GATE ~幻影 彼の空にて 斯く戦えり~(更新停止中)   作:べっけべけ

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なんか色々と時間軸が飛んだりします。けどその間の話を書こうものなら淡々と操縦などの描写になるので止めておきました。




炎龍、戦力評価

『目標まで300m。撃てば当たりそうなんだけど』

 

『20mmじゃ豆鉄砲だろ。こっちの手の内を見せる必要も無い』

 

『あいよ!』

 

隊長が叫んだ瞬間、炎龍の上僅か5m程を切り裂くかのように追い抜いていく。

 

炎龍に真正面からぶつかるのはエンジンの排気による熱風とその重たい機体を飛ばすだけの推力が生み出す暴風。

 

あとは不意打ちによる異常接近に慌てふためいたのか、一度キリモミ状態に似た機動を行った後に後を追うように隊長達に顔を向けていた。

 

『野郎、怒ってやがるぜ』

 

この上なく楽しそうな声が聞こえる。対して炎龍の方は叫んでいるのかわからないがその大口を開けていたが、俺達には電子音とエンジンの音以外に耳に届く声は無かった。

 

これでは鳴き声が録音できないのが唯一の痛い所だ。

 

『西元、瑞原。まずは旋回半径から』

 

『いつでも大丈夫です』

 

後ろの瑞原が答えると、その手にはビデオカメラが握られていた。

 

『こいつ片腕だぜ』

 

『ああ、間違い無い。(炎龍)だ』

 

ここからは遠くて確認できないが、どうやら報告にあった特徴と一致する点が幾つもある為アレが今回の目標である炎龍らしい。

 

隊長が炎龍の背中に回るように旋回を行う。相手が生き物だからか推力はそこまで出していないようだ。

 

「うおっ!?まじか!」

 

思わず声が出てしまうが、その声は無線に載せておらず、エンジンの音に掻き消された為聞いた者は居なかった。

 

声が出た理由。それは炎龍の機動を目の当たりしたからだった。

 

『旋回半径が複葉機並ですね』

 

瑞原はそう言うが俺にはそれ以下の半径に見える。ほとんどその場で旋回をしている様子は、まるでヘリやVTOL機並にグルグルと回っていた。

 

『身体が自由に曲がるからか?アレじゃ巴戦(ドッグファイト)は無理だ』

 

『クソッ、振り切れねぇ』

 

隊長が悪態をつくと、A/B(アフターバーナー)を焚いて垂直に近い形で上昇していく。

 

『上昇は……うわっ、昨日の騎竜兵と比べ物にならないッス』

 

『グッ……西元、どれぐらいだ?』

 

『大体110ktとかその辺ですかね』

 

『だいぶ遅いな……まあ昨日の連中よりは速いか』

 

『次、急降下』

 

『あいよ』

 

久里浜さんの指示に合わせて隊長が上昇から反転、今度は地面へと機首を向けた。

 

『150……300……まずい、神子田!』

 

翼を折り畳む事で空気抵抗を減らし、まるで爆弾かロケット弾のように急降下を行う炎龍。位置エネルギーを運動エネルギーに変換し始めていたF-4EJ改に追いつくには十分な速度を持とうとしていた。

 

『落ちてくれるといいんだがなっ!』

 

山肌スレスレで機首を持ち上げ、炎龍を振り切ろうとする隊長。

 

もしも相手が航空機だったならば、敵だけが地面と衝突するマニューバキルになっていたであろう機動に生物である炎龍が対応できないわけがない。

 

急降下を止めた炎龍は翼を突然広げ、まるでSu-27シリーズの行うコブラ機動のように急激に空気抵抗を増やす事で速度を落としていた。

 

そして続けざまに行われるホバリング。ハチドリ程ではないが空中に留まるには十分な動きをしていた。

 

AV-8B(ハリアー)並の機動にホバリング能力まで。おまけにおつむも悪くない……か』

 

『そして装甲は戦車並……こりゃ羨ましい限りだな』

 

瑞原と互いの考えをぶつけ合う。

 

『そっちの評価項目は終わりか?』

 

『ええ。やる事はやりました』

 

やる事は終わった、帰ろう。そう言うと思っていたが、俺はあの人がどういう人なのかを忘れていた。

 

『んじゃ、今度はこっちの番だな』

 

(へ?)

 

『そう言うと思ってた』

 

帰投するどころか旋回してきた炎龍に向かっていく隊長機。

 

ああ、そうだった。うちの隊長はこういう事を全力を出してする人だった。

 

『空中戦ってのはスピリットのぶつけ合いだ!テメェがどれだけのタマしてるか試してやろうじゃねえか!』

 

『なぁ瑞原……』

 

『ああ。あの人達は止められん。久里浜さんも止める気無いし』

 

隊長のブレーキの役割を担う久里浜二佐。しかしあの人はこうして止めて欲しい時にむしろ悪ノリするところが悩ましい。

 

そんな俺達の苦悩も知らずか、A/B(アフターバーナー)を焚いた状態で炎龍とヘッドオン。正面からの真っ向勝負を持ちかけたあの人はやはり無謀だ。

 

どうやら隊長の目的は炎龍とのチキンラン。

 

『お、コイツ片目だぜ』

 

あと数秒後にはぶつかるだろうという距離にまで迫った瞬間、隊長は余裕がありそうな雰囲気で無線を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってアルヌス駐屯地航空自衛隊区域の駐機場(エプロン)

 

「……で、これか?」

 

「うっ……」

 

検査隊隊長の低い声。その声は怒りと呆れを孕んでいた。

 

周りには出動してきた消防隊の消防車が複数台。

 

「し、しかしですね黒田さん!あの野郎ガチンコで火ぃ吹いたんすよ、火を!男らしくねぇじゃないっすかあ!」

 

「バッカ野郎!でかいトカゲ野郎にんな事わかるわけねぇだろ!第一メスかもしれんだろうが!」

 

駐機場(エプロン)に響き渡る怒鳴り声。全くもって正論である。

 

「お前ら滑走路三往復!西元と瑞原もだ!」

 

「「えええぇぇぇ!?」」

 

確かに止めなかった俺達も悪いが……この時ばかりは隊長を恨んだ。

 

 

 

 

 

 

この事態に陥る事1時間前。それは炎龍とのチキンランの最中の事だった。

 

『お、コイツ片目だぜ』

 

隊長がそう言った直後。炎龍の口からナパームのような吐息(ブレス)が吐き出されたのである。

 

瞬く間に赤い炎に包まれる隊長達。炎で視界は真っ赤になっている筈だが、隊長は的確に炎龍との衝突は免れていた。

 

『やっべ!エンジン!』

 

『再始動!再始動!』

 

若干慌てた様子の隊長達の声がした。確かに真正面から燃焼した後の空気を吸い込めばエンジンは不調になってしまうのだろう。その証拠に彼らの乗る機体のエンジンノズルからはモクモクと黒煙が吐き出されていた。

 

しかし彼らはすぐさま急降下を行い、エンジンの再始動を行い始めた。

 

右エンジンの再始動。再び推力を吐き出し始めたら右エンジンだけでも飛行できる為、そのうち反対のエンジンも再始動を行う事だろう。

 

『瑞原。やるぞ』

 

『あいよ。STTモード』

 

マスターアーム(安全装置)ON(解除)

 

レーダーディスプレイの左下、兵装管理(アーマメント)パネルの中の右上、MASTERと振られたスイッチをSAFEからARMの方へと押し上げた。

 

炎龍を隊長機から引き剥がす。命令されていないが今は一刻を争う事態だ。始末書なら後で書いてやる。

 

シーカーの冷却が完了するまで約25秒。その時間内に隊長は上手い具合に炎龍を回避し続け、隊長、炎龍、俺の順に並ぶ事だけはしっかりと避けていた。

 

ジ───────────

 

低い電子音が鳴り響き、レーダーからの情報を受け取るシーカー内にハッキリと目標を探知した事を知らせる。

 

HUDのASEサークル(許容操舵誤差円)の中には炎龍の反応を示す目標指示ボックスのみ。

 

表示されている距離の値が最小射程距離に差し掛かろうとしていた。

 

Two(2番機)、FOX2』

 

無線での宣言と同時に親指で赤色に塗られた兵装使用ボタンを押すと、直後に右隣を通り過ぎる炎。発射されたAIM-9L(ナインエル)はサイドワインダーと呼ばれる理由の通り、左右にゆらゆらと這いながら炎龍へと向かっていく。

 

ポッとついた赤い炎に炎龍の体の大部分が包まれる。

 

『やったか!?』

 

『瑞原。それ禁句』

 

AIM-9L(ナインエル)じゃ威力不足だという事は重々承知している。しかしあそこまでケロッとされているとまるで伝説のモンスターでも相手にしているような……

 

と、思ったが確か炎龍は数百年前から存在しているそうだ。ホントに伝説のモンスターじゃねぇか。

 

『FOX2!』

 

先程のようにAIM-9L(ナインエル)が発射される。違う点と言えば発射されたランチャーが先程は右側だったのに対して今度は左側からだった事くらいだろう。

 

9L 0

 

HUDの画面内の左下、大気速度を示すバーの下に小さく表示されたその文字が意味するのはAIM-9L(ナインエル)の残弾がゼロであるという事。

 

『瑞原、AIM-7F(セブンエフ)

 

『だな。セブン、STTモード』

 

今度は低い電子音が鳴らずにロックオンが完了する。

やはりこうも無音だとロックオンしたという実感が湧いてこない。

 

『Two、FOX1。FOX1』

 

今度は2発とも一気に撃ち込んでいく。胴体下から切り離された2本の鉄の矢は切り離しから数秒後に点火、推進力を生み出していく。

 

目下で帯びていく2本の白煙は真っ直ぐに炎龍へと向かっていく。

 

 

着弾。今度は少し効いたのか体勢を崩した炎龍は地面へと落下していった。

 

『隊長、エンジンは?』

 

『さっき右がついた。左はまだだ』

 

『とりあえずは帰れますね』

 

『おう。なあ久里浜、機体を軽くしたいんだけど』

 

『お前この状況でまだやるつもりかよ。知ってたけど』

 

この2人どういうわけかまだ闘うつもりらしい。しかし確かに機体は軽くしておくことに越した事は無いのだが……

 

 

 

炎龍に目をやると、既に空中での体勢を整えており地面に近い高度からこちらへと向かって羽ばたき始めていた。

 

敵意を全く隠さずに剥き出しにしてこちらを睨んでくる彼に隊長はレーダー照射を開始した。

 

『そのデケェ図体にどれ程当たるか試してやろうじゃねえか!FOX1、fire!』

 

そう言うと、彼らの機体からは2発のAIM-7F(セブンエフ)が同時に発射された。

 

俺達と同じように炎龍に着弾。嫌がらせのように爆轟を受けると、少しはダメージが入ったのか全体的に傷だらけになっていた。

 

炎龍への着弾から数十秒後、追い討ちを掛けるように今度はAIM-9L(ナインエル)が2発発射された。

 

空を這う2匹の蛇は瞬く間に炎龍へと接近、またもや爆轟が放たれた。

 

『お、あのヤロー逃げるらしいぜ』

 

その言葉の通り、炎龍はこれまでの獰猛さは何処へやら、ボロボロになった背をこちらに向けて反対側へと逃げ去ろうとしていた。

 

『西元、もっと寄せて』

 

『あいよ』

 

炎龍の損害状況を写真に収めて確認する為に速度を上げる。

 

距離を3km前後からドンドンと縮め、その距離僅か200m。高性能なカメラを使えば今なら鱗の一枚一枚が鮮明に映せる事だろう。

 

最初に真後ろから一枚。

 

上から一枚、下から一枚。そして左右からそれぞれ撮った後、A/B(アフターバーナー)を焚いて炎龍の前を横切り真正面から一枚。

 

翼の所々にはミサイルの破片により空いたであろう穴が空いており、鱗も綺麗に生え揃ってはいなかった。

 

『追ってこないな』

 

『逃げの手に出たんだろ。まぁこれで追われずに帰れるってもんだ』

 

『だな』

 

前を横切ったにも関わらず炎龍の進路は変わらない。追ってくるような様子はほとんど見せてはこなかった。

 

『よし、お前ら帰るぞ。任務を遂行(ミッションコンプリート)、RTB』

 

了解(コピー)

 

そして俺達は帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーまさかピトー管が溶けるとはなー」

 

滑走路のすぐ横を4人の男達が救命胴衣(LPU-H1)耐G服(JG-5A)を脱ぎ捨てた状態で走っていた。

 

「まさか計器もダメになるとは思ってなかったな。おかげで計算がズレた」

 

「機首のシャークティースも若干消えかかっていましたね」

 

検査隊の隊長によって下された滑走路三往復の刑。しかしその時間は俺達飛行小隊にとって反省会を開く場と成り代わっていた。

 

「ま、カメラとかその他記録はちゃんと持って帰ってこれましたし一件落着って事で」

 

4人分の荒い息が続く。それが終わったのは走り始めてから1時間以上が過ぎてからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、機材の準備OKです」

 

「おう」

 

場所は会議室。炎龍の撮影に使用したカメラ類は官品でない為特地(こちら)に持ち込んだ自分達の道具だけですぐにパソコンに移すことが出来る上に損傷させたところで誰も文句は言わない。

 

会議室内の照明を落として暗くすると、ノートパソコンに繋げられたプロジェクターからホワイトボードの壁に磁石で貼られた布に光が投写される。

 

「とりあえずは瑞原が撮った映像から……」

 

カメラのSDカードから読み取った映像のファイルをクリックする。

 

『キィィィィィィィィィィ』

 

無線の音声を録音していないのでひたすらエンジンによるBGMが流れる。

 

それからは久里浜さんや瑞原の指示で所々で映像を一時停止させ、炎龍の大きさや速さをF-4と比べて計算していった。

 

結果としては大まかに言うと、炎龍は……

 

水平飛行で約220kt(410km/h)

 

旋回半径は約40m程。

 

上昇能力は約30m/s程。

 

急降下はF-4EJ改と同様かそれ以上。

 

口から炎を吐き出す様子を確認。

なお炎の挙動は気体ではなく液体を飛ばして燃える火炎放射器のものに酷似している為、直撃の場合はナパームのように粘着する可能性あり。

 

680号機の損傷の様子から炎の温度は1500℃前後と思われる。

 

「やっぱ恐ろしいな。アイツ」

 

「8発もミサイル喰らってコレですしね」

 

プロジェクターに映し出される写真を見てそれぞれが感想を口にする。

 

AIM-9L(ナインエル)を4発にAIM-7F(セブンエフ)を4発。爆撃機でさえ粉微塵にする筈だが炎龍の息はまだある。

 

なお、背中に集中的に命中した為致命傷を与えられなかった可能性も有り、翼には多数の穴などの損傷を確認。

 

「背中じゃなくて顔と腹はどうなんですかね……」

 

武器(武器弾薬小隊)の連中に言ってミサイルに成形炸薬弾とか付けてくんないかな」

 

「無理だろ」

 

そんな妄想を話し合いながら書類に報告内容をまとめていく。

 

「あ、そうだ隊長」

 

「ん?どうした西元?」

 

「自分らの救命胴衣についてなんですが……」

 

炎龍に関する報告のついでに俺達の状況改善に繋げる為の報告もしてしまおう。

 

そうしてこの日は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして次の日。朝の食堂。

 

飯を食う俺の目の前には納豆を掻き回す神子田さんがいた。

 

「で、作戦変更っていうのは?」

 

「この前陸さんの狭間陸将から命令があっただろ?」

 

思い出すのは炎龍との遭遇の三日前、狭間陸将の居る陸将室。

 

俺達飛行小隊に加え特科や普通科などの大隊長。簡単に言うとめっちゃベテランのお偉いさん達が勢揃いしていた。

 

(なぁ瑞原、なんで俺達だけがこんな場違いなとこに?)

 

(俺に聞いたってわかんねぇよ、でもよ、アイツもそうみたいだぞ?)

 

瑞原が指差す先には1人の陸上自衛官。階級章を見るに2等陸尉らしい。俺より上だ。しかし佐官ばかりのこの室内で尉官なのは俺と瑞原と彼だけであり、彼は先程入ってきたばかり。

 

柳田二尉から渡されたファイルをゆっくり閉じると、陸将が口を開いた。

 

「……ふむ、柳田二尉、アイツは何を考えている?」

 

「本省訓令5の304【特地における戦略資源探査について】、これが伊丹二尉の行動の根拠になります!」

 

「わかっている。それは表向きでの話だろう?」

 

この特地において最も偉い人からの追求。俺なら耐えられまい。

 

「表も裏も伊丹二尉は資源探査に向かっただけであります!」

 

そう言う彼の顔には幾つもの脂汗が滲み出ており、眼鏡のレンズの向こうに映る瞳は若干泳いでいた。

 

「そうか……諸君、どうするかね?」

 

ニヤリと笑いながら陸将が目配りをするが、俺と瑞原にはその意味がよくわからなかった。

 

「陸将のお心のままに」

 

「いつでもどうぞ」

 

「……よろしい」

 

陸さんのお偉いさんも同意し、神子田隊長も賛成する。しかしいつでもどうぞとはいったい……?

 

「……我が国は他国の戦争で他国の為に【請われて戦った】事がほぼ無い。だがそんな馬鹿な事をする者が我々の中に居たようだ」

 

「馬鹿とはいえ日本国民です。見殺しにはできませんね」

 

久里浜さんが笑いを孕んだ声で言うが、どうにもこの話は仕組まれたものらしい。段取りがあまりにも早すぎる。

 

「その通りだ諸君、伊丹(あのバカ)を死なせるな。……加茂一佐!」

 

「はっ!」

 

「第一戦闘団に待機を命じる。空自の偵察結果を待ち適切な戦力を抽出、伊丹二尉の探査支援の準備をせよ!」

 

「はい!」

 

「神子田二佐、航空支援を要請。特地甲種害獣等不測の事態に備えCAP(空中警戒待機)をお願いしたい!」

 

「了解です!」

 

「以上!各隊、実戦に向け備えるように!」

 

そして俺達は脂汗で顔を濡らした柳田二尉を尻目に司令室を後にしたのだった。

 

……そういえば柳田二尉、その日の夜に刺されたんだっけか。

 

 

 

 

「……あれのCAP任務についてなんだが、全部載せ(全兵装搭載)で行く事になった。今のところの俺達の役割はドラゴンを山肌に徹底的に叩き落としてあとは陸自の特科が殺るからオサラバって事らしい」

 

「あらまー……」

 

「ま、俺はナビ頑張るからお前らも頑張れよ」

 

後ろからやって来た久里浜さんが笑いながら俺の背中を叩くと、そのまま神子田さんの隣に座った。

 

「単純計算で兵装は倍って事ですか……」

 

「ああ、詳しい時間とかは陸将の方からまた言うってよ。だからお前ら、捻り出すもん捻り出して備えとけよ」

 

「ういっす。……ところで隊長」

 

「なんだ?」

 

「あの写真月刊ムーに投稿しちゃマズイですかね」

 

「俺に聞いてもな……陸将にでも聞いてこい。但しその情報は許可無く外部に漏らすなよ?」

 

「はーい」

 

最初はYouTubeなりニコニコにでも投稿しようかとも思ったんだがなぁ……やっぱりダメだったか。

 

胸ポケットのSDカードの内容が外部に流れる事は俺達がやらない限り無さそうだ。

 

脳裏に思い浮かぶのは尖閣諸島中国漁船衝突映像流出事件。そして演習場で撮影された隊員同士の朝礼ラッパによる悪ふざけ映像。

 

それらの映像を投稿した人はそれぞれがそれなりの罰を受けているらしい。

 

……そもそもドラゴンは防衛秘密に入るのだろうか?

 

法律なども上手く制定されていない特地での記録は1つ1つがパンドラの箱になり得る。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったもんだ。

 

ロッカーの中にでも入れておこう。鍵をかけておけば大丈夫、おまけにSDカードは箱ではなくエロ本に挟んでおけば情報が入っているとは誰も思うまい。

 

そう決めた。

 

「あーあと西元」

 

「はい?」

 

「お前のあの改善案、上の人からOKが出たぞ」

 

「おおぉぉ……」

 

「但し装備は官給されないらしい」

 

「へ?」

 

「各自で手配するように……だとよ」

 

自衛隊あるある、あまり官給されない装備品。

 

「なんで国はもっと無駄を省こうとしないですかね……」

 

「さあな。まぁそれが日本の特徴だろうよ」

 

「この間消防員が言ってましたよ、新しい救難車は欠陥があるのに馬鹿高いって」

 

自衛隊の装備は決して完璧ではない事はこれまでの装備が照明している。航空自衛隊に配備された物を例に挙げると……

 

片手での操作ができない小銃と拳銃。

 

とある部品が脆い機関拳銃。

 

弾帯の利点を生かせない機関銃。

 

米軍の運用方法は埋設型なのに対して日本では毎回地上で組み立てる迎撃ミサイル。

 

自己防衛装置の無い支援戦闘機。

 

空中給油ができない為時間制限が厳格な戦闘機。

 

憲法や法律、周辺国(仮想敵国)への配慮、製造会社の技術レベルの問題や改ざんなどもあったが様々な物が製造されてきた。

 

陸さんの方で明確になった事で有名なのはやはり62式とM249ミニミだろうか。

 

 

度重なる不調と改善。QCサークルなどもあるが、一般企業のように採用されるような良い案を出したら小遣いが貰える事……などといった事は無い。

しかし使用する本人達が悩まされている為次々と改善案は増えていく。

 

機材に欠陥が見つかったとしても企業の対応は最悪な事がある。そういう時には工作分隊(我らが板金屋)やその手に精通している人材を違う部隊から無理やり連れてくる。

 

そうした現場の努力もあるおかげで今の現状が成立していた。

 

「それじゃあ自分は部屋戻ってます」

 

「おう、明日は頑張れよ」

 

「はい」

 

自室へと向かう廊下を進む中、もの思いに耽る。

 

空自の特地派遣部隊の中で【おやっさん】と呼ばれる検査隊黒田隊長。彼らのような地上要員が居るから俺達パイロットは空を飛ぶ事ができる。

 

彼は検査隊であるにも関わらず武器弾や高射、車両整備など色々な部隊を歩き回っては異常が無いか確認している。お節介かもしれないが、もしも異常があれば迅速な対応を行い、各部隊で作業の遅延などの問題を解消していく。

 

かく言う俺達も何度かお世話になっている身だ。

 

だからこの基地に居る者達で偉い偉くないといった悪い意味での上下関係は生まれない。互いが互いに尊重すればいいだけの話だ。階級という上下関係は一応あるにはあるのだが。

 

特地に来た人数が少ないというのもひとつの要因だが、ここの人間関係は驚く程に良好だ。

 

昔とある航空団の連中がある部隊を見下していたのを知っている俺としては此処は天国に近い。まるで漫画か何かの創作物のようにイザコザが無いこの環境で経験を積むことができる事はそうそう無いだろう。

 

「ホント平和だよ……此処は」

 

ポツリと呟いたその言葉とは裏腹に、現実で起こっている戦況は全くもって平和などではない。これまでに何人もの人々が犠牲になり、死体の山ができた事もあった。

 

今アルヌス駐屯地が立っている所もそうだ。6万もの帝国兵の死体の上にアレは立っていると言ってもいい。

 

何故話し合いで済まされなかったのか。

 

そんな偽善者めいた考えがまた頭を過ぎるのは平和ボケだろうか。

 

戦場である筈の特地の方が日本よりも居心地が良いように思える事に皮肉を感じながらも一旦考えを止める。

 

(日本も特地もこれからどうなんのかなぁ……)

 

ポケットから自室を開けるための鍵を取り出すと、それをカチャリと鍵穴へと挿入した。

 

 

 

 




自衛隊スゲーって人には癪に障る最後かもしれません。が、気にしない気にしない。

案外ネットの話と現場の話とでは大きく異なる意見などが飛び交うので親戚に自衛官がいる人は愚痴など聞いてみると面白いですよ。

幹部であろうと挨拶もできない自衛官を私はすごいとは思いません(唐突

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