程度の汚れは、延々床の砂と格闘するよりずっと楽だろう。

 

 

「分かったかチベスナ。これがこのステージの『攻略法』だ」

 

 

 

 ────ステージ1、クリア。

*1
今回はこういうノリでいくらしい。

*2
入口ができる前に運び込まれたかもしれないが、気付いていない。

*3
脳筋。

*4
脳筋。

*5
フレンズは物理無効だが、チーターは気付いていない。




チーター、今回いっぱい動きましたね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。