ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

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お待たせしましたルートIFリィエル編です。
長いゼェ、1万文字越えだってよ
あとリィエルの口調難しスギィ。

あとがきに解説のようなネタバレがあります
ネタバレが気になる方は見ないように一応に注意喚起。

あっ、ロクでなし10巻のルミアが構えてるブレードみたいな杖みたいなやつのなんなんですかね。凛々しくてかっこいいですね。天使って感じだ。


RAIL IF Re:Road

 学院を優秀な学友達のおかげで卒業した俺はどういう因果か帝国宮廷魔導師団特務分室所属となり、今日も切磋琢磨、都会のゴミを大掃除している。

 最近じゃ心がいちいち荒むことなく機械的に仕事に当たれるようになって来た。と思う。多分、メイビー。

 グレン先生は俺の就職先に文句が5000兆個ぐらいありそうな目をしていたが俺の選んだ道なんですと説得したら納得してくれた。

 まさか、酒を一緒に呑んで特務分室のイロハを教えてくれるとは思わなかったぜ。

 

 自慢になるが奇跡と呼ばれる俺らの世代でも特務分室所属に入れる者は俺くらいのものだった。

 突出した性能を持ったオールラウンダー。

 これが特務分室に所属する者たちの共通点である。

 リィエルが遠距離戦できないと思ってたら十字剣が飛んでくるから。舐めてたら命日なるから。

 

 今日は久しぶりの休日だ。

 最近は仕事続きだったから一日中、ゆっくりしたいぜ。

 

「ラクス、起きて」

「ぐはああっ!? 起こすのに腹に拳骨落とす必要はないのでは!?」

「朝食を取らないとせいかつしゅーかんが乱れる」

「朝昼晩、いちごタルトを食う奴が言う言葉とは思えなぁ!?」

 

 食後に一日3回。なるほど、いちごタルトはお薬だったか。

 つかなぜそんな不安定な食生活でプロポーションが乱れない。

 最近になって少しづつ背が伸びて来たせいか、学生時代のようなあどけなさは影すらない。グレン先生の言ってた言葉も納得だ。うちのクラスは美人が多い。

 そんなほやほやカップルの俺とリィエルだが———卒業式の日に俺が告白したんだよ。言わせんな、恥ずかしい———今日は二人して休日。

 なるほど、寝てる場合じゃない。

 そういやシスティの魔導考古学のお手伝いを依頼されてた。用意しなくては。

 

「ラクス。顔を早く洗ってきて、ご飯が冷める」

「……いや、聞き捨てならん。朝食をリィエルが作ったのか?」

「ダメ、だった?」

「今日も朝から元気が出てきましたぁ!」

 

 なんと。暇なときにルミアとかシスティにでも教わったのだろうか。

 やばい。それは楽しみだ。

 俺は【ラウザルク】を使って高速移動。当社比3倍で席に着いた。

 

「……リィエル、料理名をどうぞ」

「ん……いちごタルトの盛り合わせにいちごタルトのサラダ、いちごタルトの踊り食いもある」

「全部いちごタルトじゃねぇか!? タンパク質どこ行った!? つか残った砂糖、使いきりやがったな!?」

 

 というか踊り食いってなんだ。全部同じ料理にしか見えんぞ。

 

「名付けていちごタルトの満漢全席」

「ドヤ顔すんな、アホか」

「いちごタルトのフルコース?」

「……ちがう、ちがうんや。料理名やないんや」

 

 俺的には嘆きのフルコーラスだ。

 

「……迷惑だった?」

 

 リィエルはどこか申し訳なさそうに聞いてくる。

 ったく、心配性なやつだ。

 俺はリィエルを引いて、足の間に座らせて後ろから抱きしめた。

 

「あっ……」

「迷惑なんかじゃないさ。ぶっちゃけ、朝食作ってもらうなんて久しぶりだったからさ、超嬉しいよ」

 

 かれこれ5年はそんな生活だっただろう。

 おかげでヒモ生活の準備には余念がない。

 

「……ただ、朝からいちごタルトは重い。パンを焼くだけでいいさ」

「え……?」

「それで生きてけるのって目はやめて。生きてけるから」

「わたしの朝は一つのいちごタルトから始まる」

「カッコつけんな」

「いひゃい!」

 

 とりあえずチョップを入れておく、治るとは思えんが。

 

「それにさ、言ったろ。俺たちはまだまだ半人前。だから二人で一人前。互いの足りないところを補い合える関係を築いていきませんか、リィエル=レイフォードさん……ってな?」

「……今でもすこし、恥ずかしい」

「はっはっは、犬に噛まれたとでも思って忘れろ」

「むっ、それはできない。ラクスとの思い出はどれも大切。わたしはバカだけどそれは忘れられない」

「……お、おう。そうだな、すまん」

 

 きゅん。

 男らしい物言いにラクスちゃん惚れちゃいそう……いや、惚れてたわ。HAHAHAHA!

 

「そんじゃ……」

「ん」

 

「「いただきます」」

 

 でも、いちごタルトはしばらく見たくないです。

 

 ◇

 

 んで、休みを何故か山の中でハイキングという重労働で棒に振る俺。

 システィの魔道考古学は山奥に行かないと調査できないらしい。システィは解析に集中しないといけないので道中の魔物は俺が一掃。リィエル? 俺の背中で寝てるよ。ちょーカワイイ。お持ち帰りしていい? って、いつもしてるわHAHAHAHAHA!

 んで野営をしたくないのでシスティが目的とする遺跡まで雷を使って高速移動。速攻で資料集めして帰ってきた。

 俺ってば超有能。

 今は俺とシスティとリィエルで遅めの昼ごはん。代金はシスティ持ちだ。さすが、学者兼()()は羽振りが良い。

 

「前から聞きたかったんだど」

「ん、なんだ?」

 

 飯を食ったら午後3時。リィエルは案の定、眠りに入った。そこでシスティはどーでも良さそうに俺に質問をしてきた。わかってる。そういう時のシスティってめっちゃ気にしてるんだよね!

 

「どうしてルミアじゃなくリィエルを選んだの? あ、いや別にリィエルがどーとかルミアがどうってわけじゃなくて!」

「あー、不思議ってか?」

「うん、まぁ。私はずっとルミアとくっ付くものだと思ってたから」

 

 そこらへんはまぁー。

 

「ぶっちゃけ俺にもわからん」

「はぁ?」

 

 選択肢とかルート的なアレだろう。多分。星座の導き的な?

 つか、俺が大天使ルミアと付き合うだって? ないない。俺が陸に上げられた小魚ならルミアは相変わらず大天使ってぐらいに釣り合わないだろうさ。

 

「でもあえて理由付けするならなんつーか、ほっとけなかったんだよなー。そんでいつの間にかこんな関係よ。超幸せだ」

「あーはいはい。ノロケ話は結構。スイーツ食べたばかりなんだから」

「すまんすまん、つい」

 

 そうそう。俺は今も昔もリィエルに心をぎゅっとされて(物理じゃない)虜のままなんですよ。

 だからさ。

 

「———リィエル、寝たフリしてないで彼氏がなんか頭に花が咲いてるから伐採してあげて」

「ラクス、途中から私が起きてるって気づいてた」

「すまん、すまんなんか久しぶりのクラスメートとの再会に盛り上がってるみたいだ」

 

 顔を紅く染めて、弱々しく呟くように喋るリィエル。カワイイ。

 

「お手」

「……ヮン」

「よしよし」

 

 ついやってしまったが、リィエルのこのクセのようなものはまだ抜けないらしい。抗うが、従ってしまうのだとか。

 なにそのくっころ仕様って感じだが、俺に催眠とかは使えない。エロ同人誌みたいな展開は期待しないでくれ。

 システィ、額に手を当てて空を見上げるのはやめてくれ。まるで、俺たちがバカップルみたいじゃないか!

 

 ◇

 

 闇に紛れて悪を討つ。

 響きは14の子供が聞けばカッコいいだろうがやってることは人殺し。良いも悪いもない。

 達成感はなく残るのは罪悪感のみ。こんなんだからイグナイト室長には向いてないとか言われるのだ。

 本日は単独任務で速やかに帰投しよう。

 ()()()に潜入したどこぞのスパイさんを丁寧に遺体を処理する。はぁ、情報を取られたのはまずったがどっかの国とか組織に渡る前に潰せて安心した。

 アリシアさんが存命のうちは国家転覆は許さない。その日から食う飯が不味くなるからな。

 さて、撤退撤退。

 ところで魔道省の官僚は魔道保安官と呼ばれるのだがうちのクラスメートでそこに就職を決めた大天使じゃなかった大天才が居た。なんでこんな話をするかって?

 

「うそっ、ラクス君! 久しぶり!」

「……おぅ、ルミアなんで残ってるんだよ」

「うーん、国家レベルのプロジェクトのお話だから察してくれると嬉しいかなって?」

「あーはいはい。大人の世界って大変だよなー」

 

 つまりはトップシークレットで残業してまで煮詰めないといけないみたいだ。

 というか情報部しっかり仕事しろ。聞いてねぇぞ。

 つーことはルミアの独断っていうか無理なんだろうな。

 魔術を真の意味で人の力にする夢が叶う仕事だから熱が入るのは分かるけどよ。

 

「仕事マンもいいけど頑張りすぎんなよ。家まで送ろう」

「それはラクス君もだよ。その……今日もお仕事だったんだよね」

「……まぁ、そんなところだ」

 

 互いに無言になる。

 俺はとりあえず特務分室コートをルミアにかける。

 

「外は冷える。羽織っておけ」

「あっ、これじゃラクス君が」

「問題ないよ。冷え性じゃないし」

「……うん、それじゃ借りるね」

「……あぁ」

 

 俺とルミアは微妙な距離を保ち街道を行く。

 明日は休日ということもありこんな夜中にも関わず、人は多い方だと思う。あのスパイ逃してたらヤバかったな。紛れられて終わりだった。

 それに学院の時からすでに美人のルミアはさらに美人さんになって酔っ払いやイケイケのお兄さんが絡んでくる。

 

「失せろ」

 

 なので俺はさながら騎士というわけだ。

 というかよくルミア相手にナンパとかできるな。器量良し、見た目良し、全てが良しなルミアに彼氏がいないわけないだろうに。まぁ、実際いないけど。

 ルミアに聞くと仕事終わりのナンパは週に3度はあるらしい。仕事が忙しいと言って撒くそうだが、なるほどルミアらしい。

 そんなこんなしてるうちのルミア宅というかフィーベル宅に到着。

 俺は入り口の前で別れを告げて帰ろうとする。

 

「ねぇ、ラクス君?」

「ん、なんだ?」

 

 ルミアが俺の裾を引っ張って呼び止めた。

 なんだろうか?

 

「本当に……終わったんだよね?」

「心配し過ぎだ。終わったよ。それにもう2度と始まらない」

 

 きっと自身の体質の話だろう。

 今日、俺が魔道省で()()してるのを目の当たりにして異能っぽいソレを狙って来たとでも勘違いしているのだろう。

 慈愛の性質からくる過度な心配性だ。

 

「そう……だよね」

「おう。またおっぱじめるんだったら、システィを始めにグレン先生にセリカ教授にイグナイト室長、俺を真正面から下さないといけないな」

 

 そんなことがもし起きれば世界は終わる。

 実はこの上に隠しルートのアルベルトさんも追加される。

 

「ルミアの能力にはセリカ教授が直々に『鍵』をかけたんだ。術式に穴はない……今日は第三国のスパイの処理で来たんだ」

「えっ、それって———」

「もちろん、聞かなかったことにして」

「……ふふっ、リィエルは幸せそうだね」

「何を急に?」

「ラクス君って細かい所に敏感だよね。グレン先生もだけど、そういう人ってなんか憧れちゃうな」

 

 何を言ってるんだろうか?

 

「ルミアには敵わないさ。俺は学生時代に世話になったルミアの真似事をしてるだけでそう見えるだけ」

「そうかな?」

「そうそう。実際、リィエルに告るときも心臓バクバクだったし」

「あー、懐かしいな」

 

 実際は相思相愛なので気負う必要はなかったと。

 ケラケラ笑うシスティとグレン先生、それに申し訳無さそうに笑うルミアの顔を思い出した。

 俺とルミアはそれから思い出話で盛り上がった。

 俺たちにとって学生時代というのは予想以上に輝かしい思い出だったみたいだ。

 しかし、夜も更けて寒くなって来た。ルミアの体調も鑑みて切り上げよう。また、いつでも会えるさ。

 俺はそう言ってフィーベル宅を後にした。

 これから仕事もある。

 

「つーわけで空気読んで、こそこそ隠れてるオカルトサークル諸君、始めようか」

「……隠密を得意とする我らに気づくとはな」

 

 オカルトサークルの残党だ。

 焦った。ルミアって本当に鋭いのな。

 未だに俺がフェジテの街を離れるような任務がないのはこの為だ。

 フェジテにいる鍵を持つ人はグレン先生にセリカ教授にシスティに俺。

 システィは今やアルベルトさんを追い抜く素質を発揮して学院が鼻を伸ばすほどの逸材。

 そりゃ殺しやすそうな俺が第一の標的に選ばれるわけだ。

 

「それ、井の中の蛙って言うんだけど知ってる?」

「……我らの矜持を侮辱したこと地獄で後悔しろ」

 

 暗殺屋が6人、姿を現した。

 見事な隠密だが、レーダーではっきり捉えてる。

 

「矜持じゃ人は救えねぇ。地獄じゃルミアは守れねぇ。なによりリィエルの隣にまだ居てぇ」

 

 あまーいスィートライフはこれからだ。

 手短に済まさせてもらう。

 

「……死ね」

「お前がな」

 

 暗殺屋の短刀が怪しく輝く。

 6人の暗殺屋が一糸乱れないコンビネーションで襲いかかってくる。

 仔細は省く。とりあえず、数分後に立ってるのは俺だけだった。

 暗殺屋が姿を現しちゃダメだろ。それとも直接、戦闘で御せるとでも思われたか? 甘く見られらものだ。

 ま、言うだけのことはある。

 言葉を交わしたやつは普通に強かった。

 脇腹を深めに斬られちまった。致命傷じゃないが、俺の未熟が現れてるようで思わず舌打ち。精進しないと。

 

「それにコレは趣味だからな。労災下りねぇ」

「……ラクス、遅いと思った」

「……リィエル。どうして?」

「砂糖と血の匂いは逃さない」

「いい鼻してる」

 

 路地裏で座り込む俺を華奢な体で支えてくれてようやく立ち上がれる。帰りの遅い旦那を迎えに来てくれたみたいだ。嬉しい。

 俺の奥様はパワー系だからなこれくらい余裕だろう。

 と内心で思ってたら脇腹を軽く頭突きされた。血が出そう。

 

「心配した。もう帰ってこないかと思った」

「……悪りぃな。礼のなってない割り込み予約の相手に戸惑った」

「ラクスは接近戦、グレン以下。気をつけるべき」

「へーい、肝に命じまーす」

「……ん」

 

 魔力フル動員でグレン先生とトントン。パワーはあるのだが、いかんせん経験と技術が足りてないわけだ。

 自分で言うのは難だが割と修羅場を潜ってきて磨かれたものなので一流とは言わないがそれなりだと自負してる。

 それでもリィエルに敵わないのは女は強しとのことで。

 俺の本気は超遠距離からの超電磁砲や砂鉄錬成に重火器での()()。図体に穴を開ける程度なんて優しい殺し方はできないのだ。

 俺に有利な状況でならアルベルトさん本人から負けるとの言葉を頂き、特務分室でも肩身を狭くすることなくやってる。

 室長? あれは飾りだろ。あんな儀式なんて魔力放出全開で破壊できるし。

 裏の情報板じゃ特務分室最強ランキングがあるが、アテにならん。ぶっちゃけ隠者のおっさん最強なんじゃね的な疑惑が俺のなかで燻ってる。

 

「そんな傷で式に参加できるの?」

「あー、多分。大丈夫だろ、ヨユー」

「……忘れてた?」

「そ、そんなことないよー」

「……」

「いだぃ、いだぃ。さーせんっす。すっかり忘れてたごめんねごめんなさい。頼むから傷口触らないでくださいぃぃぃぃい!!」

 

 式———そう、俺達。ラクス・フォーミュラとリィエル=レイフォードは結婚します。

 

 式場の予約もOK。指輪も買ったし、ご両親への挨拶は既に済ませてる。

 関係各所への招待状も送った。完璧だ。

 システィパパが俺より強い奴じゃなきゃ云々と言ったので殴り合いをした。システィママが介入しようとしたが阻止。男と男の殴り合いである。

 もちろん、フルボッコにした。自分、特務分室所属です。

 そのあと、やり過ぎとのことでシスティとリィエルにフルボッコにされた。システィパパが俺のためにとか言って涙を流しててカオスでした。

 

 さぁて、傷口を治すぞー。具体的には【ライフ・アップ】とかでズルする。やらなきゃいけないことは山盛りだ。

 俺とリィエルは世に言う幸せを掴むために歩き出し始めたのだ。

 

 ◇

 

 結婚式というのは特別だ。

 月並みな言葉で申し訳ないが、これくらいの感想しか出てこない。

 先ほどまで準備やなんやらで騒がしかった新郎控え室で椅子にかけながら思う。

 思った以上の緊張がある。謎の緊張感だ。

 

「肩の力抜けよ。これから殴り合いするわけじゃねぇんだぞ?」

「リィエルと殴り合いとかなんて罰ゲームですか?」

「ちがいねぇ」

 

 殴り合いにすらならないだろう。俺は動く血袋だ。

 式まで時間があるので俺はグレン先生と控え室で駄弁る。

 俺の緊張を察してくれたらしい。先生してるなぁ。

 

「こんな時に話題ねぇから言うけど、お前とも長い付き合いになったなぁ」

「そうっすね。気づけば青春を先生と過ごしてました」

「……流したのは汗じゃなくて血だけどな」

「くはっ、言い得て妙ですね。結婚式にする話題じゃないですけど」

「あー、なんつーかすまん。口をついて出ちまった」

「気にしないでくださいよ。俺が誰かの顔面を殴りつけたのはこういうときに笑って話題にするためっすから」

 

 俺とグレン先生の会話だ。宗教のような高潔なモンになるわけがない。泥臭くて、血生臭い。けど、何処まで行っても笑い話なのだ。

 そうなるように頑張った。俺だけの力じゃないことはもちろんだけど、とにかく頑張ったのだ。

 今日招待した人達がその証明。誰かが欠けていたら笑い話になんてできやしない。

 俺は息を吐いて、頭を空っぽにした。すると、ふっと降って来た。

 

「そういや先生」

「どうした?」

「システィとはどこまで?」

「ぶっ!? 急に何を言ってやがんだてめぇ!?」

「何って……そりゃナニですよ。Aですか? それもB……いや、Cまで!?」

「邪推すんなコノヤロウ! ()()()()()()とはお前が期待するようなことはなんもねぇよ」

「はっ、ふーん」

「執念深い奴はレイするぞ?」

「あー、ケーキ入刀が楽しみだなぁ!」

 

 もー、システィもグレン先生も奥手だなぁ。

 

「あっ、リィエルに言っとくんでブーケトスは先生とシスティどっちがいいですかねぇ? 結果は変わらないんで俺としてはどちらでも———」

「《其は摂理の円環へと帰還せよ———」

「ちょ、洒落になって……すとぉーーぷ!」

 

 この後、異常な魔力を検知したセリカ教授とシスティ先生に仲良く折檻された。

 

 ◇

 

 新婦入場。

 フェジテには多くの結婚式スタイルがあるが、俺達は教会を使って行う西洋スタイルだ。

 ステンドグラスに彩られる礼拝堂。青空にそびえるようなカテドラル。パイプオルガンから流れる旋律は安らぎと幸福を与えてくれる。

 バージンロードを歩くのは床まで付いた長いベールが特徴的なウェディング衣装を着たリィエル。エスコートするのはシスティパパだ。

 ここら辺はかなり揉めたね。何故かって……そりゃ。

 あぁ、今グレン先生がエスコートを代わった。最初はね。システィパパでいいと思ってたんだけど、リィエルがグレンが良いと言ったのだ。

 まぁ、そりゃ当然だわな。俺も配慮が足りてなかった。後にシスティに聞けば招待状が来た時から学校でもかなりソワソワしてたとか。

 俺が目を瞑って回想してるといつの間にかリィエルとグレン先生がすぐそこまで来ていた。

 短い様で長い距離。ようやくここまで辿り着いた。

 感極まって泣きそうだ。唇を少し噛んで堪える。

 グレン先生がエスコートを止めるとリィエルは少しずつ歩いてくる。

 グレン先生から口パクで頼んだぞと力強く目の芯に強い意志を込めて託してもらった。

 俺はもちろんウィンク付きで了解した。

 その時だった。リィエルが前に倒れこむように足をもつれさせたのは。

 礼拝堂に響く悲痛の声。それはルミアだったか、システィだったか。ただ、リィエル本人からはそんな声はもれなかった。期待に応えますよ、俺のお姫様。

 俺も世界が止まるように感じた。リィエルがこの晴れ舞台で嫌な思いなんてして欲しくはない。

 思って体が動いたのは刹那。実際に届いたのは一秒も掛かってない。

 

「この衣装、歩きにくい」

「衣裳合わせで一目惚れして暫く固まってたのはリィエルだろう?」

「もう少し機能性を考えるべきだった」

「いいや、リィエルはもう普通の女の子していいんだよ……綺麗だ」

「……ありがとう」

 

 腰を支える俺の右手とそれに体を預けるリィエル。

 場面だけ切り取ればダンス会場と間違われるだろう。

 礼拝堂には冷やかすような口笛と黄色い悲鳴が響き渡っていた。

 リィエルは少しだけ頬を赤らめ恥ずかしそうにする。

 ポニテじゃなく、全ての髪を流したリィエルは新鮮だなぁ。美しいと素直に感じる。

 

「……ラクス、リィエル。式を進行するぞ」

「アルベルトはせっかち」

「こらやめなさい」

 

 リィエルが顔だけ向けてぶーたれるが無理言って神父役を頼んだ。文句は言えない。

 俺とリィエルは姿勢を正してアルベルトさんの前に立つ……ウェディングドレスを何度も踏みかけたのは内緒だ。

 アルベルトさんは俺が最初に頼んだときは断られた。

 なんか色々言ってたが、祝福を捧げる言葉は黒く淀んでいて十字を切る指先は紅く濡れているからと。

 まぁ、関係ないんですけどね。

 世の中には探そうと思えば硝煙の匂いがする神父さんも神様を信仰してない神父もいるわけだ。

 俺は神父さんだから依頼するんじゃなくアルベルトさんだからお願いした。土下座で。

 何度も頭を下げると安くなると言われるが、俺の頭でナニカが解決するなら価格低下くらいは優しいものだ。

 

「リィエル。汝はラクスを夫とし、神の導きによって夫婦になろうとしている。汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓えるか?」

 

 時折、文言とは違う自が出るアルベルトさんだがやっぱり彼も彼なりに気にしていたのだろう。リィエルの出自を誤魔化したのも一役買ってるわけだし。

 

「誓う。ラクスは生涯、わたしが支え続ける。それがわたしが見つけた———わたしだけの答え」

「そうか……大きくなったなリィエル」

「ん」

 

 アルベルトさんはリィエルの頭を撫でる。

 ちょっとばかしどよめきが走るが、事情を知る者は涙を浮かべていた。アルベルトさんの目にも少しだけ輝くものがある。指摘するのは野暮だ。

 それに涙を浮かべるのは俺も同じこと。

 それと、あまりに男前な見得にドキッとした。

 

「ラクス……誓え」

「えっ、えっと———」

 

 アルベルトさんはいつものような鷹のような鋭い眼光で俺を見ると誓いを強制してきた。

 

「リィエルを妻とするラクス。おまえは神の導きによってリィエルと夫婦になろうとしている。汝、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くす———これは当然のことだ」

「アッ、ハイ」

 

 誓いの言葉じゃねぇ!?

 この神父さん暴走してます! いや、リィエルさんみんなに愛されてますね!

 

「泣いてもいい、笑えなくてもいい、貧しくてもいい……だが、不幸にはするな」

「誓います。俺の生涯を賭けてリィエル=レイ……フォーミュラはルヴァフォース中を探しても比肩する奴が居ないくらい幸せにします」

「良いだろう。その言葉に偽りがあれば俺が責任を取る」

「へ?」

「指輪の交換を」

「え、いや。ちょ、あの。凄く気になる言葉が」

「指輪の交換を」

「……分かりました」

 

 暴走アルベルトさんの強引な進行に俺は従う他ない。

 もとより先の言葉に嘘偽り虚偽詐称は一切ない。

 全て事実にする予定だ。

 俺はリングガールその一であるシスティから指輪を受け取る。

 

「しっかりしなさいよ。オープニングは良かったけど、アルベルトさんにタジタジじゃない。今日のメインはリィエルよ? しっかり見てあげなさい」

「サンキュー、調子が戻って来た。指向性の持ったブーケトス、期待しとけ」

「は、はぁ!? べっ、別にグレン先生と———」

 

 沸騰するシスティを放置して俺はリィエルに向き合う。

 確かに今日のメインはリィエルだ。アルベルトさんに気圧されてる場合じゃなかったな。

 俺はリィエルの左手薬指にそっと指輪をはめた。

 手を取って改めて思ったが、柔らかな小さい手だ。

 昔のような細かい傷はなく、シミひとつない綺麗な肌。手入れしてないらしいのでたまげる。

 リングガールその二はルミアだ。

 彼女もリィエルに何かを告げて指輪を渡し、去っていく。なにを言ったのかすごい気になる。ヴェールに包まれるので顔色はうまく伺えないが、ルミアが此方を見て一瞬だけ微笑んだ。

 うん、悪寒。何を吹き込んだというのだ。

 そんなこんなでリィエルが俺の手を取り指輪をはめる。あれ、さっきよりも手が熱い?

 まぁ、いいや。うす、なんか嬉しいっす!

 

「それではヴェールアップと新郎によるティアラの贈呈を」

 

 言われるがままに俺はリィエルの顔を覆っていたヴェールを上げた。その……なんつーか、割と恥ずかしそうにしててこっちまで恥ずかしくなった。

 巷じゃ誓いのキスが流行りだが、俺は愛する人からティアラを贈られると幸せになる伝説を信じてこっちにした。

 ()()じゃ俺もリィエルも恥ずかしい。

 俺はリィエルにティアラを載せる。なんの装飾もなく小さなティアラ。

 意味はもちろんある。

 これから二人で作っていく宝石(思い出)でティアラを彩っていこうってな具合に。

 俺はドギマギしながら載せ終えるとリィエルはアルベルトさんに耳打ちを始めた。

 時折、こっちを見ながら頬を赤らめるんじゃない。何を企んでる。

 話が終わるとアルベルトさんはやれやれと言った具合だった。さて、残りは退場だ。二次会でケーキ入刀なんかもあるが、別に挨拶とかないし。いつもの集まりみたいなもんだ。

 

「それでは誓いのキスを」

「!?」

 

 アルベルトさんはトンデモナイことを口にした。

 えっ、つまりどういうこと?

 視界の端で笑うルミア。

 

 おのれ謀ったな、ルミア=ティンジェルゥゥゥゥ!!!

 

 あいつ完全に俺とリィエルをはめやがった。

 そうだ。さっきの指輪渡しの時だ。違いない。

 ヤツはこのどよめきを作り出すことが目的だったんだ!

 

 んー、まぁ。人前じゃってだけで別にやろうと思えばいくらでも……。

 

「ラクス、早く」

「お、おう」

 

 ダメだ。厳しい。

 そこで沸騰しそうなくらい顔を真っ赤にしないでぇ!?

 いやー、しかし男。ラクス・フォーミュラ気合い入れてこ。じゃないと、ほらぁ!

 

「……」

 

 すっと指を構えるアルベルトさん。

 

 ちょっと待てぇ!? やっぱり強制だよね!

 分かった分かりましたよコンチキショウ!

 俺はリィエルの肩を優しく抱いた。

 

「あっ……」

「ったく、ルミアに吹き込まれたからって恥ずかしいならやんなよ」

「……唇なら誓いの言葉を封じ込める。額なら親愛を。ルミアは身長差が少しだけあるからおでこでも絵になるって。手の甲は敬愛。場所はラクスに任せる」

「マジぃ?」

「まじ」

 

 任せるとか言いながら目を閉じて唇を差し出すなって。

 選択肢は三つあるよに見せかけて二つ。肩を抱いてるので今更、跪くの変だろう。

 あー、はいはい。実質一つの一本道ですよ。

 リィエルが望んだんだ。なら、俺はそれに答えるだけ。

 

「「「ひゅうーーーー!!」

「「「やるじゃねぇか!」」」

「「リィエル!!」」

「男だぜ、ラクス!」

 

 照れで体が熱い。

 ぼーっと、礼拝堂に響く声が聞こえるがどーでもいい。

 俺のおでこに触れてるヴェールが少しだけくすぐったかった。

 

 そっからはもう。しっちゃかめっちゃかだ。

 フラワーシャワーで当然のようにグレン先生が悪ノリ。セリカ教授と連携して花の竜巻が出来ていた。さすが大陸最強の魔術師。もう訳ワカンねぇな。

 肝心の二次会で行われたブーケトス———フラワータイフーンのせい———だがリィエルは事前に打ち合わせをしていたのにも関わらずガン無視。フィジカルブースト全開でブーケをグレン先生に全力で投げつけた。

 先生は門まで吹き飛ばされて腕を痙攣させながらもしっかりと受け止めていた。そこで顔を赤くするシスティさん、決まったわけじゃないですよ。精進して。

 なんか、見知らぬ同年代っぽい赤髪の子も赤くしてるがどういうことだろうか?

 なんか新聞で見た商会の会長さんっぽい人もいる。

 リィエルは俺の元を離れて剣を下げてる子と一緒に笑ってる。とりあえず、この式場すげぇな。

 

 なんつーかさ。いいよなこういうの。

 

『おめでと、おとーさん』

 

「……あぁ、ありがとな」

 

 俺も俺で顔見知りに挨拶しとく。

 久しぶりに見た顔も相変わらずでなによりだ。

 

 俺は少しだけ疲れてのでベンチに座った。

 するとすぐにリィエルが隣に腰かけた。

 動きやすそうな和装だ。聞けば、さっきの女剣士のオススメらしい。東洋の国って感じだったもんな。納得。

 

「……ねぇ、ラクス」

「ん?」

「なんでもない」

「そっか」

 

 頷くと同時に頭を預けてきた。

 リィエルの暖かさが直で伝わって安心する。

 時折、こっちを見る視線があるが手を振ると居心地悪そうに頭を下げて去っていく。コレが夫婦の雰囲気というヤツだ甘ちゃんどもめ。

 

「リィエル、俺さ」

「うん」

「まだまだ仕事も半人前で心持ちも中途半端だけどこれからもっと……もっと頑張るからさ。幸せにしてみせる」

「……うん、一緒に幸せになろう」

「これからもよろしくな。リィエル」

「うん!」

 

 出会った頃のようなあどけない笑顔を浮かべるリィエル。最近じゃ大人びてクールなリィエルさんだったので思わず頭を撫でる。照れ隠しみたいなもんだ。

 さ、日が落ちてまいりました。幸せな今日も終わりが近い。

 

 明日も幸せになーれ!

 

 ◇

 

 あぁ、本当に幸せだ。

 リィエルはどこまで一途で、幼くて、優しくて、変なところが察し良くて。

 パワーが強いし、放っておけばいちごタルトしか食べない偏食家だけどそんなところも含めて俺はリィエルが大好きだ。

 リィエルが過去になにを抱えていたのかも知ってる。

 

 悲しかったと思う。

 辛かったと思う。

 涙を流したと思う。

 

 それでも前を向いてやってきた。

 だから、だからこそ。

 リィエル=レイフォードは報われなきゃいけない。幸せになるべき人間だと思う。

 もし、もしだ。その過程を俺が手伝うことで更に幸せになれるなら俺も同時に報われる。

 こんな俺たちだからこそ同じ方向を見ていける。

 お互いの痛みを分け合うことができる。

 一緒に歩いていける。

 

「だからラクス。これからもわたしの側で———」

「喜んで」

 

 二の句は告げさせない本日も晴天幸せ。

 明日以降は曇りがあるかもしれませんが幸せが訪れることでしょう、ってな。









ネタバレ1
ルミアの異能っぽいナニカは封印したと見せかけているだけ。

ネタバレ2
このラクス君は10人目。
つまり本編でジャティスに敗北したうえでようやくルート突入する可能性。攻略難易度高そう(小並感
タイトルのRe:Roadとは本編を基準として再びやり直すという意味を込めました。

ネタバレ3
どの世界線でもニコラの死は必定。

ネタバレ4
セリカ教授呼びなのは弟子入りしたせい。
本編で名前呼びがデフォのラクスが苗字で呼ぶ人間は先代ラクス・フォーミュラ達のせいで潜在意識に敬意を払わなければいけないという思いから。
グレンは別。弟子入りしても、してなくても悪友のような関係のせいで敬意とかいう感情はなし

ネタバレ5
神様討伐済み。が、世界を動かす主はラクスではなくなーちゃん。ラクスが神様になった瞬間でなーちゃんを蘇生。また枠を押し付けた。鬼畜。
よって実力的には
IF編ラクスの本気>>>>>本編ラクスの本気
リィエルが咎めたように接近戦はグレン以下。が、条件が揃った遠距離戦ならセリカすら爆殺。
セリカ教授の弟子は格が違うぜ!

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