このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです 作:緋色の
5000文字ぐらい増えました……。
紅魔の里でイライラしてた俺はついつい怒鳴り散らしてしまい、助っ人を得ることができなかった。
そんなわけでハンス討伐は自力でやるしかないので、数々の大物賞金首を討伐して財産がチートしてる俺はデストロイヤー戦の時みたいに金の力を振るうことにした。
めぐみんと王都に行き、アイテムを購入する。
最高品質マナタイトを五つ購入。一億エリス。
高品質マナタイトを四十個購入。四千万エリス。
合計一億四千万エリスだ。
他にも何か買おうと思ったが、マナタイトが凄く重いから諦めた。
ダクネス連れてくればよかった。
両手が塞がった状態でアルカンレティアに戻り、宿屋へと進む。
四十個も買うんじゃなかった。
手が凄く痛い。
指に食い込んで痛い。
めぐみんには最高品質の方を持たせてるけど、俺がそっち持ちたい!
交代してくれないかな?
よく考えたらどうしてハンス倒そうとしてんだろうな。
アクシズ教団が消えれば、それだけ苦しむ人は減るわけだし、悪いことないよな。
アクシズ教徒が路頭に迷……う?
いや、こいつらは解散せず、どうにかこうにか生き残るだろ。
ゴキブリを圧倒するとんでも生命力を見せてくれることだろう。
それなら、うん。
「なあ、めぐみん」
「何ですか? 重いなら少し持ちますよ」
「いや、ハンス討伐諦めて帰ろうぜ。アクシズ教徒なんて、デストロイヤーが通っても生き残るって言われるぐらい頑丈だし、今回の件があっても余裕で生き残ると思うんだ」
めぐみんは呆れ返る。
はあ、とわざと聞こえるように大きく溜め息を吐いて、半目で俺を見る。
また溜め息を吐いて。
「はあ。アクシズ教徒は生き残れても、この街は壊滅しますよ。この街の目玉でもある温泉がなくなれば観光地としての魅力は失われるわけですから」
「それはあれだよ。アクシズ教徒がそれだけ魔王軍を怒らせたってことだろ」
よく考えたら魔王軍はアクシズ教徒を狙って行動してるわけだ。
ここは魔王軍の恐ろしさを思い知らせ、更正する機会を与えればいいと思う。
「そんなこと言わずお願いしますよ。里でのことをみんなに暴露しますよ」
めぐみんが嬉しさとおかしさが混ざったような笑みを見せて脅してくる。
少し熱くなったとはいえ、何であんな恥ずかしいこと言ったんだろ。
冷静沈着で有名な俺らしからぬ行動だ。
やはり混浴を直前でだめにされたのが影響しているのか?
もうちょっとだったもんな。
はあ……。
「俺達だけで何とかするか」
「他にもたくさんの冒険者が参加しますから大丈夫ですよ。ここの冒険者は高レベルですよ」
アルカンレティアの周りには強力なモンスターばかりなので、アクセルと違ってレベル制限がかかっている。
そのため高レベルの冒険者のみが活動できる。
低レベルでは同行すらできないとか。
高レベル冒険者が大勢参加してくれるのは救いなんだろうが……。
「ハンスの毒は触れたら即死もある。ダクネスだって危険なんだぞ。いくら高レベルでも危険には変わりない」
「それはわかってますが、今回も大丈夫ですよ」
「謎の自信を……」
「ふふっ。いつもやれてたじゃないですか。今回も何だかんだで倒せますよ」
めぐみんの不安のない微笑みを見たら、何も言えなくなってしまう。
ここまで来たんなら覚悟を決めるべきだよな。
俺が魔王を倒すには、城の結界を解除する必要があるわけだし。
それにここでハンスを倒しとけば楽になる。
ウォルバクもめぐみんの爆裂魔法で倒せるし、シルビアは倒し方を覚えてる。
魔王の娘は……剥いとけばいいだろ。
「宿に着きましたよ」
「やっとか。やっと着いたのか……」
もはや手の感覚はない。
しかし、それもようやく終わると思うと、思うと、謎の感動が押し寄せてきた。
何だろうか。
もの凄く大変なことをやり遂げたような感覚が俺を包み込んでいる。
そうか、ここがゴールだったのか。
俺はもう戦わなくていいよね?
「お帰りなさい」
ゆんゆんが俺達を出迎えてくれた。
ダクネスは俺を見ると、代わりに荷物を持って。
そんな軽々と持ちますか? 俺が苦労したのまぬけみたいじゃないですかやだー。
筋力の差が丸見えっすね。
部屋の隅ではウィズがちょむすけと戯れている。
ちょっと癒された。
「今はどうなってますか?」
めぐみんが荷物を置いて二人に尋ねる。
「現在各温泉は閉鎖。源泉は最も重要だからこの街の冒険者が警備している。警察の方からも人が寄越された。どんな盗賊でもあの警備の中を見つからずに行くのは不可能だ」
「空を飛べるなら話は別だけど、スライムにそんなことはできないからね。だから、源泉に行くならごり押ししかないわ」
この街の重要な施設を守るために総力を上げているようだ。
それを見て、びびって逃げてもらいたいものだ。
ゆんゆんは俺達の買ってきたものを見る。
それが大量のマナタイトであると知ると、驚いたように覗き込む。
そりゃそうだ。
高品質マナタイトは魔法使いが欲する最高のアイテムの一つなんだ。
それが四十個もあれば、驚愕するのも頷ける。
「カズマさん、これ!」
「ああ。デストロイヤーでやった、物量作戦だ」
「これだけあれば魔力切れはないな」
「それに最高品質のマナタイトまで! 確かにこれなら倒すことはできるわね」
倒すことは。
つまりそれは周囲への被害を“度外視”して戦えばということだ。
要するに爆裂魔法を連続で撃ちまくって、強引にハンスを倒すやり方になる。
しかし、それだと当然のことだが汚染はとんでもないことになる。
破片でも、腕のいいプリーストが大勢いても浄化に数ヶ月かかるとのことだ。
汚染による被害を防ぐのは不可能であるが、可能な限り抑えたいものだ。
「ハンスは源泉をどうにかしようとするだろうが、流石にこの規模の警備を見たら様子見はするだろ」
「そうだな」
「その間に手を打っておきたいな」
爆裂魔法の爆風が来ても壊れない位置にバリケードを設置して……、地面への汚染を防ぐために厚い鉄の板か氷の魔法で地面を隠したり……。
それに源泉からなるべく遠ざけて戦えば街への被害は格段に抑えられる。
ふむ……。
「ギルドに行こう。ウィズ、ちょむすけを頼む」
「わかりました。ちゃんと守り通しますね」
ウィズにちょむすけを任せて、俺達は荷物と装備を持ってギルドへと向かう。
ギルドについたらハンスに対する話し合いをしたいと職員に伝え、ギルドにいた数十人の冒険者を交えて議論を開始する。
「ハンスとの戦いで俺達が気にするべきなのは周囲への汚染だ。辺りが滅茶苦茶に汚染されたら浄化もその分長引く」
これに多くの人は頷き、ならどうするんだと視線で聞いてくる。
俺はボードに貼りつけた街周辺の地図を細い棒で指して問いかける。
「俺達は街の周辺に詳しくないから教えてもらいたいが、街の周辺でいいところはないか?」
「いいところ?」
「源泉周辺で戦うと大変なことになる。それなら源泉からハンスを引きはなして戦うのが理想となる。ハンスによる汚染を抑えるために、何重にもバリケードを展開して飛び散る欠片を防ぎ、地面は鉄の板なり氷の魔法で守ることを勧めたい。そこで問題となるのは場所だ」
なるほど、と冒険者や職員は呟き、あそこはどうだと話し合う。
これに関しては俺達ではどうにもならないことなので、彼らに任せるしかない。
俺は彼らの話し合いを見ながら、他にできることはないかを考える。
マナタイトを新たに仕入れる。今度は高品質だけでなく、中品質も購入するか。そっちは地面を凍らせるように使えばいいだろ。
ダイナマイトはどうだ? あれを矢につけて射れば、俺でもダメージを与えられる。有効な攻撃手段と言えよう。
ハンスの体を少しでも削れるなら、積極的に使うべきかもな。そういえばウィズの店に大量にあったはずだ。あとで買いに行こう。
「場所が決まりましたよ」
その場所は湖と源泉からはなれた位置にある林で、人もあまり行かない。
今回の作戦では理想的なところみたいだ。
これで汚染されても街への被害は減らせる。
問題はハンスを誘い込めるかだが、人型の内に奇襲して凍らせてそこに運ぶか、挑発をしまくれば何とかなるかもしれない。
挑発か……。あいつはウォルバクと混浴してたんだよな……よし。
「引きつける方法は何とかなるかもしれない。あとは時間の問題だな……」
ハンスの目的は最終的に源泉の破壊だが、厳重な警戒がされてる時に来ることはないはずだ。
不意打ちとはいえ氷漬けにされて爆裂魔法を撃ち込まれそうになったのだから、向こうも警戒ぐらいする。
もしかしたらウォルバクに警告ぐらいされてることもある。
それにあいつは“長い寿命を持つ俺達にとって十年ぐらい”と言うぐらいだから、警備が薄くなるまで待つことは十分にあり得る。
そこで俺は逆手にとることにした。
つまりあいつが気長に待つというなら、こちらは状況を見ながら警備を薄くしていくつもりだ。
どんな警備も時間が経てば薄くなるものだ。
ましてや警備してるのが冒険者となれば、解散する日もはやいと読むはず。
数日は猶予ありそうだが、強行突破されるのも考えたら余裕はないと言える。
バリケードをつくる時間は足りるか? その上地面を氷の魔法とか……待てよ? すぐにつくれるんじゃないか?
「ここは林なんだよな?」
「はい」
「それならバリケードはすぐにつくれるぞ」
「えっ!? どうやるんですか!?」
「木と木にロープか何かを結ぶんだ。そこに何でもいいから布をかけて水で濡らす。それを氷の魔法で凍らせればすぐに壁ができる」
俺の意見に、確かにそれならはやいな、とみんなは口にする。
「でも、それだと薄いだろ」
「水をかけて凍らせる。これを何度もやれば解決するから気にしなくてもいいじゃないか。地面も同じようにやれば厚くなる」
魔力の問題はマナタイトでどうにでもなる。
それは俺の方で用意するから大丈夫だ。
バリケードなどが完成すれば汚染の被害はある程度抑えられる。
街に被害が出ないだけで、作戦区域を汚染させることには変わらない。
そして、これを浄化するのはどれだけの時間が必要になるのか……。
そのことをうれいた冒険者がみんなに問いかける。
「もっと汚染を防ぐ方法はないのか?」
「他には何ができそうだ?」
「木全体も凍らせるとかはどう?」
「戦場の足場をぎりぎりまで詰めるとか」
破片を被害が出ないように凍結させるのは当然のこととして、他にできることはないか?
しかし、いくら考えても出てこない。
そもそも俺達が悩むのは、汚染の浄化に時間がかかるからだ。
破片で数ヶ月なら、ハンスの体全体なら当然必要な時間は増える。それこそ俺達が生きてる間に終わるかどうかだ。
だから汚染を少しでも抑えたいのだが、そんな都合のいいやり方なんてあるのか?
悩む俺にめぐみんが言った。
「カズマ、戦闘後の破片はどうするんですか?」
「浄化するに決まってんだろ」
「もしかしたらしなくてもいいかもしれませんよ」
「どういうことだ?」
浄化をしなくてもいいと言うめぐみんを俺だけでなくみんなが見つめる。
めぐみんはそれに気づいてはおらず、突拍子もないことを口にする。
「デストロイヤーの時にコロナタイトをテレポートで魔王の城に飛ばしたではありませんか。今度も破片を魔王の城に飛ばしたらどうかと思いまして」
「それだと浄化の手間は省けるのか……」
「少しは浄化しないといけないだろうけど、でもテレポートで魔王の城に飛ばせば……」
「半分以上飛ばせたら浄化の時間も半分よ」
少なくとも人類が生活するエリアではないから、汚染されようが構わない。そうか、その手があったか。
「めぐみんのハンスを魔王の城に廃棄しよう作戦に賛成の方は挙手をお願いします」
みんなが手を挙げた。
あれから三日の時が過ぎた。
俺はテレポートを使える魔法使いを魔王の城に連れていって、テレポート先に登録させた。そして、登録した魔法使いが別の魔法使いを連れていって、と鼠算式に魔王の城を登録した魔法使いが増えた。
最大懸念の汚染もテレポートというあまり使わないけど使う時は凄い役に立つ魔法によって最小限に抑えられそうだ。
氷の魔法によるバリケードも順調で、魔導冷蔵庫に使われる魔法を併用することで解ける時間を遅らせるなど工夫がされている。今は定期的に魔法をかけ直して、バリケードが崩れないようにしている。
地面を守る方法も同様のやり方で、ハンスの欠片が多くなりそうな近場は鉄の板を仕込んでいる。
それとは別に林の中を戦場にするため、戦いやすいようにと木をある程度伐採して広場のようにし、倒した木は板にして地面に敷き詰めている。
鉄も木もハンスの毒を完全に防げるとは思えないが、できることは少しでも多くやっておきたい。
マナタイトはダクネスに任せている。ダクネスは他の冒険者と協力してマナタイトを王都や他の街から仕入れて、それを魔法使い連中に配っている。
ハンス戦はもはや物量作戦となるが、最終手段として爆裂魔法を連発する。
最終手段なので、よほど最悪の事態に陥らなければ使うことはない。
俺の方は今日までダイナマイトなどをつくってきた。
ハンス戦への備えも十分となり、俺達は次の段階に移った。
そう。警備の人数を減らす。
減らしたのはどうなるかと言うと、戦場に待機させるのだ。
入り口と源泉の中間地点を基準に考え、入り口から中間地点までの人数を少しずつ減らしてハンスを誘い出す。
それとは逆に中間地点から源泉までの警備は減らさずにそのままにする予定だ。例のポイントに誘い込めなかった時の保険としてだが、誘い込めた場合は警備の連中も集合する手筈になっている。
警備が手薄になると思われがちだが、例えば俺達が敗北してハンスが源泉に向かえば、源泉周辺はどう戦っても汚染される。万が一倒せても被害は甚大となる。
そうなるぐらいなら例のポイントで総力戦をはじめた方が、例え爆裂魔法を連発する事態に陥っても、源泉や湖から遠ざかってる分被害は抑えられる。
作戦通り、時間とともに警備の人数を徐々に減らしていき……。
数日後、とうとうハンスが姿を見せた。
辺りを注意深く見回しているのは、ゆんゆんの魔法が飛んでこないか警戒しているからかもしれない。
あの時氷漬けにされたのは思ったより効いていたのか。
俺はハンスの後ろに立って話しかける。
「俺達を探してるのか? ハンス」
「やっぱりいやがったか。……他の奴らはどうした」
めぐみん達は例のポイントで待機させている。
そんな危険なことをするのには当然理由がある。
そして、俺が一人なのは必要不可欠のことだ。
あいつらには当然のように反対されたが、これが一番成功させやすいんだからやるしかない。
「お前を倒すための準備をしてるよ」
「ほう……。前回は奇襲で俺を氷漬けにできたってのを忘れてないか?」
「ウォルバクがいなければ爆裂魔法撃ち込まれて粉々になっていたのを忘れてないか?」
俺の返しにハンスは大きく舌打ちした。
やはりこいつにとって前回のことは黒歴史だったんだ。それならやりやすいってもんだ。
まあ、あそこで爆裂魔法撃ってたら、人型とはいえそれなりに被害はあったろうから、むしろ好都合だったというか……。
ハンスは俺を睨みつける。
それに俺は今すぐ逃げ出したくなる気持ちに駆られるが、ここはぐっと耐えなくては。
これでも世界を救ったんだ。精一杯の虚勢を張り、ハンスを睨み返す。
「ふん。てめえからは弱そうな感じしかしねえな」
「ほう。この俺が雑魚と言うか。まあ最弱職の冒険者だし、それは認めてやる」
「……最弱、冒険者? くそがっ! てめえみたいなのに遅れをとったのかよ!」
失礼な。
確かに最弱職だけど、そこまで言わなくてもいいだろう。
俺のガラスのハートが砕け散るぞ。
何はともあれ、ハンスの怒りと恨みを強めることには成功したな。
よし次だ。
「だが、俺はベルディアを追い詰めた男だぞ」
「はっ?」
「あいつが水に弱いってのは知ってたからな。頭を奪ってひたすら水攻めして、爆破して、また水攻めして……」
「……少しは躊躇しろよ。敵とはいえ、そこまでしたら拷問だぞ」
俺が悪辣に笑いながら語ると、ハンスは若干引いた様子で言ってきた。
幹部すら引かせるのか、悪辣に笑うと。
今度鏡でどんなものか見てみよう。
ちょっと予定は狂ったが、まあいい。
「ベルディアの頭で遊ばなかっただけマシだろ」
「十分もてあそんでるだろ! てめえの頭の中はどうなってやがんだ!」
「敵に情けをかけて不利になるわけにはいかないだろ。だから徹底的に攻めただけだ」
「だけじゃねえよ! 少しは情けをかけろ! この人でなしが!」
なぜ俺が人でなしと言われるのかさっぱりわからない。
俺を混乱させようと適当なことを言ってるだけだな。
なぜか俺に戦々恐々しているハンスに。
「さて、俺はアルカンレティアを守るためにお前を倒さなきゃいけないわけだが」
俺の話にハンスは腰を落とした。
真の姿を見せないのは、俺にそこまでする必要はないと考えているからだろう。
舐められたものだ。
「お前が素直に諦めて撤退するなら見逃すつもりだ」
それにハンスは顔に手を当てて笑い出す。
「ははははははははは! 何を言うのかと思ったら……。何だ、そんな下らないことか!」
ハッタリと捉えたハンスは構えを解除して、俺をビシッと指差す。
嘲笑うような表情を浮かべて。
「俺を倒す方法がねえんだろ。そりゃそうだ。てめえみたいな奴に思いつくとは思えねえ!」
「考える頭もない雑魚スライムなんかに言われたくないんだが。大体魔王軍なんて、女のことしか頭にない変態集団だろ」
「あっ?」
俺が半目で、小ばかにするように言ったら、ハンスは気の抜けた声を発した。
無策であるはずの俺が冷静にしかも挑発するもんだから、調子が狂ったのだろう。
さて、はじめるか。
「お前達の親分の魔王なんて、大陸一変態プレイが大好きで、女なら幼女だろうと老婆だろうとお構いなし。女と見ればさらって変態凌辱プレイを楽しみまくるド変態魔王だろ!」
「な、な、何を言ってる! そんなことあるわけないだろ! ふざけんなっ!」
根も葉もない暴言にハンスは激昂する。
しかし、挑発があまりに予想外なものだったのか少し混乱しているように見える。
一方で調子が出てきた俺は大袈裟に手を振り、熱く語る。
「お前達が戦争を仕掛ける本当の理由は魔王の趣味を満たすためだ! そして、そんなド変態魔王の部下のお前達に変態趣味がないはずもなく、誘拐した女を口にはできないプレイでもてあそんでいる! ド変態軍って改名したらどうだ!?」
「き、さま……! いい加減にしろ!」
歯をぎりぎりと鳴らして、今にも食い殺しに来そうなハンスにびびって少し後退りしちゃうが、お口の調子は変わらず絶好調だ。
このままハンスを感情的にさせよう。
「どうせお前は捕らえた女を『ふはは。スライムの俺が新しい境地と快楽を教えてやろう!』とか言いながらぬるぬる触手プレイを行い、その上『俺は人間の雌を強制的に発情させる分泌液を出せる。さあ、お前の浅ましい雌の顔を見せてみろ!』とか言って女をもてあそぶのだろう」
「…………ぶっ殺してやる!!」
「おっと図星か。だけどな、お前には隠された秘密もあるのを俺は知ってい、やべ!」
ハンスが怒りで我を忘れて俺に向かってきた。
全身から怒りと殺意を撒き散らしている。
もちろん俺がとる行動は一つだ。
「逃がすか!」
わりとはやめにキレさせることには成功した。
俺を追いかけてくるハンスとの距離をいい感じに保ちながら例のポイントに向かう。
俺には素早さを上げる支援魔法が前もってかけられているので、転んだりしなければ捕まることはない。
しかも余裕が持てるので、あいつを挑発しながら逃走できる。
「この俺様をあそこまで虚仮にしてくれたのはてめえがはじめてだ! 何が何でも殺してやる!」
相当お怒りのようだ。
人型なのはスライムの状態よりはやく走れるからだろう。
よしよし。
それでいいんだ。
そうやって俺を追いかけてくればいいんだ。
お前はもう俺の手の中にある。
精々踊るがいい!
「よし、ここらで」
頃合いを見て、ハンスの頭に上った血をもう一度沸騰させるように愚弄する。
「追いかけっこは楽しいなあ、ハンス!」
「うるせえ! 雑魚の分際で名前を呼ぶんじゃねえ!」
「おお、怖い怖い。だけど、この俺様にそんな口を利いていいのか?」
無視したのか、それかどんなことを言ってくるのか聞こうとしてるのか、ハンスは返事をしなかった。
しようがしまいが、もはやハンスが浴びる言葉は決まっているから、何も変わらないんだけど。
さっ、この俺の口から飛び出る言葉で奴を更に怒らせよう。
「お前が魔王の幹部ウォルバクと不倫旅行していたって世間に広めることもできるんだぞ」
「不倫、旅行?」
「そうだ! 魔王の幹部ハンス、不倫旅行中に気が抜けてしまい、冒険者に氷漬けにされる! 見出しはこんなものだな」
と言って、俺はハンスに向けて紙束を投げつける。
それを無警戒に掴み取り、書かれている内容を追いかけながら読んでいく。
その時の様子がありありと再現された絵も見て、ハンスはぐしゃりと紙束を握る。
「くそったれええええええええええ!!」
「うははははははは!」
紙束を真っ二つに破り、道端に捨てる。
そして、それを華麗に哄笑する俺!
「だから、てめえら人間が嫌いなんだよ! てめえらはもっと尊重する心を持ちやがれ!」
「考える頭もないスライムに言われても。それに俺のはただの挑発だ」
「こんな挑発があってたまるか! てめえのは単なる誹謗中傷だ!」
そう言われると俺が本当に酷いことを言ってるように聞こえてしまうから不思議だ。
俺のは計画を遂行するための挑発だ。
それをわからないからあいつは本能のままに生きるスライムなんだ。
もはや頭に完全に血が上り、罠の可能性や誘い込まれていることに意識が向いていない。
元の世界でも怒りっぽいところはあったが、まさかここまでちょろいとはな。
女だったらちょろイン言われてるぞ。
林の中を走る。目的地はすぐそこだが。
ハンスは、罠とかそういうのはお構いなしに俺を殺しに来てるんじゃないかと思えるほどに怒り狂っている。
途中でモモンガのおしっこが入った瓶を投げたのが原因かもしれない。
いくらスライムでもモモンガのおしっこは許せなかったようだ。
言葉による挑発があまり効果なさそうだった時に備えて用意したのだが、ついでだと思って投げたら見事にヒットした。
あれは避けないあいつが悪い。
だが、数々な誹謗中傷と嫌がらせのおかげでハンスを例のポイントに誘い込むことができた。
「『カースド・クリスタルプリズン』!」
「くっ!?」
ハンスは飛んできた魔法を咄嗟に回避するも、右腕を凍らされ逃走できなくなる。
これで正気に戻り、ハンスは周囲を見回して、冒険者が多くいることを知ると。
「まさか、本当に俺を倒しに来てるとはな……」
少しだけ感心しているような声を発して。
「だが、てめえはなぶり殺す!」
ハンスは右腕を切断して、真の姿を露にする。
ハンスの正体、それは巨大なスライムだ。
体から数本の触手らしきものを生やし、何より恐ろしいのはその巨大な口だろう。
あの口なら大型のモンスターも軽々と飲み込めそうだ。
ハンスの真の姿に息を飲むような音があちこちから聞こえる。
接近戦は、全身が猛毒のハンスにはしてはならない戦法だ。そのため今回の戦いでは、斬撃を飛ばしたりできない前衛職は皆大きな盾を持ち、仲間を守るようにしている。一応いいものは用意したが、途中で盾がだめになる可能性は拭えないので予備も持たせてある。
俺はハンスから即座に距離をとり、ゆんゆん達と合流する。
「作戦開始ー!!」
「「「おおおおおおおおお!」」」
汚染されても被害が少ないということでここを選んだわけだが、もちろんなるべく汚染を抑えて戦う。
とはいえ、ハンスのいる場所は既に汚染されてしまっているが……。
ダイナマイトをつけた矢をつがえる。
「ゆんゆん!」
「はい!」
導火線に火をつけて、射る。
矢だけではハンスの体に突き刺さっても効果はないが、ダイナマイトが爆発すれば別だ。
爆発がハンスの体を抉る。
飛び散る破片をゆんゆんが凍らせる。
汚染の被害を減らすためか、ゆんゆんは大きな氷をつくっていた。確かにあれなら飛び散った破片はほぼ凍結させられるな。
ゆんゆんはマナタイトを手に詠唱を――。
ハンスの体から生える数本ある触手の一つが俺達に狙いを定めた!
俺達に向かって伸びてきた触手は、
「はあああっ!」
大剣を持つ剣士が飛ばした斬撃によって真っ二つにされる。
そこへ追い討ちをかけるようにして。
「『カースド・クリスタルプリズン』!」
ゆんゆんの魔法が炸裂する!
触手は丸々氷漬けにされ、ハンスの体から触手が一本失われる。
全体から見れば一部だが、しかしかなり大きな破片なのは確かだ。
出だしは文句なしだ。
ハンスを囲む冒険者達によって、ハンスの周りには氷漬けになった破片が少しずつ溜まっていく。
「本当に絶え間ねえな」
ダクネスがどれだけマナタイトを買ってきたかは不明だが、多分とんでもない数を買ってきてる。
そのおかげで魔法使いは遠慮せずにバンバンと魔法が使えるわけだが。
ハンスははじめこそ俺に注意を向けていたが、俺達よりも周りの冒険者の方が与える被害のが大きいと判断すると、俺だけに注意を向けるのはやめた。
触手で全体に攻撃を仕掛けるハンスだったが、見事に返り討ちに遭い、触手を本体と外された上で氷漬けにされていた。
返り討ちで学習したのか、今度は触手を増やした上で攻撃を仕掛ける。
流石に危険なため、反撃はせずに回避する。もしくは盾で防ぐか、魔法で氷の壁や岩の壁をつくり上げて防ぐ。
「これを使え!」
仕方ないと、俺はゆんゆんに最高のマナタイトを手渡す。
意図を読んだゆんゆんは詠唱を行う。それをダクネスが前に立ち、来るかもしれない攻撃から守る。
「ゆんゆん、合図したら全力で魔法を使え!」
「はい!」
全体攻撃するハンスから、冒険者が臨機応変に対応する中で俺はタイミングを計る。
これだけの触手をどうにかできたら……!
最高のマナタイトは爆発魔法に使う魔力さえ肩代わりできるものだが、ならばゆんゆんが爆裂魔法に匹敵するほどの魔力でカースド・クリスタルプリズンを使っても肩代わりできるということだ。
ハンスが一度攻撃をやめて、再度狙いを定めようと……ここだ!
「ダクネス、デコイだ!」
「わかった! 『デコイ』!」
本能のままに行動するスライムは笑いが出るほど見事に反応し、ダクネスに向かって全ての触手を伸ばすも。
「行け!」
「『カースド・クリスタルプリズン』!!」
ゆんゆんの全力の魔法が迎え撃ち、全ての触手を氷漬けにした!
氷漬けになった部分を切りはなして、ハンスは短くなった触手を元の位置に戻す。
これを見た冒険者が興奮と歓喜の声を上げる。
「うおおおお! やりやがった!」
「あの数を一発で!」
既に多くの触手を失い、ハンスの体ははじめよりも縮小していた。
それもそのはず。触手はハンスの体から生えているのだから失えば小さくなる。
幸運にも先の攻撃で負傷したものはいない。流石、普段から凶悪なモンスターを相手にしてるだけのことはある。
風は俺達に吹く。
源泉にいた冒険者もここに来て合流する。
人の数も増え、ますます有利になる。
ハンスの触手で汚染された場所に触れないように注意しながら、取り囲む。
ここまで来たら、あとは時間の問題だ。
ハンスも、デストロイヤーのように金と物量で破れ去るのだ。
いや本当に金の力は凄い。そもそもマナタイトを大量購入できたからこうして戦えるわけで、そうじゃなきゃどうしたらいいかわからなかったろう。
俺は気を抜かず、ハンスを見据える。
「静かだな……」
ハンスは触手を出すのをやめて、巨大な口を見せているだけだ。
触手でのダメージが痛かったか。
実は触手を出されている方が効率的にダメージを与えられると気づいたから、俺としては出してもらいたいのだが。
巨大な体をちまちま削るのは魔力切れの心配も出てくるから触手を出してくれ。
と思っていたら。
「な、何だ?」
ハンスの体がぐねぐねと蠢く。
それに俺は嫌な予感がした。
アクアが、私に全て任せなさい! って言うぐらい嫌な予感がした。
俺は自分の勘を信じて指示を出す。
「魔法使いは壁なんかをつくって攻撃に備えてくれ! 他のみんなはどんな攻撃が来てもいいように備えてくれ!」
「「「了解!」」」
ハンスを囲んでいたので、俺達がつくった壁はハンスを閉じ込める形になる。
壁もどんな攻撃が来てもいいようにと何重にも重ねられていて、俺を含む何人かがハンスの動きを注視し、他は壁に寄り添っている。
ぐねぐねと蠢くハンスは、突然ぴたりと動きを止めた。
何か来ると思い、いつでも壁に向かって走れるようにする。
そして、ハンスの体から小さな破片が発射される。
それを見て、俺達は慌てて壁際まで走る。
スライムの体は柔らかいので、何重にも張られた壁を壊すことはできない。
だが、こちらも何もできない。
もしも壁を展開していなかったらと思うと、背中に冷たいものが走る。
壁を越えて飛んでいく破片もいくつかあり、壁際も危なくなる。
盾持ちが盾を掲げて、壁の上部に引っかかって落ちてくる破片からみんなを守る。
魔法使い連中はこれを受けて、焦りを見せながらも氷の魔法で屋根のようなものをつくるなりして被害を減らそうとする。
破片に触れないように注意しつつ、壁を越えた破片がどこに飛んでるか一応確認する俺は違和感を覚えた。
というのも別の場所に氷の壁が見えたからだ。
バリケードではなさそうだけど、何だあれ。
もしかして誰かが汚染対策に用意したのか?
それとも触手の時の残りか?
それにしては変な場所にあるような……。明らかに触手が届かない位置にありそうだし。
「カズマ! 退くぞ!」
ダクネスの声に視線を戻せば……!
氷の壁の上部に見覚えのある触手が……。
俺達はすぐに距離をとる。
「どうするか……」
街を汚染から守るためにここまで連れてきたのだ。
逃げてしまったら元も子もない。
この林の中で解決しなくてはならない。
ハンスはその大きさを利用して壁を越えようとしている。
他の冒険者の攻撃は完全に無視している。
受けたダメージの大きさと冒険者の多さから逃げようとしているのか、それとも一部を狙い撃ちしているのか。
本能で動くモンスターとはいえ、魔王の幹部だ。普通のスライムよりは賢くてもおかしくはない。
でも、何をするかは全く読めん。
「カズマ、どうしますか?」
俺は難しい顔になる。
もしも逃走を狙っていたら、ハンスを止めるのは困難を極めるだろう。
物理と魔法に対する耐性は高いのだから、これを食い止めるのは簡単な話ではない。雑魚モンスターを止めるのとはわけが違う。
そう、こいつは逃げてる最中に何でもかんでも飲み込んで腹を満たすだろう。それに通った跡は汚染される。
……おそらく今のハンスに爆裂魔法を撃ち、氷の魔法を全力で使えば討伐できる。
飛び散る破片も、さっきの攻撃を凌いだ俺達なら防げる。何なら魔法使いが氷の魔法を使って凍結させてもいい。
ここで逃走させては全ての作戦が無駄になる。
被害が少なくなるからここで戦っているのを忘れるな。
「爆裂魔法を使う」
「お、おい、それは!」
「この林は汚染させても被害が少ないから選んだんだ。もしもあいつが逃走をしようとしていたら、俺達には止められない」
俺の言葉に周りの冒険者は悔しそうにしながらも頷いた。
あんなものを止めるとなれば、それこそ倒すしかないのだ。
ゆんゆんが不安そうに手を合わせながら。
「でも爆裂魔法を使ったら……」
「破片は飛び散るが、バリケードをはじめとしたものが多く設置されている。それらが防いでくれるはずだ」
「ん。元々爆裂魔法は最終手段として組み込まれていた。何、連発するよりは遥かにいい」
ゆんゆんの不安を取り除くようにダクネスは優しく笑いかけた。
それを見て、少しは安心したのか、不安げな表情を和らげた。
間もなく壁を乗り越えようとしているハンスを見ながら、俺は指示を出した。
「俺達はここに残るが、他のみんなは爆裂魔法のことを伝えてほしい。それで飛び散る破片は」
「全部言わなくても大丈夫だ。それよりあんたらこそ大丈夫なのか?」
「そーそー。爆裂魔法なんてネタ魔法で自爆したりしないでよね」
「おい。ネタ魔法と言うのはやめてもらおうか。さもなくば今ここで……!」
「やめろばか!」
感情が高ぶっためぐみんは目を紅く輝かせて、杖をゆらゆらと動かして威嚇する。
それに周りの冒険者はくっくっと笑い、安心したように笑いかける。
「死ぬなよ」
「お前らこそ」
俺は近くの冒険者と拳をコツンとぶつけ――。
「なあ、ハンスの様子がおかしくはないか?」
ダクネスの指摘に俺達はハンスを見る。
「どうしたんだ、あいつ」
壁を乗り越えようとせず、何かを気にしている。
まさか、他の冒険者が何か……。いや、攻撃は全部無視してたからそれはないか。
じゃあ、いったいどうして。
いや、待て、何だこの魔力?
めぐみんの爆裂魔法を遥かに凌駕するほどの魔力を感じるぞ。
ウォルバクか?
いや、それなら上級魔法で俺達を攻撃する。
「魔力ない俺でもこれがやばいのはわかる」
「寒くなってきたな……」
寒い、つまり氷の魔法か。
だけど、こんな魔力は一人で出せるものじゃない。それこそ複数人が同じ魔法を使おうとしてるみたいな感じが……。
その時だった。
「「「今こそ! 我ら紅魔族の力を知らしめる時……!」」」
「に、逃げよう、逃げよう!」
俺の言葉にみんなは頷く。
見れば他のところの冒険者も紅魔族という名の異常を察知して逃走を開始している。
「「「この世の全てを統べる我らの力を見るがいい!」」」
何人で来たんだよ!
ヤバいヤバいヤバい。
あいつら一斉に魔法を唱える気だ。
数えきれない人数で来ていそうな紅魔族の連中は。
一番美味しいところを持っていく本能を持つ紅魔族の連中は。
「「「『カースド・クリスタルプリズン』!」」」
いったい何人が唱えたのか知らないが、何を考えてやったのか知らないが、そいつらの魔法は氷の山をつくりあげた。
何これ……。
本当に何なんだろうな。
俺、いやみんな決意したんだよ。
そしたら氷の山ができてたよ。
意味わかんね。
呆然とする俺達のところに数十人の紅魔族がやって来る。
氷の山があるから迂回してきたようだ。
その内の一人、ぶっころりーが顔を見せる。
またお前か。
「どうだい、俺達の力は。大量の魔力で氷の上級魔法を使い、ハンスを氷漬けにしたよ。いやあ、ゆんゆんも中々よかったけど、美味しいところを持っていく技術がまだまだだね」
「他に打つ手なしってところで私達が一撃で倒す。それもこの戦いに参加した冒険者より少ない人数で。見事だと思わない?」
わかる。
俺の周りの冒険者がキレかけてるのが。
俺もキレかけてるからな。
「なあ、お前達が最初からいてくれたら、もっと楽に倒せたんじゃないのか?」
「わかってないな。格好よさを求める俺達は最高に格好よくなる瞬間を待ってたんだよ。君も中々だったけど、まあ俺達ほどじゃないね!」
俺達は怒りを落ち着けようと深く息を吐いて、体をほぐすように動かして。
でも、やっぱり無理だったわけで。
「「「ふざけんなっ!!」」」
「「「ひいっ!?」」」
全力で怒鳴りました。
ハンス討伐は不本意であれ達成された。
ハンス討伐後は、朝になるまで冒険者と紅魔族が交代でハンスの破片を凍結させて汚染被害を抑える。
朝になったら何をするのかと言うと、もちろん例の作業だ。
「紅魔族は遠慮なく使ってくれ。さあ、みんな、ハンスの破片を魔王の城にテレポートさせるぞ!」
「「「おおおお!」」」
紅魔族も強制的に働かせて、春のテレポート祭りを開催する。
凍結されたハンスの破片をテレポートで魔王の城に返品するだけで、浄化にかかる時間が大幅に減らせるんだぜ。
この作業は高品質マナタイトを用いることで実にスムーズに行われ、僅か数日で破片や汚染されたものの撤去は完了した。
残るのは汚染された地面とハンスの本体だ。
ハンスだけは紅魔族の手で凍結されてきた。
最初は氷の山のようだったが、紅魔族が上手く調整してきたので、今では元の大きさとあまり変わらない。
こういうところが腹立つんだよな。
少しイラっとしながらぶっころりーに頼む。
「これも紅魔族がテレポートで何とかしてくれよ。ほら凍らせた時みたいに力合わせてさ」
「無茶言わないでくれ! テレポートは複数人で発動しようとすれば、少しぶれるだけで失敗しかねないんだ。だから小さくしてからテレポートしよう」
ぶっころりーの言葉に何人かの紅魔族がライト・オブ・セイバーで氷漬けのハンスを切り裂く。
テレポートできる大きさまでカットしたら、それを魔王の城に送り届ける。
飛び散った破片とハンスがこうして完全にテレポートされたことで、最初の浄化は完了した。
残りは地面の汚染になるのだが……。
ここで我々に対して、アクシズ教徒がとんでもないことを言い放った……!
「汚染されてる土もテレポートで飛ばしてしまえばいいと思います……!」
その言葉にみんなは頷いた。
残りの作業は街の冒険者だけでもやれるということで、俺達と紅魔族は残りを任せた。
ハンスの討伐報酬は参加者全員に均等に支払われた。
ただし紅魔族は報酬は受け取らないと最後まで格好つけて、里に帰還した。
俺達は温泉宿で一日休んで、アルカンレティアをあとにした。
ウィズのテレポートでアクセルまで戻り。
「グェゴ」
三匹の蛙を発見した。
見つけた以上倒すしかないよな……。
面倒臭いけど、倒すか。
「ウィズは先に戻っていいぞ」
「ではお言葉に甘えさせていただきますね。皆さん、お気をつけて」
頭を軽く下げて、ウィズはアクセルの街へ。
ハンスを倒した俺達の敵ではない。
というかゆんゆんがいるから楽勝だ。
そんなわけで蛙はすぐに倒せた。
「これでやっと帰れるな」
「今回はどうなるかと思いましたよ」
「そうね。本当に恐ろしかったわ」
「しかし、カズマが紅魔族を説得したおかげで何とかなったな」
「あいつらも、来るならさっさと来いってんだ」
ちょむすけを奪取する最高のタイミングはいつなのか。
「『パラライズ』」
「「「!?」」」
それは簡単なことだった。
考えればすぐにわかることだ。
「そこのお嬢さんは耐性が高いのね。『フリーズバインド』」
ダクネスは首から下を氷漬けにされ、俺達はパラライズの魔法で体が麻痺して動かない。
気づくべきだった。
ウィズが来たのにどうして蛙は逃げないのかと。
ハンスを倒して気が抜けていた。
あの恐ろしい敵を倒し、死の危険から解放されたから張り詰めたものがなくなり、隙だらけになっていた。
ずっと待っていたんだ。
きっと短時間で俺達のことを調べ上げて、この街に帰って来る瞬間を。
「ああ……! 全身が氷漬けにされて動かない。こんな仕打ちははじめてだ……!」
空耳だ!
何もなかった。
俺は何とか視線を動かしてウォルバクを見る。
ウォルバクはちょむすけを抱いていた。
「返してもらうわね」
次の話にすぐとりかかります。