ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

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RAIL AFTER 1

ㅤタウムの天文神殿の調査から数日。

ㅤグレン以下参加したメンバーはアクシデントもあったが、良い経験を積んだと言ってレポートの作成などを行なっていた。

ㅤ当然のようにシスティは帰ったその日に終わらせてしまうが、対照的にカッシュは頭を抱えて必死に語彙などを絞り出していた。

ㅤ平和な日々だとルミアは感じた。

 

「ねぇ、システィ?ㅤこの壁画の時代考証についてなんだけど……」

「えーっと、そこね。えぇ、確かにそこはあやふやな所が多いけど———」

 

ㅤ放課後の教室。ルミアはシスティのサポートを受けて居残りでレポートを作成していた。

ㅤと言ってもだ。既に8割方は完成し、残りは自身の挙げた例や定説に間違いがないかの所謂、推敲の段階だ。

ㅤ博識のシスティがいれば一時間もかからずに終わってしまうだろう。

ㅤシスティに寄りかかって寝ているリィエルにとっては良い昼寝の時間だ。いつも昼寝しているとかは言ってはいけない。眉間に十字剣が飛んでくるかもしれないからだ。

 

「けど、タウムの天文神殿に裏技で学園地下のダンジョンに行ける方法があるなんて……不思議なこともあるものね」

「えーっと、魔刃皇将さんだったけ?ㅤ怖かったね」

「……の割には堂の入った啖呵を切ったじゃない。さすがはルミアね」

「あ、あれはラクス君にあることないこと言ったからで……」

 

ㅤごにょごにょ。つまりは———。

 

「愛ゆえにって訳ね?」

「えっ!?ㅤちがっ……くはないけど」

「あーごちそうさま。仕掛けた私が馬鹿でした」

「もうっ、システィったら!」

「ごめん、ごめん」

 

ㅤ余談ではあるが、タウムの天文神殿が学園地下に繋がっていることはグレンから箝口令のお達しが来た。

ㅤ曰く、ルミアの異能がバレる危険性があるからだそうだ。システィは世紀の大発見を自分達がしたものだと息巻いていたが冷静になると、なるほどそれはいけない。

ㅤ名誉よりも友を優先する決断ができるシスティはキッパリと歴史に名を残すチャンスを手放した。

ㅤまぁ、キッパリと言っても影ながら苦悶していた。ルミアの方が名誉よりも大切だ。それは当然だ。

ㅤが、割り切れないものだってこの世にはある訳で。

 

「というか、何が『どうせ、死ぬまでには名はどっかに刻まれんだから心配する必要はねぇだろ』よ!ㅤ無責任なこと言ってくれちゃって、ラクスのやつ」

「あははは、ラクス君のことだから何か確証があってのことだと思うよ?」

「ダメよ、ルミア。ラクスに無条件に優しくしてるとダメ男になっちゃうわよ?ㅤまぁ、それがルミアの美点でもあるんだけど、ビシッと厳しくしてあげないと」

「ビシッと厳しく?」

「そうよ。ラクスは根っからって訳じゃないけどロクでなしよ。先生と息が合うところを見て間違いないわ」

「ふふっ、私とシスティって似てるね」

「な、何が?」

「好きな人が」

「ちょ、ちょっと!?ㅤからかわないでよ、別に先生のことなんて」

「あれー?ㅤ私は好きな人が似てるって言っただけで先生のことなんて何も言ってないよー?」

「こ、言葉の綾よ。そうっ、言葉の綾!」

「システィったら可愛いなぁ」

 

ㅤすると、姦しい会話に起こされたリィエルが寝ぼけながらに。

 

「……可愛いは正義」

 

ㅤ親指をぐっと立てたものだから、システィはまたラクスが余計なことを吹き込んだと頭を抱えて、ルミアは母性本能をくすぐられて抱きしめた。

 

ㅤして、すぐにまたまたイベントが発生した。

ㅤ最近、背中に厄介ごとを背負ってるんじゃないかと一部の関係者の間で噂されている疫病神ことラクス・フォーミュラ———洒落にならないのが洒落———が教室の扉を勢いよく開けて言い放つ。

 

「ルミア!ㅤ俺と結婚してくれぇ!!」

 

「「えっ?」」

 

「……は、はい、喜んで」

「ええぇぇぇぇぇえええ!!??」

 

ㅤはてさて、どう転がるか。

ㅤたまたま教室の外にいたグレンは口元を綻ばせて、取らぬ狸の皮算用を始めるロクでなしっぷりを影で見せていた。

 

ㅤ◇

 

ㅤラクス・フォーミュラは駆けていた。割と全力で。

 

ㅤ客観的に自分の状況を述べてみた。理由はない。

ㅤ先日の()()から少し経って、神化術式の調整や考察をしていたところでふと、思い立った。

ㅤそう、F1だ(唐突)。

ㅤ超最強滅殺級切り札の果てなき最速への挑戦(ファーブル・オブ・ラクス・フォーミュラ)は擬似神格を宿して俺の体を神様仕様に作り変えないと自壊するヤバイ代物。一般実用化は不可能に近い。リィエルならワンチャンあるかもしれない。

ㅤモチーフは前世であった車の中でも特に速さに秀でたモンスターマシン同士が鎬を削るレースからだ。

ㅤ効果も全身の身体強化と魔力と神気っぽいのを練り練りして爆発的な加速力を全身で得るアホみたいなもの。あっ、神気使えないからリィエル無理じゃん。うーん、何かで代用できればなぁ……それは追々、考えてくか。

ㅤ話が逸れたが、クソ正義の時とか今回の時とか思い返せば移動に時間と魔力を食われる。

ㅤ無駄を嫌うスマァトなラクスさん(誇張)的にはそれは省きたいというか、ルミアと俺を取り巻く環境を考えれば一番の課題だろう。

ㅤと言ってもだ。車じゃ場所食うし小回り効かんしとのことで選択するならバイクという決断に至った。

ㅤ幸い、この世界は中世ファンタジーにも関わらず蒸気機関があるとかいう学者も古文書を燃やしそうな世界だ。

ㅤ俺の幅広いワールドワイドな人脈(アルベルトさん頼み)を使えばバイクの調達くらい容易いのだよ。ワトソン君。

 

「なに?ㅤ二輪の乗り物だと?ㅤ確かに軍がそんなものを作っていたが、どこで知った?」

「わぁーお」

 

ㅤ軍の機械化が進んでいるようでなによりだ。

ㅤなにかと頻繁に会うようになったアルベルトさんから渡された通信術式を使って連絡を取れば、一台譲渡してくれるとのこと。ルミアの護衛だと察してくれたらしい。

ㅤ前世じゃ一応、中型と車の免許を持っていたがいかんせんブランク酷い。乗れるかなぁとワクワクしながら軍の施設に向かっているので候ってのが現在。

ㅤで、着いて。アルベルトさんと少し世間話して技術者の方から簡単な説明を受ける。

ㅤアルベルトさんは既に乗りまわせるくらいに上手いらしい。器用な人だ。

 

「ってぉおお!?ㅤじゃじゃ馬だな、っゔぉいい!?」

「自分の落ち度を機械のせいにするな。ラクス」

「ちょっと口角が上がってドヤ顔するアルベルトさん珍しい!」

 

ㅤ巫山戯てもバイクは上手くならない。

ㅤって、アレ。アルベルトさん、俺のこと今名前で———

 

「うぉぉぉぉおお!?ㅤウィリーしてると思ったらジャックナイフぅ!?」

「ほう、少しはやるようだなラクス」

「アルベルトさんってグレン先生とは違うベクトルでズレてるよねっ」

 

ㅤで、少し休憩して技術者の方に再度説明を受ける。

ㅤ排気量は50〜750ccまで理論上は可能だが、現行の技術では500ccが精々。俺が譲渡されたのは250ccのアメリカンと呼ばれるタイプ。ハーレーとかが有名かな。

ㅤ積んでる魔導エンジンはストックしておける魔力結晶により動き、万人共通とのこと。

ㅤ言っていいか?ㅤ軍有能過ぎね?

ㅤ世の中じゃ石炭燃やして動かしてわーいわーいしてるってのに。

ㅤまぁ、蒸気機関が世に出てからしばらく経ってるから不思議ではないけどもね。軍って最新技術の塊だし。

 

「よっしゃ、ルミアとタンデムしてキャッキャウフフするぜ!」

「……」

 

ㅤアルベルトさんに白い目で見られるが、俺のガソリンはルミアへの愛なのさ!

ㅤんで、休みを全部使って俺はバイクの技能を習得した。

ㅤメンテナンス等は軍がしてくれるとのこと、ついでに使用した感想も言ってくれるとありがたいと。

ㅤお安い御用である。レポートにして提出しますと言ったら喜んでいた。一般ピーポーのモルモットもといテスターが居なかったらしい。

 

ㅤそんな訳で足を手に入れた俺はデートプランを考案中。

ㅤヘルメット?ㅤ二人分あるに決まってるんだろ!ㅤ安全第一だ馬鹿野郎。安全運転とかじゃなくて、こういうのは万が一に備えるべきで云々。

ㅤとりあえず魔術を使ったテーマパークに行きたいと思います。魔導エンジンを積んだジェットコースターって……あっ、これか。軍が先んじて運用してるけど一般にも使われてるのかー。

ㅤなら、やっぱりココだな。ルミアとの約束もあるし。

ㅤグレン先生?ㅤアルフォネア教授とかシスティと一緒に行けば?

ㅤと、そんなこんなでデートのお誘いを放課後に決行したわけだな。

 

「ルミア!ㅤ俺と結婚してくれぇ!!」

 

ㅤな?ㅤデートのお誘いだろ?

 

「お前に必要なのは教科書じゃなくて辞書だろ」

「どちらにせよ黒板に打ち付ける癖に」

「ラクス……」

「な、なんですか?」

「お前、よく分かってんじゃねぇか!」

「お褒めに預かり光栄です」

 

ㅤルミアから喜んでと言われて逆に照れた俺は日時を伝えてすぐに退散。その日の夜にグレン先生はプレハブと化した俺の家に家庭訪問と称してやってきた。

ㅤ保険が下りるので新居の心配はしていない。プレハブも意外と便利なモノだ。

ㅤそれと、これを機にリィエルはフィーベル家に移ってもらった。

ㅤリィエルも()()()ならと二つ返事で移ってくれた。気の合う同級生の家にホームステイというもあるだろうが、なんだかんだで迷惑をかけた。あざし、リィエル。

ㅤ余計なお世話だが、ホームステイを切欠にして常識等を学んでください。

ㅤ菓子折り付きで挨拶した日にはシスティパパと再び意気投合して二人してシスティママに〆られた。母は強し(物理)

ㅤ全部、ロウファンって奴のせいなんだ。

 

「おのれ、ロウファン!!!」

「落ち着けって、あーれ?ㅤなんかコレジャティスを庇うみたいでイライラしてきたな?」

「でしょ?ㅤ次会った時には眼鏡をカチ割って」

「透かした手袋を軍手にして」

「シルクハットどうしますかね?」

「ばっか、お前そりゃ決まったんだろ。あの見た目だぞ?」

「はっ!ㅤさすがは先生だ」

 

「「鳩を詰める。なお、白だと更によし……うぇーい!」」

 

ㅤ酒?ㅤ入ってない。入ってない。

ㅤあのプラスチックボトルは貯蓄してる水だから。俺が飲んでるのもジュース。

ㅤ水味だし。つか、アルコールは電気分解するから酔いたくても酔えないの!

ㅤ先生?ㅤ元々、酒強いから大丈夫じゃね?

「というより先生。家庭訪問ってタダ酒飲める免罪符じゃないんですけど」

「ぶっちゃけ、お前の場合は生存確認の意味合いが強い」

「ご迷惑お掛けします先生ェ……」

「変わり身早くて先生びっくり」

 

ㅤこの後も夜明けるまでくだらないことやつまらないことを話して、プレハブから学校に向かう俺と先生を目撃した貴婦人の方が学校であることないこと噂したので砂鉄の餌食になってもらった。誤解を生まないように言うけども殺してない。

ㅤ先生に頼んでカリキュラム弄って模擬試合しただけだ。蹂躙は楽しいなぁ!ㅤちょ、戦闘狂じゃないし。生きてくために仕方がない闘争だからね。しょうがないね。

ㅤそんでもってデート当日。

「お待たせラクス君!」

「い、いやっ。今来たところだから」

「ふふっ、約束の一時間前なのに合流できちゃったね。考えてることが一緒だ」

「そうっすねーーー相思相愛って感じだぁ」

「え、えっ!?ㅤた、確かにそうなんだけど。面と向かってと言いますか、改めて言われると……嬉しいな」

「……私、死んでもいいわ」

「ダメだよ!?」

 

ㅤ相思相愛ってのは心の中で思ってたことなんだけど、口から出てたみたいだ。

ㅤ一つ言わせて下さいね。

 

ㅤルミアタイム確定!

ㅤ超天使チャンス!ㅤ残り1001人。

 

ㅤすまん、わかる人は少ないかもだけど個人的にネタとして扱いたかったんや。

ㅤ激アツってことが分かってくれればええんや。

ㅤ……おい、ルミアの尊さをスロットと一緒にしてんじゃねよ、誰だよそんなこと言い出したやつ死ねよ(俺だよ)

 

ㅤそんな天使と比べるには烏滸がましい話題をかき消すように俺はルミアにピンク色のヘルメット(軍制作)を渡す。

ㅤこの時代にバイクは珍しく目を点にしていたが、着用の仕方を教えて絹のような金髪とピンク色のヘルメットが合わさって、もう最強だ。

ㅤそれとタンデムの醍醐味。そう二つの至福が背中に触れるのだ。もう神。

「しっかり腰に捕まっててくれ、馬より速いからコレ」

「えっ、そんなに速いの!?」

「おう。安全運転で行くけど遊園地まで一時間掛からないし、何より風が気持ちいい」

「え、え、えっ?」

 

ㅤ理解が追いつかないようだがそれが普通だろう。

ㅤ混乱しながらも腰にしっかり捕まっているので俺はエンジンを掛ける。独特の振動にルミアがビクッと反応する。

ㅤ俺はとりあえず、アクセルを開けて走り出した。

ㅤ最初は馬が出せる全力の40km/hで走っていたが、道が開けると60Km/hまで加速。もっと風を感じて欲しいが、タンデムであることや俺がまだまだ初心者であるのでここら辺が今の最高速といことになるだろう。

ㅤそれと当のルミアは怖がるどころかーーー

 

「ラクス君、風が気持ちいいー!」

「あぁ、だろ?ㅤ腰から手を離すのもいいけど落ちるなよ」

「その時はラクス君が助けてくれるよね?」

「……ははっ、そうだな。ルミアの御肌には傷一つつけさせないよ」

「うんっ、ありがと!」

 

ㅤそう言うルミアの顔を体をずらしてミラー越しで確認すると、晴れ渡るくらいの笑顔だった。

ㅤ日頃の鬱憤の解消になれば何よりだ。俺がそれの手助けを出来たという事実が堪らなく嬉しい。

ㅤありがとうアルベルトさん。ありがとう軍。そしてまだ名も付けられてないバイク。

ㅤ折角だから愛称を付けようか……やっぱ止めよう、センスないし。

ㅤ魔術名とか異能技の名前は思いつくんだけど、こういうのはダメだ。インスピレーションがなぁ。

 

「と言うわけでやって来ました楽しいパーク!」

「遊園地でする気楽なトーク!」

「そういやルミアさん今日は素敵なチーク!」

 

ㅤラップ調で情報報告。

ㅤ俺の彼女はとてもノリが良くて素敵です。

ㅤさぁて、楽しむぞぉ!

 

「ラクス君、ラクス君!」

「ん、どうした?」

「早速、あれ乗ろうよ」

「……えぇ」

 

ㅤそう言ってルミアが指差したのはジェットコースター。

ㅤ魔力で動くらしい。最高時速は驚異の80km。

ㅤファンタジー中世怖いなぁ。この速度おかしくない?

ㅤいや、アルフォネア教授とかアルベルトさんにグレン先生も生身で出せそうだけどさ。

 

「うわー、楽しいよ。速いね、ラクス君!」

「あああああぁぁぁぁあああ!!」

 

ㅤこの日が俺の命日となった。

 

ㅤ◇

 

ㅤ死を覚悟した10分後。俺は情けなくベンチにもたれかかっていた。

 

「ぜぇ、はぁ……くそぅ。あれくらいの速度は経験済みなのに」

「しょうがないよ。生身と乗り物任せじゃ勝手が違うと思うし。はい、お水だよ」

「ありがと」

 

ㅤ確かにルミアの言うことは最もだ。

ㅤなんか身動きできないからか怖く感じた。万が一の時の受け身をずっと考えてた。

ㅤ俺とは対照的にルミアはピンピンしていて、ジェットコースター乗る前よりも活気を感じる。天使って感じだ。

 

「なんでそんなに元気なんだ……ッ!」

「んー、ラクス君はもう少し楽しめばイケると思うけど」

「やっぱりルミアって度胸あるよね。その場を楽しもうとする……刹那主義つーか、快楽主義?」

「か、快楽!?ㅤ大袈裟だよぉ!ㅤ私はただ、ラクス君といる一瞬を大切にしたいだけ。ラクス君がいればどこでも楽しめると思う」

「……おし、ジェットコースタートライアゲインだ」

「え、大丈夫かなぁ?」

「平気平気、ヨユーのよっちゃんイカ墨付きぃ!」

 

ㅤルミアの手を引っ張ってジェットコースターに再び挑む。意気込みは魔王討伐直前の勇者だ。

ㅤかかって来いよ……オイィ!

 

「やっぱり、ジェットコースターは気持ちいい!」

「わぁぁぁぁぁああああ死ぬぅぅぅう!!」

 

ㅤふっ、なんとでも言えよ。

 

「笑え、笑えよ」

「よしよし」

「彼女の優しさが痛いくらいに染みる」

 

ㅤルミアの膝枕はとても良いです。鼻が孕む。

「つ、次はコーヒーカップにしよう」

「回していい?」

「勘弁してくれぇ……」

 

ㅤワンハンドレッドアクセルなんて絶対吐く。

ㅤ俺はこの後もルミアと一瞬に遊園地を満喫した。

ㅤお化け屋敷で男らしいところを見せようとしたら、案外ケロッとしててなんか泣いた。

ㅤなんでも魔術的に証明されてるから怖がる必要はないとのこと。キュンとした。

 

「ねぇねぇ、最後に観覧車乗ろうよ」

「おっしゃ、安全な乗り物キタァ!」

 

ㅤ小部屋のような観覧車内で夕陽が照らすルミアの金髪。反射して煌めく光の粒子はどうしようもなく神々しい。

ㅤはぁ、好き。

ㅤメンヘラのようになってしまったが、実際にこんな光景を見ちゃうとなー。髪をあげる動作とか綺麗通り越して……ぶっちゃけエロい。酒を二、三杯入れたような女性の雰囲気がずっと出てる。

 

「ラクス君が寝てる間ね。色んなことがあったんだ」

「またグレン先生が爆発でも起こしたのか?」

「ううん、魔道書絡みの事件が起きたの」

「へぇ……え?ㅤ魔道書?」

「昔にセリカ教授が倒した邪神のお仲間さんだったんだって」

「すまん、理解が追いつかない」

「だよねー。当事者だった私も未だによく分からないし」

 

ㅤどうやら俺が寝てる間にルミアに危機が迫っていたようだ。

ㅤ不覚。このラクス、一生の不覚だ。

ㅤというか邪神とかかなりヤベー奴だよね?

ㅤどうやって撃退したのさ?

 

「最後はセリカ教授が神殺しの魔術でドバーッと助けてくれたの」

「なるほど。やっぱり規格外だな」

 

ㅤアルフォネア教授は神殺しを成功させた経緯があるとはいえ、そういう魔道書って封印とかするもので単独撃破するもんじゃないだろうに。

 

「あっ、でもね。魔道書自体を壊したのは私とシスティとラクス君が知らない転校生の子なんだよ。運が良かったんだけどね。魔道書食い(グリモアイーター)を召喚したんだ!」

「いつの間に召喚魔術を……よく勉強してたな」

「たまたま授業があったの、それでね」

 

ㅤ俺はルミアの頭をとりあえず撫でておく。

ㅤ気持ち良さそうにしてるので続けよ。

 

「……じゃなくて!ㅤ大切なのはそうじゃなくて!」

「うん、どうした?」

「魔道書が悪魔をたくさん召喚したんだけど、それを助けてくれたのがラクス君なの!」

「ごめん、ちょっとなに言ってるかわからない」

 

ㅤ俺が寝てたときに起きたことだろう?

ㅤなんでも急に魔道書絡みで転校してきたアンナちゃんとやらが召喚魔術を発動。

ㅤ俺にとても似た人物を二人、召喚したらしい。

ㅤアンナちゃんとやらの証言では声が聞こえたのでそのまま指示の従った結果だとか。

ㅤ詳しい容姿としてはローブを着た杖を構えた俺にターバンを巻いた短刀を構える俺。

ㅤうん、それ俺だわ。

ㅤ三人目と五人目の俺だわ。

ㅤだが、どうしてそんなことが?

 

「やっぱり記憶にはないの?」

「あぁ、俺が無意識にそんな芸当できるわけがないしな」

「そうなんだ。いかにも魔術師って感じのラクス君は二度とない奇跡だって言ってたからもう召喚はないと思うけど、一応伝えておこうと思って。アルベルトさんは反対だったけど、グレン先生は私に任せるって言ってくれたから」

「アルベルトさんは心配性だなぁ。ともかくありがとな、ルミア」

「うん、どういたしまして。なにか役にたつかな?」

「さぁ?」

「だよねー。二度とない奇跡だもんね」

「奇跡はそんなに安くないしな」

「あっ、神様っぽい」

「茶化さないでくれ、ルミアにそう言われると照れる」

 

ㅤ神様も悪くないとか思っちゃう。

 

「……心配しないでも大丈夫だよ。ラクス君が神様になったら私も神様になって隣に居るから」

「おいおい、死んでからも無理に付き合う必要はないんだぜ?」

「無理じゃないよ。私が付き合いたいから付き合うの。神様の成り方は知らないから、ラクス君が上手くやってね?」

「……あーあ、こりゃ一生勝てそうにないな」

「うん、負けないよ!」

 

ㅤ観覧車を照らす夕陽に染まるルミアの笑顔は、掛け値無しに最高で、守ってみて良かったと思えるそんな素敵な笑顔だった。

ㅤあぁ、これは後回しにするべきじゃないな。ルミアを守るために手に入れた力で死後まで付き合わせるのは本末転倒。

ㅤ俺はルミアを強く、強く抱き締めて自分に誓いを立てた。

ㅤなんのために人である事にこだわり、人ならざる存在を目指したのか。

ㅤごちゃごちゃしたのは得意じゃない。過ぎた道は振り返らない。ただ、ゴールまで一直線に。

 

「痛いよ、ラクス君」

「あぁ、すまん。つい」

「もー、お返しだ!」

「おぉおう!?」

 

ㅤ頬を膨らませたルミアが抱き締め返してきた。リア充って感じだ!

ㅤ至福。至福なり遊園地。やっぱ、遊園地って最高だな!

 

ㅤあっ、蛇足になるが今回も案の定、グレン先生とシスティが付いてきて三つ後ろのカゴにいる。

ㅤ俺とルミアが観覧車を降りた後で手すりを使って電気を流して、安全的に緊急停止。システィとグレン先生には気まずい空間を10分程度過ごしてもらった。

 

「観覧車、止まっちゃったの!?」

「ねー、怖いねー」

 

ㅤ願わくば、どちらかが踏み込んで進展があることを望むばかりだ。

ㅤえっ、本心?ㅤざまぁみろ、ばかやろーってところです。

 




明日、ロクでなし10巻発売だぁ。
速攻で書店行きます。ルミアの秘密とかもう俺得すぎて、やばい(衝撃のあまりの語彙力低下

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