GATE ~幻影 彼の空にて 斯く戦えり~(更新停止中)   作:べっけべけ

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今回は飛びます。やったね!燃料代が馬鹿にならないよ!

こんな見切り発車な小説をご覧頂きありがとうございますm(_ _)m

……どこで話を切ろうかな?


特地での捜し物

朝、7:20。会議室にて行われるマス・ブリーフィング。

 

高射や警備、整備などの隊員も複数人交えての会議。

自信無さげに言われる気象隊の隊員からの天気予報(ウェザー・ブリーフィング)を頭に叩き込むと、その日の周囲の環境や補給、輸送など様々な物事に関する注意点などが報告されていく。

 

その後、各々の部隊に別れてのブリーフィング。

 

今回の作戦の主な内容としては

 

・一昨日エルベ藩王国に現れたと報告のあった炎龍の偵察

 

・遭遇した場合[上昇能力]、[降下速度]、[旋回半径]、[既存のレーダーに対する反射率]、[最高速度]、[その他能力]……以上の項目の可能な限りでの評価、把握。

 

・派遣前と同様にACM(空中戦闘機動)訓練の続行

 

以上である。

 

 

「出発時刻は09:00。各自用は足しておくように!」

 

「「「はい」」」

 

「つーわけで行くぞ!ドラゴン退治!」

 

「おいおい神子田、俺達は墜としに行くわけじゃないんだろ?っていうかお前さっき自分で任務内容言ってたじゃないか」

 

「知らん!」

 

未だ見た事の無い特地甲種害獣、通称ドラゴンのラスボス的存在[炎龍]を見つけ、戦力評価を行うべく俺達は救命胴衣を羽織り始めた。

 

救命胴衣の中には医療キット、ペンシルガンキット、昼間用信号灯、ストロボライトetc……そして意味があるかどうかわからないフカ避けの黄色い布。そもそも海が見当たらないので俺は勝手に抜いて変わりに乾パンをギッシリ詰め込んでいる。救命装備員の人も何も言わないし、同じ事を思っているようで今はサバイバルキットの中からは海水脱塩キットやフカよけ布、リップクリームなどが取り払われ、その分浄水キットや保命水などのパックが詰められているのは書類上ではまだ起こっていない事。

 

というかそもそも日本のように水源や海に囲まれた環境ですらないので救命胴衣すら必要無いと思うのだが。アメリカの内陸の方の基地だと普通にタクティカルベストにM9らしき拳銃を携帯していたぞ?

 

……まぁそのうち上の人にでも報告しておこう。弾かれた場合には特地に居る友人の中で唯一ミリオタである事は分かっているクリボーに借りてでも着て乗ってやる。そうした場合何らかの処分は受けそうだがな。

 

 

 

 

 

 

『えー、アルヌスタワーよりホークウィンド01、02へ滑走及び離陸許可。今回お前さん達の行くルートにゃ今日のところは誰も居ない予定だ。好きなだけかっ飛ばしてこい』

 

日に日に粗くなっていく管制からの無線に慣れてきたこの頃、とりあえず了解(コピー)とだけ返答し隊長の機体の後を追う。

 

装備は増槽を胴体下に1本、AIM-9L(ナインエル)が2本、在庫のAIM-7F(セブンエフ)が2本と割と重装備だった。この装備だと巴戦(ドッグファイト)は容易なものではないだろう、増槽を捨てるしかないが帰れなくなる。

 

いつもの通り、隊長のハンドサインでスロットルを押し進め、ブレーキを解除。徐々に加速する機体はA/B(アフターバーナー)を焚いておらず、スロットルはMIL(ミリタリー)の位置にあった。

 

ガタガタと身体を上下に揺さぶられつつも十分飛び上がる事のできるまでの速度まで加速すると、編隊を組んだままの鉄の鳥は舞い上がっていった。

 

高度2m程の時点から車輪が収納されていき、そのまま高度をある程度上げていく。

 

合図で針路1-7-6に修正。南南東に位置するエルベ藩王国との国境へ向けて高度を約23000ft(7000m)まで上げていく。

 

高高度と低高度に浮遊する雲の間の中、燃料に気を配らなければならない為下手に遊ぶ事もできないので喋る事でしか時間を消費していく他無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酸素マスクから半ば強制的に肺へと入り込む空気。ほとんど湿度を持っていないそれらは瞬く間に口腔内の水分をかっさらっていく。

 

『ホントSu-34(カモノハシ)が羨ましいですよ。アレって簡易トイレとか缶詰め温められるらしいじゃないですか』

 

『お?西元、お前さんT-33A(Tバード)のアレを知らねぇな?』

 

『え?あれにトイレなんてあるんですか?』

 

『一応な。まぁほとんど使う奴なんて居なかったらしいけどな』

 

そういったように雑談を交えての長距離飛行。こういう時に話し相手が居るというのは本当に助かる……ただただ左右を流れゆく雲を見ていては思考回路が停止してしまう。

 

そして回り続ける時計が、ゆっくりと数字を減らしていく燃料計が、上下する高度計だけが時間の経過を知らせてくれるあの環境はなるべく味わいたくないものだ。流れる雲を楽しめたのは最初の頃と休日の自宅だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

どれ程時間が過ぎた事か。会話の途中で久里浜さんが無線を開いた。

 

『このままで行くとあと10分で国境に差し掛かるぞ』

 

地図上の国境。この世界の人にはあまり関心の持たれない境界線だと倉田さんは言っていたのを思い出す。少しくらい領空侵犯したところで……とは考えても実行には移さないでおこう。

 

『レーダーにも反応無し……そもそもドラゴンって映るんですかね』

 

『イギリスのDH.98(モスキート)みたいに変なステルス性を持ってたりしてな』

 

『一応生き物ですしねぇ……』

 

未だ発見の兆しが見えない炎龍。クリボー達(第3偵察隊)が持ち帰った左腕の解析によりその硬さはとにかくヤバイ事がわかったらしい。防御面において優れている事はまぁわかるが、問題は表面の組織だ。変にツルツルだったりザラザラだったりすると、第五世代戦闘機のようにレーダー波が反射されたり電波吸収剤のように吸収されかねない。

 

『レーダーに映らないとなるとAIM-7F(セブンエフ)じゃ捕捉もままならんしなぁ』

 

隊長その言葉に一同は皆最悪の事態を脳裏に浮かべた。

下手すりゃAIM-9L(ナインエル)と20mmだけで戦う事になる……と考えると、逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

………………で、だ。

 

結果から言うと今日のところは午前も午後も見つける事はできなかった。

 

目視内での発見も無し、レーダーにも陸自ヘリ以外に何かが映る事は無かった。

 

「ま、相手は生き物だし仕方ないな。そもそも巣が何処にあるかなんてわかっちゃいねぇんだし」

 

両手を頭の後ろで組みながら隊長が気怠そうに愚痴をこぼした。

 

「そもそもその炎龍ってのは巣を作るんですかね」

 

「さぁねぇ、俺らにゃ知る方法なんて無いんだし。ま、そのうち見つかるだろ」

 

「あれ、西元」

 

「ん?」

 

何か気がついたように瑞原が名前を呼んできた。

 

「お前の友達の陸さんに何か聞けないか?」

 

「一応LINEとかは送ってるんだけどな……任務中なのか圏外なのか返事は全く」

 

「そうか……既に手は打ってあったか」

 

今朝方の作戦会議の終了後に送った[炎龍の巣の場所わかる?]の文章。しかし倉田さんもクリボーもいまだ未読の状態である。

 

「ま、明日は見つけられる事を願って今日はとりあえず寝とけ」

 

「そうしときます。今日も派遣前からは考えられない程腹いっぱい飛びましたからね」

 

シャワー室で汗を流し落とすべく、俺達はそれぞれ自室へと着替えを取りに戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2日目。天候は雨。灰色の雨雲が空全体を覆っていた。

が、そんなものはその上に行ってしまえばこちらには関係無い話だ。

 

『今日は見つかるかねぇ』

 

『さあな。こう天気が悪いと気分が乗らねぇんだよな』

 

機内無線で瑞原と駄べりながら雲の上を舐めるように飛んでいく。

 

今日は再びエルベ藩王国の国境沿いを飛び、帝都方面を索敵していくルートだ。まぁアルヌスから見て南から東を探す感じだ。

 

ピッ。そんな高音の電子音が短く鳴った。

 

『お、レーダーコンタクト。ボギー2シップス(不明機2機)ブルズアイ(目標方位)0-9-9、フォー0-2-0(距離30海里(55km))エンジェルス4(高度4000ft(1200m))

 

『え、2機?』

 

瑞原がレーダーの状況を報告する。しかしどういうわけか反応は2つ。

 

『IFFは?』

 

隊長が聞いてくる。レーダーに関しては得意な瑞原がすぐに無線を返した。

 

『一応質問していますが返答無しです』

 

『神子田、この空域には陸自も空自も誰も居ない筈だぞ』

 

『っつー事は……そういう事だな。行くぞ』

 

了解(ツー)

 

視界内に収めていた隊長が上下を反転、兵装が日に照らされる雲の中へと消えていった。俺もそれに合わせて操縦桿を前に倒して雲の下へと向かっていく。

 

俺達の身体を襲うマイナスGが身体を座席ではなくハーネス類に押し付ける。浮きそうになる尻が思わず萎み、胃が裏返りそうになる。

 

 

水滴がHUD前の風防にぶつかっては流れていく様子を目にしつつも、真っ白な視界の中隊長の位置を示す右のRWRスコープに注意しつつ高度を下げていく。

 

すると数秒でそれは晴れ、視界には緑色が広がった。

 

曇りではあるがこの空域ではまだ降雨が始まってはいないようで、雲を抜けた後に風防が濡れる様子は見られない。

 

とりあえずこのままでは地面との熱烈なキッスをしてしまう為機体を水平にするべく操縦桿を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『録画しとけよお前ら』

 

了解(ツー)

 

隊長の指示に反応した瑞原がHUDとレーダーの表示内容の録画を開始するスイッチを押した。

 

『なぁ西元、敵さん……もう見えてもいい筈だぞ?』

 

『あいよ』

 

全閉していたバイザーを少しだけ上げ、視界から黒が消え失せる。

 

しかしそれらしい物体は見つからない。高度が比較的低い為下を見ればそこには小さな村と緑が広がっており、正面と上方は見やすいが下方は未確認機が緑に紛れてしまう為見つけるには相当な注意力が必要そうだ。

 

タリホー(目視確認)!』

 

隊長が宣言した。今頃あの人は血眼になって目ん玉ひん剥いている事だろう、それはもう目玉がこぼれ落ちそうに思える程に。

 

なんて緊張感の無い事を考えるのは一旦止め、レーダーを長距離索敵(LRS)モードから単一目標追跡(STT)モードに切り替えて片方の未確認機に照射を行う。

 

HUDに表示される(目標指示ボックス)はレーダーの通り2つ。その飛行間隔はほとんど重なりそうな程に近かった。

 

『なぁ久里浜……あれ絶対違うよな?』

 

『……だな。報告にあった炎龍は体長60m程な筈だ。オマケに2匹ときたわけだ、明らかに違う』

 

『でも隊長、あれって敵の航空戦力じゃ?』

 

『確かに。久里浜、アレ墜としていい?』

 

『ダメだ』

 

『うーい』

 

そんなやり取りをしている間にも敵機との距離は縮まっていく。十分敵がハッキリと捉えられるまでに近づいたら、俺は操縦桿の機銃発射トリガーに人差し指を掛けた。

 

マスターアームはOFFのまま。

 

とりあえずはガンカメラに収める為にトリガーを一段階目まで引く事にした。

 

『あれ……銀座とかにも出たっていう騎竜兵っぽいです』

 

『んじゃ偵察か伝令だな』

 

『神子田、西元、瑞原。目標は違うがあの2匹の戦力評価の検証だ。陸さんとこのハエ叩き(87式自走高射機関砲)のレーダーに映るくらいしか情報は無いからな』

 

『あいよ』

 

了解(ツー)

 

『じゃあ先ずは速さから行きますか!』

 

前方を飛ぶ隊長達がA/B(アフターバーナー)を点火させて加速していく。

 

騎竜兵のすぐ真上を切り裂くように飛び抜けて行く機体。突然の事に驚いたようだった2人の騎竜兵の編隊はあからさまに崩れた。

 

『明らか遅いですね。だいたい90kt(170km/h)くらいですかね』

 

『あ、別れた』

 

2匹の竜は上下に別れると、片方はインメルマンターン、もう片方はスプリットSに近い動きをそれぞれしてみせた。

 

『上昇は……んん?見た感じじゃわかんないんっす』

 

『録画してあるし別に良いぞ。次だ次』

 

その後隊長が敵を煽るが、敵兵は無謀に突っ込んで来るわけでもなく……ただただ逃げ失せていく。

 

それを追う隊長。しかし敵との速度差は比べるまでもなく、あっという間に追い抜いてしまった。

 

『コイツら……得物は槍だけか?』

 

『だな。アレは火ぃ吹いたりしないのか?』

 

『炎龍はブレス出したらしいです。けどコイツは別タイプなんじゃ?』

 

『ほぉ……なあ西元、お前AIM-9L(ナインエル)でロックできるかやってみろ』

 

『了解。瑞原、頼む』

 

『あいよ、任された』

 

瑞原がレーダー類を操作するとレーダーがOFFになり、俺のHUDの中心にミサイルの視界を示す(視野円)のレティクルが表示される。

 

シーカーの冷却を開始。ミサイル本体に内蔵されたアルゴンガスが常温よりも少し温度の高い状態になっていたシーカー部分から熱を奪う。そしてそれは数秒で準備を完了させた。

 

そしてレティクルの円の中に隊長から回避する事ができたと思っている1人の騎竜兵と重ね合わせた。

 

ジ───────────

 

低いガラガラ声のような電子音が鳴りAIM-9Lの冷えきったシーカーが敵航空戦力……騎竜兵の熱を探知する。

ドラゴンにエンジンなど積まれているわけがないので周辺の気温との差や空気との熱で何やかんやしているのだろう。

 

『一応捕捉はできるみたいですね』

 

『そうか、よかったよかった』

 

確かに隊長の言う通り一安心だ。何故なら万が一AIM-9L(ナインエル)のシーカーが捉えられなかった場合、短距離でもAIM-7F(セブンエフ)を使うか門の向こう……つまり日本の方で現役バリバリのAAM-3(エムスリー)(90式空対空誘導弾)かAIM-7M(セブンエム)を特地に持ち込む……あとは20mmで頑張るしかない。もしくはF-15J(イーグル)でも持ってくりゃ良い。

 

 

あと数年門が開くのが早かったら……F-4EJの状態で戦っていたのだろうか。そして今はもう退官した俺達の大先輩の世代にもしも開いていたら……炎龍が戦う事になるのは陸で61式戦車や60式無反動自走砲、そして空ではF-86FやF-104Jとの格闘戦を繰り広げていたのかもしれない。

 

考えてみるとやはりどこからどう見ても怪獣映画である。

 

『よし、これで一通り評価したぞ。あいつら……どうする?』

 

『自分は伝令だと厄介とは思いますが……』

 

『どうする?神子田』

 

『うーん……見逃すか』

 

『ま、それが無難か?』

 

後から聞かされた話だが、この時隊長はこの伝令が帝国兵である可能性が絶対と言えない事、そして軍事作戦の伝令とは限らないと思っていたらしい。

 

どのみち俺にトリガーを引く勇気があるかどうかはわからないが、今回は殺さずに終わって良かった。もし撃ち落としていた場合新たな国際問題に発展していた可能性も0ではない。

 

『んじゃ本命の炎龍には会えなかったが……帰るとしますか。久里浜!』

 

『あいよ。新針路2-8-0に修正。ターンヘディング、ナウ』

 

久里浜さんの合図に合わせて俺と隊長は同時に機体を90°傾けてバンクをとった。次第に見えなくなる騎竜兵を背にしながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地表との距離が近づくにつれ鳴る間隔も短くなる警告音。

それらをBGMに主脚(メインギア)が白煙を少量焚きながら地表に触れ、擦れ合う。

 

数秒程は操縦桿を引いたままにし、機体そのものを空気抵抗の塊として減速させていく。

 

そして機首が水平を向いた。

 

ようやく視界に地平線や滑走路が見えるようになったところで黄色に塗られたドラッグシュートのハンドルを引っ張る。

 

直後、最後部で開かれるソレの収容部。最初に小さな傘が開かれ、その後大きな傘が姿を現した。

 

「ハァー……」

 

機体の速度が下がっていく中、思わず漏れたのは一つの大きな溜め息。数時間に及ぶ飛行は楽しくはあるが、やはり眠くなる。

 

これを終えたら食堂には行かずにシャワーを浴びたら即刻寝るとしよう。そんな事を考えながら操縦桿の赤いステアリングボタンを押し、ラダーペダルを踏んだ。

 

 

 

 

 

 

「明日には見つかるといいなー」

 

「そう簡単に見つかるもんでもないだろ」

 

「だよなー。生き物だしなー」

 

隊長コンビが駐機場(エプロン)から去っていく中、俺は地上要員の行う作業を一つ手伝っていた。

 

今回の録画したHUD、レーダー画面、そしてガンカメラ。それらのデータを取り出す作業をやっていた。

 

(今日は6Gまでいったか……)

 

ふと目をやったのは加重計の3本の白い指針。この機体は+8.4G~-3Gまでと決まっているが、今日はきちんと許容範囲に入っていたようで一安心した。

 

万が一にもオーバーGをしてしまった場合整備の検査隊の連中が工具片手に追いかけ回して来る事だろう。

それも血の涙を流しながら鬼の形相で、だ。

 

 

「んじゃ、後はお願いします」

 

「すんません、手伝ってもらって」

 

「いえいえ、じゃ自分は戻りますんで」

 

ある程度手伝ったらその場を離れる。子供の頃から部隊内の人間関係や部隊同士のいがみ合いを見聞きしてきた俺としては誰とでも仲良くしていきたいと思っているので、こうして可能な範囲で手伝ったりして良好な関係を広く築いていくつもりだ。

 

 

そしてシャワーを浴び、自分の部屋に戻ってきた。

 

(やっと終わったし……寝るか)

 

欠伸をする中、明日について考える。炎龍は見つかるのか、今日みたいに違う目標を発見するのではないか、マスターアームがONの状態でトリガーを引く事になるかどうか。

 

色々と考えているうちにいつの間にか意識は次の日の朝まで途切れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして俺達が炎龍を探し始めてから三日目を迎えていた。

 

「今日は初日と少し探索範囲が重なるこの空域でだ。ま、やる事はこれまでと同様、炎龍の発見及び調査、以上!」

 

もはや苛立っている事さえ感じさせる隊長のブリーフィングを終え、デジャヴを感じさせる行動をとる。また救命胴衣を羽織り、自分のヘルメットを手に取る。

 

『さてさて……今日はどうなるかねぇ』

 

隊長が滑走路に向かう途中で愚痴を零す。いつも空中戦で追っかけ回す事を喜びとしている彼からすれば昨日のように一方的に落とせる状況はあまり好ましくないだろう。

 

ようするにうちの隊長が好きなジャンルは俺TUEEEEではなく底辺からの成り上がり系やギリギリのやり取りなのだ。

 

そしてまた俺達は昨日と同じく空へ舞い上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数十分が過ぎた頃。それまでは何も起こらない景色を見るだけの仕事だった。

 

『現在、高度1,1000ft。国境まであと十分。速度280kt、新針路1-9-0。ターンヘディング……ナウ』

 

了解(コピー)

 

普段と変わらない久里浜さんによるナビゲート。今日に至っては炎龍どころか騎竜兵も見当たらない。釣りをしに出かけたらボウズになったかのような気分だ。

 

『今日で3日か、いい加減見つけたいぜ』

 

『見つけてもいきなり攻撃するなよ。目的は()の戦力評価なんだから』

 

『わかってるって!』

 

『どうだか……』

 

暇を持て余しているのは俺と瑞原だけじゃないらしい。

 

『神子田さんの手綱握っててくださいよ?久里浜さん』

 

『うるへー』

 

『この辺で数ヶ所焼けた村を昨日陸の偵察機(LR-1)が見つけてる。()のテリトリーに近い筈なんだが……』

 

そう久里浜さんが言った直後。レーダー状況を示すディスプレイに一つの長方形が映し出された。

 

『っ、レーダーコンタクト。ブルズアイ(目標方位)1-2-7、フォー0-6-0(距離60海里(111km))エンジェルス5(高度5000ft(1500m))

 

レーダーに映る長方形。それはIFF (敵味方識別)のモード4に反応が返ってこない不明機(アンノウン)である事を意味していた。

 

『瑞原。逃がすなよ』

 

『わかってるって』

 

レーダーの画面を見ると、既にアンテナの角度は下を向いており目標をド真ん中に捉えるよう調整が行われた後だった。

 

『さあて今回はどちらさんかおいでなすったか確かめようじゃねぇか』

 

隊長が加速していく。それを追おうとこちらもスロットルをMILの位置まで押し進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

距離を縮めるにつれハッキリと捉え続けられる目標の反応。

 

途中で反応が消えた時には焦ったが、数秒後には再び映し出されたのでどうにかロスト(目標喪失)せずに済んだ。

 

 

 

 

『西元、降りるぞ。ついて来い』

 

了解(コピー)

 

その言葉に従い操縦桿を左に倒す。

 

反転する世界。青は白へと入れ変わる。

 

見えなくなる空、景色、隊長機。目に見える物は白1色となり、キャノピーの外で横に流れ行く水滴を目にしていた。

 

機首を下に向けたところで今度は逆さまになった世界をもう1度反転させる。頼れるのはHUDの情報とその下でクルクル回ったりする地球儀のような姿勢指示装置だけだ。

 

すると雲を抜け視界に色が戻る。2時方向800m先を飛ぶ隊長を見つけ、とりあえずは同高度になるまで降下させていく。

 

内蔵が全部口から出てきそうなマイナスGの感覚に襲われながらも姿勢はそのまま。背筋がゾワゾワと騒ぎ全身の毛が逆立ちそうな感覚が来たのを皮切りに機首を水平に戻していった。

 

『やっぱマイナスは慣れんわ……』

 

気持ち悪そうな声色の瑞原が言う。俺は操縦桿を握る身なので自分で動かしているからよっぽど激しいマイナスGでも掛からない限り酔った事は無い。

 

しかし瑞原はレーダー手なので緊急事態以外でこの機体を操作する事はまず無い。なので自分の意思で動かしているわけでもない機体の中で振り回されているわけで、こうして度々軽く酔う事がある。

 

『次からマイナス掛ける時は合図頼むわ……』

 

『あいよ。すまん』

 

確かに今のは結構大きなマイナスだった。加重計をチラリと見ると、3本の指針のうち1本は-2と-3との間で停滞していた。

 

『距離30(55km)。もうそろそろ見えウエッ……筈』

 

すまん、まさか嘔吐(えず)く程とは思ってなかったわ。帰ったらジュースでも奢ろう。

 

HUDに表示されるひとつの(目標指示ボックス)の中に目標は生憎俺にはまだ見えてこない。

 

タリホー(目標視認)!』

 

隊長が無線で叫んだ。

 

俺も目を凝らしていたが、その宣言から数秒後にようやくコチラでも確認できた。

 

ボックス内に浮かぶ極小さな点。そこに()()という事は分かったのでとりあえずは一安心だ。

 

ドラゴンとの距離を20kmかそこらまで詰める。普段のACM訓練なら敵は何処だと焦って辺りを見渡すが、今回の目標となる炎龍は横幅100m前後もあると報告にあったのでかなりデカイ。

イメージ的にはF-4を横に10機、縦なら5機並べたくらいだ。

 

『特地甲種害獣【ドラゴン】と確認』

 

『ハッ、派手な色して悠然と飛んでやがる。50km離れてもわかるんじゃないか?』

 

いや隊長、あんたさっきその距離で見つけているんだが。

 

『奴さんの色も赤色。ありゃ炎龍って事でいいか?』

 

『大きさ、色。可能性は高いだろ』

 

『だとよ。西元、瑞原。ちゃんと見とけよ』

 

そう言うと隊長は炎龍に喧嘩を売りに行こうと彼の6時方向から追い越しに掛かっていった。




読んでくれて┏○)) アザ━━━━ス!

一応原作などではレーダーに対する反射率がステルス機並みとありますが、アニメ版と漫画版見てたらかなり炎龍がデカイのでとりあえず全長60m、横幅100m程と設定しています。

……やっぱ怪獣じゃねえか。

てかステルスだったらほとんど映らないと仮定して……鱗とか棘とか沢山あるし凹凸めっちゃあるやん!という事でレーダーに対する反射率は爆撃機並みの設定でいきます。

誤字、脱字等ありましたらお知らせ願います。

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