プロサバイバーぐだ子の人理修復(仮)   作:くりむぞー

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はい、そんなわけで邪竜爆竹戦争オルレアン開幕です。
みんな、フィリピン爆竹は持ったな?


どうぞ!


第一特異点 邪竜爆竹戦争オルレアン
突き付けられた真実


 ――あれから一週間の時が流れ、破壊された設備の殆どは安全に稼働させるのに問題ないレベルまで修復が滞りなく完了していた。

 また、スタッフ全体の体調やメンタルもこれからの作戦の進行に支障をきたさないぐらいには復活し、生き残りたいという純粋な思いからかちっとやそっとではへこたれないという雰囲気が滲み出るようになっていた。心なしかロマニや年のいったスタッフを除いた男性陣の幾人かが微妙に逞しくなっていた気もするが、見なかったことにして別の作業に私は取り掛かった。

 また合間に、ダヴィンチちゃんの工房が一部爆破……もとい破壊されるなどの諸事情によるトラブルが発生したこともあったが、そこは物理(暴力)に身を任せてまーるく収めることに成功した。詳細については細かく言及しないが一言で言い表すのであれば「因果応報」という言葉が相応しいであろう。

 

 ちなみに、物資を整理するなかで後回しにするといって放置していたフォード(車)については、確認にはもってこいの広いスペースを誇る訓練室を借りてテストが行われ、やはり記憶にある通りに巨大化して人を乗せて走れるだけのサイズとなることが確認された。

 更に追加で、巫山戯た造りをしたKV-6と呼ばれる戦車やごく普通なモーターボート、サンロイヤル・ジェネシス・スーパーEXとかいう無駄にカッコイイ名前のクルーザーが見つかり、さながら内部は何かの展覧会っぽくなった。

 仕組みのデタラメさに頭の固い英霊は唸り、好奇心旺盛な英霊は喜んだが、私にどのようにして作られたのか迫ってきたところで説明出来るはずもなかった。だって、入手経路も製造方法も全く知らんしね。

 さしあたり、提供者は信用に値するとして使用に問題ないと認めてもらうと、特異点における移動手段として活用していくと決めて私のところで厳重に保管することとなった。

 

 ……そうやって時が過ぎ、作戦に取り掛かるまでの準備がようやく整ったところで、第一特異点にレイシフトする直前のブリーフィングが管制室にて開かれ、軽く挨拶を済ませたロマニが攻略における全体の基本要件に関する説明を執り行った。

 

「――おさらいだが、藤丸君。君達にやってもらいたいのは、まず第一に特異点で起きている異常の調査とその解決だ。大方、本来の歴史に沿わない事象がそこでは当たり前のように進んでいるんだろうけれど、それを許容してしまっては……やがて2017年で人類が滅びる未来に直結してしまう」

 

 そうはさせまいというのがこのオーダーの目的であり、私達の生き残りをかけた唯一無二の手段というわけだ。挑むべき特異点の問題は最低でも7つだとされるが、こちらの動きを危惧して追加で発生するというイタチごっこになることも念頭に入れておかねばなるまい。

 

「第二に、聖杯の回収だ。レフやその背後にいる存在は、聖杯を用いてさっきも言った問題を引き起こしている。直接的か間接的かはどうであれ所有しているだけで向こうのアドバンテージは高く、戦況をひっくり返すことは容易じゃない」

 

 奪わないことには何時までも好き勝手やられてしまう事に繋がる。したがって、所有者が誰であるかを早い段階で突き止める必要があるだろう。

 ……聖杯レーダーみたいのがあれば手っ取り早いのだが、サンプルとなる聖杯を一つでも確保しないことには開発もクソもないようであった。……今のところ地道な分析のみが精一杯で頼みの綱というわけである。

 

「聖杯を確保できたらマシュが持つ盾に格納すること。でないと、再び争奪戦になりかねないからね。カルデアに持って帰ってくるまでが特異点探索だということを忘れないで欲しい」

 

「質問、バナナはおやつに入りますか。はむっ」

 

『遠足じゃないのよ!? ……って、自分から聞いておいて食べてるんじゃないわよっ!!』

 

 すまんな、朝食で食べ損ねたんで懐に入れたまんまだったんだ。すぐに食べ終わるから待ってろ。

 ……冗談はさておき、現地でやることは特異点の生成に関わる以上の二点以外にあったりはしないのだろうか。物資をやり取りする用のサークルの設営があるとか前に聞いた覚えがあった。

 

「うん、そうだね。補給を兼ねた召喚サークルの用意も大事だ。設置するだけでその土地縁の英霊を召喚できる確率も向上するからね」

 

「……だが、相手もそれを見越しての手を打ってくるだろう。良い霊脈であるほど既に向こうのテリトリーである可能性が高い」

 

 それもあるだろうから、召喚の方は基本的にあまり宛には出来ないだろうと思われる。

 となると、エミヤが述べていた連鎖的な召喚、予備システムとやらの起動を期待した方がマシだとされるが、邂逅した上で上手く味方に引き込めるかはこちらの交渉力と相手の出方次第である。

 ……それ以前に、作戦に投入するサーヴァントのメンバー選出を考慮する必要があった。出来るのであれば全戦力を投入してゴリ押しによるスピード勝負に出たいところだが、実際にやってしまうとレフの奴に今のカルデアの限界が露呈してしまい逆に追い込まれかねない。

 であるからして、防衛用戦力と称した切り札を温存した状態での突撃を可能とする人選が求められるわけだが、そこは前日までに練りに練って考えていて当人達の承諾も無事に得られていた。

 

「今回は師匠とメドゥーサ、それにマイノグーラ「マ・イ・コ!」……マイ子以外がフル出撃になる。その間、マイ子は神話生物が出現した際のアドバイザーとして待機しているとして、師匠達は奇襲を警戒して詰めておいてほしい」

 

「うむ、わかった」

 

「……いいでしょう」

 

 レイシフトの適性はあるがマスターではないシルバについては、私のサポートとして同行してもらいつつ状況に応じて偵察役のエミヤと一緒に行動してもらうことにした。

 つまり、デフォルトでの私の護衛はマシュに加えて兄貴とノッブ、アストルフォの四名が付く事になる。……心なしか戦隊モノのようなカラーリングになったので、戦う時のノリはそんな感じで行くとしましょうか(適当)。

 

「カレー担当のイエローがおらんぞ」

 

「……現地で探せば良いんじゃね」

 

「おお、そうじゃな!」

 

 イメージカラーが黄色の英霊っているのだろうかと思ったが、いなければいないでカレー繋がりでインド系サーヴァントに役目を担ってもらおう。

 ……えっ、黄衣の王は当てはまらないのかって? 呼んだらアカンでしょあの人は……そのうち興味本位で来そうな匂いがプンプンしてるけどさ!

 

「さて、ブリーフィングはこれぐらいにしておこう。これからの指示はレイシフト後に追って行うものとする」

 

『冬木の時と違ってコフィンを使っての介入だからレイシフトを行うこと自体の危険性はないと思ってちょうだい。――頼んだわよ』

 

「任せときんしゃい」

 

 現代の装いを隠すようにローブを羽織った私はパーティーを後ろに引き連れて、床からせり上がってきたコフィンの中へと入り込む。

 一瞬、爆破された当時の記憶が蘇り、あの火中に居たマスター達はきっとこうした後に何もわからぬまま瀕死の重傷を負ったのだと理解すると、その無念を引き継いで目を閉じ機械的な声のアナウンスに耳を傾けた。

 

 

 ――<アンサモンプログラム スタート>

 

 ――<霊子変換を開始 します>

 

 ――<レイシフトまで後……>

 

 ――<全工程 完了>

 

 

 ――<グランドオーダー 実証を 開始 します>――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が揺らぎそうになるのを我慢して数秒後、再び目を開いた私に視界に飛び込んできたのは風が激しく吹く何処までも広い草原だった。

 ……どうやら、戦乱の最中にダイブして開幕逃亡劇を繰り広げる羽目にはならなかったようでほっと胸を撫で下ろす。

 

「――転移完了……皆さんもちゃんと来れていますね」

 

 いつの間にか隣に立っていたマシュが全員の姿を確認し、点呼を取るも目立った問題はなし。

 予定通り百年戦争があったとされる時代に転移したことを実感すると、具体的な年月日が端末上に表示され自分達がどのタイミングでやってきたのかが把握された。

 

「1431年……ということは、ジャンヌ・ダルクが処刑されてからまだ日も浅いタイミングか」

 

「あと、現在は休戦状態にあるようですね。なのでこうも静かなのでしょう」

 

 百年戦争という名前がついているものの、実際は戦っては休んでの単発の戦いの繰り返しであったことは割と知られていない。

 まあ、普通は百年って聞いたらぶっ続けに戦争していたと勘違いするよね。実際もしそうだったら、この時代の人間は相当タフで脳筋で話も通じないはずだろう。

 

「とりあえず周辺の確認だ。休戦中と言えど兵士は徘徊しているかもしれないから注意しながら頼む」

 

「了解っと」

 

 自分にとっては慣れた定番の行為をして、何か目立つものがあるかどうかまたは妙な音が聞こえないかどうかを探る。

 すると、ふと空を見上げた先に――『おかしなもの』を見つけ、私は睨みつけるような視線をそのままに全員へ『それ』がある方に向くように人差し指を伸ばした。

 

「あれは――輪でしょうか?」

 

「すっごーい!」

 

「でけえなありゃ……」

 

 ――指差したそこには、超巨大な雲をぶち抜きくり抜いたような輪が広がっており、今出来たと言わんばかりに形状を崩さぬまま空中に存在し続けていた。

 大きさを予測しようにも素人目では計り知れず、専門家でも算出するには膨大な時間を要するだろうと思われた。

 

「自然現象……ではないだろうな」

 

「流石に、こんなものがあれば記録の一つや二つ残っていてもおかしくないじゃろ。……じゃが、来るまでに予習をした限りでは合致するようなことはこれっぽっちも見んかった」

 

「ということは、これも異常の一部……」

 

 各特異点全体に関わることなのか、第一特異点のみでこれだけの規模なのかは不明である。

 一先ず、自分達の頭のキャパシティを平気で超える現象がそこに在るので、到着した報告ついでにカルデアに通信を繋いで確認してもらうことにした。

 ……程なくして何事もなく通信は開かれ、安堵をしたロマニの顔が映る。悪いが早速お仕事の時間だ、どんとこい超常現象!

 

『何だいこれは……光の輪? いや、衛星軌道上に展開された何らかの魔術式か?』

 

「魔力反応があるということですか?」

 

『そこまではまだわからない。何にせよとんでもない大きさだ……推定でも北米大陸と同等かもしれない。けど、1431年にこんな現象が起きたなんて記録はないぞ』

 

『間違いなく未来消失の原因の一端ね。多分、その特異点に限った話ではないと思うわ』

 

「……そうか」

 

 解析には時間がかかると告げられ、今は放置して現地の調査に専念するように伝えられる。

 ……が、何かが頭のなかで引っ掛かってしまい、言われた通りにすることに私は強い抵抗感を覚えた。

 

「………」

 

「ただ眺めているだけでは何も得るものはないぞ?」

 

「――わかってる。だけども、今無視してはいけないって何故か思うんだよ。取り返しのつかない事になりそうな恐怖が、そこに在るような気がして」

 

 上手く言葉に言い表せないもどかしさに苛立ちながら私は、光の輪を直視し続け考えに耽る。

 ……もし、所長の言ったことが現実であるのなら、敵は何の為にアレを形作ったのだろうか。

 シンプルに特異点形成の一つの要素だとするなら強引に納得も出来なくもないが―――根拠のない直感的な思いがどうしてか「違う」という警鐘を鳴らしていた。

 

「どんな断片的な情報でもいい、時間をかけずともわかることは何かないの?」

 

『うーん……そう言われてもなぁ』

 

『例えば何がご所望なのよ』

 

 そうだなぁ……パッと思いつくのは放射線量だとか熱量あたりだが、どちらも今すぐに特定するのはやはり難しいかな?

 ダメ元で頼んでみたところ、一方だけなら可能だと所長は答えてくれたので、悩んだ挙句に熱量の方の計算を依頼することにした。

 ……数分後、解析結果の報告がなされ答えになっていない答えが返ってくる。

 

『――駄目ね、測定不能よ。熱量自体はあるようだけど規模が大きすぎて数値化なんて出来やしないわ』

 

「……増加傾向は? それとも、一定の熱量を維持しているだけ?」

 

『ええと、増えている……ように見えるわね。ということは魔術式自体はまだ完成の域にあるわけじゃなく、まだ途中(・・)……?』

 

 術式のスイッチを入れただけであって目的は達成されているわけじゃない……そういうことなのか。

 しかし、熱量が増えているとなると『何か』を依然として蓄え続けている事になる。――それも特異点全てにおいてだ。

 

「霊脈の魔力である可能性は?」

 

「いや、霊脈とて無尽蔵に魔力があるわけではないからな……継続して吸収するには非効率的だろう」

 

「それにもしそうだったとしたならよ、今頃此処は死の大地と化しているかもしんねえぜ?」

 

 確かにそれは言えていた。今立っている土地が無事である時点で、その線はありえないと理解すべきであった。

 ……ならば、それに代わる何を集めているというのだろう。霊脈の魔力よりも集める効率が良いものとは果たして―――

 

『何だ、簡単な話ね』

 

「えっ?」

 

 通信に割り込んできた様子のマイ子があっけらかんとした表情で言葉を発した。……彼女は、こちらの驚きを置き去りにして『あってはならない可能性(・・・・・・・・・・・)』を此処に示す。

 

 

 

 

 

 

 

『――その光の輪の正体は、生命エネルギーそのものよ。言い換えれば人間の魂を魔力として変換したものね。……魂食いと言えば、よりわかりやすいかしら?』 

 

「なっ……」

 

「嘘っ!?」

 

「そんなっ……!?」

 

「―――」

 

 

 

 

 

 

 

 無意識に放棄していたであろう可能性を引っ張り出された私は絶句し、愕然と再び輪の方を見つめた……見つめてしまった(・・・・・・・・)

 ――途端に幻覚として現れ聞こえてくる、共に困難を乗り越え束の間だが平和を享受していたはずの仲間や、送り出してくれた家族の苦痛に歪む顔と悲鳴。

 耐え切れなくなった私はその場に崩れ落ち、抑えられない気持ちを吐き出すようにして吐瀉物をそこにぶちまけた。胃液の苦い味が口を包み最悪の連鎖を起こす。……おかげで、食べたばかりの朝食が全て台無しだ。

 

「――げほっ、ごほぉおえっ!!」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「なわけないじゃろ! ……水だ、水を用意せい!」

 

 止まらない気持ち悪さを味わう横でエミヤが鞄からミネラルウォーターを取り出し、口内を洗うように促してくる。

 それに従い何度も濯ぐも不快感は抜けずに留まり続け、全身からは尋常じゃない汗が延々と吹き出していた。痙攣も起こり、まるで自分だけ極寒の中にいるようである。

 ……所長のバイタルが危険だという叫びが聞こえるが、そんなことは言われるまでもなく自覚済みだ。

 

「う、あっ……ぐっ」

 

「まだ吐きそう? 背中擦るの止めないほうがいい?」

 

「――おええええええええええっ!!!!」

 

「……続けたほうがいいみたいだね」

 

「お、おねがい」

 

 擦るというより叩くに近い衝撃が襲ってくるが、今はそれが心地良いようにさえ感じた。

 ……暫くして、呼吸も整って自力で立ち上がれるだけの気力を取り戻すと、吐き気止めを服用した後にマイ子が軽率だったと詫びを入れてくる。

 

『……ごめんなさい』

 

「うえっぷ……もう過ぎたことだからいい。……それよりも、お前が言うからには"アレ"はそうで間違いはないんだな?」

 

 見るだけでもぶり返すかもしれないので背を向けて指を差すだけに留めて言うと、彼女は首を縦に振って肯定する。

 

『ええ。……十中八九、あの光の輪は命の輝きが集められて出来たもの。即ち、人類史そのもの(・・・・・・・)と言っても過言ではないでしょうね』

 

『それじゃあ、レフ達は変な言い方だけど純粋に人類を滅ぼそうとしているのではなくて……利用してるってこと!?』

 

 その可能性が高いだろう。皮肉な話だが、霊脈からちまちま回収するよりかは遥かに効率的な方法だ。いかにも性根が腐っているやつの考えそうな手段だと私は思う。

 

「……完全に聖杯戦争の酷い応用じゃねえか」

 

「一体何がしたいんだろうね、人の命使ってまで」

 

 皆が毒づくのも無理はなかった。許せない、その一言に全員の思いは集約され纏まっていた。

 されど、この煮え切らない思いは今はぶつけようがなく燻ったままである。発散しなければどうにかなってしまいそうだ。

 

「で、どうするよこれから」

 

「さっさとレフと不愉快な仲間達を殴ってやりたいところだけど、まずは取り決め通りに情報収集だ。……ロマニ、現在地の座標は」

 

『ドンレミの村の外れだね。多少距離はあるがすぐ着けるだろう』

 

 だったら決まりだ。エミヤにシルバを付けて別行動を取らせ、私達はドンレミに向かう。

 既に敵の手に堕ちているかもしれないことを視野に入れて慎重に近づくとしよう。身分を尋ねられたら異変の噂を嗅ぎ付けた旅人だと名乗ってやり過ごす、以上!

 

「では、くれぐれも無理しないようにな」

 

「何かあったらすぐ連絡よこせよー!」

 

 二人は草原を駆け抜けて、狙撃が行いやすいポイントへと向かって瞬く間に去っていった。

 ――さてと、病み上がりだけどこちらも出発だ。時間をとらせた分を取り戻すぞー……ってあれ、いきなりエミヤから念話が来やがったよ。……なに、緊急事態?

 

 

 

『マスター、村から一人負傷兵がそちらに接近中だ……錯乱している様子が見られる、接触には注意しろ』

 

「えっ!?」

 

『恐らく村が既に襲撃を受けていると思われる。予定を変更してこちらが先行して確認を行うが……問題ないな?』

 

「わかった、頼んだよ」

 

 

 

 連絡の内容を四人に共有していると、そのタイミングで件の負傷兵の姿が現れた。……武装はしていないようだから命辛辛逃げてきたと思っていいだろう。傷については額と腕に切り傷とかすり傷がある程度である。

 警戒させないために走りながら覚えていたフランス語で大丈夫かと急ぎ問いかける。それに対し、フランス兵とされる兵士は酷く怯えた様子で反応をし、逃げろと頻りに呼びかけてきた。いいから落ち着けのチョップ!

 

「――何があった(威圧)?」

 

「ひっ――あ、化物が来たんだっ! か、か、顔にうようよしたのが生えた化物が大量にっ!! 皆殺されちまう!!」

 

「化物だと? ……一つ聞くが、そいつの色は何色だった?」

 

「……え、ああ、緑だったよ!! あと馬鹿みたいにでけえし、空も飛ぶし、全然刃が立たねえんだ!」

 

「不味いな……」

 

 特徴から察するにクトゥルフの落とし子、クトゥルヒあたりの襲撃を受けていると予想するとマシュとノッブ、アストルフォに手当などの面倒を任せて、兄貴に付いてくるよう呼びかける。

 

「神話生物とやらのお出ましか!」

 

「私は交戦したことあるからいいけど、この時代の人間が相手をするには荷が重すぎる! ただの剣や弓矢じゃびくともしないぞあいつら!」

 

「ハッ、ならよぉ……槍で刺し穿つまでだぜ!!」

 

 威勢よく村の入り口を潜り抜けた私達は、出迎えに現れた一体に対して歓迎の感謝を表す一撃をお見舞いしにかかった。

 腰のホルダーから長いバールのようなものを二つ取り出して連結し、その両端に炎を纏わせて振り回すと私は通り過ぎざまにクトゥルヒの右の片翼と片腕を連続で薙いでみせる。

 

「――熱い歓迎、ありがとさんってな!」

 

「派手にやるじゃねえか!」

 

 負けじと兄貴も全身をバネにして飛び上がり負傷中の落とし子の直上に躍り出ると、串刺しという言葉を体現するようにして脳天から心臓へ目掛けて槍を真っ直ぐに突き刺した。……そのまま個体は動かなくなり、塵が巻き上げられるように姿が掻き消される。

 

「オリジナルにしては呆気ない……使役しやすいようにダウングレードしているのか?」

 

「なんつーか、出来の悪いのを相手しているみてえだったな」

 

 でも、一般人にとっては畏怖すべき存在であることは変わりない。それに数がいるとなると、図体がデカイ分こちらを疲弊させるにはもってこいだ……油断しないようにしなくては。

 戦った感触を確かめていると、村の中央の方で轟音が鳴り響いているのが聞こえる。……先に着いていたエミヤが戦っていると思われるので、そちらの援護に回るとしよう。

 向かう途中で邪魔をしてきた別の落とし子を踏み台に、私と兄貴は屋根を伝って広場の教会前へと転がり込む。そこではちょうどエミヤが五体を相手取って戦っており、翼を広げるが如く干将莫耶を展開し見惚れるような舞を見せていた。それに付き合うように鉤爪を両手に装備したシルバの姿もあり、目にも留まらぬ速さですばしっこく動いている。

 

「無事か、二人共!!」

 

「……マスターか! 他はあらかた片付けた――後はこいつらだけだ!」

 

「教会に避難した人がいるッ! 近づけさせんな!」

 

「応ッ!」

 

 先行していただけのことはあり数を減らしてはくれていたみたいだった。……そういや、シルバも交戦経験はあったからエミヤにノウハウを教えることが出来たんだったな。

 要望に応え、教会に近づきそうな敵から葬ることにすると、バールのようなもののをしまい込んで新たに持ち運びに大変便利な折りたたみ式の小型チェーンソーをバックより取り出す。

 

「復刻・口にするのも憚られる対艦チェーンソー、ライト版!!!」

 

「一回目はいつだよ」

 

「知らんッ!」

 

 空飛ぶサメだってイチコロなブツを振り回した私は、配管工的アクションよろしく近くの住宅の外壁を蹴ることで加速を付け一直線にクトゥルヒの頭部を抉った。

 その衝撃で大量の体液が撒き散らされるが、私は構うことなく力を込めて振り下ろしじわじわと両断を加速させる。……わぁい、スプラッタだ。ぐへへへへへ!

 

「……ヒャッハー!!」

 

「人類最後のマスターとは思えねえ狂気っぷりだな、おい」

 

 憂さ晴らしでちょいとテンションが高ぶっているだけだから大目に見てね。……っと、オーバーキルしている間に残敵の掃討も終わりそうな様子だ。

 それとよく見たら、最後の一体だけ自分ボスですよと主張するように他の個体よりも巨大であり、口元が刺々しい触手となって溶解液を吐き出していた。運悪くその下に居た兵士の死体は、汚いそれを受けて骨が剥き出した状態になる。

 

「うわぁ、触れたくねー……」

 

「アレは知ってるやつか?」

 

「いやまあそうだけど、口のあたりが記憶にない弄り方されてるっぽい。……機動力も結構あるし撒き散らされたら困るな」

 

「……早いところ転ばせたほうが良さそうだ」

 

 エミヤに注意をそらしてもらっているその隙に、後ろに回り込んだ私達は得物を荒ぶらせ一気に畳み掛ける。

 一閃、また一閃と入れ替わって攻撃を加えていくが……この個体、見かけだけじゃなくて装甲も段違いのようで傷を一つつけるだけでも一苦労だ。チェーンソーですら皮を削る程度しか役目を果たさない。

 ――ならばと距離を取り、スピリタスを使って作成した火炎瓶を投擲し奴の背中と片翼に燃え滾る炎を点火した。意図を理解した兄貴もルーン魔術で放火活動を行い、熱と火力を上げていく。

 

「ここで衣をつけて狐色になるまで―――」

 

「揚げんなよ」

 

 というか、揚げるなら順序間違ってんじゃねーか……などとツッコミを入れながら再び接近を行い、延焼中の翼を眺める。よし、良い感じに焼けて柔らかくなったな。美味そう……ではない。

 

「仕上げだ! エミヤっ!」

 

「――せいあッ!!」

 

 牽制役をバトンタッチし、切り込み役となったエミヤが二刀を一刀のように合わせ、宙返りによる回転エネルギーを付与し……斬る。

 会心の一撃は目標であった翼をばっさりと切断し、引力に従って落ちるなかで断面を一瞬こちらに晒すとこれまで見てきたように消滅した。これで空で暴れられることもあるまい。あとは―――

 

「――転ばせるだけだねっ!」

 

「アストルフォ!?」

 

 時間を開けて追いついてきたと思われる彼が指示したわけでもなく横から飛び出て突撃すると、槍を突き出してクトゥルヒの足を狙った。

 ……瞬間、飛べないことを割り切って地に構えていた相手の足が転ばされよろけてしまうと、うつ伏せになって地面を重々しく揺らした。驚きはしたが、今が仕掛け時である。

 

「先輩、伏せてください!」

 

「一斉攻撃じゃ、放てぇ!!!」

 

 さあフルボッコタイムと洒落込もうとした時、マシュの声が聞こえ咄嗟にシルバの首根っこを掴み身を屈める。

 兄貴達も何事かと顔を歪めて私達に習うように回避行動をとると、ギリギリ寸前のところで濃厚な弾幕が飛んできた。アストルフォはどっか行ったけど多分無事だろう。

 ――そして、寝転がり続けること早何分。ようやく砲撃音が終わって静まり返った空気と火薬臭が鼻腔を直撃すると、大型落とし子の亜種は村から取り除かれ、襲撃の爪痕のみが痛々しく残っていた。

 

「終わったのか?」

 

「残存、または逃亡したエネミーは居ないようです……お疲れ様でした」

 

 もう一回遊べるよんと現れたりはしなかったようで、本当の意味でこれで横になることが出来る。

 だがしかし、死体だらけの場所でそうするわけにも行かないので腰を上げると守り通した教会に目を向けた。……生存者という名の住人がいると聞いていたが、話を聞ける状態にあるだろうか。

 僅かに心配していると、手当を任せてそれっきり放置していた兵士が皆の前に進み出てきた。

 

「凄えよ……あんた達。化け物どもを倒しちまった……」

 

「ああ、さっきの兵士君。……見ての通り、村は滅茶苦茶だが守れるものは守れたぞ」

 

「……あ、ありがとう。何とお礼をしたらいいものか―――」

 

「そういうのは結構。……それよりも、落ち着ける場所で何が起こっているのかを把握したい。しがない旅の武芸者なんでね。村の責任者的立場にいる人は生き残っていないかな?」

 

 この流れなら行けると信じて尋ねてみたところ、それなら避難を誘導して自らも教会に立て籠もっている神父様なら詳しく知っているとフランス兵は返してきた。どのみち教会に入る以外に選択肢はなかったようである。

 

「なら、会わせてくれ」

 

 そう言って頼み込むと、助けたこともあって快く了承してもらえたので、再襲撃に一応備えて見張りをエミヤにお願いしておく。

 そうして、合図とされるノック音をフランス兵にして貰った私達は――開かれた扉の中へ静かに足を踏み入れた。




はい、そんなわけで本来この時点で気付かないはずの事実に早くも主人公たちは気づいてしまいました。そりゃあキレるし吐きます。おろろろろろ(ry

また、試験量産型の使い魔と化した神話生物が来襲しましたがそのせいで、教会以外はドンレミの村はほぼ壊滅状態です。つまり(ry

※最後の口元がおかしい個体は強化型と思ってください。

そして次回、兵士に導かれるまま神父と邂逅した立香はこの時代で起きている異常について知ることになります。

お楽しみに。


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