うしろのしょうめんだぁれ   作:砂岩改(やや復活)

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二話をほぼ同時に投稿しました。この前に映画での話があるので読んでない方はそちらを先にどうぞ。



閑話 とある新人刑務官の日記

○月×日

 

 刑務官として勤め始めて1ヶ月。不馴れながらもやっと刑務官の生活リズムが体に染み込んできた。

 そんな時に一人の女の子が収監された。彼女は一般の犯罪者とは違い、特別な独房に入れられた。先輩が言うに彼女は何人もの人を殺した殺人鬼だという。

 

○月△日

 

 少女が収監された次の日。私は先輩と二人でその少女の監視を言い渡された。独房に入っている時以外は一瞬たりとも目を離すなと言うことだ。

 こんなことがあるのかと先輩に聞いたら先輩も初めてだったらしい。

 

○月○日

 

 彼女の監視を続ける。食堂で騒ぎが発生した。刑務所一番の古株が少女に因縁をつけて絡んでいた。勤め始めてまだ1ヶ月だが目にするのは三度目だ。この刑務所の洗礼みたいなものだ。

 最悪の場合に備えて食堂にいた刑務官たちは身構えるがしばらくすると仲良くなったようで笑い声が聞こえてくる。すると他の囚人たちも安心したようで集まってくる。

 どうやら彼女はこの場に溶け込めたようだ。

 

×月△日

 

 彼女が来てからもうすぐ1ヶ月。

 彼女は図書室を訪れる。入所してから毎日通い、様々な本を読んでいる。本の内容はミステリーが多めだ。

 彼女は若いながらも他の囚人たちと打ち解けよくコミュニケーションを取っている。毎日、彼女の周りには多くの人が集まっている。

 図書室の刑務官も彼女は良い子だと言っていた。本当に悪い子なのだろうか。

 

×月×日

 

 最近、同じ監視任務に就いている先輩の様子がおかしい。特に変わった様子はないのだが…違和感と言ったところか。とにかく前とは行動が変わっているのだ。

 本は難しいし、文字が多いから苦手だと言っていた先輩が隙あらば本を読み始めたのだ。それも先輩が嫌っていた難しい内容の本だ。 

《正義論》なんて哲学的なものを読んでいたから。「先輩、本当に読めてるんですか」とからかったら凄い剣幕で怒られた。

 

×月○日

 

 自由時間の際に先輩に休んで良いと言われたので分かったふりをしてこっそり先輩を尾行した。すると図書の刑務官に呼び止められたせいで見失ってしまった。話の内容はとりとめのない物であった。もしかして先輩を逃がすために呼び止めたのか?

 

△月○日

 

 彼女が刑務所に来てから三ヶ月が過ぎた。最近の刑務所は居心地が悪い、態度の悪い囚人たちもめっきりと大人しくなり人が変わったようだ。

 先輩の様子もおかしくなるばかり。最近は口癖のように「私たちってこんなことしてていいのかな」と愚痴をもらす。

 私が刑務官に成り立ての頃は刑務官の使命に心を震わせていたというのに。

 私は少し、先輩のことを調べてみることにした。

 

△月△日

 

 調べると挙動不審な刑務官が見つかった。先輩を含めて10人を超える、これはただ事ではない。どうやら囚人たちの間にもカルト宗教のようなものが流行っているようだ。

 囚人の中に内通者が欲しいが誰が適任か分からない、身内は信頼できる状況じゃない。

 そして私は監視していたあの少女に内部の様子を教えて欲しいと頼んだ。彼女は快く引き受けてくれた。

 

△月×日

 

 誰もいない場所で彼女の報告を聞く。内通者は他の囚人にバレれば身の危険に曝される故の密会だった。

 誰かは分からないが宗教のようなものを刑務所内に広げていてそれに刑務官が引っ掛かっているらしい。それを聞いた私はさらなる調査を依頼した。少女、もといももちゃんは笑顔で了承してくれた。

 少し時間があったので雑談をしてこっそり別れた、彼女の話は難しいが納得力のある話だった。

 

□月○日

 

 一ヶ月ぐらいかけて所長に上げる用の報告書を書き上げる。この報告書は同時に本庁にも送るつもりだ。

 最近は調子が良い、悩みごともやはり口にすると気持ちがいい。くだらない悩みから今まで心の中で引っ掛かっていた事まで何もかも、やっぱりももちゃんの言っている事は本当だった。

 

 早くももちゃんと話したいな。

 

□月×日

 

 犯罪者と悪人は違う。そんな事を彼女から学ばせて貰った。犯罪者は確かに犯罪を犯してしまった、それで刑務所に入れられるのは仕方がない。だがこの世には権力を使って人を喰らう獣のような奴等も神のように人を操る奴等ものうのうと生きている。これは法律では裁かれない。それはおかしいことだ。

 あの人は素晴らしいお考えを持っていらっしゃる。

 

□月△日

 

 書類は全て燃やしてしまった。あんなものがあっても何も役に立たない。明日は非番だ、明日は先輩を含む刑務官の同志たちとこの日本の正義について語り明かすつもりだ。あの方に任命されて私がリーダーになった。私が最も理解しているらしい、これはかなり嬉しい。

 

ーー月ーー日

 

 あぁ、あのお方に会いたい。一日中、傍に仕えたい。私は経験したことのないぐらいに恋い焦がれている。同性などは関係ない、あの方は美しい、博識で、魅力がある。興奮して夜も眠れない、寝不足で顔が悪くなったら気に掛けてくれるだろうか、気に掛けてくれるに違いない、だってあの方はお優しいから。

 

〰月〰日

 

 今日、私は衝撃的な物を見てしまった。あの方と先輩が手を握っていたのだ。先輩はとても嬉しそうにしていたしあのお方も笑っておられた。

 でも先輩は分かってない、あの笑顔は上辺だけだ、本当の笑顔じゃない。だって私の時の方が笑っている!煌めいている!先輩が憎い、恨めしい、怨めしい、羨ましい

 ちょっと最近の先輩は調子に乗っている。邪魔だな

 

➰月➰日

 

 あいつを殺す、絶対に殺す、確実に殺してやる。もう考えてある、同志の一人が協力してくれる!

 

もうあいつをーーーー《この先は刃物でズタズタにされている》

 

 

 




「かごめかごめ、籠の中の鳥は、いついつでやる…」

 一人の女性がベランダで日記を燃やしている。そんな女性の目は虚ろでうわ言のようにかごめかごめを歌っている。

 先輩の遺体が見つかって数日、あの方の言う通り、毛利小五郎の助手だと名乗る眼鏡の少年がやって来た。その次には警察が家に乗り込んで来た。私が犯人だとバレるのは時間の問題だろう。だがあの方との関係性を知られるわけにはいかない。
 だからこそ先輩のも含め、あの方に関するものは全て処分しよう。

 その次の日、先輩を殺害した犯人は逮捕されたのだった。


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