この一年間、応援ありがとうございました。まだかなりかかるので、これからもよろしくお願いします。
なお、記念に今回から七話連続毎日更新をする予定です。
「な……何を……言ってるんだ……?」
俺は、絞り出すような声でそう言うほかなかった。
何……って、それってつまり。
「ああ、いきなり言われてもピンと来ないか? 安心しろ。お前の素性については、大体分かってるつもりだからなー」
「!」
あー、やっぱり……。
実は薄々、こうなるんじゃないかとは思っていたんだ。
だってジャイアントペンギンは『例の異変』前──つまりヒトがいた時代を生きていたフレンズなわけで。今まではヒトっていうのがどんなものか分からないから『変わり者』で済まされていたが、ヒトを知っている者からすれば、やっぱ俺の行動はひどく
「最初は変わったフレンズだと思ってただけだったんだけどなー。ヒトの観光を知り、ヒトの知識を覚え、ヒトのユーモアを持つ。大方どこかのアトラクションで覚えたんだろうと思った」
だが、とジャイアントペンギンは続ける。
「お前は
ジャイアントペンギンはそう言いながら、俺のことを指さした。……確かに、俺は最初、ジャイアントペンギンが『チーターは島の外という概念を認識していない』と勘違いしていたのをあえて訂正せずそのまま流した。
俺が島の外という概念を知っていると理解されたら、それだけ俺の知識量の異常さが浮き彫りになる。そうするとジャイアントペンギンに問い詰められたときに説明するのが色々と大変だと思ったからだ。
ただ──そういう発想は、確かに
「決定的だったのはお前がロイヤルのヤツのことを『ジャパリパークにペンギンアイドルを復活させようとしてる』って言ったことだ。確かにわたしはステージゾーンで昔ペンギンが歌ったり踊ったりしていたって話をした。だが、
……あ。
あの時……! っつーかあの時お前、欠片も引っかかったような様子見せてなかったよな!? そんな決定的な矛盾を見つけといて素知らぬ顔してやりとりしてたのかよ!?
「例の異変の詳細は知らないのに、その前のことは知ってる。地下に隠れるなりして例の異変をやり過ごしていたフレンズだったらわたしが知らないはずはないな。妙だと思ってツチノコに関する知識でカマをかけてみたが……」
「へ?」
カマ? え、俺いつカマかけられたの……。
「UMAのフレンズのときのことだな。お前、UMAってなんだってチベスナに聞かれてさらっと『未確認生物』って答えただろー? チベスナが知らないってことはツチノコにも説明されてないってことだ。そして今のフレンズにそのことを知る者はいないんだよ。博士と助手、それとツチノコ自身を除いてなー」
「あ! …………」
そうか……! 博士と助手とまだ出会ってない俺が、UMAとか未確認生物とかって知識を知ってたら不自然なのか……! 全く意識してなかった。言われてみればその通り過ぎる……!
……って待てよ? そもそもジャイアントペンギン視点だと俺が博士助手と面識ないって確信できる材料、それこそないんじゃね? ……ってことは、今のやりとりもカマかけなのでは……。
「やっぱりなー。ま、分かってたけどなそこんところは。博士助手と会ってたら、絶対お前のことも色々調べられてただろーし。わたしのところにそういう話が届いてないってことは、『そういうこと』だからなー」
……おおう……。なんつー情報網への自信……。
そして俺、ここまで完璧に『ただのチーターじゃない』ことを暴かれているどころか『ただ異変前から生き延びたわけじゃない』こととかまで気づかれてしまっているんだけど……これどうしよう? ヒトとしての記憶を持ってるってことまで感づかれてるんじゃないか?
いや別に、自分の身の上話をすることに抵抗があるわけでは……、
……あるな、抵抗。
だって、ジャイアントペンギンは知ってるんだよ。ヒトっていう存在を。
自分たちをパークにほっぽりだして、勝手に消えちゃったよく分かんない動物のことを。
それと俺を同一視されるって……どういうことになるか、分かったもんじゃないだろ。
ぶっちゃけ俺はそういうの関係ないと思うし、『同じヒトだからどうこう』っていうのはナンセンスの極みだと思うけどさ……。ただ一方で、残された側であるジャイアントペンギンにその理屈が通用しないっていうのもよーく分かるわけで。
俺ももう、あの頃の──ツチノコに自分の素性のことを言えなかった俺とは違う。曲がりなりにもフレンズとして笑ったり悩んだり助け合ったりしてたわけだ。劣等感のようなものは、すっかり拭い去られてる。
ただ、ジャイアントペンギンは──ほかのフレンズとはわけが違うだろ? ヒトに対して、含むところがあったりするかもしれないじゃないか。
前世がヒトだったことについて罪悪感なんかない。この世界のヒトの所業は俺とは関係ない。……でも、相手からはそう思ってもらえないかもしれない。
そう考えたら……なんか言い出しづらいだろ。
「べつにお前が悪巧みをしてるってわけじゃないことは分かってるさ。なあ、チーター。チベスナはあんなにお前のことを信頼してたもんな。それにコウテイのことも守ってくれた。だからお前が危険なヤツじゃないってことは分かってるんだ」
徐々に。
ジャイアントペンギンの声色に、今までとは違う──熱量のような感情の色が、染み出していくのが分かった。
そして同時に……違和感をおぼえた。
俺の正体がヒトだって分かってたら、こういう話の切り出し方はしないんじゃないか? カマのかけ方だって、『UMAと未確認生物を結び付けられる』みたいな微妙な知識じゃなくて、もっと決定的に『ヒトだからこそ分かる知識』を使えばよかったはずだ。
それができるだけの知能があるってことも、今までのやりとりで分かったことだし。
だとすると、ジャイアントペンギンがカマをかけてまで確認したかったのは『俺がヒトとしての知識を持っていること』ではないってことになるよな。
それって……。
「だからチーター。正直に教えてくれ。…………お前、どうやってこの時代に
「時渡り?」
ときわたり?
時渡り……思わず問い返してしまったが、なんとなく意味は分かるぞ。多分、時間旅行とかそういう系統の概念だろう。これでも一応前世じゃサブカルに浸かっていた人間だ。そういう察知能力はそこそこある。
ただ…………『けものフレンズ』って、そういう時間を移動するような概念あるの? 全然イメージと違うんだけど。
「……オーケー」
そんなふうに思っていた俺を見ていたのか、ジャイアントペンギンは俺が何か言う前になんだか勝手に納得してしまっていた。
「この期に及んでお前がとぼけたりするようなタイプじゃーないことはなんとなく分かる。つまり思い違いか……。じゃ、この話は聞かなかったことにしてくれなー」
「おい、待て待て!」
あまりにもあっさり引き下がるものだから、俺は思わずジャイアントペンギンを引き留めてしまった。
いや、確かに引き下がってくれた方が有難いのは確かなんだけどさ……。今まで凄い勢いで俺から情報を抜き取ってたのに、なんでいきなりあっさり引き下がったんだ? これじゃまるで『俺の正体を突き止める』のが目的っていうより、『俺の正体が
…………あ。
そこで俺の中で、不意に点と点が繋がった。
そうか……! ジャイアントペンギンお前……!
「……みなまで言わなくていいぞー。ずっと前に終わったことなんだ。今のはただの気の迷いだ。なかったことにしてくれた方が……わたしにとっても有難い」
「……、……そう、だな」
ジャイアントペンギンは──『例の異変』の前から生きているフレンズなのだ。
つまりは、ジャパリパークが運営されていた頃。ヒトの手によってジャパリパークが十全の働きをしていた時代。何もかもが輝いていたあの頃が、ジャイアントペンギンにとっての『
この時代は──彼女にとっては正真正銘、
だから潜在的に、彼女は『昔』を懐かしく思っていたんだろう。
そんなところに、『例の異変そのものについての知識はないが、それ以前の知識や価値観は色濃く持っているフレンズ』が現れたら──ジャイアントペンギンはどう考えるだろうか?
ヒトに限らず、考える生き物ってのは自分の願望に沿うように現実を認識しがちだ。それに加えてあからさまに紛らわしい特徴を持った存在が現れれば──ジャイアントペンギンは自身の願望も相俟ってこう考えるはず。
『過去の時代から、フレンズがこの時代にやってきた。あの異変を克服して、またパークが生きていた頃のような世界に戻すために』。
……最悪なことに、ジャイアントペンギンはそれが可能かもしれない方法を知っているらしい。俺にはよく分からんが。そりゃ、勘違いもしてしまうというものだ。
しかし、なんつー……。…………。
「だから気にするな。もう終わったことだし……わたしは、こういう世界もわりと気に入ってる。これはホントだぞ? わたし達の意思を継いでくれたヤツもいるしな」
そう言って、ジャイアントペンギンはすっかり普段通りに笑った。そこに虚勢の色は感じられず……むしろさっきまでの彼女の方が、何かの間違いだったかのようだった。
確かに、ジャイアントペンギンは今のジャパリパークもまた大切なものなんだろう。今の時代にも大切なものはあるし、常に迷いながら生きてるようなメンタルしてるわけじゃないってことは何となく察しがつく。
ただ、それでも燻るようにあの時代を懐かしむ気持ちがあるってだけで……。今回のことはたまたまそれっぽい素性のフレンズがいたから、燻っていた炎が不意に煽られて、ちょっと大きくなってしまったってだけのことなんだろう。
別に誰が悪いって話でもない。気にする必要もないし、気にしたらその分ジャイアントペンギンが辛くなるだけだ。
……んー、でもなー。
……俺の脳裏に、ポンコツ狐や音痴鳥、そして不器用熊の姿がよぎった。
うんまぁ……ここまで色々と見抜かれてたら今更だし……しょうがないからな。
「俺な、厳密には純粋なチーターじゃないんだよ」
気が付けば、俺はさっきまであれほど話すのを躊躇していた内容を簡単に話していた。
ジャイアントペンギンの真意を知って、ヒトだからどうこうみたいな話になる心配がなくなったっていうのもあるが……。それ以上に、言わなくちゃいけないと思ったのだ。
話すなら、チベスナが最初だと思ってたんだが……。故意じゃないにせよ、俺の存在がジャイアントペンギンの心に燻っていた感情を煽ってしまったんなら、それをちゃんと消し止めてやるのも俺の責任だ。
「ああ、なんとなく分かってるぞ。セルリアンからフレンズになったタイプなんだろ?」
「えっ、いや違うが……」
「えっ」
なにそれこわい。
っていうか、『フレンズになる前何だった』ってそういうことかよ! 俺のことセルリアンだと思ってたのか! そう考えれば一切の言動に辻褄が合うけど!
「まじかー……? これは予想外だったな。てっきりセルリアンからフレンズ化したタイプが、けもハーモニーを利用して時渡りをしたか、火口で休眠してたかのどっちかだと思ってたんだが、どっちも違うかー」
「俺の境遇にそこまで別解の可能性が存在してるとか……。いっそビビるわ……」
ちゃんと一から十まで説明しないと勝手に納得してもらえそうなところが特に。いや、ジャイアントペンギンの知識量がヤバイだけか……?
「そうじゃなくて。……んー、説明が難しいが……俺はヒトから転生したフレンズなんだよ。つまりヒトとして一旦死んで、ジャパリパークにチーターとして生まれなおした。それでフレンズ化した」
「はぁ? ……いや、考えられなくもないか。なるほど、それでってわけだなー……」
うむ、我ながらおかしな経緯だと思う。
「そう考えれば、お前の性格とか知識量も納得だな。それでよく普通にやっていけてると思うがー……」
「いやいや、けっこう大変なところは大変だぞ? やっぱりこの身体だと色々と勝手が違うしな。夜はすぐ眠くなるし、今はだいぶマシになったが最初は目も当てられないくらい手先が不器用だったし」
元からフレンズとかセルリアンだったりしたら多分気にならなかったんだろうが、俺は元がヒトだからな。やっぱ前はできていたものができなくなるっていうのは気になる。それだけに、できるようになったときはかなり達成感があったが。
「転生した後は右も左も分からなかったけどな。アイツと旅をしてるうちにだいぶ慣れた。……ま、アンタからしたらよそ者かもしれんが」
「……、」
「……ジャイアントペンギン?」
なんだ、急に黙り込んで。セルリアンの残りでもいたか? にしては何も匂いはしないが。感じるのはええっと……、
「……んー、今の話、話しちゃって大丈夫なのかと思ってな」
…………言われてみれば、背後からよく知る匂い。
っていうか、タイミング的にもそろそろ来る頃ではあったが……。
「チーター」
振り返ると、後ろにチベスナが立っていた。
「今の話、どういうことだと思いますよ? 転生? ヒト?」
・一から十まで説明しないと勝手に納得してもらえそう
とかなんとか言いつつ原作知識の話をする前に話題が変わったせいで、パイセンに『パークから退避した職員が死後に転生したフレンズ』と納得されてます。
◆一周年記念イラスト◆
【挿絵表示】
友人の7mさんに描いてもらいました。
背景のフィルムが今までの旅路を表しているようです。
(Tumblr:https://061i9ue.tumblr.com/)