不死人、オラリオに立つ   作:まるっぷ

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読み返していたら勘違いしていた箇所がありましたので訂正いたしました。

第一話冒頭で「遠征の帰還の最中」としていましたが、正しくは「遠征の途中」でした。

申し訳ありませんでした。



2017年 10月13日

主人公とアイズ達の邂逅シーンを若干変更しました。


第一話 邂逅

「あ~~~!!早く帰ってシャワー浴びたーい!美味しいもの食べたーい!」

 

「うるせぇぞ馬鹿アマゾネス。そんなに腹減ってんだったらそこらのミノタウロスでも食ってろ」

 

「モンスターなんて食べられる訳ないじゃん!ベートと一緒にしないでよ」

 

「俺はモンスターなんざ食わねぇよ!!ふざけた事抜かしてんじゃねぇぞコラァ!」

 

「ちょっとうるさい。帰りくらい少しは静かにできないの?」

 

「しょーがないよティオネ、だってベートったらすぐ怒鳴るんだしさ。ここは大人なあたしたちが我慢してあげようじゃない」

 

「あんたにも言ってるのよ、ティオナ」

 

「えーひどーい!あたしはベートみたいにキャンキャン吠えたりしてないもん!」

 

「てめぇ、そんなに死にてぇか……!?」

 

ダンジョン第四十九階層。それが現在彼らがいる場所だった。先頭を進むのは灰色の髪を持つ狼人の青年、ベート・ローガ。その後ろを露出の多い踊り子のような衣装を着たアマゾネスの姉妹、ティオネ・ヒリュテとティオナ・ヒリュテが続く。そして最後列には無言で彼らの後を付いてくる金髪の少女、アイズ・ヴァレンシュタインがいた。

 

彼らロキ・ファミリアは現在、『遠征』の最中ではあるのだが、現在は第五十階層の安全圏にて大規模な休息をしている。ロキ・ファミリアは大きなファミリアなので、団員達の中でもレベルによる体力の差などにより、疲労の大小はさまざまである。よって団長であるフィン・ディムナの発案により、現在は休息を取っている。

しかしアイズを始めとする高レベル冒険者は体力的な面から言ってもまだまだ余裕がある。そこでフィンの許可を貰い、他の団員が休息中に、今まで通ってきたダンジョンを戻り、少しでも自身のレベルを上げるためにモンスター狩りを行っていた。

 

あらかたのモンスターを狩った彼らは、今回はこの辺りでレベル上げを切り上げても良いだろうと判断し、フィン達が休息を取っている第五十階層へと帰ろうとしていた。

 

その時であった。

 

「あぁ?」

 

「なにあれ?」

 

先頭を行くベートの更に前方、およそ100Mほどの距離にモンスターの集団を発見した。そのモンスターたちは狭いダンジョンの通路を埋めつくすほどに溢れかえっており、わき目も振らずにベートたちのいる方向へと向かってくる。

 

「モンスターの集団!?」

 

怪物進呈(パスパレード)……じゃないわね。パーティなんて見えないし」

 

「ハッ、何でも良い。レベル上げの締めにゃあ丁度いいぜ!!」

 

モンスターの群れに吃驚した声を上げるティオナ、冷静に分析するティオネ、もうひと暴れとばかりに獰猛に笑うベート、そして静かに、しかし確かな闘志を燃やしながら剣を抜くアイズ。

 

数秒後、Lv5の一級冒険者四名とモンスターの軍勢が衝突した。

 

まるで黒い濁流のようなモンスターたちの塊が四人を呑み込む。一般人ならばそれだけで挽肉にされかねないような衝撃だが、彼らはLv5。当然そんな事ではやられない。

 

「オラァ!!」

 

モンスターの濁流の中、ベートの強烈な蹴りがモンスターの顔面を捉える。四足歩行だったそのモンスターは突進力もある厄介なものなのだが、ベートの蹴りはそれ以上。蹴りを入れられたモンスターは顔面をひしゃげさせながら、後方にいたモンスター数体を巻き込み、まとめて吹き飛んでいった。

 

ティオナは自慢の専用装備、大双刃(ウルガ)を器用に使いこなし、次々に襲い掛かる大型モンスターを倒していく。亀の甲羅のようなものに包まれたモンスターが一体、ティオナの前に姿を現すが、超重量の武器を持つティオナはまるで甲羅など無いかのようにそのモンスターに斬撃を見舞う。

 

目の前に飛んでくるモンスターの残骸を一対の湾短刀で器用に斬り流しながら、ティオネは自身の横をすり抜けようとするモンスターに滑らかな傷口を付ける。一瞬の間を置いてモンスターは斬られた事を自覚し、悲鳴すら上げられず地面に倒れ伏す。灰に変わるまでの間、それが後方を行く同胞の障害となり、パニックを起こす。

 

恐慌状態となった彼らを待ち受けるのは、最後尾にいたアイズだ。彼女は網に掛かった魚のようなモンスターの群れに飛び込み、一息のうちに数匹のモンスターを灰に変えた。瞬く間に灰に変えられてゆく同胞を見たモンスターたちはなおさら混乱し、前方にいる同胞を押し退けて我先にと先に進もうと暴れ回る。

 

しばらくするとモンスターの群れはいなくなり、アイズたちの周りには灰の山と、その合間から大量の魔石が顔を覗かせていた。

 

「いやー、締めにはピッタリな戦闘だったね!久しぶりに思いっきりウルガも振り回せたし!」

 

「あんたがぶった斬ったモンスターの残骸がこっちに来たおかげで私はあんまり暴れられなかったけどね」

 

「え、ウソ。まだ生きてたっけ?」

 

「だからちゃんと急所を攻撃するようにっていってるのよ。大きいモンスターは灰にならないと邪魔ったらないんだから」

 

「えへへー、ごめーん」

 

ティオナとティオネは辺りに散らばった魔石を回収しつつ、姉妹で反省会を行っている。

 

そんな二人とは対照的に、ベートとアイズは何やら腑に落ちない顔でモンスターたちが去って行った通路をながめている。

 

「おい、アイズ」

 

「なんでしょうか、ベートさん」

 

自分を呼ぶ声にアイズは顔をベートの方に向ける。ポケットに両手を突っ込んだ状態のベートは、アイズに視線を向けずに、変わらない表情のまま口を開く。

 

「さっきのモンスター共、なんかおかしくなかったか?」

 

「……はい。あれは私たちを見つけて襲ってきたというより……」

 

 

 

まるで、何かから逃げてきたような……。

 

 

 

アイズの言わんとしている事はベートにも分かっていた。彼が最初に蹴りを見舞ったモンスターは非常に好戦的な性格で知られており、ひとたび冒険者を視界に収めると、その姿が見えなくなるまで追い掛け回すほどしつこい事で有名だ。

 

しかし今回、確実にベートの姿が見えていたにも関わらず、モンスターはベートの横をすり抜けようとしていた。反射的に蹴りをお見舞いしたが、あのまま見逃していたならば、おそらくベートに攻撃せずにそのまま突っ走っていただろう。

 

アイズもモンスターに対して、ベートと似たような違和感を感じた。

 

モンスターの群れに身を投じて10体ほど倒した時点で、モンスターたちがめちゃくちゃに暴れ始めたあの時。

 

あの暴れっぷりは凄まじかったが、あれは自身の身に降りかかる脅威を排除するためというよりは、為す術がなくなり、どうしようもなかったがための苦し紛れの行動のように感じられた。

ふとモンスターたちが来た方向を見ると、ちらほらと魔石や灰が落ちている。アイズたちがモンスターたちと接触した場所からかなり離れているので、あれは自分たちが倒したモンスターのものではないだろう、アイズはそう推測した。

 

恐らくはもっと早い段階、アイズたちがモンスターたちと接触するより先に戦い、モンスターを倒した者がいる。そして何故かモンスターたちはその者から逃げ出した。死んで魔石と灰になった同胞を体にへばり付かせながら。

 

つまり、この魔石と灰の道しるべを辿っていけば、モンスターを先に倒した者たちに行き着く。

 

「おい、馬鹿アマゾネスども、いつまでチンタラ拾ってやがる。ンなモンどうでも良いからさっさとこっちに来い」

 

「うるさいなぁ、結構数があるから手間取ってるんだよ」

 

「そんなに不満ならベートも手伝いなさい。その方が早く終わるわよ」

 

「俺はそんな三下みたいな真似はしねぇんだよ」

 

アイズが思考に耽っている間に、ティオナとティオネはベートと口論しながらも魔石を回収していった。しばらくして回収作業が終わり、魔石は各々の収納ポケットに仕舞われる。ベートは最後まで魔石の収納を拒否していたが、結局は渋々ポケットの中に魔石を仕舞うことになった。

 

「それじゃあこの通路の先に、あのモンスターたちを先に倒した奴らがいるって言いたいの?」

 

「うん。飽くまで推測だけど、可能性はあると思う」

 

「もしそれが本当だったら、あたしたちレベルの冒険者がいるってことになるね。そのパーティ」

 

腰に手を当てながら、ティオネはアイズに確認をとる。曖昧で根拠も乏しい答えであったが、ティオネ自身も先程の戦闘は不審に思っていたので、アイズの考えに乗ることにした。ティオナもウルガをくるくると両手で弄びながら、好奇心から賛成する。

 

こうして四人はベースキャンプに戻る前に、少し寄り道してこの通路の先にいるであろう冒険者たちの姿を確認する事にした。

 

魔石と灰の道しるべはアイズたちの思っていたよりもずっと奥まで続いており、気が付けば現在いる第四十九階層の奥にまで来ていた。この階層はアリの巣状に道が枝分かれしており、ダンジョンとして極めてオーソドックスな造りをしている。発光する壁のおかげでだいぶ先の方まで見渡せるが、一度迷い込めば、潜り慣れていない人間にとっては非常に厄介な階層だ。

 

アイズたちは遠征や自主練習(レベル上げ)で度々この場所を訪れているので迷う事などないが、それゆえにこんな場所にまで来るパーティがいる事に内心驚いていた。

 

「ここまで来たパーティってすごいね。あたしたちでもあんまこの場所には長居しないのにね」

 

「まあそうね。ここは長く居過ぎるとあっという間にモンスターに囲まれるような地形をしてるし。案外、私たちが見つけようとしてるパーティももう全滅してるかも知れないわね」

 

「はン。もしそうだとしたら、大方テメェの身の程も分からねぇ雑魚だったってことだろ」

 

アイズは後方の三人の会話を耳にしながら、時には現れたモンスターを倒しながら、黙々と先へ進んでいった。

 

しばらく進むと通路のような迷宮のなかに突如として巨大な空間が姿を現した。ここは冒険者たちの間で通称「闘技場」と呼ばれている空間である。オラリオにある闘技場とは全く異なるが、ここで戦うと、まるで闘技場での戦いに見える事からそう名付けられた。

 

「……!!」

 

その闘技場の様子を見て、アイズたちは思わず息を吞んだ。

 

目の前には、視界を埋め尽くさんばかりの魔石と灰の山。この闘技場の中、360度どこを見渡してもそれしか見る事ができない。この光景を作り出すのに、一体どれだけのモンスターを倒したのか、考えるだけでもバカバカしくなる。オラリオのトップクラスのアイズたちでさえそう思わずにはいられなかった。

 

「なんだ、こりゃあ……!?」

 

「ここにあるの、全部モンスターの残骸?」

 

「いったい何十匹分あるのよ、コレ」

 

ベートたちが驚愕を口にしている間にも、アイズは闘技場の中を注意深く見渡した。よくよく見ると魔石以外にもドロップアイテムであるモンスターの体の一部が落ちているが、アイズは注目したのはそこではない。

 

(……モンスターの残骸がこんなに転がっているのに、冒険者側に被害を受けた形跡がほとんどない……)

 

ここまで激しい戦闘を行ったのならば、当然両方ともかなりの被害を受けたはずだ。冒険者側だって武器や防具が傷つき、その欠片が落ちていても良いものだ。しかし現状、被害はほとんどモンスター側にしか見られない。

 

「あ、ちょっと、アイズ!?」

 

不意にアイズは闘技場の中に向かって歩き出した。突然の行動にティオナが声を掛け、彼女たちもアイズに続いて闘技場内に入る。

 

灰に覆われた地面を注意深く見渡しながらアイズは歩き続けていたが、突然歩みを止めてその場にしゃがみ込み、地面に落ちていた何かを手に取った。アイズのすぐ後ろを歩いていたティオナは、アイズが拾ったものを背中越しに覗き込む。

 

「どうしたの、アイズ……って、それなに?」

 

「ボルト……だと思う」

 

アイズが拾い上げたのは丁度手のひらと同じくらいの大きさのボルトだった。クロスボウに使われるもので、弓で言うと矢の役割をするそれを装填し、射出される。弓よりも技術を要求されず、かつそこそこの威力があるのでサポーターや低レベルの冒険者はたびたび使用する。しかし上層のモンスターにこそ効果を発揮するが、ここまで深い階層ではモンスターの頑丈さも上層の比ではなく、それゆえにあまり使われることのない武器でもある。

 

「クロスボウに使うやつよね、それ。私は使った事が無いから分からないけど、そんなに頼りになる武器でもないでしょ」

 

「冒険者の姿も無しで、この階層でそんなモンが落ちてるってことは、こりゃあ本格的に身の程が分からなかった馬鹿が低レベルの奴を巻き込んで全滅したらしいな」

 

「でもその冒険者たちの武器とか落ちてないよ?やられたんならそれも無いとおかしくない?」

 

「俺が知るかよ。でけぇモンスターか何かが武器ごとそいつらを喰ったとかそんな所だろうよ。ケッ、つまらねぇ」

 

これだから雑魚は、とでも言いたげに溜め息を吐くベートを横目に、アイズは立ち上がり手に持つボルトをまじまじを観察する。

 

知識としてボルトは知ってはいたが、実物を見た事が無かったための好奇心もあるが、ひとつ引っかかる事があったのだ。

 

(……このボルト、微弱だけど、魔力を感じる……)

 

アイズが引っかかっていたこと、それはこのボルトから微かに魔力が感じられることだ。アイズたち冒険者が持つ武器には、基本的に魔法の力が付与されているものではない。それに該当しないものは『クロッゾの魔剣』ぐらいであるが、その魔剣だって折れたり砕けたりすれば魔法の効果を失う。また、魔剣自体の魔力が無くなっても砕け散ってしまう。

 

しかし現に、このボルトからは魔力を感じる。先端の鉄の部分が少し潰れていることから、恐らく使用済みであることが窺える。

 

ではなぜ使用したにも関わらずに砕けもせず、しかも魔力が感じられるのか、そもそも魔法の力が付与されたボルトなど、このオラリオに存在していたか。

 

アイズがボルトを見ながらそんなことを考えていたその時である。

 

「ちょっとみんな!こっちに来てちょうだい!」

 

闘技場に響くティオネの声。点在する灰の山によりここからはティオネの姿を確認する事は出来ないが、声色から察するに、彼女が何か見つけたのだろう。

 

アイズはボルトを魔石を入れておくポケットに仕舞い、声のした方向に駆ける。闘技場のような空間とは言え、地上にある本物と比べれば狭いので、ティオネのいる場所にはすぐに辿り着いた。

 

ティオネは闘技場の端の壁際の近くにいた。隣にはティオナが居り、二人はやって来たアイズに背を向ける形で壁側に視線を送っていた。

 

やって来たアイズは彼女たちの後ろにいたベートに何かあったのか尋ねる。するとベートはあごでティオネたちを指す。どうやら自分の目で確かめろということらしい。アイズはティオナに近付くと、その背中に語りかける。

 

「何か見つけた?」

 

「あ、アイズ。こっちこっち」

 

「ええ、見つけたわ。あなたの捜していた人よ」

 

二人がちょうど壁となり、アイズは二人の目の前にあるソレに近付くまで気が付かなかった。ティオネは自分のいる場所を明け渡すようにその場を離れ、入れ替わるようにアイズがそこに立った。

 

 

 

視線の先にあった、否、居たのは一人の男だった。

 

 

 

下半身を投げ出し壁に体重を預け寄りかかっている、鎧を身に纏った人物。そのがっしりとした体型から男性であると分かるし、尾が見られない事からも、恐らくは人間かエルフかのどちらかであろう。

 

力無く壁にもたれてはいるが、その両手にはしっかりと彼の得物が握られている。右手にはロングソード、左手には適度な装飾がなされた盾。まるで初心者の冒険者が持っているような一般的な装備であるが、身に纏っている鎧はその限りではない。

 

男の上半身を覆う鎧は誰が見ても見事という一言に尽きる代物だ。

 

金属製の鎧は重厚かつ堅牢ではあるが、その分重量があるし、なによりも動きづらいというデメリットがある。いくら防御力が高い鎧でも攻撃を受け続ければ、着用している本人は無傷では済まない。そのため重い金属鎧を愛用する冒険者というのは意外と少ない。

 

しかしアイズたちの目の前にいるこの男が身に着けている鎧は、そんな金属鎧のイメージを払拭するようなものであった。

 

重装でありながらも、関節部分は着用者の運動能力を損なわないよう、チェインメイルが組み込まれている。これにより弱点となりやすい駆動部を上手く防御できる。

 

また肩周りを覆う装飾のような毛皮は、寒冷地での行動を考慮しての防寒具として機能するのだろう。鎧の端やコートのように見える布は緑色を基調とし、これにも細かな刺繍が施されている。

 

極めつけは男の頭部を覆う兜である。

 

頭部をすっぽりと覆う兜にはT字型のスリットがあり、必要最低限の視界を確保できるようになっている。わざわざ視界を狭めるという、一見すると自殺行為のような構造ではあるが、使用者によっては頭部への攻撃を大きく防いでくれる頼もしい防具となる。

 

額にはこの鎧によく似ているものを着用した剣士と、火を吹く竜が相対している構図の彫刻が施されており、まるで英雄譚の一説を浮かび上がらせたような兜は、芸術的な価値すら付きそうな見事なものである。

 

そんな鎧の所有者であるこの男の全身には所どころに出血が見られる。身動き一つしない男の様子に、アイズ達は既に事切れていると判断した。

 

「なんかすっごい鎧だね、この人の」

 

「こんなに目立つ鎧を着てる冒険者ならすぐ判りそうなものだけど……ベート、あんた知ってる?」

 

「こんな所でくたばるような雑魚なんざ俺が知ってるわけ無ぇだろうが」

 

男を観察するように見つめるアイズをよそに、ティオナたちはこの男について知っているかどうかについて話をしている。三人はしばらく話し合っていたが、結局は誰か分からなかったようである。

 

するとティオナがアイズの横にまで移動し、彼女にも先程話し合っていたものと同じ質問をする。

 

「アイズもこの人の事、知らない?」

 

「うん……私も知らない」

 

「そっかー、アイズもわかんないか」

 

「死体をこのまま放っておく訳にもいかないし……何か個人を特定できる物とか持ってないかしら」

 

アイズもこの男の正体に心当たりがないと知ると、うーん、と腕を組んで何やら考え込むティオナ。ティオネはギルドで身元を照合させる為、本人と断定できるものが無いか探す事を提案した。

 

するとここでティオナが何か閃いたようで、おもむろにしゃがみ込むと男の兜に手を伸ばした。

 

「兜を取れば誰だか分かるかな?」

 

そう言って男の兜に手を掛けるティオナ。身元特定の為とは言え無遠慮に手を伸ばす妹にティオネが苦言を呈そうとした、まさにその瞬間。

 

 

 

 

 

男が左手に持っていた盾が、しゃがみ込んでいたティオナの胴を直撃した。

 

 

 

 

 

何の防御も出来ずモロに食らったティオナは、勢いを殺せないまま5~6Mほど吹き飛ばされてしまう。

 

「うわっ!?」

 

「ティオナ!?」

 

「何だァ!?」

 

「っ!!」

 

ティオナのすぐそばにいたアイズ、そこから少し離れた場所にいたティオネ、彼女たちに背を向けていたベート。三人は吹き飛ばされたティオナに素早く反応し、事態を把握しようとする。

 

しかしそれよりも速く、男が動く。

 

ぐったりと背を壁に預けていた姿勢からバネのように上半身を跳ね起こし、そのまま一息でアイズたちから距離を取った。既に事切れていると思っていた男の突然の動きに、アイズ達は後れを取ってしまう。

 

気が付けば、目の前には瀕死どころか、全身から静かに闘志を滲ませる男の姿があった。

 

今しがたティオナを吹き飛ばした盾は無造作に握られたままだが、右手のロングソードは油断なく握られている。不用意に近付けば斬られると、アイズたちが今まで培ってきた冒険者としての勘が警鐘を鳴らす。

 

対する男は静かにアイズたちを見渡した。欠片も隙を見せない男の姿に、アイズ達の背中に冷たいものが流れる。

 

「朽ち果てるのを待つだけと思えば、目が覚めれば獣共に囲まれ、その次は奇妙なソウルが感じられる者達……全く、おちおち休息も取れん」

 

兜の奥から聞こえてきた声は、当然ながら男の声である。毎日どこからか聞こえてくる、雑多に紛れる凡庸な、しかしどこか浮世離れしたような……あえて近いものを例に挙げるのならば、“神”を彷彿とさせる声色だった。

 

ゴクリと喉をならすアイズ達に向け、男はゆったりと口を開く。

 

「来い、奇妙なソウルを持つ者達よ。俺のソウルが目当てかどうか知らんが、向かってくるならば斬り伏せるのみ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 


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