畜生道からごきげんよう   作:家葉 テイク

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世界動物の日記念隔日投稿中です。未読の方は一一〇話よりどうぞ。


一一六話:下された姫命は

「……あんた達、どうしたのよ」

 

 俺達がプリンセスに駆け寄ると、プリンセスは不安そうな表情を隠そうともせずにこちらの方をまじまじと見返した。多分『さっきあんなこと言ったのにどうして追いかけてきたの……?』みたいな感じなんだろうけど…………いや、一気に弱気だな!? そういえばアニメでもそんなもんだったような気がしないでもないが、にしたってメンタルが弱すぎないか?

 

「さっきはポンコツとかおっちょこちょいとか言って悪かったと思いますよ」

 

 そんなプリンセスに、チベスナは開口一番謝罪の言葉を口にした。お、いいぞいいぞ。

 

「よく考えたらチーターも似たようなものだったと思いますよ。そんなに気にすることないと思いますよ」

「オイコラ」

 

 謎の余計な一言を付け足したチベスナの首根っこを掴みながら、俺はチベスナをにらみつける。

 それを言うならポンコツはお前なんだよなぁ! おっちょこちょいもお前なんだよなぁ!! むしろ俺は大体お前のヘマの尻拭いをする側なんだよなぁ!!!!

 

「……ぷっ。あははははは!」

 

 そんなやりとりをしていた俺達を見て、プリンセスはこらえきれないとばかりに噴出した。ひとしきり笑ったあと、プリンセスは目尻に浮かんだ涙を拭いながら言う。

 

「はー……あんた達、面白いわね……」

「チベスナさんはアナタに笑われて面白くないと思いますよ」

「まぁまぁ」

 

 むすっとしているチベスナの首根っこを離しながら、俺は仲裁に入る。

 

「わたしの方こそ、ごめんなさい。ちょっとナーバスになりすぎてて……アナタ達にひどい態度をとってしまったわ」

「そこは別に気にしてないと思いますよ」

「右に同じ」

 

 誰だって余裕がないときは余裕がなくなるからな。

 

「ありがと……。…………それで、その、さっき先輩から話を聞いたって言ってたけど……」

「ああ。水辺地方に会ったときに、色々とな。プリンセスのこともそのときに聞いたんだ」

 

 別に隠すことでもないので素直に説明してやると、プリンセスは『あー……』という顔になって天を仰いだ。

 

「そういうことだったのね……。ジャイアント先輩ってばお節介なんだから!」

「でもお前ジャパリ屋敷の亡霊と化してたじゃん」

 

 そうそうないぞ。図書館に行ってたのに屋敷の亡霊と化すって。チベスナだったらやりそうだけど。

 そういう意味では、ジャイアントペンギンのプリンセス評はわりと間違っていなかった──どころか、わりと正確だったと言えるだろう。

 

「うっ……そういう細かいことは気にしたら負けなのよ!」

 

 痛いところを突かれたのだろう、無理やりにそう言い切ったプリンセスは、そのままの勢いでこう続けた。

 

「それにわたし、知ってるのよ! このまま行ってもジャパリとしょかんには辿り着けないんだから!」

 

 

の の の の の の

 

しんりんちほー

 

一一六話:下された姫命は

 

の の の の の の

 

「…………どういうことだ?」

 

 『このまま行っても図書館には辿り着けない』。その言葉に、思わずそのまま問い返していた。

 けげんな表情を浮かべているのが、自分でも分かる。何せ俺達はジャパリ図書館までの道筋を地図で見て知っているのである。道も整備されていて、特に大雨が降るわけでもないこの森林地方で『地図と道が違う』なんてことは起こり得ない。

 であれば、一体何の要因で『図書館には辿り着けない』のか。

 ……一番に思いつくのは、セルリアンが居座っている可能性だ。自然と、俺の声色も剣呑になろうというものである。

 

「チーター、尻尾がピリピリしてると思いますよ」

「……尻尾消してぇ」

「いきなり不穏なこと言わない方がいいと思いますよ!?」

 

 そんな俺を宥めるようなチベスナの呼びかけで、少し心を落ち着けつつ。

 

「どういうことも何も、そのまんまよ。ジャパリとしょかんに行こうとしても、何故か辿り着けなくて……これはきっとセルリアンの仕業よ!」

「な、なんだってーと思いますよ!? チーター、これは大変なことでは……!」

「……いや、そう決めつけるのもどうかと思うが……」

 

 っていうか、『図書館に行こうとしても辿り着けない』ってだけならセルリアンが何かしてるとかじゃなく多分プリンセスが迷子になってるだけだと思うし……。詳しく事情を聴かないことには何とも言えんが。

 

「辿り着けなかったときの状況を説明してくれよ」

「ええ、分かったわ……」

 

 詳細説明を求める俺に、プリンセスはこほんと一度咳払いをしてから、当時の状況を説明し始める。

 

「あの時、わたしは森林地方のフレンズに尋ねた道をそのまま歩いていたわ。へんに近道をしようとして道を外れたりすることもなく、素直にね」

「そんなことしてたのかお前」

 

 そりゃ迷子にもなるわ。普通に歩いてれば今頃水辺地方に帰って来ていただろうに……。

 

「でも……やがてもうすぐとしょかんに着く頃ってときに──急に道が曲がったのよ」

「ほう」

 

 道が。

 

「流石にわたしもおかしいと思ったわ。でも矢印とかついてるし……。ジャイアント先輩から聞いたことがあるのよ。矢印の通りに進めば大体間違いないって。だからそっちの方向に進んでいったの。なのに……」

 

 …………あー。…………あー? なんか思い出してきたぞ。確かそれって……。

 

「なのに! 何故か矢印の先に続く道は森に続いてて! 森の中は道が二手に分かれてて! 何度先へ進んでも元の場所に戻されちゃうのよ!」

 

 ──クイズの森。

 確か、博士と助手が『文字が理解できるフレンズ』を選別する為に標識によるトラップを仕掛けていた……という話だったはずだが。

 なるほど、ジャイアントペンギンの入れ知恵によって、プリンセスもそれに引っかかってしまったっていうわけだな。で、ぐるぐる迷子になってしまったと。

 

「教えられた道が間違ってたんだと思って、わたしは元来た道を戻って別の道を試した。でも、一向に何も分からなかったわ……。そうこうしているうちにこのおやしきを見つけたの。それで……」

「何か手掛かりがあるかもしれないし、ってことで興味を惹かれたから入ってみたと」

 

 話が繋がった。

 そういうことならここまで長いこと水辺地方に戻って来れていなかったのも、こんな水辺地方の近くで迷子になっていたのも、わざわざジャパリ屋敷に入っていったのも、全て辻褄が合う。

 つまるところ、博士と助手のグルメ趣味に付き合わされた犠牲者ってところか……。

 

「そうよ! チーターは話が早くていいわね」

「えっへん」

「……なんでチベスナが胸を張ってるのかしら……?」

 

 気にするな。

 

「大体状況は把握した。その件なら心配いらん。多分お前がグルグル回っていたのは……」

 

 言いながら、俺はバッグから地図を取り出し、プリンセスの目の前で広げて見せる。プリンセスが大きく目を見開いたのが分かった。

 

「ここ。多分、お前はジャパリ図書館の前にある『クイズの森』にいたんだ」

「クイズのもり?」

「そう。ここはこんなふうに……道が二手に分かれていてな。正解の道を選ばないと、元居た場所に戻される」

「な、なにそれ……そんなのどうしようもないじゃない!?」

「いや、クイズの森の手前の道を逆に進めば、そのまま図書館に辿り着けるんだがな……」

 

 俺がぼやくと、プリンセスは唖然として固まってしまった。……ああ、自分の苦労が完全に無駄だったと知ってしまった……。

 

「な……何よそれ! 誰がそんなひどいことを!? わたしがどれだけ苦労したと思っているの!?」

「多分博士と助手じゃないかなぁ」

「あぁ、ありそうだと思いますよ。あの二人けっこう性格悪いと思いますよ」

 

 チベスナ辛辣。

 まぁアニメ見る限り確かにイイ性格してるとは思うけどさ。……っていうかプリンセス、この言いっぷりを聞く限りだと……。

 

「図書館、行ったことないんだな」

 

 よく考えなくても当然のことだが。

 もし図書館に行ったことがあるなら、クイズの森に迷い込んだりはしないだろうしな。自分が何のフレンズかっていうのも、ジャイアントペンギンならわざわざ図書館に行く前にさくっと教えてくれそうだしな。

 ……そう考えると、もしかしたら水辺地方のフレンズって図書館利用率けっこう低いんじゃないだろうか。

 ジャイアントペンギンに限らず、各地方にいる世話役的なポジションのフレンズが『君は〇〇のフレンズだね』みたいな同定をしてくれていたら、多分そのフレンズは図書館まで行かないだろうし……もしかすると、俺が考えているより図書館って意外と利用されていないのかもな。

 

「……うん。初めてよ」

「とすると……この中で図書館に行ったことあるのはチベスナさんだけだと思いますよ? なーんだ。二人とも大したことないと思いますよ」

「……こ、このおばか……!」

 

 あ、プリンセスが歯をギリギリさせてる。

 

「まぁチベスナの馬鹿は置いておいて。そういうことなら、図書館まで一緒に行こうぜ。ジャイアントペンギンとのこともあるし、そっちの方がプリンセスにとっても都合がいいだろ」

「それは助かるけど……でも、いいの?」

 

 あっさり言った俺に、プリンセスはなんだか柄にもなく遠慮した様子で首を傾げた。

 

「良いに決まってると思いますよ。旅は賑やかな方が楽しいと思いますし……それにプリンセスは一人だとすぐ迷子になりそうで心配だと思いますよ。うぷぷ」

「キィー!!」

 

 俺キーって叫ぶ女の子初めて見たわ。

 

 まぁ、プリンセスが迷子になりそうっていうのは俺も分かるけどな。このままだと遠からず勝手に水辺地方に戻ってきちゃって、ジャイアントペンギンの先導で二周目突入ってことになりかねいし。

 別にそれでもいいといえばいいんだが──ジャイアントペンギンには、コイツの世話を頼まれちゃったしな。こうして出会った以上、放っておくというのはヤツとの仁義にもとるというものである。

 

「まぁまぁ、これから一緒に旅するんだし、仲良くな。仲良く」

「勝手に話を進めないっ!」

 

 プリンセスはそこで気を取り直すように声を張って、

 

「……いいわ。分かったわよ。そこまで言うなら! チーター、チベスナ。……アナタ達、わたしをとしょかんまでがいどしなさいっ! っていうか決定よ!」

 

 いえすまーむ。




プリンセス、交渉段階では弱気なくせに相手の承諾を得られた瞬間急に強気になって『〇〇しなさい! っていうか決定よ!』って言ってそうな印象があります。

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