落第騎士と一撃男【旧版】   作:N瓦

4 / 17
3.陰謀

理事長室にて一輝とステラはあの破壊に至った経緯を聞かれた。

デスクには理事長である黒乃が腰掛け、来客用のソファーには西京寧音が座っている。

 

 

「全く。どれほど広範囲で森を消滅させたと思っている。私の能力があったからなんの問題なく元に戻ったものを。」

「「申し訳ありませんでした。」」

 

 

因みに人的被害は0だった。

訓練場と森の修復は時空操作が可能である黒乃が全て解決させた。

時空を操作し、破壊前まで時を巻き戻したため、結果的に見れば被害は無い。

 

サイタマに関してはステラは怒れる黒乃に恐れを感じたので壁をぶっ壊した事を洗いざらい吐いた。

もちろんサイタマの素性を知らない黒乃からはそれも問われた為、ステラは知りうる限りの話をした。

………不要な情報な上にサイタマも可哀想だが、彼がハゲている事も伝えられてしまった事もここに書き記しておこう。

 

 

「ふぅ。」

 

 

黒乃が吸ってたタバコをふかして、彼らに話を続ける。

 

 

「私がこうしてお前達に説教をしてるのは別に模擬戦をしたことに対してでは無い。」

 

 

それは当然だ。

彼らの行動は『破軍学園』が設定した規則に則ってのものだった。何の非も無い。

ただ黒乃が彼らに話をしている理由。

 

 

「私がお前達にこうやって話していたのは、単に私が教師でお前達が生徒だからだ。もし森ではなく寮の方向だったら大惨事だったぞ?」

 

 

そうなのだ。黒乃はもし森ではなく寮だったら。

そう考え、生徒の安全も考慮した上で発言しているのだ。

 

 

「だから次からはそいつと模擬戦をやりたいのなら私かそこにいる寧音に必ず一声かけろ。私達のどちらかがつきっきりなら模擬戦をやっても構わない。そうでもしないと心配で仕方が無い。」

「「分かりました。」」

「分かればいい。……ただ。」

 

黒乃は一輝へと向き直る。

 

 

「黒鉄。貴様は自分の師である彼の強さは分かってたんだよな?」

「はい。数度手合わせしたり、先生の活動を見ていた程度ですが…。」

「それなのに模擬戦の時に私に一言も言わなかった。お前が何か行動を起こしていればこの事態は防げていたんじゃないのか?」

「は、はい。そうです……。」

 

 

それもまた事実だ。

 

 

「そうだよな?そこはお前に非がある。」

 

 

黒乃はニヤリと笑って告げる。

 

 

「───だから貴様"ら"に罰を課す。」

「えぇ!?理事長先生、私もですか!?」

「当然だ、愚か者。お前達には我々、『破軍学園』が使用する合宿所の掃除を行ってもらう。出発は明日の朝だ。今日中に準備を終わらせておけ。丁度明日から選抜戦は2日間の休みに入る。お前達にも何の不都合も無い。」

 

 

七星剣舞祭本戦に備えて行われる強化合宿を行う奥多摩の合宿所の掃除。

それが彼らに課された罰だ。

 

 

「……いいか、拒否権は無いぞ?」

「「はひ………。」」

 

 

 

 

 

 

一輝とステラが理事長室を去った後、黒乃と寧音は部屋に残る。

 

 

「……黒鉄が一方的に押しかけて居候するほどの男、サイタマか。あそこまで壊したのなら謝って欲しいものだ。」

「黒坊が、『サイタマ先生は用事があるから帰って、申し訳ないと伝えておくよう言われてました〜。』なんて言ってたけどありゃ嘘っしょ。」

 

 

一輝はステラがサイタマの素性を吐いたものだから、少しでも師であるサイタマの立場を悪くしないために全く言っていないことを言ったように彼女らに伝えたのだ。

……もちろん黒乃と寧音は見破っていたのだが。

 

 

「それにしても………パンチの風圧だけで森が消滅?冗談じゃない。なぁ、寧音。サイタマという男は────」

「ああ。もしかすると《覚醒》に至ってるね。ま、そーだとしても風圧だけでアレはちょっと異常さね。」

 

 

《覚醒》とは、即ち《魔人》への到達。

《魔人》────それは星の巡る運命の環から外れ、自身の意思を世界に強く反映する者。己を極限まで高めて尚、運命を定める鎖すら引きちぎろうとする鋼鉄の信念を持つ伐刀者しか到達できない極地。

 

 

「やはり寧音もそう考えるか……。放し飼いの《魔人》か。」

「日本にはウチとじじいしかいないと思ってたけど…。ぜひ一目、見てみたいねぇ。」

 

 

黒乃と寧音はサイタマが《魔人》である可能性を考えていた。

振るった拳の風圧だけであそこまでの破壊ができる存在は彼女らは見た事も聞いた事も無かった。

何らかの伐刀絶技の使用も考えられたのだが、一輝曰くサイタマはFランクであるという。

 

「一輝曰く」と言うのは、伐刀者というのは自らの異能こそ生命線だ。

故に伐刀者として国家に登録されていても簡単には検索できないのだ。

学園の長である黒乃も例外では無い。

 

 

「そのハゲの事情を詳しく知っているのは黒坊だけかい?」

「うむ…そうだろうな。とりあえず黒鉄が奥多摩から帰って来た後、余裕が出来たら我々もサイタマとやらに会ってみよう。報告するのはその後でも構わん。」

 

 

サイタマが《魔人》という確証も無いのに報告するのはかえって混乱させるだけだろう。

 

 

「訓練場ぶっ壊したお礼もしたいしな。」

「おーおー。くーちゃん、怖いねぇ。」

 

 

彼女らはサイタマと実際に会ってみたい、と大きな興味を抱いていた。

会いに行く建前は「第1訓練場を壊したから」

本当の理由は「埒外の身体能力を持つ伐刀者に会ってみたいから」

 

一輝が合宿所から帰ってきてから、彼を仲介としてサイタマと連絡を取り合って会う算段であった。

 

 

 

 

 

 

 

────だが、黒鉄一輝が合宿所から帰ってくる事は無かった。

理由は明らかだった。『破軍学園』理事長である黒乃の元に魔導騎士連盟日本支部倫理委員会から「黒鉄一輝を査問会に招集した」という通知が来たのだ。

 

 

 

♧♧♧

 

 

 

それから約2週間が経過した。

奥多摩の合宿所へ行った一輝は一国の皇女であるステラ・ヴァーミリオンとのスキャンダルが問題視されて赤座守に連行された。

もちろんスキャンダルは倫理委員会のデッチ上げなのだが。

 

一輝は連日の査問会や食事に含まれた薬物の影響により身体に極度の疲労を抱えていた。

そんな中、代表選抜戦は魔導騎士連盟日本支部にて断行され、一輝は勝ち星を獲り続けていた。

七星剣舞祭代表になるためには1度の負けも許されないが、今まで一輝は勝ち続けていた。

なので、この点については何の問題も無い。

 

 

ただ問題なのは、今日行われる選抜戦最終戦。

 

カードは《落第騎士》対《雷切》

彼らの試合はテレビを通じて世界中に生中継され、更には一般に公開される段取りとなっていた。

 

 

"知らぬ"者から言えば「世紀の一戦の公開」

この一戦はテレビでも大々的に広告され、日本中が注目し始めた。

 

片やAランク騎士《紅蓮の皇女》を破った最弱(最強)のFランク。

片や七星剣王すら恐れた伐刀絶技、あまりに強烈故にその名が通り名となった七星剣舞祭昨年度ベスト4。

 

注目しない訳が無い。

 

 

 

反面、"知る"者から言わせるならこれは「《落第騎士》黒鉄一輝の公開処刑」に他ならなかった─────。

黒鉄一輝が全てを取り戻すための方法は勝利以外には無くなっていた。

 

 

 

♣♣♣

 

 

 

『破軍学園』第1訓練場。全訓練場の中でもっとも広いここで、《落第騎士》と《雷切》の試合が行われる。

報道ヘリやカメラなども数多く入っている。加えて、学生以外にも一般の観客も数多いた。

本来ならば一般客が来る事や、カメラが入る事すら容認されていない。

しかし今回の選抜戦は特例として扱われ、以上のような状況になっていた。

もちろんこの全てが連盟の圧力によるものだった。

 

 

 

♣♣♣

 

 

 

現在、試合開始時刻5分前。

 

観客席の一番高いところから見下ろす座席。

群衆の中に2人の女性と1人の老人、その真後ろの席に中年の小太りの男性が座っていた。

 

 

「所で、南郷先生はどうしてこちらに?」

「そりゃもちろん、愛弟子(刀華)の晴れ舞台だからに決まっとるわい。……ま、七星剣舞祭まで待っても良かったんじゃが相手が『黒鉄』の者となれば来ないわけには行かんじゃろう?」

 

 

並んで座っているのは新宮寺黒乃、西京寧音、南郷寅次郎の3人だ。

 

 

「んっふっふ。南郷先生は、かの大英雄・黒鉄龍馬氏と同じ時代を生きた生涯のライバルでしたからねぇ。」

 

 

後ろに座っているのは赤座守。

自らの欲のために黒鉄一輝を今の状況まで追い込んだ張本人だ。

 

 

「……しかしですね、南郷先生。今日はもしかすると試合は中止になってしまうかも知れませんよぅ?」

 

 

赤座のイヤラシイ笑みと共に伝えられた情報に黒乃が眉をピクリと動かす。

 

 

「……何?」

 

 

それとほぼ同時に場内アナウンスが会場に響いた。

「試合開始時刻になっても、黒鉄一輝が会場に未だ姿を現していない。そのため10分以内に到着しないならば彼が不戦敗になる」というもの。

これを聞いて、一輝が到着していないという事実を黒乃は赤座に問う。

 

 

「……確か、黒鉄の送迎は赤座委員長が行うという話ではありませんでしたか?」

「どうやら一輝クンとの間で連絡の行き違いがありまして、私が彼の下に行った時は既に彼の姿は無くてですねぇ。んっふっふ。まあ、彼も子供じゃないですし、途中で倒れたりしない限りは1人でも来れるんじゃないですかねぇ。」

(………この外道が。)

 

 

赤座に対して胸中で生まれる不快感に黒乃は拳を握りしめる。

 

 

 

 

 

しかし突然黒乃の手は緩められた。

何故か。

その理由を察したのは寧音と南郷の2人。

 

 

「くーちゃん。()()()がまさか……。」

「ああ。この会場に来る理由も充分にある。有り得るな。」

「なんじゃい、寧音と黒乃君は誰か分かっとるんか。」

「えぇ。2週間ほど前に少し心当たりある人物について聞きまして。冴え冴えとした剣気とはどこが違う『垂れ流しの強さ』だけでこれです。ならば恐らく私の予想と同一人物と考えてよろしいでしょう。」

 

 

この会話に唯一ついていけなかった赤座が彼らに質問を投げる。

 

 

「……なんの話をしているのですかぁ?」

「赤座委員長。あなたは気付かなかったのでしたか。たった今この会場(ここ)に足を踏み入れた化け物に。」

「くーちゃん、そりゃしょうがないよ。多分、気づけたのはウチら3人だけだぜ?」

 

 

一輝の事から一転。

彼らの話題は一般開放されたこの場に足を運んだある人物に移った。

 

その男の存在に気付けたのは寧音が推察した通り3人のみだった。

一流の騎士であるステラが間近にいても彼の強さを正確に読み取れなかった事を考慮すると、この場の全学生騎士が彼の強さの本質に気付けない事はしょうがないのかもしれない。

 

では、その男とは一体誰なのか。

 

 

「この会場にいるんなら、黒坊の試合が終わったあとに会えるかもしれないねぇ。」

 

 

そう。

 

彼らの話題の中心にいるその男は《落第騎士》黒鉄一輝の師。

一輝の試合を見に来たサイタマの事である。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。