このすば! 俺はまた魔王を倒さなきゃいけないようです   作:緋色の

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原作も結構前に新しいのが出ましたね。
バツネスをママと呼ぶ謎の幼女。
同じぐらいにダストを主役にしたものも出ましたね。
やはりダストは例の人で?

はやくアニメでアイリス見たいね。

あと今回から行間詰めていこうと思います。


第七話 もしかして最強の敵? 後編

 俺達はキールのダンジョンに向かっていた。

 確実に魔王より強いバニルさんと戦うためだ。

 普通に考えてあいつに勝てる見込みはない。

 というか、あいつは倒しても残機とかいうふざけたものを持ってるので、倒すとかそれ以前の問題だ。

 みんなは俺がいれば勝てるとか言ってたけど、むしろ俺の何を見てそう思ったのか問い質したい。

 もしかしてベルディアとか色んなの倒したから、バニルもいけると勘違いしたんだろうか。

 それはよくない。

 大体そういう時って、ぼっこぼこにやられたりするもんだ。で、そんな……私達の力が、とか言ったりする。

 

「ふう……。バニルか……」

「まだ嫌がるんですか?」

「見通す悪魔だからなあ。こっちの考えを見抜かれたりして思わぬ反撃もらいそうだし」

「そこは怖いけど、でも今までもやれたからいけるわよ」

 

 ゆんゆんの仲間を信じるその顔を見て、俺はこれ完全にぼっこぼこにやられるフラグじゃね? と思ったり思わなかったり。

 それにしても二回連続で大悪魔と戦うパーティーって、俺達ぐらいなもんじゃないか? もしかしたら史上初だぞ。

 まあ、ゆんゆんがマクスのことを知らなきゃ俺達は上位悪魔と勘違いしてたが。

 何でゆんゆん知って、た……まさか。

 

「話は変わるけど、ゆんゆんは何でマクスウェルのこと知ってたんだ?」

「えっ!? そ、それは里にいた時にどこかで読んで覚えてただけで、それだけよ!」

「ゆんゆん、まさかとは思うが、マクスの力でぼっち生活を変えようとはしてないよな?」

「そ、そんなわけないじゃない! 友達いない事実を変えたりしようと思ったことはあるけど! でも、儀式は直前でやめたわ!」

「やろうとしたんですか……。何てあほなんでしょうか」

「まあ、途中でやめたなら、な? それに今は私達がいる。ゆんゆんを一人にはしないさ」

「ダクネスさんの優しさが痛い! 私だって、私だって友達がいたらあんなばかなこと考えないわよ!」

 

 友達欲しさに大悪魔を呼び出そうとしたぼっちには明日から少し優しくしよう。

 

「友達と言えば、ゆんゆんはダストと友達なんだよな?」

「ねえ、待って。それはいくらなんでも酷いと思うわ。私にも友達を選ぶ権利ぐらいあるんだけど」

「でも、あいつと一緒にいるの目撃されたりしてるし。……ゆんゆんみたいなのは、ああいうのに言いくるめられて、最終的にビッチになるんだよ」

「ぼっちからビッチにジョブチェンジですか……。そうなったら私はどうしたらいいのでしょう」

「待って。いくら私でもダストさんだけはないから! それならまだカズマさんに騙される方がまだまし……?」

 

 まるで究極の選択とばかりにゆんゆんは真っ青な顔で悩んだ。それは俺に失礼だと思う。あんなチンピラと善良な市民を比べたらいけない。

 そりゃあ鬼畜のカズマさんと言われたりするけど、それは全部誤解であって、本当の俺は善良な市民だ。

 

「大体お前達の尻拭いは俺がしてるんだぞ。例えばめぐみん、お前だ」

「ほう。私が何をしたか言ってみるといいですよ。それがすぐに間違いだと教えてあげましょう」

「爆裂魔法のせいで狩りに支障が出てるので何とかして下さい。名前をからかわれて暴れた紅魔族を何とかして下さい」

「過去は……振り返らないものなんですよ」

「お前、俺が謝りに出てるんだからな。ダクネスはわりと問題ないけど、性癖を何とかしてくれとクレームは来てるな」

「性癖は仕方ない。性癖を隠せ云々は呼吸をするなと言ってるものだ」

「お前のは普通の下ネタよりえぐいから問題なんだよ。子供が聞いたら泣いちゃうからな」

「ああ……、確かにダクネスのあれは仲間の私でも青ざめる時がありますからね」

 

 思い出しためぐみんが遠い目をした。

 時々ダスティネス家のためにも、ダクネスをどっかの家に嫁に出した方がいいんじゃないかと思う。そうすればダクネスも少しは落ち着きを持つ……、持てるかなあ?

 どうやっても手遅れなんじゃないか?

 ダスティネス家の今後を心配していると、ゆんゆんに聞かれた。

 

「私は何もないの? それならめぐみんより上ってことになるわね」

「むっ! あなたみたいなのが何の問題もないとかあり得ませんから! さあカズマ、現実を突きつけて下さい!」

「ゆんゆんか……。ゆんゆんはなあ……、うん」

「ねえ、何でそんな顔になるの? ねえ、どうしてよ!?」

「確かに苦情はないんだよ。ないんだけど、俺と契約してアークウィザードになってくれないかな、どうやってパパって呼ばせようか、友達を口実にデートしてムフフ、とかそういうのが多くてなあ……」

「……」

 

 クレームより酷い欲望の塊発言にゆんゆんは言葉を失い、顔は引きつらせた。

 陰で何を言われてるか知ったゆんゆんは俯いて、とぼとぼと歩く。

 もしかしたらチンピラに絡まれてる方がまだましなんじゃないかと思うレベルだ。

 何と言うか、ゆんゆんはどうして変なのばかり引き寄せるのだろうか。この子にまともな友達ができる日が来るのだろうか。

 

 

 

 

 

 ゆんゆんが暗いまま、問題のキールのダンジョンに到着した。

 記憶が確かなら、小さいバニルがいるはずだが。

 

「あれは何でしょうか?」

 

 ダンジョンの入り口から小さなバニルが出てきている。触れたら爆発するとんでもない人形だ。

 硬いことで有名なダクネスなら余裕で耐えられるが、俺達三人はきついものがある。

 

「あれは爆発するからな。ダクネス、お前盾になって進め」

「爆発? 何だその素敵仕様は。よし、早速楽しんでくる!」

「いや、楽しむなよ!」

 

 人形の前に飛び出るダクネスに俺は突っ込むが、もう遅い。

 人形は次々と飛び付いて爆発する。キールダンジョンにいる弱いモンスターを退治するのが目的でつくられた人形なのでそこまで爆発力はない。

 しかし、滅多に味わえない爆発を思う存分堪能できるからなのか、ダクネスは輝いた笑顔を俺達に見せていた。ばかか、あいつは。

 でもまあ、ダクネスのおかげで入り口周辺の人形は一掃? できた。

 

「俺とダクネスでダンジョンの中を調べてくるから、お前らは見張っててくれ」

「わかりました」

「気を付けてね」

 

 さーて、バニルに会いに行きますか。

 ダクネスと共にダンジョンに入り、人形を全て押しつけて、記憶にある通りに進む。

 そこまではもう経験したことをそのままなので、問題なくバニルのところまで行けた。

 

「むっ? 人間が何故ここに?」

「とりあえずその人形は迷惑だからやめてくれ。ダンジョンの外まで出てきてるんだよ」

「ダンジョン内のモンスターを倒すためにつくってたが、どうやら終わっていたようだな。なら、これはもうつくる必要もなかろうて」

 

 バニルは立ち上がり、俺達を、いや、俺をじっと見つめて……。

 

「ふっはははは! これは、これは何ということだ! 長く生きてきた我輩であるが、小僧、お前のような面白い人間ははじめてかもしれぬ。ふむふむ。なるほどな。実に面白い。ある意味では我輩よりも世界に詳しいのか」

「だからお前と会いたくなかったんだよ……」

「そう落ち込むな。故郷に帰れば、自分に好意を寄せてる娘達が寂しさから簡単にヤらせてくれるのではないかと期待してる男よ」

「やめろ! そんな嘘吐くんじゃねえ! な、何だよその目は。ダクネス、お前まさか信じてんのか!? 俺があいつの言ってること思ってるって!」

 

 ダクネスがごみを見るような目を向けてくる。

 くそお。あいつのせいで俺の秘めたる思いが明かされてしまった。こういうのがあるから戦いたくないんだよ。

 

「ふむ。中々の悪感情だ」

 

 勝てる気がしない。魔王と戦う方が楽なんじゃないかと思うほどに勝てる気がしない。

 こいつのペースを崩すには貧乏店主のスーパー浪費タイムか狂犬女神をぶつけるしかない。しかし、今はどちらも使えない。

 仕方ない。この戦いが終わったらあいつが苦労するように、ウィズの仕入れセンスを褒めまくろう。

 

「おい、危険なことを考えるでない。まだ話し合いの余地はある」

「話し合いって言ったって、何を話し合うんだよ」

「知っての通り、我輩は人間は殺さぬが信条でな。まあ、何だ、汝らが頑張って倒せばよい」

「他力本願かよ!」

「な、なあ、カズマ。さっきから何の話をしているんだ? お前とバニルは知り合いなのか?」

「最近腹筋が割れてきてるのを気にしてる娘よ、我輩はこの小僧とは初対面である」

「な、何で、そのことを……! いや、それこそが貴様の力とでもいうのか!?」

 

 ダクネスは顔を真っ赤にして慌てる。

 ちなみに俺も腹筋割れてるの知ってる。

 予想してた通り、バニルにいいようにされていた。

 この悪魔を倒すなんて本当にムリゲーなんじゃなかろうか。

 こいつをこのダンジョンで活動させて、アクシズ教徒をけしかけるか。

 

「だから、危ない考えはやめろと言うに。アクシズ教徒みたいな危険物を寄越そうとするな」

「お前でもアクシズ教徒は無理なのか……」

「むしろ、あれを何とかできる者がいるのか? 悪魔にとって神は敵なので構わぬが、他宗教、特にエリス教に対する奴らの活動は、見るだけでも手遅れなものを感じさせる」

「「ああ……」」

 

 貧しい人に配るパンを全て盗み、教会に石を投げ込み、信者をばかにし、あまつさえエリス様を冒涜する連中だからな。

 ある意味では魔王軍と同じぐらい脅威的だ。

 関わりたくないランキングトップスリーにできるぐらい厄介な連中だ。

 

「なあ、本当にお前達は知り合いではないんだよな? 見てて、知り合いとしか思えないのだが」

「さっきも言ったが、我輩はこの小僧とは初対面だ。見通す力で汝より詳しいことはわかっているが。それこそ小僧が抱える秘密もな」

 

 意味深に語るバニルに、ダクネスは戸惑うように俺を見つめる。

 そんなダクネスに俺は、俺は。

 

「人間、秘密ぐらいあるだろ。ダクネスだって腹筋のこと隠してたろ? それと同じだ」

「腹筋言うなっ!」

「むう。そう簡単に切り抜けられてはつまらんな」

 

 これでもバニルとはそこそこ長い付き合いなので、少しぐらいは対処できる。

 つまらなそうにこちらを見ていたバニルだったが、

 

「では、上で待つネタ種族をからかいに行くとしよう。あっちは小僧のように我輩を知らぬからな」

「めぐみん達のところには行かせん!」

 

 ダクネスは剣を抜いて、バニルに斬りかかる。のはいいんだけど、当たり前のように外した。

 俺にとっては見慣れたものであり、何だったら安心さえ覚えてしまうほどだ。……俺も俺でもうだめかもしれない。

 

「めぐみん達のところには行かせん! キリッとした娘よ、中々いいこうげ、ぷっ……!」

「わ、笑うなあ!」

 

 思わず吹き出したバニルにダクネスは真っ赤な顔で怒鳴りつける。

 剣を構えて、もう一度攻撃しようとしているが、さっきみたいに盛大に外すのが怖いのか、中々踏み出そうとしない。

 バニルはふっと笑うと、俺達に背を向けて走り出した。

 慌てて追いかけるも、流石は魔王より強いかもしれないバニルさんと言われるだけのことはあって、俺達よりずっとはやい。

 追いつくのは無理だ。

 それでも限界を超えるほどに走って、何とか食いつく。

 ゆんゆんやめぐみんなんて、バニルからしたら絶好の獲物だ。

 バニルが入り口に到着し、俺達も遅れて到着した。

 めぐみんとゆんゆんの二人は俺達とは反対の場所にいて、バニルを挟むことはできた。

 俺達の間にいるというのに、バニルは焦り一つ見せず、余裕たっぷりの態度でめぐみんをじっと見つめた。

 

「これが魔王の幹部バニルですか。あの超絶格好いい仮面はほしいですね」

「ほう、この仮面のセンスがわかるとは。貴様中々の美的センスの持ち主のようだな」

「それはもう! この私の卓越したセンスは他の追随を許しませんよ」

「ふむふむ。そんな貴様は寝る前にはバストアップ体操なるものを実行し、最後は胸に手を当ててエクスプロージョンエクスプロージョンと言っているみたいだな」

「!?」

 

 めぐみんが恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして俯いた。両手で顔を隠しているのを見ると、怒る余裕もないらしい。

 やるな。

 あのめぐみんをここまで追い詰めるとは……。

 

「大丈夫だめぐみん! 俺達は気にしないから! これからも遠慮なくエクスプロージョンしていいぞ!」

「ばかにしてるんですか、あなたは!」

「まさか!」

 

 からかうネタが増えて嬉しいだけだ。

 バニルはこれこれとばかりに嬉しそうにしている。めぐみんの悪感情がよほどよかったらしい。

 次にゆんゆんを見て……、何故か目を背けた。

 

「まあ、何だ。強く生きろ」

「何なの!? どうしてそんなことを言うの!?」

「汝の未来は我輩でも目を背けたくなる」

「何を見たの!? 本当に私の何を見たの!?」

 

 あのバニルでさえ目を背けたくなるって相当な未来じゃないか?

 涙目で食い下がるゆんゆんにバニルは首を横に振るのみで、何も言おうとしない。本当にどんな未来見たんだよ。

 ゆんゆんは「もしかして、私、みんなに捨て……」と呟き、ありもしない未来に頭を抱えて怯えている。

 やっぱこうなるのか……。

 

「ええい! もう何も言わせるな!」

 

 ダクネスはバニルに斬りかかる。

 あいつの言う通り、もう何も言わせないように攻撃しまくろう。

 

「『カースド・ライトニング』」

 

 意外なことに一番ダメージを受けたであろうゆんゆんが攻撃に転じた。

 俺は三人に当たらない位置に移動し、バニルの仮面を狙撃する。

 めぐみんは敵の位置が悪いため、爆裂魔法を撃つことはできないが、杖は構えている。

 

「フッハハハハ! どうした! こんなものでは我輩は倒せぬぞ!」

 

 えっ?

 ダクネスの攻撃はともかく、何で俺とゆんゆんの攻撃をあんな簡単に避けてんの?

 ぶっ壊れ性能とは思ってたけど、ええー……。

 もしかしたら見通して、それで回避してるんだろうけど……、どうしたらいいの、これ。

 やっぱりここはダクネスに憑依させて、爆裂魔法を撃ち込むべきか。

 しかし、それにはバニルがうっかり憑依してやられちゃったてへぺろ展開が必要になる。

 笑いながら攻撃を避ける悪魔に俺達は必死になって攻撃する。

 ゆんゆんもいつも以上のはやさで上級魔法を使っている。呪われた未来を覆さんがために戦っているように見えた。

 そして……、

 

「はあっ!」

「ま、まさか、貴様に……見事だ……冒険者よ」

 

 バニルの体がダクネスの剣で切り裂かれる。

 やった本人は信じられなさそうにしていた。

 滅多に攻撃が当たらないから、いざ大物を切り裂くと困惑してしまうのか。

 そのダクネスにゆんゆんとめぐみんが飛びつく。

 

「やりましたね、ダクネス!」

「あの大悪魔を倒せましたよ!」

 

 前にも見た気がする光景に俺は頭痛を覚えた。

 あのバニルがこれぐらいで死ぬんなら、誰も苦労しない。

 地面に残された仮面の下に土が集まり――。

 

「フハハハハ! 本当に我輩を倒せたと思ったか? 残念! この体はあくまでも土くれでな。仮面が本体になるのだ」

「「「…………」」」

「これはまた美味な悪感情をありがとう。空振りクルセイダーよ、中々の一撃であったぞ」

「うわあああああああ!」

「フハハハハ! フハハハハ!」

 

 キレたダクネスが闇雲に剣を振り回す。

 ダクネスの剣をバニルは高笑いしながら避けてるふりをする。

 あのバニルでも避けるのがやっとで反撃できない、そんな風にしている。ダクネスのことを何も知らない第三者が見たら、きっとダクネスを優秀な騎士と思うことだろう。

 見事な煽りに俺は流石だと思った。

 煽られてる本人は怒りの形相で、顔を真っ赤にして必死に斬りかかっている。

 

「よもや、この我輩に反撃する機会を与えないとは……。貴様、ただ者ではないな!」

「そこまでよ!」

 

 煽り続けるバニルの背後をゆんゆんはとり。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

「なん、だと……。まさか、この我輩を二度も……」

「またやんのかよ!」

 

 ゆんゆんの魔法で切り裂かれ、死んだふりをしようとしたバニルの仮面に矢を放つ。それもあっさりとかわされ、バニルは楽しげに俺達を見る。

 もう何したら勝てるのかわからない。しかも、ここまで怒濤のように攻撃したものだから、息が上がってきた。

 まともに戦ったらこうなるのか……。

 

「カズマさんなら何とかしてくれると思ってるぼっちよ、その男でも無理なものは無理だ」

「それはわからないわよ! 鬼畜なことに関してはアクセルどころか世界一と呼ばれてるカズマさんよ! きっと何とかしてくれるわ!」

「ちょっと待て。誰が俺をそう言ってんだ? 毎回思うけど、誰が言ってるんだ?」

 

 とうとう世界に飛び出した俺だが、だからってバニルをどうこうできるわけじゃない。

 色々反則すぎて、何をしても無駄に思える。

 爆裂魔法を叩き込めれば勝てるんだが……。

 この悪魔をどうにかするには……。

 やはりウィズの仕入れセンスを徹底的に褒めて、アクシズ教徒を店に通わせるしかないな。

 

「おい。我輩に勝てぬからって危険な考えはやめろ。貴様はどうしてそんなに人が嫌がることをピンポイントで突いてくるのだ」

「安心しろ。アクシズ教徒はウィズが困るからやらん」

「センスを褒めるのもやめろ! 何なんだ貴様は!」

「勝てないならこうやって嫌がらせするだけだ」

 

 こいつがその気になれば、精神的に破綻しそうなのがうちのパーティーには四人もいるんだから、勝てる見込みがないっていうか。

 俺の嫌がらせに腹を立てたのか、それとも悪魔としてプライドを見せたのか、バニルは俺をびしっと指差して言った。

 

「魔王を倒したら故郷に帰る男よ」

 

 俺がずっと隠してきたことをばらしやがった。

 けど、何か続きがあるような口振りだな。

 これでなかったらその時はガラクタしか載ってないカタログをウィズに何冊も渡してやる。

 俺の脅し……、嫌がらせにバニルは動じず。

 

「もう一度我輩のことを思い出すがよい」

 

 こいつのこと?

 いつも人を変なことで追い込む悪魔らしい悪魔としか思えないが。

 だけど、バニルがそんなことを言ってきたのには理由があるはず。

 問題は何のために言ってきたかだけど……。

 思い出すしかないのか。

 最初から思い出そう。

 こいつは夢のためにダンジョンを欲しがってる。

 こいつがこのダンジョンに来たのは、魔王に調査を頼まれたのに気紛れを起こしたからだ。このダンジョンでもいいやと。

 ダンジョンを欲しがる理由の一つに破滅願望なんてものがあった。

 自分のつくったダンジョンに挑んだ凄腕冒険者が、各部屋の手強い敵を倒し、最後にはバニル本人も倒す。褒美として現れた宝箱を期待しながら開く。しかし、中身はスカという紙。それを手にした時の冒険者の悪感情を食しながら滅びたいという迷惑なものだ。

 他に知ってるのはなんちゃって幹部ということ。

 で、その幹部をやめたがっていた。

 それぐらいしか知らないが……。

 もしかして倒されようとしているのか? まあ、倒されないとウィズのところで働けないからな。それならさっさと倒されてくれればいいものを。

 待て、こいつは得をするように動く。

 倒されれば当然残機は減る。その残機だって貴重なものだ。

 多分こいつは残機に釣り合うものを要求してる。

 つまり……、俺の体だ。

 

「そんなわけなかろうが!」

 

 バニルが怒鳴り散らした。

 凄くキレのある突っ込みでもあった。

 バニルがあまりにも突然に怒鳴るものだから、三人はビクッと体が跳ねるほど驚いた。

 気に障ったのか、バニルは俺を睨みつけている。

 冗談は置いて、あいつの要求してるものは何となくわかる。

 それは、俺の知識だ。

 あの野郎、倒されてやる代わりに無料で寄越せと言ってやがる。

 まさか、全て要求してんのか?

 

「うむ」

 

 こいつ!

 まさかの全部要求とか何言ってくれてんの!?

 あっ。

 キールが浄化されたのも、こいつが手を回したんじゃないのか?

 やけにタイミングがいいし。

 バニルは腕を組んで笑みを浮かべている。

 俺が条件を飲むと思っている感じだ。

 莫大な金になるものを全て明け渡すなど……。それこそ俺の持ってる財産と同じか、それ以上の価値があるものだぞ。

 

「汝、故郷にお兄様と呼んでくれる者がいる男よ」

 

 ……ああ。

 俺に選択権はなかったんだ。

 ここでバニルを倒さないと、アイリスに会う機会が失われる。

 最初から手のひらの上にいたんだ。

 バニルは右手を起こして、顎を触っている。

 小さな笑みを浮かべて俺を見ている。それは俺の葛藤を楽しんでるみたいで、あと今までの仕返しができて喜んでるようで。

 歯をぎりぎりと鳴らして、悪魔を睨みつける。

 俺の、俺の知的財産がこんな形で奪われるなんて。

 ……待てよ?

 まさかとは思うが、こいつ、ウィズに話を聞いた時から全部計画してたのか?

 ……何て恐ろしい奴なんだ。

 バニル討伐の報酬があるから、傷は浅くできるが……、くそお! 俺何も悪いことしてないのに!

 おかしい!

 こんなのおかしい! 間違ってる!

 地面を両手で叩いて、バニルを睨む。今なら血の涙が流れてても不思議じゃない!

 

「な、何が起こってるの?」

「わからん。よくわからないのだが、私はあの二人は知り合いではないかと考えてる。そうでないと色々おかしい」

「ま、まさか、カズマは魔王軍と繋がってる、そう言いたいのですか?」

「いや、それはないだろ。それならベルディアを嬉々として倒す理由がない」

「ふむ。何度も言ってるが、我輩は小僧とは初対面である。わかったら何度も同じことを言わせるでない。小僧に凄いことされたいと思ってる腹筋クルセイダーよ」

「貴様ああああああああ!!」

 

 ダクネスが顔を真っ赤にして斬りかかる。

 バニルは退屈そうに欠伸をして、攻撃を見ない。

 一歩も動かないバニルに攻撃を当てられず、それでもと次々攻撃するが、掠りすらしない。

 バニルは笑みを浮かべながら、手をぽんと叩いて煽る。

 

「ふむ。何であったか……。ああ、そうだ。騎士は守るべき者や弱き者に刃を向けないだったな。もしかして素振りをするのは、我輩がどちらかだからか?」

「あああああああああああああああああ!!」

 

 ダクネスが怒りの叫びを上げて、今まで以上に剣を振るが、悲しいほどに当たらない。

 バニルは何も起きてないかのようにのんびりとめぐみんに向き直る。

 エクスプロージョンのことを思い出したのか、めぐみんの表情は強張る。

 

「むう……。ネタ魔法並みのネタてんこ盛り娘め。どれにするか迷うではないか」

「てんこ盛りって何ですか! 私は常に至極真面目に生きてます!」

「なお悪いわ。妹にたかってたニートめ」

「たたたたたたかってませんから! ちゃんと仕事して、してましたから!」

 

 紅魔族随一の天才の意外な過去が明らかになった。

 あいつニートだったのか……。

 こめっこって小さかったよな? あいつがアクセルに来る前のことだから、それで考えると……、見事な穀潰しだな。

 しかし、こめっこもこめっこでどこからご飯を……。いや、あの子はあの子でかなりたくましい。それこそ姉よりたくましいかも。

 ニートが何か色々言っているが、その都度ゆんゆんに突っ込みを入れられていた。それにめぐみんは怒鳴り返してた。

 と、ここでダクネスの動きが止まる。

 

「やっと疲れたか、脳筋クルセイダーよ。それにしてもここまで当たらないとは……、逆に見事である」

 

 俺もそう思う。

 めぐみんをからかってる間もダクネスはずっと攻撃してた。素振りしてんのかと思うぐらい外してたけど。

 ダクネスは剣が振れなくなるほど疲れ、剣を支えにして休んでいる。

 バニルを自力で倒すのは諦めて、要求を飲んでしまおうか。

 考えを変えるんだ。アイリスに会うために知的財産を差し出したと思えばいい。

 別に……、討伐報酬は手に入るし? アイリスと会えるし? く、悔しくねえし……。

 

「わかったよ。俺の大事なものやるよ、もう……」

「カズマさんの」

「大事なもの?」

「「「…………体か!」」」

「「違うわ! このむっつりスケベどもが!」」

 

 何言ってんだこいつら。

 基本性能に難ありなのに、とうとう頭まで腐りやがったか……。

 

「む、むっつりスケベとは何ですか! 紛らわしい言い方をする方がいけないんですよ!」

「そうだそうだ!」

「むっつりスケベじゃないわよ!」

「やかましいわ! 夜な夜な誰かさんでいかがわしい妄想してる娘達よ、少し静かにしておれ」

「「「わあああああああああああ!!」」」

「な、何をする、やめろ!」

 

 誰かさんでいかがわしい妄想? まさか三人とも……、いや、待て、佐藤和真。これは罠だ。バニルが仕掛けた巧妙な罠だ。

 考えてもみろ。元の世界でももっと先になってめぐみんとダクネスに好かれたんだぞ。それなのにこんなはやくから三人に好かれるなんてあり得るか?

 つまり、この三人は他の男で妄想してる。相手は誰か知らないが、俺よりもはやくに三人を攻略した奴がいたのだ。

 何て、ことだ……。

 そうとも知らずに俺はこいつらとパーティーを組んでたのか。

 もしかしたら陰で俺のことをせせら笑っているんじゃないか? もしそうなら俺立ち直れないぞ。

 気になるのは相手だ。ひょっとしたら三人とも既にいただかれているんじゃないのか?

 ご馳走さまされてんじゃないのか?

 

「何てことだ! 三人とも男をつくってたとは。相手は誰なんだよ! ダストか、ダストなのか!?」

 

 あのチンピラなら三人を言葉巧みに騙してもおかしくはない。こいつらを利用して、俺から全財産巻き上げるつもりなんだ!

 今にも泣きそうになるが、俺はぐっと堪えて三人を見て、小便ちびりそうになった。

 何故か三人とも俺に怒りの眼差しを向けている。

 

「わ、悪かった。流石にダストは言いすぎた。そうだよな、お前らならもっといい男捕まえられ、る?」

 

 よく考えたら問題しかない三人と付き合おうとする男なんかいるのか?

 ゆんゆんはまだ良識あるけど、トランプとかの一人遊びは世界一認定されかねないほど極めてるし……。

 俺は三人を見て、わかった。

 男ができてるわけじゃない。

 

「片想いか。相手は貴族か? イケメンか? くそ、だから世の中クソゲーなんだよ!」

 

 人が必死になって頑張ってるのに、イケメンは横から持っていく。外見は大事だけどさ、でも俺は中身を重視するから。

 散々苦労させられた俺は中身の大切さをよくわかっている。外見で決めるような奴は苦労して泣けばいい。

 悔しくねえし!

 

「予想してないところからの悪感情、これもまた美味である。このまま味わいたいところではあるが、そろそろ幕引きとしよう」

「幕引き?」

「うむ。我輩は魔王に頼まれ、ベルディアを倒したのは誰か調べるためにこの地へ来た。先ほど脳筋クルセイダーが誰が倒したか教えてくれたし、もう十分であろう。……そこの小僧を手土産に帰るとしよう」

 

 バニルは仮面を手に取り、

 

「仮面の下はそんな顔だったのか!」

「カズマ、お前はどこに興味を持ってるんだ! こいつは何かをしようとしてるんだぞ!」

 

 バニルから俺を守るためにか、ダクネスは俺の隣に来て剣を構える。

 それを見て、つい思った。

 どうせ当てられないんだから、剣は構えなくてもいいよと。

 言わなかったのは我ながら偉いと思う。

 

「貧弱な体に憑依するのは我ながらリスキーであるが、まあぽんこつ娘三人なら何とかなろう」

 

 俺に向かって仮面を投げてきた。

 そして、それは俺を庇って前に出たダクネスに当たった。

 俺はさりげなくダクネスとバニルから距離をとり、様子を見る。

 憑依したバニルは体を震わせながら笑う。

 

「くっくっく……。小僧が貴様らを守るために命を差し出し」

「!? カズマがいつ……、まさかさっきの大事なものとは!?」

「うむ。その通りである。小僧が」

「これだから悪魔は信用できないのよ! 人の魂を奪うことしか頭にないんだわ!」

「くっく(めぐみん! 爆裂魔法を撃て!)」

「いくらダクネスでも爆裂魔法を受けたら!」

「それを聞いて我(構わん、撃て!)何、我輩のし」

「ダクネスさんが押さえてる。撃つなら今だけど……でも!」

「貴様らにで(信じろ。どんな攻撃にも耐えてきた私を)やれるもの」

「やれ、めぐみん! 仲間を信じろ!」

「やかましいわ! ええい、さっきから我輩の言葉を遮りおって……。爆裂魔法が撃たれると知って、我輩が黙ってると思ったか?」

 

 不機嫌そうにしながらも、流れを守っている。悪役っぽく笑いながら、仮面に手をかける。

 何だかんだでノリノリだ。

 長く生きた悪魔だけあって、演技は上手い。

 

「(させるかっ!)むっ。我が支配をまたしても上回るとは……。だが、支配に抗えば抗うほど激痛は、んっ? 待て、貴様どうして喜んでいる? (この私が痛みなどに屈すると思ったか? これほどの痛みはむしろご褒美だ! ばかめ!)ばかは貴様だ! ……世の中には貴様のような変態がいるのは知っているが、まさかここまで手遅れのド変態がいようとはな(私は手遅れでもド変態でもない! 誇り高い騎士だ!!)貴様のような騎士がいるわけなかろうが! 貴様はただの変態だ! (ふっ。そんなことを言われても私は、私は何ともないぞ!)くうう、何をしても喜びおって……」

 

 あっ、バニルが心底疲れた声を出した。

 そういえば憑依されたら激痛走るんだったな。その激痛はダクネスが大好物とするものだ。

 支配に抗えば、強い快感、じゃなくて激痛をもらえると知ったら、更に抗うことだろう。

 バニル特効兵器が誕生した瞬間である。

 

「(めぐみん、私を信じて撃て!)き、貴様、…………何を楽しみにしておる!! (撃て! めぐみん!)」

「……わかりました。私はダクネスを信じます」

 

 めぐみんが決意した。ダクネスを見据え、杖を構えて詠唱を開始した。

 バニルは動こうとするも、ダクネスが邪魔をしているのかその場から動けない。

 俺にはそれが演技なのか本気なのかわからない。

 どちらもあり得るだけに、断言ができない。

 

「ま、まさか、この我輩が、こ、こんな変態に……!」

 

 どうやらマジでバニルの支配に勝っているみたいだ。ダクネスの凄いのか凄くないのかよくわからない精神力に、バニルは悔しそうにする。

 何もかも自分の思い通りになるはずが、ダクネスの驚異的精神力によってぶち壊された。

 俺も勝てるとは思ってなかっただけに、このまさかの展開に胸がすっとなる。

 よっしゃあああああ!

 ざまあみろ!!

 

「こ、こんなことで! 我輩が負けるなど!」

「『エクスプロージョン』!」

 

 爆裂魔法が撃ち込まれる。

 轟音が駆け抜け、爆発が起きる。

 爆風で吹き飛ばされそうになるが、足に力を込めて耐える。

 爆裂魔法はダクネスとバニルの両者を飲み込んだ。

 爆風が晴れる。

 俺はダクネスの下に駆けつける。そばには砕けた仮面がある。

 辛そうに呼吸をするダクネスにヒールを何度もかける。本職に比べたら大したことないが、少しでも楽にしたい。

 ゆんゆんがめぐみんを背負って来たので、魔力を結構もらい、テレポートでアクセルに戻った。




猫って吐く生き物なんですよ。
で、見てると「あっ、こいつ吐くな」ってわかります。
猫可愛いです。
爆炎(誤字)のちょむすけも可愛い。
漫画だと、パンチラ、胸揺れ多いような気がする。
気のせいですかね?



あえて七話には触れない←

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