このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです   作:緋色の

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※前書きの話は本編と作者とは一切関係ありません。





カズマ「あー、何かこう、あれだあ! めぐみんの奴にいいように振り回されてる! いつもいつもいいところでお預け! もうやだあ!」

めぐみん(カズマの部屋の前を通ったら、悲痛な声が聞こえた。どうやら思ったよりも効いてるみたいですね……そろそろ進展させ)

カズマ「今日は適当な宿に泊まろう。それでサキュバスの夢サービスでめぐみんを出してやる!」

めぐみん(!?)

カズマ「夢でこの悶々やら何やら全部……スッキリしてやる!」

めぐみん(こ、この男……! 私というものがありなが、ら……この場合、どうしたらいいのでしょうか。夢に出るのは私で、他の女でありませんし……いや、でも……)






第三話 最強のクルセイダーとの出逢い

 ライターを作って、ウィズの店に持ち込んだ。

 

「これはいいものですね」

 

 ウィズの感想は上々だ。

 

 ライターさえあれば、ティンダーや火打ち石を使わなくても火を起こすことができるので、間違いなく売れる。

 

 元の世界では爆発的勢いで売れたので、今回もそうなる自信はある。

 

「これは間違いなく売れる。だけど、量産や発送ルートとか確保しないと大量販売はできないな……」

 

「しばらくはカズマさんの手作り分だけですね」

 

 元の世界ではバニルがその他を確保していたので、俺は商品制作だけで済んだのだ。

 

 ライターの制作を終えた時にそのことに気づき、俺はしばらく楽な生活ができないことを思い知った。

 

「商売上手な奴がいればなあ……。そうすれば俺の知識も生かせるんだけど」

 

「一人心当たりはありますけど……うーん、色々忙しいから無理でしょうし」

 

「そっか。それでも話を聞いたら少しは助言してくれるかもしれないから、時間があったら話してくれないか?」

 

「わかりました。話だけでもしてみますね」

 

「よろしく。お礼と言ってはなんだけど、近い内にこのライターを五個無料で納めるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 確実に売れる商品を譲ってもらえると聞いたウィズは心底嬉しそうにしていた。

 

「忘れる所だった。これ昨日の代金ね」

 

 ライターも代金と一緒に渡す。

 

 ライターはまだ一つしかないので販売することはできないが、ウィズの知り合いに見せたり、宣伝ぐらいには使える。

 

 用事を終えたので、ウィズの店を出て、ギルドへ向かう。

 

 しばらく大金を得られないとなれば、ギルドで依頼を請けるしかない。

 

 ライターは可能な範囲で制作しよう。無理に多く作ろうとしてもいい結果にはならない。

 

 早々に大金持ちになるという計画が頓挫してしまったのは残念だ……。

 

 

 

 

 

 ギルドに来ると、二人はご飯を食べていた。

 

 俺は注文をしてから、二人と合流した。

 

「おはよう」

 

「おはようございます」

 

「おはようございます」

 

 めぐみん達の前に座って、二人に何かいい依頼がなかったか聞いてみる。

 

「蛙以外で何かあったか?」

 

「初心者殺しや一撃熊はありましたよ。私の爆裂魔法はもちろん、ゆんゆんの上級魔法ならいけますよ」

 

「何でそんな怖いのを推してきたんだよ。確かに稼ぎはいいだろうけど……」

 

「でも、蛙ももうありませんでしたよ。他にあったのはグリフォンとマンティコアの」

 

「もしかして報酬がやたら低くなかったか?」

 

「カズマさんも見たんですか。そう、報酬と依頼が見事に釣り合ってないのです」

 

 確かあの依頼はあまりに危険で、誰も請けないようにするために報酬が見合っていないものになっていたはずなので、請けなくていいだろう。

 

 ここで注文をしたものが来たので、俺はのんびりと食べる。

 

 食事を終えた二人は掲示板の前に行って、新しく追加されたのがないか確認してから、先ほど言った一撃熊と初心者殺しを持ってきた。

 

 …………えっ、何でやろうとしてんの?

 

 俺が静かに驚いていると、めぐみんが人差し指を立てながら言った。

 

「昨日カズマは借金があると言いましたし、ここは一つ大きなものをやりましょう」

 

「いや、もう返済してるぞ」

 

「……ここは一つ大きく稼いで、貯金を作りましょう。そうすれば依頼がなくても安心でしょう」

 

「とっさにしてはいい意見になったな」

 

 おそらく爆裂魔法を使いたいだけだろうが、めぐみんの意見には同意できるものがある。

 

 元の世界で冬を越す準備ができていなくて馬小屋で凍死しかけた経験があるので、それを避けるためにもはやめに準備を完了しておきたい。

 

「ちゃんと準備して、冬に備えないとな。馬小屋なんかで寝たら最悪凍死するからな」

 

「冬もクエストしたらいいんじゃ」

 

 ゆんゆんの疑問に俺は当然のように言った。

 

「寒い中頑張りたくねえ。それに危険な依頼しかないからやりたくない」

 

「えっ!?」

 

「雪に足をとられながら目的地まで行って、怖いモンスターと戦って、苦労して帰るって……罰ゲームに近いぞ」

 

「えええ……」

 

「ゆんゆん、みんながみんな上級魔法を使えるわけじゃない。俺はそんな強くないから、冬の危険な依頼をやったら死ぬかもしれない。というか死ぬ未来しか想像できない」

 

 俺のまともな意見も、罰ゲーム発言のせいで信じてもらえずに、二人はがっかりしたような目で俺を見てきた。

 

 その目は俺にとって見慣れたもので、今更そんなものでショックを受けることはない。

 

 ……慣れって怖いね。

 

「俺だけじゃないぞ。他の冒険者も同じようにする。冬は一撃熊みたいな強いのしかいないんだ。アクセルにいる冒険者には無茶だ」

 

「寒いからやりたくないだけじゃないんですか? カズマならやれるでしょう?」

 

「俺の職業は最弱職の冒険者だぞ。無理無理」

 

「えっ!? カズマさん冒険者だったんですか!?」

 

「むしろ、何だと思ってたんだよ……」

 

「そうですね。他の街では有名で、思わぬトラブルで心に傷を負い、アクセルに来たとばかり」

 

「ねえよ。俺は紛れもなく冒険者だ」

 

「……冒険カード見せてくれます?」

 

 ゆんゆんがおずおずとお願いしてきたので、俺はレベルを上手に隠して、二人に職業を見せた。

 

 すると二人は凄く驚いた顔になったので、そんなに俺が冒険者だったのは意外だったかと思っていたら予想外の言葉が出てきた。

 

「何ですか、このスキルポイントは!?」

 

「上級魔法を余裕でとれるよ!」

 

「へあっ!?」

 

「レベルは、レベルはいくつなんですか!?」

 

「と、とろうとすんじゃねえ!」

 

 賢い俺は見事にレベルを隠したが、僅かな油断からスキルポイントを見せてしまった。

 

 これ以上の失敗はしないためにも、俺はカードを取り上げようとしたが、こういう時のめぐみんは異様な強さを発揮する。

 

「見せ、見せろお!」

 

「断る!」

 

「仕方ない。ゆんゆん、あれをやりますよ!」

 

「ええっ! やりたくないんだけど!」

 

「カズマのレベルを見たくないんですか! 今を逃したらもう見れませんよ!」

 

「そ、それは……」

 

「ゆんゆん!!」

 

 めぐみんはキッとゆんゆんを見つめた。

 

 その表情は真剣で、ゆんゆんだけが頼りと伝えている。

 

「めぐみん、私……!」

 

 俺からカードを奪おうと奮闘しているめぐみんの何に同調したのか、それとも頼られたのがそんなに嬉しかったのか、ゆんゆんは弱気な表情を凛としたものに変えた。

 

 ばか二人は顔を見合わせて、こくりと頷いて、

 

「「お願い、お兄ちゃん」」

 

 上目遣いで、こちらを覗き込むように言ってきた。

 

「しょうがねえなあ!」

 

 二人の巧みな作戦に俺は思わずカードを渡してしまった!

 

 な、何て恐ろしく狡猾なんだ。

 

 こんなの俺でなくても渡してしまう。

 

「はあ!?」

 

「何これ、何なのこれ!!」

 

 俺のレベルを見た二人はただ驚きの声を上げるだけだった。

 

 二人の声に周りの冒険者がどうしたんだとばかりにこちらを見ているので、俺は静かにするよう言った。

 

「声がでかい! 静かにしろ、しないとパンツ剥ぐぞ」

 

 二人はビクッとして、自分の手で口を塞いだ。

 

 そこまでやれとは言ってないのに。

 

 二人は青ざめた顔で俺を見ている。

 

 そこまで怯えられると、逆にこっちが傷つくんだけど……と思ったが、昨日会ったばかりの男にパンツを剥ぐと脅されたら普通に怖いね、ごめん。

 

「まあ、俺のレベルは大したことじゃないから。よくあるものだから」

 

「ないですよ。何をしたらこんなレベルになるんですか?」

 

「レベルもそうだけど、おかしいよこれ」

 

「何がおかしいんですか?」

 

「だって、爆裂魔法を取ってて、他にも色々取ってるのにポイントがこんなにあるんだよ?」

 

「あっ、本当ですね」

 

 世の中にはスキルポーションという便利なものがあり、それを買い漁って魔王に備えた。

 

 それで大量のスキルポイントを得て、色々なスキルを習得し、更には爆裂魔法さえ習得した。

 

「カズマ、あなたはいったい……」

 

 めぐみんが俺をじっと見つめたので、

 

「何者だろうな。知りたいならついて来い」

 

「ふわあああ……」

 

 紅魔族が好みそうな口調で言ったら、見事にはまったみたいで、めぐみんは頬を赤らめて、憧れの人を見る目になった。

 

 ただゆんゆんは紅魔族では珍しい世間一般の感性の持ち主なので、今のでははまってくれない。

 

 白けた目で見てきたので、俺は右手をわきわきした。

 

 途端にゆんゆんは自分の体を抱き締めて、恐怖の表情になる。

 

 今にも泣き出しそうゆんゆんに、俺は罪悪感で思わぬダメージを負ってしまった。

 

「一撃熊、やるか」

 

 

 

 

 

 一撃熊をゆんゆんに任せたら簡単に終わるかもしれないが、めぐみんのレベル上げもしなくてはならないので、今回はめぐみんに倒させることにした。

 

「畑からはなれた場所に誘き寄せて、そこで爆裂魔法だ。合図はするから、それまで使うなよ」

 

「わかりました」

 

 めぐみんとゆんゆんを配置につかせて、俺はここに来る前に購入した弓矢を手に、畑へと駆け足で向かう。

 

 弓矢で一撃熊を倒すのは当然無理だ。

 

 いくら俺が高レベルと言っても、ただの弓矢ではゴブリンみたいに弱いモンスターしか倒せない。

 

 ……よく考えたら、元の世界ではどうして性能のいい弓矢を買わなかったんだ。

 

 金はあったんだから購入できたわけで、ここまで考えた所で、これ以上自分の愚かさを知りたくなくて思考を止めた。

 

 悲しみを胸に俺は畑に来た。

 

 見ると、一撃熊が畑を荒そうとしていた。

 

 俺は弓矢を構えて、後ろ足に矢を放つ。

 

 決めた場所まで誘き寄せるためには、こいつに追いつかれないように速度を落とす必要がある。

 

 深く刺さることはないが、狙い通りの部位に矢は立った。

 

「グガアアアアアア!!」

 

 怒りと敵意を露にした一撃熊が俺に向かって来たので、俺は走るようにして逃げる……こんな時に歩いて逃げる奴とかいねえよ、びびりすぎだ!!

 

「は、はええ!」

 

 一撃熊は足に矢が刺さってもはやく、追いつかれることはなさそうだが、油断ならなかった。

 

 一撃熊と俺の距離は二十メートルなさそうだ。

 

 これではめぐみんが爆裂魔法を使えないと思った時には決めていた場所の近くまで来ていた。

 

 俺は軽く体を捻って一撃熊の位置を確認して、

 

「『クリエイト・ウォーター』」

 

 水の初級魔法が顔にかかった一撃熊は驚いて立ち止まった。

 

 その隙に俺は距離をとることができ、一撃熊が再度俺を追いかけて走ると、

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 爆裂魔法が撃ち込まれた。

 

 背後から聞こえる爆音と、背面を焼くような熱風を感じて、俺はようやく足を止めて休むことができた。

 

「はあ、はあ……きっつ……」

 

「カズマさん、大丈夫ですか?」

 

 少しして、めぐみんを背負ったゆんゆんが来て、俺の顔を心配そうに見つめた。

 

「怪我してないぞ。全速力で走ったから、はあ、疲れて……」

 

「よかった。一撃熊も倒せましたし、休みましょうか」

 

 前回の蛙に続いて一撃熊の依頼も無事に達成できた俺は、喜びよりも何かとんでもないことが起こるんじゃないのかと不安になった。

 

 だって、こんなに上手くいくなんておかしいもん。

 

 ……アクア不在の今は死んだら生き返れないので、順調にいってもらった方がいいんだが。

 

「ふう。お金を貯めて、いい装備を買いたいな」

 

 より死亡率を下げるためにも、ここは俺を含むみんなの装備を一段階でもいいから上げたい。

 

「どうせ冬が来るんですから、装備品は後回しにしてもよさそうですが」

 

「春からの依頼を楽にしたいじゃん」

 

「……カズマさんって、面倒臭がりなのか真面目なのかわかんない時ありますね」

 

「楽をするために今頑張るだけだぞ」

 

 このあと少しだけ話をして、俺達は街への帰路についた。

 

 帰り道に俺はゆんゆんに敬語を使わないで、もっと気楽に話しかけていいと言ったら、凄く嬉しそうにしてくれた。

 

 めぐみんをゆんゆんに代わって背負い、街の入り口まで戻ってくると、何やらたくさんの冒険者が並んでいた。

 

 一番前にいた冒険者は俺たちを見つけると声をかけてきた。

 

「おっ、いい時に帰ってきたな!」

 

「みんな揃ってどうしたんだ?」

 

「キャベツの収穫だ」

 

「キャベツ狩りか……やるしかねえな」

 

「あの、私今日はもう爆裂魔法使ってしまったのですが」

 

「頑張るんだ。稼ぎ時だ!」

 

 めぐみんを下ろして、俺はキャベツが来るであろう方角に向きを変えた。

 

 ゆんゆんもキャベツの話を聞いて、

 

「今日は何もしてないから、ここで頑張らないと」

 

 やる気を見せた。

 

 そんなゆんゆんを見て、めぐみんは変なスイッチが入ったようで、爆裂魔法無しでも最強がどんなものか見せてあげましょう! とか言っていた。

 

「来たぞー!!」

 

 その誰かの叫びをきっかけに俺たちのキャベツ収穫ははじまった。

 

 ゆんゆんは手加減してキャベツが消し飛ばないようにし、めぐみんはゆんゆんが撃ち落としたキャベツを拾っていく。

 

 ゆんゆんの魔法でキャベツが凄い勢いで撃ち落とされていくので、俺とめぐみんで回収する。

 

 俺達だけでどれだけの金……じゃなくて、キャベツを集めただろうか。

 

 一撃熊の報酬より稼いでいそうだ。

 

 キャベツを回収しに戻った俺は、見てはいけないものを見てしまった。

 

 キャベツにボッコボコにやられている女性クルセイダー……、興奮したように息を荒くしている金髪の女性クルセイダー……、もしかしなくてもあれはド変態クルセイダー……。

 

「って、助けないと!」

 

 ダクネスの硬さは知っているが、あそこまでキャベツにボッコボコにされたら、やがて死んでしまう。

 

「『ウインドブレス』」

 

 初級の風魔法を何度も使ってダクネスの周りにいたキャベツを撃ち落とす。

 

「『ヒール』」

 

 ダクネスに回復魔法をかける。

 

「ありがとう。助かる」

 

「どういたしまして」

 

「カズマー! はやく戻って来て下さい!」

 

「わかった、今行く!」

 

 ダクネスにキャベツを任せて、俺は二人の下へ。

 

 

 

 

 

 キャベツの収穫が終わり、俺達はギルドで夕食をとっていた。

 

 キャベツ収穫の報酬は後日渡されるが、俺達が回収した量を考えると笑いが止まらないほどだ。

 

 一撃熊の報酬は二百万エリスで、それは仲良く三等分した。

 

「ここ、大丈夫だろうか?」

 

 俺の締まりのない顔にゆんゆんとめぐみんが呆れた顔になっていた時に、例のド変態クルセイダーが来た、来ちゃった、来てしまった。

 

「えーと、あんたは確かキャベツにやられてた」

 

「ダクネスだ。あの時は助かった……。キャベツにあそこまでいいようにされて、あまりに気持ちよくて我を忘れて」

 

「楽しんでんじゃねえよ!」

 

「楽しんでない」

 

「いや、今気持ちいいって」

 

「言ってない」

 

 キリッとした顔で俺の顔を見つめるダクネスを殴りたくなったが、そうしても喜ばれそうなので、俺は無言で目を逸らして、蛙の唐揚げを食べる。

 

「ダクネス、とりあえず座るといいです」

 

「わかった。えーと、あなたたちは」

 

 ダクネスの問いかけにめぐみんとゆんゆんは紅魔族特有の自己紹介をして、俺も軽く自己紹介をした。

 

 四人で夕食を食べながら、キャベツ収穫の話をしていく内にダクネスがクルセイダーであることが明かされ、それにめぐみんは食いついた。

 

「ダクネスは他のパーティーに加入しているんですか?」

 

「いや、していないぞ。そちらがよければ入れてもらいたいんだが」

 

「もちろんですよ! クルセイダーなら文句なしです! カズマ、このパーティーは凄いですよ! 上級職が三人もいますよ!」

 

 まともなのゆんゆんだけじゃねえの? と口にしたかったが、パーティー結成を祝して、

 

「ああ、最高のパーティーだな!」

 

 人生最大の嘘を吐いた。

 

 このあと無茶苦茶酒飲んだ。

 

 

 

 

 

 数日後、一撃熊とキャベツで大金を得た俺達は装備を新しくした。

 

 キャベツの報酬は四人でわけようとしたが、ダクネスはその時はパーティーじゃないという理由から受け取らなかった。

 

 俺だったら両手を上げて喜ぶのに、あいつと来たら頭が固い。硬いのは防御だけで十分だ。

 

 まあ、今は頭の固いダクネスより新しい杖を購入した変態だ。

 

「ああ、マナタイト製のこの色、艶……ああ、素敵です」

 

「めぐみん、変態みたいだね」

 

 そう言いながら、ゆんゆんもめぐみんには一瞥もくれずに新しいワンドを嬉しそうに見ている。

 

「カズマは何を買ったんだ?」

 

「俺は魔道具の弓矢をメインで、あとは片手剣とワンドだな」

 

「何だか色々と買ったな。お前が冒険者なのは知ってるが……、いや、むしろか」

 

「そうそう。ワンドあれば魔法の効果は上がるし、近くの敵には片手剣ってな」

 

「でも、カズマさんは本職じゃないからワンドがあってもそこまで見込めないんじゃ」

 

「いいの! ヒールとかそういうのの効果上昇が目的だから! 攻撃魔法はゆんゆんとめぐみんに任せるから、俺は支援するの!」

 

 ゆんゆんの思わぬ毒舌に俺は涙目になる。

 

 悪気ないのが余計に響く……。

 

「ゆ、ゆんゆん、あまりカズマをいじめるものではありませんよ」

 

「わかってるよ、俺がこのパーティーで一番いらない子……いらない子なのは!」

 

「カズマ、どうして私を見たんですか?」

 

「私も見られたが、理由を言ってもらおうか」

 

 俺は二人の言葉を聞き流した。

 

 ゆんゆんが椅子を倒す勢いで立ち上がったので、俺はびっくりして見つめた。

 

「ち、違うの! 私そんなつもりじゃなくて! カズマさん、色んな魔法覚えてるからそっちメインにするのかなって思って、その……本当に私カズマさんを傷つけるつもりはなかったの!」

 

 ゆんゆんは今にも泣きそうな顔になって、手を振りながら必死に弁解をした。

 

 目に浮かべた涙は今にも流れてしまいそうで、何だか俺がこれぐらいで傷ついてるのが悪いことのように思えてきた……。

 

 ゆんゆんは別の意味で危険だ。

 

「だ、大丈夫。大丈夫だから落ち着いてくれ。俺はあらゆる誹謗中傷を経験してるから!」

 

「それはそれでどうかと思うよ!」

 

「どんな人生を歩んできたんですか!」

 

「どんな風に言われたのか、詳しく頼む」

 

「お前、言われたいの?」

 

「そんなわけない」

 

 頬を赤くしながら言われても説得力ないんだけど。

 

 こいつの発言一つで今までの流れが台無しになるんだけど、誰か本当にこいつを何とかしてくれない? 何か俺がゆんゆんの毒舌で傷ついたのがばからしくなるんだけど。

 

「カズマ、その弓矢はどういうものなんですか?」

 

 めぐみんが空気を変えるように聞いてきたので、俺は渡りに舟とばかりに答えた。

 

「弓は魔力を込めれば、貫通力を上げてくれるんだ。矢は普通の矢、鉄製、銀製の三種類だ。もちろん魔力を込めなくても使えるし、使い勝手はかなりいいはずだ」

 

 弓の重量は増加して、大きさも増したが、扱うのに問題が出ることはない。

 

 試しに何度か使ってみたが、驚くほど手に馴染む感じがして使いやすかった。

 

 性能の良さに比例して値は張ったが、今後のことを考えれば安い買い物とも言える。

 

「もはやこのパーティーに隙はありませんね」

 

「あとはお前たちのレベルを上げて強くするだけだ」

 

 何だろうか。

 

 ここまで順調だと、何かをやることがそんなに苦痛ではないし、面倒でもない。

 

 そりゃあだらけたい気持ちは半分ほどあるけど、少しの間はこの順風満帆の生活を満喫したい。

 

 何か楽しくなってきた。

 

 そんなわけで、調子に乗った俺達は初心者殺しの依頼を請けることにした。

 

 依頼達成の報酬は二百万エリスと悪くない。

 

「初心者殺しは弱いモンスターの近くをうろついてたりするから、もしかしたら途中で遭遇するかもしれない。弱いのは多分群れてるから、固まっている所にめぐみんが爆裂魔法を撃ち込む。初心者殺しはゆんゆんが魔法で倒す。ダクネスは敵の攻撃を防いで、可能なら倒してくれ」

 

「わかった。カズマは何をするんだ?」

 

「敵感知とか色々」

 

 戦闘はダクネスたちに任せよう。

 

 俺は後ろで見守っていよう。

 

「さぼるんじゃないよな?」

 

「当然じゃないか。敵感知しながら進めば、それだけみんなの安全を確保できる。敵を倒させるのも、みんなにレベル上げをしてほしいからだ」

 

「そういうことにしておきますよ」

 

 めぐみんがあまり信じてない口振りだ。

 

 お酒をたくさん飲んだ時に、はやく金持ちになってぐうたらしてえ! と毎回のように言ってるのが原因かもしれない。

 

 冬になったらこたつむりになる予定なので、そこで本物のぐうたら人間であることが露見しそうだが、日本人は冬のこたつに抗えないようにできているので、どうしようもない。

 

 俺がそんなことを思っていると、敵感知に反応が出た。

 

「反応があった。一匹みたいだから、初心者殺しかもな。こっちに向かってくるぞ」

 

 俺の言葉に三人は歩くのをやめた。

 

 ダクネスは前に出て、初心者殺しを待ち構える。

 

 この中で初心者殺しの攻撃を耐えられるのはダクネスだけだ。

 

 ゆんゆんはいつでも上級魔法を使えるようにしてるが、敵が全速力で駆けてくる可能性を考えたら、万が一もあるだけに、ダクネスの重要性は非常に高い。

 

 ダクネスがデコイで敵を引き付ければ、その間にゆんゆんの魔法を決められる。

 

「ダクネス、敵が凄い速度で来てる!」

 

「『デコイ』!」

 

 臭いで俺達に気づいたであろう初心者殺しが突如として走り出した。

 

 その速度は一撃熊を圧倒している。

 

 タイミングを間違えた場合、初心者殺しの巨体で吹き飛ばされるので、そう考えたらダクネスは必要不可欠とも言える。

 

「グルルア!」

 

「うっ、ぐぅ……、はあ!!」

 

 衝突の瞬間、ダクネス以外の三人は左右に移動して巻き添えを食らわないようにした。

 

 流石はダクネスといった所か。

 

 初心者殺しの突進を食らっても吹き飛ばされずに受け止めた。

 

 しかし、その場でというのは無理な話で、数メートルほど押されてしまった。

 

 ダクネスは相当な力で踏ん張ったらしく、地面にはそれを証明するように、深さ数センチ、長さ数メートルほどの線が二本できていた。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 ゆんゆんの魔法が避けられないように、ダクネスは反撃するかのように初心者殺しの首に両手を回す。

 

 危険を察知した初心者殺しだったが、逃げることはできず、光る刃で一刀両断された。

 

 倒したのを見届けると、ダクネスは堪えきれなくなったように地面に両膝と両手をついて、荒く呼吸を繰り返す。

 

「はあ……、はあ……」

 

「ダクネスさん!」

 

「大丈夫ですか? ダクネス」

 

「あ、ああ、何とかな」

 

「今回復魔法をかけるからな『ヒール』」

 

 ここぞとばかりにワンドを取り出して、ダクネスに回復魔法かける。

 

「助かる。正直、初心者殺しの凄まじい突進の余韻をもう少し味わっていたかったが、それはレベルが上がってからにしよう」

 

「今、味わっていたかったって言ったか?」

 

「言ってない」

 

 決め顔で言ってきたド変態クルセイダーを捨てて帰りたい気持ちになりながらも、俺は手を差し出した。

 

「ありがとう」

 

 こんなんでも今回の初心者殺し討伐には大きく貢献しているのだ。ちょっとぐらい、目を瞑っておこう。

 

 休憩を挟んでから、俺達は街への帰路についた。

 

「カズマ、弱いモンスターは退治しないのですか?」

 

「面倒臭い」

 

「お前という奴は……」

 

 三人が呆れた顔になったので、俺はそれらしいことを並べ立てる。

 

「いや、だってさ、初心者殺しが弱いモンスターの近くをうろつくと言っても、可能性が高いだけで必ずじゃない。それに弱いモンスターの依頼を他の人が請けてたら迷惑かけちゃうだろ」

 

「そういうことにしとくから、そんなに頑張って言い訳しなくていいよ」

 

 ゆんゆんだけでなく、他の二人もうんうんと頷く。

 

 信じられていない感じがすっごいするし、納得いかない気持ちもあるんだけど、パーティーのリーダーだから大人しく引き下がる。

 

「この調子で依頼達成していけば、冬は問題なく越せるだろ」

 

「そうだな。冬の依頼は危険なものばかりで、最悪冬将軍に遭遇しかねないからな」

 

「冬将軍ですか……。そうでしたね。冬にはあれがいましたね」

 

「冬は出歩けないね」

 

「そうそう冬は危険だぞ。雪で足をとられるから逃げるのも難しくなる。よっぽど自信がない限り、やめた方がいい」

 

「テレポートがないと危険ですね」

 

「だから、冬はみんなでごろごろしようぜ」

 

 ここぞとばかりに俺は言った。

 

 このタイミングなら俺の発言は正当性がまし、みんなも同意してくれることだろう。

 

「カズマの言うごろごろはどんなものですか?」

 

「トイレとごはんと風呂の時以外はベッドでぐうたらする」

 

「しすぎだよ! ほら、ギルドに来て私達と会話をするとか、買い物したりとかあるでしょ!」

 

「寒いお外には出たくない」

 

「何という駄目人間なんだ……」

 

「えっ? お前ら何で同意しないの? 変わってるとは思ってたけどここまでとは……」

 

「何で私達が可哀想な子を見る目で見られてるの!?

 凄く不本意なんだけど! カズマさんが駄目人間なだけだから!」

 

「言うな、ゆんゆん。最近頼られてるからってちょっと調子に乗ってないか? めぐみんから聞いてるんだぞ。里ではよく一人でいたって!」

 

「やめてえええええええ! 思い出させないでええええええ!」

 

「ふははははははは! ぼっちが俺に勝とうなんざ百年はやいんだよ!」

 

 勝ち誇る俺だったが、このあとマジギレしたゆんゆんに無茶苦茶殴られた。




今の所、カズマは順調に過ごせてます。

上級魔法と爆裂魔法を上手く使えばこうなるだろうなって思いながら書いてます。

それでもカズマの評価は段々と落ちていってますが。

その内大きなトラブルが来るでしょうけど。

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