うしろのしょうめんだぁれ   作:砂岩改(やや復活)

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完全オリジナリル殺人事件。稚拙なものですが頑張ってやってみました。
トリックは様々なものを参考にしましたが…。皆さんも殺しのトリック、犯人を考えてみてください。




第2章 発芽
暗闇の瞬殺事件 (前編)


 

「ははっ!」

 

「っ!」

 

 殺気と闘気の入り雑じった顔を浮かべながら百々月は人が目で捉えられない速度で竹刀を振るう。それを迎え撃ったのは拳、その拳は竹刀の鍔から上を粉微塵に吹き飛ばす。

 

「またか!」

 

 そう言った百々月は笑いながらもう一歩踏み込む。その次に襲いかかるのは迎撃の蹴撃。彼女は残りの柄も犠牲にしながら接近、強力な打撃を数回加える。

 だが相手は全く怯まずに行動を続行、間合いを取ってからのハイキック、それを彼女も蹴りで受けすぐさま弾かれる。その勢いを使って反対の足で顔を蹴り飛ばす。

 

「っ!」

 

「しまっ!」

 

 体か完全に浮遊している状態で彼女は相手の拳を脇腹に受けて床に沈むのだった。

 

「相変わらず強いですね、百々月さんは」

 

「何を言うか、私はまだ未熟者だよ」

 

 武道場のマットに転がっていたのは百々月、そんな彼女に手を差し伸べたのは褐色の青年。彼女はその手を取って立ち上がり、身なりを整える。

 百々月の相手の名は京極真、空手部主将で無敗伝説を現在更新中の男である。彼とは高校からの付き合いだ、同じ武道系部活の化け物同士、ウマがあったのは言わなくても良いだろう。

 

「それで…」

 

「あぁ、園子のことだろ。声ぐらいいつでもかければ良いじゃないか」

 

「いや、見ず知らずの男に突然声をかけられるのはよろしくないと思いまして」

 

「知らん、私に色恋の話をするな。私ほど不適任者はいない」

 

 たまに戦闘(じゃれあう)ものの。相談内容は園子に関して、声をかけたいというものばかり。名探偵?になった彼女でもこればかりはどうしようもない。

 まさか全身の細胞が筋肉で出来上がっている彼に色恋の相談をされるとは思わなかった。

 

「何度も言うが、私が微力ながら取り持っても…」

 

「それは…」

 

「はぁ、蹴撃の貴公子の異名が泣いてるぞ。もうすぐアメリカに行くというのに…これでは結果は見れそうもないな」

 

 恋は人を強くするとか言うが、本当にそうだろうか。いや、蘭の場合は強くなってるし…分からない。色恋沙汰には興味が微塵もない。

 

「それにしても、打撃の威力は上がってましたよ」

 

「まぁ、最近。身の危険を感じることが多くなったからな」

 

 最近は素手でも戦えるように、古流武術を学び直している。その流派は1200年代にとある武士が使っていた武術を子孫が修めて、継承したものだ。それは木曾家代々継がれてきた武術らしい。

 

 それから、お互い感じた意見を交換しあった二人は園子に関してなにかあったら伝えるという方針で鍛練を終えたのだった。

 

(流石に園子の別荘で殺人事件があったことは言えんな)

 

「羽部さん」

 

「あぁ、スグリか」

 

 その後、本気の戦闘で疲れた百々月に声をかけたのは矢上スグリ。弓道部の部員だがあまり結果が振るわずにマネージャー的な存在となっている。

 彼女の見た目はよく言えば大人しめ、悪く言えば地味である。牛乳瓶の底のような眼鏡を掛けた彼女はまさに、冴えない女子高生であった。どうやら京極と別れるのを待っていたらしい。

 

「実はね、家の倉庫に業物の刀があったんです。うちの父も見ていいって言ってたし」

 

「そうか、ありがとう。今から向かっていいか?」

 

「はい、是非来てください」

 

 彼女と親しくなったのはまだ新一がコナンではなかった頃の話だ。弓道部内で虐められていた彼女を助けたのがきっかけである。それからはたまに彼女と休日を楽しんでいたりする。多趣味なスグリも百々月のことを慕いまるで姉妹のようだと蘭は言っていた。

 

「では家で待ってますね」

 

「分かった」

 

 矢上スグリの父親は貿易を主な産業にしている矢上グループの社長である。こうして約束を済ませた二人は誰にも見られないようにその場を後にする。本来ならこの関係は知られようが知られまいが勝手なのだがスグリ本人が嫌がっていたためにこういう形を取っているのだ。

 

ーー

 

 その後、スグリの家に到着した百々月は出迎えに来ていた従者と話をしていた。

 

「いらっしゃいませ。羽部さま」

 

「あぁ、最中さん」

 

 矢上家のメイド長。最中景子、その美しい容貌を持つ彼女はきっちりとした作法で彼女を迎えると百々月のバイクを受けとり、車庫に移動させる。

 

「羽部さん!」

 

「すまない、少し早かったな」

 

「いえ、どうぞこちらです」

 

 黒と白のシマシマのシャツにロングスカートを着たスグリの案内の下、彼女は家のゲートをくぐり、家に入っていく。

 

「やあ、羽部くん。久しぶりだね、最近の活躍は聞いているよ」

 

「いえ、私としてはいい迷惑ですよ」

 

「確かにね。実際に被害にあっているのは君だろう」

 

 ふくよかな体に茶色いスーツを着込み、真四角の眼鏡を掛けた男性は矢上藤五郎。スグリの父親で矢上グループの現代表だ。

 

「では、私はこれで」

 

「あぁ、また頼むよ」

 

 その時、藤五郎の脇に控えていた白衣の男性は頭を下げて屋敷を後にする。

 

「彼は?」

 

「近くの診療所の医者の藤木正継さんです。長い間、父の検診に来ていただいております」

 

「じゃあ、スグリ。私は客間で待っているから」

 

「はい」

 

 そう言って藤五郎は百々月に対して礼をするとその場を去る。そんな背中を見送りながら二人は美術品などが納められている倉庫にたどり着いていた。倉庫というより蔵という表現の方が正しいかもしれない。洋風な邸宅に対して随分とアンバランスだ。

 

「これです、骨董品コレクターの丸伝次郎様からお父様が買い取ったものです。彼はこの刀の価値に気づかずに大変安価で手に入れることが出来ました名刀《菊千代》です」

 

「素晴らしい、よくきたえられている。そういえば丸伝次郎氏は殺されたんだっけ?」

 

「えぇ、毛利名探偵が解かれたようですが」

 

「そんな事件もあったなぁ」

 

 確か、酒の回った小五郎もその事件について話していたっけ。解説はほとんど蘭がやっていたが。

 

 慣れた手つきで刀身を鞘から抜き放つと刃の波紋を見つめて満足そうに頷く。

 

「実はそれ、なかば盗品みたいな扱いで正式な所有権は違うらしいんですよ。だから家も外に見せられない代物になってしまって」

 

「そうか、こいつも大変だな」

 

 菊千代を鞘に納めた彼女は元の位置に丁寧にしまう。この菊千代はその後、裏の彼女の愛刀となるのだがそれはもう少し後の話。

 

「それでは客間に行きましょう」

 

「ん、あぁ…」

 

 どうも違和感の残るスグリの言葉に百々月は疑問を覚えながらもその倉庫から出る。すると景子が出口にて待機しており客間に案内される。

 

「待っていたよ。君がスグリの友達の名探偵か」

 

「あなたは」

 

 客間で待っていたのは二人の男性。一人は先程、会話を交わしたスグリの父である矢上藤五郎。そしてもう一人は…。

 

「私のお兄さんで矢上定兼。兄は独立してレストランチェーン会社の社長なんです」

 

「それは、父上の教育の賜物というわけですね」

 

「まぁ、否定はしません。父のお陰で私は立派に生きていける訳で、今も世話になっているのだから」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ」

 

 話を聞くと藤五郎が仕入れた食材などをレストランで振る舞っているようだ。互いに利益が上がる上手い商売だろう。

 藤五郎と定兼は互いに笑いながら談話をしている。その間に百々月は二人に相対する位置に置かれた席に座る。その真横にスグリが座り話し合いの態勢が出来上がる。

 

「それで、用件というのは…」

 

「やっぱり分かってしまうか」

 

「ええ、このような事は一度もありませんでしたし。いつもスグリは自分の部屋に案内します」

 

「君のことはスグリから聞いている。彼女は君に惚れ込んでいてね、よく名を聞いていた」

 

「兄さん」

 

 定兼の言葉に顔を赤くするスグリ。どうやら兄弟関係はかなり良好なようだ。そんな会話を挟みつつ定兼は懐から一枚の紙を取り出して差し出す。

 

「これが私宛に届いてね」

 

「拝見いたします」

 

 手渡されたのは一枚の紙。それを開いて内容を確認する百々月は思わず顔を歪めた。

 

《32番目の悪魔に気を付けろ。さもなくば命はない》

 

「これは…忠告?」

 

 新聞の切り抜きを使って作られたメッセージに思わず疑問が浮かび上がる。

 

「あぁ、うちは両方ともそれなりの規模の会社だ。脅迫文なら過去、何度も届けられたが。このようなものは初めてでね、念のために」

 

「なるほど、私への依頼はこの忠告の主を突き止めることですか」

 

「ものがものだけに判断し辛いし、警察に届けるのも社員に不安を与えることになる。私は毛利探偵の人柄が分からない、ならば人柄的にも問題のない君に頼みたいのだよ」

 

「なるほど…」

 

 この件に関してはかなり内密に行いたい。ならば出来るだけ性格的にも問題の無さそうな人物が欲しいわけだ。私の性格が信じるに値するかは向こうの判断だとして。友人の家族の頼みだ、せっかくだから受けておこう。

 

「ご期待に添えるように尽力させていただきます」

 

「謝礼は弾ませて貰うよ」

 

「いえ、私はスグリの友人として今回は当たらせていただきます」

 

「羽部さん…」

 

 百々月の言葉に小さな言葉を漏らすスグリ。こうして百々月単独であたる事件が始まったのだった。

 

ーー

 

「その手紙は郵便物の中に?それならば封筒でも」

 

「あぁ、これが封筒なんだが」

 

 定兼に手渡された封筒を受け取った百々月は中、裏面、表面ともに確認するが矢上定兼様と書かれているだけで他は何も書かれていない。一応、念のために手袋をつけて確認している。出来るだけ関係者以外の指紋をつけないためだ。

 

「差出人も消印も無しか。直接投函されたと見て間違いないでしょうね。この郵便物を最初に触ったのは誰ですか?」

 

「あぁ、景子が持ってきてくれたんだ」

 

 そう言って姿を現したのは最中景子。

 

「そうか、最初に見つけたのは最中くんだったね」

 

 藤五郎の言葉に景子は小さく頷いて話す。

 

「はい、定兼様の目の前で私が開封いたしました。危険物の可能性もあったので」

 

「私が景子に頼んだんだ。彼女はもしもの事があってはならないと他の部屋で開けようとしたんだが。景子が怪我をしては堪らないからね」

 

 定兼は随分と優しい性格のようだ。景子がどれだけこの家に仕えているかは知らないが長いこと仕えているようだ。

 

「なるほど。ではその手紙を見つけた際の事を詳しくお願いします最中さん」

 

「はい、私は毎朝5時30分にこちらへ出向き朝刊を含む郵便物を回収した後に出勤します。その郵便物の中にこれが入っておりました、この屋敷を去るときに郵便物は確認します。時間は午後の10時なのでその後に投函されたと思われます」

 

「なるほど」

 

 しかし情報が少なすぎる。指紋などを調べられれば良いのだが警察に届け出ても本格的には動いてくれないだろう。

 

「とにかく、情報が欲しい。定兼さん、お部屋を拝見しても?」

 

「えぇ、私はこれから仕事があるので好きなだけ調べてくれ」

 

「私も、仕事に戻ります。お願いします、最中さん」

 

 身なりを整え、仕事に戻る彼女を見送ったスグリは百々月を定兼の部屋に案内する。定兼の部屋に向かう際、ポケットに突っ込んであった携帯が鳴り響く。

 

「なんだ、蘭か?」

 

「羽部さん、今暇?それだったらコナンくんを預かって欲しいんだけど」

 

「どうしたんだ?」

 

「コナンくんが酷い風邪で、そんなときに殺人事件が起きるし、関西弁の変な奴が来るしで大変だったのよ」

 

「殺人事件が?」

 

 突然の依頼に驚く百々月だが今はスグリの件もあるし向こうには新一がいるし大丈夫だろうし、私が居てもコナンは首を突っ込むだろうし意味はないだろう。

 

「すまない、私も少し依頼を受けていてな。手が離せそうもないんだ」

 

「そうなんだ、ごめんね急に」

 

「あぁ、すまない」

 

「あの…良かったんですか?」

 

 通話を終えると会話を聞いていたスグリが心配そうに尋ねてくる。それに彼女は笑顔で答えると定兼の部屋にたどり着いたのだった。

 

「これはスグリ様」

 

「あぁ、遠山さん」

 

 入室しようとした時、定兼の部屋から出てきたのは執事の遠山渚、若い執事であった。

 

「どうしたんですか?」

 

「はい、定兼様の部屋の清掃をしておりました。もっとも、することはほとんどありませんが」

 

「そうですね」

 

 渚の言葉にスグリは笑みを溢し軽く百々月と挨拶を交わした彼は早々にその場を後にする。

 

「随分と忙しい人なのだな」

 

「はい、遠山さんはまだ入ったばかりで慣れていないんですよ」

 

 そう言ったスグリは部屋の扉を開けるとそこには綺麗な部屋があった。

 

「やはり、しっかりとした部屋だな」

 

「はい、兄は几帳面ですから」

 

 洋風の部屋のなかには書類や本が整然と並べられていた。見ていてとても気持ちのいい部屋だった。そんな部屋の中に似合わない品物が一つ、顔を覗かせていた。

 

「これは…ホットカーペット」

 

 机の下に置かれていたのは市販のホットカーペット。サイズは小さめ、どこでも持ち運べるような大きさだった。おそらく一人用のホットカーペット。

 

「悪い言い方だが随分と安物のホットカーペットだな」

 

「家具は父が揃えたものなんですけど。兄は一般的に売られているものが好きなんです。なんでも安くて高性能なのを探すのが好きらしくて、それは兄のお気に入りなんですよ。兄は冷え症でいつもホットカーペットを使ってるんです」

 

「確かに、良いカーペットだな。それにあの空気清浄機も中々、良いものだろう」

 

 スグリの言う通り、洋風の部屋の中には最新式の電化製品が所々に見られる。その他にも粗方、部屋を調べてみたが特に怪しいものは見つけられなかった。イタズラなどではないとすれば盗聴機の類いが仕掛けられているとでも思ったのだが。

 

「何もなしか。定兼さんの個人的な情報を外部の人間が知るにはこうするのが一番、手っ取り早いが…。やはり内部の人間か…」

 

 まぁ、おおむね。予想通りだ、だが外部犯の仕業であるという可能性を潰すのは大切だ。

 

「スグリ様、羽部様、お夕食の準備が整っております。ぜひお越しくださいませ」

 

 そんな時、部屋を訪れたのは景子。調べていくうちにかなり遅い時間になってしまったらしい。

 

「私もいいんですか?」

 

「はい、すでにお料理は出来てますのでぜひ!」

 

 景子の脇に控えていた茶髪のメイド、神無月カナも元気良く声を出して誘う。

 景子たちの言葉に甘え、食堂に案内された百々月はすでに席に着いていた。だが居たのは藤五郎、定兼の二人。

 

「お二人ですか?」

 

「えぇ、妻は海外に出ていてね。息子はまだ独り身だからね」

 

「なるほど」

 

「定兼様」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 もう一人のメイドの神無月は定兼の足元に部屋から持ってきたホットカーペットを敷いてその場を後にする。

 

「どうだい、何か分かったかい?」

 

「まだ仮説の段階です。もう少し調べてみなければなりません」

 

「なるほど」

 

 藤五郎、定兼、百々月にスグリは夕食を共にしながら百々月が体験した事件のことなどを話し、和やかな夕食を過ごしていた。

 

「デザートをお持ちしました」

 

「村田くん、今日も素晴らしかったよ」

 

「ありがとうございます」

 

 矢上家のシェフである村田登は無愛想な顔を下げて百々月たちの前にデザートを並べる。それと同時に、景子、カナは残り少なくなっていた飲み物を継ぎ足す。

 

「あっ…」

 

「おっと」

 

 そんな時、景子が振り向き様にカナと接触。手にしていたワインを傍に座っていた定兼の方に零してしまった。幸い、定兼にはかからなかったが床やカーペットが濡れてしまった。

 

「申し訳ありません」

 

「すいません!」

 

 景子は真っ白の手袋がワインで汚れてしまうのを気にせずに床に零れたワインを拭くがカーペットは汚れたままだ。

 

「気にしないでくれ。食事が終わったらカバーを洗ってくれたらいい」

 

「すいませんでした」

 

 申し訳なさそうにする景子とカナを見て笑顔で接する定兼。その時、事件は起きた。突然、屋敷の電気が消えたのだ。

 

「なんだ?」

 

「なに?」

 

「安心したまえ、電気はすぐにつく」

 

 突然の停電に驚く一同、それと同時にガッシャーンと窓が蹴破られる派手な音が鳴り響く。

 

「え…きゃああああ!!」

 

 停電の時間は僅か30秒ほど、暗闇が晴れた瞬間。定兼を見たカナが叫び声を上げる。

 

「なっ!」

 

 そこには椅子ごと倒れた定兼がおり首にくっきりと痕を残して死んでいたのだった。

 

 


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