ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

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RAIL 5

 譲れないものがあった。

 たとえ世界の全てを敵に回したとしても譲れないものが。

 逆に言えば、俺にはそれしか残されていなかった。

 空っぽの()に入った僅かな中身(家族)

 幸せだった。それさえあれば何も望まなかった。

 約束した。

 いつかまた帰ってくると。

 バイトして、金を稼いで、都会の美味いものを土産に買っていくって。

 

 ーーー俺が孤児院に戻ったのはニコラの葬式の時だった。

 

 ニコラ・アヴェーン。

 金髪で吸い込まれそうな碧眼をした人形みたいに綺麗な姉貴分。

 年齢は彼女の方が上なのだが、おっちょこちょいなところがあり年齢はアドバンテージ足りえなかった。

 最初は少しでも威厳のあるところを見せようと躍起になっていたが、すぐにボロが出まくり泣き出したときは焦った。

 そういうところが子供っぽいって言ったら更に泣き出した。先生が来るまで泣き止まずに結局、俺が悪者にされてしまった。

 次の日から彼女はもじもじしながら壁から様子を伺ってくることを始めた。ストーカーだった。

 

「ストーカーじゃないよ!」

「うるせぇ、事実だ」

 

 1週間もそれが続けば精神的に参ってしまう。

 意を決してコミュ症が本気を出した。

 なるほど、腹を割って話せばわかることもたくさんあるものだ。

 曰く、悪者にしてごめんなさい。

 そんなことのために1週間無駄にしてたのかって笑ってしまった。

 当然、ニコラは涙目。宥めるのにどれくらい時間がかかっただろうか。覚えてない。

 そんな彼女と出会ってから孤児院は急に人が増え始めた。

 当初はニコラが年長組とか先輩組として張り切ってたものだがやっぱり限界があった。

 なし崩し的にガキどもを俺が面倒みることになった。

 そんな訳で俺とニコラは当時のガキどもから父さんとお母さんと言われる訳だが、恥ずかしいのでここで切り上げよう。

 ニコラとガキども、俺はあいつらと遊んで勉強して寝て、食事を作って、叱って、なぐさめて、起きて、歯磨きして、そんな日常が楽しかったんだと思う。

 俺が孤児院の連中を家族と認識したのはクリスマスの夜だ。

 ニコラに日頃のお礼として渡したロケットペンダントの後にニコラとガキどもが結託してクリスマスカードを渡してきた。

 今でも内容は思い出せる。

 

 ーーーどいつもこいつもありがとうお父さんだの。

 

 家族になってくれてありがとうだのと、ぬかしやがった。

 俺はみっともなく声を殺して涙を流した。

 ふざけんな、こっちこそありがとうって。

 クリスマスの夜、俺は最高のプレゼントをもらった。

 大切にしていこうと決めた。

 何を引き換えにしても守っていこうと。

 こいつらが世界のどこかで苦しんでいるなら全てを投げ出してでも救おうと。俺は聖夜の夜に誓いをたてた。

 

「ねぇ、ラクス。今から私の秘密教えるね?」

「興味ない。他所でやれ」

「ぶーっ! ラクスの意地悪ぅ、コショコショ!」

「うわっ、ちょやめっ、わかりました見ますっ! 拝見しますさせてください!」

 

 家族と初めて過ごした聖夜の夜から少ししてニコラはそんなことを切り出した。

 彼女は魔法でもなく、手品でもく、タネもなしに電気を放った。

 モロ被りの能力だった。俺だけかと思っていた。

 彼女がいうこの能力は『異能』。

 この国じゃ悪魔の力として伝わっているらしい。

 すぐさま俺もネタバラシした。すると彼女は泣きながら抱きしめてきた。

 

「ずっと一人だと思ってた。こんな能力いらないって、迷惑だって!」

 

 俺はどうしようもなくニコラの話を聞くことしかできなかった。

 

「でも、この能力がラクスと同じなら少しだけ向き合える。ありがとう、お父さん」

 

 俺は微笑む彼女に見惚れて、目をそらした。

 からかわれたので頭を撫でてやったら大人しくなったのでそうして相手をすることに決めた。

 しばらくしてニコラは孤児院を出た。

 今ではアルザーノ帝国立を名乗っているが、当時は民営の孤児院。

 たまたま訪れたどこかの研究機関のお偉いさんがニコラに目をつけてそのまま研究職として若干14の若さで就職を決めたそうだった。

 孤児院を出てもちょくちょく帰ってくるが、その顔は次第にやつれていった。

 訳もなく突然泣き出したときは抱きしめてやるくらいしかできなかった。

 今思えばそうだ。彼女は死ぬ気で孤児院に金を落としていたのだとおもう。

 当時の俺はまだまだ子供だった。前世があるとはいえ、世界のことを知らずに生きてきた空っぽの人間。

 そこでニコラの異変に首を突っ込めたのなら世界は少し輝いてたのかもしれない。

 

 ある日だ。急に民営の孤児院が国立になったらどう思うだろうか?

 ラッキーだなぐらいにしか思わないだろう。

 そうだ。俺もそうだった。ラッキーと、これで急に就職する必要はないと。

 14の時、すぐに俺はアルザーノ帝国立魔術学院に入学を決めた。

 当時の俺は魔術に対して興味があった。なにせ知らない異世界の技術だ。触れてみたくなった。

 反面、習得はそう上手くいかなかった。

 入学をしたことを大きく後悔した。

 それでもやっぱり優しい奴はいる訳だ。

 ルミア、システィ、カッシュ、ギイブル、ナーブレス。いろんな仲間が俺を進級させようと躍起になってくれた。

 嬉しかった。

 俺が魔術に四苦八苦して半年。借りぐらしの家のポストに1通の手紙が届いた。

 訃報だ。ニコラ・アヴェーンの死を知らせる便りだった。

 

 俺はしばらく息をするのを忘れた。

 死にかけてようやく、呼吸を荒く繰り返した。

 何が起きてるのかわからないままに学校に1週間の休学届けを出して孤児院に向かった。

 葬式は粛々と行われた。

 遺体は無かった。

 死因は研究所でのニコラの異能の暴走。

 死体はあとかたもなく吹き飛んでいたそうだ。

 今度は泣かなかった。ガキどもがみてる前でみっともなく泣いてみろ、あいつらが頼れるのは俺しかいないんだ。

 言い聞かせて、立ち上がるしかない。

 俺は泣きじゃくるガキどもを力一杯に抱きしめた。

 ごめん、ニコラ。今までありがとう。あとは任せてくれって。

 そっから俺は転生前の知識を総動員して魔術の研鑽に勤めた。

 その結果の集大成が黒魔【超電磁砲】だ。

 他にも【砂鉄剣】や【ラウザルク】は半ば異能者専用だがいずれは汎用性に富んだものにしてみせる。

 その過程でたまたまできた電磁波レーダーの魔術は軍に高く売れた。最初は門前払いだったが、守衛を実力行使で黙らせたら嫌でも話を聞いてくれた。

 そんときはアルフォネア教授のチケット転売もあり、久しぶりにガキどもにいいものを買ってやれたとおもう。

 ただ、そのときにいたガキどもの中に最年長組の姿は無かった。

 あの若さで就職を決めたらしい。今は亡き母の姿を追って。

 ったく、俺にはもったいない家族だ。妬んでくれて構わない。

 

 そんなこんなで魔術学院に入学してから一年が過ぎた。

 無事に進級することもできて万々歳だ。

 あとは、今まで語ったとおり。

 一人の少女に恋をして、テロリストとどんぱちして、挙句の果てには王女暗殺計画の阻止まで。

 いろんなことをやったなー、うん。

 

 そうだ。俺()いろんなことができた。

 

 けどさ。あいつらはどうなんだ。

 ニコラは大きな培養槽の中に入れられて、最年長組は脳みそだけにされてしまった。

 俺の家族を研究資料と断じた。

 知らないネームタグのやつらをみるに各地の孤児から選りすぐり異能者を集めたのだろう。

 あぁ、全く、クソ。

 

「クソクソクソクソ……くそったれがぁぁぁぁぁ!!!」

 

 資料室の壁に思いっきり拳を打ちつけた。

 この痛みが俺に現実を突きつける。

 

「それでもあなたは進まなきゃいけない」

「あぁ、分かってる。それでも、どうしようもない怒りがあるんだよ、ニコラ」

「うん、わかるよ。ラクスは人のために怒れる優しい人だから」

「ごめーーー」

「謝らないで、それはここに眠る128人に対する侮辱だよ」

「そうだな。今にも気が動転しそうで……ほんと、クソ」

 

 事実、ルミアとの約束と霊体としてのニコラがいなければ俺は殺人容疑で指名手配されてただろう。

 俺はあいつをーーーブラウモンを殺してやりたい。

 この世で考えられる限りの最も無残なやり方で。

 

「ダメだよ、ラクス」

 

 俺の拳を治療しながらニコラは優しく諭してくる。

 

「おまえは、おまえらは優しすぎる」

「ううん、そんなことないよ。自分達の目的のためにラクスを巻き込んだ」

「俺らは家族だ」

「……もうっ、そういうとこ変わらないなぁ」

 

 すでにニコラとは契約を交わした。

 彼女が条件を示す前に俺は返事をした。

 俺ができるのはそれくらいだから。

 体を貸すことでも、なんでもいい。ただ、力になりたかった。ただ、帰ると約束したから命を差し出すことは断ったけどな。

 

「ラクス。あなたの体にこれから宿る私以外の127の魂はあなたを傷つけることは決してない。けど、けどね? 術式の都合上、これからラクスは128の地獄をみることになるんだよ」

「構わない、俺の家族と家族が世話になった奴らの記憶だ。呑気に過ごしていた頃の俺に冷水をぶっかけるつもりで来てくれ」

「身構えないー。卑下しないで、ラクスは何も知らなかっただけ。なにも悪くないんだから」

「……無知は罪だ」

「頑固者」

「お互い様だろ?」

「……加えて卑怯者だ」

「よく言われる」

 

 お互いに笑いあう。

 この瞬間が永劫に続けばいいと思ってしまう。

 だけど、それは無理なんだ。俺よりもあいつらの方が分かってる。

 彼らにとってのラストチャンスなんだ。俺のわがままで潰させるわけにはいかない。

 

 ーーーさぁ、始めよう128の迷える魂達よ。俺の体を存分に使え。

 

 ◆

 

 しかして世界はまだ回る。

 善がなくとも、悪しかなくとも、愛があろうとなかろうと世界は回る。

 127の霊体の魂達は恙無く、ラクスと同化した。

 あとは本人の目覚めを待つのみ。魂は彼らの目的達成まで再び眠りにつくだろう。

 ニコラはうなされるラクスの頬を優しく撫でる。

 

「ごめんごめんねラクス。こんな思いを抱くのは私だけでよかった」

 

 共犯者にしてしまった。

 そして結末もおそらく、彼の望むものではない。

 128の地獄を見せる代わりの対価も相応ではない。

 ラクスの家族の愛を求めた心を利用した。

 ニコラは思う、きっとラクスはこちらの魂胆などお見通しだ。

 正直に利用したことを言えばこう言うだろう。

 

『知ってた』

 

 全くの大馬鹿野郎だ。

 だが、それがニコラが彼に惹かれたところでもある。

 身内には甘いくらいに優しく、その身内の定義も広すぎる。

 しかし、ニコラの体は破滅へとつながっている。

 死神の鎌に捕まった状態を停滞させているだけだ。

 半分死んでいるからこそ霊体として動くことができる。

 それが唯一、ブラウモンに感謝することだろうか。

 そんな死者が生者の生涯を暗闇に縛り付けてはいけない。

 

「きたわね」

 

 研究所内に動きがあった。

 リィエル=レイフォードとその兄がルミア=ティンジェルを抱えてやって来た。

 遅れて、エレノア=シャーレットも到着するだろう。

 さて、どうするか。

 確定事項としてグレン=レーダスの参戦は決定している。

 なにせラクスが慕う講師。おそらく、同様に根は優しい。

 生徒が二人消えれば血眼になるだろう。

 あと、アルベルト=フレイザー。彼はルミアの護衛だ。

 まず間違いない。

 システィーナ=フィーベルはおそらく、参戦不可。

 胆力がまだ足りない。

 

「ラクス、行って来ます。『次世代の英雄達』を導いてあげないとね」

 

 ならば、早々に終わらせてしまおう。

 侵入の手引きから全てをエスコートしてみせよう。

 バークス=ブラウモン以外は全てが邪魔である。

 異能モドキを使うブラウモンと全力戦闘を行うラクスでは周囲の人間は邪魔だ。まとめて吹き飛ばしてしまうだろう。

 これはそういう戦いだ。

 無限の再生を利用して味わわせる無限の地獄だ。

 

 ◆

 

 グレンとアルベルトが屠った合成魔獣は優に10を超えた。

 一つ一つがピーキーな性能を持ち、倒すというよりは時間稼ぎに使われているようだ。

 グレンは歯噛みする。

 リィエルを止められなかったこと、そのせいでルミアも連れ去られたこと。

 そして、昼間から姿を消したラクスのこと。

 なにをやっているのだろうか。

 失態どころの騒ぎじゃない。

 

「グレン、急ぐな。ペースを守れ」

「……悪い」

 

 アルベルトに咎められ、冷静に努めようとするグレン。

 二人はお互いをカバーできる圏内で再び移動を始めた。

 失態ならいいのだ。それはグレン一人で責任を取れば済む話なのだから。

 だが、連れ去られた者や敵になった者、ましてや姿を消した者は帰ってくる保証はどこにもない。

 あるのはぽっかりと空いた空白のみだ。

 急げ、そんな思いはもう二度とごめんだ。

 だから落ち着け、アルベルトと行動し敵を確実に排除していくことが最速なのだ。

 再び、気配がする。

 グレンとアルベルトは同時に身構える。

 

「構えろ、グレン」

「言われなくても」

 

 グレンが前衛に立ち、アルベルトが後衛でグレンを援護する。

 これが現役時代からの最強の布陣。

 どんな敵でもこの布陣ならば大抵は対処可能だ。

 しかし、予想に反して二人の前に出て来たのは金髪の女性だった。未だに身構える二人に女性はその碧眼で見つめ続ける。

 値踏みをしているのだ。グレンとアルベルトという男達を。自らの望みに比肩できるかどうかを。

 

「随分とお早い到着ですね。グレン=レーダス、アルベルト=フレイザー」

「たしか、ニコラ・アヴェーンだったな?」

「知ってるのか?」

「あぁ、ラクスの知り合いで幽霊だ」

「そう、私はニコラ・アヴェーン。ここで行われた実験の被験者よ。話はあと、リィエル、ルミアを助けたいのならついてきなさい」

 

 ニコラは有無を言わさず歩き出した。

 しかし、これは罠である確率のほうが高い。

 初対面であるのに関わらずこちらの情報は完全に掌握されていた。

 

「いくぞ、グレン」

「……はっ、お前はそういうやつだったな」

 

 だからどうしたのであろうか。

 アルベルトはそれが罠であろうとなかろうと進む。

 もし捉えるようなものであれば、踏み潰し進む。

 搦め手、奇策、この男に一切通じず。

 それがアルベルト=フレイザーという男なのだ。

 

 対してニコラは戸惑いなく後を追ってくる二人に相応の評価をつける。

 

 予想よりもずっと速い。

 現役のアルベルトはともかく、グレンは手負いだ。

 とはいえさすがに元宮廷魔道士。持ち前の胆力で限界以上のパフォーマンスを発揮しているのか。

 加えて、罠にでも乗っかってやるという豪気。

 精神、肉体、経験、相性、全てがハイエンドでまとまっている。

 ラクスは魔術を学ぶ場所としてさぞ、恵まれた環境に置かれてるのだろう。

 

「……ふふっ」

 

 思わず溢れる笑みにアルベルトが怪訝な顔をするが、それもこれも全ては『あの部屋』に案内してからだ。

 全ての始まりの場所に。

 遠回りになるが、魔獣との接敵を無くすルートになっている。

 二人は急に止んだ強襲に臆することなく、ぬかりなく戦闘態勢だ。

 そうだ。それでいい。

 その調子であるならばーーー

 

「着いたわ。これがこの研究所の……バークス=ブラウモンの研究成果よ」

「……これほどとはな、下衆が」

「んだよ、これ……」

 

 そしてニコラはアルベルトに研究所の不正の記録をした魔導結晶を投げ渡す。

 

「ここはバークスが世界各地から選りすぐりの異能を持つ者を集め、研究を行っていた場所よ」

「お前もその一人だってのか?」

「そうよ、グレン。そこの培養槽をみてみなさい」

「……どうなってんだ、これ」

 

 培養槽には目の前でにこやかにはにかむ碧眼の女性と瓜二つの女性が入っている。

 わけがわからない状況だが、グレンは過去に似たような経験をしていた。

 

「Project:Revive Lifeか!?」

「へぇ……そこでその名前が出るなんて相当な経験してるのね。でも、残念ハズレよ」

「ならば貴様の存在はなんだ。そもそもなぜ、私達に協力をする?」

 

 なるほど、それは最もな質問だ。

 

「協力する理由は利害の一致。それと私の存在の話だったわね……私は研究所で最も力が強く完成された被験者の残滓。幽霊よ」

「待て、ニコラ・アヴェーン。それでは培養槽に入っている女性の説明がつかん」

「その培養槽にいる私は半分、死にかけてる。死神の鎌に捕まっている状態を無理に長引かせてる。その霊的な状態を少しだけ傾けてやれば、この通りよ」

 

 ニコラは楽しそうにその場で一回転する。

 

「さて、私はあなた方の質問に答えたわ。次はそちらが答える番では?」

「よかろう、なにを聞く」

「あなた達の対処範囲の分界点」

「俺は聞き分けの悪い生徒とそのお目付役を連れ帰る」

「私はある人物の護衛だ」

「エルミアナ王女でしょ。隠さなくてもいいわ」

「……なるほど、確かに人を値踏みするだけのことはあるようだ」

「値踏みだなんて人聞きが悪いわ、アルベルト」

 

 アルベルトはどこまでも食えない女だとニコラに対する警戒レベルをあげる。

 それはグレンも同様で、秘匿されているはずのルミアのことを出されてから明らかに敵意を出していた。

 それもこれも研究所に監禁に近い状態であったニコラが知り得ることではないのだ。

 対して、ニコラはめんどくさいことになってきたなと感じる。若干、やりすぎたのかもしれない。

 いや、かもしれなくじゃない。やりすぎた。

 なにせ、久しぶりのネゴシエーションだ。やり方なんて期待しても無駄だろう。

 

 そこで第三者が部屋に入ってきた。

 

「おい、ニコラ。らしくねぇことしてっからそうなるんだよ」

「ラクス!?」

 

 ラクスだ。

 髪の色が一部抜け落ちて、頬もやつれているが、間違いないラクスだ。

 グレンは思わぬ再会に殴ることを忘れて声を大にした。

 

「おう、ラクス・フォーミュラに相成りまっせ。というか、先生少しうるせぇ」

「お、おう。元気そうでなによりだ」

「これが元気に見えるなら眼科いけよ」

 

 これはいつかの意趣返しか。

 ラクスとグレンは互いに口角をあげて、拳と拳をぶつけた。

 

 ◇

 

 助けてという声が聞こえる。

 痛いという助けを求める声も聞こえる。

 たったいま、命を失った叫びが反響している。

 砕けそうだ。己の自我が少しずつ削れていく。

 このまま消えて無くなってしまった方が楽なんじゃーーー

 

 ダメだ。

 

 それは許容できない。

 約束を反故にするのか。それは最高にダサいぜ。

 

『絶対にーーー』

 

 光が。

 

『絶対にーーー』

 

 光が。

 

『帰ってきてね?』

 

 ーーー光が。ーーー眩い光が。ーーー光輝な光が。

 

『約束をしよう。きっと綺麗な流星を見せてくれるんだよね?』

 

 光が、絢爛な光が周囲を覆うように辺りを照らして。

 ぐっと引き寄せられるように俺の意識が浮上していくのを感じた。

 

「助けられちまったな……ありがとう」

 

 まだ頭の中を悲鳴が反響してるが。

 誰のものか分からない。分からないくらいに多くの怨嗟の声が頭の中で鳴り響いている。

 頭が痛い。痛いけど……

 

「まだ、マシな方か」

 

 慣れてる痛みだった。

 時たまみる未来予知的なものに似た痛みだ。

 だから耐えられる。ガキどもはもっと苦しい思いをしてきたはずだ。

 ……大丈夫だ。まだ、なにも置いてきていない。思い出せる。俺はラクス・フォーミュラだ。

 時間はかかったが、ニコラ以外の127人全員と対話を終えた。

 純粋ゆえに一癖も二癖もある連中だったが、話せば下手に育った大人よりも賢く、優しいやつらだったな。

 ニコラも案外、教育には向いてるのかもしれない。

 ルミアが言っていたかりすまーとかいうやつがニコラにはあるんだろう。にわかには信じがたいが。

 

「そうだ、ニコラっ」

 

 俺は慌ててニコラの姿を探す。

 なんだかんだであいつも結構ヤバい。下手したら俺以上のガタがきてる。

 

「あの、頑張り屋めっ!」

 

 ベッドから飛び降りて部屋を出た。

 すると慣れない演技をしてるニコラとグレン先生、それにアルベルトさんがいた。

 思わず、ニコラにダメ出ししてしまう。全く、不慣れのことはしないべきだ。特にニコラのようなやつは。

 それからグレン先生と再会のゲンコツンコ。心配をかけた詫びも入れた。

 ルミアからのお説教は確定みたいだ。

 

「……ニコラ、大丈夫か?」

「今は大丈夫よ。心配症ね」

「心配くらいさせてくれ、お前の体はもう……」

 

 ニコラの頬に手を当てて正気かどうか確認する。

 それが誤魔化しで隠されているのであろうと長年付き添った俺の目は誤魔化せない。

 ……動揺はなし。正常だな。

 

「あーラクス? 状況を説明してくれるか?」

 

 しびれを切らしたグレン先生が状況の詳細求めてきた。

 

「はぁ。思わせぶりな態度を取るからだ。先生とアルベルトを敵に回して勝てるわけないだろ?」

「だってぇ! 久しぶりに話すのよ!? しかもそれが戦闘に長けた2人とかもうどうしようもないでしょ!」

「ダメです。ニコラ、ギルティ」

「うわわわーーん」

 

「「……」」

 

 アルベルトさんにグレン先生、絶句である。

 大丈夫、俺も最初はそんな感じだった。

 女性の皮が剥がれる瞬間の衝撃はすごい。

 

「見ての通り空回りしやすいタイプの天然娘です」

「ラクス。貴様も大概、大変なんだな」

 

 珍しくアルベルトさんが同情してきた。

 なるほど、ニコラのコレはそういうレベルの案件かよ。

 

「つーわけでこっからは俺が仕切らせて頂きます。異論はありますか、アルベルトさん?」

「ない。この場で最も適している」

「なんでグレン大先生には聞かないんだ?」

「死ねカス」

「……俺、泣いてもいいかな?」

「自業自得だ。普段の行動を見直せ、グレン」

 

 だらけつつも俺たちは作戦会議を始めた。

 と、言っても先生達のやることは完璧に把握してるので俺とニコラは自分達の希望を伝えて獲物をいただくだけだ。

 

 バークス=ブラウモンは俺とニコラ。

 リィエルの対処とルミアの救出はグレン先生。

 エレノアの相手はアルベルトさんだ。

 おそらくこのまま奥に進んだ部屋に全員で固まっているのでアルベルトさんとエレノアは速攻で外に行ってもらう。

 ぶっちゃけ、エレノアは引き際の判断力がバケモノじみているのですぐに撤退するだろう。

 アルベルトさんとタイマンとかなんつー悪夢だと。

 問題はリィエルだ。

 あいつもあいつで闇を抱えてるからグレン先生の舌先で転がせるかが大きな争点。

 自称兄はカスなので論外。

 ルミアを俺が救出してもいいんだが、ブラウモンもバケモノになれるらしいので厳しい。

 グレン先生がどれだけ速くカタつけられるかだな。

 

『いやいやいやいあ嫌嫌ーーー』

『ししし死死ね死ね死死ーーー』

『痛いよう痛い痛痛い痛ーーー』

 

「あぐぅ!?」

「ラクス!?」

 

 思わず寄りかかった棚を転がながら膝をつく。

 声が急に強くなるのはさすがに耐えられないか。

 介抱するニコルに礼を言って、目で説明しろと言うグレン先生に渋々、説明した。

 俺とニコラと127の魂達の話を。

 

「にわかには信じ難いな……」

「あぁ、全くだ。一つの器に127もの魂をぶち込むなんてありえねぇ。正確にはわからないが、普通は10人くらいを入れたあたりで爆発するんじゃねぇか?」

「それは俺が特異体質であることと異能でどうにかしました」

「ラクスが特異体質? 異能と関係が?」

 

 ニコラによれば俺は普通の人間の9倍くらい魂を入れる容量があるらしい。第2の異能かもと言われたが、俺の転生は魂を起点にしたものなのだろう。

 タマシイイズメイドインゴッドなのでそれくらいは納得。

 使った異能は『容量軽減』。なんでも重さとか密度を任意で弄れてしまうらしい。

 魂の記憶と人格を保ったままに軽減してぶち込んだ俺はハイパーラクスさん。つまり、今の俺は最強無敵フォームって訳だ。

 ぶっちゃけ、これならアルベルトさんとグレン先生を敵に回しても完封できる。

 これはそういう術なのだ。虐げられてきた者たちが編み出した必殺の刃だ。そう脆いはずも鈍いはずもない。

 

「それじゃ、行きますかお三方」

 

 全員が言葉なく頷く。

 俺は頭の中で暴れ続ける声を無視して部屋を出た。

 

 ◆

 

 グレンが地下研究所の最奥。その扉を乱暴に蹴りあけた。

 大きな広場にいるのは服を破かれ、最低限の衣服が残され拘束されたルミアとリィエルに青髪の青年。

 そして驚いた顔をするエレノアが呟いた。

 

「予想より大分速いですわね」

「はんっ、なにせこっちには施設を知り尽くしてるチーターがいるんでね。ルミア、今すぐに助けてやる待ってろ」

「先生!」

 

 しかし、グレンが動くよりも速くにバークスは動いた。

 

「動くな、聡明なる魔術講師殿。下手に動けば軍用魔術が生徒の体を貫くぞ」

「てめぇ……くそ外道が」

 

 バークスはルミアに向かって指を向けた。

 この距離では《愚者の世界》も効果範囲内にない。

 頼みの綱であるアルベルトにグレンは何か策を促すが、首を振る。機が熟すのを待つしかないということか。

 

電気操作(ニコラ)、お前の存在はイレギュラーだ。なぜ、霊体として動いている?」

「その説明は三度目よ。めんどくさいからパスで。三下でも研究者なんだから自分で考えなさいな」

「三下? ……貴様、誰が面倒を見てやったか覚えてないようだな」

「あれは資金援助であって面倒を見たとは言えないわ。馬鹿なの?」

 

 明らかに不機嫌になるバークス。

 当然のように底が知れた。

 典型的な自信家だ。自らの価値を絶対と信じて侮辱する者は排除する。

 グレンはニコラの煽りには見習うところがあると感じた。

 

「どいつも……こいつもーーー」

「おい、おっさん」

「喧しいわ! 人が喋ってる時に横槍を入れるな劣等!」

 

 ここで口を閉ざしていたラクスが動いた。

 真っ先に動きそうなラクスだが、事態の重さを見る目だけは一流だ。

 

「あんたの頭に芝刈り機をかけた話はどーでもいいんだ」

「しとらんわ、そんな話!」

 

 しかし、ラクスもニコラも煽りすぎた。

 バークスの指先に魔術が集う。

 グレンとアルベルトが動くがもう遅い。

 

「ルミア、前と同じだ」

「……分かった。信じるよ」

「……ありがとう」

「《雷槍よ》!」

 

 ルミアは目を閉じた。

 グレンとアルベルトは術を発動する前にバークスを倒そうとしたが間に合わなかった。

 魔術は放たれた。

 エレノアは人質を殺してどうするんだと呆れるが、ラクスの動きを見て、カウンター魔術を止める。

 ラクスは放たれた雷槍を見てから一歩踏み出し、姿を消した。

 雷槍はルミアを真っ直ぐ目指してーーー

 直撃寸前で何かにぶつかり煙が充満する。

 

「わっはははは!」

 

 リィエルとグレンは悲鳴をあげそうになるがおかしいことに気づく。

 【ライトニング・ピアス】は貫く魔術であり、間違っても直撃時に煙を巻き上げるものじゃない。

 煙が晴れると同時、二つの人影が姿をあらわす。

 ルミアの前に手を翳しながら佇むラクス。

 

「遅くなった。すまん、ルミア……けど、今回は間に合った」

「ううん、怪我はない?」

「……ったく、怪我してるのはルミアの方じゃないか」

 

 高出力の魔術に部品として使われたルミアの体はボロボロだった。

 ラクスは手を振るだけでルミアの拘束を全て外してお姫様抱っこ。呪文を紡ぐと緑色の光がルミアを癒し始めた。

 

「この格好はさすがに恥ずかしいよ……」

「怪我人がなにを言ってるんだよ」

 

 あわわと顔を手で隠すルミアを見てラクスは微笑み、グレンの隣に一瞬で移動する。

 アルベルトはその能力をすぐに看破した。

 

「【瞬間移動】か。信じられん」

 

 アルベルトの言葉にラクスは答えながらルミアを降ろした。

 

「でも現実ですよ。くそったれなこれが。グレン先生、ルミアを頼みます」

「それは、かまわないけどなぁ……」

 

 降ろされたルミアは我慢ならないといった感じだ。

 どうしようかとラクスは途方にくれるが、助け船はニコラが出した。

 

「はいはい、ルミアちゃんはグレンくんについて行きなさい」

「……私だって戦えます!」

「その覚悟は結構。でもね、ラクスは今日限定で私がダンスの相手として予約を入れたの。割り込みは横暴じゃなくて? ひょっとしてルミアちゃんがなりたいのは不粋な女性?」

「おい、ニコラ」

「あら、ごめんなさい。でもね、ルミアちゃん。これから私とラクスが向かう場所にあなたの場所はない。邪魔なのよ、はっきり言って」

 

 ラクスの制止を無視してニコラは続けた。

 

「ニコラ!!」

 

 ラクスが大きな声を出したことでようやくニコラは口を噤んだ。

 しかし、戦場で喋り合う時間はない。

 バークスと青髪の青年が【ライトニング・ピアス】を放つ。

 

「ちっ、お喋りは後にしろ。ラクス・フォーミュラ!」

 

 片方をアルベルトが防ぎ、もう片方をラクスが弾く。

 エレノアも攻撃が止むと同時に動こうとするが、ここで一つ目の作戦が始まった。

 

「飛ばせ、ラクス!」

「これはっ!?」

 

 アルベルトの合図と同時にラクスが右拳を左手の上に置くと、アルベルトとエレノアは研究所から遠くに吹き飛ばされた。

 突如に発生した竜巻が人を運ぶのはあり得ない。

 つまりは人為的な竜巻。

 ラクスは動作一つでそれをやってのけたのだ。

 

「ラクス君……その力」

「ルミア、グレン先生についていけ。今の俺の近くにいると巻き込んじゃうから」

「ラクス君はまだ待っていろと言うの!?」

「あぁ……そうだ」

「ひどいよ……そんなの。待つのがどれだけ寂しいか、怖いのか。ラクス君はなにも分かってない!」

 

 ラクスはいつの間にか出てきた魔獣の息吹からグレンとルミアを庇いながら答える。

 

「それでも俺はルミアが帰ってこれる場所になってくれているから闘える。膝をついてもまた立ち上がれる。泣いても、諦めないことができる」

「……そんなの答えになってないよ」

 

 ルミアは知っている。ラクスの限界を。

 この闘争が終われば、ラクスが命の恐怖と耐えれるのは残り一回になることを。

 その数字がどれだけ具体的かはわからない。

 しかし、それが限度であると口にした以上、ここでルミアが引き下がらなければその数字はどうなるのか。

 帰ってくる場所をなくしたラクスはどうなるんのだろうか。

 

「ずるいよ、ラクス君」

「ごめん、ルミア」

「……信じるのも疲れるんだからね?」

「知ってるさ。だからいつもルミアが眩しく見える」

「本当にずるい人……好きになる相手、間違えたかなぁ」

「ん、なんだって? 獣が煩くてよく聞こえん!」

「ばーか、ばーか!」

「なっ、急にガキか!?」

「ふーんだ」

 

 そっぽをむいたルミアにラクスは戸惑う。

 怒っている。完全に。

 しかし、ルミアには悪いが、今はそれどころじゃないのだ。

 リィエルと青髪の青年が広場から脱出しようとしている。

 グレンはそれを追おうとして躊躇っているのだ。

 

「ルミア! 話は後でいくらでも聞く、説教も正座しながら……望むなら逆立ちしながらでも聞くから! 今はグレン先生についていけ!」

「分かってるよ。ラクス君がその目をした時は何を言っても聞かないこと……だから、今回だけは大人しく待ってる。でも、次はあなたの隣で戦うから」

「……ははっ、それは心強いな」

「今回もちゃんと帰ってきてくれるよね」

「約束する。天地がひっくり返っても帰ってくる」

 

 魔獣達の息吹は更に勢いを増す。

 そろそろ防ぎきるのも限界だ。

 ラクスは空から火炎と竜巻を巻き起こして一掃。

 グレンとルミアの進路を作る。

 

「いけっ!」

「死ぬなよ、ラクス!」

「言われるまでもないですよっと!」

 

 グレンに手を引かれルミアはラクスの側を離れた。

 去り際にルミアの唇が動いたのを見逃さなかった。

 

「ふふっ、愛される男は辛いわねぇ?」

「人ごとだからって面白そうに……でも、そうだな。帰った後を想像するのは悪くない」

「駄犬共がぁぁぁっ!!!」

 

 ラクスは散らばる獣を一掃して、ニコラの隣で構える。

 吠えるバークス相手に露骨に眉を潜めるラクスとニコラ。

 しかし、バークスは急に冷静さを取り戻して首筋に注射を打った。

 

「なにをしたか分かるか? 貴様ら、戦争屋に?」

「しらん、興味もない」

「小物が上から目線でモノを語ると面白いわよね。滑稽で」

「どこまで人を馬鹿にすれば気が済むのだぁぁぁ!!」

 

「「こっちの台詞だぁっぁぁぁぁあああ!!!」」

 

 ラクスとニコラの怒りの雷撃が重なりバークスの腕を弾き飛ばす。

 だが、注射の影響か体が大きく変容し至るところの筋肉が隆起したバークスが涼しい顔のままで腕を炎と共に再生させた。

 

「私はな生命の神秘を解き明かすためーーー」

「カスが、外道が神秘を語るな。格が落ちるだろうが」

「知ってるわよ、異能力者達の能力を中途半端に抽出したって」

「ちゅ、中途半端だとぉ!? 言うに事欠いて私の研究を中途半端だとぉ!?」

「繰り返すな。出し物にしては上々だ」

「そうね。出し物にしては上々ね。滑稽で」

 

 ラクスとニコラは不敵に笑いながら、バークスを拳打で吹き飛ばした。

 見事な連携だ。

 ラクスは内心でニコラの才能に驚かされていた。

 こいつはこういうことも出来たのか、と。

 

「あれぇ、もしかしてその程度で第三団(ヘブンズ)天位(オーダー)》に行けるとか思ってる? なら、ラクスは神様にでもなっちゃうわよ?」

「なに!? 戦争犬が私の才能を超えるなどありえるはずがない。取り消せぇっ、生ゴミどもめ!」

 

 ラクスは未だによく回る舌にイラつく。

 短く舌打ちをして『瞬間移動』でバークスの後ろに転移。『火炎操作』で炎を纏ったパンチをバークスの振りまきざまにお見舞いして、吹き飛ばす前に首元を掴んだ。

 

「き、貴様。それは私の研究……」

「人聞きが悪いな。お前みたいに無理やり奪ったんじゃねぇよ」

 

 ラクスは『水分操作』と『火炎操作』で水蒸気爆発を起こして距離をとった。

 バークスは爛れた皮膚をすぐさま回復させていくが、その目には焦燥が浮き出ていた。

 

「ぜぇはぁ……ぜぇ……16番、67番、89番、108番……戦争犬め、なにをしたか知らんが、異能を全て扱えるとでも言うのか……」

「言うさ。これはお前を裁定するために研がれた刃だ。なまくらと思ってるとスパッといくぜ」

「調子に乗るなよ……ゴミがぁ!」

 

 バークスは更に注射を打ち、怪物のような姿に成り果てた。

 ニコラは思わず顔を歪めるが、それも一瞬。

 すぐに雷撃をかまして挑発をする。

 

「あら、前より男前じゃない?」

「ニコラぁぁぁぁぁああああ!!!」

 

 バークスはニコラに向かって様々な元素を持つ魔力球を投げつけた。

 ニコラはある程度は迎撃出来たものの床に当たった魔力球の余波を受けて吹き飛んだ。

 

「きゃぁ!?」

「ニコラ!」

 

 ラクスはすかさずニコラのフォローに入り、『回復円陣』を組んだ。

 緑色の淡い光が二人を包む。

 攻撃を仕掛けないバークスは余裕のつもりなのだろう。

 なにせ、先ほどまでは手も足も出ずに煽られ続けたのだから。

 

「これこそが真の研究というものだ、幼稚なガキどもめ! ふははは、私って凄い!」

 

 ラクスはそんな言葉に反応せずに治療を続ける。

 

「ラクス、アレは……」

「大丈夫だ。もう、()()()

「……そう、なのね」

 

 ニコラはラクスの未来予知のことを知っている。

 ラクスは知らないが、記憶を共有したのだ。

 本人が忘れた些細な記憶や飛んだ記憶もくまなく全てだ。

 

「まずは血を抜こう。その頃にはガキ共もいい塩梅に憂さ晴らしできてるだろうさ」

 

 『回復円陣』を発動させたままバークスに向き合うラクスの目は青色に淡く輝いていた。

 

 


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