プロサバイバーぐだ子の人理修復(仮)   作:くりむぞー

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というわけで、降って湧いた神話生物という爆弾処理始まります。


サプライズボム(解体編)

「――マイノグーラッ!?」

 

 そう叫んだ私は、騎乗位をされている状態から乱暴に彼女を突き飛ばすと直ちに脚だけの力を使って起き上がり、睨みを効かせながら身構え相対した。

 一方でマイノグーラはというと、こちらの怪訝そうな冷たい視線を意に介さずに身体をくねらせ、欲望を全力で曝け出しているかのように口元から涎を垂らしていた。

 そして、リベンジとばかりに彼女は私に襲いかからんと跳躍を行いおっぴろげに腕を開いて抱きしめようとしてくる。……止むを得ず私は、皆の目の前ということを無視して左腕の封印を素早く解除し、頭部を鷲掴めるだけの大きさに手を拡大しアイアンクローを綺麗にキメた。

 

「……あぁん、この感触も久しぶりィ!」

 

「黙れ、この変態淫乱ストーカー女」

 

 握り締める力を強め、逃げ出せないよう拘束を強化すると……此奴め、この期に及んで眼前の掌を長い舌でレロレロ舐めてきやがった。ブレねえなぁ、ったくもう。

 一人呆れ返っていると、突然の異常事態に固まっていた状態から解放された一同のなかからマシュがこちらに駆け寄ってくる。

 

「せ、先輩っ、大丈夫ですか!?」

 

「私は何ともないよ。……それより、二人の方を見てあげて」

 

「あっ、はい!」

 

 見たところ邪魔だからという理由で突き飛ばされただけの男二人であるが、神話生物の突撃は一般人のそれではない。事実、伸し掛かられた私でさえも受け身を取らなければ気絶は免れなかったかもしれなかった。

 でも、ずっと前にやられた時よりも心なしか威力は落ちていたような……ううん、多分気のせいだろう。増減していようが痛いものは痛いんだからな。

 

「立てる?」

 

「……何とか、な」

 

「いててて……」

 

 マシュとアストルフォの肩を借りて立ち上がったエミヤと兄貴が後ろに引っ込んだのを横目に見届け、とりあえずキャッチしている馬鹿の処遇をどうするべきかを考える。

 

「それで、お主……あやつは何者だ?」

 

「うん、まあ簡潔に言えば私の知り合いの―――神話生物だ」

 

 特異点Fで一緒だったメンバー以外に神話生物とは何であるかを簡単に説明し、要するに宇宙から来たやべー奴らと覚えてもらったところで、マイノグーラは急に喘ぐのを止めて自分から何やら語り始めた。

 

「……もう、心配したのよっ! 帰省先から戻って来て貴女の家にお邪魔しようとしたら何もかも燃えてるし、貴女自身何処へ行ったのかもわからないし! やっとのことで貴女の職場の端末から行き先突き止めたけれど、何処にあるのか全然見当つかなくて……そしたら、イス人が貴女の居る具体的な座標を教えてくれたの! それで、ようやく近くには辿り着けたのに今度は変な磁場で入り込むことすら出来ない! ……だから、何処か突破口はないかしらと注意深く観察して―――」

 

「召喚によるゲート起動の反応を感知し、自らをそこへ落とし込んだ……というわけか」

 

「――そうそう! 流石私のリツカ、理解が早いわねっ!」

 

 つまり此奴、私に会いたいが為にサーヴァントとして自分を変換してカルデアに潜り込んだのかよ。馬鹿とか言ってゴメンな……やっぱおめえ真性の馬鹿だわ。

 

「……ちなみにクラスは」

 

「解析からはアサシンと表示されているな……心当たりはあるか?」

 

「恐らく――「ヘルちゃん達が関係しているわねっ!」……だそうだ」

 

 可愛く言っちゃってるけど、ヘルちゃん……ヘルハウンズって言ったらHPL案件で時間遡行に関連して出てくる資料の中で度々目にする『ティンダロスの猟犬』の祖じゃねーか。

 ティンダロスが角による出現制限を受けているのに対して、ヘルハウンズはそんなもの関係ねーよって感じだった気がするが……え、何、レイシフトする度に私らこれから容赦なく襲われるパターンですか。人理修復始める前から詰んでるとかマジで笑えんぞ、どうしてくれるこのアホンダラ!

 拘束から拷問に移行し、衝動的な怒りのままに握力を強める。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 大丈夫だって聞いたわよ!?」

 

「はぁ!? 何言ってんだおめえ……」

 

「――だって、イス人が極秘裏に手を貸してるって言ってたわ! ヘルちゃんやティンちゃんが邪魔しないようにしてあるって!」

 

「え?」

 

 初耳なんだが。というか、イス人は何で此奴に手回ししてるくせに私に連絡の一つも寄越さないんですか。……ああ、そうか磁場の影響か。

 

「詳しいことは断片的にしか聞けなかったけれど、そもそも通常の時間遡行とは違って人間をデータの塊みたいにして違う時間軸に投射して、その時間軸の人間だと誤魔化しているのでしょう!?」

 

「……そうなの?」

 

「そういう事らしいです。加えて、異なる位相に送り込むことも含まれますので……正しくは、タイムトラベルと並行世界移動のハイブリッドです」

 

 うーんとアレか、原理としては本来物語に書かれた落書きにすぎない存在を、あの手この手を使って違和感がないように登場人物として成り立たせているということか。

 異物が世界から見ても異物のままだと流石に狩られる対象に引っかかるわけで……特異点Fで何ともなかったのは冬木の住人として処理されていたからか。

 

「特異点とやらにおいては、本来の主人公すらも困惑する物語の歪みようを正す存在……ぴんちひったー的な主人公として機能するわけじゃな」

 

「狂言回しに近いやもしれん」

 

 言いたいことはわかった。だが、それとマイノグーラがカルデアに来たこととはまた別問題である。

 ただ会いに来ただけで何もする気がないのだったら、流石の私もキレて次元の彼方へクーリングオフをする覚悟があると言っておこう。 

 腕も痺れてきたのでいい加減離してやると、彼女は床にぺたりと座り込んだ途端に背筋が凍りつくような不気味な笑い声を部屋中に響かせて虚ろに見える瞳を力強く向けてくる。

 

「……言ったでしょう、心配してたって。これでもし、貴女が死んでるなんてことがあったのなら―――あらゆる手を尽くしてこの騒動を引き起こした張本人を殺していたわ。……ううん、殺すだけじゃ全然飽き足らない」

 

「……」

 

「肉体を引き裂いて、噛み砕いて、咀嚼して、溶かして、吐き出して、踏み潰して、燃やし尽くして、塵にして―――とにかく気が済むまで苦痛を与えるわ。地獄の果てを何度でも見せてあげるの」

 

 ケタケタと微笑む彼女の顔は狂気そのものだった。おかげで隣にいる師匠達までドン引いてるよ。……けどさ、私は現に生きてるわけだがその場合はどうなるんだ?

 

「殺ることに変わりはないわ。貴女に降りかかる火の粉は……私が全て消し去ってあ・げ・る♪」

 

 溢れ出る殺気はこのカルデアにはいない存在に制限なく向けられており、今この瞬間にも特異点ではこれから相手をする側に被害が出ているような感じがした。……この、難易度下がりそうで逆に上がりそうな感覚は何なんだろう。悪寒がパない。

 

「……なら、もう一つだけ聞いておく。お前の好きな生命力の摂取についてだが――――」

 

 こいつの一番厄介なところは、人間を嗜好品として見なしてスイーツを食べるように扱っている点だ。

 私が知る限りではそのような真似を他人に向けてさせたことはなかったが、今なお続けてくれるかはたまたは放棄するかは神のみぞ知ることである。つーか、此奴ある意味神だったわ。

 

「貴女以外からは奪わなければよいのでしょう? 元々そのつもりだし、貴女を上回る味がそんなざらにあるとでも思って?」

 

 間近で転移を行い、冷たい指で優しく顔の輪郭をなぞってくるマイノグーラの眼差しに私は深い溜息を付くことしか出来なかった。

 悪い予感はすぐに杞憂と終わったが、新たな気苦労へと早変わりしてしまったようである。……一頻り考え込み、かつての日々を判断材料として評価を下すと、自然と諦めを孕んだ言葉が口から飛び出していた。

 

「ったく、仕方がないな」

 

 面倒臭そうに頭を掻いた後に私は踵を返し、姿を見ないまま呼びかけを彼女に対して行った。

 

「……お前がぶつかった二人にはちゃんと謝っておくこと。それが出来るなら付いてこい」

 

「あぁん、リツカのそういうところが大好きっ!」

 

 羽が生えてるなら飛べばいいのに、わざわざ首に腕を回しておんぶを強要してくる変態にこれ以上怒る気もなくすと、今度こそ動作していた召喚用の魔法陣をオフにして部屋を退出するよう皆に催促した。

 

「――問題ないのか?」

 

「自分が首輪代わりになってる分には大丈夫だよ……」

 

 より強くなった空腹感を満たし疲労感を忘れ去るため、一行は食欲を駆り立てる憩いの場に向けてゆっくりと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂について間もなく適当に長テーブルの席に腰掛けた私は、カルデアの現状と方針を舌を噛みそうになる勢いで話した後、師匠とメドゥーサにカルデアの魔術的防御を、兄貴とアストルフォとマシュに施設内の巡回を、ノッブとエミヤと……あとマイノグーラに物資の点検を一緒にするように要請すると、合間に並べられたカレーやサラダなどの料理に箸を伸ばし早速口の中へと運んでいた。

 ……味に関してはエミヤが期待して良いと自信満々に言うだけのことはあり、実家や外で食べるモノとは比べ物にならないほど明らかに次元が異なっていた。なので、自然と箸やスプーンが動いてしまい加速度的に皿の中が減っていく。――はいそこ、美味しいからって家臣にするだとか弟子にならないかとか勧誘しない! 気持ちは大いにわかるが、そういうのはやることやり終えてからにしましょうね。

 料理の美味さに感動し未来の人材確保に走ろうとする一部の……名前は言わなくともわかるであろう連中を制止し、自分はおかわりを大盛りで用意してもらった。

 

「――ちょっといいか、嬢ちゃん」

 

「うん?」

 

 よそわれたばかりのカレーをあーんしろと服の袖を引っ張ってせがんでくるマイノグーラの口に、ルーをかけていないスプーン一杯のご飯をねじ込んでいると、クーフーリンの兄貴が何か言いたげに声をかけてきた。

 表情から察するにマイノグーラについてだとは思うが、先の召喚室での非礼は此処に来るまでの間で詫びさせたはずである。であれば他に思い当たらないが……。

 

「特に重要ってわけでもねえけどよ、その……隣の嬢ちゃんとはどういう関係なんだ?」

 

「そうだな、私も少し気にはなっていた」

 

 あー、そりゃあ、いきなり現れて襲ってきた相手を手懐けてりゃあ誰だってその間柄について問い詰めたくはなるわな。

 でも、そこまで深く考える必要があるような難しい間柄ではない。さっきは状況が状況だけに突っ慳貪な態度を取ってしまったが、別に険悪な仲というわけじゃなく仲は比較的良い方だ。……一方的な愛が重いのは別として。

 

「普通に幼馴染だよ。――といっても、この左腕になってすぐ……からのだけど」

 

「とすると、例の彼女関連か……?」

 

「――当たり。早い話がこいつはこの腕をくれた成美の、ニャルラトホテプの従姉妹に当たる存在なんだ」

 

 ……あの忘れもしない事件よりも後のこと。

 幾らかメンタルも持ち直してリハビリてがらに仕事に復帰し始めた私は、ある日の夜に普段と変わりなく自室のベッドの上で熟睡をしていた。

 するとそこへ、成美の死を知らない遊び半分の気持ちで来たマイノグーラが現れ、目的の彼女……成美は何処かと探し始める。しかし、聞いていた場所であるにも関わらず居るのは私だけで、件の従姉妹は隈なく探しても見つけられなかった。

 当然ながら不審に思ったマイノグーラは私を起こし問い詰めようとしたのであるが、そこで"あること"に気づいてしまう。――そう、私の左腕から成美の反応……いや、厳密には匂い(?)を感じ取ったのである。

 そこから思考は飛躍をし、どうして人間が従姉妹の体の一部を所有しているのかという疑問を彼女は持った。そうして、冷静になれないまま答えを得ようと早まった。

 

「早まったって……まさか」

 

「危うく半殺しにされるところだったよ」

 

「だった……?」

 

 何を血迷ったのかこいつ、人に質問するのに先立って問答無用で危害を加えようとしてきたのであるが、そこは華麗に切り抜ける立香さんだった。

 

「偶然見ていた夢の影響で、気づいたらCQCをキメていたらしくて……朝起きたらこいつが白目ひん剥いて腕の中にいたわけよ」

 

「あの時は逆に私が死ぬかと思ったわ。容赦してくれないんだもの……///」

 

「頬を赤らめて言うなよ」

 

「うわぁ……」

 

 寝ている人間が手加減なんて考えられっかよって話だ。

 そんなわけで、不法侵入をされた挙句に命まで狙われかけた私は、マイノグーラに正体を単刀直入に尋ねて成美の関係者であることを暴露してもらうと、彼女がもうこの世にいないことと事の始まりと顛末について小さなテーブルを挟んで語り聞かせた。

 

「でまあ、何とか納得してもらえてその日は帰ってもらったわけなんだけど―――あろうことかその翌日、しれっと近所に越して来ただけじゃなく私の通う高校に転入してきやがったんだよこいつは」

 

「――何でじゃ!?」

 

「愛の為よ!」

 

「なぜそこで愛ッ!?」

 

 ……違う、全然違うぞ当時の答えと。

 確か私が同じように問い詰めた時には、成美が守った命だからとか純粋に興味が沸いただとか、それはもう今と比べたらキレイなことをおっしゃっていたはず。

 なのに、どうしてこうレズを拗らせてしまったのか未だに理解が出来ない。出会って暫くは本当にまともだったのになぁ……。

 

「中毒性のある生命力を目の前にこの私が冷静でいられると思って?」

 

「キチガイスマイルで堂々と言うなよ……それにご飯粒ついてて迫力がない」

 

 じゃあ取れというアイコンタクトを飛ばして来るので取ってやると、その手を掴んで離さず彼女は人差し指を口内に引き寄せる。

 

「……はむっ」

 

「人が親切に取ってやったのに、これみよがしに生命力を摂取すんのやめてくんない!?」

 

 空いてる手の方でチョップを喰らわせて引き剥がすと、物足りなさを表すように彼女はむすっとふて腐れた。……あとで自室でたっぷり吸わせてやるから今は我慢してくれ。周りからの視線も痛いし、もっと協調性を前面に出していこうぜ。

 

「――ねぇねぇ、さっき言ってた『ティンダロス』と『ヘルハウンズ』っていうのはー?」

 

 これからのカルデアの作戦には関わってこないらしいが、興味本意で詳しく知っておきたいと希望するアストルフォきゅんが爛々と目を輝かせて身を乗り出してくる。

 ……悪いが、聞いたところで楽しい内容じゃないし結構物騒なんですが。それでも良いなら話してあげるけど……えっ大丈夫? その方が聞き応えあるからって、勇気あるなぁ。

 まあいいやと生み出した元凶が隣りにいるなかで、自分でも完璧には理解してない存在の話を私は話し始めた。

 

「……ティンダロスの猟犬について語るのは骨が折れるから掻い摘んで話すけど、基本的にヘルハウンズと同じように時間遡行の反応に過敏で、『時間に内包されている既に決定した出来事』に干渉した生物を殺すために生きているんだ」

 

「だからさっきは警戒していたわけですか。カルデアの行動は拡大解釈すればそのまま引っ掛かってしまいますからね」

 

「うん。だけど、特異点Fではにもかかわらず襲われなかった。その時点で気づくべきだったんだろうが、コイツが無理矢理入り込んできたせいで遠回りをして殺りに来たと思ってしまったんだ」

 

 結果的にこちらの勘違いだったわけだが、そうならそれでもう少し登場の仕方ぐらい考えて欲しいものだ。……言ったところで守ってくれなそうではあるがな。

 

「猟犬は時間が生まれる以前の遥か大昔の、最初の不浄が生まれた場所に住んでいて……直線あるいは直角、120度よりも鋭い角度がある空間において出現することが出来るらしい。聞いててわかると思うが大体の建物の部屋には引っかかるな」

 

「では、侵入を阻止するには部屋からそのようなポイントを無くす必要があるのですね?」

 

「……粘土みたいなものを手当たり次第敷き詰めれば出てこないと思うが、これはあくまでティンダロスの猟犬に限った話だ。マイノグーラが従える実の子供たるヘルハウンズは、そんな事をしたところで確実に襲ってくる」

 

「機能制限版と製品版のような関係、というわけか」

 

「ちなみにヘルハウンズはマイノグーラとシュブ=ニグラスっていう男性の相も持つ女神の子供で、ティンダロスの猟犬はその子孫みたいなものだ」

 

 女神同士のちょめちょめの結果がこれだよ!

 てか、清浄&曲線ぶち殺すマンになるほどのおぞましい行為って、どれほどの事が過去にあって人間が目をつけられるに至ったんですかねぇ。

 

「わかんないわ!」

 

「……忘れたの間違いだろ」

 

「そうとも言うわね!」

 

 ママの味がするお菓子のキャラクターよろしくはぐらかされたわけだが、知ったところでどうにもしようがなく現実を受け止めたらそれはそれで正気じゃいられなくなる。

 ……スルー安定、良い子のみんな立香お姉さんとの約束だぞ。

 

「実を言うと、制限付きのティンダロスの猟犬の方が統計的に遭遇率高いんだよね。私は襲われたことないけれど」

 

「むしろ、時間遡行を経験された方が多いことに驚きです……」

 

「聞いた限りでは、どの証言も別の世界の未来でとても人が生きていける環境じゃなくなってたからって逃げてきたっていう話だったけど……一番酷いのは特定の人間以外は全員神話生物の信者、配下になってるっていう、人が人を信じられない世界から来たってやつかな」

 

 その世界でも結局イス人に助けられたとのことだが、私達のいる世界と違ってタイムトラベルの装置の仕組みや原理が異なるようだった。……精神のみか肉体丸ごとかで結構分かれるものなのだなぁと関心したぐらいである。

 

「つーか、イス人も世界がこうなることを前々からわかっていて、しかも私が解決に乗り出すことを想定した上で手を貸してくれていたのか……」

 

「その点については謝っていたわ。でも、本心から助けたいと願っているとも言っていたことは確かよ」

 

 ……だろうな。でなけりゃ飲み会に普通に誘ってくるだとか誕生日を毎年祝ってくれるなんざしてくれるわけがない。

 何だかんだで人を、自分を愛してくれていることは十分過ぎるぐらいにわかっているよ。――だからこそ、それに報いる行動しなければならない。

 

「……もう一度確認しておくが、この人理焼却は神話生物の間でも問題視していて手を拱いているという認識でいいんだな?」

 

「ええ、そうね。少なからず人間社会に紛れていた連中には被害が出ていると聞いているわ。彼等も貴女が協力しているここの連中と共同戦線を出来れば張りたいようだけども、時間の概念から切り離している磁場の影響と自分達の容姿とかに悩んでいてなかなか上手く行かないみたい」

 

「お前は人間態持ってるし契約云々で干渉しやすいからな……私とも面識ちゃんとあるし、そこを買われて先行させられたんだな」

 

「そゆこと。――でも気をつけて、不確実だけど今回の黒幕やその協力者がこちら寄りの使い魔や同胞を従えているかもしれないらしいわよ」

 

 えっ、待って……幻想種に混じってナイトゴーントやミ=ゴの群れが襲ってくるかもしれないってこと? ――それを早く言ってくれよ!!

 ……うへえ、だったらめんどくさい事になりそう。絶対これ話の途中で邪魔しに入ってくるパターンだ。初見で目撃したら絶対固まられると思うので、今のうちに最低限予備知識を皆に植え付けておくべきか。……特にモニタリングするスタッフが危ないかもしれない。自動フィルタリング機能でもあとで突っ込んでおこうかしら。

 

「どんだけ不気味なんだ神話生物ってのは……」

 

「全員が全員そうであるわけじゃないけども、ビジュアル的に良くないし初邂逅では好印象を抱きにくいよ……私ぐらいに慣れて初めて気にならなくなる感じ」

 

「立香ぐらいってアレじゃろ、故郷を滅ぼされて移民をせざるを得なくなった言葉の通じない連中を、出会ってすぐ受け入れるぐらいの寛容性の豊かさ……」

 

「……心の広さ、化け物レベルじゃねえか」

 

 最初から持ってたら自分もドン引きしてると思う。何事も経験の積み重ねが大事っすね。

 ……話を元に戻すが、先の情報が確実であったとしたなら、余計に対策用の装備を整えなければなるまい。持参した荷物だけで足りるかなぁとちょっぴり不安だ。

 

「未開封の国連経由の物資に何が含まれているか、だな……」

 

「フィリピン爆竹は欲しいところね、アレは使ってて楽しいし!」

 

 ねぇよ絶対、と乾いたツッコミを入れたところで食事会はお開きとなり、食器の後片付けを待って私達は各々の役割を果すべく移動した。……目的の倉庫は、生活区域の最深部辺りだったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

『………』

 

 アーチャー二人とアサシン一人を引き連れて、やたらとデカイ倉庫の中に突入した物資確認チームの自分達であるが、入って早々に誰もかもが言葉を失っていた。来る途中まで他愛もなく談笑していたというのにこの落差、ヤバすぎる。

 

「何だこれ」

 

「ご覧の通り、物資のオンパレードだな……恐れずにかかってこいと言わんばかりの」

 

「……無茶言うでない」

 

「あはははは―――はっ?」

 

 マイノグーラが楽しそうに飛んで量をざっと確認してきてくれたが、彼女すらも笑顔を失い困惑するレベルの数であったようだ。軽く通販サイト開けるぐらいの。

 ……ダヴィンチちゃんめ、わかってて全部丸投げしやがったな。

 

「嵌めおって……」

 

「ノッブ、ステイ。あとで全員でカチコミに行こう。その時は止めやしないから」

 

「拘束は俺に任せてくれ」

 

「なら、折檻は私が」

 

 満場一致で作業後の行動を決めると、効率重視のためにエリアをカラーテープで区切り、部分的に解析を用いたリストアップをエミヤにしてもらう。

 私はその横でタブレット片手に読み上げられた情報を入力していくわけだが、この一連の作業……スタッフにやらせていたら何日浪費した上に何人倒れていたことだろう。考えるだけでも頭が痛くなってきた。

 

「トイレットペーパーや洗剤、調理器具や機器……一般的な日用必需品は問題なく数があるな」

 

「正直、ペーパーとかは数が足りなくなったら自分達で生産せなあかんのかと警戒してた」

 

「流石の私もそれ関連の知識は乏しいぞ」

 

 もし必要になったら製紙系の技術を持った英霊を探す必要が出てくるわけだが、そんなピンポイントなニーズに答えてくれるサーヴァントなんて果たして座に居るのだろうか。

 

「……紙に限った話ではないが、生産系に通じた英霊から技術を吸収するのは有りだろう。こんな状況だからこそ先達の知恵は活きるというものだ」

 

「了解、検討しておくよ」

 

 建物内の設備はしっかりしていようとも置かれているのは絶海の孤島に等しい。使える技術は増やしていかないとな。

 今いる区域は一通りチェックが終わったので次の区域に移動し、床に手を添えてエミヤがまた―――ん?

 

「どうしたの」

 

「……私の解析に間違いがないのなら、フォードがあるようなのだが」

 

「フォードって何じゃ」

 

「フォードっていうのは車のことで……」

 

「――此処の何処にあるというの?」

 

 マイノグーラの指摘通り、あの大型車が収まりそうなスペースは何処にもない。もしやプラモデルのような玩具のたぐいかと疑うもそうではないと彼は首を横へ振った。

 そのブツがある詳細な場所を教えてもらい、小柄な箱を手に取った私は中身を覗き見ると確かに精巧に作られたフォードのミニチュアがあった。

 

「正確な車種はフォード・エクスプローラースポーツトラックか」

 

「わかるのか」

 

「乗ったことがあるから―――あ”っ!?」

 

 ふと過去に乗せられたことがあるのを思い出すと、どのように持ち主が車を扱っていたのか一部始終が過ぎった。何故あるのかはさておき、これはもしそうなら迂闊に触ってはいけない。

 

「エミヤの解析に間違いはない。……これは本物のフォードだよ、小さくはなっているけど」

 

「待て、その言い方だと何かすれば大きく……元のサイズになるのか?」

 

「それは試してみないとわからないけれど、今は閉まっておこうね……大惨事にしかならないから」

 

 ペンで目立つようにサインを入れておき、元あった位置に戻しておく。さてと、開封作業を再開しようぜー………ってまたかいな。

 彼の手が再度止まり、更なる衝撃の事実が私達に襲いかかる。

 

「今度は何があったの、眉間にしわ寄せてさぁ……」

 

「――本当に国連経由の荷物なのか、ここにある全部」

 

 変な質問だな、そうだから置いてあるんじゃんか。……え、聞いている意味合いが違う? 国連経由だが国連自体が意図して送ったものではなく……第三者の意志が絡んでいるのではないかって?

 恐る恐るそう考えるに至った根拠を尋ねてみた私は、エミヤの主張に耳を傾けて―――直ちにがっくりと肩を落として項垂れた。

 

 

 

 

 

「フィリピン爆竹が1000個ある」

 

「あいつかああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 ……その後も、大量の消火器やらアルコール度の高いお酒に加えて、業務用ローション&大人のおもちゃ、PDF化した魔導書が入った端末などが見つかり、無事(?)に私の装備も充実したのであった。わーい(白目)!

  




はい、全力で嫌なフラグが立ちました。
そして、サプライズ(フィリピン爆竹&フォード)だぞ、喜べ(目逸らし

ていうか、そろそろ1章入りたい(願望
でも、入る前に設定集1回だけぶち込むかもです。登場人物一気に増えたからね。

7/23追記:話数とると面倒なのでTIPS形式にしますので、次回も普通にお話です。オルレアンついに突入?

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