勇者「服など無粋、真の勇者は全裸で戦う!」魔王「いいから服着なさいよ、この変態っ!」   作:トマトルテ

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2話:乙女な魔王

 あらすじ

 

 勇者マクシミリアンは魔王との死闘の末に勝利を収めることに成功する。

 そして、和平を結ぶことにより仮初であっても平和を実現してみせた。

 このことにより、世界は一時の平穏を取り戻したかのように見えた。

 

 ……だが、時代の波は彼に安寧を与えることを許さない。

 地の底より封印されし災厄が目を覚ます時。

 勇者と魔王は手を取り合うだろう。

 

 これは勇者と魔王の織り成す、愛と勇気と正義の物語である。

 

 

 

 

 

「先っちょだけ! 先っちょだけでよいから入れさせてくれぬか!?」

「先っぽどころか影すら入れたくないに決まってるでしょ、このド変態!!」

 

 魔王城、玉座の間。そこではかつて殺し合った二人が話し合っていた。

 何でもいいから早く帰ってくれという表情を隠さない魔王。

 そして、何やら必死の形相で頼み込んで土下座をする勇者。無論全裸で。

 一体なぜこのようなことになっているのかと言うとだ。

 

「なぜ魔王城に住まわせてくれぬのだ!?」

「何故って、ダメに決まってるでしょ! あなたは勇者で私は魔王よ!?」

「種族の違いなど愛さえあれば乗り越えられる!」

「あんたへの愛なんて1ミクロもないわよ!!」

 

 勇者が突然、魔王城に住まわせてくれと言い出してきたのだ。

 そして、なぜ勇者がそんな突拍子もない願いを言ってきたのかと言えば。

 

「では、国から出禁食らった拙者はどこで寝泊まりをすればよいのだ!?」

「ゴミ捨て場で寝たら?」

「そなた、悪魔か!?」

「魔王よ」

 

 魔王を倒したはずの勇者が何故か国から出禁を食らったからである。

 より正確に言えば、国王直々に国から出て行けと言われたのだ。

 

「というか何で出禁なんて食らうのよ、あなた仮にも勇者でしょ?」

「……大いなる力は災いを呼ぶ。それを父上は案じられたのであろう」

「ふーん……あなたも大変ね」

 

 勇者の境遇に思うところがあるのか、少しだけ同情する魔王。

 

「ああ……父上から『正直、国民からのクレームが凄くて、お前の性癖を庇うのはもう無理』と言われた時は流石に堪えた」

「完全に自業自得じゃないの、この露出狂!」

 

 魔王、あっさりと手の平を返す。

 

「国民総出で追い出されるとか、少しは反省しなさいよ」

「いつの時代も貴族は平民から恨みを買うものだからな」

「あなたと同じ行動したら誰だって追い出されるわ」

 

 未だに自分が追い出された真の意味を理解できずに、首を捻る勇者。そんな様子に魔王は溜息を吐きながら、やたらとツッコミが板についてきた自分を憂う。

 

「というか、人に頼み事をする時ぐらい服着なさいよ」

「拙者は何一つ包み隠さず、嘘もつかない主義者でな」

「少しはこっちの気持ちも考えて隠しなさいよ!?」

「なるほど、嘘も方便という言葉はそのためにあるのだな」

「いいからパンツぐらい履きなさい!」

 

 ポンと手を叩き、なるほどという顔をする勇者に青筋を立てる魔王。

 しかし、この男にまともに取り合っていては埒が明かないと思い直し、顔を振る。

 

「そもそも、あなたマントは羽織るって言ってたわよね? すぐに羽織って欲しいんだけど、切実に」

「家の中でマントを羽織るなどマナー違反であろう?」

「人の前で全裸でいる方が余程マナー違反よ!」

 

 何を当たり前のことをと呆れた表情を見せる勇者。

 魔王はその表情に猛烈な殺意を抱くが、戦っても勝てないのである物を投げつける。

 

「む、これは…?」

「パンツよ、パンツ。一先ずそれを身につけたら住む件は考えてあげるわ」

「そなたのか?」

「違うに決まってるでしょ!? 部下に取り寄せさせた男もののブリーフよ!!」

 

 顔を真っ赤にして否定する魔王。

 自分のパンツを異性に履かせるとかどんなプレイだろうか。

 少なくとも魔王にはそんな性癖はない。

 魔王様は少女漫画を隠れて読みあさる程度に、ノーマルな恋愛がお好みである。

 

「ふむ…? しかし、なぜ取り寄せさせたのだ。拙者が来るとは伝えてなかったはずだが」

「へ…? そ、それはあんたがいつ来てもリベンジできるようによ!」

「なるほど、再戦のためか。研鑽に励むのはよいことだ」

「い、いいから、とっとと履きなさいよ!」

「そうさせてもらおう」

 

 今度は別の意味で顔を赤くした魔王に気づくことなく、勇者は着替え始める。

 魔王もそんな表情を隠すためと、着替えを見ないために後ろを向く。

 

「身につけたぞ、もうこっちを見てよい」

「そう、これでやっとまともに……は?」

 

 振り返り勇者の姿を見て、魔王は固まってしまう。

 何故か。勇者は確かにパンツを身につけていた。

 しかし、そこは股間ではなく―――頭だった。

 

「どこに身につけてるのよ、この変態!?」

「失礼な。言われたとおりに身につけたではないか?」

「股間に履けって言ってんのよ、股間に!!」

「魔王殿、淑女がそのように股間と連呼するものではない」

「誰のせいよ! 誰の!?」

 

 涙目で叫び続ける魔王。彼女の内心は「もうヤダ、お家帰りたい」という所だ。

 もっとも、既に彼女の家に居るので帰る場所は他にないのだが。

 

「いいからちゃんと履きなさい! できないなら出て行ってもらうわ」

「……良いのだな?」

 

 何故かこちらを気遣うような視線を送ってくる勇者に戸惑う。

 どう考えてもパンツを履かせることは、魔王にとってメリットにしかならない。

 だというのに、勇者はこちらの心配をしているのだ。

 あの、セクハラという概念を親の腹の中に置いてきたような男が。

 

「い、良いに決まってるでしょ。早くしなさいよ」

「仕方あるまい。女性に見せたい姿ではないのだが……」

「いや、全裸の時点で遠慮しなさいよ」

 

 気にすべきポイントがズレ過ぎていると思いながら、魔王は再度後ろを向く。

 そこでふと気づく。自分が何も警戒せずに背中を見せているということに。

 自分はあんな変態に信頼を置いているのかと思わず愕然としてしまう。

 

 だってあり得ないだろう。相手は勇者で自分は魔王。

 何より変態。女性の敵だ。というか歩くセクハラを信頼とかどうかしている。

 きっとこれは動揺していたからだろうと、結論付けて心を落ち着かせる。

 

「……もうよいぞ」

「今度はちゃんと履いている…よう……ね…?」

 

 そして、勇者の声に振り返り股間を確認し、頭が真っ白になる。

 勇者しっかりとブリーフを履いていた。

 魔王の目から見ても全部隠れていた。

 しかし、その中で―――

 

 

 勇者の聖剣はパンツを突き破らんとばかりに猛っていた。

 

 

「きゃぁああ!? 変態! 変態ッ! やっぱり私を犯すつもりなのね!?」

「だから酷いことはせぬ。よく説明を聞いて欲しい。拙者はパンツを履くと……」

 

 顔を真っ赤にし、手で目を覆いながらも指の隙間から覗く魔王。

 そんな魔王の姿に勇者は一度戸惑う仕草を見せて、一気に言い切る。

 

 

 

「おいなりさんが―――ソーセージさんになるのだ」

 

 

 

「説明になってないわよ!?」

 

 天をも突かんと自己主張をする勇者の聖剣。

 それを、恥ずかしがりながらも見つめる魔王。

 この場はひたすら混沌に吞まれるのであった。

 

 

 

 

 

「つまりだ。拙者はおいなりさんだけが無敵でないために、衣服との接触の際に常人よりも強く刺激を感じてしまうのだ。別に性的興奮を感じているわけではない。これは生理現象なのだ。分かってくれたか?」

 

「わ、私を襲おうとしてるわけじゃないのよね?」

「勿論だ。合意を得ずに女性を抱くなど獣畜生にも劣る行為。王家の誇りにかけてそのようなことはせん」

「私の中で王家の威厳は、あなたのせいで地の底に落ちているのだけど?」

 

 混乱から時間が経ち、落ち着いて話を行う魔王と勇者。

 その間にもパンツの中で、勇者の聖剣は抜き放たれる時を今か今かと待ちわびているが、本体が紳士(変態)のため不審な行為は一切行われない。

 

 そのせいか魔王のツッコミにも繊細さが取り戻されている。

 もっとも、今でもチラチラと勇者の聖剣を盗み見ているが。

 

「……これが聖剣の真の姿なの…? 普通の状態でも凄かったのに…」

「何か言われたか、魔王殿?」

「な、なんでもないわよ!」

 

 恥ずかしそうにブンブンと首を振りながら、魔王は自身をたしなめる。

 男性の下半身ばかり見るなどそれこそ変態みたいではないかと。

 

「まあ、よいか。それでこれでよいのか? 見たくないのであれば裸になるが」

「今でも十分裸のようなものだと思うんだけど?」

「これは裸ではない……半裸だ」

「ぶっ殺すわよ、あなた?」

 

 何だか魔王として看過できない言葉を言われたようで殺意を抱く。

 しかし、勇者は優雅に紅茶を飲むだけである。

 

 因みにこの紅茶は勇者が持ってきて淹れたものだ。

 勇者が言うには料理もできるらしい。

 その発言に料理のできない魔王は内心でちょっぴり焦ったりしていた。

 

「それで、魔王城には住まわせてくれるのか?」

「……私と会う時にはしっかりと股間を隠してくれることを約束するなら」

「中々難しい条件だが、相分かった。感謝する」

「私にはこの条件のどこが難しいのか分からないけど……」

 

 何はともあれ、住む場所を確保できた勇者はホッと息を吐く。

 しかし、次の瞬間には歴戦の勇士を思わせる顔つきに代わる。

 そもそも今からの会話の方が勇者にとっては重要なのだ。

 

「さて、魔王殿。最近また魔物の活動が活発化しているのは知っておられるな?」

「……ええ、これでも魔王ですもの」

「和平を結んだ条件は覚えておられるな」

「勿論よ。その上で……また人間が襲われ始めたことを聞きたいのね」

「その通り」

 

 ピンと張り詰めた空気が流れる。

 和平を結び人間は襲わせないと誓った魔物が再び人を襲い始めている。

 これは勇者にとって見過ごせないことであった。

 

 人の国を追われようとも彼は人類の守護者である。

 人間に害為すものは決して許してはおけない。

 それを魔王も分かっているのか、いつでも戦えるように神経をとがらせている。

 

「単刀直入に聞こう。そなた―――人を襲わせてはいないか?」

「いえ、魔族の誇りにかけて契約は違えていないわ」

「……即答でござるな」

「ええ、あなたがここに来た時からこの話だとは思っていたから。それに、あなたも私を疑っているからこそ、私を見張るためにここに住んでいいかなんて聞いたんでしょ?」

 

 先程まで見せていた少女らしさとは打って変わり、魔王に相応しいオーラを醸し出す。

 

「いや、住んでよいか聞いたのは本当に住む場所に困っていたからでござるよ」

「あ、あら? じゃあ、なんでこっちの話を最初にしなかったの?」

「なんでも何も、拙者ははなからそなたが約束を破ったとは思っておらん」

 

 あっけからんと言ってのける勇者に、魔王は面食らう。

 要するに勇者は単なる確認を取っただけなのだ。

 この話が本命であることには変わらない。

 だが、魔王の仕業だとは欠片も疑っていなかったのである。

 

「……どうしてか聞いてもいいかしら?」

「なんだ、忘れたのか? そなたは、そこまで悪い奴でもないだろう?」

「……呆れた。そんな確証の無いことを信じてたの?」

 

 バカバカしい。そう口にするが魔王の口元は微かに緩んでいた。

 まるで、どこにでもいる普通の少女のように。

 

「因みに私が犯人だったらどうしたの?」

「人間と魔物全員に魔王は処女だと言いふらしていた」

「あなた鬼か悪魔じゃないの!?」

「否、勇者だ」

 

 勇者の手段を択ばない脅しに、思わず殴りかかってしまう魔王。

 しかし、それは本気のものではなく、どこかじゃれつくような雰囲気であった。

 が、その空気も長くは続かない。時の流れは彼らを逃してはくれない。

 

「魔王様ー! 魔王様ー! 大変です、敵襲ですぅー!!」

 

 敵の来襲を告げる、魔王の部下の大声が扉越しに聞こえてくる。

 そんな、声に反応し勇者が即座に立ち上がる。

 ついでに下の聖剣が大きく揺れるが、魔王は見なかったことにする。

 

「異変の元凶に関しては後程話すとしよう。今は敵の迎撃だ」

「……魔王の敵は人間と相場が決まっているわよ?」

「分かっておる。だが、そなたが敵でないのは先程確信した。ならば無益な血は流させるべきではない。拙者が先行して話をつけてくる」

「そう…勇者も大変ね―――って、なにパンツ脱ごうとしてるのよ!?」

 

 キリリとした顔で告げながら、自然な動作でパンツを脱ごうとする勇者。

 それに慌てた魔王が慌ててパンツの裾を持ち阻止する。

 

「む? 何をするのだ、魔王殿。これでは戦いに行けぬではないか」

「させない! させないわ! あなたにセクハラされる被害者は私が最後でいいのよ!!」

 

 魔王、なにやら奇妙な使命感に目覚めた模様。

 

「いや、別に誰も傷つける気はないのでござるが」

「というか、せっかく全裸を止めさせたのに、また元に戻してたまるかぁッ!」

「な! 全裸の何がいけないというのだ!?」

「全てよッ!!」

 

 共に勇者のパンツに手をかけ合いながら、ギャーギャーと騒ぐ二人。

 そして、そんな二人の状況など知る由もない魔王の部下が玉座の前に到着する。

 

「大変ですぅ、魔王様! 敵襲ですって………へ?」

 

 扉を勢いよく開けて飛び込んできたのは、メイド服を着た小さなサキュバス。

 そして、金髪のサキュバスは目の前の光景をまじまじと見つめる。

 自らの主が―――男のパンツに手をかけている光景を。

 

「リ、リリス…? 誤解しないで聞いて欲しいのだけど」

「大丈夫ですぅ、魔王様」

 

 リリスと呼ばれた金髪のロリサキュバスは、二人に軽く頭を下げる。

 それを見て誤解はしてないのかと思う魔王と勇者だったが、それは勘違いであった。

 

「万年処女な魔王様が、処女であることを気に病んで、人間の勇者様を襲って処女卒業しようとお取込み中だったって分かっていますからぁ。でも、緊急事態なので空気ぐらい読んでくださいね、色ボケ年魔(としま)王様ぁ」

 

「あなた私の部下なのに辛辣すぎない!?」

 

 可憐な見た目とは裏腹に強烈な毒を吐くリリス。

 そして、割と本気で涙目になる魔王。

 どちらが主従か分からない光景であった。

 

「魔王殿、今は一刻を争う状況。私情を優先させるのは為政者としていかなるものかと」

「そうですよー、焦るのは分かりますけど空気読みましょうねぇ」

「あなた達分かってからかってるでしょ!?」

 

 執拗な精神攻撃に魔王は膝と手を床につける。

 イジメ、かっこよくない。

 

「む、こうしている場合ではないな。では、拙者は行ってまいるぞ!」

「あ! まだ、状況の説明を……て、行っちゃいましたねぇ」

 

 リリスの静止も聞かずに勇者は聖剣を片手に駆け出して行くのだった。

 

 ―――パンツをその場に脱ぎ捨てながら。

 

「ああもう…情報ぐらい聞いて行きなさいってのよ、あの変態」

「……魔王様」

「なに、リリス。敵の情報かしら?」

 

 子供ぐらいの身長しかないリリスに合わせるためにしゃがむ魔王。

 そんな魔王の耳元に口を寄せ、リリスはハッキリと告げる。

 

 

「すごく……大きかったですぅ」

 

 

「そんな情報いらないわよ!?」

 

 抜き放たれた勇者の聖剣は、魔王すら一撃で貫ける程のものだったらしい。

 




勇者の聖剣に魔王様もタジタジ(意味深)

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