プロサバイバーぐだ子の人理修復(仮)   作:くりむぞー

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急にシリアス。でも多分すぐに元に戻ります。


血塗れのバトンを背負って

 ――ちょっとした昔話をしようと思う。

 

 かつて私には、かけがえのない親友であり幼馴染であった少女が居た。

 名前はそう……成美(ナルミ)といった。海外の生まれなのか日本では珍しい銀色の髪を持っていたと記憶している。

 彼女とは小学生からの付き合いであり、出会った頃は無口で何を考えているのかわからない不思議な子だという印象を抱いていた。

 加えて好奇心は強く、気になったものがあれば単独で動くことも躊躇わない図太い根性をしており、いつか行った遠足ではこちらがエライ目に遭っていたというのに、平然とした面持ちで何事もなかったように班の中に戻ってきていた。

 

 当然、その頃はかなり短気だった私はキレて俗に言うキャットファイト状態に陥ったのだが、成美の奴がやたらと強くて気が付いたら互いに鳩尾へエルボーをキメていた。――途中、軍人がやるような格闘戦を仕掛けられた気もするが必死になってたらなんかまともに喰らわずに済んでいた。

 ……で、その翌日。険悪なムードで学校にて出くわすかと思いきや、あやつめ無言で私にハグを行い教室内を一瞬にして凍りつかせやがった。ホント、周りに何度冷やかされたことか。

 それからというも自然に手は繋いでくるわ、私の家に遊びに来るわ、一緒にお弁当を食べようとしてくるわで大変だったわけだけれど慣れてくれば案外大丈夫なもので、成美の知らない一面を垣間見ることが出来るようになっていた。……あいつは、自身に対等な相手がただ欲しかっただけだったのだ。

 

 中学に上がり、同じセーラー服に身を通すことになった頃には、家族同然の仲になって食事をすることも一緒に寝ることも多々あるようになっていた。普通に夏にはだらけあったし宿題には追われ、冬にはこたつでのんびりとみかん食べて過ごすなどしていたと思う。

 まあ、この頃にはHPL関連の事件に頻繁に巻き込まれるようになったという理由もあり、お互い纏まって行動していたほうが懸命だという方向に落ち着いていたわけだが、こちらがどう構えようが神話生物は行く先々で私達に関わって来ていた。校外に出る学校行事で高確率で出くわすとか、呪われてるんじゃねえかってレベルである。

 確か一度うんざりに思って個人でお祓いに神社を訪れたこともあった気もするが、体質的な問題でどうすることも出来ないと断られてしまった覚えがあった。……むしろ、貴方はそのままの方が良いって言われたはずだが見事に今のようなご覧の有り様だ。あの時の巫女さん絶対許さねえ。

 

 しかしそれでも、楽しいか楽しくなかったかと問われれば私は「楽しかった」と答えるだろう。怖い思いをすることも沢山あったが、そんな時には必ず成美が傍に居てくれたし、あいつも私が居てくれるから心強いと言ってくれていた。

 だから、どんな脅威が待ち受けていようと手を繋いで立ち向かうことが出来ていた。これから先もずっとそんな毎日が続いていくのかと思っていたのだ。

 

 

 ――そうして、運命の日が訪れ……誓い合った友情は、吐き気を催すような悪意によって引き裂かれてしまうことになる。

 

 

 高校デビューを果たしてから暫く経ったある日、私は成美と一緒に自分達を保護下に置いてくれている……今の私が属する公安X課に呼び出しを受けていた。

 内容はとある研究施設で行われていると噂の、神話生物を使った実験について探りを入れて来てもらえないかというもので、ちょうどその時にテレビで新しく見るようになった製薬会社が関わっているらしいとのことだった。

 明らかに高校生にやらせる仕事じゃないだろうにと当時の責任者へ皮肉ったが、捜査員が別のHPL関連の捜査で出払ってしまっていて、まともに動かせるのはまだ駆け出し中の男性一人のみと嘆かれては渋々協力するほかない。仕方なくその男性を移動要員として扱い、捜査については私達二人で取り掛かることになったが、地道に調べていくと出るわ出るわ黒い証拠が。

 ――やはり噂は本当だったようで、事もあろうに製薬会社の地下施設にて『捕獲した神話生物』を用いた人道もクソもない人体実験が行われていた。

 具体的には、人と神話生物の遺伝子をかけ合わせるといったことが行われており、侵入した施設内には母胎となった……人としての権利を剥奪された存在がポッドに入れられて複数確認された。

 

 これが人間のやることかと憤りと驚きを隠せない私だったが、それ以上に驚かされた事があった。……なんと、成美にしては珍しく殺意を剥き出しにし激怒の表情を浮かべていたのだ。

 いつもは怒ることはあっても静かにニコニコと圧力を掛けてくるだけであったというのに、一体何があったというのか。怒っても仕方がない事だとは思ったが、その時の彼女はいつもの彼女と異なっていた。威圧感が違うというかなんというか。

 その真意を知らぬまま私は成美を連れて施設の中枢へと赴き、この騒動の元凶と相対した。相対して、いつものように倒して、連行しようと拘束した―――はずだった。

 

 

 ……次の瞬間、私の身体は室内の壁に叩きつけられ、左腕は鮮血を撒き散らしながら目の前をくるりと舞って地に落ちていた。

 

 

 突然の事に私は目を見開くことしか出来ず、何が起こったのかを瞬時に理解することが出来なかった。……気づけたのは、成美が私を庇うように立った時である。

 彼女を挟んだ向こう側には直前まで捕まえていたはずのマッドサイエンティストの姿はなく、代わりに一切の面影を残さない触手を編み込んで無理矢理人の形に落とし込んだかのような化物が居た。

 そいつはご丁寧に、此処まで来るまでに目撃してきた研究の応用で作った遺伝子サンプルを自身に注射したと告白し、そのサンプルにはまさかのニャルラトホテプを使用したと言ってのけた。……つまり、相手はニャルラトホテプさえも実験の材料として扱い、あまつさえ後天的にニャルラトホテプのような何かと化したというわけだった。

 

 それに対し私が何か言う前に、成美が聞いたことのない声色で荒々しく言う。お前のような存在が軽々しく『無貌の神』、『這い寄る混沌』を名乗るな、と。

 私はその言葉で理解する。彼女が怒りを特別覚えていたのは、同胞たる神話生物がいいように利用されていることだと。また、彼女自身が神話生物であり―――嘘偽りのない正真正銘のニャルラトホテプであるということを。

 

 夥しい量の出血により意識が朦朧とする私に目をくれながら、彼女は一人偽物の存在へと挑みながら叫んだ。今まで騙すような真似をしてしまってすまなかったと。

 何を言うのだと振り絞った声で返すも、彼女は謝るのを止めずに独白を大声で続ける。……曰く、人としての人生を歩んでみたかったのだと。その為に、私に依存するようにして生きてきたのだと。エトセトラ。

 

 居なくなることを前提にした物言いに今度は私が怒鳴り散らす。

 たとえ真実を知ろうとも、その程度で親友に絶交を申し入れるようなタマじゃない。私の下から離れるというのなら地の果てまで追いかけてやると。

 そう言い切ったところで視界に映るもの全てが色を失い、何もかもが暗転する。……それっきり、私は戦闘中に目を覚ますことはなく、死んだように意識を手離してしまった。

 

 そして、辛うじて本当に僅かにだけ意識を取り戻した際には戦いは既に終わっていて、息をするだけでむせ返るほどの鉄の匂いが充満していた。発生源が元人間だったエセニャルラトホテプということは嫌でもわかったが、知りたいのはそんな今更どうでもいい事ではなかった。

 私は朧気に見える目を動かし彼女を探した。冗談抜きにして居なくなってしまったのかという不安に駆られたからだ。

 ――でも、姿は簡単に見つかった。成美は肩を寄せるほどの距離に居て、同じようにボロボロになって血を流し、弱々しく微笑んでいたのだ。

 

 走馬灯が流れるよりも先に私達はまだ幼かった頃の思い出に浸る。死期が近いことに関してはもうなんとなく察しがついていた。恐らくこれが最後の会話になるのはとっくにわかっていた。

 私は口も開くことは叶わなかったが彼女が全て代弁してくれた。ただただ、ありがとうという言葉が身に染みるばかりだった。

 

 そうして、自分の身が冷たくなっていくのを肌で感じ、目を開くことさえも止めて眠りに落ち………

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

「――私は二度と……目を覚まさなかったはずだった」

 

 所長に支えてもらいながら大空洞の中を進む私は、現在とは繋がらない末路に至る昔話を語り終え、同時にそうはならなかったことを卓袱台をひっくり返すように皆へ伝えた。

 それぞれ思うところがあるのがひしひしと伝わってくるが、代表してマシュが反応を示してくれる。

 

「でも、先輩は今こうして生きている……もしかしてそれが」

 

「うん、私がニャルラトホテプの腕を手にすることになった経緯に繋がる」

 

 あの時、私は確かに死んでいたのだ。もう手の施しようがないぐらいの状態で、蘇生の見込みなんてあるはずがなかった。

 なのに、再び意識が覚醒して目に飛び込んできたのは、何度か運ばれた覚えのある病棟の天井で、心配そうに視線を向ける仲間たちの姿。だがそこに成美の姿はなく、いくらベッドの敷居のカーテンを捲ろうが居て欲しいと願う彼女は何処にも横たわってはいなかった。

 また、時間差でありえないことに気がついてしまう。切り飛ばされたことで失われた、あるはずのない左腕がまるでそこに在るかのように包帯で固定されていたのだ。意味がわからなかった。

 

「付いていた古傷もなくなっていたから大慌てでね……その上、主治医の言葉にトドメを刺された」

 

 そこで知られざる空白の真実が告げられた。

 あの後、私は待機させていた捜査員の連絡を受けて駆けつけた仲間によって救出されたそうであるが、その時点で成美の姿はなく私の腕は元通りに生えていたとのことだった。

 製薬会社については、謎の爆発事故により施設ごと消滅した。研究データは持ち出されることなく証拠の写真のみが資料として保管されることになり、現在は繋がりのあったと思われる企業の洗い出しが行われているとのことである。

 一番知りたい成美については、行方不明ということで処理されたようだが、本部の見解では爆発は彼女の手によるものだという予想が立てられた。成美がニャルラトホテプであったことは一部の人間には周知の事実だったらしい。

 

「――詳しい検査の結果、私の左腕のみから神話生物を示す反応が検出され、照合により『ニャルラトホテプ』の物であることが判明したんだ」

 

「……そいつぁ、キツイよな」

 

 最初は成美によって倒されたはずの男が、悪足掻きをして私の腕として寄生したのではという言い知れない恐怖を覚えた。もしそうだとしたのなら、その場で切り落とすことも躊躇わなかっただろう。

 だが、その不安は成美によって払拭されることになった。彼女が別件で本部に提出していたというデータサンプルが左腕の検出結果と一致したのである。

 では腕は成美自身なのかと疑ったが、それでは施設が消滅した件についての本部の仮説と食い違う。

 ……ということは、左腕は正しくは成美の左腕そのものであり、私が意識を失った直後に彼女がわざわざ腕を切り落として私に移植したということだ。彼女もまた虫の息であったはずだというのに。

 

 そこでようやく、彼女が命と引き換えに助けてくれたことと……もうこの世に居ないことを悟り、私は心を打ち砕かれてしまった。

 

「……心神喪失って、なってみると本当に辛いものでね。何もかもやる気が失せる上に無性に自分を痛めつけたくなってしまうんだよ」

 

 何度発狂して拘束されたことか……多分、抑える方も数えるのが嫌になるくらいだったと思う。

 今だからこそ言えるが、彼女が私に依存していたように私も成美に依存しすぎていたのだろう。それだけ存在感は大きく、一度抜け落ちるとなかなか塞ぐことが出来ないというわけだ。

 

「私は呪ったよ……何で、命に『終わり』なんてものがあるのか。何故、『別れ』という辛い経験を味わわなければならないのかって」

 

『……それは』

 

 あんなに一緒だったのに、もっと一緒にいたかったのに。命に限りがあるから邪魔される。

 そんな逆恨みにも似た感情で、あの事件直後の私は塗り固められていた。

 

「退院出来るようになった後も暫く荒れていてね、ただ只管に『死』を憎んでいたというか恐れていた」

 

 自分に直接関係のない、死に関わるニュースが飛び込んでくる度にいちいち反応していたほど神経質になっていたのだ。

 この世から死なんてものを消してやりたいなど馬鹿げた事を思ったこともあった。

 

「けれども、そんな状態の私を救ってくれたのは他でもない彼女だったんだ」

 

 きっかけは、私の荒れっぷりを見かねた母の命令で部屋の掃除をしていた時のこと。

 頻繁に私の部屋で一緒に寝ていたこともあり、成美の所持品も幾つか部屋に残されていたりしていた。それらを含めて整理しようと動いていると、ふと彼女が愛用していたMP3プレイヤーが目に留まった。

 ……そこで、成美が頻繁に聴いていたお気に入りの曲があったことを私は思い出す。

 

「内容自体はその時流行っていたアニメの曲だったんだけど、聴いている間に涙が溢れてきて―――」

 

 命は……そう、バトンを受け渡すように紡いでいくものなんだということを、その曲は語っていたのだ。

 『死』とは継承に必要なこと、悲観だけで決して終わらせてはならないものだと彼女は最後の最後で私に教えてくれたのである。

 胸を強く押さえて私は祈るように続けた。

 

「私は成美に命というバトンを託された。だから、彼女の分まで走り抜けて誰かにこのバトンを渡したいんだ。更にその先があることを信じて」

 

「そう、だったのか……」

 

 アーチャーが特に感慨深そうに聞いていたが似たような経験があったのだろうか。

 ……そういえば、エミヤは比較的現代の英霊だと聞くが、このご時世で英雄になるとか結構珍しいことなんじゃないだろうか。

 

「鋭いところを突くな君は……いや、間違ってはいないがな」

 

 何か未来で伝説的な偉業を成し遂げたのかと思いきや、彼もまたかつて出会ったことのある守護者の同類であるとのことだった。

 なお、守護者になった経緯には、此処とは別の世界の冬木で起きた聖杯戦争に巻き込まれたことが関係していると彼は述べた。

 一度目は完全な被害者として、二度目は育ての親から受け継いでしまった因縁から。

 

「サバイバーズ・ギルト……という言葉は知っているかね」

 

「ああ、大災害や大事故で九死に一生を得た人が抱く罪悪感や強迫観念のこと?」

 

「……そうだ。全てを失ってなお生き延びてしまった私にはその思いと、救ってくれた養父が抱いていた夢――『正義の味方になりたかった』という夢だけが僅かな取り柄だったのさ」

 

 なるほど、それでご奉仕精神全開でこの世の悪意は全部自分が消し去ってやると、世界中を練り歩いてしまったわけか。誰に頼ることもなく誰に託すこともなく。

 もっとも、願いが願いだけに誰かに共有していいものか迷うものだ。そう簡単に、誰かにバトンを渡していいことではないと思う。それがわかっていたからこそ、アーチャーは一人で突き進むしかなかったのだろう。

 ……守護者ではなくて、私みたいに裏社会向けの警察官になるとかじゃ駄目だったのだろうか。

 

「聖杯戦争で己には戦うための力があると自覚してしまったのが大きかったのだろう。その力を使って世界を平和にしたいと考えなければ君の言う道もあったかもしれん。今更な話だがな」

 

「まあ、医師免許や教員免許でも取って、恵まれない子供の為に一生尽くすとか幾らでもやりようはあっただろうね」

 

「――毒舌ゥ!?」

 

 いやだって、世界平和はそりゃ実現してほしいものであるけれど、一個人の動きで止められるのだったら今の時代は既に平和になっているはずだ。

 それに純粋な悪意を持った人間の他に理由のない悪意を持った人間だっている。そいつらは突然湧くし始末してもまた何処かで湧くからどうしようもないんだよ。キリがないんだ。

 

「しかし……」

 

「生えてしまった雑草を刈り取ろうが、そこに根が残っている限り生え続けるのと同じだよ。結局は根ごと取り除かなきゃ終わらない………じゃあ、その根もとい種はどこから来るのか。それは負の連鎖からだ」

 

「……負の連鎖」

 

 貧しさは少しでもお金が手に入るならという動機で犯罪に駆り立てる上に、世界では常識とされるルールも欠如させてしまうものだ。

 こういうところから争いの火種は生まれているのだから、根絶したいのならば地道だが彼らの貧しい環境を改善していく必要がある。

 

「食事もお金も大事だけどそれだけじゃ駄目なんだ。医療も教育も色々と充実してなきゃこの連鎖は食い止めきれないんだよ」

 

「……まるで見てきたかのような物言いね」

 

 所長の溜息交じりの言葉に、こちらも溜息を込めて心底落ち込むように私は返す。

 

「見てきたさ……旅行先で麻薬カルテルが絡んでいたHPL案件に巻き込まれて、そこで未成年の子供が金で雇われて、銃やナイフを持たされたりしていたんだよ」

 

「そんなっ!?」

 

「酷い……」

 

 信じられないかもしれないが事実である。あそこでどれだけ不愉快でやるせない気持ちになったことやら……下手すれば心がまた病んでしまうところだった。もう二度と思い出したくもない事件である。――ムーンビーストも大量に絡んでいやがったことだしな!! 一周回っていつものテンションが戻ってきやがったよ畜生。

 

「狂った掃き溜めのようなアレはうんざりなんだ……そんなわけだから、正義の味方を目指すならこっちを何とかする方向でよろしくお願いします。今更だけど」

 

「本当に今更だなっ!! ――しかし、ドクター・エミヤやエミヤ先生と呼ばれるのも存外悪くなかったかもしれないな」

 

 ふむ、前髪下げて白衣に腕を通せばビジュアル的にもいいんじゃないかな。個人的な注文としては伊達でもいいから黒縁の眼鏡をかけてほしいものだが、まあいいや。

 随分と辛気臭い長話をしてしまったところで、大空洞の最深部であると思われる空間が入り組んだ通路の先から覗いて見えてくる。

 今のところバーサーカーが背後から迫ってくる気配は感じられないが、最低限の警戒は怠らないよう促しておく。

 

「……そら、見えてきたぞ」

 

「うっわ」

 

 近づくだけで全身に伝わってくる瘴気にも似た毒々しい空気が漂ってくる。

 所長が言うには超抜級の魔術炉心の反応があり、そこから溢れ出てきているのではないかとのこと。吸ったところで直ちには問題はないようだが、何時迄も長居するのは流石に危険だろうと判断された。

 空間は全体の半分ぐらいの位置で大きく段差が出来ており、地震で地盤が激しくズレたかのように高さが開いている。

 頑張れば登れそうな高さだなと吟味していると、マシュが素早く首を動かし警戒心を持った顔つきになった。

 

「――ッ、サーヴァントの反応です!」

 

「えっ!? 一体何処に……」

 

「上だ、上ッ!! ――嬢ちゃん達、構えろッ!!」

 

 促されるように見上げた先には、闇を人のカタチとして成り立たせたかのような黒く禍々しい竜の化身が居た。

 纏っている甲冑には返り血に見える何かが付着し、今も滴り落ちているようにも思える。遠くからでも存在感は絶大であり、滲み出る魔力の気配はただならぬ威圧感と支配感を出していた。……常人ならば直ちに失禁と気絶モノである。

 ――あ、私は常人じゃないから別に大丈夫でした……って、自慢することじゃねえよ馬鹿野郎。

 

 皆が静止するなか、黒い騎士は冷たい目線をこちらへ寄越し少しばかり目を見開いた後、感心したように口を開いた。

 

「――ほう、面白いサーヴァントがいるな。それに、よもやアーチャーがそちら側にいるとは」

 

「アルトリア……いや、セイバーか」

 

 アーサー王とされるセイバーが、マシュとその傍らに立つアーチャーに興味を持ったかと思えば、聖剣らしからぬ輝きを失った剣の先を向けてくる。……闇堕ちしてしまうと、武器の属性さえも真逆のものになってしまうのか。大変勉強になりました。

 

「どうやら、この冬木で元々召喚されていたアーチャーではないようだな」

 

「生憎な。君の言う方のアーチャーは実に惨たらしい最後を遂げたと聞いている……我ながら同情しているよ」

 

「………」

 

 まだ根に持ってたんかいと肘で私はエミヤを小突こうとするも、のらりくらりと巧みに躱されてしまう。

 ……ならば男の勲章にダイレクトアタック――してやろうとしたが、キャスターの兄貴にそれは止めてやれと首根っこを掴まれて阻止されてしまった。ちぇっ。

 

「つかよ、てめぇ喋れたのかよ……ダンマリなんか決めていやがって」

 

「ああ、その事か。何を語っても見られていてはな、躊躇われるというものだ。故に、ただの案山子に徹していたが―――」

 

 ――見られているか(・・・・・・・)。ということは、第三者による介入及び監視の目はあると証言してくれたようなものだ。即ち、暴走自体はセイバーの意思によるものではない可能性が高いことになる。

 戦闘自体は流石に回避できないだろうが、私達に何か伝えるか託そうとしていることが僅かばかりセイバーから感じられた。

 であれば、次に起こされるアクションは―――

 

「……面白い、そのサーヴァントは面白い。構えるがいい名も知らぬ娘、その守りが真実であるかどうか―――この剣で確かめてやろう」

 

 得物同士をぶつけ合い、語り合うという行為だ。

 堕ちた状態にあっても衰えるどころか活き活きとしている覇気を纏い、セイバーは宣戦布告と共に見下ろしていた段差から飛び降りてきた。

 ずしりと重たい踏み込み音が聞こえ、その反動をバネにした突進が猛獣が獲物を喰らおうとするように私を目標にして迫る。

 

「はああああああッ!!」

 

「――先輩っ!!」

 

 マシュが滑らかな動作で瞬時に割って入り、大盾を突き立て構えたのを合図にセイバーとの命懸けの駆け引きが開始された。

 

 




成美という名前はニャル美という名前をもじった感じです。
一応、神話生物は複数個体がいるニャル子さん的設定になっています。

あと、さり気なくシナリオの最後の方で至るべき真理に至っちゃってるぐだ子。

そういえば、セイバーオルタ見て所長は誰かを思い浮かべないのですかね(ロード・エルメロイ2世のお供の子


次回、セイバーオルタ戦。ぐだ子はどう暴れる(じっとしてろよ

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