ロクでなし魔術講師と超電磁砲   作:RAILGUN

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RAIL 3

 そんなこんなで『遠征学修』の日がやってきた。

 こんな朝から馬車を使って出発だというのに到着は次の日の正午ときた。目安なんだから更に萎える。

 馬車のゴトンゴトンという不定期な揺れの所為で、極限まで眠くならないと俺は眠ることができないことに気づいて、無事死亡のお知らせ。

 カードゲームやる奴とかいないし、雑談とかは以ての外だ。勉強とかしたくないし。

 研究? コツコツやってますよ。えぇ、卒業するときにグレン先生が腰抜かすくらいにビッグなやつ、やってやりますよ。

 

「足が痺れたぁ」

 

 なんてことはない。リィエルが俺の膝を勝手に使いやがってくれてるからだ。

 一応は女子と男子で別の荷車なのだが、リィエルにこの程度の距離じゃないものと同じ。

 俺の膝で寝るのは信頼の証として大目に見るか。

 俺は激しく暇なのでレーダーを使って、クラスメイトに集ろうとしている虫達を電磁波で片っ端から妨害して遊んでる。そろそろマナが厳しいので止めておくが、とうとう手持ち無沙汰の状況が訪れてしまった。

 ガタンゴトン。

 ケツが跳ねて頭が荷台に衝突する。

 しかし、誰一人として起きる者はいない。

 こいつら、図太すぎねぇかぁ!?

 

「お前、寝方が下手すぎねぇか?」

「お、グレン先生も俺と同じクチですか?」

「んなわけあるか。目が冴えちまったんだよ」

 

 グレン先生が指でこっちこいと合図してきたのでリィエルを離そうとして……離れない。

 服を掴む力が強すぎませんかぁ!?

 仕方がないので、リィエルをそのままお姫様抱っこしてグレン先生の隣に腰を下ろす。さすがは教員席、ちょっとだけ広い。

 ガタンゴトン。

 馬車が揺れて、また頭をうった。

 

「体に力を入れすぎだ」

 

 そういうグレン先生は頭をうった様子はなく、ケロッとしている。

 ていこくしきカクトージュツは馬車の乗り方までマスターできるのか。

 俺はグレン先生に寝方を教わり、安眠の術を手に入れた。さ、寝るか。

 

「ちょっと待て、ラクス。この前の話だ」

 

 軍とどういう関係なのかってことか。

 

「……個人的に誰かに聞かれるのは嫌かなーって」

「安心しろ、そのカーテンには【エア・スクリーン】が永続付与されてる。防音対策はバッチリだ」

「逃げ場なしか」

 

 別に隠すということもないのだけどもね。

 変に反感を買って居場所をなくすのはバカみたいだし。

 これから話すことは人に恨まれるぐらいの幸運にたまたま恵まれただけの話なのだから。

 

「端的に言うと、軍用魔術を作ったんです」

「……悪りぃな、ラクス。耳が悪くなったみたいだ」

「軍用魔術を作ったんですよ。たまたま」

「軍用魔術をたまたま作るとかセリカ並みの大天才かよ。経緯を聞いてもいいか?」

 

 ってもなー。

 電気の魔術を研究してて、パッと思いついた魔術式を書いていたら今ほどじゃない未来予知っていうか第六感が働いて、完成した。超、幸運だった。

 適当に引いた設計図が市販品になっちまったんだから。

 白魔【アクティブ・レーダー】。

 俺が異能でよく使うものを魔術にしたもの。

 普段使う異能では大変便利だが、魔術では魔力消費が多く、使用者の脳に負担をかける。

 一見すると、軍用魔術に採用されるとは思えないが軍とは集団で動くもの。

 隊の中で一人使えるやつがいれば、その部隊は壁の向こうを見通せる。

 座標を指定しないといけない【アキュレイト・スコープ】と違い、全範囲をカバーできるので罠や隠し扉などは全てお見通し。

 これがアルベルトさんが言ってた突入時の死亡率の話だ。

 グレン先生には未来予知の話をぼかして伝える。

 

「俺が知らない軍用魔術ねぇ……だいたい、一年前とかの話か?」

「そうっすよ。別に誤魔化さなくても先生が元特務分室ってくらい分かってますよ?」

「やっぱりか……俺が怖いか?」

「うわっ、過去に汚れ仕事してたから俺には陽が当たらないところがお似合いだわーとか思ってます?」

「お前はそういうやつだったわ」

 

 んー、こういうのはシスティとかの仕事だろうにさ。

 

「……先生はもう俺たちII組の担任じゃないっすか。大昔にやったことなんて少なくとも俺は興味がないですね」

「……」

 

 グレン先生は表情を変えずに俺の言葉を待つ。

 

「俺は先生に感謝してるんですよ。グレン先生がいなきゃ、馬車にいる何人かはいなくなってた」

「たまたまだろ、それこそ」

「たまたまだろうが、なんだろうが、俺たちを助けてくれたのも導いてくれてるのも他の誰でもなくグレン先生なんですよ。もう少し自信を持ってくださいよ、らしくない。II組はとっくに先生が居るべき場所なんですよ」

 

 俺が言い終わると同時にグレン先生は、驚くような顔をした後に大笑いし始めた。

 防音対策が万全だからって遠慮がないぜ。

 だからこそ、だ。

 先生がいつものように捻くれモードに入ったことが分かる。

 

「なにを当たり前のこと言ってんだよ。II組は俺の寝床だぞ? 学院は楽に授業できるし、サボれるし、授業内容も勝手に替えてオーケー。たまに旅行と称して水着の可愛い子ちゃんを合法で見れるオマケ付きときた。頼まれても辞めてやらないね」

「……やべぇ、魔術講師最高か!?」

「だろっ?」

 

 先生にうまく乗って捻くれに乗ってやろうかと思ったが、ちょっと羨ましすぎて本音が出た。

 魔術講師、楽そうで悪くない。

 もっとも俺にグレン先生並みの講義ができるとは思っていないんで、楽ではないだろう。

 授業の準備とか大変そう。

 

「な、先生」

「なんだ?」

「これからもご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

「……なんだぁ? 白猫みたいなこと言いやがって。海に入る日に雨になったらどうしてくれんだ?」

「てるてる坊主でもぶら下げといてください」

 

 俺はそう言って教員席を立った。

 リィエルを抱えてカーテンを閉めようとした時に先生がありがとうとか言ってたが、聞かないフリをした。

 先生もきっとその方がいいだろう。ツンデレだし。

 俺にも先生にもその方がいいのだ。

 俺と先生はこういう関係が一番しっくりくる。

 悪友、みたいで。

 

 ◇

 

 そしてやってきたぜ、サイネリア島。

 港でアルベルトさんっぽい人を見かけたがきっと見間違いだし、リィエルが船酔いするグレン先生を見て船を沈めようとしたとかはカット。

 ただ、グレン先生の船酔いを【グラビティ・コントロール】で緩和したら神を見る目で見られた。とても気持ち悪くなった。

 俺はその魔術を教えてと頼みこんできた先生に軽く講義をした。人間の三半規管を誤魔化すーとかそこらへんのだ。

 いつのまにかクラスの皆が集まってたのでそれっぽい感じになってしまったが、内容はガバガバだ。

 

「例えここが三ヶ国の紛争境界だとしても俺はここを選んださ」

 

「「「先生!!」」」

 

「このクラス、先生が来てからおかしくない!?」

 

 船着場でなにやってんだ。

 うちのクラスの男子はアホしかおらんのか。システィに激しく同感だ。

 

「いや、あんたもその一味でしょうが。なに、俺は関係ないなって顔してんのよ」

「まじで!? 俺ってそんな目で見られてたの!?」

 

「「「え???」」」

 

「女性陣、それはさすがに傷つくよぉ」

 

 こいつ気づいてなかったのかみたいな目で見るんじゃねぇ!

 泣くぞ、本当に泣いちゃうからな!

 

「あはは……よしよし」

「……天使」

 

「「「ちっ」」」

 

 頭を撫でてくれるルミアは慈愛の女神。

 ふはは、そこで羨ましそうにしてるカッシュ君。この感触は至高だぞ。

 俺っ、もう帰っていいですか!

 

 そんなこんなで遊びながら俺たちは旅籠へと到着した。

 観光客向けの街だけあって活気があるなぁ。

 内装も無駄に豪華だ。ワルトリなんちゃらとサーサン朝とか言ってたな。

 まぁ、俺は寝られればーーー

 

「ヤベェ、なんだこれベッドふかふかじゃねぇか!」

 

 3秒で寝られる。

 うおっ、沈み込む。なんだこれ、サイネリア島独自の魔術が発達してるのか!

 

「おい、ラクス。はしゃぐのはいいが、夜は勘弁してくれよ」

「……質問いいですか?」

「……部屋が一緒の理由は聞くな。今は観光シーズンでちょっと手続きが遅れたんだ」

「じゃ、質問ないでーす」

 

 まさかのグレン先生と部屋が一緒。

 なるほど、先生のものぐさで俺にしわ寄せが来たか。

 いや、まぁ、知らない仲じゃないし構わないんだけどね。

 

「なぁ、先生」

「あいつらが女子部屋に潜入しようとしてることか?」

「うわっ、カッシュどんまい」

「意外だな。ルミアんとこに行きたいとか思わないのか」

「思うに決まってんだろ、ブレンバスター決めんぞ!?」

「相変わらず、ルミアのことになると沸点ひくいな!?」

「沸点2℃です」

「寒い地域じゃないと冷静保てないの、お前!?」

 

 失礼な。比喩表現ですよ。

 そんなヤク中みたいに言わないでください。

 

「はぁ、とにかく見回り行ってくるから。大人しくしてろよ。クラスの男連中に加えてお前を沈めんのは無理だし」

「え、それってフリですか?」

「ちげぇよ、バカ」

 

 頭をコツンと優しく叩かれ、グレン先生は部屋を出た。

 なるほど……作戦開始。

 

 窓を開けて身体強化をして木々を飛び移る。

 目的はルミアんとこに行くのが2割くらいで、8割はグレン先生の目をどれだけ欺けるかの挑戦。

 比率は逆じゃない。本当だ。

 裏からはカッシュ達が行くそうで、すでに戦闘音が聞こえる。表からもカッシュ離反組が突入してたみたいだが、グレン先生謹製の罠でジ・エンド。

 やっぱね。建物には鉄骨を使うと強度が上がると考えた奴は天才だと思うんですよ。

 俺は外壁に足の裏を吸着させるように【磁気操作】を使う。

 おぉー、初めてやるがスイスイくっつくな。

 

「つーわけで、よっ、ルミア、システィ、リィエル!」

「よっ、じゃないわよ! 女子寮は男子禁制よ!」

「ラクスなら来ると思ってた」

「グレン先生に怒られちゃうよ?」

 

 ベランダの上からこんばんは。

 シュタッと手を上げて挨拶するが、システィには不評だったみたいだ。

 下で先生とカッシュ達がどんぱちしてる。

 

「グレン、楽しそう」

「だな。無駄のない動きで無駄なことしてるな」

「本当、こういうときだけは本気なんだから」

「あはは、先生らしいね」

 

 システィはリィエルに暴れちゃダメだと言おうするが、俺が目でそれを制した。

 大丈夫だろうさ。リィエルは天然かもしれないが勘は鋭い。カッシュ達が遊びでやってることは直感で分かるはずだ。

 グレン先生に敵意を抱かなければリィエルは襲わない。

 

「あんな楽しそうなグレン、初めて見た」

「そうか? 学校じゃだいたいあんな感じだぞ。大っきい子供だな」

「それに付き合うアンタも十分に子供じゃない」

「システィ、そこは言わないであげるのが華だよ?」

「ルミアさん、棘がきつくない!?」

 

 俺とシスティとルミアはいつもの流れに笑うが、リィエルはそうじゃない。

 グレン先生の昔を思い出してるみたいだ。

 私が側にとか、守るとか呟いてた。

 システィがなにか良くないモノを感じたようだが、大丈夫だ。その時のための現地補佐(ストッパー)が俺なのだから。

 さ、俺は帰るか。グレン先生もボロボロになりながら全員、打倒したみたいだし。すげぇな。

 俺は3人に別れを言って部屋に戻った。

 帰って来たグレン先生の湿布貼りとか介抱するのはとても面倒くさかった。

 

 そして旅籠の裏で行われたどんぱちの次の日。

 海だ。水着だ。美少女だぁ!!!

 悪りぃな、皆。バカとか言って。

 この光景楽しめるなら俺は一生バカでいい!!

 ふへへへ、お嬢さん方、写真いいですか?

 

「おーい、ギイブルさんよ。制服暑くないのー?」

「ふんっ、パーカーを着てる君に言われたくないさ」

「勉強とかだるくなーい?」

「鬱陶しいな!? 暇ならビーチバレーでもしに行けばいいだろう?」

「てめぇ、あのバインバインの中でバレーなんざできるわけねぇだろ!? 側から見てた方が楽でじっくり見れるしな!」

「世の為に今のうちに憲兵を呼んだ方がいいか」

「ストーップ! 冗談です!」

 

 ギイブルさん冗談きついなー。

 すると先生がこっちにやってきた。

 

「お前ら、遊ばないのか?」

「当たり前でしょう。僕らは遊びに来たわけじゃなんですから」

「体動かすの怠いでーす。元気に遊ぶみんなは若いなー」

「一年前の俺を見てるようで既視感を覚えるな」

 

 クソニートってことか、さすがは俺。

 グレン先生のお墨付きだからな。老後のシミュレーションは完璧だったか。

 しばらくしてシスティとリィエルと天使がやってきた。

 

 天使だ。

 俺は思わず顔をそらす。愛という名の鼻血が出そうだった。ふっ、危ない危ない。

 なんかビーチバレーの人が足りないみたいだな。グレン先生が昨日ので体が痛いとか言ってるが、審判だけでも、と天使が頼んでる。

 

「白猫、お前もなかなかいいセンスしてんじゃねーか。気に入ったわ」

「う、うるさいわねぇ。別に貴方にみせるわけで買ったわけじゃないからっ!」

 

 グレン先生はビーチバレー参加決定で、お題は水着のことに。

 ぶっちゃけ、それどころじゃない。

 

「ラクス君、どうかな? グレン先生は眼福だっていってくれたんだけど」

「はいっ、この日限りで光を失ってもいいかなって思いました! つか、美しすぎて目が潰れそうです!」

 

 Dynamite!!

 最大級のワガママボディ。

 後光がっ……後光がさしてますっ。

 

「そ、そこまで言われると恥ずかしいけど……ちゃんと選んだ甲斐があったかな」

「恐縮です!」

 

 俺ができるだけルミアの顔に視線を合わせてるとリィエルが沈んだ様子でやってきた。

 つか学院指定のスク水とかマニアックすぎんよ。

 

「どうした、リィエル?」

「……別に」

 

 するとルミアが耳打ちでグレン先生との会話を教えてくれた。

 なるほど、グレン先生。あなたのような人でも分からない美があるのですね。

 

「リィエル、その水着とても良く似合っている」

「……ありがとう」

「ふむぅ」

 

 グレン先生から褒められなかったのをかなり引きずっているようだ。

 仕方がない。ここは俺の本気見せますか。

 

「一見して学院指定の水着は貧相に見えるが、そんなことはない。逆だと俺は提唱しよう。学院指定水着、略してスク水は素材の性質上、体のラインがくっきりと出てしまう。はっきりと断言しようリィエルは素晴らしい。じつにマーベラスだ。主食がいちごタルトとは思えない腰のブリッジアーチ。健康的な白い柔肌に食い込む生地がーーー」

「ラクス君、夏みたいな陽気にやられちゃった?」

「いいや、俺はいたって正気なんーーー」

「ラクス君?」

 

 俺はルミアの凍えるような声で正気取り戻した。

 パーカー着てるのに寒いなぁ!?

 しかし、リィエルは機嫌を少しだけ直したみたいだ。

 わずかだが感情が揺れたように見える。あとは、保母さんスキルEXのルミア大先生に任せよう。

 俺は木陰の下でゆっくりと寝るか。

 

 ……。

 

「かかってこいや! グレン=レーダス先生よぉ! 【ショック・ボルト】でも【ライトニング・ピアス】でも構わないぜ!」

「言ったな、ラクス」

 

 グレン先生がポケットから出すのは愚者のアルカナ。

 

「ちょ、タロットカードはセコイって」

「冗談だ。生徒相手に本気にゃあ、ならねーよ。まぁ、先生だしぃ? 勝てて当然と言いますか?」

「なんて、大人気ないの」

 

 システィが全力で呆れる中で最終特別マッチ。

 グレン先生&システィ&リィエルVS俺&ルミア&テレサ。

 完全に負ける。

 しかし、俺と先生は一つだけルールを追加した。

 魔術はなんでもあり。

 本当、なんで乗り気なんだ俺……っ!!

 

「ラクス君のちょっと格好いいところ見てみたい!」

「任せろ!!」

 

 あっ、そうだ。ルミアにはめられたんだ。

 

「テレサ、レシーブは全部任せるがまだ行けるか?」

「はいっ、勝ちにいきましょう」

「ルミア、いつでも【ショック・ボルト】の準備を」

「任せて! この勝負、勝とうね」

 

 気概は十二分。

 残り2得点で勝ちの俺たちに対して向こうはあと1点。

 デュースもなんども続いた。長引きすぎた為にこれで最後のデュース。

 圧倒的不利だ。

 だが、俺たちは勝つ!

 

「遠泳はやだ。遠泳はやだ。遠泳はやだ」

 

 これが俺が本気の理由で。

 

「これ以上疲れたくない。筋肉痛で遠泳とか帰ってこれない」

 

 これがグレン先生が本気の理由。

 

 罰ゲーム:負けたチームの代表は遠泳を1km往復。

 誰がこんな悪魔的な罰ゲームを考えたのだろうか。

 それはさっぱり謎だが、いつの間にかこうなっていた。

 

 考えごとをしてる場合じゃない。

 テレサがサーブを決めた。

 なんなく受け止めるシスティ。

 

「なにぃ!?」

 

 ボレーを上げたのはグレン先生!

 試合をとって、勝負を捨てたか!

 

「来るぞ、殺人スパイクだっ!」

「……ルミア、ごめん」

「《大気の壁よ・誘導する道を成して・届けたまえ》」

 

 リィエルが殺人スパイクを決めて、システィの改変魔術がコートの中央にしか刺さらないはずのボールをピンポイントでルミアに誘導する。

 くっ、うまい。これじゃテレサのサイコキネシスもルミアを巻き込んでしまうから発動できない。

 卑怯なり、グレン=レーダス。

 リィエルもシスティもルミアに申し訳なさMAXじゃないか!

 ルミアは殺人スパイクに持ち前の胆力で腰を引くことなく構えるが、運動神経はいい方じゃない。

 そのコースじゃ、受け止めれないぞ!?

 

「……あっ!」

 

「「「おおう!!」」」

 

 跳ねた。

 ルミアは殺人スパイクを跳ね返した。

 ただし、腕ではない。胸でだ。

 バインって跳ねたぞ。

 バインって。

 それは白魔だわ。さすが、ルミアは白魔が得意だったもんね!

 

「ラクスさん!」

「……お、おうっ!」

 

 テレサの呼び声で正気に戻る。

 そうだ。ここからが俺の番だ。

 ルミアは受け止め、テレサは上げた。

 ならば俺は相手のコートに叩き込むだけ。

 

「《駆け抜けろ・紫電の流星よ・遍く障害の全てを・無に返せ・その威光を以ってーーー」

「おまっ、そりゃ、ヤバいやつ!」

「ーーービーチに君臨せよ》!」

 

 黒魔改【超弾性砲(バレーキャノン)】。

 本当にお遊びですっ。ありがとうございました。

 

「いやぁぁっぁぁあああああ!!!」

 

 リィエルが高速錬成した十字剣で跳ね上げようとするが、甘いわ。

 いちごタルトのように甘いぞ。

 十字剣を一瞬の均衡でバレーボールが競り勝ち、コートへと突き刺さる。

 当然、バレーボールは破裂。再使用不可。

 

「ラクスチーム、備品損傷のため反則負け!」

 

 達成感の余韻に浸る中で審判のカッシュが容赦のない宣告をしてきた。

 

「うそぉ」

 

 俺は泣きながら設置されたブイまで身体強化全開で遠泳した。途中で着ていたパーカーが重すぎて脱ごうかと思ったが、下手に捨てるわけにはいかないだろう。

 もう、海はいいや。イベントは側で見ているのが一番楽しいと分かった一日だった。


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