不死人、オラリオに立つ   作:まるっぷ

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ようやく始まりました、最終決戦。

ソード・オラトリア本編のような躍動感のある描写を目指して頑張りたいと思います。


第四十三話 開戦

ピシリ、と、前触れなくガラスが割れる。

 

時刻は夜。部屋で一人酒を飲んでいたロキは、手元から生じた音の発生源へと目を落とした。

 

「………」

 

グラスから滴り落ちる真紅の葡萄酒。足元に敷かれた高級そうな絨毯が汚れる事など気にも留めず、朱色の瞳はそこに広がる赤い染みを食い入るように見つめていた。

 

「………ファーナム」

 

何故か抱いてしまった不吉な印象に、その名が零れ落ちる。

 

返事はない。

 

何故なら彼は今、地の底深くのダンジョンへと潜っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睨み合う両軍。

 

『闇の王』率いる不死の軍団は、これまで数多の世界の神々を屠ってきた、まさしく神殺しの旅団。髑髏の鎧を纏った不死たちの瞳は神と、それを妨害する者たちへの殺意に塗れている。

 

それに相対する者たち。

 

オラリオが誇る最大派閥【ロキ・ファミリア】の上級冒険者たち。そしてその一員たるファーナムの招集に応えた、ドラングレイグを旅した歴戦の不死人たち。人と不死人の連合軍が、闘志に燃える瞳で『闇の王』たちを睨み返す。

 

 

 

「皆の者―――」

 

『闇の王』が口を開く。

 

 

 

「お前たち―――」

 

ファーナムが口を開く。

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

「―――鏖殺(おうさつ)せよ」

 

「―――()くぞッッ!!」

 

 

 

 

 

片や、静かに。

 

片や、激しく。

 

相反する声色を以て―――――開戦の幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!』

 

轟く雄叫びは大気を揺らし、この場にいる全員の鼓膜を叩いた。ダークソードを振りかざす闇の騎士たちと、ファーナムの招集に応じた数多の不死人たちは、各々の得物を手に脇目も振らずに戦場へと走り出す。

 

そんな中であって、時を止めている【ロキ・ファミリア】。目の前に広がるこの規格外の光景に、未だ信じられないといった顔で呆然と立ち尽くしていた。

 

それも無理はない。これはオラリオ始まって以来の、類を見ない規模の大戦争なのだ。人の子として生まれた彼らの思考が停止してしまうのは、むしろ当然と言えよう。

 

が、いつまでも呆けている訳にはいかない。

 

「皆」

 

その声に一同はハッと我に返った。

 

統一感のない恰好をした不死人たちが戦場へと駆けてゆく中、【勇者(ブレイバー)】の二つ名を冠する冒険者は背後の仲間たちへと言葉を贈る。

 

「彼がここまでしてくれたんだ。僕たちも精一杯の働きを以て応えよう」

 

彼が手にする金色の槍が輝く。灰色で覆われたこの空間の中においてそれは、まさしく勇気の旗印。我らが団長の言葉に、誰もが止めていた時間を呼び起こす。

 

「これで動かない者はもう冒険者じゃない……そう。僕たちは今、試されている」

 

オラリオのみならず世界中に名を轟かせている【ロキ・ファミリア】。その名声に見合うだけの勇気があるのかどうか、この戦いが問うているのだ。

 

そう語る【勇者(ブレイバー)】の瞳には、いつしか火が灯っていた。

 

彼だけではない。

 

九魔姫(ナイン・ヘル)】も、【重傑(エルガルム)】も、【単眼の巨師(キュクロプス)】も。

 

凶狼(ヴァナルガンド)】も、【怒蛇(ヨルムガンド)】も、【大切断(アマゾン)】も、【千の妖精(サウザンド・エルフ)】も。

 

そして【剣姫】も。

 

ラウルたちサポーター勢までもが、熱い闘志を滾らせる。

 

「なら見せつけてやろう、オラリオの冒険者たちの力を。不死人たちの戦場に殴り込んでやろうじゃないか」

 

そして。

 

ここまでしてまだ足らないとばかりに、彼は一同の心を最大限に昂らせる言葉を言い放った。

 

 

 

「抗う者の力を見せつけてやろう―――あの少年、ベル・クラネルのように」

 

 

 

『―――――ッ!!』

 

直後に湧き上がる様々な感情の嵐。

 

道中彼らが目撃した、とある少年とモンスターの一騎打ち。それは一級の戦闘力を誇る彼らからしてみれば、児戯にも等しいものだったのかも知れない。

 

しかし、それでも惹き付けられた。

 

少年の叫び(こえ)に、意地(おもい)に……格上の相手に立ち向かうその雄姿(すがた)に、冒険者としての矜持をいたく刺激されたのだ。

 

「……上等だ」

 

「やってやるわ」

 

「そうだっ、やってやろう!」

 

「……うん」

 

準備は完全に整った。

 

一人一人がその顔に気魄(きはく)を滲ませ、得物を握る手にこれでもかと力を込める。

 

「皆―――()こう」

 

勇者(ブレイバー)】のその声を契機に。

 

彼らもまた、目の前に広がる戦場へと参戦した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾多の足音が灰の大地を揺るがし、無数の雄叫びが上がっている。

 

両軍共に感情を昂らせ、これより戦う敵へと得物の切っ先を向ける。闇の騎士たちがダークソードで統一しているのとは対照的に、ファーナムの招集に応じた不死人たちの得物は様々である。

 

その不死人たちの中であって、先頭を走る二つの影があった。

 

一人はドラングレイグの王国剣士が身に纏っている鎧で統一した者。両の手でしっかりと握った『巨象の斧槍』を構え、一番槍を我が手にしようと一心不乱に駆けている。

 

そんな彼と並走しているのは、好々爺然とした面持ちの老騎士。兜のみを外した装備は上級騎士のそれであり、しかし手にしている『煙の特大剣』は、騎士が扱うにしては不釣り合いな程に巨大だった。

 

「随分と速いな、お前さん!(じじい)のクセしてよ!」

 

「かかっ!我ら不死人に年など関係あるまいて!」

 

軽口を交わし合いながらも、走る速度は更に上がる。

 

重量級の武器を手にしているにも関わらず、自陣から頭ひとつ飛び抜け疾走する二人に追いつける者はいない。故に一番槍を手にするのは、この二人の不死人の内のどちらかであろう。

 

「どけっ、最初に斬り込むのは俺だぁ!!」

 

「一番槍の栄誉、吾輩が貰い受けるっ!!」

 

 

 

―――実体 孤児院の兵士リクハルドが現界しました―――

 

―――実体 老騎士ファランディアが現界しました―――

 

 

 

接敵までもう僅か。一番槍を手にするのは、果たしてどちらか。

 

リクハルドとファランディアはそれぞれの得物を振り上げ、髑髏の軍勢へと勢いよく斬り込む―――――その直前で。

 

 

 

二人の頭上を、(まばゆ)い橙の稲妻が通過した。

 

 

 

「「 !? 」」

 

激しい雷鳴と共に飛んできた奇跡『太陽の光の槍』は、ちょうど二人が斬り掛かろうとしていた集団へと直撃した。闇の騎士の一人を貫いてもなお勢いの衰えない雷槍は、後方にいた者たちまで巻き込み、突き進んでゆく。

 

突然の事に身体を硬直させるリクハルドとファランディア。この奇跡を行使した者はと言うと、その小柄な体格を活かして二人の間を縫うようにして追い越し、隊列が崩れた敵陣へと突貫していった。

 

「はぁあ!」

 

「ぐぁ!?」

 

裂帛と共に鋭い斬撃が、闇の騎士へと叩き込まれる。

 

咄嗟に左手の『ダークハンド』で防ごうとするも、遅い。袈裟がけに斬撃を叩き込まれた闇の騎士は血とソウルを噴出し、背中から地面へと倒れてしまう。

 

ザッ!と地を削りその場で急停止したのは、ハイデの騎士のグレートヘルムで顔を隠した不死人。ファーナムの鎧、その胴部分に自らが描いた太陽のシンボルマークと同様に()()は明るく、そして高らかに声を上げる。

 

「一番槍っ、(もーら)いっと!」

 

 

 

―――実体 太陽戦士ソラリアが現界しました―――

 

 

 

「あいつに続けぇーーーーー!!」

 

「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

後れを取るまいとばかりに突貫してゆく不死人たち。得物と得物がぶつかり合う激しい剣戟がそこら中で鳴り響き、ついに本当の戦闘が始まった。

 

そんな中でリクハルドとファランディアは、互いに斧槍と特大剣を握ったまま彫像のように固まっている。それを隙と見た闇の騎士たちは、二人に照準を合わせた。

 

「おい、あの二人を殺るぞ!!」

 

しかし彼らは気付くべきであった。

 

二人は戦場に臆して突っ立っていた訳ではなく―――。

 

 

 

「「 ……おおぉぁあああああああああああああああッッ!! 」」

 

 

 

―――一番槍(見せ場)を掻っ攫われ、憤懣(ふんまん)遣る方無かっただけなのだと。

 

「がッ!?」

 

振るわれた斧槍と特大剣。その一つだけでも高い威力を誇ると言うのに、二つ合わさればどうなるか……それは火を見るよりも明らかだった。

 

五体をばらばらにされて吹き飛ばされた闇の騎士。意図せず合わさったその威力は、もはや凶悪そのものだ。

 

「なっ……!?」

 

「こいつらっ、っぎゃあ!?」

 

一瞬の内にやられた同胞の末路に浮足立つ、その時間すらも与えられなかった。

 

巨象の斧槍が、煙の特大剣が、次々に襲い掛かる。闇の騎士たちも当然応戦するも、どちらか片方の攻撃を防いだ矢先にもう片方の攻撃がやってくる。

 

「これじゃ斬り込み兵の名折れだ、畜生!」

 

「えぇい、あの小娘めっ!空気を読まぬか!」

 

言い様のない不満を目の前の敵へとぶつける彼らは、しかし確実に相手を押している―――ちなみにこの時、戦場のとある場所では『へくちっ!』という気の抜けたくしゃみをする者がいた―――。

 

二人の不死人は豪快に得物を振り回し、敵陣深くへと斬り進む。

 

猛攻は、まだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

初手こそ押され気味だった闇の騎士たち。しかし彼らはそこから持ち直し、今は互角の戦いを繰り広げている。

 

響き渡る剣戟と雄叫び。神々を滅さんとする闇の騎士たちと、招集に応じた不死人たちの戦いざまは、軍神ラキアが毎度オラリオに仕掛けてくる戦争(ちょっかい)とは比較にもならない。

 

「ふんっ!」

 

ファーナムは現在、その只中にいる。

 

前線に限りなく近い場所で両手の武器『野盗の斧』と『蛮族の直剣』を振り回し、襲い来る敵と交戦していた。容赦なく斬りかかってくる凶刃をその刀身で受け止め、返す刀で斧を叩き込む。

 

噴出する血とソウルには気にも留めず、彼はただ一点を目指す。それは『闇の王』がいるであろう、敵陣の最奥だ。

 

「シィッ!!」

 

「っ!」

 

意識が僅かに逸れた瞬間を狙いすましたかのようなタイミングを敵は突いてくる。無防備にも晒してしまった背中へ、闇の騎士は構えたダークソードの切っ先を突き立てようする―――が、それは叶わなかった。

 

ギャリッ!という金属音と共に、その刃は盾の表面を僅かに傷つける。二人の間に割り込んだルカティエルが盾を構え、その攻撃を防いだのだ。

 

「ハッ!」

 

前のめりとなった闇の騎士、その腹部を『正統騎士団の大剣』が深く抉る。ごぶっ、と髑髏の仮面の隙間から鮮血が溢れ出し、身体が硬直。止めとばかりに彼女は腕を振り抜き、相手の身体を半ば両断した。

 

「気を抜くな、ここは最前線だぞ!」

 

「っ、すまん!」

 

息つく間もなく繰り出される敵の刃を受け止めながら、ファーナムはルカティエルと言葉を交わす。

 

ミラ出身である彼女の戦いぶりは実に様になっていた。正統騎士団に所属していたという言葉の通り、彼女の真価はこう言った戦場でこそ遺憾なく発揮されている。頼もしい仲間の存在に、ファーナムは感謝が絶えない思いだ。

 

「ぬうぉぉおおおおおっ!!」

 

そしてもう一人、頼もしい存在がいる。豪快な立ち回りを演じているバンホルトだ。

 

『漢』らしく複数人相手でも一切怯まず、それどころか逆に押していた。勇猛果敢なウーゴの武人はその顔に笑みすら浮かべ、一族伝来の剣『蒼の大剣』を誇らしげに振りかざす。

 

「ワハハハハッ!我が一族に伝わりし『月光』の力、とくと思い知るが良いっ!!」

 

ただ、相変わらずその大剣の正体に気がついてはいない様子だが。

 

「……やはり私には、あれがそれほどの代物には見えないのだが。いや、確かに優れた剣ではあるのだろうが……」

 

「……言わぬが花、というやつだ」

 

バンホルトの雄姿は凄まじいが、彼の発した言葉には疑問を抱いてしまうルカティエル。それについてファーナムは深く言及せず、しかしそれとなく彼女の考えが的を射ている事を告げる。

 

無論、そうしている内にも攻撃の手は止まない。二人はいつしか四方を囲まれ、互いに背を合わせて相手を牽制する構えを取った。

 

その姿は、まさしく“戦友”と呼べるものだ。

 

「何故、来てくれたんだ」

 

「なに?」

 

ファーナムの口から零れ落ちる疑問。それはほとんど無意識のものだった。

 

ドラングレイグで何度も共に戦った仲ではあったが、そこに深い意味はなかったはず。既に荒んでいた心を日に日にすり減らし、心中を吐露する彼女に対してもロクな言葉をかけてこなかった。

 

なのに、何故?

 

ファーナムはそれが不思議でならなかった。戦場という一部の油断も許さない状況であっても、それだけは確かめたかったのだ。

 

「ああ、そんな事か」

 

それを聞いたルカティエルは小さく笑った。

 

彼女は視線だけは敵から外さないまま、その理由を語る。

 

「単純な事だ。私はお前に救われたからな……あの時の、お前の言葉に」

 

「……!」

 

ファーナムの脳裏に、かつての記憶が蘇る。

 

それはルカティエルと最後に言葉を交わした場所。異形が蔓延る館の前に設けられた、小さな廃屋の中にあった篝火でのやりとりだ。

 

 

 

『私がまだ、正気でいられるのは、お前のおかげだからな……』

 

呪いを解く旅路に疲れ果て、日々曖昧になってゆく己の記憶に苦悩した彼女が零した弱音。自分がまだ正気を保てているのはお前のおかげだと言うルカティエルに、ファーナムはこう返した。

 

『俺は何もしていない。お前が勝手に覚えているだけだ』

 

『………え?』

 

『亡者になるのならそこで果てろ。俺は先へ行く』

 

あの時の彼の心は荒んでいた。共闘するのは都合が良かっただけであり、そこに感情などはなかった。だからこの時に放った言葉も、相手の事など一切考えてはいなかった。

 

だからこそ、彼女は立ち上がる事が出来たのだ。

 

 

 

「お前の言葉で目が覚めた。呪いに抗うのは、他でもない自分自身なのだと!」

 

痺れを切らした闇の騎士たちが斬りかかってくる。

 

それとほぼ同時に動いたルカティエルは盾を構えつつ突進し、火花を散らして攻撃を防ぐ。ファーナムも両手の得物を構え、迫り来る髑髏の集団へと斬撃を見舞った。

 

「っ、俺は、そんなつもりで言った訳では!」

 

「ああ、だろうな!」

 

突き出された直剣に頬を浅く切り裂かれながらも、ルカティエルはその身を翻し反撃。眼光鋭く急所を狙い、そこに合わせるかの如く大剣を薙いだ。

 

その最中であっても、二人の会話は途切れない。

 

「だが、切っ掛けをくれたのはお前だ!」

 

「っ!」

 

敵の攻撃を盾で受け止めた彼女の背中を狙う別の凶刃。それを察知したファーナムは、手中の斧を勢いよく投げつける。

 

ガッ!?という苦悶の声と共に、斧は敵の肩を直撃した。同胞の悲鳴に一瞬気を取られてしまった闇の騎士は、ルカティエルが繰り出した盾による突き崩しをまともに食らってしまう。

 

そこへ割って入るファーナム。彼は右手の直剣を逆手に構えて振りかぶり、体勢を崩した敵の顔面へと容赦なく突き立てた。

 

髑髏の仮面は真っ二つに割れ、鮮血が宙を舞う。どさりと倒れた身体は一度だけ小さく痙攣すると、そのままソウルへと還っていった。

 

かき消えるように霧散する同胞の姿。一斉に襲い掛かったにも(かかわ)らず未だ健在の二人に、闇の騎士たちは攻めあぐねている様子だ。

 

再び膠着状態となる中、ルカティエルの言葉が響く。

 

「……お前がいたから、私は今ここにいる。心折れずに旅を続けられた私がいる」

 

 

 

―――だから今度は、私がお前を助ける番だ―――

 

 

 

「―――――ッ」

 

込み上げてくる感謝の念。このオラリオへ来てからこの思いを抱くのは、一体何度目になるのだろうか。

 

これまでの全てが繋がって、今があるのだ。最後の最後で諦めてしまったドラングレイグでの旅路も、【ロキ・ファミリア】と出会いも、何一つとして無駄なものではなかったのだ。

 

だからこそ、ファーナムは皆に応えなくてはならない。

 

オラリオのみならず、あらゆる世界の神々を殺し尽くそうとしている『闇の王』の歩みを、ここで止めなければならない。敵陣の最奥で待ち構えているであろう不死人の姿を幻視し、ファーナムは眦を鋭く裂いた。

 

「ぬうぅぅんっ!!」

 

と、ここで動きがあった。豪快に斬り暴れていたバンホルトが二人の元へと合流を果たしたのだ。

 

「ッ、バンホルト!」

 

「おお!貴公、それにルカティエル殿!大事ないか!?」

 

「ああ、今はまだな」

 

敵の壁をぶち破ってやって来たバンホルトは幾らか攻撃を貰っている様子だが、それでも戦闘に支障は出ていない。単身で複数人を相手にするという危険な戦法も、この武人ならではのものだった。

 

四方は未だ敵に囲まれたまま、しかしそれも完全ではない。ルカティエルは睨み合いの最中で思考を巡らせ、この状況から脱するべく、ある案を口にした。

 

「あそこが手薄になっている。私とバンホルトが敵の注意を引くから、お前はそこから斬り込め」

 

彼女が目線で示した箇所を見てみれば、確かにそこだけ敵の層が薄いところがあった。そこさえ突破すれば、他の不死人たちが切り開いた新たな戦場への道が開かれる。

 

戦闘が長引けば、それだけ『闇の王』に考える時間を与える事になる。全く別々の世界を繋ぐほどの力を持つのだ、他にどんな隠し玉があるのか分かったものではない。

 

状況は一刻を争う。他の案を考える余裕などはなかった。

 

「ルカティエル、バンホルト……ありがとう」

 

“すまん”ではなく、“ありがとう”。

 

謝罪ではなく感謝を以てこの場を任せる選択をしたファーナムは、新たな武装―――メイスと『タワーシールド』を取り出し、身を屈める。そして次の瞬間には、弾かれたかのような速度で飛び出していた。

 

「!?」

 

武装を変えた直後の、それも単独の強襲は闇の騎士たちの驚きを誘い、動きが一拍遅れてしまった。そんな彼らの事など眼中にないかのように、ファーナムは斜めに構えたタワーシールドで容赦なく()()()()()

 

「がぁッ、ぁああ!?」

 

「ぐおぉっ!?」

 

その突進の威力たるや、まさしく猛牛の如く。

 

辛うじて踏み留まろうとする者がいれば右手のメイスを振るい、直撃した箇所の骨を粉砕して押し通る。倒れた敵を踏みつけ、ファーナムは先へ先へと進撃していった。

 

「あいつを止め……!」

 

「させぬわっ!!」

 

追いかけようとする闇の騎士たちをバンホルトの蒼剣が遮る。蓄えた髭が逞しい偉丈夫は、これぞ『漢』とでも言わんばかりに、再び豪快な立ち回りを演じ始めた。

 

「全く……まるで小さな嵐だ」

 

周りの事など全く考えていない戦法にルカティエルは嘆息しつつ―――かつてのドラングレイグで共闘したファーナムも中々だったが―――も、そこはかつて正統騎士団だった身。彼が仕留め損ねた闇の騎士たちに止めを刺す形で、バンホルトとの共闘を器用にこなしている。

 

ちらりと横目で確認してみるも、ファーナムの背中は既に見えない。敵味方入り乱れるこの最前線でそれを確認しようとする事が無謀なのかもしれないが、それでも彼女は確信している。彼は必ずや『闇の王』のいる最奥へと辿り着くのだと。

 

根拠はない。強いて言えば、それは“直感”に過ぎない。学者肌の者が聞けば鼻で笑われても仕方がない程の、原始的な感覚。

 

なればこそ、ルカティエルは己が持てる限りの力で応戦する。

 

いつだって最後には勝利をもぎ取って来た、どこまでも“優しい”ファーナム()の為に。その歩みの障害となる可能性のある者を、徹底的に排する為に。

 

「おぉ―――ぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

雄叫(たけ)びよ、想いよ、届け。

 

その身に呪いを受けた女騎士はその一心で、剣を振るう。

 

ただひたすらに……友の為に。

 

 




前回の後書きで募集致しましたオリジナル不死人につきましては、皆さまのご応募、誠にありがとうございます。これほどたくさんのご意見を頂けるとは思っていませんでしたので、返信を見た時は驚きの連続でした。またどれも惹かれる設定ばかりで、中々キャラを絞れませんでした(笑)。

なので、当初は3~4人ほど出そうとしていた不死人でしたが、出来るだけ登場させてみようと思います。とりあえず、11/3現在までにご応募頂いたキャラは出せるように頑張りたいと思います……だってどれも素敵ですしおすし。


~今回登場した不死人~


孤児院の兵士リクハルド 九四式(旧ヌンムン)様

老騎士ファランディア FALANDIA様

太陽戦士ソラリア 123G様


以上の皆さまです。本当にありがとうございました。








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