ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

25 / 29
RAIL 3

 ◇

 

 流れ込んだ知識。現世の隅々までを覗いてしまった俺はルミア達の危機にいち早く気がついた。残り香のような力がまだ蝕んでるが、今は僥倖。すぐにこの状態も安定してしまうだろう。

 ったく、なんで天文神殿が学園地下ダンジョンと繋がってんだよ。

 アレか? メルガリを目指す奴らへの当てつけか?

 空ばかり見ていてはたどり着けない。

 地に足をつけろって感じの。ダンジョンを踏破したらメルガリまでワープできたりしそうだな。

 うわぁ、まじでありそう。これ以上はやめとこ。うん。明日は晴れになーれ!

 

 と、雷と化した俺の体でどーでもいいことを考えていた。燃料は魔力じゃない。神様の権利を行使した変な力だ。

 雷と化した俺は壁の計算も含めれば透過なんてお茶の子さいさいなのだが、なんせ古代魔法(エンシェント)の領域。学園地下に直接行くよりは天文神殿に行き、こじ開けた方が早いと思った。

 が、その工程も無駄になった。

 

『お願いラクス君……身勝手だって分かってる』

 

 ルミアが両手を合わせてお祈りをするように囁くのが分かった。

 残り香の影響で俺の左の視界は遠く離れたダンジョンと繋がっている。

 身勝手なんかじゃないさ。きっと、君は再び死地に立たせることに強い不快感を覚えているのだろう。

 けどね、ルミア。男ってのは頼られるだけで嬉しい簡単な生き物なんだよ。それもルミアくらいのとびっきりの美人の彼女ならその思いは格別だ。

 

「さぁ、呼べルミア! 俺の名前を!」

 

『来て、ラクス君!』

 

 ルミアは右リストバンドに付けられていたラピスラズリを床に叩きつけた。

 あぁ、そうだ。そのラピスラズリは本来ならば護身用に黒魔【フラッシュライト】を砕けた瞬間に発動するようになってる。

 けどそれはルミアには伝えてはいない。必要ないからだ。おそらくはアルフォネア教授の入れ知恵だろう。

 ナイスアシストだ。

 これから行われるのは即席の転送魔術。本来ならあの宝石にそんな力はない。

 けど、この瞬間を俺が知覚し割り込めたなら運命は塗り替えれる!

 

 今度こそ完全に———届く!

 

 瞬間、俺の体は引っ張られて視界は反転した。

 

 ◆

 

 ———閃光が走る。

 

 同時にその場にいた全員に等しく圧力がかかった。

 空間自体に直接加わる膨大な力を前に膝を折るものこそいないが、あの魔刃皇将と呼ばれたものでさえ顔をしかめた。

 グレンとアール=カーンの前に立ち塞がる様にして佇む槍の形をした雷撃。

 セリカの助言により床に叩きつけられたラピスラズリは光を放ちそこからは雷撃の槍が顕現した。

 銘を猿王討ち取りし雷の槍(リベラルヴォイド・ヴァジュランダ)。ラクス・フォーミュラが昏睡する前に至った雷撃の極致である。

 そしてそのことを知る者は二人。ルミアとリィエルである。

 二人は雷撃が投擲された方向に顔を向けた。

 一方は笑みの上に涙を浮かべ。

 一方は無表情の中に安堵を浮かべ。

 視線を向けられた雷撃の化身は瞳に琥珀を灯して笑いながら口上を述べた。

 

「攻め手に欠けると見た。ならば安心すると良い。万物を穿つ護りの矛、これ以上ない晴れ舞台だ。その手で栄えさせてみろ———ってなわけで、さっさと立ってくれよ先生。俺に魔術を説いた人はそんな柔な人じゃない」

「急に出てきて好き勝手言ってくれるなっと!」

 

 圧力を薄めながら口上を述べたのはラクス・フォーミュラ。グレンはセリカを抱えて後ろに下がる。

 ラクスは悠然と存在を魅せつけながら歩き、とうとうルミアの隣に立った。そこが在るべき場所で、至るべき場所。

 アール=カーンはすぐにラクスの正体を看破した。

 

『神々の力を簒奪したのか……真に愚者なり。そうまでして力を求めるか』

「簒奪じゃねぇよ。譲渡だ。予定調和なんでそこんところよろしく」

 

 余裕のある表情は魔王の配下の威圧を受けても尚、崩れない。

 ラクスは気を張りながらグレンとセリカを退かせる。

 槍の先へと進めば容赦はしない。そう、睨みに込めた。

 アール=カーンは動かない。否、動けない。

 所詮は分体である影の身ではどうしても限界がある。

 が、ここまで絶望的な差があるとは想定していなかった。

 しかし、英雄の気質を持つアール=カーンは撤退を拒絶した。

 

「ラクス君……」

 

 ルミアがラクスの手を握るとラクスはしっかりと握り返した。

 もうどこへも行かないと示すように。

 

「心配かけたな」

「本当だよっ。いつもいつも!」

「いや、割とガチで事件後に眠るのは恒例といいますか、通過儀礼といいますか、なんつーか呪い地味てるよなぁー」

「急に遠い目をしても許さないよ?」

「はいっ深く反省をしております故、何卒寛大な処遇を」

「ダメです。許しません」

「神はいなかった……つーか、俺が神様だったわ。HAHAHAHAっでぇ!?」

 

ㅤスパンっと一閃。

ㅤラクスの後頭部にシスティのゲルブロで威力強化されたルミアの平手が炸裂する。

 

「ちょっと、ラクス!ㅤ色々聞きたいことあるんだけど!」

「はしゃぐなよ、システィ」

「はしゃいでないわよ!?」

 

 ラクスはグレンが応急処置をしているセリカを見て、大体の状況を把握した。

「それじゃ、ルミアとシスティはアルフォネア教授の処置を。それでリィエルと先生はその護衛を頼むわ」

 

ㅤそれであの魔刃皇将に勝てる訳が……無いとは言い切れない。先ほどの重圧や自身の存在を神と称した口ぶり。

ㅤそう言い切るだけの力量を確かにラクスは持っていると全員に納得させることができていた。

ㅤそれにだ。無理な魔術行使で傷ついているセリカの処理を急いだ方が良いのも事実だ。

ㅤしかし、その判断に口を出す、否、意見をしたのはセリカだ。

 

「ラクス・フォーミュラ……傲慢はいずれ身を滅ぼすぞ?」

「いやぁ、アルフォネア教授の心配もごもっともですけど、神格っても。擬似ですから大丈夫ですよぉー。それに元になる神様はぶっ飛ばして来たんで」

「お前、なにしてんの!?」

「グレン先生に常識語られるとか、辛い」

「よしよし、腐れ神格万引き神ラクス。喧嘩売ってんだな、よし、そーなんだな?」

「ゴミクズロクでなし魔術講師(愚者)グレンちぇんちぇーこそイキってんなぁ、おい」

「はぁ?」

「おん?」

「あとにしなさいよ、バカども!」

 

「「いでっ!?」」

ㅤゲルブロ制裁。ここまでがテンプレートであり、ラクスが愛した日常だ。

 

「あっ……」

 

 ラクスは心配そうに見つめるルミアをそっと抱きしめた。魔刃も下手に動けば無事では済まないことを悟り、数歩下がって呼吸やバイオリズムを万全に整える。

 言いたいことも、話さないといけないこともたくさんある。けど、今はコレで十分だ。

 言葉よりも行動で示す。ラクスが抱きしめたルミアは恐怖よりも嬉しさで震えていた。

 

「……ごめんねラクス君。プレゼントの宝石を割っちゃった」

「んなもんはいくらでも創り直せるさ……あぁ、本当に———」

 

ㅤ無事で良かった。

ㅤラクスはその言葉を口にしてルミアを離した。

ㅤ名残惜しそうにするのはルミアだけじゃなくラクスもだ。しばらく見つめ合う二人。

ㅤただ言ってくれればいい。罪悪感なんて感じる必要はない。

ㅤ命じてくれ、そうじゃなくてもいい。なんでもいいから。

 

「頼ってくれ」

 

ㅤラクスはそう言って魔刃に立ち塞がるようにルミアに背を向けた。

ㅤその背中は言葉よりも雄弁に全てを語る。

ㅤ男というのは単純な生き物だ。

ㅤ好きな女の子の前じゃ格好をつけたくなってしまう。

ㅤルミアは目尻に涙を浮かべて嗚咽を両手で隠す。

ㅤどうしてなんて聞く必要はない。

ㅤ既に答えは何度も聞いてしまったから。

 

『お前と一緒にいたいからだ。笑いたいからだ。泣きたいからだ』

 

ㅤルミアは涙を振り払う。

 

ㅤ———泥のついた運命になんて用はない。

 

「絶対に勝って。私に示したあの光をもう一度見せて。大丈夫だよ。貴方の心臓は絶望した程度じゃ止まってくれない」

「……そうまで言われちゃったら負けられねぇ。ウチのお姫様は人をその気にさせるのが得意だってのを忘れてた」

 

ㅤ瞳に更なる琥珀を灯す。

ㅤいつの間にかその立ち姿には焔の匂いが染みついていた。

 

「待たせたな……さぁ、魔刃皇将殿。ここからは俺の領域だ。侵す代償は高く付くぜ?」

『抜かせ、神の力を簒奪した愚者の王。その翼を焼いてやろう。神妙に往ね』

「お断りだ。つか、貰ったって言ってるだろタコ」

『信じるに能わず』

「くはっ……なら、直接聞いてこい。すぐに送ってやるよ!」

 

ㅤラクスはペネトレイターにお手製の弾丸を込めて。

ㅤアール=カーンは双刀を構えて。

 

ㅤ———神と魔刃は激突した。

 

ㅤ ◇

 

ㅤあんだけ見栄をきった手前で恥ずかしいのだが、アール=カーンは強い。

 本来ならアルフォネア教授の未来を賭けた一撃で片がつくはずだったのだろうが、どこからかもう一個の命を引っ張って来やがった。

ㅤまぁ、伝承を超える伝承ってのは古今東西どこにでもあるし、人気な訳でぶっちゃけ俺も好きだ。

ㅤでもこのタイミングで敵方に回るとなると出てくるのは愚痴ばかり。しかも本体じゃないとか辛いわ。

ㅤんで、だ。本題に入るとこの擬似神格モードもあまり長くは保たない。

 それはそうだわな。人の入れ物で神様の力を扱おうとすれば容器が耐えれるわけがない。自壊するのは目に見えている。ニコラが規格外ってのを身をもって知った。

 

「《四重複製・七重構成(カルテット・ヘキサゴン)》」

『温い!』

「うおっ!?」

 

 左手に魔術を打ち消すことができる赤き魔刀『魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)』、右手には“霊体そのもの”を傷つけられる黒き魔刀『魂喰らい(ソ・ルート)』だったっけか。厄介だな、これは。

 俺の魔術は全部無効化ってわけだな。愚者の世界を内包した剣か……俺も大概だがチートだな、おい。

 アルフォネア教授を治療するシスティとルミアが心配そうにしているのが傍目に見えた。

 

『さぁ、どうした。先ほどまでの者達の手を借りなくて良いのか?』

「大きなお世話だ。鎧オバケ」

 

 が、確かに奴のいう通りだ。このままでは消耗戦。そうなったら分が悪いのは俺だ。

 

 決めさせてもらうぞ、魔刃。全力で!

 

「《鋼鉄の剣は災禍を断ち・暗闇を照らすは我が権能・刹那にて煌く》———【終末へと向かう一分間(ラグナロク・イブ)】」

『ぬっ!?』

 

 俺の神格を支える力をすべて注ぎ込む。原理も効果も『ラウザルク』と同じだ。

 流石に危険と判断した魔刃殿が右手の剣を突き出すがそれは悪手だ。詠唱は魔術だが実態は別物。

 肉体は万物を弾く盾となり、拳は一点を貫く砲弾だ。剣を手刀で捌き顔を穿つ。

 

『愚者の王、これほどか……!』

「まだまだぁ!」

 

 殴られた反動で後退しようとした奴の右足を踏みつけ、左足を猿王討ち取りし雷の槍(リベラルヴォイド・ヴァジュランダ)で固定する。

 古代魔法(エンシェント)でコーティングされた床を問答無用でぶち抜く俺の魔術は既に通常のものじゃない。

 権利を振りかざして効果を無効化してるわけだ。

 つまり俺の前に跪けと。

 超至近距離。互いに殺傷圏域に入った状態でのデスマッチの開始だ。

 

『よかろう! その武功に免じ死に合おうぞ!』

「てめぇが一人で逝け!」

魂喰らい(ソ・ルート)!』

 

 ちっ、神格を直接狙ってくるか! 

 どうにか物理的に防ぐがどうにも()()()()()()がある。どう引っ張っても短期決戦にする必要があったわけか。

 ……残り30秒ってところか。まじで光明すら見えない。

 俺がこの力に振るわれてる証拠だ。が、諦めるわけにはいかない。

 力を十全に振るえなくても。

 制御が雑で漏れ出した力が俺の体を傷つけようとも。

 後、15秒ってところで右の視界が途絶えようが。

 さらに出力を上げる。これから先は危険領域(レッド・ゾーン)だ。試運転でこんなことする俺は馬鹿だな。

 右手の剣を弾き飛ばされた奴は俺の拘束を振り切り腰を下ろし、左の剣を引くように構えた。

 

「ラクス君! 絶対に負けちゃダメ! 私は信じてるからっ。あなたがどんなに自分を諦めようとも私はあなたを信じてる!」

「……男冥利に尽きるな」

 

 口角が釣り上がる。あぁ、そうだな。もう絶望は十分だ。

 至れり。この身を粉にする必要はない。

 そんなことしたらルミアが悲しむってわかってるから。

 等価交換はノーサンキュー。俺が神の権利を得て行使できるならばそれぐらいの不条理は通るはずだ。いや、通させる。

 最だ。更に。この胸に闘志がある限り。

 景色を置き去りにするほど。風が鳴き出すほど。体が軽くなるほど。三つある拘束を緩める。

 

「第一術式解禁……【果てなき最速への挑戦(ファーブル・オブ・ラクス・フォーミュラ)】」

 

 俺はラクス・フォーミュラ。性は伊達じゃない。

 前世で聞いた時速300kmを超えた車体から出る天使の絶叫を俺の体で再現する。

 俺も奴もありもしない最後の力を掬い上げて右拳と左の剣をぶつけた。

 

 一瞬の硬直。再び動き出し剣を構えようとしたのは魔刃だ。

 覚悟した俺だが、遺跡に響き渡る二人の少女の気高き詠唱を耳にして安心した。

 

「「《我は射手・原初の力よ・我が指先に集え》」」

 

 ルミアとシスティの【マジック・バレット】だ。銃を模倣したように構える手が震えている。

 無理しすぎだ。けど、ありがとな。

 

 魔刃の剣は切っ先から砕け始めた。と、同時にだ。俺の右腕が切り裂かれたように傷口が開き血が噴き出す。

 俺と奴は膝こそつかないが、勝敗は明らかだ。

 

『見事なり……』

「そりゃ、どうも。うれしくて涙が出てきそうだ」

『ふっ……真に奇なり。汝、名は?』

「ラクス・フォーミュラだ」

『覚えておこう。いずれは互いに本気で』

「厳格な物言いして実は戦闘狂とか厄介な奴に目をつけられちまったな」

『汝も我と同類であろう』

「命の取り合いは勘弁だ。やめてくれ」

『ならば、そういうことにしておこう……(セリカ)の手を借りたとはいえ、見事耐えた。最大の賛辞を贈ろう。では貴き《門》の向こうで待つ』

「すこし待ってください!」

 

 後ろから大きな声がしたと思ったら俺はルミアに抱き寄せられていた。 

 え、なにこの役得。あー柔らかいなー。

 ルミアは魔刃殿を呼び止めて何を言うのであろうか?

 

「言っておきますけど、ラクス君は戦闘狂なんかじゃありませんから! あなたと一緒にしないでください!」

 

 いー、と歯茎を出してまで威嚇するルミア。かわいい。

 というかもっと大層なことでも言うと思ったのだが、これは……くくっ。

 うちの子は渡しません的なシチュエーションだな。

 

「「『あはははははっ!』」」

 

「えっ?」

『いと可笑し!』

 

 俺と魔刃殿とアルフォネア教授は大笑いだ。

 傷口に響くあははっ!

 

「え、なんで笑って?」

「いいや、やっぱルミアは大した女だよ。俺、お前の彼氏で誇らしい」

「えっと、うん。私もラクス君の彼女で誇らしいけど、なんで笑ってるのかな?」

「いひゃい!?」

 

 頬を引っ張られて制裁を食らう俺。

 魔刃殿はさらばっとかなんとか言って夢幻のように消えてしまった。

 満身創痍だった俺がしっかり覚えているのはこれまで。

 ルミアが二人いたような気がするが気のせいだろう。ブラックルミアなんて幻覚だ。

 今は帰りの馬車にルミアに膝枕されながら揺られて夢心地だ。

 応急処置は施されているが、傷はそこまでひどくない。

 去り際に二コラの言ったとおりだ。体を挿げ替えるっていうか強化ソースを神様の力である仮称、神気にするとここまでアフターケアが楽なのか。 

 グレン先生に挨拶をと思ったが、アルフォネア教授とイチャイチャしているので後にしよう。

 嫉妬するシスティをルミアとニコニコしながら見ているのもまた一興というものだろう。

 とりあえず皆が寝静まった頃合いを見て俺は屋根に飛び乗って馬を引く先生に声をかけた。

 

「ういっす先生。代わりましょうか……ってのは野暮ですね」

「おい、ちょっと待てなんか勘違いしてるだろ」

 

 アルフォネア教授が嬉しそうにグレンと呟きながらよだれ垂らして幸せそうに寄りかかってるだけですね。

 

「えー? 本当にぃ?」

「馬引いてなかったら、【イクスティンクション・レイ】だったんだがな」

 

 いつもならここで言い争いなんだが俺と先生は笑いあった。

 まぁ居心地の良い言い合いもあるってことだ。

 帰ってきた。

 俺は帰ってきた。屋根の上から身を乗り出してスヤスヤと眠るルミアを見て微笑んだ。

 

「なぁ、ラクス。お前は……」

「大丈夫っすよ。今はまだ神様になる可能性があるってだけの人間です。そりゃグレン先生を平伏させるのも面白いと思いますけど」

「ったく、人が心配してやってるのにこの問題児ちゃんは……それと俺が神を信仰するキャラに見えるか?」

「……あはは、そうっすね!」

 

 つまりだ。

 もし、神になればルミアを悲しませるだけじゃなくグレン先生が俺のレリーフに頭から酒をぶっかけてイクスティンクション・レイをかますわけだ。

 じゃ、神になるわけにはいかないな。理由もメリットもない。

 なに、元々俺は逃げる専門だ。街中で隠れんぼしたら一日は見つからない自信がある。追いかけてくる影の形をした責任なんて振り切るさ。

 まっ、権利を主張するには義務を果たしてから。

 しばらくは神の権能を振るうのはやめよう。いくら権利があるとはいえ、責務を果たす気はないのだから。

 俺はグレン先生に馬引きを任せてルミアの隣に戻る。

 リィエルが夢現のままで俺の足の間にすぽっと入ったので受け入れる。

 役得だぁ。

 

「浮気者ー」

「いたいっす」

 

 寝ているルミアに叱責されてしまった。かわいい。

 当然のように尻に敷かれている俺だが問題はない。つか、これでいい。

 

 明けない夜はない。必ず明日はやってくる。望む望まないに関わらず等しく平等に太陽は照らす。

 俺はどんな明日が訪れようと忘れたくないものがある。

 未だ明日を知らない世界にどうか祝福あれ。

 ありがとう俺をルミアと出会わせてくれて。

 

 ———今度こそさようならニコラ。もう迷うなよ。俺も迷わないから。

 心配される俺じゃなく頼れる俺になってからまた会おう。

 

 意識の海で去り際に言った言葉を思い出して、涙が溢れる。

 神様転生の儀式を壊した今。ニコラの翼を縛る鎖は壊れた。彼女は今度こそ自由だ。

 2度あることは3度あるって言うけど、そんなことはない。なによりニコラには奴の加護が付いてる。おいそれと手を出せば世界とて無事では済まないだろう。

 

 第四部じゃ死にかけて言えなかったので少しばかり気合いを入れていこうか。

 首に下げていた金のロケットペンダントをしっかりと握りしめて俺は呟く。

 ニコラ、きっとお前にとってはこっちの方が合ってる。

 

「第5部、完。今回ばっかりはトゥルーエンドってな」





さ、一日で5章を終了させてしましたRAILGUNです。今回は神様転生を主に扱ってみました。
なんか違和感あるよなーって考えた結果がコレです。つまり、お前が神になるんだよぉ!
さてラクス君に隠された秘密はもうほとんどありません。なーちゃんの設定も掘り下げたいんですけどそれやろうとしたら一章分になっちゃいそうでボツ。
ルミアの出番がニコラに食われたけど大事なところはすべて掻っ攫っていくスタイルの大天使。
AFTERはルミア推しなので堪忍してください。

あっ、あとどーでもいいと思いますけどIFルートリィエル編を書いてたり(現在3000文字くらい


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。